連載小説1

「We are joker」16 

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「We are joker」

16

 恋人と呼べばいいのか、軽く、カノジョとでも呼んでおけばいいのか、その中間くらいの位置にいるふたりの女の子とは、話がついたと冬紀は思っている。ややこしい事態が再び起きたら別れても仕方がないけれど、今のところはふたりともに確保しておきたい。

 山根ももこは仕事の紹介をしてくれたりして、ジョーカーに目をかけてくれている。小遣いなんぞもらうのはいやだが、仕事をもらうのはありがたい。

 要するにあのおばさんは、俺を可愛がりたいってわけだな、と解釈して、それくらいだったら受けようと冬紀は決めていた。カノジョという存在も大切ではあるが、現状のジョーカーには、友永冬紀には仕事がより以上に大切だ。

「ん?」
 喫茶「フォボス」に冬紀が今日はひとりでいると、見覚えのある女が店に入ってきた。

「たしかあのひとは……」
 そうだ、芳郎たちが使っている音楽スタジオで会ったのだ。

 小柄でほっそりしていて、はかなげな雰囲気さえある女性は、内田さんとかまり乃とか呼ばれていた。紹介はしてもらったので、むこうも冬紀を知っている。窓際の席にすわろうとして冬紀に気づいて会釈するまり乃のそばに、冬紀は寄っていった。

「えっと、まり乃さんってカメラマンでしたよね」
「そうですよ。友永さん、今日はお休み?」
「俺たちは休みのほうが多いんだ。今日は暇だからコーヒー飲みにきたんだよ。まり乃さんは?」

 年上ではあろうが、こんな口のきき方のほうが親しみが持てていいだろう。綺麗な女性とは親しみたい冬紀は、勝手に判断して喋った。

「私は休みでもないんだけど……ひと休み」
「なんの仕事してるの?」
「編集作業とかね」

 昼食どきもすぎた喫茶店の店内には、他のお客はいない。マスターもひと休みでもしているのか、女性の店員がひとりだけ、カウンターの中でなにやら作業をしていた。

「まり乃さんは芳郎さんたちのツアー写真を撮って、写真集を出すんだよね。そうだそうだ、芳郎さんや勝彦さんたちがそう言ってたよ。いいなぁ」
「友永さんたちも写真集って出したい?」
「冬紀って呼んで。俺のほうが年下でしょ」
「かなりね」

 かなりではないと冬紀は思うが、はっきり言わないのだったら、女の年齢はどうでもいい。冬紀はまり乃の向かいの席に腰かけた。

「いいなぁって言ったのは、芳郎さんたちが? 私が?」
「芳郎さんたちのツアーについていけるってのもうらやましいよ。俺だってどうせ仕事なんかろくにないんだったら、芳郎さんの付き人でもいいからついていきたかった。勝彦さんのギターテクを盗むとか、芳郎さんのMCのテクニックを盗むとか、盗むことはたくさんあるもんね」

「盗むわけだ」
 くくっと笑うまり乃の仕草が可憐に見えた。

「そういう無形のものは盗んでもいいんだよ。だから、まり乃さんもうらやましい。でも、芳郎さんたちはもっと……ってか、うらやむほど近くもないな」
「キャリアがちがうしね」
「そりゃそうだよ。芳郎さんは俺たちをデビューさせてくれた恩人なんだし、うらやましいって対象ではなくて……」
「目標?」

「そんなものかな」
 目標にできるほどの近くにもいない、そう言うと卑屈にすぎる気がして、口にしたくはなかった。

「俺、被写体としてはどう?」
「……いいね」
「カメラマンの目で見ても、俺っていい男?」
「率直に言っていい?」
「んんと……」

 答えを聞くのが怖いような、聞きたいような気分で見返すと、まり乃は口を閉じてコーヒーカップを持ち上げた。

「いいよ、言って」
「いい男と呼ぶには、中身が薄くて軽すぎる」
「率直すぎるだろ」
「ごめんね」

 口先だけの謝罪の言葉にむしろむかつきが激しくなる。痛烈なひとことで切り返してやりたくても、まり乃の人となりをよくは知らない冬紀には、そんな言葉が見つからなかった。

「あんたはどれだけの……」
「私だって人のことは言えないけどね。カメラマンとしてというよりも、私の目から見た友永くんは、いい男とは呼べないって言ったのよ。ごめん、帰るわ」
「逃げるのか」
「友永くんの目つき、危険だよ」

 まり乃が立ち上がると、冬紀も立ち上がった。横をすり抜けて出ていこうとするまり乃の肩を引き寄せて抱きすくめる。まり乃は強いまなざしで冬紀を見上げた。

「やめて」
「俺のキスはいい男のキスだって教えてほしくない?」
「やめなさい」
「殴り倒してみろよ」
「その綺麗な顔に傷をつけていいの?」

 綺麗な顔、と言われるといっそう腹立たしくなってきて、強引にくちびるを奪おうとした。まり乃が顔をそむけ、抵抗している。と、フォボスの女性店員が口を出した。

「今、芳郎さんに電話しましたから」
「芳郎さん? なんで?」

「そしたらね、芳郎さんは言ってました。里子さんとまり乃のふたりがかりでだったら、友永に勝てるだろ。ふたりでだったら友永を縛り上げられるんじゃないか? 俺もじきに行くから、捕縛しておいてくれ、だって」

 里子というのがこの女性の名前なのだろう。フォボスは芳郎たちが頻繁に使用する音楽スタジオから近いのだから、知り合いであってもおかしくない。だが、単なる喫茶店の店員が、悠木芳郎の個人的な電話番号を知っているとは解せない。

 この店にコーヒーを飲みにくるようになってからだと日の浅い冬紀は知らない、交友関係があるのだろうか。
 いずれにしたって悠木芳郎の名前を出されれば弱いのだから、ちぇっ、女ってずるいよな、などと舌打ちをして腕をゆるめた。

つづく








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