キャラクターしりとり小説

キャラしりとり2「末っ子」

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キャラクターしりとり2

「末っ子」

 ひ孫の名前をつけるのを生き甲斐にしていたひいじいちゃんは、生前には両親に言っていたのだそうだ。
「おまえたちの息子の名前をつけたいよ。わしが生きてるうちに男の子を産め」

 ところが、母が三人目の娘を産み、四人目を妊娠しているときに、ひいじいちゃんは老衰で逝ってしまった。

「また女か」
「……これでおしまいにしようね」
「名前をつけてくれる人もいなくなったんだから、末子でいいだろ」
「いいよね」

 相談というよりも投げやりな話の結果、あたしの名前は末子に決まった。
 姉たちはわりに古風ではあっても綺麗な名前をつけられているのに、あたしだけがこんないかさない名前。

 当然のごとく育てられ方もおざなりで、ほったらかしにされていたような気がする。親はなくても子は育つ、というか、親はなくても姉が三人もいたら育つってか。別にネグレクトされていたわけでもなくて、両親と三人の姉がいたら、誰かがかまってはくれたのだが。

 この名前のせいで、あたしはひがみっぽく育ったみたい。姉妹のうちで末っ子がいちばん背が低いのは、栄養が足りてなかったんじゃないの? なんて、母を白い目で見たりもしていた。

「末子……」
「末子なんて呼ぶなっ!!」

 学校でだって、変な名前、おばあさんみたいな名前、だとからかわれる。先生までが言った。
「末子ってのは末っ子だから? 四人姉妹のいちばん下だったらそうなんだろうね。いやいや、いい名前だよ」
 そう言いながら、クラスのみんなも一緒に笑っていた。

 なのだから、上の姉に名前を呼ばれて爆発した。

「そんなにその名前が嫌い?」
「嫌いだよ。あたしもお姉ちゃんみたいな名前だったらいいのにな」
「咲子だって別に……」
「末子よりもいいじゃん」

「うーん……じゃあね、これからはスーって呼ぼうか」
「スー? 可愛いかもね」

 親にもあとふたりの姉にも、友達にも近所のひとにもスーってニックネームを強制して、末子だなんて誰にも呼ばせないようにした。

 咲子姉ちゃんがつけてくれたスーって呼び名は気に入ったから、それであたしは明るくなれたみたい。名前ってけっこう大切だ。一生ついて回るんだから。

 三人の姉たちは決して嫌いではなかったけれど、そのせいもあってあたしは、六つ年上の咲子姉にもっとも親しんでいた。年齢が近いとつかみ合いの喧嘩をしたりもするものだが、長女の咲子は妹たちにはちょっとばかり母親気分でもあったようだし、末っ子のスーには特に辛抱強くて、口喧嘩にもならなかった。

 教師にだって雑談でだったら「スー」と呼ばれるようになっていた中学生のころ、咲子がはじめて我が家に男のひとを連れてきた。

「咲子姉ちゃんのボーイフレンドだって」
「髪が長いよね」
「……音楽やってるんだって」
「あんまりかっこよくないけどなぁ」

 真ん中の姉の園子と下の姉の鈴子が、咲子の恋人について話している。あたしもそぉっと見てみたら、背の低い男のひとだった。
 かっこよくはないけれど、かっこ悪くもない。顔もたいしたことはないけれど、アングルによっては美青年に見える。園子と鈴子はなんとなく彼を避けたがっていたが、あたしは彼、康介さんになつくようになった。

「康介さんはベースをやってるんだね。ベースギターってよくわかんないな」
「うん、ベースはむずかしいけどね、それだけに上達してくると楽しいよ」
「スーにも教えて」
「ああ、いいよ」

 邪魔してごめんね、なんて心で言いながら、康介と咲子のデートにくっついていって、康介さんの部屋にまで上がりこんで、ロックを聴かせてもらい、ベースを教えてもらった。

 そうしているとだんだんだんだん、変な気持ちになってくる。そわそわして、このまんまではいられなくなる。あたし、康介さんが好き。一途に思い込んで、想いが加熱していった。

「康介さん、キスしてよ」
 ひとりで彼の部屋に行ったある日、言ってみた。

「あたし、康介さんが好き」
「冗談はやめろって」
「なんでよ」
「俺はスーの姉さんの彼氏だよ」

「知ってるよ。知ってるけど、好きなんだもん。康介さんだってあたしを嫌いじゃないでしょ。嫌いじゃないから部屋に上げてくれて、優しくしてくれるんでしょ」
「スーは子どもだからさ」
「……子ども?」
「そうだよ」

「子どもだからこうして……」
「咲ちゃんだって、スーだからこそだろ」
「あたしが子どもだから……」

 あとになって思えば、園子や鈴子ならばともかく、中学生の末っ子は康介には女だとも映らないと、咲子は無意識にしても考えていたのだろう。あたしがデートについていっても、ひとりで康介さんのアパートに遊びにいっても、鷹揚に笑っていた。 
 
 だけど、あたしのほうは鷹揚ではいられない。康介さんに断られると意固地になって、彼の膝に手をかけて迫った。

「あたしが嫌い?」
「俺が好きなのは咲ちゃんだよ。スー、帰れ」
「いいかっこしちゃって……」

 姉のためにはこのほうがいいんだろう。帰れと言われたあたしは、それっきり康介さんのアパートには行かなかった。

「あたし、アルバイトする」

 お金がほしいし、くよくよしているよりは身体を動かしたほうがいいのだから、親にはバイトが決まってから打ち明けた。

 アルバイトは禁止されている中学生だからって足元を見られて、時給は馬鹿みたいに安い。けれど、皿洗いとはいえ憧れのライヴハウスでのアルバイトだ。親も渋々許してくれて、週に三回だけ働きにいくことにした。

「なんて名前? ちっちゃいね。高校生?」
「名前はスー。高校生だよ」
「スーって名前じゃないだろ。あだなだろ。ま、いいけどさ。あたしはミミ。よろしくね。あたしはあんたよりは年上だろうけど、高校生だから」

 ミミもアルバイトで、ライヴハウスのウェイトレスをしている。
 背が高くて化粧が濃くて、特にアイメイクを強調したミミには、やがて、本当のことも話すようになった。

「あたしはギターを弾くんだよ。スーはベースか。中学生の女の子がベースを弾くって、珍しいかもしれないね」
「教えてもらったんだ」

 姉の彼氏を好きになっちゃって、これこれこうでね、と話した。

「お姉ちゃんのためには、康介さんがそんな男でよかったよね」
「あんたのためにもよかったよ」
「あたしのために?」
「彼女の妹に迫られて簡単に手を出すような、そんな男を好きになったんじゃなくてよかったってこと」

「ああ、そっか。ミミって大人だね」
「あんたよりは大人だよ」

 咲子はそのことについてはなんにも言わない。あたしもなんにも言わない。そんなふうにして時がすぎていき、高校生になったあたしは言った。

「咲子姉ちゃん、彼氏ができたよ」
「ロックやってる子?」
「うん、まあね。お姉ちゃんは康介さんと結婚するの?」

「……ちょっと前に別れた」
「あ、そか」

 あれからだいぶたつんだから、あたしのせいではないだろうけど、胸がちょっとだけ痛かった。

「あたしは高校を卒業するまでにはロックバンドを組むんだ。そしてね、ロックバンドのベーシストとしてデビューするの。そのためにもベースギター、買わなくちゃ」
「そのためにもバイトもがんばるんだね。バイトばっかりしてて、落第しないようにね」
「はーい」

 末子なんて名前は大嫌いだけど、「スー」ってあだなを姉さんがつけてくれて、姉の彼氏があたしの将来への道も示してくれた。末っ子ってのも悪くないかもね。

つづく

今回の主人公は、フォレストシンガーズの木村章の若き日の彼女、スー。
この次はスーがバイト先で知り合った女性が主人公になります。






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~ Comment ~

NoTitle

へえ、キャラしりとりですか。キャラが豊富なここあかねさんのところだからストーリーもたくさん続きそうですね。

今回の末子さん、いや、スーさんのお話はこの間フォレストシンガーズで読ませていただいたばかりだったので、おっといきなり、とニヤニヤしてしまいました。てか、ラッキーの部類ですね。

今回はちょっと寄り道しましたが、また本編のほうもお邪魔させていただきます^^

けいさんへ

新カテゴリ、お読み下さってありがとうございます。
なんでもお好きなの、読んでやって下さいね。

はい、私はキャラクター先行型ですので、たくさんの小説があって、たくさんのキャラがいます。
普通の「しりとり小説」のほうも結局、キャラが先になってるようなところもあります。

ショートストーリィのキャラをごぞんじない方にも楽しんでいただけたらなぁ、と思って書いてはいるのですが、やっぱり知ってもらっているほうが親しみやすいと申しますか。

私もけいさんの「怒涛の一週間」に花園さんが出てくると、親しみがアップしますものね。そういうものでしょうね。

またいらして下さいね~
楽しみにお待ちしております。

スーちゃんだ

スーちゃんの強烈なキャラクターは、こういう生い立ちのもとでうまれたんですねえ。
確かに、名前は大事。
私はあまり姓名判断とか信じないたちだったんですが、ある人の占いが見事に当たり、ゾゾゾ~っとした経験があります。
スーちゃんの場合は、名前そのものに問題アリだったんですね^^;

あ!!
今思い出しました。
高校の時の友人が4姉妹の長女だったんですが、そこの4女が、末子でした!
「もう打ち止めにするから」って。
まさに・・・・スーちゃん><
(それがあまりに印象的だったので、肝心の友人の名前が今、思い出せない私・・・)

しかし康介さん、いい人でよかった。
ちょっとドキドキしちゃいましたよ。
でも、いい人でよかった。

スーちゃんは、章くんと別れた後は、少しはしおらしい、大人の女性になったでしょうか。
あのままでは、ちょっと厳しいかな。
せめて、もうちょっと優しくなって欲しいですね。

次は・・・章君に行くかと思ったら、ハズレチャッタ^^

limeさんへ

私の知り合いにも三人姉妹の末っ子、四人姉妹の末っ子、いますねぇ。
末子って知り合いはいないのですが、limeさんにはおられるのですね。その方、どういう性格をなさってます? 気になるところです、

親しいひとの名前は使いにくいし、キャラが増えすぎていて、最近は名前に困ってます。

limeさんが「いい人でよかった」と言って下さった康介くんは、新登場キャラなんですけど(名前は水泳の北島さんから拝借しました。(^^)
そう言っていただくと、もっと書きたくなっちゃいますね。
調子に乗りやすいママだと、幸生にも言われています。

大人になったスーはちらほらとフォレストシンガーズに出てきますが、彼らと深い関わりのあった女性たちを書いたこれに、スーも出てきます。

http://quianred.blog99.fc2.com/blog-entry-381.html

若いころとあんまり変わってない、かなぁ?
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