キャラクターしりとり小説

キャラしりとり1「一本釣り」

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キャラクターしりとり1

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「一本釣り」


 弟の冬紀と似た年頃の生徒たちを扱うのは大変だろうと、最初から覚悟は決めていた。
 しかし、本当に大変だよな、へこたれたくなっちまうよ、などと考えながらも、僕は家へと帰りついた。

 まあ、僕だって学生のころにはちょっと粋がって「俺」と言ってみたりもしたのだが、社会人となったのだから、僕の職業は中学校の教師なのだから、粋がるのは卒業だ。生徒の前でも生徒の保護者の前でも、ガラの悪い言葉は使わないようにしていた。

「ただいまぁ」
 家の中に入っていくと、母が出迎えてくれた。

「おかえり、達郎。ごはんは?」
「うん、食べるよ。母さん、なんだか浮かない顔をしてるね。父さんは?」
「冬紀と口喧嘩をして、父さんも冬紀も部屋にこもっちゃったわ」

 またか、と苦笑するしかなかった。
「なにが原因?」

 ダイニングキッチンに入って、僕の夕食をあたためてくれている母に尋ねる。空腹だったので、ネクタイをはずして上着を脱いだだけで食卓についた。

「ギターがほしいって言ってるのよ」
「冬紀が、だよね。また買ってくれって?」
「買ってくれではなくて、ギターを買うためにバイトするって」
「中学生がバイトはなぁ……」
「そうでしょ。それで父さんと喧嘩になったのよ」

 七歳年下の弟がロック好きになったのは、五年ばかり前からだったろうか。小学生でローリングストーンズにはまった早熟な冬紀は、中学生になったころから言っていた。

「ギターがほしいよ。俺は将来はギタリストになるんだ」
「そんなもん駄目だ!!」
「ギタリストだなんて、そんなのやめてよね」

 父は小学校の教頭、母は幼稚園教諭という教育者夫婦。僕も両親の影響で教師になったわけだが、それだけに父も母も頭が堅い。冬紀も小学生のころには親にとことんは反抗しなかったのだが、中学生になるとさからい方が激しくなってきた。

 ギターがほしいよ、買ってよ、駄目だ、との冬紀と父の会話。
 幾度繰り返しても埒が明かないせいか、冬紀はいよいよ、バイトをして買うと言い出したのであるらしい。ほしいものを手に入れるために働くのはいいことだが、中学三年受験生の冬紀にはバイトは勧められない。

「僕が冬紀と話してみようか」
「そうしてくれると助かるけど、冬紀はお兄ちゃんも煙たがってるからね」
「僕はあいつとちがって、ガリ勉真面目学生だったもんな」

 同じ両親が同じように育てたのに、こんなにもちがった兄弟は珍しいと、誰彼になく言われたものだ。僕は真面目に生きてきたのを後悔はしていないけれど、自由奔放に生きても許されるというか、長男がまともなのだから次男は多少は羽目をはずしてもいいかなぁ、と母は考えているらしいのがうらやましくなくもなかった。

「バイトはさせずに受験勉強させて、とにもかくにも高校に合格させたいんだろ。冬紀だって高校には行きたいはずだよね」
「そりゃそうでしょうね。高校に行くのがいやだとは言ってないわよ」

「よし、そのセンで行くよ」
「なんて言うの?」
「釣るんだよ」
「釣る?」

 ごはんと味噌汁と焼き魚と野菜のお浸し、ヘルシーなおふくろの味の夕食をすませると、僕は二階に上がっていって弟の部屋のドアをノックした。

「うるせえな。俺は寝てるんだよっ!!」
「起きてるじゃないか。入っていいだろ」
「兄ちゃん?」

 中学三年生にしては背が高いが、僕よりは低い。小さいときには僕になついていた冬紀は、いつのころからか僕をナナメ目線で見るようになった。

「ギターがほしいって?」
「前からそう言ってんじゃん。だからバイトするんだよ。母さんに言われて止めにきたのか」
「買ってやるよ」
「は?」
 
 そのセンとは、釣るとはこれだった。

「バイトなんかしないで勉強しろ。おまえはそれほど成績はよくないだろ? おまえの志望校は母さんから聞いたよ。あそこはかなりゆるやかな校風だから、おまえには合ってると思う。だけど、受験勉強しなかったら、校則ばっかりきびしい私立高校にしか入れなくなるぞ。きびしい学校なんかいやだろ」

 中学校教師の言は説得力があるのか、冬紀は横を向いてうなずいた。

「あの学校、おまえの成績ではちょっとハードなんだよな。でも、がんばれば合格する。そのためにはバイトなんかやってる場合じゃない。がんばって勉強して合格したら、俺がギターを買ってやるよ」

 こんな台詞のときにはこっちがいいかと、「俺が」と言った。冬紀はうつむいて、う、う、う、と唸ってから顔を上げた。

「約束だよ」
「ああ、約束。指きりしようか」
「俺はガキじゃねえんだよっ」

 あれから約半年。弟は志望校に合格し、僕は約束を守って冬紀とともに楽器店に入っていった。

「これ、いいなぁ」
「最初からそんな高いのよりも、初心者はこのくらいでいいんだよ」
「しょぼくねぇ?」

「一生懸命練習して上達するころには、おまえもバイトができるようになるだろ。そしたら自分の稼ぎで上級モデルを買えよ」
「……そうだね。うん、兄ちゃん、ありがとう」

 エレキギターの初心者用入門セットとやらを購入する。兄ちゃん、ありがとう、だなんて、冬紀の口から素直な台詞が出るのを聞いたのは何年ぶりだろうか。新米教師には安い買い物ではなかったが、その言葉で僕もじーんとしてしまった。

「あの子、兄ちゃんにギターを買ってもらったんだね」
「いいなぁ、俺なんか……」
「アキラったら、ひがんでるな」

 ロッカーファッションなのか、派手な服を着た小柄なカップルが、ひそひそ話していた。

「ひがむよ。俺には兄ちゃんはいないし、頑固親父は絶対に買ってくれなかったし……」
「あたしもだよ。女の子がギターを弾くなんて、やめなさいって母さんが言うの。ギターじゃなくてベースだって言っても通じないしね」
「そりゃそうだろ。うちの親だって、ギターとベースってどうちがうの? だよ」

 二十歳前後くらいだろうか。ともにロッカーであるらしきカップルが、自分たちの楽器初体験話をしている。冬紀はカップルなんかは意識にも留めていないらしく、買ったばかりのギターを抱いて、僕を見上げて晴れやかな笑顔を見せた。


つづく

 つづくとは言っても、ストーリィは続きません。キャラクターが続きます。
 次のストーリィの主人公は、このラストシーンに登場したロッカーカップルのどっちか。
 キャラクターしりとりとはそういう意味であります。

 

 
 

 
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~ Comment ~

NoTitle

新しいカテゴリと、加茂川につられて来ました。

あの冬紀にも、中学生時代があったんですねえ。
でも、やっぱりちょっとヒネてるww

教育者の両親と、優しい、これまた教育者の兄。
いですねええ、やさしいお兄ちゃん。

素直な良い子になる要素、たっぷりなのにねえ・・・・(笑

あ、最後に出てきた誰かが、引き継ぐんですね。
面白いルールだなあ。

limeさんへ

冬紀を知ってくださっているlimeさんに、新カテゴリを早速読んでいただいて感激です。
反応をいただけるとやっぱり嬉しいものですね。

育った環境がこうでもひねくれちゃって、素直なよい子にはならないのはたぶん、著者が反映してるんですよね。

先日大槻ケンヂさんの小説を読みまして、そこに出てくる病みガール、私の好きなタイプのキャラではなかったのに妙に可愛く感じてしまったのです。
それというのも、その子の根が素直だからなのだろうなぁ、と。

素直っていうのはやはり魅力的なのだと再認識した次第です。
でもでも、やっぱり私には素直なよい子は書きにくいのですよねぇ。

この次もlimeさんが知って下さっているキャラですので、また読んでやって下さいね。
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