連載小説1

「We are joker」15 

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「We are joker」

15

 こんなときにはジョークでも言ってみるかと、伸也は軽く軽く言った。
「恵似子ちゃんは俺が好きで、つきあって下さいとか……」
「……はい」

「んなはずないか。うぬぼれるなってね……ん? あのさ、俺、聞き間違えた?」
「……いいえ」
「恵似子ちゃんは俺とつきあいたいと?」
「はい」

 はいと答えたくせに、恵似子はくるっと振り向いて駆け出していった。伸也は焦って彼女のあとを追う。
 数分前に出ていった殿村と尚はどこに行ったのか、姿は見えない。小柄な伸也ではあってもさらに小柄な恵似子よりは足が速くて、じきに追いついて彼女の腕をつかんだ。

「わっと、きゃーっとか言わないでね。落ち着いて」
「おちついて……ます」

 そむけた顔を覗くと、恵似子の頬をぽろぽろと涙が伝わっている。
 男性の標準よりもやや低い伸也よりも十五センチは低いということは、恵似子もかなり背は低い。伸也は体重も少ないが、恵似子は体重だけはけっこうあるだろう。よく言えばぽっちゃり。悪い言い方をすればずんぐり。

 その上にセンスが……悪い言い方をすれば最悪。
 秋にすれば気温の高い今夜、恵似子は臙脂のトレーナーを着ている。厚手の生地の胸元にはリスとウサギの可愛いプリント、アップリケというのか。スーパーマーケットの安売りでだったらこんなものを売っているかもしれない。

 下は長いスカートで、複雑な色合いのチェックだ。紺やら緑やら茶色やら赤やらの模様は、こたつ布団のようにも見える。
 金持ちではないようだし、普段着なのだったらセンスを云々してはいけないのかもしれないが、二十歳にもなっていない女の子がこの服装とは、部屋着だったらまだしも、それで外に出てくるなと言いたい。

「恵似子ちゃんは家にいたの?」
「いえ……香苗ちゃんの家に……」
「香苗ちゃんってきみの友達だよね」

「遠い親戚だけど、友達です」
「きみのアパートはすぐ近くでもないんでしょ」

 以前にハローワークの帰りに食事をしたときには、恵似子はそう言っていた。ならばなおさら、そんな格好で電車に乗るなと言いたい。

「今日は泊まるつもりだったから……」
「お泊まりするつもりだったんだね。晩ごはんは食べた?」

「香苗ちゃんと食べました」
「おいしかった?」
「はい」

 なんだって俺はこんな、どうでもいい質問をしているのだろう。現実問題と直面したくないからか。俺はいったいどうしたらいいんだ。伸也の頭の中は、恵似子のスカートのチェックのように混沌としてきていた。

「……ごめんなさい。無理ですよね」
 頭が激しく混乱して、伸也が黙りこくってしまって数分ののち、恵似子がぽつりと言った。
「嘘ですから。忘れて下さい」

 ぽろり、ぽろり、恵似子の丸い頬に涙がしたたる。こうなるとおのれが悪い奴になった気分になってきて、伸也は思わず口走った。

「いや、嬉しいよ」
「え?」
「こういうことって男が言うべきだよね。なんて、古い?」

「え? ええ?」
「恵似子ちゃん、俺とつきあって」
「ええっ?!」
「あのね、夜中だから叫ばないでね」
「あ、はい」

 細い目を見開いて伸也を凝視している恵似子の頬が、みるみる真っ赤になっていく。りんごのようなほっぺって可愛いな、強いてそう思い込もうとしてみても、伸也の気持ちは冷えていく。タイプじゃないよ。つきあいたくなんかないよ。

 勢いって怖いよな。俺はどうしてそんなことを言った? つきあってって? 
 伸也の気持ちは知る由もない恵似子の頬を、またもや涙が流れていく。感激の涙なのか。先ほどとは別の意味の涙なのはまぎれもないであろう。前言撤回したくてもできなくて、伸也の肩に恵似子の体重と同じほどの重石が乗っかったようだった。

つづく




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