番外編

番外編92(異・水晶の月9)前編 《特殊編3・美月さん》

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imagesいぬ

注意・美月さんのポチをお借りしてのBLの類似品ふう。
   続編です。美月さん、毎度ありがとうございます。   

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番外編92

「異・水晶の月・9」前編

1

 ねんざとサッカーボールが縁で知り合った、魔法使い犬、ポチ。ポチのおかげで幸生はたいそう貴重な経験をさせてもらった。
 鷺の森大学男子学生寮には、九人の学生が暮らしている。
 一年生の酒巻國友、鈴木強二、尾崎尚吾。二年生は三沢幸生、木村章。三年生の小笠原英彦、本庄繁之。四年生の乾隆也、本橋真次郎。
 寮長の真次郎と副寮長の隆也は、春になれば卒業して社会人になる。
 入寮したときからいろんなことを教えてくれた、ふたつ年上の先輩。可愛がってくれて叱ってくれて、兄貴のように接してくれた。ものごとを教えるために拳骨を使うのは当たり前だと思っている真次郎だって、卒業してしまうのは寂しいけれど。
 より以上に寂しいのは、隆也に会えなくなってしまうこと。俺はゲイなんかじゃないけど、男に恋する性癖はないけど、乾さんだけは特別だと幸生は思っている。
 だけど、俺はゲイじゃないんだから、乾さんに恋はしていない。ポチの魔法で女の子のユキにしてもらって、乾さんに妹のように可愛がってもらって、だけどやっぱりこんなふうには生きられないと悟って、男に戻してもらった。それだけでよかったんだ。
 女の子になって隆也さんに甘えていたわずかな日時も幸せだったけど、男に戻って、ただの後輩に戻って、以前のまんまにするのも楽しいよ。
「……ポチ」
「ワゥン」
 今日の幸生はポチの飼い主にことわって、ひとりと一匹で散歩していた。そうしていたら目撃してしまったのだった。
「乾さん……」
「わんっ」
 魔法使い犬だと知っているのは、幸生だけのはずだ。知らないひとにはごく尋常な茶色の子犬。ポチは普通の犬のように鳴き、幸生はテレパシーで彼に語りかけた。
(俺を透明人間にして)
(透明になって乾さんたちをつけていくの? そんなことしたら……幸生くんがつらくない?)
(いいんだよ。気になるんだもんっ)
 一瞬躊躇はしたものの、ポチは幸生の望みをかなえてくれた。


 風のように不思議な女の子、ユキ。
 隆也の心の中には、信州で出会ったユキと、その後に寮にやってきて数日、ともに暮らしたユキがそんなふうに残っている。自称「不思議ちゃん」という女の子もいるものだが、ユキは本物の不思議な女の子だった。
 あいつ、可愛かったな、楽しかったな、わがままに困らされたことまでが、よいふうに変化してしまっていた。
「ん?」
 就職も決まり、卒業に必要な単位も取得したので、隆也は好きな学問にのんぴり打ち込めばいい境遇になった。春からは薬品会社の研究所勤務になるのだから、「ハラ製薬」が製造している薬について調べるのを、最近のテーマにしている。
 今日も大学の図書館で勉強してから、早めに学校を出て散歩がてら、あまり来たことのない方向に足を伸ばした。大きな住宅が建ち並ぶ一画の立派な屋敷には柿の樹がある。真紅に近いほどに鮮やかに色づいた柿を見上げる小柄な女の子を認めて、隆也はふっと眩暈に似た感覚を覚えた。
「どうかしましたか」
 声をかけると、女の子が振り向く。似ている。頭がくらくらする。
 晩秋の冷たい空気の中、柿の実と同じ赤に近いオレンジのジャケットを着て、オリーブ系のチェックのミニスカート、茶色のブーツ。スカートとブーツの隙間から、細い脚が覗いていた。
「あの柿、食べたいな」
「ここはきみの家?」
「ちがうよ。ねぇ、柿、食べたい」
「知らないうちなんだろ」
「そうだよ。柿が食べたいよぉ」
「あのね、よそのおうちの柿を勝手に取って食べたりしたらいけないんだ」
「どうして?」
 子どもに言い聞かせる調子になっている隆也に、彼女も子どものように言い返した。
「きみはなんて名前? おいくつですか」
「小路ミモ。十七歳」
「ミモ?」
「ほんとはショウジ・ミモザっていうんだけど、ミモのほうが可愛いでしょ」
「そうだね。俺は乾隆也、二十一歳」
 そんなのどうでもいいよ、と言いたげに、ミモは柿の枝が張り出している家の塀によじ登ろうとし、隆也は慌てて言った。
「駄目だよ。なにをするつもり?」
「柿」
「そこに登ってもぐつもりか? そんなの泥棒だよ」
「そしたら隆也、取って」
「俺が取っても泥棒だろ。降りなさい」
「やだもん」
 ミニスカートで塀に登っていったミモの、さくらんぽプリントの下着が見える。隆也は彼女の腰に両手を回して抱き降ろした。
「やーんやんやん」
「十七歳にもなって、そんな格好でお行儀の悪い真似をするんじゃない」
「だって、柿、食べたいもん」
 理屈が通じないようなので、隆也はほんのすこし声を荒げた。
「いい加減にしなさい」
 うっ、と声を詰まらせたミモは、うっうっうっ、と嗚咽しはじめ、しゃくり上げた。
「ちっちゃな子どもみたいだな。そしたら買ってあげようか」
「うん」
「……おまえ、嘘泣きしてただろ。涙の跡がないじゃないか」
「えへ、ばれちゃった。だって、隆也、怖いんだもん」
 嘘泣きが得意な女の子を地面に降ろし、歩き出す。ミモは隆也の手を小さな手で取って、可憐な表情で見上げた。
「俺はおまえよりも四つ、年上だよ」
「だからなに?」
「呼び捨てにするな。友達でもないんだから」
「友達になったんじゃないの?」
「……俺もおまえって呼んじまってるよな」
 このわがままぶり、子供っぽさ、ユキよりはふたつ年下なのだから、より以上にガキっぽいのもしようがないのか。にしても、十七歳の女の子だったらもうすこし大人びているのではないのだろうか。
 小柄なところも性格も、可愛い顔も、ミモはユキと似ている。外見が似ているからこそ眩暈を感じ、中身も似ていると知っていっそう頭がくらくらする。彼女のほうからつないできた手の感触も、ユキのものと同じだった。
「その話はこれからにして、柿を買いにいこうか」
 ちょうど隆也がミモを柿の木のある家の塀から抱き下ろしたところを、幸生が目撃した。透明人間になった幸生と、透明犬になったポチがつけてきているとは、むろん隆也は知らない。普通の発想ではそんなことは思いも寄らないのだから。


 今どき、文通だなんて交際をしていると知られたら、寮生たちにも学校の友達にも馬鹿にされそうだ。彼女ができたと話したくて、だけど、こんなのを彼女と呼ぶんだろうか? 僕にとっては「彼女」だけど、理代子ちゃんもそう思ってる? 國友としては心配にもなってくるのだった。
 故郷の山形から修学旅行で東京にやってきた、幼なじみの理代子。高校二年生の理代子は、自由時間に単独行動をして、國友に会いにきてくれた。
「クニちゃん、大人っぽくなったよね。あたしなんかだったらつきあってもつまんないかな」
「え? リヨちゃんが東京に出てくるって意味?」
「大学は東京に来たいけど、まだわかんない。それまでは文通してくれる?」
「……リヨちゃんさえよかったら、嬉しいよ」
 メールではなく文通。そのレトロな響きは國友には心地よかった。

「こんにちは。
 クニちゃん元気? 理代子も元気だよ。
 今日ね、友達にクニちゃんのこと、話しちゃった。高校を卒業したらあたしは東京に行くの。東京には待ってるひとがいるの。
 そう言ったら、友達はみんな大騒ぎ。
「遠距離恋愛なんだ、理代子ったら素敵」
 素敵だって言われちゃったよ」

 今日も届いた手紙にはそう書いてあったから、恋愛なのだろう。理代子もそう思ってくれているとこれで確信できる、「遠距離恋愛」。甘いムードとともに不安な響きも漂うその言葉は、國友のハートを切なくしめつけた。


 ただただ戸惑っているうちに、夕里につきあえと言われ、迫られ、その気になりそうになったところを、夕里の本当の彼氏にかっさらわれた。
 あんなもの、夕里はまるで本気ではなかったのだから、戸惑う必要もなかったのだ。夕里は彼氏が浮気をしたと思い込み、彼氏への面当てに強二を利用しようとした。自己中心的のかたまりみたいな夕里ならば、あんな真似をしてもちっとも不思議ではない。
 あの日、強二が夕里に迫られていたら、夕里の本当の彼氏があらわれた。星丈人という名の、強二よりはかなり年上の大学の先輩で、寮生OBでもある社会人だ。
 かっこいいな……噂には聞いていた星さんってこのひとか。中身も大人の男なんだろうし、夕里に対する態度も堂々として自信に満ち溢れている。ルックスがいいだけの理由ではなく、星さんはそりゃあもてるだろう。
 言動がすべて、反抗心に満ち満ちていたくせに、夕里が星に向ける瞳はとろけそうでもあった。
 他のお客も大勢いる喫茶店で、あんたなんか大嫌いだと叫ぶ恋人を抱き上げてさらっていくなんて、強二には一生できっこない。
 喫茶店で飲食したものの代金を強二の分まで支払ってくれて、夕里を店から連れ出していった星丈人。強二は彼のうしろ姿を、打ちひしがれた想いで見送っていた。
「こんなところでなにをやってるんだよ。強二、帰るぞ」
 どうして副寮長がここにいるのか、彼はなにかを知っているのか、強二の頭の中は虚ろになっていたので、深く考えもせずに乾隆也に従って、言葉少なになって寮に帰ってきた。
 あれからも強二の心の中は虚ろで、空虚な風が吹いている。
 最初からわかっていたはずなのに。強二は特に夕里に恋していたのでもないのに。あんな自分勝手な女の子とつきあったら振り回されて、毅然とした態度が取れない強二では精神的におかしくなってしまいそうなのに。
 みんなみんなわかっていてさえも、強二の心に吹く冷たく虚しい風は、止めようがなかった。


「ねぇ、あんなのしようよぉ」
「あんなのって……?」
「あれだよ」
 あれ、というのは尚吾がサミと一緒に観てきた映画のワンシーンか。サミがしたがる「あれ」とはどんな仕草だろうか。
 東北生まれでウィンタースポーツが得意。大学ではとりたててスポーツはやっていないのだが、サミは長身で屈強そうな体格をしている。身長も体重も尚吾よりは少ない程度の、尚吾の好みからすればこのくらいはある女の子がいい。
 理想にぴったりの外見をしていて、顔も綺麗なサミは、が、相当にガラがよくない。
 腹減った、メシ、食いにいこうぜ、尚吾、金あんのかよ? 男友達と同じような口をきくサミに、もうちょっと女っぽく喋らない? などと言うと逆襲を食らうので、尚吾は時たま、口の中でぼやくだけだ。
 こんな性格をしていてもサミの趣味は一部は女の子っぽくて、映画は恋愛ものがいいと言う。今夜、繁華街の映画館で観たロードショーは、「愛ある限り」というタイトルのアジア映画だった。
 愛し合っている恋人同士がいる。彼が不慮の事故で亡くなり、傷心の彼女は嘆き悲しむ。死んでしまった彼はゴーストになって、彼女を守るためにいつもそばに寄り添っている。美男美女の熱演に、サミはうっとり見惚れていた。
 あの映画のどのシーンを、サミは再現したいのだろうか。ロマンティックなシーンは多々あって、尚吾とすれば観ていてむずむずしたものだが。
「どれ?」
 忘れてしまったのもあって特定できないので、尚吾ははっきり尋ねた。
「どんなのがしたいんだよ?」
「彼女が死んじゃった男を思い出すシーンがあったじゃん」
「何度もあっただろ」
「その中のひとつだよ。ほら、マンションの屋上でさ」
「あれか」
 夜中に自宅マンションの屋上で、彼女が亡くなった恋人を偲んで涙するシーンはあった。尚吾はそのあたりから気持ちよくなってしまったので、居眠りしていてその先は見ていなかった。
「覚えてるだろ。やってよ」
「やってって……どうすんの? 人が見てるだろ」
「そんなの、あたしは平気だもん」
「俺は平気じゃないよ」
 往来のど真ん中で立ち止まり、サミは尚吾の背後に回った。
「あたしがやってあげるよ」
「ど、どう……なにをどう……どうすんだよ」
 すこしだけ尚吾よりも背の低いサミが、尚吾の両脇から両腕を入れてがしっと抱きすくめる。こんなプロレスの技、あったんじゃないか? これは映画の主人公の女性が暴漢にでも襲われるシーンなのか。尚吾は顔をねじまげて、サミの表情を見やった。
「尚吾は両腕を広げて」
「こう?」
「そうそう。こんなシーン、あっただろ」
「あった……うん、あったな」
 まるで記憶にはないのだが、尚吾が言うと、サミも言った。
「あのとき、彼女は彼氏のあとを追って死のうとしてたんだよね。彼氏の幽霊が彼女を止めるために、こうやってうしろから抱くんだよ。幽霊なんだから彼女には抱きしめられた感触はないのに、なんとなくそうされてるってわかって、泣いてたんだよね」
「ああ、そうだっけ。ん? このポーズは?」
 どちらの映画でも男女が逆ではあったが、尚吾は別の大ヒット映画を思い出した。
「このポーズ、タイタニックのぱくりじゃんよ」
「うるさいね。あたしがいい気持ちになってるのにっ」
「うわっ!! 参った!! サミ、ごめんっ!!」
 プロレス技だったらこれは、バックドロップかスープレックスか。尚吾はそれも思い出したのだが、ここでプロレス技だなどと口にするとなにをされるかわからないので、ひたすら降参しておいた。


2

 少なくともうちの寮では、一番もてるのは俺だ。それだけは章は自信がある。
 乾さんと本橋さんはもてなくもないはずだが、就活が忙しくてそれどころではなかったから除外。大学を卒業するまでは、彼らは来春のために真面目にすごすだろうから、まだ女どころではない。
 シゲさんと強二とクニは問題外。あんなのもてるわけがない。
 尚吾にはサミという決まった彼女がいる。章ならば絶対に近づかない、背の高いごつい女だ。サミと尚吾は仲良く楽しくつきあっているのだから章がケチをつけるいわれはないが、勝手にやっていればいい、以外の言葉はない。
 ヒデさんはルックス的にももてなくはないと思うけど、粗野だからかな。女との話を聞かないな。
 幸生はマメだから、その気になったらもてるはず。だけど、あいつは変態だからな、変態は変な妄想とたわむれていたらいいんだよ。俺を材料にされると気持ち悪いけど、乾さんにとろろんとしてるんだったら、俺には害がないから好きにしてくれ。
 というような寮の仲間たちの中では、章がもっとももてるのは当然だ。身体は小さくても顔はいいし、女の子には優しくて親切だし、金があればプレゼントだってしてやるのだから。
「リサ、デートしようぜ」
 もてすぎてなかなかひとりの女の子に絞れなかった章に、最近、ようやく決まった彼女ができた。章よりも背の低い、大きな目が魅力的な可愛い子だ。
「章くん、バイトしないの?」
「十二月になったら年末バイトがあるんだ。今のところは仕事はしてないよ。それでもデート代くらいはあるから大丈夫だよ」
 ケータイで話しているリサの、ためらっているそぶりが伝わってきた。
「……でもね、リサちん、着ていくお洋服がないの」
「なくはないだろ」
「バッグもないんだよ」
「バッグはこの間、買ってやったじゃないか」
「買ってやっただなんて、いやな言い方」
「ああ、ごめん」
 はじめてリサと寝た日、記念のプレゼントのつもりでバッグを買ってやった。
「あんなの安ものだし、リサちんがほしかったバッグとはちがうんだもん」
「おまえがほしいのは高いんだもんな。俺は金持ちじゃないんだから無理だよ」
「章くんが買ったバッグはなんにも入らないし、寒くなってきたのにコートもないし、だから、リサちん、デートには行けないんだよね」
「おまえもバイトしたら?」
「やだっ!! お洋服とバッグくらいも買えない貧乏な章くんとは、別れようかなぁ」
「……勝手にしろ」
 むかっとしたのでそう切り返すと、リサはあっさり言った。
「うん、じゃあね、バイバイ」


 最近になってばたばたっと、寮生たちに彼女ができた様子だ。
 ふられたというのか、もてあそばれただけの強二もいるが、國友にも章にも交際相手がいるらしい。繁之としてはうらやましいやら癪に障るやらがあって、英彦を相手に彼女について喋っている章や國友の話はまともに聞いていなかった。
「俺は……」
 どうせ、俺はもてないもんな、繁之は自嘲的に呟いてみた。
 背は低くもなく高くもなく、なんの特徴もない顔をしている。将来は探偵になったらいいと冗談っぽく言われるのは、繁之のタイプこそが変装にふさわしいからなのだそうだ。
 性格だって、こと恋愛に関しては引っ込み思案で、好きになった女の子の前では口をきくのさえ困難になる。繁之だって小学生のころから片想いだったら何度も何度もしたのだが、成就したためしは一度もなかった。
 もてない仲間だといわれている國友や強二だって、一度や二度は女の子と交際した経験があるはずだが、繁之にはまったくない。
 小学生の幼い恋はいい。そんなものは成就しないのが普通だ。
 中学生だって幼すぎるから、片想いで十分。あのころの繁之はクラスメイトの中に好きな女の子がいて、彼女のために勉強をがんばろうとか、体育祭の徒競走で一位になりたいだとか、ある意味、彼女を仮想恋人に見立てて満足していた。
 それだけでは満足できなくなってきたのは、高校生のころから。それでも好きな子に声をかけるのは、繁之には不可能だった。あの子に告白しようと想像しただけで、動悸が激しくなって言葉が出てこなくなるのだから。
「バイトに行ってきます」
 誰にともなく声をかけて、繁之は寮から出ていった。
 行く先は走って十五分ほどの印刷会社。ランニングがいい運動になるので進んで走っている。職場では軽トラックで印刷物をお得意さまに届けるのが主な仕事で、力仕事も運動になるのだから大歓迎だった。
「運動して金を稼げるんだから、いいバイトだよな」
 友人たちは、そういうもんかね、と首をかしげていたが、繁之はそう思っているのだからいいのだ。
「じゃ、これ、お願いね」
 夫が社長、妻が専務という家族経営会社で、専務に指示されたパンフレットの包みを車に積んで配達に行く。車で十分ほどの得意先に到着すると、繁之と同じくらいの年齢の顔なじみの女子社員が迎えてくれた。
「ダルマ印刷のバイトさん、ご苦労さま。お茶をどうぞ」
「あ、ありがとうございます。でも、俺もみなさんと一緒に運びますから」
「そんなにたくさんの量でもないんだから、兄たちにまかせておけばいいんですよ」
「バイトくん、いいよ。俺たちがやるから」
 こちらも家族会社なのだから、働いているのは社長の息子たちらしい。二十代、三十代の三人ほどの男子社員はこの女性の兄なのか。そんな話を持ち出せば、この女性も親しく口をきいてくれるかもしれない。けれど、繁之は彼女の前では口が重くなるのだった。
「いえ、俺も運ぶほうを……」
「ダルマ印刷のバイトくん、仕事熱心だね。大学生だろ。うちに就職しない?」
 この会社は自動車部品の下請け工場だ。なんとなく気にかかる彼女の兄のひとりが言い、繁之はもごもごと応じた。
「は、はあ、えーと……」
「ま、考えておいてよ」
 もしかしたらそれもいいかも。でも、そうするとこの女性と同僚に……? 今はまだ名も知らない彼女の身近で働くのかと思うと、それだけで繁之の頬が熱くなってきた。
 

 四年生のふたりの就職が決まり、いよいよ俺たちの番だと英彦は思う。春になれば就活一色の生活になるのだろうから、その前に彼女がほしい。
 英彦の趣味ではないにしても、サミという彼女のいる尚吾は楽しそうだ。故郷の女の子と遠距離でね……と照れた顔をして言っていた國友も、最近は表情がひどく明るい。俺にも彼女、できましたよ、と言っていた章もうきうきして見える。
 隆也と真次郎は彼女どころではなかったのだからやむを得ないとして、彼女のいない他の奴らは、繁之も強二もすすけている。幸生はすすけてはいないが、変態チックな奴は計算に入れないでおこう。
 となると、やっぱり彼女がいてこそ青春やきに。
 そうはいっても、彼女というものはおいそれとはできない。女の子に恋をして、その子に告白してOKしてもらってつきあえば薔薇いろなのだろうが、英彦には恋をしている女の子はいない。大学だのバイトに行った先だの、近所のコンビにだのに気になる子がいたこともあるが、恋愛気分ではなかった。
 高校生までの英彦はけっこうもてたのだから、積極的に好きになる女の子を探してアタックしたら、彼女だってできただろうに、そうしてこなかったのが今さら、悔やまれる。
「となると……ナンパだな」
 経験はあるので、別段むずかしくもないだろうと思える。繁之がバイトに出かけたあとで、英彦も外に出た。
 寮が建っている地域にも小さな繁華街はあるものの、こんなところにはろくなカフェもレストランもホテルもない。バスに乗って全国的にも有名な繁華街へと出ていかないとナンパもできないか。あまり寮の近くでやるのもなんだしな。
 そのつもりでバス停へと歩いていた英彦は、足を止めて首をすくめた。悪い相手に会ってしまったものだ。
「本橋さん、こんにちは」
 無視するわけにもいかなくて声をかけると、真次郎は片手を挙げて歩み寄ってきた。
「よ、ヒデ、どこかに行くのか?」
「えーと……本橋さんもやります?」
「なにをするんだ?」
 口の動きで、ナ、ン、パとやると、真次郎は眉をしかめて言った。
「半端? どういう意味だよ?」
「最初の「ハ」を「ナ」に変えて下さい」
「……難破船か?」
「もういいです」
「おい、なに怒ってんだよ」
 こんな鈍感男とつるんでナンパしたりすると、俺までが調子が狂う。お、だけど、あの子、可愛いな。どうせ寮長に会ってしまったのだから、毒食らわば皿までだ、英彦は思い切って、街角に立っている女の子に声をかけた。
「彼女、お茶しない?」
「……やっ、やだっ!!」
 真っ青になった女の子が、口を両手で覆って後ずさりする。ナンパごときでこうも激烈な反応を示さなくてもいいだろ、と呆れている英彦の前で、彼女は声を上げて泣き出した。


 あっちでもこっちでも寮生たちが、彼女ができたの遠距離恋愛だのと言っている。お互いの合意のもとで男と女がつきあうのはいっこうにさしつかえはないのだが、英彦のこの行為は止めるべきだったのだろうか。
 ハンパではなくナンパ、英彦が行動に移したので、真次郎もさきほどの彼の口の動きを理解した。
 真次郎は英彦の行動の一部始終を見ていた。一部始終というほどの複雑な行動ではなくて、小柄で可愛い女の子に英彦が声をかけ、彼女が顔面蒼白になって泣き出したというだけだ。ナンパされるのがそんなにもいやだったにしても、泣かなくてもいいとは思うのだが。
「ヒデ、おまえは背が高くて胸のでかい……いや、そんなことを言ってる場合じゃないか」
「ナンパしてお茶を飲むだけだったら、背が高くなくてもいいんですけどね……いや、ほんと、そんなことを言ってる場合じゃないですよね。泣かないで」
「泣かないで。こら、ヒデ、あやまれ」
「あ、ああ、ごめん。ごめんね。あやまるから泣かないで」
 ふたりしてなだめようとしても、女の子はしくしくやるばかり。泣きじゃくりながらなにか言っているので耳を澄ませてみて、真次郎は彼女の言葉を聞き取った。
「隆也? 乾隆也か?」
 彼女は、タカヤ、タカヤ、助けて、と繰り返し言っている。真次郎が、乾隆也? と問い質すとこっくりした。タカヤという名はさして珍しくもないだろうが、乾隆也となると、あいつか、と思い当たるのは当然だった。
「きみの名前は?」
「ミモ」
「ミモって……名前ってよりもニックネームかな。なんだっていいけど、高校生?」
 今度は首を横に振る。年齢としては高校生くらいに見えるのだが、もっと幼いのか。えーんえーんと泣いている姿は幼児のようでもあった。
「どうしようか。あの店にでも入ってあやすしかないのかな」
「俺は女の子をあやすなんて苦手ですよ」
「おまえが泣かしたんだろうが」
「お茶を飲まない? って言っただけですって」
「それは俺も聞いてたけど……あ、あーっ!!」
 すこし離れたところにある小さなスーパーマーケットから、乾隆也が出てくる。彼とは別の方向から、犬のポチのリードを引いた三沢幸生も出てくる。この隆也とミモが口にしたタカヤが同一人物ならば、真次郎はとりあえず安堵してもいいのかもしれなかった。

 
およそは知っていた事情を統括してみれば。あとの七人は放っておいてもいいと幸生には思える。
 クニは彼女ができてハッピィ。どうも彼女は「遠距離恋愛」というフレーズに恋しているような気もするが、だとしてもしばらくは楽しくやっていけるだろう。
 章は女の子にふられたらしいが、そんなのはあいつは慣れているだろう。
 尚吾とサミはあれでいい。シゲさんには好きな女の子がいるようだが、恋になっているのかそこまでも行っていないのかという段階なのだから、お節介はまだ早い。
 強二の傷心は自ら乗り越えるしかなくて、ヒデさんと本橋さんは特に問題はなし。大問題は乾さんだ。幸生には読み取れない各自の気持ちの部分についてはポチにいくぶんかは頼って、幸生はそう結論を出した。
 女性禁制というほどの規則はない寮の食堂に全員が集まって、ミモと隆也の話を聞いている。ポチも幸生の膝で小首をかしげて話しに聞き入っていた。
「ミモは両親とおばあちゃんと暮らしていて、先ごろ、おばあちゃんがみまかられたそうなんだ。両親はミモにはつめたくて、おばあちゃんだけが可愛がってくれた。そんなおばあちゃんが亡くなって寂しくなって、家出してきたんだそうだよ」
「隆也もおばあちゃんっ子だったんだよね。ミモの気持ちはわかるって言って、ミモに柿を買ってくれたの。おばあちゃんが作ってくれた干し柿、おいしかったな。この柿はあんまりおいしくないよ」
「柿はいいんだけど、そりゃあもちろん、高校生が家出してきているのを見過ごしにするわけにはいかないだろ。家に帰らせるのが筋だよな」
「やだっ!! ミモは帰らないっ!!」
 ポチと散歩していた幸生は、脚の向くままに歩いていて隆也を見つけた。隆也はなぜだかどこかの屋敷の塀に登っている女の子を抱き下ろし、彼女とふたりして歩き出したのだった。
「柿、買ってあげるよ。おまえはどこから来たの? 高校生だろ」
「ちがうの。ミモは高校はやめたんだもん」
 透明人間と透明犬になったのは、ポチの魔法による。気配も感じなくなっていたのか、隆也には気取られずに尾行ができた。
 尾行している間に、隆也はミモに彼女の事情を聞き出していた。幸生もその話は聞いたのだから、ミモが今、ここで話しているのと同じだと知っている。ポチもテレパシーで、ミモは嘘はついてないみたいだよ、と教えてくれていた。
 一度だけ、幸生は隆也の金沢の親の家に連れていってもらった。上品な紳士淑女のような隆也の両親は、ミモの両親と似たタイプの親だったらしい。
「大人になれば両親の苦労もわかるようになったけど、ガキのころには親父もおふくろも好きではなかったな。俺はばあちゃんっ子だったんだよ」
 そんな隆也なのだから、ミモに同情してしまったのか、感情移入したのか、なのは無理もないと幸生にも思えた。
 寮から最寄のバス停近くにあるスーパーマーケットに隆也が入っていき、柿を買っているのを、ミモはたたずんで待っていた。そこに近づいてきたのが英彦と真次郎で、英彦が声をかけると、ミモは真っ青になって泣き出したのだった。
「ポチ、もとに戻せる?」
「もちろんだよ。隠れて。うん、幸生くん、今なら大丈夫」
 自覚症状があるわけでもなく、ポチがもとに戻ったと言うのを信じるしかなく、透明ではなくなった幸生とポチは彼らの前に出ていき、隆也もスーパーマーケットから出てきた。
 じっくり話を聞くのならば、寮に連れていくしかない。夕食どきになっていたので今日は全員が帰寮していて、食堂に集まって隆也とミモの話を聞いている。ミモは隆也に頼り切っている様子で、幸生の心はもわもわっとしていた。


3

 諍いばかり起こしているくせに、喧嘩はしてもしても、丈人と夕里はいつの間にかもとに戻って睦まじくしている。男と女の仲は不思議だと準は思う。
 では、男と男の仲はどうなのだろうか?
 ごく普通の友達同士ではない。礼仁と準は恋人……といっていいのか。男と男だって恋人ならば、ベッドに入るのが当たり前なのか。キスは許したのだから友達ではないし、この感情は普通の男が年上の男に抱く種類のものではないと、準だって自覚している。
 けれど、恐怖心が強すぎて、準は礼仁とベッドで抱き合うことは拒んでしまう。礼仁はおおらかな心と、準への愛情で受け止めてくれていると信じていた。
「肉欲と恋情は別だよ。俺は肉欲のほうはきみ以外で満たす。きみには純愛を捧げるよ、準」
 それが礼仁の本音か。準としてはひどく心持ちが揺らいだものだった。
 だったら……僕も夕里さんのように……夕里さんのように、というのは? 夕里は星が浮気をしたと疑うと、彼女も報復しようとする。仕返しにあたしも浮気をする!! だとか、他の彼氏を作るんだもんっ!! だとか言う。
 その模倣をするのか? 僕も仕返しに肉欲のほうの浮気をする? そんなの、できっこないよ。
 愛している礼仁に抱かれるのが怖いのに、他の男なんていやに決まっている。僕は優しい男性と綺麗な恋がしたいんだ。
 大学生にもなっているのだから、準にだってそんなことは絵空事だとわかっている。準はおくてだから激しい性欲は感じないが、キスされたり抱きしめられたりしてうっとりするのは、性欲の幼い形なのだろう。
 ならば、礼仁さんが別の場所で性欲を処理するのを認めるしかないのか。僕は抱かれるのがいやなのだから、礼仁さんには禁欲しろってのは酷なのか。
 まるで明治時代の、精力的な夫を持つ幼妻のようなことを考えて、準はグレィッシュピンクのため息をつく。淡いグレィとピンクの靄に包まれて息苦しくなってくる。こんなときには「恋」ではなくて「友情」に浸りたい。
 気持ちの整理がつかないのもあって、このところ準は礼仁とは会っていない。肉欲はよそで満たすと言ってしまった礼仁も後ろ暗い気分なのか、連絡してこない。
 友達に会いにいこうと、準はマンションを出た。
 故郷の高校三年生だったときに、準は鷺の森大学男子学生寮に体験入寮した。当時の寮長、金子将一に不可思議な想いを抱き、そのころにはなんの自覚もなかったものだから、自分が怖くなったのもあって、寮に入るのはやめた。
 大学には合格したので、あの寮は野蛮だ、先輩たちに殴られる、ごはんもまずい、と言ったら、両親がマンションを借りてくれた。
 ひとり暮らしだと生活が乱れると、母はそんな心配をし、準もそうやって大人になるんだよ、と父は言っていた。事実、生活が母の心配とは別方向に乱れ、父の言葉とは別方向に大人になりつつある。そんな準には友達はきわめて少ない。
 男の恋人がいるなんて知られたくないし、変態だと思われたくないし、どうも同じ大学の学生とは気が合わないし、なのだから、友達といって思い出すのは酒巻國友だ。國友とも長く会っていないので、メールで近況報告がてら、誘うことにした。

「クニちゃん、久し振り。元気にしてる? 僕も元気だよ。
 言いにくいんだけど、思い切って言ってしまう。もしかしたらクニちゃんは知ってるかもしれないけど、僕には恋人ができたんだ。うん、男性だよ。

 だけどね、彼、浮気なんだよね。
 浮気っていうのか、僕が子どもだからかもしれなくて……わかんないよ。僕はどうしたらいいのかわからないよ。

 だって、僕はまだ怖いんだもの。クニちゃんは男同士のセックスって……怖くない? 怖いだろ。
 だからね、彼が浮気をするのは許すしかないのかな。頭ではわかっていても、そんなのいやだって言いたがる僕もいるんだよ。

 ごめん。こんな話はしたくないんだ。自分から書いておいて勝手だけど、僕の彼氏のことは忘れて。
 今日は休みでしょ? 会わない? クニちゃんと会って、高校生のころみたいに楽しい話をしたいな。出てこられる?」

 体験入寮の際にはじめて会った同い年の國友。身体の小さい準よりももっと小柄で、準といささか似た気弱体質。それでも國友は準よりは強かった。
 彼は寮に入り、あの荒っぽい先輩たちに鍛えられたのだろうか。同じ大学にいても生活基盤がちがってしまって、準には普通ではない暮らしまでもがあるものだから、國友とはめったと会う機会もなくなっている。
 それでも二、三度は会っているので、ふたりともに知っているカフェで何時に、とのメールを送ると返信があった。了解、のひとことと、國友、の署名を見て、準はすこしだけ明るい気分になれた。


 寮でも学校でも先輩だった藤原礼仁。彼に少年趣味があるとは知らなかったが、というよりもバイセクシャルか。
 恋愛や性的な方面の嗜好は完全に個人の自由だ。当事者同士が満足していれば、他人がくちばしをはさむ必要はない。権利も義務もなんにもない。けれど、当事者のかたわれが将一とは縁のある未成年となると、相談にくらいは乗ってやりたい。
「あれ? クニちゃん?」
 彼氏についての悩み相談をしたいようでいて、そんな話はしたくないと書いたメールは、準が國友に宛てて送ったものか。発信するときにミスをして、将一に送ってしまったらしい。
 準の恋人が藤原礼仁だとは、将一だって知っている。準と礼仁と丈人と夕里が夏にホテルに逗留していたときには、将一が便宜を図った。四人がプールサイドにいるところに國友を連れて顔を出し、夕里の下手な芝居に白けた記憶も新しい。
 あの礼仁さんだと、準も苦労するだろうな。礼仁さんのほうも苦労はしているんだろうけど、楽しくもあるのだろうし、彼は大人なのだから大丈夫。
 だが、準のほうは……文面にも苦渋がにじみ出ているではないか。
 どうしようかと迷ったものの、将一は「了解、國友より」とだけ書いたメールを準に返信した。差出人を確認して将一だと知ったら、準が出てこない可能性も大だが、そうなったらそうなったときのことだ。
 冬が近くなっている街に出ていって、将一も幾度かは来たことのあるカフェに先に到着して準を待つ。大学からも寮からも比較的近い店だから、将一もここでデートをしたり、先輩や友達と議論をしたりもした。
「礼仁さん、もてるでしょ」
「ああ、もてるよ。おまえだってもてるだろ、金子?」
「礼仁さんや星さんほどじゃないでしょうね」
 他愛もないそんな話しを、先輩の丈人や礼仁としていたのが思い出された。
 寮は男子のみだが、大学には女の子もいる。この店で男子も女子も大勢で、お茶を飲んだり食事をしたり、ケーキを食べたり笑ったり喋ったり、あの隅で女の子を口説いていたのは礼仁だったのでは? 記憶を探ってみれば、礼仁は決して男にしか興味がないわけではないと確信できた。
 カモフラージュとして女の子を口説くような奴ではない。とすると、礼仁の浮気相手はどっちだ? 将一が悩んでいると、カフェに女の子が入ってきた。
「やっぱり将一さんだ。背中が見えたから追っかけてきたんだよ」
「夕里。久し振り」
 彼女が高校生で将一は大学生だった年に、夕里は将一の両親が経営する家具店でアルバイトしていた。そのときに知り合ってなつかれて、兄妹のように親しくしていた。
 夕里は鷺の森大学を受験して不合格になり、別の女子大に入学した。一時、現寮長の本橋真次郎とつきあっていた夕里は、真次郎に連れられて寮の同窓会にやってきて、それから星丈人と交際するようになったのだ。
 ガキっぽくもあればじゃじゃ馬でもあり、わがままで奔放で自分勝手で、将一はたびたび、好きにしろ!! と突き放したくなった。なのに妹視は消えないから、気にかかる。放っておけないという意味では、準と夕里は似ていた。
「星さんとはどうだ? わがままばかり言ってるんだろ」
「わがままなのは丈人さんだもん。もう別れるんだからいいの」
「別れるって、何度言ったんだよ」
「今度は本気だよ。将一さんには彼女はいるの?」
 今春に就職したばかりの新米社会人としては、将一は彼女がどうのと言っていられる立場ではない。しかし、いないと言うと食いついてこられるのはよく知っているので、言った。
「いるに決まってるだろ」
「夕里よりも可愛い?」
「可愛いというよりも、大人で美人で、尊敬できる女性だよ」
「恋じゃなくて尊敬? そんなのが楽しい?」
「尊敬と恋の両方だよ」
「嘘だぁ。将一さんってそんな女よりも、夕里みたいのが好きなくせに」
 よくも言ってくれるもんだ、ではあるのだが、一面は真理かもしれない。
 駄々っ子の妹のような年下の女の子をもてあましつつも、怒りつつも可愛いと思う。頼りない泣き虫の少年を叱咤しながらも、完全には突き放してしまえない。
 そういう気質だからこそ、年下のわがままな少年や少女に慕われてくっついてこられる。辟易している部分もあるにはあるものの、おまえら、いい加減にしろよ、でも、しようがないな、放っておけないな、ああ、いいよ、俺がどうにかしてやるよ、気分もある。
 この性格は金子将一と乾隆也の共通点だろう。
 本橋は気質がちがっていて、あのほうが寮の代表としてはふさわしい。将一はどちらかといえば隆也のように、副寮長のほうが適任なはずだが、去年は四年生は将一だけしかいなかったのだから致し方なかった。
 乾、おまえもこうやって年下の奴らに困らされているんだろ? 俺もさ、そのくせさ、楽しくなくもないんだから、どうしようもないよな、であった。


「後編」に続く


 



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