ショートストーリィ(しりとり小説)

15「ぶるーす」

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しりとり小説15

「ぶるーす」

 誰に言ってみたところで、それってなに? だったり、へぇ、だから? だったりするのに、あいつはちがう反応を示した。

「なんていうグループだったの?」
「知らないでしょ。私だって親父がそうなんじゃなかったら知らないもん。有名なグループサウンズじゃないからね」
 いいから言えよ、とエーキチが言うから、教えてやった。

「スターマンズ。言ってて悲しいよ。ネーミングがださい。古臭すぎる」
「古いんだからしょうがねーじゃん。ふーん、スターマンズか」
「知ってる?」

「知らないよ」
 あっさり知らないと言っておいて、逆にエーキチが尋ねた。

「じゃあ、イェロージェッツって知ってる?」
「知らない、なにそれ?」
「俺の親父のいたグループサウンズ」
「……えっ?!」

 そのころに生まれた人間でさえもが中年になっているという時代に、グループサウンズというものが一世を風靡した。ださい服装の田舎の兄ちゃんたちが、ださい音楽をやっていたらスカウトされて東京に出てきて、より以上にださい服を着せられて、ヒットメーカーといわれる作詞家や作曲家が作った歌を演奏して歌った。

 本格派もちょびっとはいたのだそうだが、大半は田舎のロック好き兄ちゃんたちの集団。当時のロックはロカビリーだとか、テケテケテケとかいうものだったのだそうだ。

 グループサウンズ、通称GSは突然うようよ沸いて出てきて、一大ムーヴメントを巻き起こし、ぱっと消えたのだと私の親父は言う。ものすごーく人気のあった奴だとか、才能のあった奴だとか運のよかった奴だとかは、音楽業界で生き残っているのだそうだ。

 私の親父は才能のあった口だそうで、GSとしてはそれほど有名でもなかったにも関わらず、四十年以上先の今になっても評論家として生き残っている。親父のそんな話は、子供のころにはけっこう楽しく聞いていたものだった。

 若いころにグループサウンズにいたという男は、それだけたくさんのグループがあったのならどこにでもいそうなものだ。その彼らの子供だってうようよいそうなのに、私は自分と同じような親父を持つ人間に会ったのははじめてだった。

「それで、エーキチも音楽をやってるの?」
 ライヴハウスで何度か会っているうちに親しくなって、ふたりきりで別の店にやってきたエーキチ。本名なのだかどうだかは知らないが、ひょろんと背が高くて、ミュージシャンっぽい男ではあった。

「やってるけどさ、俺がほんとのことを言ってると思う?」
「私と同じ境遇だって?」
「そうだよ。調べればじきにわかるんだから、嘘は言わないけどね」
「どっちでもいいよ」

 女の子の関心を引きたくて、俺の親父はおまえの親父と同じ業界の出身だって? そんなナンパもあるのだろうけど、どっちでもよかった。

「俺はブルースギターを弾くんだ。ロックなんて興味ない。ブルースが好きなんだよ」
 どっちでもいいと言ったら、それもそうだな、とうなずいて、エーキチは言った。

「ロカビリーだのベンチャーズだの、エレキギターだのなんだのって、親父の時代には新しかったんだろうけど、アコギのほうが新しいよ」
「ブルースギターってアコースティックなの?」

「ブルースロックとかってのもあるけど、俺はアコギだよ。俺んち来る? 聴かせてあげるよ」
「ずいぶんと昔、あたしが二十歳のころにね……」
「二十歳のころったらそんなに昔じゃないだろ」
「昔なの。黙って聞けよ」

 子供のころには好きだった親父が嫌いになったのは、高校生になったあたりから。おっさんなんてものはただでさえ大嫌いなのに、おとなしい母親をないがしろにして浮気をしたり酒や博打にはまっていたりする親父は、顔も見たくないと思うようになった。

 もとはグループサウンズにいたからって、そんなものを餌に釣られる女もいるようで、虫唾が走る。なのに私もいつの間にか、親父に似た遊び人女になっていた。

 親父と喧嘩して家出をした二十歳のころ、大雨にずぶ濡れになっていた私を拾った男がいた。一週間、私は彼のマンションで暮らしていたのだから、彼が何者なのかもわかっていた。一週間たって彼のアパートからも家出して、家に帰ったらまたまた親父と喧嘩になった。

 もう一度家出してやろうかと部屋に戻ってラジオをつけたら、私を拾った男の声が聞こえてきた。彼の番組が聞きたくてラジオをつけたのだった。

「我々にも近くGSカバーアルバムを出そうって企画があるんですよ。フォレストシンガーズのみでやるか、ロックバンドに演奏してもらってコラボとしゃれるか、って企画段階なんですけどね、レアな曲も入れたいな。俺にとっては意味がないでもないスターマンズって、みなさん、ごぞんじですか? 評論家の秋月星さんが、スターマンズのヴォーカルのセイト・アキバだったとは、秘密事項でもないから言ってもいいんでしょうけど、知るひとは少ないでしょうね。それでね、俺は秋葉さんの娘さんとちょこっとお話ししたんですよ。そういう意味でも関係はなくもない。スターマンズの最大ヒット曲の「スターライトラヴァーズ」、歌いたいなぁ。でも、マイナーすぎるかなぁ。考慮中です。では、歌に参りましょう。テンプターズの「雨よふらないで」をどーぞ」

 GSの中でも一、二を争うトップグループだったテンプターズだったら、私だって知っている。親がGSと無関係な若い子だって知っているだろう。

 どうしてここでテンプターズ? だったのだが、それはともかく、秋月星の娘といえば私だ。家出娘の私を拾った男が彼、フォレストシンガーズの三沢幸生。内緒にしていたのに、知られてしまっていたらしい。

「ってなことがあったんだ」
「フォレストシンガーズって名前はなんとなくは知ってるけど、メンバーまでは知らないよ。その三沢がどうかしたのか?」

「私の理想のタイプなんだよね」
「そんなにかっこいいの?」

「そうじゃなくて、拾った女を部屋に住まわせて一週間、三沢さんはいっつも遅くに帰ってきた。仕事だったそうで、ごはんも食べてきてあとは寝るだけ。ひとりずつで別々に寝てたんだよ」

「……それが理想か」
 わりに鋭い性格らしく、エーキチはうなだれてみせた。

「三沢ってインポなんじゃないのか」
「ちがうよ」
「そしたらホモだ」
「ちがうって」
「年寄りなんだろ」

「そこまでの年じゃないよ」
 上目遣いで私を見て、エーキチは言った。

「愛子はブルースってよく知らないだろ」
「興味ないから知らないな。私が好きな音楽はフォレストシンガーズの歌だけだよ」
「今の俺の心境が、まさにブルースなんだよ」
「へ?」
 さっぱり意味がわからないから、その意味を知りたくなってきた。

次は「す」です。

「主人公について」

蛇足ながら、小さなストーリィの各主人公について補記しておきます。
15はずいぶん昔だと彼女も言っている通り、ずいぶん昔(実は二、三年前)、彼女が言っているシチュエーションで幸生と触れ合った、ゆきずりの捨て猫ちゃんです。
小説125「雨よふらないで」の後日談みたいなものです。



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