ショートストーリィ(グラブダブドリブ)

グラブダブドリブ「AD1999」

 ←14「グラブダブドリブ」 →「We are joker」9
グラブダブドリブ

「AD1999」

 そうだ、もうじき地球は滅亡するんだ。だから真摯に生きなくてはいけないのか、ちゃらんぽらんに生きたところで同じさ、なのか、判断がつきかねていたあのころ、俺は小学生だった。

「もしもこの世に終わりが来て
 夢も語れない時代が来ても
 おまえだけは離さない」

 そんな歌があったっけ。ん? だけど、この世に終わりが来たら、夢も語れない時代も来ないんじゃないのか?
 
「どれだけ叫べば届くのだろう
 どれだけ走れば見えてくるのだろう
 孤独という名の滑走路から
 飛び立つためにおまえがほしい」

 そして、1999年はなにごともなくすぎ去り、俺は今、生きている。地球も存続している。時代がよくないほうに向かっていると言われても、過去を知らない俺には、そんなもんかな、ってところだ。

 歌の文句の、おまえだけは離さない、おまえがほしい、の「おまえ」は、愛する女なのだろう。
「おいでよ、この胸に、熱く抱いてあげよう」
 なんて歌ってたもんな。

 恋なんか知らなかった。そんな気持ちも知らなかった。だけど、愛するひとがいたらそうなるのかな、いいかもな、とは感じていた。

「麻穂ちゃんも信じてた?」
「世紀末の話しだね。1999年に空から恐怖の大王がおりてきて、ってやつ? アキは信じてたの?」

「信じてたっつうか」
 どうだったんだろ。本気で信じていたんだろうか。

「あたしはまだ子どもだったから、よくわかってなかった」
「俺もそうだったんだろうな」

「終末教みたいのもあったじゃない? 地球が滅亡して、人類が死に絶えても、信じていたら救われていいところに行けるの。その反対に、どうせ地球は終わるんだから、なにやっても仕方ないじゃん、なんてことを言ってるひともいたね」

 正直、俺もどっちだか迷ってたんだけど、バカにされそうなので麻穂には言えない。
 あのころほしかった愛するひとは麻穂なのだろうか。麻穂は俺のことなんかてんで眼中にもないので、恋とは呼べない。ただのガキっぽい片思いにすぎない。

 姉さんの花穂さんが俺の恩人、グラブダブドリブの悠介さんの恋人で、花穂さんはドイツに単身赴任中……っていうのかな、独身の場合も? とにかくそういうわけで、悠介さんを置いてドイツで暮らしている。麻穂は憤慨しっぱなしで、そんならあたしが悠介さんを奪っちゃう、とややマジで考えているふしがある。

 つまり、麻穂は悠介さんに恋してて、姉の恋人がらみで知り合った俺は、単なる友達だとしか思っていないのだ。

「この歌、知ってる?」
 気分が重苦しくなってきたので、俺は歌ってみせた。これでも俺も一応はロックシンガーだから、歌にだけは自信がある。

「だから、涙俺に預けて、熱い時代を駆け抜けるのさ」
 ベストオブマイラブ!! とシャウトしてみると、麻穂はくすっとハナで笑った。

「なんか暑苦しい」
「そういう時代だったんだよな」
「なに、その歌?」

「知らない? 「AD1999」っていってさ、麻穂ちゃんと話してた内容にマッチしてる歌だよ」
「ふーん」
 つまんね、と言いたげである。

 きみは俺といるといつだってしらけ加減だから、こんなこととうてい言えないけど、俺はこの歌の通りの「おまえ」を見つけたんだよ。きみじゃないよ。きみだったらもっと嬉しいんだけど、今のところはそうじゃない。

 小学生だった世紀末にはなにも見えてなかったけど、あれから俺だっていろいろと経験していろいろと考えて、俺の「おまえ」はこれだと信じた。おまえがほしい、おまえだけは離さない。ほしかったもの、絶対に離さないもの。

 なんだか教えてほしい? ほしくないだろ。だからこっそりひとりで言う。ロックだよ。今どきちょっとばかり流行遅れなのかもしれない、きみにはきっと「暑苦しい。ムキにならないの」と言われてしまいそうな、俺のロックだよ。「おまえ」っていうのは。

 まだまるきり売れてはいない。グラブダブドリブの尽力のおかげさまでデビューは果たしたものの、先もなんにも見えはしない。そういう意味ではAD1999と変わりない。だけど俺は……。

 なにを話してても温度差があって、俺って今どきの青少年じゃないのかも、と麻穂を見ていると思う。でもさ、いいじゃないか。俺は俺なんだもの。俺にとっての「おまえ」はロック。そしてそこに、麻穂ちゃん、きみも寄り添ってくれたら最高なんだけどな……言ってみても聞こえないふりするんじゃないの?

「おいでよこの胸に、熱く抱いてあげよう。
 震えるこの手で……」

 そこんとこだけは、ロックよりきみがいいんだけど……告白もしてないんだから当然、俺の想いに気づくはずもない麻穂は、古い歌なんかどうでもいいよ、と言いたげにあくびをした。

END


 
  

 
スポンサーサイト


  • 【14「グラブダブドリブ」】へ
  • 【「We are joker」9  】へ
  • Tag List 
  •  * |

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【14「グラブダブドリブ」】へ
  • 【「We are joker」9  】へ