連載小説1

「We are joker」5 

 ←小説301(第十部スタート)(あの海へ) →11「未確認MY感情」 
「We are joker」

5

 高校の入学式が終わって決められた教室に入ると、大槻優子は担任の教師に言われた。
「一年五組の生徒の中では、大槻が入試の成績はトップだったのよ。よそのクラスには大槻よりも上の子もいたけど、うちではトップだから、一学期のクラス委員はあなたで決まり」

「クラス委員ってふたりでやるんじゃないんですか」
「もうひとりは一ヶ月ほど観察して、あなたが決めて」
 いやとも言えないので引き受けて、優子はクラスメイトたちを観察していた。

 校則で生徒たちをがんじがらめにするような学校ではないので、男子にも髪の長いのがいる。女子には化粧をしたり、軽く髪の色を抜いているのもいる。別にそれしきはいいのだろうし、優子は風紀委員ではないのだから、目くじらを立てるつもりもなかった。

 髪の長い男子のひとりは友永冬紀。背が高くてほっそりしていて、甘さのある顔立ちをしている。かなり長い髪を首筋でゆるく結わえて、不良っぽい男子だった。

 風紀委員ではないけれど、不良じみた言動には注意しなくてはいけない。要注意人物だとチェックを入れていた友永が、昼休みに教室から出ていったのを知っていた優子は、昼休みが終わっても彼が帰ってこないので探しにいった。

 校庭の北には焼却炉がある。昼休みにはなんにも燃やしていないのに、近づいていってみるとかすかに煙が出ている。優子が耳を澄ませると、友永の声が聞こえてきた。

「だからさ、今から練習したら上達するって」
「俺、ドラムなんて持ってないぜ」
 応じる声はクラスメイトの武井伸也、もうひとり、松下尚の声も聞こえた。

「俺だってベースギターなんか弾けないよ」
「俺はギターが弾けるんだ。中学の文化祭でバンドを組んで演奏して、大喝采を浴びたんだよ。歌も最高にうまいんだ。おまえたちもロックが好きだって言ったろ」

「好きだけど、やったことないし……」
「聴くのと演奏するのって次元がちがうし……」
 もごもご言っている松下と武井に、友永が斬りつけるように言葉を浴びせた。

「聴いてるだけなんてロック好きだとは言わねえんだよ。男はロックが好きならバンドを組むべきだ。そんなこともできない奴は負け犬だよ」
「負け犬ったってさ……なんで俺はドラムなわけ? ドラムってもっと身体の大きい、パワフルな奴がやるんじゃないの?」

「いいや。俺の直感が告げてる。武井はドラムがふさわしい。持ってないにしたってみんなでバイトして、中古の楽器を手に入れようぜ。俺はギターだったら持ってるんだ。兄貴が買ってくれたんだよ」
「うちの兄貴、ベースギターは持ってるよ」
「ほんとかっ、松下? そしたらなおさらだよ。そうしよう、そうしようっ!!」

 う、うーん、うううーん、と唸ったり、やろうぜ、なっ、と言ったりしている三人のいる場所から、かすかな煙が漏れている。優子はそこへと踏み込んだ。

「昼休みは終わってるよ」
 焼却炉の裏のスペースに三人がすわっていて、武井と松下は慌てて煙草を隠す。友永は不敵に笑って、ごろんと寝そべった。

「おまえだって昼休みが終わってるのに、さぼってるんじゃねえかよ」
「私はさぼってないの。クラス委員の義務として、校則違反を止めにきたのよ」

「バンドを組んで練習して、文化祭に出ようってのは校則違反か? うちの学校ってそんなにきびしくはないんだろ」
「そうじゃなくて、それ!!」
 ただひとり、吸い続けている友永の手の中の煙草を指さすと、彼はにたにた笑って言った。

「もうちょっとこっちに来て、取り上げてみな」
「……先生に言いつけられたくなかったら、渡しなさいよ」
 言いながら近寄っていくと、友永が優子のスカートの真下に顔を持ってきて笑った。

「お、ピンクの水玉だ」
「友永くんっ!!」
 悲鳴を上げるのはむしろ恥ずかしくて、スカートを押さえて飛びのいた優子を見て、友永はげらげら笑い、松下が友永に飛びかかって押さえつけ、武井は頭を抱えて言った。

「大槻さん、優子ちゃん、ごめんっ!! 許してやってっ!!」
 武井くんに免じて許してあげるよ、といばって言って、ふところの大きいところを見せてやったつもりだった。

 あのあと、三人の男子高校生はロックバンドを結成して、アルバイトをしてドラムセットも買ったのだろう。優子は詳しくは知らないが、文化祭で「ジョーカー」がサイモンとガーファンクルの歌を演奏して歌ったのは鮮やかに覚えている。

 三人の美しいハーモニー、豪語するだけあってなかなかに達者だった友永のギター。リズムセクションは危うげではあったが、形にはなっていた。
「あの三人がね、プロになったんだね」

 一年ほど前にデビューした「ジョーカー」は、高校時代のまんまのメンバー構成だ。
 ヒット曲が出たとの情報もなければ、テレビに出るだの話題になるだのといった話もない。それでもがんぱってはいるのだろう。私も音楽に関わる仕事がしたいな、と優子が思うようになったのは、回り回って考えれば、あの三人と高校一年生で同じクラスになったからかもしれなかった。

つづく






スポンサーサイト


  • 【小説301(第十部スタート)(あの海へ)】へ
  • 【11「未確認MY感情」 】へ
  • Tag List 
  •  * |

~ Comment ~

大槻優子ちゃんは、またまた初登場の子ですね。
おお、登場人物が、どんどん増えて行きますね。
彼女も彼らと関わっていくのかな?
しかし、冬紀って、昔からこんなヤンチャな子だったんですね^^;
なるほど。

limeさんへ

すみません、また増えてます。
これからももうちょっと、登場人物は増える予定です。

私の中ではこのストーリィは、冬紀たちが三十歳くらいになるまではできているのですね。
そこまでどうやって持っていこうかと悩みつつ書いていると、こんなはずじゃなかったのに……だったりもして。

冬紀はもとからやんちゃな子で、彼に一番苦労させられているのは武井伸也くんです。

このストーリィの更新はゆっくりになると思いますが、これからもよろしくお願いします。
ありがとうございました。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【小説301(第十部スタート)(あの海へ)】へ
  • 【11「未確認MY感情」 】へ