連載小説1

「We are joker」1 

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連載小説

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「We are joker」

1

 三人ともにどうにかこうにかもぐり込んだ大学をやめてしまったのは、プロのロックバンドは大学生活の片手間にやれるものではないとの、真面目な気持ちからだった。

 デビューしたからといってじきに売れて忙しくなるなんて、甘い考えを持っていたつもりはないけれど、甘かったのだろう。これだったら大学に通いながらだって十分に仕事ができるってか、仕事なんてろくにないってか、伸也の口からはため息ばかりがこぼれる。

 友永冬紀、松下尚、武井伸也が知り合ったのは高校一年生のときだったから、あれから五年以上になる。全員が二十歳の年にベテランシンガーの悠木芳郎に認められてデビューしたものの、アマチュアとどこがどうちがうんだ、といった仕事しかなくて、収入もきわめて乏しい。

 バイトでもしないと生活できないかと、暗い気分で起き出して冷蔵庫を開ける。今日も仕事はなくて、冷蔵庫の中もほとんど空っぽだった。
「おーし、バイトしよう」

 財布の中もほぼ空っぽ。貯金箱も割ってしまったし、親に頼るのは絶対にいやだ。求人情報誌を買うのも惜しいので、ハローワークに行くことにした。
 電車に乗る金も惜しくて徒歩でハローワークにたどりつき、パソコンで求人検索をする。二十一歳の大学中退者でもアルバイトの口だったらあるのだが、週に何回、何時から何時までと決められる仕事はできない。
 フリーターではないのだから、バイトを探すとしても厄介だ。伸也の都合のいい日、時間に働きにくればいいと言ってくれる職場はありそうになかった。

「すみません、お待たせしました」
 不況のおりから、求職者はハローワークにも大勢足を運んでいる。パソコンの順番待ちをしている人々に頭を下げて出ていこうとしていた伸也は、彼をじっと見ている女の子に気がついた。

「ああ、えと、きみは……」
 名前は知らないが、顔は知っている。伸也が金に余裕のあるときに行く、ケーキ屋でアルバイトしている女の子だ。

「あの、きみは……ええと……」
「こんにちは、あの、私を覚えててくれたんですか」
 彼女も伸也を知っていてくれるようなので、誘ってみた。

「歩いてここに来たもんだから、時間が経っちまったよ。お昼、一緒にどう? きみも求職?」
「っていうのか、待ってる人はたくさんいるし、まだ時間がかかりそうですよね。よろしかったら……あの、私、西谷っていいます」
「俺は武井。うん、行こうよ」

 近くのビルまで歩く間も、ハンバーガーショップで昼食を買い、ふたりで腰かけて食べている間も、伸也ばかりが喋っていた。

「西谷さんはバイトはしてるでしょ? 大学生なんだね。もっといいバイトを探してるとか? いやなことでもあってやめたくなったとか? あまり詮索したらいけないかな。俺もバイトを探しにきたんだけど、甘かったな」
「甘い?」
「俺、これでも一応はロックバンドのメンバーなんだ。プロなんだよ」
「へーっ?!」

 背丈は標準よりもやや低く、メガネをかけていて、金がないのでおしゃれもできない伸也は、西谷には大学生に見えていたのだろう。意外そうな顔をしていた。

「だからさ、バイトったって決まった時間には働けないことが多いんだよ。急な本業のほうの仕事が入ったりするから」
「なんていうバンドですか?」
「ジョーカー。ジョーカーってのは切り札でもあるし、ババでもあるんだよね。俺らはババのほうのジョーカーだよ」
「……ジョーカーっていうんですね」
「知らないでしょ」
 こっくりする彼女に質問した。

「西谷さんって何歳?」
「短大の一年生だから、十九歳です」
「俺は二十一。敬語なんか遣わないでほしいな」
「でも……」
「ま、ゆっくりでいいか」
「ゆっくり?」

 ゆっくりとなにをするのか、言った当人にも意味不明だったのだが、西谷はこころなしか赤くなっていた。
「私、西谷恵似子っていいます」
「俺は武井伸也、恵似子ちゃん、よろしくね」
 西谷恵似子の色白の頬が、さらに赤くなっていた。


つづく
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~ Comment ~

あ、これは新連載ですか?
どれかのお話の、続きとかではないのですね?

バンドのメンバーの一人の、恋の物語でしょうか。
どんなお話になるのか、楽しみにしていますね^^

limeさんへ

はい、新連載です。
まったくちがったお話、とはいってもロックバンドなのでワンパターンなんですけど、私が昔から書いているジョーカーをメインにして、新しく連載をはじめました。

私のブログの小説はひとつずつが長いので、みなさまがやっておられるような連載形式もやってみたいなと思ったわけなのでした。

いきなりこうやってはじめたら説明不足ですよね。
ちょっと、前書きみたいなのも考えてみます。

私の中には昔からいる「ジョーカー」のお話ですので、長くなるかもしれません。
ゆっくり更新させていただきますので、よろしくお願いします。

NoTitle

ロックバンドと聞き、こちらを読ませてもらうことにしました。

プロで成功するのは、私たち素人が思っているよりきっと難しいことなんでしょうね。

楽しみにしています。

ヒロハルさんへ

お越しいただいて、コメントもいただいてありがとうございます。
ヒロハルさんのサイトにもお邪魔しているのですが、なかなかコメントできなくてすみません。

ロックバンドとはいっても知識が半端なもので、半端なストーリィですけど、読んでいただけるととーっても嬉しいです。

昔々に書いたものが私の頭の中に残っていて、キャラたちに、俺たちも出せ、出せ、出せとせっつかれて、今になってまとめて書き直しているものです。

ゆーっくり更新していますので、ゆーっくりお読みいただいて、ご意見などもお寄せいただければ幸いです。
よろしくお願いします。

こんばんは!

やっと今夜はパソコンが使えると思い、ゆっくりお邪魔しました。
We are joker せっかくですので、初めから読ませていただこうと思います。またぼちぼち感想も書かせていただきます。ご迷惑かもしれませんが、よろしくお願いします^^

少し過ごしやすくなりましたね^^

美月さんへ

インターネットの調子がよくないのですか?
それって不便ですよね。
スムーズに使えるようになるよう、私も祈っております。

台風が近づいているせいもあるのか、ここ三日くらい、大阪は残暑がひどいです。全然すごしやすくないのです(;O;)

「今年の秋は残暑もなくしのぎやすいですね」
というメールがケータイの会社から来ましたが、どこが?! どこの地方の話や?! ってなもので。

秋になると一年があっという間に終わってしまうし、プロ野球も終わるし(阪神は弱いし)、その上こんなに暑いしで、なんだかしんどいです。

長々とつまらないことを書いてすみません。
ジョーカーも読んでいただけるそうで、ありがとうございます。
迷惑だなんてとんでもございませーん。またご感想をお待ちしていますね。



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