番外編

番外編89(異・水晶の月8)《特殊編3・美月さん》

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注意・BLの類似品ふうですので、そのたぐいがお嫌いな方は避けて下さいね。

   美月さんが創作なさったポチをお借りしての、「異・水晶の月7」の続編です。

   http://niji-noshima.cocolog-nifty.com/sora/2009/06/post-3e1a.html

美月さん、ありがとうございました。



番外編89

「異・水晶の月・8」

1

 人間の中に混ざって生活しているのだし、僕は魔法使い犬なのだから、人間の気持ちはわかるはずだとポチは思っている。わかるはずなのに全部は理解できないのは、ポチが子供だからだ。
 どこで生まれてどう育ったのか、ポチの記憶にはない。気がつくと宮田さんちの犬になっていて、おじいちゃんに散歩に連れていってもらったり、ごはんをもらったり、愛犬しつけ教室というものに連れていかれたりするようになっていた。
 普通の犬だったころの記憶もあるが、魔法使いとして目覚めてからの記憶のほうがはるかに鮮明になっている。
 公園で知らないおじさんに頭にボールをぶつけられ、大学生の三沢幸生さんが助けてくれ、おじいちゃんが心配してお医者に連れていってくれた。お医者さんは大丈夫だと言ってくれて、家族がみんなで喜んでくれた。
 僕は大丈夫だけど、なんか変だな。なにが変なのかな? ポチは数日考え続け、結論を出した。僕は魔法使いだ。魔法が使えるんだ。
 でも、万能ではない。できることとできないことがある。これはできる、あれはできない、そう教えてくれているのは誰? 僕の記憶の中にいるご先祖さまなのだろうか。魔法使いとして目覚めてから意識するようになった自分の姿と同じ、茶色の犬がポチにさまざまに教えてくれているのだった。
 魔法使いだと自覚させた直接の原因はあのサッカーボール、蹴ったおじさんだったのだが、あいつは子供も大勢いる公園でボールを蹴る悪い大人だ。だからあのおじさんには感謝してやらない。ボールが頭に当たった僕を抱き上げてくれた、大学生のお兄さんに感謝しよう。
 宮田のおじいちゃんが風邪を引いて、ポチ、散歩に連れていってやれなくてごめんな、と言っていたときに、幸生くんが宮田家を訪ねてきた。家族は出かけていて、幸生くんがポチを外に連れ出してくれ、僕は魔法使いなのだと打ち明けた。
 テレパシーが使えるようになっていたポチは、人の頭の中に直接話しかける。犬なのだから人間語は喋れないし、中にはポチのテレパシーをキャッチできない者もいるようだが、ポチがその気になり、相手と波長が合えば人間と話ができる。
 幸生くんは鋭敏で柔軟な精神の持ち主で、ポチの言葉を信じてくれた。お礼に願いをかなえてあげると言うと、長く考えてから彼は言った。
「女の子になりたいんだ」
 その言葉に伴う感情も、ポチには読めた。
 犬だって人間だって、恋は男と女がするもの。ポチは子犬だから複雑な事柄は理解できないが、恋というものは知っている。
 なのに、幸生くんは同じ男である寮の先輩に恋をしている。恋とはいっても男女間の感情とはややちがうようで、そうなるとポチにはお手上げ。恋は男と女がするものなのだから、女の子になって先輩に甘えたいのだから、幸生くんは女の子になりたいのだ。
 そう解釈して、ポチは幸生くんの望みをかなえてあげた。
 そのころ、幸生くんの恋する先輩、乾隆也さんには就職が決まっていて、研修のために信州に出かけていた。魔法使いは時空を超えられるのだから、女の子のユキになった幸生とポチは、隆也のいる場所までひとっ飛びだった。
 望みのかなった幸生は隆也に近づいていき、すぐさま親しくなって甘えていた。ポチだって人間に甘えるときには、その人にじゃれかかったり甘噛みしてみたりする。普通の犬だったころには公園で会った小さい子供にふざけて飛びかかって泣かれて、宮田のおじいちゃんに叱られた。
 愛犬のためのしつけ教室でも教わって、ふざけすぎてはいけないとは普通の犬だったころから知っている。ポチから見てもユキはやりすぎだった。
 ふざけているのではないのだろうが、人間の女の子とは好きな男にこうやって甘えるものか。宮田さんちの子供たちも、お母さんやお父さんに甘えてわがままを言っては叱られているから、同じようなものなのか。
 足首を捻挫していた幸生は、ユキになっても治ってはいない。隆也におんぶされて街を歩き回り、おなかがすいた、あれが食べたい、あの店はいや、わがまま三昧言い散らして、隆也に叱られて泣いているユキを見て、ポチは当惑していた。
「ポチ、駄目だろ」
 靴をくわえて遊んでいたら、おじいちゃんに叱られて叩かれそうになったのを思い出した。
「お父さん、犬を叩いたらいけないって、しつけ教室で言われたんでしょ」
「そうだったな。ごめんごめん、ポチ、叩かないよ」
 優しいおじいちゃんに叩かれそうにまでなったのは、その靴がお客さまのものだったからだそうで、あのときはポチは恐怖でいっぱいになっていた。
 叩かれるという言葉からポチが連想するのは、怖いという感情だ。だのに、ユキは隆也に叩かれそうになって嬉しかったのだと言う。あまりにユキがわがままばかり言ったから、辛抱強い隆也だって怒ったのだろう。だからユキは叱られて、いい加減にしないとひっぱたくぞと言われていた。
 ひっぱたくぞと言われて嬉しいとか、叩かれたら感じるかも? とかいうユキの発想はまったく理解できない。感じるってのはどういう意味だ? でしかないのは、ポチが子犬だからなのか。
 そうしてひととき、ユキになった幸生と触れ合って、ポチは思った。幸生くんはいい子だな、幸生くんもまだ大人にはなっていないんだね。子供同士で仲良くできるよね。これからも僕は幸生くんに協力してあげるよ。
「乾さんは春になったら卒業して、寮から出ていってしまうんだよ。もう一度、もっと長く女の子として隆也さんに甘えたいんだ。ポチ、できる?」
 再びの幸生の願いをかなえてあげて、ポチも寮で暮らすようになった。


 鷺の森大学男子学生寮には、男子学生が九名いる。
 寮長は本橋真次郎、副寮長の乾隆也とふたりが四年生。小笠原英彦と本庄繁之が三年生。三沢幸生と木村章が二年生。鈴木強二、尾崎尚吾、酒巻國友が一年生だ。
 大学関係者の記憶をちょいと操作して、幸生が休学中、そのかわりにユキが寮に入る。魔法使いには造作もないことで、まんまと成功した。ポチは寮の広い庭を自由に走り回らせてもらえるので、ユキだけではなく全員の生活を見ていた。
 真次郎さんは就職活動一直線。ようやく決まったみたいでよかったね。
 英彦さんと繁之さんはのんびりしてるけど、そろそろ就職活動もしなくちゃいけないんでしょ? そういう現実的なことには僕は手を貸してあげられなくてごめんね。
 章くんは好きな女の子がいるようだから、恋愛活動一直線かな。章さんが好きな相手は女の子でよかったね。
 尚吾くんにも彼女がいるんだよね。サミって名前のお姉さんが尚吾さんを迎えにきて、腕を組んで歩いていくのを見たよ。
 國友くんも好きな女の子ができたみたい。遠距離恋愛になるなんて悩んでた。
 強二くんは夕里って女の子に告白されたんだよね。あいつ、本気かな、って彼も悩んでた。人間って悩み多き生き物なんだな。
 人の心も読めるポチには、彼らの悩みまでが見えていた。
 隆也さんは就職は決まっていて、ユキちゃんとドライヴをしてきた。ドライヴにはポチもついていったから知っている。ユキは今回もわがままを言いすぎて、隆也さんに叱られてとうとうお尻を叩かれた。ユキは泣きながら、ポチには理解できないことを言っていた。
(感じるとかって変な意味ではないし、厚着してるからぶたれてもそんなに痛くなかったよ。でも、お尻をぶたれるってすごーくきつく叱られたってことでしょ。言われてはいたけど、ほんとにぶたれたのははじめてだもん。これでユキは隆也さんが怖くなって、甘えかかるのはやめるの。怖いだけじゃなくて、そんなところも含めて大好きだけど……)
(僕にはちょっとわかりにくいよ。僕、犬だもん)
(そうだよね、だけど、ありがとう。ユキは幸生に戻るから)
 テレパシーでかわしたそんな会話のあとで、隆也がユキの頬にキスをしたのもポチは見ていた。それから隆也が言ってくれた。
「ポチって不思議な犬だな。ポチ、ユキを連れてきてくれてありがとう」
 寮に帰ってきてから、ユキは言った。
(明日には幸生に戻るよ。ポチ、そうして)
 うん、いいよ、と答えて、人心操作も完了した。
 今夜はポチも寮ですごす最後の夜だ。むろん宮田家の人々の人心操作もしてあるので、ポチがなに食わぬ顔でおじいちゃんのところに帰れば、普通の犬としての元通りの暮らしがはじまる。その前に、やり残したことはないだろうか。
 就職が決まった真次郎さんは大丈夫。隆也さんもユキをなつかしみながら、春には新社会人となるだろう。
 下級生たちにもポチが手助けしてあげる必要はないと思えるが、ただひとり、ではなくふたり、強二と夕里が気がかりだ。今夜も尚吾とユキが話しているのが聞こえてきて、ポチは魔法使いの耳で二階の会話をキャッチしていた。
「そっか、乾さんはやっぱりきびしいな。だけど、ユキちゃんってほんとにわがままなんだから、それくらいだったら叩かれてもよかったんだよ」
「そうかもしれないけど、尚吾くんはサミちゃんがわがままだったら叱れる?」
「無理だ。俺が叱られるばっかだよ」
「尚吾くんだったらそうだよね」
「たいていの男はそうだよ。乾さんは……なんて言うのかな……ってのか、ユキちゃんは乾さんと別れても……」
「うん、大丈夫」
 明日、ユキが帰っていくとは寮のみんなも承知しているようだ。ユキは強いてであるかのように話題を変えた。
「強二くんが夕里ちゃんとねぇ……」
「ユキちゃんは夕里を知ってたっけ?」
「噂は聞いたよ。ユキなんかとは比べものにならないわがままじゃじゃ馬娘なんでしょ」
「比べものにはなるだろうけど、ユキちゃんのほうがちっとはしおらしいかもな」
 ポチは尚吾の心から夕里のプロフィールを読み取った。
「あいつも星さんにはけっこうきびしく叱られてたみたいで、そういうのも嫌いじゃないって言ってたけど、星さんが悪いんだろ。浮気なんかするから」
「浮気したってほんとなの?」
「俺は知らないけどさ。だからって自棄を起こして、よりにもよって強二とは……」
「夕里ちゃんが強二くんを好きになったからじゃなくて?」
「ちがうだろ。自棄だよ」
 噂の主の強二は寮には帰ってきていない。夕里とどこかに行ったのか。
「門限までに帰ってこないと、先輩に叱られるのにね」
「そうだよ。俺らは先輩に叱られたら、ユキちゃんがされたみたいな生ぬるいお仕置きじゃないんだから」
「叩かれるの? 乾さんに叩かれたことはある?」
「あるよ。おまえは怯懦だって叱られて殴られてから、庭を十週走らされたよ」
 幸生はそのシーンを知っているので、ユキも実は知っていて、ポチにテレパシーで教えてくれた。尚吾が強二との約束を忘れて遊び呆けていて、強二が隆也に告げ口した。隆也は尚吾を張り飛ばし、ふたりともにランニングを命じたのだと。
「強二がからんでたんだけどさ、大学生にもなった男が告げ口だなんて、って、あいつも乾さんに叱られたんだよ。後輩を叱るときの乾さんって、悔しいけどかっこいいんだよな。乾さんは就職したらじきに管理職になるんじゃないのかな」
「尚吾くんも乾さんを尊敬してる?」
「まあな」
 そうだった、この寮に於ける先輩の後輩教育は厳格なのだ。殴られるなどと聞くと怖いとしか考えられないポチは、他人事であっても怯えてしまう。テレパシーのアンテナを長く長く伸ばして、強二の存在を探ってみた。
「そんな、急すぎるし……」
 遠くから強二の声が聞こえてきた。
「夕里ちゃんだって帰らないと、お父さんやお母さんに怒られるだろ」
「あたしは平気だよ。強二って弱虫だね」
「いや、だからさ……もうちょっとつきあってからにしようよ」
「普通は男が誘うもんだよ。女の子に誘わせて断るなんて、あたしに恥をかかせたいんだね」
「そうじゃなくて……」
 このやりとりは、ポチにはさっぱり意味不明だった。
(ええ? なになに? うわ、さすが夕里)
 庭でポチが聞き耳を立てていると、ユキは気づいている。ポチが今しがたの強二と夕里の会話を転送すると、ユキが感嘆の声を上げた。
(ユキちゃん、意味わかるの?)
 ちょっとトイレ、と尚吾に断って、ユキは部屋から出ていったようだ。
(わかるよ。ポチは子供だから知らなくていいの。だけど、そうなるとお泊まりだよね。無断外泊なんかしたら強二はうんと叱られるよ。強二が電話しようとしたら、夕里がいくじなしだとか言って邪魔しそうだし……強二はためらってるんだから、夕里に襲われないうちに助けてあげたほうがいいよね。ポチ、なにかいい方法はない?)
(強二くんは先輩が怖いんだよね。乾さんに行ってもらおうか)
(それ、いいかも。強二がどこにいるかわかる?)
(うん、わかるよ)
 夕里にも会うことになるのだから真次郎だとまずいかもしれないので、隆也に動いてもらうことに決めた。隆也を強二のいる場所へ行く気にさせる。ポチが隆也を導いて強二と会わせる。隆也が夕里にストップをかけて、強二を連れ戻してくる。
 これが今回最後のポチの魔法活動だ。


2

 今夜だけは一緒に寝てもいいとの寮長のお許しを得て、ポチとユキはユキの部屋のベッドにすわっていた。ポチを抱きしめていると、ユキの心にもその場所の情景が流れ込んできた。
「あれぇ、星さんの声が……ポチ、星さんも呼んだの?」
(呼んでないよ)
 とすると、自ら来たのだろう。ユキは知らなくても幸生は知っている、星丈人の声が聞こえてきた。
「鈴木くん? 俺の後輩なんだな」
「……あ、ああ、どうも」
「丈人さんなんか顔も見たくないんだから。帰ってよっ!! 放っておいてよっ!! 夕里はこれから部屋を取って、強二と寝るんだからねっ!!」
 ここはホテルのラウンジか。夕里が叫ぶと、星は言った。
「こんなところでヒステリックになるな。おまえは誤解してるんだよ。誤解すると他の男と寝るだなんて、どうしようもない奴だな。鈴木くん、ごめん。連れて帰るから」
「あ、あ、はい、あの……」
「強二っ!! あたしを離さないでっ!!」
「でもでも……でも……」
 声だけだから、ラジオドラマを聞いているかのようだった。
「丈人さんなんか大嫌い!! やだってばっ!! 人さらいっ!! う……ぅぅ」
 抱き上げられて口をキスでふさがれたのか。夕里が黙り、星が言った。
「すみません。人さらいではありませんから。こいつは俺の女ですから。夕里、そうだな?」
 こっくりする夕里の顔が、ユキには見える気がした。
 星が夕里を抱いて歩み去っていく。ホテルのラウンジなのならば、従業員や客たちの好奇の視線の中を、悠然と歩いていく星の見目麗しい姿も見え、取り残されて呆然だか悄然だかになっている強二も見える気がした。
「門限に間に合わないだろ、帰ろう」
 時間からしても見ていたにちがいないのに、なにごともなかったように強二に話しかける、隆也の声が聞こえてきた。
「こんなところでなにをやってるんだよ。強二、帰るぞ」
「あ、は、はい。あの……俺……」
「んん?」
「いいえ、なんにもありませんっ!!」
「だよな」
「あのね……乾さん、俺ね……いえ、なんでもありません」
「ああ、なんでもないよな」
 湿っているような強二の声と、平静な隆也の声。ふたりはそのまま無言で歩いていき、電車に乗った。それっきり声が聞こえなくなったのは、会話はかわさなかったからなのだろう。
「男同士ってあんなもんだよね。強二はハートブレイクだろうけど、いい経験じゃん」
(そうなのかぁ。僕にはわかんないけど、強二くん、かわいそうじゃないの?)
「いいんだよ。それよか星さん……星さんのことだから、上手に夕里を丸め込むんだろうね。これで万事めでたしじゃないのかな」
 言うつもりもなかったことが、ユキの口からこぼれた。
「ユキも隆也さんにああされたかったなぁ。星さんって隆也さんでもかなわないほどの……あれだと現実離れしててかっこよすぎるかもね。もういいんだ。ユキは幸生に戻るの。ユキでいると心まで女の子になっちゃって持て余すんだもの」
 ポチを抱いてベッドにもぐり込む。ポチのぬくもりを感じて目を閉じる。ポチがシャットダウンしたようで、ユキの心にはなんにも流れ込んではこない。
 この腕の中のぬくもりだって悪くはないけど、一度だけ、ユキが隆也でポチがユキ、そんな格好で眠りたかったな。ううん、そんなこと、したらいけないんだ。精神的にはあんなにも隆也さんに甘えたんだもの。俺は俺に戻って、二度と女の子になんかならない。幸生のその決意はちょっぴり寂しかったけれど。

END

 
 
 
 
 


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