ショートストーリィ(しりとり小説)

5「いつかと同じ」

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しりとり小説5

「いつかと同じ」


 シナリオライターを目指し、「みずき霧笛」というペンネームで脚本の公募に作品を応募している私は、シナリオが職業にはならなくて親の経営する靴屋で働いている。そんな私にアルバイトの孝生くんが声をかけてきた。

「おじさん、どうかしたの?」
 孝生くんは私の甥に当たる。美容専門学校に通う十九歳だ。

「なんだかぼーっとしてるよね」
「そう? わかる、のか」
「わかるよ。おじさん、恋でもしてるんじゃない?」

 ずきっ、どきっ、と心臓の音が、孝生くんにも聞こえたのではないだろうか。

「ほんと? えー、おじさんっていくつだよ? 四十すぎたんだろ。その年で若い女の子に恋なんかしないでほしいな。俺らに似合う年の女の子を奪っていかないでよね」
「若い子ではないけど、僕よりは十ほど年下の……」

「そんなら三十すぎか。おじさんから見たらそれでも若いんだろうけど、俺の守備範囲じゃないな」
「僕から見たら若いんだけどね、第一……」
 言いかけた言葉を孝生くんに先に言われた。

「第一、そんな若い女の子がおじさんを相手にするわけがない。言えてる」
「言えてるね」
「おじさんは独身なんだし、そのひとも独身なんだろ」

「彼女は結婚指輪はしていないようだよ」
「そんなところはきっちり見てるんだ」
 たいして流行ってもいない靴屋だから、お客さまがいないのを幸い、雑談していた。

「告白したの? してない? しろよな。その年で草食でもないだろ。彼女のほうも独身で焦ってるかもしれないんだから、つきあって下さいって言われたら喜ぶよ。美人じゃないんだろ? そうだよね。美人だったら三十すぎててもおじさんには無理だろうけど、美人じゃないんだったら大丈夫だって。俺が言ってあげてもいいけど、俺みたいなイケメンが近づくとかえって警戒されそうだし……」
「待て、孝生くん、きみには頼まないから」

 イケメンだと自分で言うのはあながちうぬぼれでもない。私の兄の妻は美人だから、孝生くんはお母さん似のハンサムだ。背も私よりはかなり高く、髪は私のように薄くない。私の兄の息子なのだから将来は髪が薄くなる懸念もありそうだが、今のところは大丈夫だろう。

 若くてイケメンの孝生くんが、女の子に告白するときは、といったアドバイスをしてくれる。ありがたく拝聴はしていても、私の参考にはならない。孝生くんの真似をしたって、四十代のおじさんでは痛々しいだけだろう。

 はじめての恋は十代のとき。あのときにもこんなふうに心が揺れた。揺れて揺れて揺らめいて、内気な私は告白すらもできずに、揺れるおのれの心にまかせて揺れていただけだった。あのときと同じ心の揺れを感じながら、彼女を見つめていた。

 彼女は書店の店員さんだ。胸につけた名札で名前は知れた。
 シナリオを書いているくせに、私には恋心を上手に表現できない。だけど、彼女とつきあいたい。いつかと同じ、告白もせずに失恋と言う轍は踏みたくなかった。

「……牧野綾音、はい、そうです。そうです。私も大ファンなんですよ。牧野先生のご著書は全部読んでいます。恋愛小説も時代小説も素敵です。私が好きだからこそおススメしてるんですから、公私混同かもしれませんけどね」

 この書店には、このような本を読みたいけれど、なにを読んだらいいのかわからないといったお客に、おススメ本を推薦するコーナーがある。今夜は彼女はそのコーナーで、女性客と熱心に話しこんでいた。

「ロマンティックな要素もある幕末小説といえば、牧野先生の「北の風」がイチオシです。私ももちろん読ませていただきました」
「これって映画化とかは?」

「映画化の話は伺ってませんけど、映像にしても素敵でしょうね。映画になるんでしたら私もぜひ見たいです」
「そうなんだぁ。じゃあ、読んでみようかな」

 女性客の心が動いたようで、店員さんの彼女も嬉しそうな表情になった。
 牧野綾音著「北の風」ならば私も読んでいる。私の意中のひとは「北の風」を映像で見たいと言った。私の胸がときめきはじめる。お客のいなくなったおススメ本コーナーに歩み寄り、私は言った。

「あの……よろしいでしょうか」
「毎度ありがとうございます。よくお買い上げいただくお客さまですよね」
「あ、はい。記憶におありでしたか。あの、「北の風」を映像で見たいとおっしゃってましたよね」

「ええ、映像になっているんだったらすごーく見たいです」
 思い切って言ってみた。

「私の知り合いが所属している劇団が、「北の風」を舞台に乗せるんです。よろしければごらんになりませんか。有名でもない小さな劇団ですけど、いい役者がそろってますよ」
「へぇぇ。ぜひ見たいです」

 ぱーっと心が晴れやかになった私に、彼女は電話番号を教えてくれた。
 若いひとのような告白なんかできっこなくて、偶然というか幸運というかでデートに誘えた彼女。私のほうが一方的にデートのつもりだったのかもしれないが、舞台「北の風」を一緒に見た帰り道で言えた。

「交際していただけませんか」
「はい」
「ありがとう……ありがとうございます」

 愛している、とは言えない中年のおじさんは、幾度かのデートのあとで、ただ、彼女の手を取って言った。
「結婚して下さい」
 恋をした気持ちはいつかと同じ。けれども、いつかとはちがって、彼女はうなずいてくれた。

次は「じ」です。


「主人公について」

蛇足ながら、小さなストーリィの各主人公について補記しておきます。
5はフォレストシンガーズが初にラジオドラマ出演をした際の、シナリオ「水晶の月」の著者です。
みずきさん(本名不明)が四十代のころ、未婚だったころのストーリィです。








 
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~ Comment ~

りんさん

しりとり小説、面白いですね。
まとめて読みました^^
あかねさんは、いろんなアイデアがあっていいですね。
長編小説の脇役さんを主人公にしてるんですね。
キャラを大切にしているのがよくわかります。

面白かったです。
この孝生くんは、ちょっとムカつきます(笑)

りんさんへ

お読みいただいて、コメントもいただきましてありがとうございます。
おっしゃる通り、新しいキャラを作れないのもありまして、メイン小説のキャラを流用(とは言いませんか、にゃはっ)しております。

私もりんさんみたいに上手に書けるように、これからもがんばってまいりますので、よろしくお願いします。

言われてみれば、孝生くんってたしかにむかつくキャラですね。
そういうキャラにするつもりはなかったのですが、読み返してみたら私もむかつきました。
にゃはは、ですよね。
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