ショートストーリィ(しりとり小説)

3「ニィハオ」

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しりとり小説3

「ニィハオ」

 餃子とチャーハンと野菜炒めを注文してから、大河内元気は聞こえてくる歌に耳を澄ませた。
 耳ざわりのよい明るいメロディ、特に意味はないような歌詞。聞いたことのあるようなないようなこの歌は、タイトルもなんにも思い出せない。

 昼下がりの中華大衆食堂には、元気以外には客はいない。味は可もなく不可もなくといったところで、このあたりはビジネス街なのだから、昼休みどきには客もいるのだろう。本日の仕事は終了している元気は、ゆっくり食事していた。

 ゆっくりしているものだから、店内に流れる歌もゆっくり聴ける。元気の意識に残るあの歌が、三回に一回はかかるのだった。

「ご主人、これ、有線じゃありませんよね」
 気になって尋ねると、六十がらみのおじさんが照れた顔になり、洗いものをしていたおかみさんらしき女性が言った。

「あたしたちの歌なんですよ」
「あたしたち?」
「そうなの。お客さんなんかは若いから、まだ生まれてもいないかしらね」

「よせよ」
 おじさんが止めようとしてもかまわず、おかみさんは続けた。

「日本にはじめて来たパンダ、知らないでしょ?」
「パンダですか。カンカンランラン?」

「そうそう、当たり」
 四十年も前に上野動物園にパンダがカップルでやってきたとは、三十代の元気にも知識としてはあった。

「カンカンランランにちなんで、パンダみたいな名前をつけた男女アイドルってのがいたのは、知らないでしょ」
「そんなのいたんですか。知りません。知らないと恥ですよね」

「恥ではないでしょ。知らなくても普通だよ」
 むしろ自慢げに、知らないほうが普通だと彼女は言う。

 しかし、大河内元気は音楽評論家なのだ。昭和時代からの日本ポップスが専門なのだから、知らないと恥だと思う。そんなアイドルは知らない元気には、僕は音楽評論家だとは名乗れなかった。

「パンダみたいってか、いい加減な名前だったよ。このひとがハオハオ。あたしがニイニイ」
「ハオニイ……ああ、ニイハオ? 楽しいネーミングですよね」

 音楽評論家でさえも知らない四十年前のアイドルデュオは、特に話題にもならず、売れもせずに歌手は引退したのか。おかみさんもおじさんもそれ以上は言わないので、元気はふたりの事情を推測してみていた。

 男女デュオが恋仲になるのはよくある話。ニィハオのふたりも結婚して、引退して中華料理屋の店主とおかみさんになった。

 カセットなのかCDなのか、三曲に一回は自分たちの歌が出てくる編集をして、店に流しているのはおかみさんの趣味だろうか。亭主は苦々しく感じているのかもしれないが、強く止めようとはしない。彼もノスタルジックな気分になっているのか。

「なんていうタイトルの曲なんですか」
 元気が尋ねると、おじさんがぼそっと答えた。

「恋のニィハオ。口にすると恥ずかしいね」
 店内を見回すと、入ってくるときには気にも留めていなかった店名も目に留まった。それもまた「ニィハオ」だった。

次は「お」です。

「主人公について」

蛇足ながら、小さなストーリィの各主人公について補記しておきます。
3の音楽評論家、大河内元気はフォレストシンガーズの大学の合唱部の後輩です。






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~ Comment ~

拍手コメントのお礼です

Nさん

楽しみにしてると言っていただいて嬉しいです。
これから続々アップしますので、またいらして下さいね。
ありがとうございました。

どんどんつながりが出てきますね~

ニイハオから、どんな風に展開されるのかと思っていたら。
中華料理と音楽。
なるほど。
良いですね。

大河内って、「白い巨塔」に出てきた良心的な司法解剖のお医者さんの名前だったなぁ、と今でも思うので、なんとなくこう背筋を正してしまいます(^^;

売れなかったけど、CDは形として残っている。
そうか…
でも、それって良いかもな、とちょっと思いました。

fateさんへ

いつもありがとうございます。

私だったらCDじゃなくて、本かなぁと思います。
もしも私が本を出版して、まったく売れもせず、それ一冊きりで引退して、残ったものはその本だけ。
なんてことになっても、けっこう嬉しいかもしれません。

しりとりストーリィにはフォレストシンガーズには無関係のものも出てきますが、そんなのでもよろしくお願いします。

ところで、館長さんのあの短歌。
もしかして、fateさんが増殖していくとかいうあのお話に関係あったりして? なんてちらっと思いました。
館長さんのあの絵は、ぜひ物語りにしたいものだと思っています。

再コメ失礼いたします。

館長とは、コメントのお付き合いが長いので、恐らく今までのいろいろがすべて入ってます(^^;

なので、ぽっと入った方には「何のことやら…(--;」ってこともあるだろうなぁ、と実は申し訳ない気持ちもあります。
今では、fateは永遠に増殖し続ける不死身のfate星人ってことになっている気がします~~~

fateさんへ

もちろん、新しく参加した者にはなんのことやらわからないことは多いですよね。
それにしても館長さんって興味深い方です。

fateさんのおかげさまもありまして、ネットの世界の個性豊かな方々を知れて、ありがとうございます。

背景が良くなりましたね!

背景がサクラになって、文字色と重ならなくてとってもいいと思います。

にーチェさんへ

またまたありがとうございます。

このほうが読みやすいですか?
テンプレって読んで下さる方の読みやすさも大切ですよね。
お気づきの点はぜひ、また教えて下さいませ。
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