別小説

「天国への道」

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はじめに

 あのころは「ジュネ」だとか「耽美」だとか「やおい」だとか言っていたこのたぐいのストーリィを書くようになったのは、著者がとてもとても若かったころ。
 なんにも知らない純情な乙女(え?)だったものですから、むしろ恥知らずで、わりと過激なシーンも書いていました。多少はものごとを知っていくにつれて、ベッドシーンが抽象的になっていき、最近になって、これではいけない、恥ずかしがっていてはたとえアマチュアとはいえもの書きとして失格だ、と考え直したのでした。
 とはいえ、やっぱり具体的なベッドシーンは書けません。羞恥心が強すぎるせいばかりではなくて、描写力不足です。
 これは十年近くも前に書いた、BLストーリィです。このカップルはテツシ&ケイの原型ですね。
 「茜いろの森」を訪問して下さるのは女性が多いようで、BLに嫌悪感を抱く方はあまりいらっしゃらないようですけど、もしももしも、BLてなに? げげげっ、そんなの大嫌い、と思われる方がいらっしゃいましたら、ごめんなさい。読まないで下さい。
 昔の友人はもしかしたら、「なつかしい」と感じてくれるかもしれない、ロスアンジェルスのギタリスト、クリフの短編です。






「天国への道」



「どこかで見たことあるみたいな……」
 パブのカウンター、ぼんやり腰かけて、空中の一点を見るともなく見ていたぼくの耳元で、女の子の声がした。
「と思ったら、ティムのバックのギタリストよね」
「ああ、そうだけど」
「えーとえーと、名前は……」
「クリフォード、クリフ」
「そうだった。思い出した」
「ティムのファン?」
 身体にぴたぴたのミニドレスをまとった、派手なメイクの女の子は、ここ、いい? とも訊かずにぼくのとなりに腰をおろす。
「そう。いいよねー、ティムの歌って」
 アイダと名乗った女の子は、ティモシー・ドラックスの数少ないヒット曲「ただ会いたくて」を鼻歌でうたってみせた。
「この歌、特に大好きなの」
「その歌はぼくがティムのために、ギターを弾きはじめる前のヒット曲だね。ぼくには関係ない」
「そうだっけ」
「それと」
「なに?」
「きみ、音痴じゃないの」
 んまっ、とアイダの顔に、憤怒のいろがさした。
「音痴には二種類あるんだよね。自分が音痴だと気づいてる、まだしも罪のない音痴。自分が音痴だと気づかない、だもんで他人に迷惑をかける、困った音痴。そう言われて怒るってことは、きみは後者の音痴だね」
「そ、そんなこと、音痴だなんて、誰にも言われたことないもん」
「それはみんな、遠慮してるんだよ。ぼくはこれでも音楽にたずさわる人間だし、その方面ではプロだから、断言してあげる。きみは音痴だよ。人前で歌わないほうがいい」
「意地悪なのね、クリフって」
 くしゅんと鼻をすすってみせる。
「ひとりで寂しそうにしてるみたいだし、あたしも今夜はひとりだし、クリフってけっこうタイプだから、ああして声をかけてあげたのに」
「あっそう、ありがと」
「つめたいのね」
 じとーっと潤んだ瞳で見つめられて、ぼくはぞぞっとした。
「誰かに貞操を誓ってるの?」
「貞操だなんて古臭い言葉、よく知ってるんだね」
「そのくらい知ってるよ。ねえ、誰かいるの?」
 黒に近いワインレッドのマニキュアをほどこしたとがった爪が、ぼくの手首に食い込んでくる。
「痛いんだけど、離してくれない?」
 うー、イライラする。ぶん殴ってやりたい。
「いるの?」
「いるよ」
「その人に貞操を誓ってるわけ?」
「うーん、そんな義理はないんだけどね」
 この女は大嫌いだけど、たとえ相手が誰であろうとも、ぼくは人にぼくの恋人の話をするのが好きだ。だからつい、口が勝手に動きはじめてしまう。
「ディヴィは勝手なんだよね。仕事がいちばん大切で、ぼくなんか百番目くらいにしか思ってない。ぼく以外にもきっと恋人がいる。世界中に何人もいるにちがいない。ぼくなんかほったらかしにばかりして、ちっともかまってくれなくて、すぐに怒る。あんな奴のために貞操を誓う必要なんかないんだ」
「そうよ、そうだよ」
 真っ赤なドレスの女は、大口あけて笑った。
「だったらあたしと遊ぼうよ」
「なにして? ジグソーパズルでもやる?」
「あたし、ストリートガールってわけじゃないのよ。お金の心配してるんなら平気だから」
「純粋にぼくと寝たいのかー」
 ふと思った。はじめての体験をやってみるのも悪くないかな。17歳にして女と寝た経験ないなんて、そりゃあぼくはぼくだから当然なんだけど、この世では希少価値だろう。いやいや、希少でいいんだ。ぼくは希少な人種なんだから。
「その気になった?」
「ならない」
「なんでよ」
「だってぼく、ゲイだもん」
 アイダは口をぽかっと開けた。
「すっげえマヌケ面」
 ぼくはけらけら笑って、開いたまんまのアイダの口に、カクテルのオリーヴを放り込んでやった。びっくりしてオリーヴを飲み込んでしまったアイダは、しばし咳き込んでから言った。
「ひどーい、なにすんのさ」
「なにもそんなに驚かなくても。きみだって知ってるでしょ? ぼくは美形だよね。このアメリカでは美形の男はたいていがゲイなんだよ」
「ティムも?」
「いや、あれはつまんないヘテロセクシャル」
 実はティムにもおおいに疑惑があるのだが、ただのファンに秘密を打ち明けてやる必要はない。
「それに、きみってタイプじゃないし」
「……だからなのね。それでそんなに女の子につめたいんだ。なんとなくそんな気はしたけど、ああ、もうっ、時間の無駄」
「だけど、暇なんだろ。ぼくの話につきあうだけならいいじゃない」
「話? ゲイの話?」
 なぜかアイダは身を乗り出した。
「ゲイは多いとは知ってるけど、どうしてだかあたしの周りにはいないんだ。ゲイの話ってちょっと興味あるかも」
「隠してるだけだよ、きっと」
「そうかもねー」
 うんうんと妙に力強くうなずきながら、アイダは知り合いの男の顔をあれこれ思い浮かべている様子だった。
「もしかしたら彼も……ま、いっか。じゃ、ディヴィって男なんだね」
「当然」
「年上の女にいいように振り回されてるタイプかと思っちゃった。ディヴィっていう愛称の女もいるだろうし」
「ディヴィッド・ヘイリー。正真正銘男だよ」
「んーと、どこかで聞いた名前」
「知ってんの、きみみたいな女の子が」
「えとえと……」
 ぼくの最愛の人、ディヴィは、世間では多少名を知られた敏腕ルポライターなんだよね。時には生命の危険をかえりみず、戦乱まっただなかの中近東あたりに赴いて、貴重な取材をしてはけろっと生きて帰ってきて、テレビ出演をしたりする。
「ああ、テレビで見たことがあるんだ」
「そうだよ。その人。彼は今も取材旅行に出かけてる。ワールドカップの取材のために韓国に行って、黒髪の東洋美少年とついでに浮気してるんだろうな。どっちがついでだかわかんないけど」
「そんなに不実な人なの」
「きみ、案外ヴォキャブラリィあるんだね」
「もうやめちゃったけど、前は大学で文学やってたの」
「へええ、意外」
 今はなにをしているのかになど興味ない。それよりディヴィの話がしたい。
「出会いのところから話してよ。夜はまだまだ長いんだもの」
「いいよ」
 ひょっとしたら女友達に、恋の打ち明け話をされる気分になってるのかもしれない。女の子の中にはときおりゲイに好意的なのがいて、ぼくの恋の話を聞きたがったりするんだ。
「ティムのバックギタリストをつとめるようになって間もなくだから、一年ちょい前だったかな」
 運命の出会いを思い出すと、それまでの人生がふっと脳裏をかすめた。
 ダウンタウンの片隅の安アパートに、父親のいない子、どこのどいつの子ともわからない男の子が生まれたんだって。母親は乱暴者で男好きで、生活のためもあったんだろうけど、息子のクリフには一応メシさえ食わせておきゃあいいって感じで、気に食わなければ殴り飛ばし、八つ当たりに蹴飛ばし、あとはほったらかしにして育てた。
 それでも子供ってのは育っていくもんで、幼児のころには殴られてはぴいぴい泣いていたクリフは、そのうちには殴られてばかりはいなくなった。そういう環境だと友達にも鍛えられる。十にもなればいっぱしの不良少年クリフは、母親と次第に壮絶な取っ組み合いの大喧嘩を繰り広げるようになったんだ。
 んでもって、14歳でお定まりの家出。拾ってくれたのは場末の酒場でギターを弾いていたハリソン。クリフがなんとかギターで生計を立てられるようになったのは、ハリソンのおかげだ。
 ハリソンが事故でこの世からバイバイしちまって、クリフはひとりで生きていかなくてはならなくなった。弱冠16歳とはいうものの、天才ギタリスト、ハリソン仕込みの腕はたしかで、つてを頼って受けたオーディションに見事合格したのだった。
「たいした腕だね」
 ぼくよりふたつ年上のティムは、感服のまなざしでぼくを見た。きらきらのハニーブロンド、小柄で細身の天下一品の美少年シンガーは、歌で充分に生きていけるだけの才能を持っている。スタッフにも恵まれて、超売れっ子というほどでもないにしろ、そこそこには歌が売れていた。
「みんなが言うんだよ。たくさんのギタリストがオーディションを受けにきたけど、もっとも若いきみがもっとも腕がよかった。おまけにあれだけのルックスだ。バックバンドのメンバーだってルックスがいいにこしたことはない。たしかにそうだよね」
「その人目を惹くストロベリーの髪といい、きらめくエメラルドの瞳といい、ティムに負けない美少年だな。きっときみも人気が出るよ」
 ティムの歌のほとんどを作曲し、プロデュースもしているレイモンド・ウィルソンが、かたわらで目を細めた。
「もてるんだろうな」
「ぼくが? ティムほどはもてないだろうね」
「ぼくはそんなにもてないよ。レイのほうがもてる」
「ぼくはレイとはちがった人種にもてるかも。ティムもそうなんじゃないの」
「なに、どういう意味?」
 激しくいやな顔をして、ティムが身を引いた。
「クリフ、きみはひょっとして……」
「うん、女の子になんかもてたくない人種だよ」
 げっ! と小声で言ったティムは、すがるような目でレイを見上げた。
「なんでそういうこと、きちんとたしかめないんだよぉ」
「いいじゃないか、彼の性癖がどんなものであろうとも、おまえにゃ関係ないだろ。クリフみたいな男の子がおまえを誘惑するとも思えないし」
「うん、ぼくはレイのほうがいいな」
「生憎、俺はゲイじゃない」
「ぼくだってちがうよ。クリフ、レイに変な気起こすなよ。彼には奥さんがいるんだ」
「ふぅん、そうなの」
 奥さんがいたって関係ないじゃないか、と言いたいところだったが、レイにはあまり食指が動かない。170センチ足らずのぼくやティムより15センチほど高く、がっしりした体躯をしている。ダークな髪の男っぽいハンサムなんだけど、さほどにそそられないのは、優しそうな男だからかな。ぼくは優しい男はパス。
 それはそれとして、ティムがぼくもちがうよ、と言ったときの態度、なんかアヤシイなぁ、と思ったんだけど、
つきあってればそのうち判明するだろう。ゲイとはつきあいたくないよぉ、と嘆くティムと、まあまあとなだめるレイを見比べつつ、ぼくは内心でくすくす笑っていたのだった。
 それから数日後、ぼくのための歓迎パーティが開かれた。一堂に会したティムのバックバンドのメンバーたちは、そろいもそろってごっつくいかつい陽気なアメリカ男ばっかりで、ここにはぼくの相手はいないと即座に決まった。
 ごく身近にはいなかったのだけど、意外なところにいた。パーティのあとでレイが友人に会うというのにくっついていったぼくは、そこで運命の出会いを果たしたのである。
「俺の幼なじみ、デヴィッド・ヘイリーだ」
 レイが紹介してくれた瞬間、ぼくの頭の中でオーケストラが演奏をはじめた。曲はいわずとしれた、ベートーベンの「運命」。月並みだけど、ジャジャジャジャーン!!! ってね。
「このひと、いくつくらいかな」
「レイと同じだから、32、3ってとこじゃないの。ぼくも会うのははじめてなんだ。なんかおっかなそう」
 彼はクリフォード・レヴィンといって、とぼくのことを紹介してくれているレイの声を聞き流しながら、ティムとぼくはこそこそ言い合った。
「そっかな。かっこいいじゃん」
 身長はレイと同じくらい。ひとまわりほっそりしていて、しなやかな身体つきをしている。そのわりに肩幅が広くて、白いシャツに無造作に結んだグレイのネクタイがセクシーだった。
「人が話をしているのに」
 内緒話をしているぼくたちを、ディヴィがちろっと睨んだ。睨まれてますます、ぼくの恋心が燃え上がった。ぼくって怖そうな男が好きなんだよね。
「こそこそ言ってるんじゃないぞ」
「わ、ごめんなさい」
「ティムは素直でいいな。そっちのおまえは?」
「そっちのおまえじゃなくてクリフだよ」
「名前は知ってる」
「そんならなにさ」
「生意気なガキだな。おまえはあやまらないのか」
「つまらない話をするからじゃないか」
 袖を引くティムにはかまわず、ぼくはディヴィを睨み返した。
「ねえねえ、どうでもいいけど出ない?」
「もう? 来たばかりだろ」
「大人の話は退屈だもん。帰ろうよ」
 腕時計を覗いたレイが苦笑した。
「もうこんな時間だ。たしかに子供の時間はおしまいだな。帰ろうか。ティム、送っていくよ」
「うん」
 店から出ると、レイがタクシーを止めてティムを先に乗せた。車の中から四つの瞳が、ぼくたちを意味ありげに見つめている。ほどなく車がスタートして、次のタクシーがやってきた。
「おまえも送っていかないといけないのか」
「ううん、ぼくはディヴィのうちに帰る」
「は? 家がないのか」
「あるよ。だけどぼくはあなたのうちに帰るの」
 実はどきどきしていた。彼はぼくと趣味が同じだとは一瞬で察していたけれど、家には待ってる人がいるとでも言われたらどうしよう。ううん、いたっていい。ぼくはそいつから彼を奪ってやるんだ。
「勝手にしろ」
 ってことはOKってことで、ぼくは勇んでディヴィのあとから車に乗った。
 たどりついたのは瀟洒な一軒家だった。ひとり暮しにしては大きな家だ。入れと言われなくてもついていき、ぼくは鼻をうごめかせた。女の匂いも少年の匂いもしない。
「あつかましい坊やだな」
「それってぼくの身上なの。でないと世渡りできないもんね。ディヴィ、喉かわいたよ。コーラないの」
「ほしけりゃ冷蔵庫から持ってこい」
「はーい」
 あれからなにがどうなったんだったかな。些細なことで喧嘩が勃発して、というよりも、ぼくが勝手に彼につっかかっていって、すねたりよじれたりしたあげくにほっぺたをぴしゃっとやられて、そののち数限りなく続くぼくらの関係の第一ラウンドがはじまったのだった。
「ひっぱたかれたの」
 ほとんどひとりごとめいたぼくの話に聞き入っていたアイダが、眉をしかめた。
「乱暴な男なんだ」
「そうだよ。ぼくは乱暴な男が好きなの」
「変な趣味だね」
「変な趣味だよ」
 思い出すとうっとりしてしまう。悪態と罵詈に疲れたぼくは、泣きじゃくりながらディヴィの膝にすがった。
「好き……好きだよぉ」
「おまえは好きな男にそういう態度を取るのか」
「そうだよ。好きなんだもん。好きだからこうなるんだもん。あなたはぼくが好き?」
 腕をつかまれて引きずり起こされて、答えはキス。ディヴィはただの一度も、愛しているとか好きだとか言ったためしがない。ぼくからの一方通行の愛の言葉に、帰ってくるのは行為だけ。
 いつの間にやらベッドにいて、いつの間にやら裸にされて、熱い奔流にもみくちゃにされてベッドに伸びた。ハリソンと同棲していたころのぼくは本物のガキだったから、こんな経験はまだなかった。
「……はじめてだったの」
「そうだったんだ。くぅぅ、よかったなぁ。はじめてってのはなんでもいいもんだね。いや、今もいいけどさ」
「勝手に言ってろ」
「言わせてもらうよ」
 ぎゅぎゅっとアイダに腕をつねられたけど、全然痛くなかった。
「ゲイの初体験ってもっと早いのかと思ってた」
「危機は幾度もあったんだけど、はじめての相手は愛するひとじゃなくっちゃね」
「そっか。なんだかうらやましい。あたしは早く経験したかったから、15歳でたいして好きでもない男と寝たの。
あれからもずっとそうだな。ほんとに好きなひととは寝たことない」
「不幸だね」
「あんたは幸せなの」
「うん」
「ふんだ。さっきから散々、ディヴィの悪口ばっかり吐き散らしといて、本音はのろけなんだね。サイテイ」
「聞いてくれたお礼をしないといけないかなぁ」
 パブのドアの付近に、ちらちらと動く人影が見える。飛んでいって抱きつきたいけれど、その前にちょっとこういうことをしておこうかな。
「まだぼくと寝たい?」
「できるの」
「ゲイにだって女の子と寝るのは可能だよ」
「んんと、あんたさえよければ」
「えらくしおらしくなったんだね。じゃ、行こうよ」
 なんとなくためらいがちに、アイダが立ち上がる。ぼくはその手を取ってキスした。いいのかな、と首をかしげているアイダと手を取り合って、ぼくはパブの人ごみをすり抜けていく。ドアのあたりでわざと目当ての人の胸にぶつかった。
「邪魔だな。どけよ」
「そっちからぶつかってきたんだろうが」
「ちょっと、クリフ、ダメ。喧嘩なんかしちゃダメだよ。あんたじゃ勝ち目ないって」
 焦ったアイダがぼくと彼を交互に見る。
「ごめんなさい。酔ってるみたいなの」
「あなたに詫びてもらう必要はない。酔っ払いのお守りは大変だね。じゃ、失礼。いい夜を」
「ありがとう」
 くそーっ。そう出るのかよ!!!
「どうしたの、クリフ、行こうよ」
「いやだ」
「え? 今さらいやだって……」
「誰がおまえみたいなブスと寝るもんか。腐っちまう」
 絶句、であるらしく、アイダは目を白黒させていた。
「ひとりで帰れよ。ぼくの目の前から消えうせろ。だいたいからしておまえみたいなブス、ええい、ブスブスブスっ!!」
 言い捨ててドアから外へと走り出す。アイダは追っかけてはこず、このまま走って走って走って、川へでも飛び込んでやろうかと思っていたぼくの襟首を、誰かがぐいっとつかんで引き戻した。次の瞬間、頬に衝撃が走った。
「イッテーッ!!! なにすんだよっ!」
「この大バカ」
 ああ、この声でこの台詞を言ってほしかったんだ。頭から武者ぶりついていったぼくの身体を受け止めて、愛する人が囁く。
「おまえって奴はまったく。普通にお帰りとか、会いたかったとか言えないのか。俺をやきもきでもさせようとたくらんで、あの女の子を利用したんだろ。いくらなんでも気の毒じゃないか」
「気の毒じゃないもん、あんなアホ女」
「おまえのほうがよっぽどの阿呆だ。帰ったら覚悟しとけ」
 うんうん、なんでも覚悟するよぉ。
 ディヴィはちらっと振り返り、パブの戸口で見物しているアイダに会釈したようだったが、ぼくにはもはや意識外だった。
「好き、会いたかった」
 今夜あたりディヴィが帰ってくるかな、帰ってきたらあの店に顔を出すかな、と思って、ぼくはあそこにいた。暇つぶしの相手にすぎないアイダなんてどうでもいい。寝るなんてまっぴらだ。ぼくにはあなたしかいないのだから、ね、ディヴィ。
「好きだよぉ」
 好き好き好き、と永遠の台詞を口にするぼくへの返事は、例によって頭をこつん、なんてものだったけれど、ぼくの身体と心はとうにとろけ切っている。ディヴィにもたれて歩く夜道が、いまや完全に天国への道と化していた。

END




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~ Comment ~

こんばんは

開いて一発目にこれがあったので、気になってよんじゃいました。
あかねさんは昔、BLも書いてらしたんですね。
(じゃあもう、執筆歴は長いんですね)
このお話も、勢いとパワーがあって、面白かったです。
アイダなんか、見ちゃいないってキッパリ感が、潔いw

あかねさんの過激な描写って、どんな感じなんだろう・・・と、興味津々です^^

limeさんへ

きゃわーっ。
と悲鳴を上げていますのは、こんな古いの、恥ずかしいーの意味と、やっぱり読んでいただけると嬉しいな、の意味です。
ありがとうございます。

今でもBLっぽいのは書いてますが、昔の一時期はBLばっかり書いてました。
友達がそういうのを喜んでくれたのもありまして。

ティムとクリフというL.Aの美少年たちを中心として、ミュージシャンや作家などなどの美少年、美青年入り乱れストーリィは、「イブの息子たち」の影響をかなり受けて書きました。

ってわけですから、私の執筆歴は相当長いです。
そんなに長く書いてる、古い人間でございます。

いや、でも、過激な描写ってのはね……。
アセアセ焦っv-48
昔すぎて忘れました。
きゃああ、恥ずかしいですっ。

NoTitle

過激すぎない方がファンタスチックな感じが出ててイケてます♪
バイはよく聞きますけど、ヘテロ・セクシャル...そんな言葉があるんですネ!

3573コメントの方へ

よく来て下さる方なのかどうかもわかりませんが、ありがとうございます。

ずいぶん昔に書いたこんなの、読んでいただけて嬉し恥ずかしです。
過激すぎないほうがいいってのもありますよね。
昨今のBLは相当過激なのもありますが。

ヘテロセクシャルって、古い言い様かもしれませんね。
ノンケとかもいいますよね。
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