ショートストーリィ(グラブダブドリブ)

グラブダブドリブ「ナイフみたいに」

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グラブダブドリブ
「桃色吐息」のアンサーストーリィです。



「ナイフみたいに」


 なにが発端なのかは知らないが、チカの押し殺した低い声が聞こえてきた。

「てめえは男らしくないんだよ。いつまでもうじうじしやがって。ふられたんだったらきれいさっぱり諦めて、新しい女を探せばいいんだろ。そんなだからふられるんだ。そんなだから次の彼女も見つからないんだよ。このチキンハート」

 生来の低い声にドスが効いて、迫力満点である。
 あーあ、豪でさえ遠慮があって言わない台詞を言っちまいやがった。悠介が頭を抱えたとき、司の応戦する声も聞こえてきた。

「うるせえ。黙って聞いてりゃ次から次へと、言いたい放題ぬかしやがったな。この野郎」
「おい、司」

 こうなれば止めるしかあるまい。悠介はドアから顔だけ覗かせて言った。
「女と本気で喧嘩するな。大人げない」

 こんな奴は女じゃねえよ、と応じるかと思った司は言った。
「黙れ。俺はおまえみたいな男女差別主義じゃねえんだよ」

「女と喧嘩しないのは男女差別か」
「そうじゃないかよ」
「そっか、チカ?」

「そんなことはどっちでもいいけど、大人気ないとはなんなんだよ。あたしは大人じゃないって意味か、こら、悠介」
「だよな。対等の大人同士の喧嘩だよな、チカ」
「そうだよな、司」

 喧嘩していた当人同士が結託してしまった。そんなら勝手にやってろ、と肩をすくめた悠介の耳に届いてきたのは、今度はジェイミーの歌だった。

「ちっちゃなころから悪ガキで、15で不良と呼ばれたよ。
 ナイフみたいにとがっては、さわるものみな、傷つけた」

 ああ、わかってくれとは言わないが、そんなに俺が悪いのか、と続く。あまりのタイミングのよさに、悠介は吹き出した。

「なにがおかしいんだよ」
 ナイフみたいにとがって、チカが問う。ジェイミーがやってきて言った。

「これってチカのテーマソングだろ。なにやら険悪だったからさ、仲裁の歌だよ」
「15で不良と呼ばれた? あたしは不良じゃないよ」
 嘘つけぇ、と男三人は声をそろえ、チカは不満げに口をとがらせた。

「ま、15くらいになったら酒飲んだり、煙草をいたずらしてみたりはしたけど、そんなもんだよ。万引きだとかカツアゲだとかはやったことない」
「十分不良だよ」
 にやにやとジェイミーが言い、チカの口がいっそうとがっていった。

「ちがうよ」
 そういえば近頃、芸能界のほうでは未成年者の飲酒喫煙が騒がれていて、などとジェイミーが言い出して、司とチカの喧嘩はうやむやになってしまった。このふたりには正攻法で喧嘩を止めるよりも、ジェイミーのすっとぼけのほうが効果があるのだと悠介は思う。
 芸能界のほうでは、とわざわざ言うのは、彼らのいる世界は「芸能界」とは別ものだと認識しているためだ。

「なにを罵り合ってたんだ?」
 ふたりが落ち着いたらしいのを見計らって、ジェイミーが尋ねた。

「もういい。醒めた」
「俺ももういいよ」

 な、ばっちり、とジェイミーが悠介に目配せしてみせる。悠介は苦笑いで応えた。

「悠介の彼女がやきもち妬きだってのは、チカは知ってるか?」
「花穂は自分で言ってたよ。なんでこう妬けるんだろ、悠介が女といると頭がかっかしちゃう、だってさ。ジェイミー、あんたの言いたいことはわかった。その花穂が唯一妬かない女があたしだってだろ。ふん、どうせ」

「お、悠介並の察しのよさだね、チカちゃん」
「へん。好きに言ってろ」
「で、ドルフは?」
「知らないよ。あたしはいつもいつもあいつのお守りをしてるわけじゃない」

 女と恋はしない、できない体質であるらしきドルフにも、女友達の存在はいいものなのだろう。女特有のなにかをドルフに与えてくれる。いや、チカはそういう女ではない。かといって決して男ではない。ドルフはなにをどう考えてチカとつきあっているのだろうかと、時おりチカがやってくると悠介は思う。よけいなお節介ではあるのだが。

 恋をした経験が皆無というのでもないが、この年齢でこの職業の男としては、悠介は稀有なほどに女性経験が少ないはずだった。ドルフとは別種の女嫌いであると自覚している。

 悠介にしてもチカとつきあっているほうが、正直、気が楽な部分がある。花穂は仕事では男にひけを取らないが、中身は女そのもの。だが、花穂といるときはいるときで……おっと、こんな台詞は仲間たちの前では口にできない。なーにが女嫌いだよ、と我ながらおかしくなるのだから。

「悠介は学生時代は不良だったの?」
 不良少年の歌を聴いたせいか、花穂がかつて訊いた質問がよみがえってきた。

「品行方正とは言えなかったな。勉強は適当で、ロック三昧ギター三昧」
「悠介らしいね」

「おまえはどうだったんだ?」
「私は優等生だった」
「意外なのか、おまえらしいのか、どっちだ?」

「悠介が判断してよ。でも、あなたも勉強なんかちっともしなくても、優等生だったんでしょ? 頭のいいひとは得よね。授業をさぼってても勉強できるの。そういう奴ってうちの高校にもいたな。憎らしい」
「なんだよ。なんで俺をつねるんだ」
「八つ当たり」

 思い出し笑いをしていたらしい。ジェイミーと司とチカの六つの目が、なにか聞きたそうに悠介を凝視していた。

「司は不良だったよな」
「まあな」

「ジェイミーは?」
「俺は声楽美少年だったんだぜ。不良やってる暇はなかったよ」

「美少年って自分で言うか?」
「チカちゃん、事実はありのままに述べるものだよ」

 高校生のころの彼らはまったく知らない。花穂と知り合ったのも大人になってからだ。けれども、皆年頃は同じなのだから、どこかですれちがっていたかもしれない。

 屈折したギター少年だった悠介と、不良気取りの司と、自ら言うだけあって美少年だったはずのブロンドの声楽少年のジェイミーと、優等生の花穂と、おそらく現在以上に少年みたいだったチカと、五人がどこかで出会っていたら、反発し合って軽蔑し合って、仲良くなんぞならなかっただろうと思えてしまう。

「熱い心を縛られて、夢は机で削られて
 卒業式だと言うけれど、なにを卒業するのだろ」

 もういいからさ、とチカが辟易しているのにもかまわず、ジェイミーが歌っている。ジェイミーも過去に思いを馳せているのだろうか。司もチカも?
 
 俺はついつい考えちまうよ。おまえに会いたい、花穂。どうしてる? 元気か? 今夜はおまえの夢が見られたらいいな。どこかでばったり、高校生同士で遭遇する夢も楽しいかもしれない。おまえは言うんじゃないか?

「なにひねくれてんのよ。私たちは若いんだからね。将来を見据えてまっすぐ歩かなくちゃ。私たちには輝く未来があるんだから」
「輝く未来ね。砕けたガラスが全身につきささりそうだ」

「なに、それ?」
「きらきらきらってさ、未来という名のガラスが割れて、空からふってきて輝くんだろ」
「わけわかんない」

 またまた思い出し笑い、というよりも、仮定の空想をして笑ってしまった悠介を見たチカが、ばっかじゃないのか、と口の動きだけで言った。


グラブダブドリブストーリィに続く


津々井茜の小説のメインはフォレストシンガーズ。
フォレストシンガーズはヴォーカルグループです。
もうひとつ(他にもあるのですが、今のところはもうひとつ)大切なミュージシャンたちのグループは、ハードロックバンドのグラブダブドリブです。

カテゴリ「グラブダブドリブ」の中の「魔法使いの島」前・後編。
http://quianred.blog99.fc2.com/blog-entry-166.html
興味をお持ち下さった方は読んでやって下さいませ。
グラブダブドリブストーリィも続々アップの予定です。




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