リレー

ミニリレー小説(part2)「つながる」

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乃梨香さま、早花鬼かつまさま、三田たたみ師匠、grhoさま、YUKAさま、西幻響子さま、結麻月さま、Tome館長さま、りんさま、そして、当ブログの管理人、津々井茜。

ここまでつなげてきましたリレー小説PART2が完結しました。

冒頭部分を書いて下さった乃梨香さん、最終部分を書いて下さった西幻響子さんをはじめとします皆様、本当にご協力ありがとうございました。

どうやって公開させていただこうかと迷ったのですが、まずは通してアップしします。
そのあとにどなたがどの部分を書かれたのかを細かく分けた、同じものをアップしますので、ご確認下さいね。

ではでは、リレー小説PART2、ここからはじまります。



ミニリレー小説

「つながる」


「お疲れ様ぁ。」

 今日は、残業などしていられない。
 一目散にドアを飛び出し、エレベータホールへ向かう。

 急ぎすぎて化粧を直すのを忘れたと気がついた。
 電車の中で化粧直ししようかな。
 そんな恥知らずな真似はしたことがないけど、どうしようか。
 迷いながら電車に乗り込んだ。

 車内を見渡すと隅の席が空いていた。あそこなら、化粧直しもできる、と駆け出す。でも電車が動き出して、自分の身体が思う方向へとは行ってくれなかった。

「きゃあッ!」
 バランスを崩した私は、座席に向かい倒れ込んでしまった。
 知らない誰かの胸にすがりついたまま、恥ずかしさのあまり固まってしまう。
 目の前にあるネクタイの柄さえ頭に入ってこない。
「あの、大丈夫ですか?」
 スッと耳に忍び込んだのは、低くて艶のある男の人の声だった。

「だ……だいじょうぶです」
 そう答えて身を起こしてから、少し後悔した。
 私がしがみついていたのは、30代に届くだろうか、という長身痩躯の男性だった。
 落ち着いた容貌が、私の好みのどストレートを言っている。
 男性が、相変わらず落ち着いた声で言う。
「そうですか、気をつけてくださいね」
 そして、私のせいで曲がったネクタイを、クイッと直した。

 その時、ハッと気が付いた。
 化粧も直してない顔でその男性の顔を覗きこんでいる自分に。
 急激に体温が上がり、心臓がどくんと跳ね上がる。

 そんな私に気がついたのか、彼は私を一瞥して小さく笑った。

 電車は混んできていて、身動きがしづらい。このひと、好みのタイプだなんて思う男性の視線を意識すると、顔がどんどん熱くなってきた。
「ねぇ、あなた、あの男、痴漢じゃないの?」
 見知らぬ女性が私に問いかける。なにを誤解したのか、あの男とは、私がしがみついてしまっていた男性だった。

「いえいえ、違うと思いますよ」
 と私は答えたものの、心の中では違うことを考えていた。
 あんな素敵な外見をしていて紳士には見えても、『痴漢じゃない』とはっきりとは言い切れないんではないか? ひとは見かけだけではわからないものだ。でも……
 そう思いながらさりげなく顔をふりむけると、そこにはもうあの男性がいなかった。
 あれ? どこに行っちゃったんだろう?
 さっきまで無礼なことを考えていたことも忘れて、私はキョロキョロと男性の姿を捜してしまった。
 と、そのとき。
 私の手がいきなりぐい、と強い力で引かれるのを感じた。

 手を引かれながらも、電車が止まっているのが解った。何処かの駅に到着したんだ。ホームから発車を知らせるベルが聞こえていた。引きずられて動いているだけの足は、そのベルの方へと向っている。
 えっ? ここで降りるの? 私の降りるのは、もう一つ先の駅なんだけど。今日は大切な日なんだから、こんなところで寄り道は出来ない。
 そう思ったけど、私の手をひっぱる強い力に抵抗する間もなく、私の足はホームに降りていた。ホームから見える街なみのイルミネーションが目に飛び込んでくる。
 こんなところで寄り道なんて出来ない。だってもうすぐ……。

「なんなんですか、どうして引っ張るんですかっ!! 私には行くところがあるんですよ」
 引っ張られて電車から降ろされてしまい、ホームでようやく相手の姿と顔を見た。
「え?」
 力が強いから男性かと思っていたら、私を引っ張ったのは先ほど「あの男、痴漢じゃないの?」と声をかけてくれた女性だった。

「あれ? い、いや……あれは……」
 恥ずかしさこみ上げ、私はうつむく。
 否定するつもりだったのだが、その私の行動が誤解に油を注いでしまった様。
 その女性は突然に私の両手を優しく握りなおし、こう言ったのだ。
「大丈夫だから! 私が守るからね!!」と。

 その女性の表情はなぜかとても真剣で……。
 その勢いに押されてか、ただ呆然と私はその女性をじっと見つめていた。

 女性を見つめる私の視線の意味を悟ったのか、それまで真剣な眼差しだった女性の目は、ふいに柔和になり、
「私が、誰だか解からないのね。しかたないわよね、あんなに小さかったんだから。」

 包み込まれる春の日差しのような、その人の笑顔を見ていると、こんなに素敵な人が誰なのか思い出せない自分が、極悪人のように思えてきた。

 女性はやわらかな笑顔のまま、言った。

「あなたはあのとき…たぶん三歳くらいだったわ。とても可愛い女の子だった。テレビを見ながらおもちゃで遊んでいて、私の姿を見ると、とても不思議そうな顔をした。私のことをおもちゃのお人形と勘違いしたのかしら?」

「おもちゃのお人形?」
「そうよ。だってあの時の私は、身長が五センチくらいしかなかったんだから」

 と、女性は嬉しそうに言った。私はわけがわからない。

 今まではあまり意識していなかった、女性の外見をじっと見つめた。
 私が三歳のときに、このひとは何歳だったのだろう。
 私と同い年くらいか、せいぜいほんのすこし年上にしか見えないのに。

 それよりもさらに気になるのは、彼女の今しがたの言葉だった。

「五、センチ?」
「ええ」
「それって……」

 ホームで立ち話をしている私たちのそばを、人々が通り過ぎていく。
 なんだか妙な感覚があるのは、なんなのだか、私にはまだわからなかった。

「私の名はリレーよ」
「リレー?」

「そう。つながるたびに大きくなるの」

 私は不安になった。
 彼女、まだ私の手をはなしてくれない。

 あまり長くつながっているとあぶない気がする。
 不安は大きくなるばかりだった。

「あの~。おとりこみ中かもしれないんですが・・・。」
 左肩の斜め後ろから、男の人の声がして、私は飛び上がり、思わずつながれている手を離してしまった。

 振り返ると、さっきの男性が、驚いた私を落ち着かせるような、低く優しい声で、けれど彼自身、戸惑っているのか自分の頭を触りながら、
「なんだか、痴漢に間違えられちゃったみたいだったから、気になって・・・。」

 女がようやく私の手を放した。
 そして男に向かって言った。
「この子を守るのは私の役目なの。あなたは必要ない」
 女と彼は険悪な雰囲気で見つめ合った。

「あの、私、誰からも守ってほしいなんて思ってません」

「でも、そう約束したのよ」
 そう言って女性はまるで春の日差しのように抱擁感のある笑みを浮かべる。表情のよく変わる人だ。
「誰と……ですか?」
 もしかしたら、友だちだったのかもしれない……と、小さいことになくなったお母さんの顔が頭に浮かぶ。この人の持っている雰囲気は、覚えているお母さんの雰囲気とよく似ている。
「いえ、違う」
 女性が、首を横に降った。そして口を開こうとする前に、その答えは別のところから提示されていた。
「――昔、5センチだったころの君と、だよ」
 それは、深みのある低い声だった。
「なんで、それを……っ」
 女性が、目を瞬時につり上げ、横から口をだした男性をキッと睨んだ。
 私は、まったく会話の意味が理解できず、ただ睨みつける女性とそれをゆったりと受け流す男性を見つめていた。
「その――」
 意を決して口を開く。
「お二人は、誰なんですか?」

 男性は私には見向きもせずに、女性に向かって言った。

「きみは、ここに来てはいけなかったんだ。僕ら『守護者』は、『庇護者』に会ってはいけない。それがルールだと、きみも知っているだろう」

 女性が、きつい調子で答える。
「ルールなんて、くそくらえよ!」

電車の中で知り合った男女というか、実はまるで知らないひとというか、彼と彼女のやりとりを呆然と眺めていると、うしろから声をかけられた。

「ひとりでなにをしてるの?」
会社の同僚だった。そういえば彼女は、この駅で乗り換えて家に帰るはずだ。
それはいいのだが、ひとりで? 

「え? あの、この人たちは……」
「この人たちって誰のこと? 連れがいたの?」
 私は男女を見つめ、同僚もそちらの方向に視線を向ける。だが、彼女の目には人の姿は映っていないように見えた。

不思議に思っていると、同僚が言った。
「そういえば、この先の駅で電車が脱線事故を起こしたらしいわ。けっこう大惨事らしいわよ。あなた乗ってなくてよかったわね」
「え…?」
それはもしかして、私が乗っていた電車だろうか…。

「驚いて当たり前よね。私もついさっき、速報を見た家族からの心配の電話で知って、まだちょっと、手が震えているもの。」
「・・・。」
考えがまとまらず、呆けている私に、
「でも、どうするの?今日は大切な日だからって、あんなに朝からハイピッチで仕事をして・・・?」
と言いながら私の肩を、ぽんぽんと優しく叩くと、突然真っ青になり、そのまま肩の骨を痛いくらいににぎりしめた。
「こ、この人達は?・・・」


同僚にも、この奇妙な人たちの姿が見えるのだろうか?

男性が突然、チョキの形にした手をのばして、同僚の目元に人差し指と中指をつきつけた。すると、同僚の体がいきなり、ぴくりとも動かなくなってしまった。奇妙な二人のほうへ訝しげな目をむけたまま、固まってしまっている。

「こ、この人に何をしたの!」

私は叫んだが、女性は脱線事故のあった場所のほうを見ていて、私が訊いたこととは全然関係ないことを言った。

「それにしても間一髪だったわね。あと少し遅かったら私たちも危なかったわ」

脱線事故?
急に現実に引きもどされた。

そうだ、あの電車にあのまま乗っていたら、私も大怪我か、へたしたら命を落としていたかもしれなかったんだ……。そう思ってみてはじめて、冷たい恐怖がおそってきた。
私は、背中に冷たい氷の手で触れられたような感覚をおぼえた。

「私はずぅっと、あなたを守ってきたのよ」

と、女性が私の手をとって、おだやかに言った。
私はなぜか怒りを感じて、大声を出した。

「もしかしてあの脱線事故……。あなたは知ってたの?」
「そうよ、私はあの事故が起こることを、予知してたの。だからあなたを電車から降ろしたのよ」

私は愕然とした。

たしかにこの女性は、いきなり私の手をとってあの電車から降ろさせたのだし、電車から降ろされなかったら、私は事故にまきこまれていた。

私は女性にくいいるように訊いた。

「どうして、そんなことができるのよ?」

女性はにっこりと笑う。

「私たちには、その力があるからよ。――そんなことより、ね……」

女性の目が、真剣味を帯びた。

「あなたは今日、二十歳の誕生日でしょ?」
「なぜ、そのことを……」

女性は、もどかしげに言った。

「私はあなたのことなら、何でも知っているの!」

それから、私に言い聞かせるような声音になった。

「あなたは二十歳になった。だからもう私たちと、『つながる』、ことが可能になったのよ。私は、ずっとこの時を待ってたの。あなたが二十歳になって、『つながる』、ことができる日を。私はあなたと、『つながる』、ことのために、ここに来たのよ」

「つ、つながる……?」

「そう。私はもう、すでに十二人の娘と、『つながって』いるわ。だからこんなに、大きくなれたの。あなたが子供の時に見た小さな、小人みたいな私は、あの時にはまだ二人の娘としか『つながって』いなかった。だから、あんなに小さかったの」

私の頭の中は虹色にかがやき、メリーゴーランドのようにぐるぐると回転した。もう、何がなんだか、わけがわからない。なにをどう考えたらいいのか……。

が、そのとき、男性が叫んだ。

「だめだ、だまされるな! この女の言うことを聞いちゃいけない! この女の言うとおりに、『つながって』しまったら、もう君は永遠に、この女の奴隷にされてしまうんだぞ!」

「だまりなさい! でたらめ言うんじゃない!」

女性が、もの凄い形相で怒鳴った。
そしてふところから取り出したのは……銃!
つぎの瞬間、女性が銃を撃つ音が鳴り響いた!

なんと、銃口から出てきたのは弾ではなく、光線だった。
黄色くてするどく光るものが銃から発射されて、それは男性の胸に当たった。
男性はうめいて、あっけなく倒れてしまった。

女性はそれを確認すると銃をしまい、すっかり呆けてしまっている私のほうを見た。
そしてあやしく、にたり、と笑った。

「これであなたは、私のものよ……」

えっ……?
そして私は女性の腕の中へからめとられ……
女性は私を包みこむように抱きすくめ、勝ち誇ったように高らかに笑ったのだった。



     *  *  *



目覚めると目の前に、同僚の娘の心配そうな顔があった。

「ちょっと大丈夫? あなた、急に倒れるんだもの……」

私は起きあがり、自分の手を持ち上げて、しげしげと見た。
私の手だ、これは……。私のものになった、人間の女の手……。
やっと、手に入れた……。
私はほくそ笑んだ。

少し離れたところにある道路を、一台の救急車がサイレンを鳴らしながら通りすぎた。
同僚の娘が言っている。

「さっきから救急車が何台も通って、やかましいったらないの。きっと脱線事故のせいね。あの走り去る救急車の中の一台を、あなたのためにまわしてもらいたくなったわ。倒れたあなたを運んでもらうためにね」

私は立ち上がり、服からほこりを払った。
同僚の娘が訊いた。

「立って、大丈夫?」

私は笑みを浮かべた。

「ええ、もうすっかり……」
「そう、よかった。じゃあ、そこまで一緒に行きましょ」

同僚の娘は歩き出しながら、話しつづける。

「それにしてもほんとに恐いわよねぇ、こういう事故って。自分では防ぎようもないんだもの。次から、電車に乗るのが恐くなっちゃったわ」

私はうふふ、と小さく笑って、同僚の娘の腕に、自分の腕をからませた。
うきうきしながら、言った。

「大丈夫よ、私があなたを守ってあげるから。これから、ずぅっとね……」


  ―了―


(個別詳細分)

1.乃梨香

「お疲れ様ぁ。」

 今日は、残業などしていられない。
 一目散にドアを飛び出し、エレベータホールへ向かう。

2.あかね

 急ぎすぎて化粧を直すのを忘れたと気がついた。
 電車の中で化粧直ししようかな。
 そんな恥知らずな真似はしたことがないけど、どうしようか。
 迷いながら電車に乗り込んだ。

3.早花鬼かつま

 車内を見渡すと隅の席が空いていた。あそこなら、化粧直しもできる、と駆け出す。でも電車が動き出して、自分の身体が思う方向へとは行ってくれなかった。

4.三田たたみ

「きゃあッ!」
 バランスを崩した私は、座席に向かい倒れ込んでしまった。
 知らない誰かの胸にすがりついたまま、恥ずかしさのあまり固まってしまう。
 目の前にあるネクタイの柄さえ頭に入ってこない。
「あの、大丈夫ですか?」
 スッと耳に忍び込んだのは、低くて艶のある男の人の声だった。

5.grho

「だ……だいじょうぶです」
 そう答えて身を起こしてから、少し後悔した。
 私がしがみついていたのは、30代に届くだろうか、という長身痩躯の男性だった。
 落ち着いた容貌が、私の好みのどストレートを言っている。
 男性が、相変わらず落ち着いた声で言う。
「そうですか、気をつけてくださいね」
 そして、私のせいで曲がったネクタイを、クイッと直した。

6.YUKA

 その時、ハッと気が付いた。
 化粧も直してない顔でその男性の顔を覗きこんでいる自分に。
 急激に体温が上がり、心臓がどくんと跳ね上がる。

 そんな私に気がついたのか、彼は私を一瞥して小さく笑った。

7.あかね

 電車は混んできていて、身動きがしづらい。このひと、好みのタイプだなんて思う男性の視線を意識すると、顔がどんどん熱くなってきた。
「ねぇ、あなた、あの男、痴漢じゃないの?」
 見知らぬ女性が私に問いかける。なにを誤解したのか、あの男とは、私がしがみついてしまっていた男性だった。

8.西幻響子

「いえいえ、違うと思いますよ」
 と私は答えたものの、心の中では違うことを考えていた。
 あんな素敵な外見をしていて紳士には見えても、『痴漢じゃない』とはっきりとは言い切れないんではないか? ひとは見かけだけではわからないものだ。でも……
 そう思いながらさりげなく顔をふりむけると、そこにはもうあの男性がいなかった。
 あれ? どこに行っちゃったんだろう?
 さっきまで無礼なことを考えていたことも忘れて、私はキョロキョロと男性の姿を捜してしまった。
 と、そのとき。
 私の手がいきなりぐい、と強い力で引かれるのを感じた。

9.早花鬼かつま

 手を引かれながらも、電車が止まっているのが解った。何処かの駅に到着したんだ。ホームから発車を知らせるベルが聞こえていた。引きずられて動いているだけの足は、そのベルの方へと向っている。
 えっ? ここで降りるの? 私の降りるのは、もう一つ先の駅なんだけど。今日は大切な日なんだから、こんなところで寄り道は出来ない。
 そう思ったけど、私の手をひっぱる強い力に抵抗する間もなく、私の足はホームに降りていた。ホームから見える街なみのイルミネーションが目に飛び込んでくる。
 こんなところで寄り道なんて出来ない。だってもうすぐ……。

10.あかね

「なんなんですか、どうして引っ張るんですかっ!! 私には行くところがあるんですよ」
 引っ張られて電車から降ろされてしまい、ホームでようやく相手の姿と顔を見た。
「え?」
 力が強いから男性かと思っていたら、私を引っ張ったのは先ほど「あの男、痴漢じゃないの?」と声をかけてくれた女性だった。

11.結麻月

「あれ? い、いや……あれは……」
 恥ずかしさこみ上げ、私はうつむく。
 否定するつもりだったのだが、その私の行動が誤解に油を注いでしまった様。
 その女性は突然に私の両手を優しく握りなおし、こう言ったのだ。
「大丈夫だから! 私が守るからね!!」と。

 その女性の表情はなぜかとても真剣で……。
 その勢いに押されてか、ただ呆然と私はその女性をじっと見つめていた。

12.乃梨香

 女性を見つめる私の視線の意味を悟ったのか、それまで真剣な眼差しだった女性の目は、ふいに柔和になり、
「私が、誰だか解からないのね。しかたないわよね、あんなに小さかったんだから。」

 包み込まれる春の日差しのような、その人の笑顔を見ていると、こんなに素敵な人が誰なのか思い出せない自分が、極悪人のように思えてきた。

13.西幻響子

 女性はやわらかな笑顔のまま、言った。

「あなたはあのとき…たぶん三歳くらいだったわ。とても可愛い女の子だった。テレビを見ながらおもちゃで遊んでいて、私の姿を見ると、とても不思議そうな顔をした。私のことをおもちゃのお人形と勘違いしたのかしら?」

「おもちゃのお人形?」
「そうよ。だってあの時の私は、身長が五センチくらいしかなかったんだから」

 と、女性は嬉しそうに言った。私はわけがわからない。

14.あかね

 今まではあまり意識していなかった、女性の外見をじっと見つめた。
 私が三歳のときに、このひとは何歳だったのだろう。
 私と同い年くらいか、せいぜいほんのすこし年上にしか見えないのに。

 それよりもさらに気になるのは、彼女の今しがたの言葉だった。

「五、センチ?」
「ええ」
「それって……」

 ホームで立ち話をしている私たちのそばを、人々が通り過ぎていく。
 なんだか妙な感覚があるのは、なんなのだか、私にはまだわからなかった。

15.tome館長

「私の名はリレーよ」
「リレー?」

「そう。つながるたびに大きくなるの」

 私は不安になった。
 彼女、まだ私の手をはなしてくれない。

 あまり長くつながっているとあぶない気がする。
 不安は大きくなるばかりだった。

16.乃梨香

「あの~。おとりこみ中かもしれないんですが・・・。」
 左肩の斜め後ろから、男の人の声がして、私は飛び上がり、思わずつながれている手を離してしまった。

 振り返ると、さっきの男性が、驚いた私を落ち着かせるような、低く優しい声で、けれど彼自身、戸惑っているのか自分の頭を触りながら、
「なんだか、痴漢に間違えられちゃったみたいだったから、気になって・・・。」

17.りん

 女がようやく私の手を放した。
 そして男に向かって言った。
「この子を守るのは私の役目なの。あなたは必要ない」
 女と彼は険悪な雰囲気で見つめ合った。

「あの、私、誰からも守ってほしいなんて思ってません」

18.grho

「でも、そう約束したのよ」
 そう言って女性はまるで春の日差しのように抱擁感のある笑みを浮かべる。表情のよく変わる人だ。
「誰と……ですか?」
 もしかしたら、友だちだったのかもしれない……と、小さいことになくなったお母さんの顔が頭に浮かぶ。この人の持っている雰囲気は、覚えているお母さんの雰囲気とよく似ている。
「いえ、違う」
 女性が、首を横に降った。そして口を開こうとする前に、その答えは別のところから提示されていた。
「――昔、5センチだったころの君と、だよ」
 それは、深みのある低い声だった。
「なんで、それを……っ」
 女性が、目を瞬時につり上げ、横から口をだした男性をキッと睨んだ。
 私は、まったく会話の意味が理解できず、ただ睨みつける女性とそれをゆったりと受け流す男性を見つめていた。
「その――」
 意を決して口を開く。
「お二人は、誰なんですか?」

19.西幻響子

 男性は私には見向きもせずに、女性に向かって言った。

「きみは、ここに来てはいけなかったんだ。僕ら『守護者』は、『庇護者』に会ってはいけない。それがルールだと、きみも知っているだろう」

 女性が、きつい調子で答える。
「ルールなんて、くそくらえよ!」

20.あかね

電車の中で知り合った男女というか、実はまるで知らないひとというか、彼と彼女のやりとりを呆然と眺めていると、うしろから声をかけられた。

「ひとりでなにをしてるの?」
会社の同僚だった。そういえば彼女は、この駅で乗り換えて家に帰るはずだ。
それはいいのだが、ひとりで? 

「え? あの、この人たちは……」
「この人たちって誰のこと? 連れがいたの?」
 私は男女を見つめ、同僚もそちらの方向に視線を向ける。だが、彼女の目には人の姿は映っていないように見えた。

21.りん

不思議に思っていると、同僚が言った。
「そういえば、この先の駅で電車が脱線事故を起こしたらしいわ。けっこう大惨事らしいわよ。あなた乗ってなくてよかったわね」
「え…?」
それはもしかして、私が乗っていた電車だろうか…。

22.乃梨香

「驚いて当たり前よね。私もついさっき、速報を見た家族からの心配の電話で知って、まだちょっと、手が震えているもの。」
「・・・。」
考えがまとまらず、呆けている私に、
「でも、どうするの?今日は大切な日だからって、あんなに朝からハイピッチで仕事をして・・・?」
と言いながら私の肩を、ぽんぽんと優しく叩くと、突然真っ青になり、そのまま肩の骨を痛いくらいににぎりしめた。
「こ、この人達は?・・・」

23.西幻響子(ラストまで西幻さんです)

同僚にも、この奇妙な人たちの姿が見えるのだろうか?

男性が突然、チョキの形にした手をのばして、同僚の目元に人差し指と中指をつきつけた。すると、同僚の体がいきなり、ぴくりとも動かなくなってしまった。奇妙な二人のほうへ訝しげな目をむけたまま、固まってしまっている。

「こ、この人に何をしたの!」

私は叫んだが、女性は脱線事故のあった場所のほうを見ていて、私が訊いたこととは全然関係ないことを言った。

「それにしても間一髪だったわね。あと少し遅かったら私たちも危なかったわ」

脱線事故?
急に現実に引きもどされた。

そうだ、あの電車にあのまま乗っていたら、私も大怪我か、へたしたら命を落としていたかもしれなかったんだ……。そう思ってみてはじめて、冷たい恐怖がおそってきた。
私は、背中に冷たい氷の手で触れられたような感覚をおぼえた。

「私はずぅっと、あなたを守ってきたのよ」

と、女性が私の手をとって、おだやかに言った。
私はなぜか怒りを感じて、大声を出した。

「もしかしてあの脱線事故……。あなたは知ってたの?」
「そうよ、私はあの事故が起こることを、予知してたの。だからあなたを電車から降ろしたのよ」

私は愕然とした。

たしかにこの女性は、いきなり私の手をとってあの電車から降ろさせたのだし、電車から降ろされなかったら、私は事故にまきこまれていた。

私は女性にくいいるように訊いた。

「どうして、そんなことができるのよ?」

女性はにっこりと笑う。

「私たちには、その力があるからよ。――そんなことより、ね……」

女性の目が、真剣味を帯びた。

「あなたは今日、二十歳の誕生日でしょ?」
「なぜ、そのことを……」

女性は、もどかしげに言った。

「私はあなたのことなら、何でも知っているの!」

それから、私に言い聞かせるような声音になった。

「あなたは二十歳になった。だからもう私たちと、『つながる』、ことが可能になったのよ。私は、ずっとこの時を待ってたの。あなたが二十歳になって、『つながる』、ことができる日を。私はあなたと、『つながる』、ことのために、ここに来たのよ」

「つ、つながる……?」

「そう。私はもう、すでに十二人の娘と、『つながって』いるわ。だからこんなに、大きくなれたの。あなたが子供の時に見た小さな、小人みたいな私は、あの時にはまだ二人の娘としか『つながって』いなかった。だから、あんなに小さかったの」

私の頭の中は虹色にかがやき、メリーゴーランドのようにぐるぐると回転した。もう、何がなんだか、わけがわからない。なにをどう考えたらいいのか……。

が、そのとき、男性が叫んだ。

「だめだ、だまされるな! この女の言うことを聞いちゃいけない! この女の言うとおりに、『つながって』しまったら、もう君は永遠に、この女の奴隷にされてしまうんだぞ!」

「だまりなさい! でたらめ言うんじゃない!」

女性が、もの凄い形相で怒鳴った。
そしてふところから取り出したのは……銃!
つぎの瞬間、女性が銃を撃つ音が鳴り響いた!

なんと、銃口から出てきたのは弾ではなく、光線だった。
黄色くてするどく光るものが銃から発射されて、それは男性の胸に当たった。
男性はうめいて、あっけなく倒れてしまった。

女性はそれを確認すると銃をしまい、すっかり呆けてしまっている私のほうを見た。
そしてあやしく、にたり、と笑った。

「これであなたは、私のものよ……」

えっ……?
そして私は女性の腕の中へからめとられ……
女性は私を包みこむように抱きすくめ、勝ち誇ったように高らかに笑ったのだった。



     *  *  *



目覚めると目の前に、同僚の娘の心配そうな顔があった。

「ちょっと大丈夫? あなた、急に倒れるんだもの……」

私は起きあがり、自分の手を持ち上げて、しげしげと見た。
私の手だ、これは……。私のものになった、人間の女の手……。
やっと、手に入れた……。
私はほくそ笑んだ。

少し離れたところにある道路を、一台の救急車がサイレンを鳴らしながら通りすぎた。
同僚の娘が言っている。

「さっきから救急車が何台も通って、やかましいったらないの。きっと脱線事故のせいね。あの走り去る救急車の中の一台を、あなたのためにまわしてもらいたくなったわ。倒れたあなたを運んでもらうためにね」

私は立ち上がり、服からほこりを払った。
同僚の娘が訊いた。

「立って、大丈夫?」

私は笑みを浮かべた。

「ええ、もうすっかり……」
「そう、よかった。じゃあ、そこまで一緒に行きましょ」

同僚の娘は歩き出しながら、話しつづける。

「それにしてもほんとに恐いわよねぇ、こういう事故って。自分では防ぎようもないんだもの。次から、電車に乗るのが恐くなっちゃったわ」

私はうふふ、と小さく笑って、同僚の娘の腕に、自分の腕をからませた。
うきうきしながら、言った。

「大丈夫よ、私があなたを守ってあげるから。これから、ずぅっとね……」


  ―了―


あかねからのあとがき

書き込みして下さったみなさま、見守って下さったみなさま、今回も本当にありがとうございました。
さりげない幕開けがこんなふうなエンディングを迎えるとは。
西幻響子さんに最終話の原稿をいただいたときには、うわーっ、すごーい、でした。

管理人としましては、リレー小説の場を提供させてもらっただけで、最初と最後は乃梨香さんと響子さんにゆだねてしまったわけで、さぼっていたようなものですが、とっても楽しかったです。

ご意見やご感想もよろしくお願いします。
西幻響子さんのブログでも公開予定です。

http://rocknrollhaze.blog.fc2.com/





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~ Comment ~

おお~! 凄いですねぇ。
あかねさん、早速のアップ、ありがとうございました!

素晴らしい。
長いかもしれませんが、ちゃんと行間がとってあるので読みやすいと思います。

記事前後の、あかねさんのコメントにも感謝です。

で、私、考えたんですが、西幻のブログのほうでも同じように公開したのでは能が無いので、うちのブログでは「省略版」をちょろっと出すことにしました。

で、その「省略版」にあかねさんのブログ記事へのリンクをはらせていただきます。

ではでは、ご協力して書いてくださったみなさま、ありがとうございます!
そしてあかねさん、素敵な企画をありがとうございました!

うわ~~、すごい!
リレー小説って、読むほうもすっごく良い意味で緊張するし、そしてうまくつながった時の感動ったらないですね。
まるで筋書きがあったように流れて行く物語。
皆さんの、機転のきく舵取りにも感服です。
そして西幻さんのラストのくくり方、さすがです。
なんか、ファンタジーのような、ホラーのような、不思議な味わいでした。

すごいなあ~~。
公開、ありがとうございました^^

響子さん、お世話になりました

「ロックンロールヘイズ」のほうも確認してきました。
最初の部分を書いてくれた乃梨香さんも、コメントしてましたね。

いやぁ、ほんとに、あれがこうなるの?!
すごーい!! でしたよ。

私は「5センチ」というところで、背後霊? と思ったのですが。。。
けっこう怖いラストですのに、読後感爽やかって、不思議といえば不思議ですよね。

改めて響子さんの才能には感動しました。
もしもまた機会がありましたら、ぜひご参加下さいね。
ありがとうございました。

limeさん、早速のお越し、感謝します

今回は最初と最後をおまかせしてしまったのもありまして、私もかなり緊張していました。

私は途中でちょこっと書いただけですから、みなさまのおかげでこんなふうにしていただけて、感謝感激です。

でも、ほんとに、文章的にもけっこうまとまってますよね。
これを「リレー」だと書かずにどこかに発表しても、あまり違和感はないかと思ってしまいます。

この次の機会がありましたら、limeさんもぜひご参加くださいませ。
読んでいただいてありがとうございました。


拍手コメントへのお返事でーす

ほんと、かっこよく決まったな、って感じですよね。

ひとえにみなさまのおかげです。
ありがとうございましたー。

こんばんは♪

おお!

凄くカッコよく決まってますね^^
ラストどうなるのだろうと思ってましたが
こんなに長く繋がっているとは~~~
もう一回ぐらい参加しておけばよかった(笑)

遅れてしまってすみません。

それにしても、リレー小説って面白いですね!^^

おおおおっ

さすが、皆さま。
館長のリレー発言をまとめた西幻さん、スゴイ!
なんだかホラーになっているところもスゴイ!
いや、館長が絡んだ時点でホラー化は避けられなかっただろうか…(--;

いやいやいや、褒めてるんですって!
(館長に逆襲されないようにこっそりしておかねば…)

しかし、こういう企画でみなさまをつなぐことが出来るあかねさん、素晴らしいです(^^)

絆、って昨年の言葉ですが、日本人の心がそれかも知れません。

すみません。

ちょっとでも話が長くなると流れが理解できなくなる持病が出まして、途中で一両だけ早々に脱線転覆してしまいました。
連結器と車輪に欠陥があったようです。

YUKAさん、ご参加ありがとうございます

コメントもありがとうございます。

タイトルはどうしようかとかなり悩んだのですけど、リレー小説=つながる、かなぁ、なんて思いました。

今回は「つながる」がけっこうキーワードでしたし。

完成しましたのはみなさまのおかげです。
ありがとうございました。

fateさん、ありがとうございます

fateさんは普通の物語になりそうだと言っておられて、私もそう思っていたのですけど、こうなりましたねぇ。

すごいですよねぇ。

私はちょっとだけしか書いてないのに、そのほうが緊張するものだと知りました。
楽しかったです。

館長さん、ご参加ありがとうございます

いえいえ、脱線なんかしていませんよぉ。
ご参加いただいて嬉しかったです。

館長さんは短篇作家でいらっしゃるのですよね。
不思議な味わいのある館長さんの物語もまた、読ませていただきます。

今後ともよろしくお願いします。

ありがとうございました。

とにかく一言、楽しかったです。
茜さんをはじめ、皆様おつかれさまでした&ありがとうございましたm(_ _)m

拍手コメントにも書きましたが、西幻さんのラストに感動です。

今だから言えますが、
茜さんに書き出しのお話を頂いたとき、平凡な発想しかできない私は、前回の主人公が男性だったので、今回も男性だろうと・・・・(^_^;)
男性目線で書いたつもりが・・・(!o!)

これだから、リレー小説はやめられませんね(= ̄m ̄=) ̄m ̄=) ̄m ̄=)

茜さん、本業(フォレストシンガーズ)の方もお忙しいでしょうが、また、どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m

ああ、よかった^^

わたし、また電車に乗せるところだった(笑)
勝手に変な役割(電車への乗り降り)をしていただけですが、参加できてよかったです。
ありがとうございました。

乃梨香ちゃん、実は……

第二話を書いた私は、電車の中で化粧する……これが男性だったら面白いかも、なんて、よこしまなことを考えていました。

第一話の時点ではまったく、なにがどうころんでもいい感じでしたものね。

またやりたいなぁ、と言って下さる方が他にもいらっしゃいましたら、ぜひまたやりましょう。

もしかして、「私が(僕が)ラストを書いてもいいよ」と言って下さる方がおられましたら、ぜひこちらに書いて下さいね。

参加して下さった方の裏話なども募集しておりますので、いくつかエピソードがありましたら、またまとめて公開したいなぁとも考えています。

かつまさん、ご参加ありがとうございます

そうでしたね。かつまさんは電車に乗せて、降ろす役目。
お疲れさまでした。(=^・^=)

彼女はどこへ向かっているのか? という疑問もありましたが、バースディパーティ会場だったみたいですね。

私は無責任にわくわくしていただけですが、ほんと、楽しかったです。
またの機会にもよろしくお願いします。

はじめての参加

楽しかったです。
ありがとうございました。
こんな風にまとまるなんて素晴らしいですね。
全部の話がちゃんと繋がっている。
面白いですね。
初参加でちょっとドキドキしましたが、参加してよかったです。またお願いしますね^^

拍手コメントのお礼です

Yさんへ

ありがとうございます。

なにかいい企画でもありましたら、
教えて下さいませね。

またの機会にはぜひぜひ、よろしくお願いします。

りんさん、ご参加ありがとうございます

リレー小説って完成すると達成感がありますよね。
ご参加下さったみなさまのおかげさまで、私も楽しませていただきました。

またの機会がありましたら、
ぜひともよろしくお願いします。
ありがとうございました~~

あらためて感想を書きに^^

年始は忙しく、あまりたくさん参加できなくてすみません。わたしは、あまり小説って得意じゃないんですが、リレー小説ってなんか嬉しいですよね。
しかもこんなに綺麗に終わりを迎えるなんてすごいなぁ。西幻さんすごいひとですねw
これだーみたいのがグッと来て素敵でした。
リレーを見返してみるとYUKAさんも、ほほほ~とおもってしまうところがあり一体となってる感じがすごいです^^あかねさん、また懲りずによろしくお願いしますね!ありがとうございました。ちなみにフォレストシンガーズは、ちゃんと番外編も混みの状態で時代に沿ってもう一度読んでいきたくなりますw

結さん、ご参加ありがとうございます

結さんはお仕事柄、いつでもお忙しいでしょうに、参加して下さってありがとうございました。

西幻さん、すごいですよねー。
あんなに見事にまとめて下さって、私も感動しました。

お忙しいでしょうけど、お時間ができましたら、また遊んでやって下さいね。お待ちしていまーす。
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