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'Xマスストーリィ「ZEMAITIS」

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「ZEMAITIS」

 その英文字が燦然と輝いて見えた。
「ほしいなぁ、ギターがほしいよ」

 アコースティックギターならば、高校に入ってバイトでもして金を貯めれば買えるはずだ。だが、エレキは高い。しかも俺がほしいのは、ジェフ・ベックやエリック・クラプトンなども使っているという名器だ。中学生に買えるはずがない。

 稚内の駅前でストリートロッカーの演奏を見て以来、中学三年生の俺のハートに「ロック」が刻印された。ロックをやりたい。バンドを組みたい。ギターが弾きたい。

「父さん、ギター買って」
 恐る恐るねだってみたら、馬鹿、のひとことであしらわれた。

 CDを買うにも不自由する稚内の町には、楽器店もあんまりない。俺の憧れのゼマイティス……ゼメィティスか……読み方すらもはっきりとはわからないギターが飾られたショーウィンドーに鼻をくっつけるようにして、俺はただ見つめていた。

「坊や、それがほしいの?」
 よほどものほしげだったのか、見知らぬおばさんが声をかけてきた。

「ほしいけどさ……」
「坊やはロックをやってるの?」

「これからやるんだ。高校に入ったらバンドを組んでギタリストになりたいって……」
「息子を思い出すわ」

 すこし太ったおばさんは、吐息を漏らしてから言った。

「うちの息子もギターをやってたのよ。これと同じギター、うちにあるわ」
「へええ、いいな」

「よくないわよ。息子は死んでしまったんだから、ギターを使う人もいないの。坊やは真剣な目でギターを食い入るように見てたね。ゼマイティスでしょ。うちにあるギター、あなたにあげようか」

「ゼマイティス……だけど……そりゃ、ほしいけど……」
「今日はなんの日か知ってる?」

 クリスマスイヴだとは知っている。二歳になった弟はクリスマスって言葉を覚えて、サンタさん、プレゼント、ごちそう、などと言ってはしゃいでいた。母が弟のためにパーティをすると言っていたから、早く帰って俺も参加しなくてはいけない。

 ほんとは彼女とふたりっきりでパーティでもしたいけど、金がない。彼女にしたって家でクリスマスパーティだそうだから、俺とはすごせない。はしゃいでいる弟につきあう気にもなれなくて、俺はひとりで街に出てギターを眺めていたのだ。

「私からのクリスマスプレゼント、受け取ってよ。あなたは見た目も息子に似てるの。息子のギターを捨てるのは忍びないし、置いておくと見るたび悲しいでしょ。あなたにあげたら供養にもなるわ。もらってやって」

「でも、親父が……」
「貸してもらったんだとでも言っておけば?」

 貸してもらったと言っても、親父はぐだぐだ言うだろう。だからもらうわけにはいかないけど、この手で触れてみたかった。弾けもしなくても、ギターを抱えて真似事をしてみたかった。

「見せてもらってもいい?」

 楽器店でだってさわらせてもらえるのかもしれないが、買う気はないのだから気が引ける。おばさんがうなずいたので、徒歩でいけるという住まいまで一緒に歩いていった。住まいにつくまでの間には、俺は中学三年生だという話もした。

「これよ」

 小さいマンションの一室に入ると、おばさんが大事そうにギターケースを出してきた。黒いケースの中には憧れのゼマィティス。ごくりと俺の喉が鳴り、コートを脱いでそっとギターを抱いた。

「チューニングっていうのをしないといけないんじゃないの?」
「そうみたいだけど、俺にはどうやったらいいのかもわからないよ」

 ケースの中にあったピックでギターを鳴らしてみる。ギターなんてろくに弾いたこともない俺が出しているのに、すごくいい音だって気がした。

「そうやってると、息子が生き返ってきたみたい。ヨウイチ……」
「俺はヨウイチじゃないよ」

「ちょっとだけヨウイチになって……会いたかったわ、ヨウイチ」
「あ、あのね」

 ギターを抱いている俺を、おばさんが抱きしめる。俺の肩に頬を埋めてヨウイチ、ヨウイチ、と囁いている。気持ち悪いのを我慢していると、おばさんの片手が俺の下半身に伸びてきた。

「あのね、変なことすんなよな」
「そのギター、あげるから。あげるわよ。だけどね、無料ってわけにはいかないって、中学生にだってわかるでしょ」

「無料じゃなかったらいくら? 中古だから安くしておくって? 安くても俺には金なんかないよ。ちょっと、さわんなってば」

 妙な動きをしている手を払いのけようとしていると、おばさんは甘ったるい声を出した。

「お金じゃないわよ。こうなったら正直に言うけど、そのギターは息子のものではないの。息子なんかいないの。私は独身なのよ」

「そしたら?」
「私を捨てて出ていった男のものよ。そんなのはいらないから、あんたにあげる。だからね、私と……坊や、ね、わかるでしょ?」

「……俺はまだガキだよっ。うぎゃっ、離せ!!」
「待ってよっ!!」

 私にそんな大きな息子がいるわけないでしょ、私はまだ若いんだからね、などと言っているおばさんを突き飛ばすようにして、コートをひっつかんで、俺は夢中になってマンションから飛び出した。三十だか四十だか知らないけど、俺はおばさんと「私と……ね?」と言われるようなことをする気はない。

 女の子とはキスくらいしかしたこともないってのに、俺の蕾をあんなおばさんに散らされてなるものか。見知らぬ女からのクリスマスプレゼントだなんて、そんなうまい話があるわけはないのだ。

 熱くなってしまった頬をこすりながら、寒い稚内の街を歩く。両親は弟へのクリスマスプレゼントはあれこれ考えていたが、俺にはなんにも考えてもいないだろう。それでもいいから、今夜は俺がサンタさんになってやろうか。あんな女とどうこうするよりは、弟のためのサンタさんのほうがいい。

 一瞬だけ抱きしめたギターの感触の余韻を楽しみながら、俺は家路をたどる。高校生になったらバイトして、大学生になるまでにはエレキが買えるだろうか。ゼマィティスでなくてもいいから、きっと俺は自分の力でエレキを買って、自分の力でロックスターになってみせるんだ。

おしまい


主人公の中学三年生は、フォレストシンガーズストーリィを読んで下さっている方にはおなじみの彼です。弾けないくせにギター大好きの私は、ZEMAITISのフィギュアを買って、このストーリィを思いつきました。
クリスマスストーリィなのだから綺麗に可愛く書きたかったのですが、私が書くとこうなってしまいました。現実はこんなものですよね。


 
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~ Comment ~

拝読しました!

おもしろかったです!
心温まる物語かと思いきや、予想外の結末でしたw
ですが、ゆない。はこういうオチのある話が大好きですので、とっても楽しめました!
しかも、エレキギターが出てきたので、テンションマックスです!

あかねさんもギターを始めてみてはどうですか? 最初のほうだけ頑張って練習すれば、意外と弾けますよw

ちなみに、ゆない。はレスポールというギターが一番好きです!

クリスマス・ストーリィ

おおおおおおっ、章くんですか?
ギター弾けないときから好きだったんですね~
年季が入ってるんだぁ…

なんだか、妙にしみじみしました。
fateのクリスマス企画も、実はある世界の外伝です。
クリスマス企画ったってそんなモンです(^^;
まったく新たな世界を描くつもりが、人物をイメージした途端、既成の子たちが出てくる始末。

短編ごときに、新たな人物、新たな背景設定なんかやってられっかっ…と思ったかどうかは定かではないが、まぁ、そういうことだ(^^;

ゆない。さんと同じく、オチに斬新さを感じました。
fateだったら、たぶん、冒頭そのままのふつーのハナシになってたであろう(--;

ゆない。さん、早速ありがとうございます。

なんだか品のない話しになってしまったなぁと思っていましたので、そう言っていただいてほっとしました。

私は遠い昔、ピアノを習っていたのです。
それは子供のころで、先生が結婚して遠くへ行ってしまっておしまいになったのですね。

それから十年以上たって、ギターが弾きたくて弾きたくてたまらなくなって、教室に通いはじめました。
でも、駄目でした。まるで上達しないのです。
クラシックギターだったから、あまり興味が持てないのもあったのでしょうか。

しかし、学校の音楽の時間でも器楽というと大嫌いでしたから、楽器の才能はゼロなんですよ。
そのくせ楽器が大好きで、キーホルダーだとかナノブロックだとかフィギュアだとかを集めています。
自分の手の届かないものにはよけいに憧れるのですよね。

fateさん、ありがとうございます

fateさんもクリスマス企画、やってらっしゃるんですか? もうアップされてます?

私もまったく新しい世界を創りたいのですけど、どうしても愛着のあるわが子が出てきてしまって、猫といえば幸生、ギターといえば章なんですよね。

私は品性が卑しいから、こういう発想をしてしまうんだなぁ、なんて思ったりもしましたので、ゆない。さんとfateさんがそう言って下さって、安心しています。

ありがとうございました。
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