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小説274(White breath)

 ←番外編81(異・水晶の月6)《特殊編3・美月さん》 →キャラへの質問バトン(木村龍です)
まどがらす

フォレストシンガーズストーリィ

「White breath」


1・隆也

 本名は佐藤有華。いい名前だと思うのだが、本人は言う。
「私には華やかなんてないから、有華じゃなくてナシカだったらいいのよ」
「……果物の梨と華でリカにする?」
「そうじゃなくてムカ」
 無華だなんて「むかむかっ」って感じでよくないだろ、と本橋と俺は言い、三人で彼女のペンネームを考えた。
 彼女はフォレストシンガーズのライヴスタッフである、佐藤くんの妹だ。小柄で可憐なタイプなので、佐藤くんから相談を受けたときには、タレントになりたいのかと思った。ところがそうではなく、文筆家志望だと言うのだった。
「乾さんは文章のほうにも一家言お持ちでしょ。有華の書いたシナリオを読んでやっていただけませんか」
「シナリオのほうなんだね。俺には一家言なんてないけど、読むだけだったら読ませてもらうよ」
「お願いします」
 兄の横で無口でいた有華も、そろって頭を下げ、俺は有華の書いたシナリオ、「砂糖家の人々」を受け取って帰った。
 砂糖とは佐藤をもじったのか、ホームドラマなのかと思って読んでみて、爆笑した。破壊的スラプスティックコメディだったのだ。偏見かもしれないが、若い女性がこんなものを書くのは珍しい。甘党の佐藤一家のドタバタハチャメチャ劇だった。
 面白い、最高、これはいいな、とは思ったものの、俺にはシナリオの値打ちなんてわからない。しかし、我々にはシナリオライターの知り合いがいる。
 シゲが結婚した年に、我々フォレストシンガーズは初のラジオドラマ出演を果たした。あれは四年ほど前、みずき霧笛さんという新進気鋭のシナリオライターがラジオ局に応募した「水晶の月」が大賞に輝き、みずきさんはプロになった。
 「水晶の月」が送られてきたラジオ局には、我々の先輩の沢田愛理さんがアナウンサーとして勤務していた。沢田さんはシナリオを読み、これって誰かに似てるな、と感じたのだそうだ。
 理系大学の男子学生寮に集った、癖のある学生たち。金子将一とフォレストシンガーズの面々みたい、と感じた沢田さんが上層部にも進言し、みずきさんとも相談し、ラジオドラマのキャラクターを改名した。
 四年生の寮長は金子将一。一年生たちは、本橋真次郎、本庄繁之、三沢幸生、木村章、乾隆也、改名された彼らをその名の通りの同名異人が演じると決まり、俺たちフォレストシンガーズと先輩の金子さんはにわか声優となった。
 詩を書き、曲を書き、バンドを結成する真次郎や隆也たちは、事実、おおもとの設定からして我々と似通っていた。気が弱いという部分はまったくちがっているものの、下級生たちに力を貸してくれる寮長も、金子さんに似ていた。
 名前が同じだとむしろやりづらくはあったのだが、俺も楽しく仕事をさせてもらった。幸生なんぞは嬉々として役柄に取り組み、生来の芝居好きが花開いたともいえる。
 そんないきさつで知り合ったみずきさんには、幸生が小説を書いてほしいとお願いをしたりもして、親しくなっている。みずきさんならばシナリオライターの先輩なのだから、有華の作品を見てもらって評価してもらえるだろう。
「あのドラマがきっかけで、私も文筆で生計が立てられるようになってきつつあります。沢田さんと金子さんの仲というのは……」
「ある意味はみずきさんのおかげもあるのかもしれませんね」
「私のおかげなんてのはないでしょうけど、微々たるお役にでも立てたのならば嬉しいですよ」
 彼ともっとも親しいのは幸生だが、俺も親しくはしてもらっている。みずきさんの書いた小説やら、金子さんと沢田さんの恋愛やらの話もして、俺は彼に有華の書いたシナリオを託した。
「私も新人ですから、そちらのお役に立てるかどうかは……読ませてはいただきますが」
 そう言っていたみずきさんから、後日、連絡があった。
「傑作だと思います」
「そんなに?」
「私は審美眼には自信は……あるとは言えませんが、佐藤有華さんの才能は素晴らしいですよ」
 十年近く前に、本橋がオフィス・ヤマザキの社長から電話をもらったのを思い出す。
 コンテストで敢闘賞を受賞し、その程度ではプロにもなれっこないと落ち込んでいた我々は、音楽プロダクションの社長が俺たちをプロにしてくれるそうだ、の報を聞いて天国へと舞い上がった。舞い上がりすぎて地上に上手に着地できずに、リーダー本橋真次郎が高熱を出して寝込んでしまったのだが。
 他の面々も上手に着地できなかったからこそ、数年間は「売れない」アリ地獄の中でもがいていたのか。地獄から脱却しつつあった時期と、みずきさんと知り合い、シゲが結婚した時期が一致する。あれからはさまざまに好転して、現在に至る。
 有華もあのころの我々と同じように、みずきさんからの連絡を受けて舞い上がったのだろう。これだけの才能には私が手助けしたい、とみずきさんは言ってくれ、有華は彼の手にゆだねられた。
 「砂糖家の人々」は劇団が舞台にかけると決まり、有華はラジオ番組の台本や脚本を書くようにもなった。正式にデビューするのだからペンネームをつけたいと言う有華の相談に、本橋と俺は幾度もつきあった。
 芝居が好きでシナリオも書いてみたことがあると言う幸生は、やや本気みたいな口調で言っていた。
「佐藤有華ちゃん。可愛い子だって聞いたけど、すげえ才能の持ち主なんでしょ。俺、ひがみたくなりそうだから会いたくないな。よろしく言っておいて下さいね」
 章やシゲはもとよりそういう女性を敬遠したがるので、本橋と俺と有華が親しくなっていったのだ。彼女のペンネームについての相談はいっかなまとまらず、ある日、ついに彼女は言った。
「平凡なほうがいいかも。佐藤ゆうこってどうかな?」
「さとう、はシュガーの?」
「姓は本名の佐藤です」
「いいかもな」
「うんうん、いいんじゃねえのか」
「本橋さん、メンドクサクなってきたんでしょ」
 いやいや、と笑っていたが、本橋としては有華が言った通りだったのかもしれない。
 そうして放送作家の佐藤ゆうこが誕生した。どんな世界でも若い才能は重用される。二十一歳の佐藤ゆうこはラジオの世界では寵児となっていった。
「でも、ラジオの仕事って世界が狭いし、マイナーだよね」
「さらなるメジャーを目指したい?」
「テレビに進出したい」
「ああ、その手もあるんだね」
 本橋さんには言わないで、乾さんとふたりきりがいいの、と誘われて、ゆうこと酒を飲んだ一夜だった。
「セクハラだとかパワハラだとかってのは、気持ちの持ちようでしょ。女の側がそうは考えなかったらいいんだよね」
「……ゆうこ、それって?」
 有華ちゃんなんて呼ばないで、ゆうこって呼んで、と言ったのも彼女だ。恋人でもない女性を呼び捨てにするのも、ペンネームならば抵抗は少ない。俺は三十三歳になり、ゆうこは二十二歳になった今は、俺は彼女を呼び捨てにしていた。
「そんな誘惑があるの?」
 テレビ界に口をきいてやるから、私と……? ゆうこを魔の手にかけようとしている放送業界の男がいるのか。
「きみはそんな手に……」
「深刻な顔をしないで。私がセクハラだとか考えなかったらいいんだもの」
「そうだろうか」
「そうだよ」
 恋人だったら強く止める。だが、恋人だったとしても、上昇志向、野心を持つ女性が自ら納得して魔の手にさらわれていくのならば、他人である俺には止め切れないかもしれない。ましてゆうこは友人とも呼べない仲の女性だ。説得しようとしてもはねつけられた。
「乾さんはお説教好きだから、そんなところがうざいのよ」
「説教癖のある奴だとはいつも言われるけど、きみだって俺の性格は知ってるだろ。一年ほどは親しくしてるんだから。俺にそんな話をしたら説教されるって、わかってて話したんだろ。止めてほしいっていうのはなかったの?」
「うぬぼれないでよ」
「……うぬぼれか」
 激しいまなざしで、彼女は俺を凝視した。
「そしたら、乾さんがどうにかしてくれるの? 他力本願はいけないって知ってるけど、私ひとりの力では限度がありすぎるの。誰かが私に手を貸してくれるんだったら、代償を支払ってでもその手にすがりたい。世の中の男はみずきさんみたいなお人よしばかりじゃないんだからね」
「みずきさんは高潔な男性だろ。お人よしって、きみの言い方だと褒め言葉になってないよ」
「褒めてなんかいないもの。みずきさんはあんなんだったら、小物のまんまだろうね」
「それをみずきさんに面と向かって言えるのか」
「怖い顔をしなくてもいいじゃない。乾さんしか聞いてないから言ってるの。私は恩知らずなのよ」
 本気で言っているのかどうかは知らないが、心が寒くなった。
 ライヴスタッフの妹である佐藤有華は、高校生のころから兄にくっつくようにして、ライヴの裏舞台を見学しにきていた。あのころのぽちゃっとした笑顔はどこに消えたのか。年齢以上に大人になって、きびしい業界で揉まれて翳までをまといつかせるようになった。
「それでね、だけどね、いやらしいオヤジに抱かれるわけじゃない? 私だってはじめてじゃないけど、そんなセックスは楽しくないよね。難行苦行でしょ」
「ならばやめ……」
「乾さんに相談してるんじゃないのよ。聞いて」
 口を閉ざすと、ゆうこは甘い声を出した。
「私は乾さんが好きってわけでもないし、恋をしてるなんてことはないのよ。でも、いやらしいオヤジなんかよりはずっとよさそう。いやなオヤジに抱かれる前の口直し? 口直しにはならないから、にんにくをかじる前に口内リフレッシュかな。乾さん、私と寝ようよ」
 返事をする気にもならなくて、立ち上がった。
 女を売りものにしたがらない女は、ベッドシーンで羞恥を覚えること自体が羞恥なのだと聞く。遠い昔の俺の彼女……加奈もそうだったのかもしれない。俺が下着に手をかけると怒った顔をして、自分で脱ぐ、と言い張った。
 それでもいつしか、加奈だって脱がせてくれるようになった。胸を覆う布をはずすとこぼれる乳房、可愛いプリントの布地を下ろすと、ぷりんっと出てきた愛らしい尻。加奈の怒った顔がとろっと崩れて、可愛い羞恥もこぼれていた。
 ふたり目のベッドの相手、純子は羞恥心はあまりなかったね。きみは俺よりも年上だったから、姉さんぶりたがって、隆也くんの前で恥らうなんてプライドが許さなかったんだろ。それはそれで可愛いなんて言ったら、俺をつねったっけ。
 それからだって何人もの女を抱いた。モデルの菜月……背が高くて大胆で、あたしは胸が小さくて恥ずかしい、なんて言った表情が可愛かった。それからあのひとも、彼女も、俺が抱いた女はみんなみんな可愛かったよ。
 外見は俺の好みのタイプ、有華。有華は嫌いではないが、ゆうことはベッドでおつきあいしたくない。強がらないと泳いでいけない業界に入ったのは、彼女にとって幸せなのだったらそれでもいいけれど、俺は後悔したくなる。
 強がって、私は女を売りになんかしないと言って、セクハラにも乗っかる。それは女だからこそできるのだと、逆に言えばそうなるのだと気づいていないのか? そうと指摘してなんになる。ゆうこがそうすると決めたのならば、決定権は本人にしかないのだから。
 席を立った俺は、ただ哀しくて。哀しいと感じるおのれが、男の傲慢なのかと、それすらも哀しかった。


2・真次郎

 名前だけを聞く分には、有華よりもゆうこのほうが古風でゆかしくて、楚々とした女のような気がする。名は体をあらわすというけれど、有華はゆうこになってからのほうが素朴さを薄れさせていた。
「セックスなんて運動と同じじゃない。女にとっては美しさを保つ秘訣でもあるのよ。本橋さん、私と寝ようよ」
 有華は普通の女子高校生で、ゆうこは放送作家。名前ではなく仕事が人間を変えるのか。時も人間を変えるのだろう。
 乾さんには言わないで、内緒で本橋さんにだけ会いたいの、と誘われたときには、俺には下心はなかった。三十三歳になった俺は結婚だってしている。ゆうこだってそうと知っている。ばーか、と笑って言うと、ゆうこは色気のある目で俺を見た。
「本橋さんって遊び人の多い業界の男でしょ。結婚と女とのつきあいは別じゃないの?」
「うちの女房はそんなのは認めないんだよ」
「乾さんにも奥さんにも内緒にしておいたらいいでしょ」
「乾は関係ねえだろ。関係あるのか。おまえ、乾にふられたのか」
「そんなんじゃないもん。乾さんなんか好きじゃないよ」
 十年も前ならば、私は乾さんは嫌い、と言う女の言葉と心は一致していると単純にも考えた。しかし、乾さんが好きだの、乾さんは嫌いだのと言う女の気持ちは必ずしも言葉と同じではないのだと、次第に理解するようになっていた。
「あのお説教好き。乾さんってうざいよね。本橋さんはお説教はしないでしょ」
「しなくもないぜ」
「お説教はしてほしくないの。寝よう」
「いやだ」
「なによっ、その言い方は」
 いくらなんでも新婚だと言ってもいい時期に、浮気はしない。こんなに早くから浮気するぐらいだったら結婚しない。三年目の浮気あたりになってきたら……いやいや、しない。美江子に発覚したら殺される。
 浮気はしない決意をしてはいるが、心が揺れるってのはある。既婚者となっても、いい女をスケベな目で見たりはする。ほげーっと美人を見ていると、無意識で彼女の裸を想像していたりもするのだから、美江子に妄想を覗かれたら殴られるだろう。
「本橋さんってそんなに恐妻家? 幻滅」
「あのな、それもあるけど、おまえの言い方はあからさますぎるんだよ」
 セックスは運動だの美しさを保つ秘訣だの、そんな言い方をされると、俺はおまえのトレーニングマシンか、健康食品か、化粧品か、と言いたくなる。ゆうこは男には常にこうやって迫るのか、だとしたら相当にガキというか、色気なさすぎというか。
「口じゃなくてこう?」
「やめろ」
 スカートをたくし上げて、俺にだけ見えるように腿をちらつかせる。酔ってもいないだろうに、自棄にでもなっているのか。
「じゃあ、教えてよ。どうやったらいいの? 色っぽく、だ、い、て?」
「シナリオのネタ探しのつもりか」
「ちがうよ」
「そんならなんなんだよ。乾には内緒で俺と会いたいって言ったのは?」
「本橋さんとセックスしたかったからよ」
 そんな、本橋さんと喧嘩したかったからよ、なんて語調で言われてもこれっぽっちもそそられない。ゆうこは小柄で、会うたびに痩せていっているようには思えるものの、黙っていれば色気もなくもない可愛いタイプだ。なのになぜこう険のある言い方をするのだろうか。
 冗談のつもりか? 本当は俺がその気になったら困るから、故意に男心をそそらない口説き方をするのか。だとしたら屈折しすぎていて、俺には全理解不能だ。
「品のないジョークだったらやめろよ」
「男はこういうジョーク、やるでしょ。こう言ってるうちにその気になって、あわよくばって思ってる。本橋さんの奥さんは、そういう被害に遭ったことはないの?」
「……危ういのはあったぜ」
 フォレストシンガーズがデビュー間もないころ、修行中マネージャーだった美江子が失敗をして、俺たちもからんで先方に大迷惑をかけた。山田美江子と、リーダーの本橋真次郎が謝罪に出向くと、ヤのかかっているらしき先方の中年男が言ったのだ。
「これはあんたに一晩、つきあってもらわないとな」
「お酒ですか」
「いいや」
 当時は鈍感きわめつけだったとはいえ、俺にも先方がなにを望んでいるのかはわかった。美江子はきーっとした顔で言った。
「お断りします」
「そしたらあんたを殴らせろ」
「そのほうがいいです」
 男が女にセクハラをしかける。その身代わりには俺はなってやれないが、こっちだったら引き受けてやれる。美江子を押しのけて、そんなら俺を殴って下さい、と言った。
「あんたら、できてんのか。いや、まあ、これでおしまいだ」
 相当に威力のあるパンチを俺の横っ面に叩き込んでおいて、先方はそう言って引っ込んだ。その話をすると、ゆうこは言った。
「そのヤのオヤジってのは、憂さ晴らしがしたかったんだよね」
「そうだな。そしたらあんたを殴らせろって女に言ったのは、山田がびびるだろうと思って面白がってたんだよ。だけど、山田はびびらない。内心ではびびってたんだとしても、おもてにはあらわさない意地っ張りだ。山田に開き直られて、オヤジのほうが困ったんだろ。俺がでしゃばったらむしろ安心して、腹立ちをすべてこぶしに込めた。あのパンチは効いたぜ」
 今さらながら頬の痛みを思い出して、手でこすった。
「そのころから本橋さんは美江子さんに惚れてたんだ」
「いや、あのころは意識してなかったよ。あいつはマネージャーだけど女だ。女が男に殴られそうになるのを俺は見過ごしにはできない。今になって思えば、山田がべそをかいて侘びでもしたら、オヤジもこぶしを引っ込めたかもしれないんだけどさ」
 美江子も俺も若かったからこそ、まっすぐすぎたのかもしれない。
「……セクハラの話をするって……有華?」
「ゆうこ」
「ああ、ゆうこだった。なにかあったのか」
「なんにもないの。セックスってのは運動だって言ってるじゃない。運動とはいっても相手がいるんだから、大嫌いな男とはしたくないよ。でも、それがなにかの役に立つんだったら我慢はできる。そういうものよ。なんだってそう深刻に考えるのかな。私なんかだったら殴られるよりはいやな男と寝るほうがいいよ」
「殴られるか寝るかだったら寝るほうがいい。まあ、そう考える女もいるのかもしれないけど、なにかの役に立てようと男と寝るのも平気か」
「そうねぇ。やな男だったら美容にはよくないよね」
 はぐらかされた気分。ゆうこのここまでの言動が乾と関係あるのかどうか、俺にはどうにもわかりにくかった。


3・隆也

 事務所の駐車場に止めた車のキーを開けようとしていると、背中にぶつかってきたひとがいた。
「……ゆうこ?」
「乾さぁん、飲みに行こうよ」
「俺は車だよ。これから帰るところなんだから飲めないって、見たらわかるだろ」
「車なんてほうっておいて、タクシーで行こ」
 すでにきこしめしているようで、しなだれかかってこられると酒の匂いがする。ゆうこは俺の手から車のキーを取り上げて、溝へ捨てようとした。
「こら、やめなさい」
「そしたらキー、食べちゃう」
「こんなものが食えるわけないだろ。送っていくから、きみも車に乗りなさい」
「いやいや」
「ゆうこ、きみは大人なんだろ。ちっちゃな子みたいな駄々をこねる趣味はないんだよね」
「大人よ」
 挑戦的に俺を見据えるゆうこの目の中に、暗い炎が揺れている。胸を衝かれたのは、ゆうこの言葉を思い出したからだ。大きな仕事を手に入れるために、その力のある男と寝ると彼女は言っていた。
「……そんな目で見ないで。乾さんったら、女は被害者だって言いたいんだよね。ことセクシャルな方面では被害者意識を持ちたがる女がよくいるけど、男もそんな目で女を見るの。前にも言ったでしょ。セックスなんて体操みたいなものだって」
「きみは心の底からそう思ってるの? なんだかね、男に都合のいい女になっちまってるように聞こえるよ。きみがそれでいいんだったら俺にはなんにも言えないけど、きみのその台詞は男の論理じゃないのかな」
「論理に男も女もないでしょ」
「明らかにあると思うよ。きみの言う、ことセクシャルな方面に関しては特に」
「ああ、もう、うざいんだから」
 蓮っ葉な口調で言って、ゆうこは車のキーを自分の胸元に突っ込んだ。
「手を入れて取る?」
「この最悪の酔っ払い。こうなったらきみを酔いつぶして、その隙にそこに手を入れる。俺も酔ったら運転はできないだろうから、タクシーにしようか」
 わがままを聞いてやると癖になるのだから、強く出るのも必要なのかもしれない。きつく言ってキーを出させ、強引に送っていくほうがいいのかもしれない。けれど、もしかしたら数時間前に、仕事のために男と寝てきたのかもしれないゆうこには、酷な仕打ちかと思える。
 遊びで男と寝る。楽しいから、何人もの男を遍歴する。そんな女は不憫だと思ってしまうのは、俺の思い上がりか。本当に、心から、それが楽しいと思っている女もいるのか。楽しいと信じていると? 彼女がそうと信じているのならば、他人がどうして言える? まちがった楽しさだなんて。
 純然たる遊びだったらまだいい。男と女の秘め事に仕事をからめるからこそ、俺はよけいに嫌悪を抱く。男だからあり得ないといったものではなくて、美少年だったりしたらそういった種類の男の毒牙にかかることもなくはない。俺はそんな世界に生きている。
 そんなのはざらにある世界で、女性ならばなおさら多いのだろう。我々のマネージャーのミエちゃんにだって危機はあった。彼女は気丈さでそんなシーンを切り抜けて、俺はミエちゃんの姿勢が正しいと思う。
 美少年でもない男の俺には縁遠い出来事だからといっても、他人事だとは思えない。俺はゆうこを毒牙にかける側の性に属しているのだから。
 けれど、そんなことはどこにでもここにでもある世界で、俺は全部を見られない、知らない。俺とは無関係ではないゆうこすらも止められなかったのだから、無力感に苛まれているしかない。ゆうこは被害者……その意識も男の思い上がりなのか。
「だけど、それ以上飲んで大丈夫か」
「大丈夫だよ。私、強いもん」
 これ以上飲めば泥酔するのは必至なのに、飲みたいと思う気持ちが……私は強いもん、とは酒ではなくて? 
「行こう」
「うん」
「誰か呼び出す? 賑やかに飲もうか」
「いらない。乾さんとふたりっきりがいいの。特に本橋さんなんて呼ばないでね」
「本橋となにか?」
「彼って不能なんじゃないの?」
「ふ……のう……妙齢の女性が道端で、大きな声で口にする言葉ではないよ」
「格好つけないでよ。あのね」
 誰も呼ぶなと言うのだから仰せに従って、ふたりきりで静かなバーに入った。
「曖昧にぼやかした言い方をするのはむしろいやらしいのよ。私はシナリオにだって明快に書くんだから。男性器だの女性器だの……」
「俺は曖昧な言い方のほうが好きなんだ。古い人間でごめんね」
「ベッドでは言わないの? 卑猥な言葉を女に囁かないの?」
 ぎりぎりセーフのきわどい言葉をプレイとして口に上せることはなくもないが、特別な関係の女性にだけだ。ゆうこはなぜ、こんな会話ばかりしたがる。心がずたずただからじゃないのか? 俺の想像もそちらのほうに向かい、俺の心もきりきり痛んでいた。
「私を同情するような目で見ないで。そんな目で見るんだったら清めてよ。好きでもないあんなオヤジ……ううん、ちがうのっ。もっと飲む」
「ゆうこ……」
 酒に強いと言っていたのは誇張だったようで、この店で二杯ほど水割りを飲んだゆうこはダウンした。俺としてはむしろ安堵して、ウェイターの手を借りてゆうこを背負い、タクシーに乗せて送っていった。
「乾さん、好きよ」
 バックシートに並んですわると、ゆうこが俺の肩に頭を預けて囁く。寝言だよな。きみは俺なんか好きじゃないんだろ。そのほうがいいよ、俺にはきみは手に負えない。きみには俺の言葉は通じないみたいだから、そんな仲は不幸のもとだ。
 饒舌な俺は女性との議論が好きだ。恋人との手ごたえのある会話を楽しみたい。俺のもの言いに反駁されるのも楽しいけれど、ゆうことは根本的にちがいすぎて会話がなりたたない。まるで外国人のようだと思ってしまうのも、俺の傲慢か。
 男の思い上がり、男の傲慢。そればかりを考えさせられてしまう女とは、恋人にはなれない。だから、きみは俺を嫌っているほうがいい。きみのその思想が本音であっても建前であっても、俺はきみにはついていけないから。


 ついていけない、と嫌いは別の感情で、嫌いだけれど俺とは関係ない、と思える女性がいた。「いた」と過去形になるのは、関係ない女性ではなくなったから、嫌っていてはいけないなぁ、という仲になったからだ。
 彼女の名は亜実、アルバイト感覚でモデルになり、女性ファンを獲得して人気者になってドラマなどにも出るようになった。現代のシンデレラストーリィの主役といってもいい。
「私はレベルが高すぎて、つりあう男がいないの。そのせいで彼氏はずっといなかったの」
 男には男の傲慢が、女には女の高慢がある。亜実の思想は典型的な女の高慢だったはずだが、そんな彼女が恋をした。恋をした、のであろう。
 相手は俺の大学の後輩。四年年下なので接触はなかったが、幸生がキャプテンだった年の合唱部の新入生だった大河内元気だ。現在は音楽評論家だから、我々とも接点はなくもなく、幸生とは親しくしている様子だ。
 ダイちゃんが亜実を好きになったと言っているのは聞いていたけれど、詳しいいきさつは知らない。両想いになったのならばめでたいのだろう。
 後輩の彼女なのだから、亜実は俺とは無関係な女性ではなくなった。とはいえ、ダイちゃんとも亜実とも会う機会は少なくて、ありがたいと思ってしまうのは、ダイちゃんが嫌いだからではなくてその彼女が……第一印象が悪すぎた。
 まあ、好きではない相手でも表面は繕える。亜実とは深く関わらないようにして、ダイちゃんに心で言うだけだ。
「おまえの手でどうこうできる女じゃないだろうけど、ちっとは歩み寄ってもらえよ。結婚するつもりだったら……うむむ、大丈夫か?」
 俺が結婚するんじゃないんだし、蓼食う虫も好き好きだし、って、ひどすぎるか。
 モデルなのだから、亜実は背の高い美人だ。高慢さが顔にあらわれているとはいえ、蓼ではない。アイリスの花のような、とたとえるのがふさわしいかもしれない。だが、女はルックスじゃない、とは、亜実を見ていると実感できる。
 亜実と知り合ったのとほぼ同時期に、奈々とも再会した。
 母親が再婚して伊藤奈々となった彼女は中学生。子役俳優となって「奈々」の芸名でそこそこは売れている。彼女が五歳、俺が二十五歳のころにアパートでお隣さん同士だった。ちょっとした事件が起きたのもあって、俺は奈々に再会して彼女を思い出した。
 こっちは大人だったのだから当然であろうが、五歳だった奈々も俺を鮮烈に記憶してくれていた。奈々と亜実が親しくなったのは神さまの人の悪いいたずらだったとしか思えないが、別に俺には実害はない。というか、時々くしゃみが出る程度だ。
 神さまは人ではないのだから、人が悪いとは言わないか。神なんて性格が悪いに決まってる。くしゃみって、ばあちゃんっ子はたとえが古いね。
 幸生の得意なひとり突っ込みなどしつつ、ラジオ局に行く。亜実とはじめてプライベートな会話をしたのはここだった。仕事の前に喫茶室でコーヒーを飲み、煙草に火をつける。目を閉じて精神集中していると、男女の会話が聞こえてきた。
「あなたが英語で脚本を書けるのならば、道はあると思いますよ」
「日本語で書いた脚本を翻訳してもらうのだって可能でしょ」
 みずき霧笛さんと佐藤ゆうこだった。
「みずきさんの知り合いにだったら、そんな人はいるでしょ」
「いなくもないんでしょうけど、なんだかこう……ちがうような気がしますね」
「ちがうってどういう意味で?」
「僕にはうまく言えないんですけど、話を整理してみましょうか」
 つまり、ゆうこは彼女の書いた「砂糖家の人々」をアメリカで舞台にかけたいとの野望を抱いた。セクハラの横行する日本の放送業界に嫌気がさしたのか、と考えるのは俺のうがちすぎかもしれなくて、海外に進出したくなるのは、成功した者の常なのかもしれない。
 「砂糖家の人々」は日本では舞台になり、マニアックな人気は博したが、成功したというほどでもなく、ゆうこは人気放送作家の地位を手に入れたというほどでもない。さればこそ彼女は焦って、野心のためにいやなオヤジとも寝たのだろう。
 その程度の作家の作品を英語に訳してもらい、本場で舞台にかけるとは、それは無理だとみずきさんは言いたいらしく、俺にもさもあろうと思える。ゆうこに自作を英語で書き直す能力があるのならばチャレンジすればいいが、不可能ならば諦めるしかない、とみずきさんは言っているのだった。
「みずきさんが協力してくださるんだったら、浮気相手はつとめましてよ」
「そういう話は僕は聞きたくありません」
「本橋さんといいみずきさんといい、気が弱いのね。冗談ですから聞き流して」
「冗談でしたらいいんですけどね」
 こほんと咳をして、みずきさんは語調を改めた。
「ゆうこさんは乾さんが好きなんですか」
「好きではないけど、この間、乾さんに恋愛相談をしたのね」
 そんな話、俺は聞いてないぞ。あれが恋愛相談になるのか? 恋愛ではないだろ、だった。
「恋の話をしているうちに、私のその気は高まってきたの。私ってニンフォマニア傾向があるのかしら……みずきさんったら困った顔して。あなたもオヤジの年頃でしょ。純情なふりをしても似合いませんよ」
「ふりではないし……いや、僕は純情ではありませんが……」
「当たり前じゃないの。みずきさんが純情だったら気持ち悪いわ。男なんてのは女遊びを勲章みたいにするじゃない? 何人の、何百人の、何千人の女と寝たって誇りにしているでしょ」
「そんな男ばかりではありません」
 あそこに割り込んでいくべきか。みずきさんを困らせるな、とゆうこを叱るべきか。そうするとみずきさんのほうが傷つくのか。
「そんな男もいるじゃないの。私もそうなろうかなぁ、なんてね」
「冗談ですよね」
「冗談じゃなかったらみずきさんはどうするの?」
「あなたがそれでいいのならば、後悔してもかまわないのならば、僕がお節介を焼く筋ではありませんね」
「みずきさんのほうが乾さんよりも潔いみたい。乾さんよりもみずきさんのほうが好きよ」
「……僕はこのあと、別件がありますので失礼します」
 席を立つみずきさんの気配、逃げるのね、と小声で言って笑うゆうこの声。みずきさんがいなくなって二、三分してから、俺はその席へと近づいていった。
「聞こえてたよ」
「盗み聞きなんてお行儀悪いんだ」
「そうだね。ごめんなさい」
 くちびるをとがらせる表情は、あどけなくさえも見えた。
「聞いてたんだったら……乾さんはどう思う?」
「みずきさんだってさっきから何度も言ってるだろ。駄目なものは駄目なんだよ」
「どうして乾さんが決めつけるの?」
「世の中には絶対に駄目なことってのがあるからだ。きみの話を聞いていたら、そればっかりはどうにも駄目だって俺にはわかるからだよ」
「でも……」
「目を覚ませよ」
「だってだって……そんなふうに言う乾さんは嫌い。嫌い嫌い嫌い」
 急に子供じみてきて、ゆうこはティッシュペーパーをちぎって丸め、ちぎって丸めして俺に投げつけていた。
「ゴミになるだろ。拾いなさい。きみがそんなものを散らばらせたら、あとで誰が掃除するんだ」
「店員はそのためにお給料をもらってるんでしょ」
「ゆうこ、いい加減にしなさい。怒るよ」
「だーって……」
「本心からそんなことを言ってるんだったら……」
 今日は子供っぽくふるまいたい気分なのか。俺はゆうこの耳元に口を近づけた。
「いい加減にしろ。子供扱いされたいんだったら、ぱちんとでもやってやろうか」
「……暴力……」
「暴力じゃない程度にさ。叩かれたいか」
「……いやいや」
 本当に子供っぽくふるまいたい気分であるらしく、ゆうこの目から涙がこぼれている。俺は彼女の顔にハンカチを押しつけ、説教口調で言った。
「いい加減にしろって言ってるだろ。ゆうこ、わかったのか? ゆうこ、返事は?」
「……ごめんなさいって言いなさいって?」
「俺にあやまるって問題ではないから、ごめんなさいはいいけどね。わかったの? 返事をしなさい」
「わかったよ」
「返事ははいなんだけど、ま、いっか。よし、わかればいいよ。いい子だね」
「乾さんなんか……嫌い」
 これでいい。すこし離れた席に亜実がいて、こちらに聞き耳を立てているのは知っていたけれど、彼女がどう誤解しようとかまわない。ゆうこの子供っぽいわがままにだったら、すこしはつきあってやってもいいと思えた。


4・真次郎

「ゆうこはおまえに惚れてるのか」
「そんなはずねーだろ」
 乾はそう言い、みずきさんはこう言った。
「ゆうこさんは乾さんに相談に乗ってもらったりしているうちに、恋をしたみたいですよ。だけど、乾さんって自分のほうも彼女に恋をしていないんだったら、はっきり言うでしょう。俺はあなたに恋はしてないよって。そう言われたのかもしれませんね。それでゆうこさんは他の男とつきあって、乾さんにその相談をして……」
 ゆうこ本人に尋ねる気にはならない。俺はあの女は苦手だ。
 女には二種類あって、乾隆也に惚れる女と嫌う女がいる。少数の例外として、友達として乾を好きだと言う女もいて、その代表は俺の妻、美江子だ。乾を息子のように可愛がる弥生さんやニーナさんも、兄のように慕う玲奈ちゃんも、惚れているほうに括れる。
 エターナルスノウのミズキを筆頭に、乾さんなんて大嫌い!! との態度を示す女もいる。あれは本音なのかどうか、鈍感な俺にはわかりづらいけれど、乾は男にも女にも好かれるか嫌われるかの両極端。極端な性格をしているからなのだろう。
 それを言うなら、本橋真次郎に恋をする女としない女、とも分けられるのだろうが、俺はそれほどには女には嫌われないはずだ。中庸であるはずだ。
 フォレストシンガーズ? なんだ、それは、お笑いか、と言われていたころ、乾は学生時代からの安アパートにそのまま暮らしていた。乾の部屋の隣家で若い母親と暮らしていたのが五歳の奈々。奈々が女優になって、乾と再会したとかで、三人で食事にいった。
「ママが再婚して弟が生まれて、ママは専業主婦になって暇になったの。パパはわりにお金持ちだから、奈々をアイドルにしようとしたのよね。でも、奈々はアイドルじゃなくて本格的な美人女優になるんだ。ドラマのオーディションに合格したんだよ」
「それで奈々ちゃんは亜実ちゃんとも知り合ったんだよね」
「あの亜実と? 亜実のほうが年はだいぶ上だろ。仲良くなったのか」
「仲良くはないけど、便利だからね」
 成人の友達がいると便利だとは、現代娘はちゃっかりしている。奈々は彼女の子供時代の話をし、その上に、つけ加えてくれた。
「本橋さんってかっこよくなったよね。ママが言ってる。男性って若いころは不細工で冴えなくても、おじさんになると渋くてかっこよくなる人もいるって。本橋さんってそのタイプ?」
「……褒めてるつもりか」
「褒めてるよ。乾さんは昔からかっこいいけどね」
「俺のほうがかっこいいんだよ」
「今は優劣つけがたいかも。うん、好みの問題だね」
 ガキが生意気言ってんじゃねえよ、と乾とふたりして言うと、奈々は顔を真っ赤にして怒っていた。
 奈々も乾を好きなのかもしれないが、十二、三歳のガキなのだから他愛なくて平和でいい。この年齢のガキならば、対象が未婚でも既婚でも好きならば慕うのだろうと思えるが、他の女たちが次々に乾に惚れるのは、奴が独身だからだ。
 俺は三十二歳で結婚した。シゲはとうに結婚して子供もできた。幸生と章は年下だから独身でもいいというか、俺と二歳しか差がないのだからそろそろ焦ってもいいというか、であるのだが、乾が独身なのは解せない。
 もてすぎて結婚できない男か。すかしてんじゃねえよ。とっとと身を固めろ、とジョークのように言ってみては撃退され、勝手にしろ、と呟くしかないのだった。
 

 冬がやってくるころ、みずきさんに言われた。
「本橋さんにも乾さんにも会いたくないから、黙って行く。だけど、伝えてほしいと言われました」
「誰にですか」
「彼女はやはり乾さんが好きだったんでしょうかね。彼女の兄さんはフォレストシンガーズのライヴスタッフはやめたんだそうですね」
「……有華ですか」
「僕も彼女が有華さんだったころのほうが、好ましく思えました。身勝手な感想ですけどね」
 博多に行くんだそうですよ、むこうのラジオ局に誘われたそうです、そう告げるみずきさんも、寂しそうな顔をしていた。

「凍えそうな 季節に君は
 愛を ど一こ一いうの?
 そんなん ど一だっていいから
 冬のせいにして 暖め合おう

 TVを消し忘れ 孤独さえもド忘れで
 乾燥した時間に ノドを痛めてる

 AM0:00解禁で 見られる明日のビジョンは
 大事なトコにきて モザイクがかかる

 ウカツな僕の せつなさを中に出させて

 凍えそうな 季節に君は
 愛を ど一こ一いうの?
 そんなん ど一だっていいから
 冬のせいにして 暖め合おう

 自由なフリしても 氣がつきゃ乘ってるんでしょ
 動く歩道の上 足元ご注意」

 タランティ一ノぐらい レンタルしとかなきゃなんて
 殴られた記憶も ロクにない癖に

 敬語を無視する 今時の強さください

 雪吹雪く 山小屋にふたり…
 妄想に 憧れて
 そ一すりゃ 本音四の五の
 追求しなくても 交われるでしょう」

 こんな寒い 時代に僕が
 何を ど一こ一できる?
 そんなん ど一だっていいよと
 雲えない君と 淋しさ舐め合うけど

 わがままも 消えそうな夜は
 愛が 誰かを呼ぶの?
 まして なんも待たずに
 歩く僕だから 暖めさせて」

 意味もなくむしゃくしゃしてパチンコ屋に入ると、この歌が流れていた。 
 耳にはビートの効いたメロディ……俺には殴られた記憶もあるけれど……ゆうこ、おまえとは二度と会わないかな……寒い季節に愛をどうこう、寒い時代になにをどうこう、どうこうどうこう。
 刹那的というかヤケクソ的というか、鈍感な俺には読めない深い意味があるのかもしれないが、俺にはそうとしか思えない歌詞だ。ゆうこが乾にこんな感情をぶつけ、乾もこんなつもりで受け止めていたならば……?
 そうはならなくてよかったのだろうか。ゆうこがなにを幸せだと感じるのか、俺にはさっぱり謎だけど、乾には俺にもわかりやすい意味での幸せをつかんでほしいと……口に出しては絶対に言わない気分を抱いて、目ははじけるパチンコ球を追いかけていた。


END
 

 

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~ Comment ~

乃梨香ちゃん、拍手コメントありがとう

ゆうこちゃんはやっぱり乾くんに恋してたんでしょうかね?

素直になれない女というか、それだけではなく、セクハラだのなんだのについても書いてみたかったのですよ。
こういうネタは私の手には余りますが。

いつもご感想をありがとう。
これからもよろしくね。


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