ショートストーリィ

コラボストーリィ(美月&あかね)「ポチ」②

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「ポチ」②

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 この春、大学に入学して合唱部に入部した僕は、男子部副キャプテンの乾隆也さんに敬慕を抱いた。念のために言っておくと恋ではない。尊敬し、慕い、憧れたのだ、男の僕が男の乾さんに、同性として。男が惚れる男ってのがいるのだから、乾さんはその対象だったわけだ。

 故郷にいる八つ年上の姉が結婚した相手は再婚で、略奪婚ではないかと疑われていると、姉が僕に手紙をよこした。どうしていいのかわからなくなって相談したら、乾さんは親身になって聞いてくれて、義兄さんに談判しろと言ってくれた。

 夏の合唱部コンサートのときには、準備のために働いていて疲れ切って、物影で眠りこけてしまった。身体の小さな僕は、小さすぎて誰にも発見されなくて、僕なんかいてもいなくても誰も気にもしていないとひがんでいたのに。

 心配してくれた乾さんに叱りつけられて、もうちょっとで叩かれそうにまでなったけれど、こんなに気にかけてくれたんだと思うと嬉しくて。

 他にもいろんなエピソードがあって、僕は考えるようになった。おばあちゃんっ子、おじいちゃんっ子で、両親にも姉にもかわいがられるばかりで叱られることすら少なくて、だから僕はこんなに気弱に育ったんだ。乾さんが僕の兄さんだったらな。

 優しくてあたたかくてきびしい隆也お兄さんに教育されたとしたら、僕は強いクニに育ったはずだ。あり得ない甘い空想をしていたのを、ポチに読まれていたのか。

(経験してみる?)
 怖くないといえば嘘だけど、やってみたい。最悪でも殺されはしないだろ、と覚悟を決めて、僕はポチにすべてをゆだねた。

* * *

「夏休みになって、隆也おにいさんが東京からかえってきました。
 大学生のおにいさんはいつもは東京のアパートでくらしていて、休みになるとさとがえりします。
 おじいちゃんもおばあちゃんもぼくも大よろこびで、おにいさんをお出むかえしました。

「クニ、大きくなったな」
 せの高い隆也おにいさんの顔が、ちょっぴり近くなったかもしれません。せがのびたんだと思うとうれしくてはずかしくて、うつむいたら、おにいさんはぼくをかた車してくれました。

「ほら、クニ、あそこにセミがいるぞ。すででつかまえてみろ」
「こわいよ、手でなんてむりだよ」

「セミのどこがこわいんだ。せは高くなってもよわ虫じゃどうしようもないだろ。そら、そこにつかまれ」
「えーっ、こわいよーっ」

 こわいこわいとさわいでみても、隆也おにいさんはぼくを太い木の太いえだに乗っけてしまいました。枝にしがみついて泣き声を出すと、こわい顔で言われました。

「それしきをこわいと泣いててどうする。飛びおりてこい。受け止めてやるから」
「隆也、クニちゃんにはそんなのは……」

「おばあさんはだまって見てて下さいね」
「クニちゃん、やってみろ」

 おじいちゃんもそう言って、みんなでぼくをはげましてくれます。だけど、こわくて本気で泣いてしまって、おにいさんにしかられました。

「なさけないやつだな。泣いてるとほうっていくぞ。おばあさん、おじいさん、行きましょうか」
「やだーっ!!」

 おもいきり泣きながらも飛びおりたら、おにいさんがぼくをかかえてくれて、いっしょに地面にころがりました。

「おにいさん、だいじょうぶ?」
「だいじょうぶだよ。クニ、よし、よくやった。こらこら、泣くな」

 だって、泣けるんだもん。これはうれしくて泣いてるんだもん。ぼくは上手にそういえなくて、おにいさんにしがみついてわあわあ泣いていました」

 色が変わってしまった原稿用紙に、子供の字で拙い文章が綴られている。
 ひとときの甘い夢、残されたものはこの作文だけ。

(他人に見せたら駄目だよ。見せようとしたら、原稿用紙がほろほろっと崩れてしまうから)
 子孫のポチが言った。

(うん、わかったけど、きみのご先祖のポチと宮田京介さんはどうしたの?)
(どこかを歩いているんだろうね。僕らは鼻がきくんだから、ポチが京介さんと関わりのある誰かを見つけて、その人の夢を一瞬でもかなえてあげられるように、日夜がんばるんだよ)

(魔法使いでもあり、正義の味方でもあるんだね)
(そう言ったらかっこいいよね)

 だけどね、クニちゃん……そこでテレパシーを切って、ポチが僕を見つめる。ポチの言いたいことはわかる気もした。

 夢は夢なんだから、きみはこれからは現実に生きないといけないんだから。合唱部の先輩としての乾さんは、春になったら卒業してしまう。きみも大学二年生になって、後輩の面倒だって見なくてはいけなくなるんだよ。
 いつまでも先輩に甘えたり、頼ったりしていてはいけないよ。夢はおしまいだ。強くなれ、クニちゃん。

「うん、そうするよ」

 きみに会いにくるとまた甘えてしまいそうだから、よほどのことでもなかったら来ないよ。ありがとう、ポチ、ご先祖さまにはテレパシーでよろしくね。僕はポチに声には出さずに話しかけ、手を振った。ポチはごく普通の犬のように、さかんにしっぽを振って応えてくれた。

おしまい


追記

フォレストシンガーズ関連ストーリィではありますが、音楽とは無関係ですので、別カテゴリに入れました。
グラブダブドリブとフォレストシンガーズは、ショートストーリィ(musician)の中に入れています。
 
 


 
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~ Comment ~

うふふふ。
なんか乾さんのいいところがさらりと描かれてますね。

ポチも京介さんもすごく柔軟で、これなら楽しくタイムトラベル出来そうです。

久しびりに小説の世界に戻って来させていただきました。
あかねさん、ありがとう・・・。

美月さん、両方にありがとうございます

うふふ、えこひいきしてますよね。

ポチはこちらでも使わせていただいてますので、お時間がおありのときに読んでいただけると嬉しいです。

http://quianred.blog99.fc2.com/blog-entry-552.html

美月さんのサイトも復活でしょうか。
楽しみに待ってますね。

あかね様、こんにちは(*´ω`*)テレ

まだショート・ストーリィにしかお邪魔していないので、こちらのお話、「コラボ作品が私にわかるかしら?」とも思ったのですが。
先入観なく読むのもいいかなっと思って、今日はこちらを手にとらせていただきました♪

淡い思慕の行方が、「クニちゃんも頑張らないといけないよ」っていう台詞に繋がるところ、とっても素敵ですね。
少し気弱な自分を気にしていたのですね、酒巻國友さん。

魔法使い犬って、いいですね。
タイムトラベル、私も体験してみたいです!
でも、未来を変えたりは出来ない、んですね。残念。
人の人生っていうのは、そう簡単に変えたり手を加えたり、出来ないものなのかもしれませんね。
だからこそ、ポチは「望み」という言葉を使ったんですね。

うん、素敵なお話でした。
またお邪魔しますねっ(*´∀`*)ノ

土屋マルさんへ

いつもありがとうございます。
読んでいただいてコメントもいただいて、たいへん感謝しております。

ショートストーリィにはわりとコラボが多いのですけど、コラボさせていただいているお相手の方の作品をごぞんじなくても、わからないってことはないと思います。たぶん。
わかりづらかったらどしどしご指摘下さいね。

私のメイン小説のフォレストシンガーズストーリィの中のお気に入りキャラのひとり、クニちゃんは、そうなんですよぉ。
「すこし」ではないくらい弱気だった大学生のクニちゃんも、本編のほうではちょっとは大人になってちょっとは強くなりました。

美月さんって方が創作された「ポチ」には惚れてしまいまして、もっとポチを書きたいと思っています。
これからもよろしくお願いします。

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758のコメントの方へ

いえいえ、もう、お気になさらないで下さいませ。

ご丁寧にお知らせいただいて、ありがとうございました。
今後ともどうぞごひいきに(=^・^=)

NoTitle

美月さんの作品をまだ読んでないので、こちらを読んで分かるかなと思ったのですが、最後の方は涙が……。
そうですよね、いつまでも甘えていちゃ駄目ですよね。クニちゃんは大人になるんですね(泣)

いいお話でした(T-T)

たおるさんへ

コメントありがとうございます。
このお話は美月さんのキャラ、ポチを貸していただいただけですので、これだけ読んでいただいても大丈夫ですよね。
他のコラボものも、私のショートストーリィだけ読んでいただいても、もちろん大丈夫です。

フォレストシンガーズの脇役、酒巻のクニちゃんはけっこうお気に入りキャラですので、そう言っていただいて嬉しいです。
本編のほうではクニちゃんは三十歳をすぎてますが、基本、あんまり変わっていません(^^
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