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小説271(僕は泣く)

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フォレストシンガーズストーリィ271

「僕は泣く」


 普通は合コンというものは、男性グループと女性グループとが出会うのだろう。男性五人のグループに私がまざっているのは、大変にすわりが悪い。あんた、誰? 女性たちのグループの全員がそんな視線で私を見ていた。
「メシに行こうぜ。山田も行くだろ」
 本日の仕事が終わって、本橋くんが誘ってくれたのでうなずいた。乾、本庄、木村、三沢のフォレストシンガーズ他四名も当然行くと言い、三沢幸生くんが言ったのだった。
「俺が最近開拓した店があるんですよ。「きんぽうげ」って言うんです。歌のタイトルにもありますよね。乾さん、きんぽうげってなに?」
「花の名前だよ。英語ではバターカップっていうんだ」
「バターのカップみたいな花?」
 きんぽうげだったら知っているが、英名までは知らなかった。乾くんは花には最高に詳しいのだから、花の知識に男女差は関係ないのだから、引け目に感じなくてもいい。きんぽうげってバターカップに似てるかな、と私が考えていると、幸生くんが私をじーっと見た。
「美江子さんも行くんですよね」
「……行ったらいけないの?」
「いいえっ!! 美江子さんと一緒にごはんを食べられるなんて、僕ちゃん、嬉しいっ!!」
「なんか変だな。幸生、おまえ、なにかたくらんでないか」
「いいえっ!! 乾さん、僕ちゃんはなんにもたくらんでいませんっ!!」
 幸生くんのそぶりが不審だったのは、こういうわけだったのだ。
「美江子さん、ごめんなさい。俺は彼女たちと約束して、みんなを連れてくると言ったものの、なかなか実現できなかったんですよ。今夜を逃したらいつになるか……だからね、ごめんなさい。許して」
「いいよいいよ。私は観察してるから」
 どんな事情だかは知らないが、幸生くんがこの店に来ている女性たちのうちのひとり、ミサちゃんと知り合った。売れてはいないけど俺はヴォーカルグループのメンバーなんだ、フォレストシンガーズっていって、プロなんだ、とでも話したのだろう。
「会いたいな。合コンしようよ。私も友達を四人連れていくから」
 そんな相談がまとまってこうなった。私はとんだ邪魔者なのだが、私ひとりがまったくの傍観者の立場で観察していられるのは、面白くなくもない。
 ミサちゃんと幸生くん、ヤエちゃんと乾くん、ユミちゃんと本橋くん、サキちゃんと章くん、カップルができていて、残ったヒロちゃんとシゲくんも、自然に寄り添ってすわっている。
 女の子たちは二十歳ぐらいの短大生であるらしい。当方は二十代半ばの独身男性たち。合コンをしてもいっこうに問題はないのだから、好きにしてちょうだい、である。私はいつしかテレビドラマの合コンシーンでも見ている気分に入り込んでいた。そんな気分にでもならないとやってられないでしょ、でもあったからだ。
「乾さんって歌う声は高いんでしょ。喋ってるとそんなに高くもないんだね」
「高い声も出るけど、普段は落ち着いたトーンで喋るようにこころがけてるよ。ヤエちゃんの声は可愛いね。歌は好き?」
「あたしはcrown to the headの大ファンなの。フォレストシンガーズも歌手だって言うから、クラウンのパピみたいな男の子がいるのかと思ったら……」
「crown to the head? アイドルグループだった?」
「そうだよ。知らないの?」
「なんとなくは知ってるよ。パピってどんな奴?」
「乾さんよりも顔が綺麗で、歌が上手なんだよ。高い声なの」
「歌が上手なのか。そうなんだ」
 私だってそのアイドルグループは知ってるけど、どこが歌が上手? あれを上手だと言うのならば、ヤエちゃんはフォレストシンガーズの歌を下手だと評するのではないだろうか。
「ねえねえ、乾さん、あのひと、なんでここにいるの?」
「彼女は俺たちのマネージャーなんだよ。紹介したでしょ」
「変なの。どうして帰らないの?」
「大きな声でそういう失礼な台詞を言うんじゃないよ」
「……いやん。怒ったらやだ」
「怒ってはいないよ。べそをかかなくてもいいだろ」
 帰ったほうがいいのかもしれないが、ヤエちゃんにああ言われるとむしろ帰りたくなくなる。私は耳を別の会話に向けた。
「本橋さんって無口なんだね」
「そうでもないんだけど、きみがやたらによく喋って、俺に喋らせてくれないんだろ」
「あたしに黙れって言うの?」
「黙らなくてもいいけど、ユミちゃんの声は黄色くて高いから、頭が痛くなってくるんだよ」
「あたしは本橋さんの声、好き」
「……ああ、ありがとう」
 ああやってぶすっとした顔はしているが、本橋くんも楽しいのだろうか。本橋さんの顔、怖い、と言われて、これでどうだ? などと、本橋くんは百面相していた。
「こんなところにいて、あのひと、楽しいのかな」
「だからさ、ミサちゃん、大きな声で言わないで。俺は美江子さんに気を使って気分的には右往左往なんだし、そういうことを言うと乾さんに叱られるからね」
「どうしてあたしが乾さんに叱られなくちゃいけないの?」
「乾さんは失礼な奴を見ると、説教したくなるんだよ」
「あたしは失礼じゃないもん。あんな女を連れてくる幸生くんが悪いんでしょ」
「うきゃあ、あんな女だなんて言わないでっ。しっ、しーっ!! 俺が悪かったよ。ミサちゃん、ごめんね。機嫌を直して」
「さわらないでよ」
「きゃう……ごめん」
 やはり私は早めに帰るべきだろう。もうひと組、こっちはこんな会話をしていた。
「……いいけどね」
「……じゃ、あとで」
「……章っていっつもこんなこと……」
「サキもだろ」
「あたしはこんなことはしてないもん。章が誘惑したんでしょ」
「おまえが誘惑したくせに」
 そうだった。章くんはこういう体質なのだった。ま、好きにしてちょうだいとしか言えない。サキちゃんがいいのだったら、遊びだってかまわない。どっちが遊ばれるのかなんてことは、角度を変えて見ればどっちとも言えないわけで。
「こんなの、おいしい?」
「そううまいわけでもないけど……」
「みんな楽しそうだな」
「ヒロさんは楽しくない?」
「楽しいはずがないでしょっ。本庄さんがそんなんなんだから。なんであたしはこんなに、こんなに……言えないからむしゃくしゃしてくるよっ」
 ずっと全員を観察していたわけでもないのだが、四組のカップルは自然発生したようにも思える。ミサちゃんと幸生くんはもとから知り合いで、あとの三組は、女の子たちが自分の好みの男性に近寄っていったようだった。
 そしてあぶれたのがヒロちゃんとシゲくん。そんな感じにも見えて、双方が好みではないのか。シゲくんは好みの女性のそばにいるほうが上がって無口になるとも思えるので、照れているだけなのかもしれないが、ヒロちゃんには趣味ではないのだろう。
 食べてばかりのシゲくんに苛立ってきたらしく、ヒロちゃんは怒っている。そんなヒロちゃんにヤエちゃんが言った。
「しようがなくない? ヒロはこう言いたいんでしょ? 一番冴えない男とあたしがくっつけられるなんて、そんなのないよ? 理由はあるじゃん。ねええ?」
 同意を求められた女の子たちは目をそらし、ヤエちゃんはなおも言った。
「だって、ヒロと本庄さんって似たタイプ、冴えない同士……」
 そこで言葉が途切れたのは、乾くんがヤエちゃんの口に手で蓋をしたからだった。
「友達に向かってそんなことを言う子は帰りなさい。送っていくよ」
「え……だって本当の……」
「幸生、あとは頼む。俺はヤエちゃんを送っていくから」
 ほら、立って、と怖い顔ときびしい声の乾くんに命じられて、ヤエちゃんは口をとがらせて従う。ふたりが店から出ていくと、幸生くんは言った。
「ほらね、ミサちゃん、言ったでしょ。乾さんはヤエちゃんに説教するつもりで連れ出したんだよ。ああなると乾さんはおっかないんだぜ。な、章?」
「なんで俺に振るんだよ。俺は知らねえっての」
「私も帰る」
 立ち上がったのはヒロちゃんで、シゲくんは困り顔で言った。
「じゃあ、俺が送って……」
「あんたみたいな男に送ってほしくないのよ。あたしはどうせ冴えないだろうけど……」
「だったら俺が送っていくよ。たいして遅い時間ではないけど、ひとりで帰らせるのもな」
 本橋くんも立ち上がり、ええ? あたしはどうなるの? と言いたげに見ているユミちゃんに向かって言った。
「男はまだ残ってるから、適当に送ってもらってくれ。じゃあな。ヒロちゃん、行くよ。おいで」
「……送ってなんか……」
「いいから来いって言ってんだろ」
 不満そうではあったが、ヒロちゃんも本橋くんに従った。
「リーダーはリーダーで、ヒロちゃんに説教かもな。ま、大丈夫でしょ」
「本橋くんもああいうときって態度が大きいよね」
 私が言い、章くんと幸生くんが苦笑いでうなずく。シゲくんひとりがしょぼんとしていて、章くんは言った。
「俺も帰ろうかな。サキ、送っていくよ」
「うん」
 このふたりはカップル成立であるようだから、放置しておけばいい。ヒールのある靴を履いているサキちゃんと章くんは同じくらいの身長で、肩を並べて店から出ていった。
「そしたら……ミサちゃんとユミちゃんは俺が送っていくよ。美江子さん、シゲさんをお願いします」
「……承知しました」
 小さな店は幸生くんが予約してくれていたようで、貸し切りとなっていた。九人が出ていってしまうと、シゲくんとふたりきり。がらんとした店内に外の風が吹き込んで、シゲくんは顔をうつむけて黙っていた。
「私はシゲくんが送ってね」
「はい」
「もうちょっと飲もうか。水割りでいい?」
「……はい」
 原因を作ったのはヒロちゃんかもしれないけれど、誰が悪いのでもないのに、シゲくんが暗く暗ーくなってしまった。合コンなんかを企画する幸生くんが悪い、とも言えない。乾くんや本橋くんは女の子にどんなお説教をしてるのかな、なんて考えつつ、黙ってふたりで水割りを飲んでいた。


 常にも増して無口になっているシゲくんといると、気詰まりではある。帰ろうよと言っていいものか。私、帰るね、と言うべきか。悩んでいると私も無口になって、時ばかりがすぎていった。
「シゲ、まだいたのか」
 どのくらいの時間が経過したのか、本橋くんが店に入ってきた。
「乾が来るだろうから、山田は待ってろ。シゲ、帰ろう」
「……え?」
「私は一緒に行ったらいけないの?」
「いけないんだよ。おまえは待ってろ」
 一緒に帰ってはいけないし、ひとりで帰ってもいけないって、なんなの、それは? けれど、シゲくんが暗ぁい表情でうなずいて、本橋くんのあとから出ていってしまったので、待っていた。待つ間もなく幸生くんがやってくる。乾くんもやってきた。
「リーダーが乾さんに電話して、美江子さんを送っていけって言ったそうですよ。俺もミサちゃんとユミちゃんを送ってから引き返してきたら、乾さんと店の外で会ったんです。シゲさんは?」
「本橋くんが送っていったみたい。私にはなんなんだかよくわからないけど?」
「章は戻ってこないだろうな。じゃあさ、乾さん、俺も送って」
「ああ、帰ろうか」
 女を夜中にひとりで帰らせてはいけない、過激なフェミニストに言わせれば、それは差別だそうだ。女に力仕事をさせてはいけない、とかいうのもセクハラだというが、程度問題であって、なんでもかんでもセクハラや差別ではないのではないかなぁ、と、フェミニストのつもりの私は思う。
 事実、女がひとりで夜道を歩いていれば、よからぬ輩に遭遇する危険性はある。その意味では乾くんが送ってくれるのはありがたいので、文句を言うつもりはない。
 内緒だけれど、小柄な幸生くんや章くんだって、男と歩いていれば女ひとりよりは、変な奴に声をかけられる恐れはぐんと減る。女がひとりで歩いているからといって声をかけるだとか、金品を奪おうだとか、性的な悪事を働くとか、そんな考えを持つ男が悪いといえばいえるが、そんな奴はどこにだっているのだから。
 それはまあいいとして、山田を送れと本橋くんが乾くんに指令を飛ばしたのもいいとして、幸生くんも来たのもいいとして、シゲくんは?
「本橋が送っていったんだね」
「そうなんだけど……送っていくっていうのは? どうして私も一緒に帰ったらいけないの?」
「本橋はどうするつもりだったのかな」
「どうするの?」
「シゲの出方次第ってのもあるだろうし、俺は本橋じゃないんだから、どうするつもりなのかは知らないよ」
「乾くんと本橋くんは、特に乾くん側からは、彼の行動はお見通しじゃないの?」
「俺には神通力はないよ」
「精神感応能力だったらありそうだけどな」
「それがあるのはあなたでしょ」
 実に珍しいことに黙っていた幸生くんが、歌い出した。

「僕は泣く、僕は泣く
 回りの人はみな僕を見る

 かまわない、僕は泣く
 愛したあのひとが見えないよ」

 なんの歌? の質問を込めて見つめると、乾くんが答えた。
「ってなこともあるのかもしれない。だから、本橋はミエちゃんには来ないでほしかったんだよ。この歌は俺のばあちゃんが好きだった古いフォークソング。当時としては斬新な曲調だったのかもしれないね」
「乾さんが教えてくれたんですよ。章は言ってたけどね、こんなものはロックじゃないって」
「ロックではないだろうけど、ロックンロールタッチではあるな」
「愛したあのひと?」
「そこはちがうんだろうけどね」
 愛したあのひとが見えないのではないけれど、「僕は泣く」? あのシゲくんが? 今夜のあれこれがショックだったから?
「章は……」
「うん、まあな。おまえといい章といい、怪我をしないように祈ってるよ」
「俺は戻ってきましたよ」
「今夜はそうだけど……」
「怪我をしたら包帯を巻いてね、隆也さん」
「傷口にタイガーバームを刷り込んでやるよ」
「きゃああ、残虐っ!!」
 章くんはいい。勝手にすればいい。幸生くんだって今夜はしなかったにしても、彼女も合意してくれるんだったら好きにすればいい。本橋くんにも乾くんにも、そのようなことはあるのかもしれない。私にもまったくなかったわけではない。
 シゲくんにはそういうことはないから、泣きたくなるの? 今夜はヒロちゃんの言葉もこたえた? 本橋くんはいったい、どうするつもりなのだろう。


 あくる日のスタジオの裏手で、顔を合わせたシゲくんが私に頭を下げた。
「おはようございます。昨日はご心配をおかけしました」
「……シゲくん、顔が……」
「わかります?」
「……本橋くんが殴ったっていうんじゃ?」
「殴られたってほどでもないんですけどね」
 照れた顔をして頬をこすっているシゲくんの顔つきは、昨夜とは打って変わって明るくて爽やかだ。目がちょっぴり赤くて、頬も赤くなっているようなのを除けば、いつものシゲくんだった。
「活を入れられたんですよ、しっかりしろ、ってね」
「そういうのは私にはわからないな」
「女のひとにはわからないんでしょうね……あ、すみません」
「いいんだけどね」
 詳しく話してはくれないが、こんな感じだったのだろうか。
「しっかりしろよ、シゲ」
「はい……でも……」
「つまらんことでべそをかくな、馬鹿野郎」
 ばしっ!! だったりして?
 本橋くんだったらやりかねないけれど、ひと昔前の青春ドラマみたいでクサイ気もする。しかし、シゲくんが泣きそうになっていたからではなくて、そんなシーンになる可能性もあったから、私を排除したとも考えられる。
「ま、もてないのは慣れてますけど、なんでだろうな。昨夜はちょっとね……俺にだって見栄はあるんですから、女のひとにこんな話はしたくないんですけど、美江子さんにだったら言えますよ。お聞き苦しいですか」
「聞き苦しくなんかないよ。ミエは見栄を超越するの」
「みえみえ?」
「ミエミエ」
 は? という顔をしてから、シゲくんは笑った。
「見栄だの虚勢だのってのが必要になるときはあるよね。でも、そればっかりは疲れるでしょ。シゲくんは本橋くんに似てるっていうか、他の三人も根っこは同じというか、俺は男なんだから、があるんだろうけど、お姉さんが聞くから話して」
「俺は他の四人とはちがいすぎますけどね」
「みんな似ていてみんなちがってる。シゲくんも章くんみたいにしたかった?」
「章や幸生みたいに簡単に女のひとと仲良くなったり、本橋さんや乾さんみたいに言うべきことは言ったりって、俺にはできない技なんですよ。だからもてないのかな。ルックスばかりじゃないんでしょうね」
 微妙にはぐらかしたのか、章くんの昨夜の行為に気づいていないのか、シゲくんは続けた。
「おまえはおまえなんだから、おまえはそれでいいんだから、乾さんはいつもそう言ってくれます」
「そうだねぇ」
「本橋さんと乾さんは励まし方もちがいますよね。どっちにしたって、俺はあんなときには殴られたり、きびしく言われたりするほうがいいんです。甘えるのはいやなんですよ」
「甘えるのだって、たまにはいいと思うけどなぁ」
「美江子さんも甘えるのは嫌いなくせに」
 彼氏にだったら、嫌いだとも言い切れないよ、とは言わずにおいた。
「シゲくんも私の性格は見てるんだもんね」
「美江子さんのその男みたいな気性……いや、失礼か……湿っぽくなくて……うまくは言えないけど、その性格は好きです」
「シゲさんっ!!」
 そこに割って入ってきたのは、幸生くんの真剣ぶった声だった。
「シゲさんったら、美江子さんにプロポーズしてるぅぅっ!!」
「馬鹿っ!! ちがうよっ!!」
「好きですって言ってたじゃん。聞こえたよ」
「その好きではなくて……だな」
「好きには他の好きもあるの?」
「そりゃああるだろ」
「幾種類の好きがあるのか、具体例を上げてすべて説明して下さい、本庄先輩」
 うぐうぐっと口ごもってから、シゲくんは低く叫んだ。
「例を上げて説明できるんだったら、詩にするよっ!」
「それもいいね。詩を書いてよ。楽しみにしてますよ」
「そうだね。シゲくんの詩、私も楽しみにしてるわ」
「うぎゃ……勘弁して下さいよ」
 追求するな、という意味での幸生くんの助け舟だったのか。頭を抱えてしまったシゲくんを見て笑っていると、幸生くんが身を寄せてきて囁いた。
「昨日は変なところに連れていってしまってごめんなさい。今度は……」
「今度はどうするの?」
「かっこいい男を紹介しますよ」
「その男って、三沢幸生って名前?」
「乾隆也のほうがいいですか、本橋真次郎がいい? ってーか、美江子さんには男を紹介する必要なんかなさそうだな。最近、告白されました?」
「告白なんて、生まれてから一度もされたことはなくってよ」
 のけぞってみせてから、幸生くんは重々しい口調で言った。
「俺は生まれてから一度も女の子にもてたことはない、BY乾隆也」
「はい?」
「俺は生まれてから一度も人を殴ったことはない、BY本橋真次郎」
「ふむふむ」
「俺は生まれてから一度も女を殴ったことはない、BY木村章」
「俺は生まれてから一度もジョークを言ったことはない、BY三沢幸生」
「先に言わないでってばぁ」
 幸生くんの言いたいことは読めたので、シゲくんを見つめた。
「BY本庄繁之は?」
「……俺は生まれてから一度も、女の子にもてたことはない」
「乾さんと一緒だし、それは……えと、はい、美江子さん、なんとか言って」
「幸生くんこそ、なんとか言ってよ」
「乾さんかリーダーに頼りましょうね」
「そうね」
 こっちでふたりでこそこそ言っていると、シゲくんが吠えた。
「がぁーっ!! ジョークですよっ!!」
「シゲさんだとジョークにならな……嘘嘘嘘っ!! やぁん、隆也さーん、すべりすぎるユキの口を叱って。キスでふさいで黙らせて。あれ? 隆也さんはいないのね。美江子お姉さま、僕を黙らせて」
「黙るってことぐらいは自分でしなさい」
「……はい」
 しゅんとしたポーズで幸生くんが黙り、シゲくんががはがはっと笑う。その笑いにも虚勢が入り込んでいるようだけど、男ってのはまったく……もてたいんだねぇ、このシゲくんでも。
 その気持ちはわからなくもない。女にだってそんな気分が皆無ってわけではないのだから。
 長い人生のある時期には、シゲくんにだってきっと、たぶん、モテ期が訪れるよ、と保証も根拠もない台詞を言うわけにもいかなくて、私も幸生くんと一緒に黙って、性格のちがいすぎるふたりの仲間を見比べているしかなかった。

END

 

 
 
 
 
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~ Comment ~

乃梨香ちゃん、いつもありがとう

毎度、拍手コメントをありがとうございます。
いつも拍手をもらった記事のコメント欄に返事を書いてるの、見てくれてますか?

シゲはねぇ、まー、一時、ちょこっともてたりもしたんだけど、こういう運命のもとにあるんですね。
この数年後には……ですからね。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

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