ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

フォレストシンガーズストーリィ1-第五話「デビュー」

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津々井茜の「茜いろの森」メインノヴェルはフォレストシンガーズストーリィです。
七人の主役たちの視点で、順番にショートストーリィを書きました。
第五話は木村章(きむら・あきら)、二十二歳。
できましたら、第一話から順に第七話まで読んでいただけると嬉しいです。


フォレストシンガーズショートストーリィ1-第五話

「デビュー」

フォレストシンガーズが始動しはじめたのは、俺が大学を中退してロックバンドをやっていたころだ。本橋真次郎、乾隆也、小笠原英彦、本庄繁之、三沢幸生、の五人で結成されたヴォーカルグループから、プロになれないでいるうちに小笠原英彦が脱退した。

 彼らが出会った大学の合唱部に一年だけいた俺は、三沢幸生と再会してフォレストシンガーズに引っ張り込まれ、それからは虐待、迫害されて生きてきた。

 遅刻したと言ってはリーダーの本橋さんに殴られ、世の中をなめた発言をしたといっては乾さんに叱り飛ばされ、自分よりも弱い奴にしか強く出られない章、とシゲさんに言われては胸をナイフでえぐられる気分を味わっていた。

 先輩たちに反抗したくても半端になり、幸生に励まされたり叱咤されたりしてはへばりそうになりながら、アマチュアフォレストシンガーズのメンバーとして、バイトと歌が半々の日々を送っていたある夜、呼び出されて本橋さんのアパートに行った。

 アパートには山田美江子さんも来ていて、五人で本橋さんの報告を聞いたあとで、乾さんが言った。本橋さんのところに、オフィス・ヤマザキという音楽事務所の社長が電話をしてきたのだそうだ。

「山崎さんはどこやらのプロデューサーと共に、あの日のコンテストを聞いてくれてたんだな。俺たちが敢闘賞だったあれだろ。敢闘賞受賞なんてのは、これからも努力しなさいね、って程度だと俺たちは認識していた。だからまたもやがっかりだったわけだ。なのに山崎さんとプロデューサー氏は、俺たちに目を留めてくれた。ちらっとまちがえただろ、とまで言ったんだったな、本橋?」

「そうだよ。あの歌を聴くのははじめてだったと言うし、まちがえたのは俺たち自身にしかわかってないと思ってたけど、耳はたしかなんだよな」
「その耳のたしかなお方が、フォレストシンガーズには将来性もある。他の話がないようだったらぜひうちにと……」

 そこから幸生と俺は取っ組み合いをはじめ、残る四名の様子なんぞは俺は気にしている余裕がなくなってしまった。

「章だって嬉しいだろ」
 今夜は祝賀会だ。酒やつまみを買ってこい、とリーダーに命令されて金をもらい、幸生とふたりして外に出る。買い物をした帰り道、幸生が俺に尋ねた。

「ひねくれ者のおまえだって、メジャーデビューは嬉しいだろうが」
「それが目的で耐え忍んできたんだもんな」

「耐え忍んできたのはおまえだけか」
「いや、そうでも……いや、俺が一番耐え忍んできたんだよ」
 いつになくシリアスな顔をして、幸生は言った。

「おまえのせいで耐え忍んできた……のは俺だよ。ユキちゃんだよ。おまえの子守りばっかしてるから、俺は背が伸びないんだからな」
「俺もおまえに十八で出会って、身長の伸びが止まったんだ。おまえに会わなかったらもうすこし背が高くなってたよ」

「もうすこし高くなってもちびはちびじゃん」
「ちびの幸生に言われたくねえんだよっ!!」
「きゃーっ、章のヘヴィメタシャウトっ!! 頭が割れるっ!!」

 夜道を歩いてるってのに、ふたりともにシャウトしてから、しーっ、しーっと言い合った。

 幸生に会わずにいたら俺は背が伸びたかもしれないが、プロのシンガーズにはなれなかった。大学に入るために稚内から上京してきたときの本当の目的は、ロックヴォーカリストになることだったのに。

 でも、その夢の半分の、第一段階はかなったのだ。ロックじゃなきゃ……そう言いたがるおのれと、別れてしまったのにいまだに、アキラにはロックが似合うんだよ、と言いたがる彼女とをなだめなだめ、俺はこれから、どこへ向かって歩いていくのだろうか。

6につづく





 
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~ Comment ~

NoTitle

とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。

株式とfxさまへ

ご訪問、コメント、ありがとうございました。
フォレストシンガーズに目を留めて下さって嬉しいです。
ぜひまたいらして下さいね。

アキラの章

このタイトルをつけたのは、何々の章と書いた時、アキラと重なるから、このタイトルにしました。

アキラはロックシンガーになりたいんですね。私の作品も冒頭でロックが出てきます。まあでもこの二人はみんなから迷惑がられてますけどね(笑)。

アキラはみんなよりも歳が下で後輩に当たるんですね。上下関係厳しいような感じです。

メジャーデビューは嬉しいですね。夢が叶ったって感じ、夢叶えるのは半端な気持ちじゃいけん!だから先輩達はアキラに厳しくするのかなって思いました。

楓良新さんへ

コメントありがとうございます。
アキラのアキラ……アキラのショウですね。

フォレストシンガーズは体育会系合唱部出身で、章と幸生は年下なのですね。
あと、章は著者の私にかなり似ています。章と美江子を足して二で割って、なにかを振りかけたら津々井茜になりそうな。
そういういい加減な奴なので、若き日のアキラは先輩たちに怒られてばっかりなのでした。

NoTitle

アキラ君はロックなんですね♪
そりゃちょっと違う気がしますね・・・。本人的には。
ロックヴォーカリストはかっこいいですもんね♪
でも元彼女まで未だに言うくらいにやっぱりいい声なんですね。
なんか読めば読むほど聞いてみたくなりますね!
  • #1964 ぐりーんすぷらうと 
  • URL 
  • 2013.12/02 14:13 
  •  ▲EntryTop 

ぐりーんすぷらうとさんへ

いつもありがとうございます。
私の中でも、ヴォーカルグループとロックバンドはずいぶんちがいますね。

章はある部分は著者の私の分身なのですが、俺はロックを歌うために生まれてきた男……なんてうぬぼれているところはまったくちがいます。私には自信ってものはほとんどありませんので、自信過剰タイプはうらやましいような、なにを根拠にそうやって尊大に、上から目線になれるの? と疑問なような、です。

フォレストシンガーズの歌、私も聴いてみたいです。
読者さまがそう言って下さるのも、無上の喜びでございます。
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