ショートストーリィ

猫ストーリィ「子猫のしっぽ」②

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「子猫のしっぽ」②


 庭で小声で会話している声が聞こえてきて、僕はぼんやりと目を開けた。女の声がふたつ……一方は母だろう。一方は子供?

「……だってね、あたしにはママがいないのに、子猫たちにはママがいて甘えてるから……」
「それでやきもち妬いたの? だからって子猫のしっぽを引っ張るのはよくないな」

「そうなんだろうけど……それだけじゃないんだよ」
「え?」

 急に女の子の声が変化したように思えた。

「真知子ちゃんは覚えてないの?」
 真知子とは母の名前だ。父は家の中で眠っているのか、ミニャも子供たちと眠っているのか。大人と子供の女の声がふたつだけ、僕の耳に聞こえてきた。

「真知子ちゃんが小学生のころだよね。あたしは真知子ちゃんに拾われて、真知子ちゃんのおうちに連れて帰られた。でも、真知子ちゃんのママが言ったんだよね。うちでは子猫なんか飼えません、もとの場所に捨ててきなさい」
「……あの……」

「それで真知子ちゃんは泣きながら、あたしを抱いて捨てられていたところに戻してきた。次の日の朝にはあたしはいなかったでしょ。誰かが拾ってくれたんだって、真知子ちゃんはそう思おうとした。そうじゃなかったんだけど、あたしはほんのちょっと間だけは嬉しかったよ。真知子ちゃんは大好きだったよ」
「あなたは……?」

「だから、子猫たちにもやきもちを妬いたけど、ミニャにもやきもち。ミニャは真知子ちゃんに拾われて、こうして子供まで産んでぬくぬくしてる。運がいいってだけなんだろか」
「……あの、なにが……」

 母の声は戸惑っていて、女の子のほうは子供だとは思えない調子で喋っていた。

「でも、しようがないよね。サトルくんにも言っておいて。ううん、自分で言おうっと」
「帰るの? ……あなたのような小さな女の子が……ひとりで今時分にうちまで?」
「平気だよ。ああ、でも、平気じゃないのかな」

 そうだな、いけないよな、と僕は思い、起き上がってパジャマを脱いで普段着に着替えた。彼女は僕になにを言いたいのか、気がかりでもあったから、窓を開けた。

「僕が送っていくよ」
「サトル……」

 なんとなくぼーっとした顔で母が僕を見る。母が話していた相手は、もちろん昼間の女の子。ミニャの子供のしっぽをつかんだガキだった。

「母さんは寝てて」
「あ、ああ、そうね」
「おやすみなさい」

 女の子が母に挨拶し、母はぼーっとしたまんまでうなずく。僕は女の子とふたりして外に出た。

「きみって人間じゃないの?」
「人間だよ。人間のミカはママのいない中学校の一年生で、ミニャに甘えておっぱいをもらってる子猫にやきもちを妬いたの。そんなミカを見ていたのがあたし」

「あたしって?」
「サトルくんはあなたのお母さんと、あたしの話を聞いてたんでしょ」

 「あたし」と「ミカ」は別の存在なのか。説明はしてもらわなくてもわかる気もした。

「ややこしいな」
「そうかもしれないけど、だから、今、喋ってるのはあたし。名前もないままに野良犬に食べられた、ちっちゃな猫の魂」
 すこしだけぞっとして、それでいて切なくなった。

「ミカってその猫の生まれ変わり?」
「そうなのかもしれないけど、出てくるのは今夜だけだよ。サトルくんってわりとかっこいいよね。高校一年? 三つ年上か。ミカを可愛いと思ったんでしょ。三年待って。サトルくんが大学生になって、ミカが高校生になったら、彼女になってあげる」

「そんな約束……できるかよっ!!」
 きゃは、可愛い、とか言って、見た目はミカの女の子が笑っている。僕はガキにからかわれているのかもしれないのだが、彼女になってあげる、なんて言われたら嬉しくなくもなかった。

「サトルくんはあの真知子さんの息子なんだもの。いいひとに決まってる」
「あのさ、僕に言うってなにを?」
「ああ、ごめんなさい。痛かったでしょ」

「この怪我か?」
「あたしのせいでもあり、ミカのせいでもある。明日になったらミカは今夜のことは忘れてるだろうけど、サトルくんが好きってのは残るはずだよ。嬉しいんでしょ」

「嬉しくねえよ」
「ごめんなさいと約束の意味の、これは?」
「……あ」

 ゆっくり歩いていても、ミカの家であるらしい住宅の前に来ていた。ミカは背伸びして僕のほっぺたにキスをして、猫みたいに足音も立てずに走っていって、門の中に飛び込む。僕はただぼけーっと、ミカを見送っていた。

「ガキのくせに……」
 だけど、今夜だけはミカは半分は猫だったのか。おとぎ話のようなあんな話、信じられない気もすれば、信じたい気もする。

 猫だったのだとしても子猫だったくせに、ミカもその猫もませている。まあいいけどさ、楽しみだな。僕には三年後に彼女になってくれるって、予約済みの女の子ができた。高校生になったミカは美少女になるんだろうなぁ。

 ひとりになった帰り道、ミカが彼女になったら僕のほうからキスしよう、なんて考える。人間のミカはたしかにいるのだから、三年後には……って、そのときにはもう一度、僕のほうから告白しなくちゃいけないんだろうか。

おしまい





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~ Comment ~

ネコvvv

不思議なお話ですねえ…。

私も昔、猫と随分長く暮らしていましたが、彼奴らは本当に不思議な種族なので、こんなお話のようなことも起こるかも?

と、ちょっと考えてしまいました。

ミニャって名前可愛いですね^^

みーにゃ

有村さんも猫好きでいらっしゃいますか?
もの書きさんはおおむねインドア派で、そういう人は猫好きが多いと、犬好きの友人が言っておりました。

私も断然猫が好きで、ただいまも我が家には二匹います。
みーにゃというのはずーっと昔に拾って、四ヶ月くらいで死んでしまった黒猫の名前です。みーにゃをアレンジしてミニャにしました。

いつもコメント、ありがとうございます。
もっと短編も書きたいのですけど、なかなかネタがないんですよね。

可愛いです~^^

ほのぼのしたお話で、よかったです^^
猫好きには、たまりませんe-266

我が家には、8匹のにゃんこがおります。これが不思議と、それぞれ性格が違うんですよね。
男の子と女の子でも、可愛さが違いますね。
確かに女の子は仔猫の頃から、おませさん、ってイメージかもしれないって思いました。

かつまさん、ありがとうございます

うちにも猫が二匹おりまして、どちらも女の子。ただし、一匹は二十歳のおばば猫で、もはやバケネコと化しております。

実家には二匹の男の子猫がいて、うちの子たちと較べてみますと、あきらかに女の子猫のほうがかしこいな、穏やかだな、と。私はやっぱり女の子猫のほうがいいな、オスはいらないな、なんて思っています。

かつまさんちには八匹!! すごいですねぇ。
我が家の近くにもそのくらいの猫がいるおうちがありまして、昼間に外で出会った、珍しく人なつっこい猫に言っていたのですよ。

「迷子? 捨てられた?
 あそこの家に行き。あそこやったら面倒見てくれるよ」

通じたのかどうかは謎ですが、猫は言っておりました。

「にゃわわーん」
もっと猫の話も書きたいです。

初コメントです

可愛いお話ですね。
ミカちゃんに猫が乗り移っていたんだ。
何とも魅力的なネコちゃんですね。
3年後の約束も、何か可愛い。
ほっこりしました。

りんさん、いらっしゃいませ

コメントありがとうございます。
おいでいだけて嬉しいです。

実はこのストーリィは、実在のサトルくんをモデルにしています。
そのサトルくんも猫好きでしてね。

私はりんさんのように短いストーリィをちっとも上手に書けませんが、読んでいただけてコメントをいただけると励みになります。

今後ともよろしくお願いします。

なんだか切なかった…

以前、おっしゃっていた猫を拾ったお話ってこれですね。
これ、童話…というか、絵本にもあるんですよね。
お母さんに「元のところに戻しておいで。」って言われて仔猫を拾った女の子が再び捨てにいく話。

拾われて大切にされて幸せになりました、と言われればそれで安心して忘れてしまう。
だけど、敢えてその子は再度捨てられ、哀しい思いをする。
一度、人と関わって幸せな気持ちを味わうと、それを忘れられない…。その心の切なさに苦しみます。

偽善でも良い。
誰かが喜ぶ偽善なら、きっと許してくれる。
他でもない、自分が。

猫も犬も老成してくるとものすごく‘人間くさい’表情をするようになります。
機械に心が宿ることもあるように、細やかな感情は、きっと‘育てられる’んだろうと思います。
そこに、きっと飼い主の性格も反映されて。

動物と関わる神秘は、永遠ですね。

fateさん、ありがとうございます

猫を拾った話は幾度か書いてまして、幸生と美江子の「猫になりたい」もfateさんは読んで下さいましたよね。

とにかく猫好きですから、猫のお話は読むのも書くのも大好きです。書くほうはなかなかうまく行きませんが。

「偽善」ってものはむずかしいですね。
私は「偽悪」のほうにも興味がありますけど、どっちもやっぱりうまく書けません。

こうしてご感想をいただくと、自分の書いたものを読み返し、考え直すことにもなります。
本当にありがとうございます。

女の子のさばさばとした感じやちょっぴり生意気な感じがとても猫っぽくて良かったです。

本当に明日になったら
サトルはミカのことを忘れちゃうんでしょうか。

ヒロハルさん、ありがとうございます

こういうのを書くとつい、続編が書きたくなる私ですから、一応は続編っぽいものを書いたのです。
(他のサイトにはアップしたのですが)

ミカはこの夜のことはきれいさっぱり忘れていて、サトルのほうには夢のような記憶として残る。
ヒロハルさんにコメントをいただいて、そうなんだろうな、と考えた次第です。

私も、猫を拾ってしまって怒られて、またもとの所に返した記憶があるので、切ないです。

きっと彼女(猫)は逞しい野良ちゃんになってると信じます。(のらちゃんの人生も、過酷だろうけど)

この女の子に、その時の仔猫の魂が入り込んじゃってたのですね。
ちょっぴり、束の間の恋も出来たかな。
このあとこの仔猫ちゃんは成仏できたんじゃないかな。
そして、サトルくんにも、淡い希望が・・・・。
それまでにカッコいい男になるんだよ!w

limeさんへ

いつもありがとうございます。
limeさんにもそんな経験がおありなんですね。
私は意外に猫を拾った経験は少なくて、拾ってしまったらうちの子にしました。

サトルくんの実物は今ではおじさんですが、けっこうかっこいいので、このサトルくんもかっこよく成長すると思います。

あ、でも、実物が私のこのコメントを読んだら怒るかもしれません。
サトルくんシリーズの続編がありまして。。。
情けなーい大学生にしてしまって……本人、ショックだったようです。ごめんね、サトルくん。

切ない‥‥ ・゚・(つД`)・゚・

ねこちゃんは、食べられてしまったんですね。
悲しいことだけれど、きっと、当時はまだ子供だった「真知子ちゃん」はお母さんの言葉に逆らえるはずもなかったと、ねこちゃんが理解していたのだとしたら、何ともやりきれない気持ちになりました。

だけど、生まれ変わり? 憑依? ミカの体を借りて、サトルのお母さんに会いに来てくれて。
そして、三年経ったらサトルの「彼女」になってあげるから、なんて。
これはあの、ちょっとツンと澄ましたような、猫性の表れなのでしょうか、可愛くて、ほんのりと心あたたかくなりました(*´ω`*)テレ

不思議なお話ですね。
私にも、もう一度会いたい猫がいます。
来てくれないかな‥‥。
そんな想像が頭を掠める、素敵なお話でした♪

土屋マルさんへ

コメントありがとうございます。

もう一度会いたい猫ちゃん、
土屋さんと猫ちゃんの間にはどんなドラマがあったのでしょうか。

私も子供のころからずーっと、ブランクはあっても猫と暮らしてきましたので、もう一度会いたい猫、いますよぉ。
今はもうじき二十歳の我が家のちぃが、二十歳にはなれずにさよならかなって感じです。

猫というものが不思議な生き物なんですよねぇ。

NoTitle

約束の日に会えるような気がしました。
実はその辺ですれ違ってるかも。


猫って犬より言うこと聞かないとか言われるけど、
そんなことはないし、習慣も違う。

「猫はちゃんと覚えていて、何かあるとそばに来てくれるよ」
と、実家で猫を飼っていた母がよく言ってます。

そっぽをむく猫も、懐こくしてくれる猫も大好きです。

ハルさんへ

猫にもさまざまな性格があって、個性豊かですよね。
猫になんか興味なかった、嫌いだったという人が誰かの影響で猫と暮らしてみて、すっかりはまっちゃったとなっているのも聞いたことがあります。

うちの猫たちは二十歳と七歳、二匹の性格はずいぶんちがっています。

コメント、ありがとうございました(^^

NoTitle

今回はこちらを読ませていただきました♪

偶然にもつい最近子猫三匹を保護してきたところです。

私自身酷い動物アレルギーなんで面倒みるのも命懸けで(^^;)
早く里親見つかればいいのですが……。

亡くなる子もいれば、救われる子もいる。複雑な気分です。でも亡くなった猫の魂が息子に可愛い彼女を連れてくるなんて、素敵な恩返しですね。(解釈ちょっとズレてますかね(^^;))私にも素敵な恩返しないかしら(笑)


あ、この場お借りしてすいません。ブログのことで質問させてください。
私のブログで目次欄が「短編」、「長編」となっていて、それを押すと作品名が出るのですが、押さなくても「短編」の下に「中庭」、「フェアリーシンドローム」と出すこと出来るんでしょうか?
あと、スマホから閲覧しているのですが、必ず画面上部に「スマートフォン版で表示」というボタンが出て邪魔なのです。消すことは出来るのでしょうか?スマホ内部の問題?

うまく聞けているか心配ですが……教えていただけると助かります。

たおるさんへ

コメントありがとうございます。

仔猫を保護されたんですか?
動物アレルギーでいらっしゃるのに? うわー、それは困りましたね。
うちに二匹いた猫のうちの、ばあちゃん猫が去年死んでしまったので、ほんとはもう一匹ほしいのですが、家族の反対に遭っています。
たおるさんが保護された仔猫ちゃんたちが、いい里親さんにもらわれていくことを切に祈っております。

この話は猫の恩返しとも読めるんですね。
猫だったらストレートにじゃなくて、ひとひねりした恩返しをしそう。

えーと、それから、スマホにつきましては、私はまだガラケーを使っている昔人間ですので、全然わかりません。すみません。

PCの仕様のほうでしたら。
FC2にはかなりバリエーション豊かな「小説用テンプレート」がありまして、似ているようでも微妙に表示がちがっているみたいです。
小説用テンプレートを使ってらっしゃるみなさんのところを見にいって、たおるさんの希望にぴったりのものがあれば、真似してそのタイプを使うというのもいい方法かもしれません。

あるいは、FC2に問い合わせるとか。
スマホの件につきましても、わかりやすく質問したら答えてくれますよ。
私も前に質問して答えてもらったことがあります。

なんかまったくお役に立てなくてすみません。

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