ショートストーリィ(グラブダブドリブ)

グラブダブドリブストーリィ「ケアレスウィスパー」①

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グラブダブドリブのドルフとチカです。


「ケアレスウイスパー」①

 無国籍料理が評判の居酒屋に、なつかしい歌が流れてきた。

「ケアレスウイスパーだね」
 この歌、この歌……なんかひっかかる。なんだっけ? とチカは首をひねり、かたわらでバーボンのグラスを口に運んでいるドルフの顔を見た。

「あ、思い出した」
「なんだよ」

「あんたさ、女とは経験ないって嘘だろ」
「は?」

 目を白黒させているドルフを見返していると、あの夜の一シーンがよみがえってきた。
 ひそかな音がドアごしに聞こえる。WHAMの「ケアレスウイスパー」だ。ドルフの趣味に合う曲だとは思えない。チカは室内の気配に神経を集中した。

 どうやら女がいる。音楽にまじって、小声で女がなにか言っているのがかすかに聞き取れる。ひめやかな雰囲気と呼べるようだ。ドルフが女とひそひそ話し? ドルフの声は聞こえないが、チカはもやもやした気分できびすを返した。

 別にドルフとは恋人同士でもないのだから、彼の部屋に女がいて入っていけなくても、チカが文句をつけるいわれはない。まったくかまわない。勝手にやってろ、ではあるが、不思議だった。女ばかりのバンドのドラマーが抜け、ドルフを勧誘した理由には、彼が女に性的関心を一切持たないから、というのもまぎれもなくあった。話がちがうじゃないか、だ。

 しかし、ま、ドルフだってそんな気になることもあるよな、チカはおのれを得心させて、ドルフの住むアパートの部屋から遠ざかっていった。

「覚えてなくはないよな。あれ、誰?」
 もはや時効、というほどの昔でもないが、チカが記憶しているその夜のできごとをかいつまんで話すと、ドルフが仏頂面になった。

「誰でもいいだろ。おまえにゃ関係ねえの」
「関係ないっちゃ関係ないか。いいけどさ」

「私」
 唐突に女の声が割り込んできて、唐突に女がドルフとチカのいるカウンター席の、間に割って入ってきた。

「美麗?」
 ステージネーム「美麗」。美麗と書いて「みれい」と読む、チカたちのバンドのライバルバンドのヴォーカリストだ。チカたちのバンドはドルフ以外全員女だが、美麗のバンドは楽器はすべて男、ヴォーカルのみが女、よくある構成だ。

「あんたんとこ、解散したんだよね。田舎に帰ったんじゃなかった?」
「解散したわよ。一旦田舎に帰った。でも、田舎なんてつまんないじゃない」

「また出てきたのか」
「そうよ。ドルフ、お久しぶり」
「ああ」

 あんな話の最中に、私、と言って割り込んできたのだから、ドルフの相手は美麗ってわけだ。それにしてもいつから、どこでチカとドルフの会話を聞いていたのだろう。

「ドルフがずっと好きだったの。ドルフは女に興味ないって知ってたわ。だけど、一度でいいからって迫ったの。私はもう田舎に帰るんだから、後腐れってのもないでしょ? 一度でいいから、たった一度の想い出をちょうだいってね。ドルフ、怒ってる? 二度と会うはずもない女だったのにね」

「怒ってはいないけど、そんな話はチカにする必要ないじゃないか」
「チカとつきあってるの?」
「つきあってないよ。前のまんまだ」

 一夜限りの想い出をちょうだい、と迫られて情にほだされたか、ああ、やだやだ、背筋がかゆくなってくる。美麗はこんなうっとうしい女だったか、とチカは美麗をまじまじ見た。美麗は微笑んでいてもなにやら果てしなく暗くて、あたりの空気がつめたく澱んできている。

「私だけよね。最初で最後? 嬉しいな」
「そんなのって嬉しいのか」
 思わずチカが口をはさむと、美麗はこっくりした。

「嬉しいじゃない? ……ケアレスウイスパーね。あのときもこの歌がかかってた。私が大好きだって言ったら、ドルフがかけてくれたんだった」

②につづく

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