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小説223(シネマ日和)

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フォレストシンガーズストーリィ223

「シネマ日和」


1・繁之

 懸賞つきクイズに当選してコンサートチケットをもらい、東京までダーティエンジェルスのライヴを見にいったのは、俺が高校生のときだった。
 男性ヴォーカルグループであるから、彼らはフォレストシンガーズと似たタイプの音楽をやっていた。すでにダーティエンジェルスは解散しているのだが、現在でも時おり再結成してレコーディングをしたりライヴをやったりする。音楽以外の業界に転身している人もいるものの、俺よりも二十歳前後は年上の彼らは、みんな音楽が大好きなのだ。
「なあなあ、本庄くん」
 東京での夜のイベントに、ダーティエンジェルスとフォレストシンガーズが出演した際に、たまたま楽屋でふたりきりになり、世間話の流れでロクさんが言い出した。
 当代きってのベースマンと呼ばれているロクさんは、身長は俺くらい。細身の五十代だ。この身体のどこから……と思うほどに彼は渋い喉をしている。もっとも、酒巻國友という短身細身ベースマンもいるのだから、小さくて低い声の男は珍しくもないのだろう。
「俺とやらない?」
「はい? 仕事ですか」
「やろうったって、俺は男とはやらないよ」
「は?」
「だから、仕事ってのか遊びってのかさ……」
 本名は六輔、だからロク、と彼は言うが、公式には本名は名乗っていないようだから、本当なのだか嘘なのだかは知らない。ロクさんは真面目な顔をして言った。
「ヴォーカルグループには必ずしも、ベースマンがいるとは決まってない。でも、いるグループが多いよね。俺らはもうロートルだけど、現役の男のグループの中では、本庄くんが第一人者だとか……」
「まさかっ!!」
 悲鳴のような声を上げると、ロクさんはふふっと笑った。からかわれたのだろう。
「それはともあれ、俺もベースヴォーカリストだろ。この手の声の男ばかりのグループもいいなって……どう?」
「あの、それはですね、ロクさんが新グループを結成する。俺にフォレストシンガーズを抜けて参加しろとのお誘いですか」
 でしたら、お断りします、との決意で言ったのだが、ロクさんはにやにやと言い返した。
「そうなのか。きみはフォレストシンガーズに不満があるのかね。脱退したいのかね」
「逆ですっ!!」
「逆とは? フォレストシンガーズがきみを脱退させたいのか。きみたちって不和なのかね」
「ちがいますよ。ロクさん、お願いしますよ」
「うん、だからさ、遊びだよ。俺はいろんなミュージシャンのDVD制作の仕事をしていて、それはそれで忙しいんだ。ダーティのほうはやっさんがさ……」
 メインヴォーカルのヤスシさん。ダーティエンジェルスは彼のワンマンバンドだとも言われている。ヤスシさんは現在はソロシンガーで、まあまあ多忙なのだ。
「やっさんがやろうって決めないとやらないから、俺は自由には動けない。別のグループってんだったらさ、やったらいいじゃん、ってやっさんは言うんだ。ベースマンのグループは? って言ったら、そんなもんが売れるかよ、とも言われたけど……」
「他には誰を予定しておられるんですか」
 男のみ、または男女混合のヴォーカルユニット、そういうものは日本にはいくつもあるが、有名どころは意外に少ない。フォレストシンガーズはその中では有名なほうだ。それでも俺も知っている名前を挙げ、その中のベースマンの名前を三人、四人と並べて、ロクさんは言った。
「本庄くんは最有力ってのか、はずせない名前だよ。きみさえ了解してくれたら、俺が話しは進める。どう?」
「やりたいんですけど、リーダーや乾さんに相談しないと……」
「きみがやりたいんだったらそれで万事OKじゃん? 相談はしたかったらすればいいけど、きみらもいつまでたっても……」
 学生気分が抜け切れないね、と言いたそうであったが、先輩たちに無断で勝手な真似はしにくい。
 作詞作曲はまずできない。楽器もできない。俺のとりえはこの低い声、このベースヴォーカルだけ。そのためにフォレストシンガーズの中では俺がもっとも単独仕事は少なくて、歌う仕事しか入ってこない。
 そんな俺に入ってきた珍しい仕事だ。確定したのではないものの、ロクさんは乗り気だし、うちの先輩たちだって、それはいいな、しっかりやれよ、と励ましてくれた。後輩たちも、ふーーん、面白そうだね、シゲさん、がんばれよ、と言ってくれた。
 章の作曲、本橋さんのピアノやクラシック、幸生の作詞や女性シンガーのシングル曲のプロデュース。仲間たちにはそのような個別仕事がある。ミュージシャンとしては普通の仕事なのであろうが、乾さんにはミュージシャンらしからぬ仕事が飛び込んできた。
「みんな知ってるだろ。劇団ぽぽろのイッコウくん」
 以前に章が何度か舞台音楽を提供した劇団だ。それ以外にもちょこちょこ関わりがあったので、俺もイッコウくんは知っている。乾さんはみんなを前に報告してくれた。
「イッコウくんが紹介してくれたらしいんだけど、彼が出演する映画の製作者サイドから連絡があったんだよ。協議の結果、映画に出ることになりました。幸生、先を越してごめんな」
 幸生は知っていたようなのだが、本橋さんは怖い顔になった。
「なんの役だ? 乾、主役か。かっこいい役か」
「ファンタジー映画なんだよな。架空の国の宮廷のハレムの王さま。主役ではないんだけど、重要な役柄らしいよ。主役はハレムの宮女たちってのか。百花繚乱の有名美人女優共演。豪華饗演。美女たちが王たる俺の寵を競って争うシーンもあるらしいんだな。もてすぎる男は罪だね」
「それをもてると言うのか」
 映画の話だというのに、本橋さんはいささか憤っていた。
「そういうのはもっと美男か、いっそ醜い男が演じたほうがいいだろ。おまえだったら中途半端だよ」
「半端な目立たない男がいいんだろ」
「けど……うまくしたらおまえはけっこうかっこいい王さまになりそうだよな。勝手にやりゃあいいだろ」
「本橋くん、どうして怒るの?」
「怒ってねえよ」
 いや、怒っている。章もぶすくれていたので、怒っているというよりも、このふたりは羨ましくてひがんでいるのだろう。俺もその役だったら……いやいや、シゲには似合わないからやりたくない。
 そうして個別の仕事なども入ってきて、俺たちは多忙になる。多忙になると家族とすごす時間が減るのは寂しいが、売れなかったころと較べれば仕事の面ではなんと恵まれてきたのだろうか。私生活も仕事も、今の俺はすべてが順風満帆といっていい。
 乾さんの映画の仕事が開始し、そのわりには頻繁にはスタジオに出向くわけでもなく、そんなものなのかな、と思っていたある日、五人での仕事が終わってからお願いしてみた。
「乾さん、このあとは撮影に行くんですか。俺も見学させてもらってもかまいませんか」
「いいよ。今日で俺の出番は終わりだから、最後になるもんな」
「今日で? まだはじまったばかりなのに、もう終わりなんですか」
「そうだよ」
「誰か、見学に行きました?」
「最近はみんな忙しいし、シゲだけだよ」
 重要な役の撮影はそんなに早くすむのか? 映画なんて観るほうですらもあまりやらない俺には、撮影現場なんてまったくなじみがない。またもやそんなものなのかなと訝しみつつも、乾さんにくっついて撮影スタジオに行った。
 関係者に挨拶して、俺は見学者になる。宮廷のハレムってどんなセットなんだろ。どれほどの美女が出演するんだろ。有名女優だったら俺も知ってるかな。むこうは俺なんか知らないだろうけど、女性と仲良くなるのは得意な乾さんなんだから、彼はとうに彼女たちと親しくしている。
 そしたら俺も紹介してもらって、握手だとかサインだとかだったらしてもらえるかな。誰が映画に出ているのかは知らないけど、美人女優だったら誰でもいい。
 ハレムの王ってどんな衣装だ? アラビアのサルタンか。中国か韓国ふうか。架空の国なのだったら衣装さんが工夫を凝らしたオリジナルか。乾さんの衣装はどうでもいいけど、美女たちはどんな格好を? 隠しているのが色っぽい服か、あらわな肌が色っぽい服か。
 さまざまに空想していても、イマジネーション貧困な俺は上手に像を結べない。見たらわかるさ、と居直っていると、乾さんが椅子にすわった。
 ここがハレム? ワインバーに見えるけど? 乾さんはしゃれたシャツに細かいチェックのパンツで、格好はいいけれど、王さまには見えない。ギターを弾いて歌っているのは、ハレムの美女たちへのサービスなのか。
 歌はフォレストシンガーズオリジナル、ステージでもCDでも乾さんがソロで歌っている、「目を閉じればあなたがいる」だ。別れた彼女を想って切々している失恋ソングである。
「……これって現代の……こういうシーンもあるのか」
 納得しがたいままに納得しているしかない俺は、こうして聴く乾さんの歌も最高だな、とも思っていた。
「これで俺の映画の登場シーン撮影は完了。写真撮影があるからスタジオを移動するんだよ」
「俺も行ってもいいんですか」
「いいよ」
 なんだか変だな、とは思うのだが、乾さんが説明してくれないので、俺はおとなしく別のスタジオへとついていった。
「お待たせしました」
 そこには撮影スタッフたちと、俺の知らない女性がいた。女性は二十歳前後だろうか。やや小柄でややグラマーな女性は、乾さんを見上げて潤んだ瞳をして言った。
「脱げって言われたら脱ぐつもりで……」
「ええ? 脱ぐんですか。そこまでするんですか。芸術のため? あなたがいやなのに無理強いされるんだったら、俺が写真の監督さんに言いますよ」
「それでいい絵が撮れるんだったら、私、脱ぎます」
「……見上げた女優根性なのかな」
「女優の卵ですけど」
 卵だから俺は知らないのか。それだったら納得できる。厚めのくちびるをした色っぽい女優は、乾さんの肩に頭を寄せた。
「脱ぎますけど、やっぱりちょっとどきどきするの。ちょっと怖いっていうの?」
「そうなのかもしれませんね」
「だから、こうして抱いて」
 彼女は乾さんの手を取り、自らの肩に導いた。乾さんは優しく彼女の肩を抱く。乾さんだからこそ決まるシーンに見えて、映画撮影の続きを見ている気分になる。
 このひとと俺は異人種だと、遠い昔から俺はそう思っていた。したがって、俺は乾さんが女性に対してあれこれ言ったりしたりしていても、ひがみはしなかった。乾さんでなければできない、乾さんでなければさまにならない。俺にはこんなふうにはできない。
 達観するつもりでいても、若いころにはひがみ根性が騒いだものだが、現在では俺は二児の父、恭子の夫だ。こんなシーンを見せつけられてもひがまない。俺はそうなのだが、他の三人は怒るかも。本橋さんがもっとも怒ったりして?
「なにやってんの? は? 脱ぐ?」
 写真の監督なのだろうか。知らない中年男が出てきて、女優さんと小声でやり合ってから、呆れたように言った。
「脱げなんて言ってないでしょ。きみが裸になったら刺激が強すぎるよ。そのドレスでいいんだ。泣いてるの? 泣く必要もないんだから泣き真似だろ。顔を直してきなさい」
 彼に命じられた女優はどこかに行ってしまい、監督さんは乾さんに言った。
「噂には聞いたんですけどね……はー、これか」
「なんなのでしょうか」
「乾さんは千鶴とは知り合い?」
 あの女優さんは「ちづる」という名前であるらしい。乾さんは首を横に振った。
「初仕事ですか。千鶴のほうは乾さんを知ってたのかな。知らなかったとしても、あんな嘘をついてまで、あなたに抱かれたかった」
「はあ……」
「ってーわけでね、あとはご自由に」
「……はい」
 珍しく乾さんの口数が少ないのは、戸惑っているからだろうか。つまり、千鶴さんは乾さんを好きになったと? そっちはなんにも珍しくないのだが、羨ましいなぁ……俺は達観していると言った矢先から、煩悩は起きるのであった。
 化粧を直して服を調えたらしく、真紅のドレスの千鶴さんがあらわれる。なんの写真撮影なのかは知らないが、乾さんが彼女を抱擁して、ストロボが幾度も光っていた。
 両手で乾さんの首にしがみつき、片脚を上げて乾さんの脚にからませる千鶴。片手は千鶴の肩を抱き、片手は尻を包んでいる乾さん。乾さんが千鶴の細いウェストを両手で持ち上げて、千鶴の足がかすかに地面から浮いていたりもした。
 正面を向いていたり斜めを向いていたりして、乾さんの顔はカメラに向かっている。千鶴は後姿で顔は見えない。そのアングルなのは共通していて、顔の見えない小型グラマラス美女がいっそうセクシーに感じられる。
 語彙も少ない俺にはその程度しか形容できないが、見ていると頭がくらっとする。ただの写真撮影なのに、彼女も彼も服を着ているのに、ものすごく色っぽい。想像力貧困な俺がここまでくらくらするのだから、幸生だったらどうなることか。
「千鶴さん、俺とどう?」
 そう口説くのか、もしくは?
「乾さんはユキちゃんのものよ。千鶴になんかあげないわ」なのか。
 変な空想をしているうちに、かなりの時間をかけて撮影が終わった。千鶴さんは疲れた顔をしていて、それがまた色気したたると俺には見える。この体型も顔も俺の好みなのだろう。おまけに俺の趣味のソプラノの声で、千鶴さんは乾さんに言った。
「今日はここまで?」
「撮り直しもあるかもしれないけど、一応は終了みたいですね」
「乾さん、どうしてそんな口のききようをするの? 乾さんって三十五歳?」
「そうですよ」
「千鶴は十九なの。子供扱いしてもいいから、千鶴って呼んで。おまえって呼んで。お酒を飲みに連れていって」
 こうなると俺は帰ったほうがいいのだろうか。乾さんは俺にちらりと苦笑を向けてから、千鶴さんには言った。
「十九なんだったら酒は駄目だろ。送っていこうか」
「お酒が駄目だったら食事は?」
「千鶴ちゃんも……」
「千鶴って呼んで」
 命令口調でこの言葉ってのも変ではあるが、乾さんはなんともいえない顔をして笑う。この笑顔が女性にもてる秘訣なのであろうか。
「千鶴も仕事はおしまい? だったら軽くメシを食ってから帰ろう。俺も明日までは仕事がないんだよ。シゲ、お待たせ。行こうか」
「いえ、あの、俺は……」
「誰なの?」
 アウトオブガンチューなんてのは死語であろうが、そんな言葉が浮かぶ。乾さんは言った。
「俺の仕事仲間。フォレストシンガーズって知ってる?」
「知ってはいるけど……」
「シゲ、自己紹介するか」
 そうしようと頭を下げてから顔を上げると、千鶴さんはそっけなく言った。
「シゲさんっていうの? すっごく邪魔なの。あなたは帰ってよ」
「千鶴」
 ほんのすこしとがったというか、きびしい声になって、乾さんは言った。
「そんなふうにお行儀の悪い子は嫌いだよ。俺の友達でもあり後輩でもあり、仕事仲間でもある彼に無作法な態度を取るのは許しません。シゲにあやまりなさい」
「……だって……」
「俺の言いつけが聞けないんだったら、食事はなしだ。帰ろう」
「そんなそんな……」
 泣き虫なのか泣き真似なのか、千鶴さんの顔がくしゃっとなる。こうなると俺はうろたえそうになるってのに、乾さんは冷静だった。
「千鶴、シゲにごめんなさいをしなさい」
「しなかったらどうなるの?」
「ただちに彼に詫びて、三人で食事をしてからきみを送っていく。それがひとつの選択」
「もうひとつは?」
 流し目で千鶴さんを見てから、乾さんは彼女の耳に口を寄せた。俺には乾さんの声は聞こえなかったのだが、千鶴さんの目元がとろとろっとなり、顔が赤らんでいった。
「三十五年も生きてきて、十年以上はこの業界にいて、わがままなお嬢さんの扱い方も学んだよ。十九のお嬢ちゃんの扱い方だったら知ってるつもりだ。俺の言う通りにしなかったら、そうされて言うことを聞かされるんだよ。どちらがいいのか、考えてみるまでもないだろ」
「乾さんったら……はい、シゲさん、ごめんなさい」
「いえ、あの、こちらこそ」
 うろたえて口走ると、乾さんはわははと笑った。
「おまえがこちらこそって言う必要はないだろ。よし、行こう。千鶴、おいで」
「はい」
「……俺は帰ったほうが」
「バカヤロ」
 この目配せの意味は? 帰るな、この子と俺をふたりきりにするな、であろうか。俺には複雑な意図だったら読み取れないので、そう考えておこう。今夜は千鶴さんにとっての邪魔者、乾さんにとっては防波堤? それに徹して、鈍感シゲを貫こう。

 
2・章

 ぼってりしたくちびるは色っぽいと言えば言えるが、俺の好みではない。背丈は合格だが、体格も少々ぽってりしすぎている。彼女は俺の好みではないのだが、乾さんがもてているのを見ると嫉ましい。羨ましい。
 午前中にはスタジオで五人で仕事をして、午後からは別行動になった。乾さんは「タブーNO.3」とかいう映画の仕事で、シゲさんは暇だったらしく、撮影現場を見学に行くと言って乾さんについていった。残る三人は各自の仕事に出かけた。
 主演は大城ジュン、相手女優はカリコ・キリコ。「タブーNO.3」については、俺はそのくらいしか知らない。乾さんがなんの役を演じるのかも知らない。乾さんは本橋さんに向かっては、ハレムの王さまの役だと言っていたが、あのときの乾さんの表情からしても、嘘だと思う。
 映画が完成したらわかるだろうし、秘密にしたいんだったらそれでもいい。どうでもいいと思ってしまうのは、主演の男優が嫌いな奴だからだ。俺は大城ジュンとは話もしたことはないが、脚が長くて顔がよくて、「抱かれたい男ナンバーワン」だって? 笑わせるんじゃねえよ。
 顔だけだったら俺も負けて……もはや負けるか。だからだから、俺は大城ジュンは大嫌いだ。
乾さんが重要な役で映画出演すると聞いても、俺は羨ましくはない。幸生は役者もやりたいようだが、俺は舞台音楽のほうが楽しい。フォレストシンガーズが余興でやる芝居程度でたくさんだ。けど、映画ってやっぱかっこいいかな、ぐらいは考えるのだが、俺はやりたくはない。けれどけれど、俺の好みではなくても美人の女優にもてている乾さんは羨ましい。
 仕事をすませてメシを食おうと、俺はフォレストシンガーズ全員の行きつけの店に来ていた。そこに乾さんとシゲさんが入ってきたのだ。行きつけの店なのだからここで仲間たちに会うのはありがちだが、若い美人がひとり混じっていた。
「千鶴、自己紹介すれば?」
 呼び捨て? 乾さんと千鶴とやらはどんな仲だ? 千鶴は厚いくちびるをつんととがらせて言った。
「また邪魔なひとがいるぅ」
「俺の仲間を邪魔だなんて言うな。そういうことを言う子は帰らせるよ」
「だってだって……」
 また、と言っているのだから、シゲさんも邪魔なのだろう。俺も邪魔だと見られているのはまぎれもなくて、つまりは、千鶴は乾さんが好き。勝手にしてくれ、であった。
「じゃあさ、シゲさん、俺たちは店を変える?」
 えーと、どうしようか、という顔をシゲさんがし、乾さんは言った。
「俺もそっちに行くよ。わがままな女の子とはつきあっていたくないんだ」
「……乾さん、ごめんなさい。ちゃんと挨拶しますから」
 うるうるした瞳で見上げられて、乾さんはうなずき、千鶴は俺に挨拶した。十九歳の女優の卵だそうで、未成年なのだから酒は禁止。俺がすわっていたテーブルが四人になって、食事をはじめる。千鶴は乾さんにくっついていて、スキあらば甘えよう、スキあらばしなだれかかろう、の態度ありありだ。
 こんなときには酒を飲めないのがかわいそうでもある。乾さんは千鶴をまるっきり子供扱いして、小さな女の子に対するみたいな接し方をしている。これは故意になのだろうか。俺に惚れちゃいけないぜ、なのか。けっ、けけけっ。
「きみってそれは天然?」
 尋ねると、千鶴はグッドチャンスとばかりに、乾さんにもたれかかった。
「章さんって意地悪だね。乾さん、千鶴、酔っちゃった」
「なにに酔ったの? ペリエに酒が入ってたのかな」
「乾さんのそばにいられることによ」
 ぞわぞわぞわっ。シゲさんはほとんど口をきかず、食うばかり。俺も食って飲んで早く帰ろうかと思うのだが、よけいなことを言いたくなるのは、シゲさんではなく幸生寄りの性格をしているからだ。
「計算づくでそうやってるとも考えられるんだよな。なんかさー、きみの態度ってわざとらしいっての? 演技してるみたいに見えるんだ。乾さんも昔から、役者でもないのに私生活で演技する。あんたらは芝居してるみたいだよ」
「私が女優だからそう思うんじゃない? 私はほんとにほんとに乾さんに恋をしたの。好きなの」
 その台詞さえもが芝居に見える。乾さんは微笑んで、千鶴の頭を子供にするようにして撫でている。
 それからもその調子で、千鶴は乾さんを困らせたり、怒らせようとしているのだろうと俺には思える言葉と態度を示し続けていた。シゲさんだったら困るだろうし、本橋さんだったら怒るだろう。俺だったら……? そんなに俺を好きだったら行こうぜ、ホテルに、となる。
 しかし、乾さんはその誰でもないのだから、怒りもしないし困りもしない。ホテルに行く気もないようで、とことん千鶴を子供扱いし、説教したりもしていた。
 千鶴は乾さんに優しく叱られ、上から目線で見られるのが嬉しいらしい。見下ろされて説教されてとろんとしているのは、マゾなのだろうか。そういう方面の思考は俺は苦手なので、そうではなくて、うん、こうか、と考えた。
 思い出すのはミルキーウェイだ。彼女は俺の告白は冷笑ではねつけたくせしやがって、乾さんには興味を引かれていたと思える。興味を持って乾さんにつきまとって、好きになったのか。そして、乾さんはミルキーを嫌いになった。
 神戸で乾さんがミルキーに投げた、きつくて辛辣で、あたたかみのかけらもない言葉からして、当たらずといえども遠からずだろう。
 あんな言い方をされたのだから、俺はミルキーに同情しそうになった。そしてそして、今は、乾さんは千鶴に説教をしている。お行儀が悪いね、いけない子だね、めっだよ、みたいな、子供扱いの台詞を浴びせている。
 昔の俺だったら……ってーか、昔の俺には乾さんはこんな甘い口調でものは言わず、馬鹿野郎、かかってこい、だったのだが、そう言われたら俺は怯えるか、もしくは怒っていた。けれども、あの乾さんの言葉と、千鶴に対している言葉には共通点がある。
 ミルキーに投げた言葉とは正反対で、あったかいのだ。思い起こせば俺が乾さんに叱られたのも、時には軽めに頬を叩かれたのも、とってもあったかかった。幸生じゃあるまいし、そんなふうに思うとは照れくさいが、まあ、大人になったから、過去をなつかしくほのぼの振り返れるようになったのだと、そう解釈しておこう。
 そうなのだから、千鶴は乾さんに甘い口調で叱られるのが嬉しいのか。幸生も女気分のときにはこんな心境なのか? 千鶴は本物の女で、精神的にはややマゾなのか。美江子さんだったら乾さんにこんなふうに言われたら怒るだろうから、美江子さんはややサドなのか。
 シゲさんみたいに食うほうに専念もできず、千鶴と乾さんを無視もできず、俺はそんなことなど考えつつ、飲んで食っていた。
「子供扱いってこうでいいの?」
 乾さんの声が聞こえ、うふん、と千鶴が返事するのも聞こえ、俺はシゲさんに小声で尋ねた。
「子供扱いしてくれって、千鶴が言った?」
「子供扱いされてもいいから、って言ってたよ」
「赤ちゃんごっこ、プレイ……それともちがうのか。そういう女もいるんだね」
「子供扱いされたがる女……いるんだな。俺にはわからん」
 わからんと力強く言っておいて、シゲさんは残っていたピラフを一気にかっこんだ。
「だけど、子供扱いされると嬉しい女を子供扱いして、叱ってるようで甘やかしてるみたいで、そんな態度だったら千鶴はいっそう乾さんに惚れるでしょ?」
「乾さんも楽しんでるのかな」
「若い女の子を叱って楽しむ趣味か。昔から乾さんにはその傾向があったけど、そろそろ中年なんだから、その傾向大になってきたんだよね」
「あのな、章」
 聞こえていたようで、乾さんが俺に言った。
「おまえがさっき言ったこと、俺も同感だよ。俺は千鶴の女優としての芝居の稽古につきあわされてる気分だ。千鶴、きみはそういう役を演じる予定でもあるんじゃないのか」
「どういう役? やーん、おまえって呼んでよ」
「……近頃の若い女性としては、そういうのは変わってるのか?」
「そういうのってどういうの?」
 無邪気な目も演技なのだろうか。乾さんの言っている、そういう役ってのは……男に甘えたくて叱られたがって、叱られると素直になって、はい、ごめんなさい、言うこと聞きます、って女か。そんなタイプとは俺はつきあったこともないが、いなくもないのではなかろうか。
 幸生だったらそういう役は完璧に演じそうだが、あいつは男なので、いくら演技力があってもバツ。見たくない。そういうタイプのオカマの役だったらいいかもしれないが、オカマなんてのは俺は見たくない。幸生オカマは似合いすぎて怖い。
 テレビドラマに千鶴が出演し、その役柄が乾さんの言ったような女だったとしても、俺は驚かない。彼女が本気で乾さんに恋をしていても、乾さんも実は女の子を叱るのが好きなのだとしても、驚かない。人は皆、どこかしらちょっと変態。そのくらいだったら許せるだろう。許さなくては、あの変態幸生とつきあっていられないのだから。
 だけど、どっちなんだろうな。他にも考えられるかな。乾さん、好き、ああ、ありがとう、との男女の会話を聞きつつ、気持ちをそらしたいからこそ、俺はさまざまな仮説を立ててみていた。


 このところはフォレストシンガーズ五人の活動よりも、個別活動が多いので、俺はひとりで仕事をしている。仕事はひとりではなく、スタジオに行って作曲の打ち合わせをしていれば関係者はいるが、メシを食ったり酒を飲んだりするのはひとりだ。
 そうやってひとりだと、行きつけの店を選ぶ。俺の行きつけの店は同業者のたまり場だったりして、今夜も知り合いに会った。金子将一&沢田愛理。ともに大学と合唱部の先輩でもあり、金子さんは歌手でもある。沢田さんはアナウンサーだ。
 俺は大学は一年で中退しているので、金子さんも沢田さんも記憶にもない。金子さんは俺よりも四つ年上。沢田さんは三つ年上だから、俺が一年生の年には女子部にいたはずだが、まったく覚えていない。美人ではあるが、千鶴以上に趣味じゃないからかも。沢田さんは俺よりも若干背が高く、かなりヴォリュームがある。
 誰かを思い出す……悦子か? 悦子って誰だった? あいつは沢田さんみたいに洗練されてなかったし、化粧は濃かったし、だっせえ女だったけど、どうしてるのかな。結婚でもして母親になって、たくましく生きてるかな。
 むこうが俺を好きだった女、俺は嫌いでもなかったけれど、キスもしなかった女。そんな女も何人もいるけれど、悦子はわりに覚えているほうだ。
 それにしたって悦子と沢田さんは、身体つきが似ている程度。悦子と重ね合わせてももはや気分が悪くならないのは、時が流れたせいである。それはまあいいとしても、俺はこのカップルは苦手だ。あ、どうも、だけ言って逃げようとしたのに、沢田さんに呼び止められた。
「木村くん、ここにすわらない? 店は混んでるんだから、一緒に飲もうよ」
「……はあ」
 学生時代の触れ合いは皆無。キャリアは金子さんよりもフォレストシンガーズのほうが一年ほど長い。俺とは関係ない男だという態度も取れるはずが、金子さんは本橋さんや乾さんやシゲさんには恩ある先輩なのだそうだから、そんなふうにはあしらえない。
 体育会合唱部出身の俺の先輩たちは、先輩後輩のけじめにもうるさいのだ。プロのシンガーズとなってからだって、幸生や俺はよくリーダーやシゲさんに怒られた。
「先輩に向かってなんだ、その態度は。その口のききようは」
 相撲部かよ、ここは、と俺は言いたくなったものだ。
「乾さんに生意気な口をきいて、ヒデさんにひっぱたかれたことがあるよ」
 幸生はそう言っていた。俺も乾さんには態度が悪いの、行儀が悪いので叱られた。
 お気楽な大学生だったころの俺は、本橋さんや乾さんは遠くから見ていただけで、あのころには乾さんを、物腰のやわらかな優しげで温和な男だと思っていたはず。学生時代には本橋さんや乾さんには怒られたことはないはず。
 シゲさんやヒデさんにだったら怒られたりはしたが、深刻な争いなどはなかった。学生時代の俺は幸生が言った通りに、どこかで合唱部を軽視していたのだろう。ここは俺のいる世界ではない、俺はロックの世界に行きたいんだ。
 だからこそ、先輩たちとは争うほどでもなかった。幸生とだけはガキみたいに取っ組み合いをしていたが、先輩たちとは距離を置いて接していた。
「最近は忙しそうね」
 女子部の先輩となると縁もなかったのに、そんな沢田さんとこうして同席して飲んでいる。金子さんとは合唱部に同時在籍していないので、まったく縁もない。だからこそもあるし、うちの先輩たちからあれこれ聞いているのもあって、俺は金子さんも沢田さんも苦手だ。気詰まりだ。
「はい、まあ、おかげさまで」
 気詰まりなのでついつい、グラスを重ねてしまう。この店のウィスキーソーダはやけに濃いようで、だいぶ回ってきた。
「木村くんって無口だったかしら」
「三沢といたら喋りまくってるよ」
「そうよね。私と飲んでもつまらないから? 誘って悪かった?」
「うん、まあね。俺、太目の女って嫌いだし」
 うっかりつるっと、口から言葉が飛び出した。沢田さんは目を点にして黙りこくり、金子さんは剣呑な笑みを浮かべて言った。
「木村、外に出ろ」
「な、なんなんですか? あ、太め? だって本当の……」
「いいのよ、私は太ってるんだから。太った女とは口もききたくないのよね。だから木村くんは無口だったんだ。私は帰りますから」
 まずい、やばい、金子さんに外に連れていかれて殴られる? 明日になったら乾さんにも告白して、そしたら叱りつけられる。殴られるかもしれない。
 格好をつけたがる男は、女性に向かって失礼な台詞を口にしてはならないと言う。太っている、ブス、は最大の禁句だと俺も知っている。そう言って悦子に鼻が折れそうなほどのパンチを食らったのも覚えている。
 他の女にだって、おまえなんかブスじゃん、デブじゃん、と言っては、殴られたこともある。それを聞かれていたとしたら、乾さんにだったら叱り飛ばされていただろう。金子さんは聞いていたのだから、声には静かな憤りがみなぎっていた。
「木村、ここではちょっと……おもてに出ろ」
「いえ、あの……」
 詫びたほうがいいのか? 誰か助けて、とも言えずに、俺は沢田さんを見つめた。
「あのあのあの、あのね、乾さんが映画に出演するんですよ」
「それがどうかしたの?」
 怒りがうちにこもっているのか、ソフトムードの外見の沢田さんが恐ろしく見えた。
「共演者なんだかどうかは知りませんけど、乾さんが女優を連れてきてて……そんで……その女もちょいデブだったんですけど、若いから締まってて沢田さんとは……あわあわっ、あぎゃっ、なに言ってんだろ、俺はっ」
 言えば言うほど墓穴を掘るってのはこれだ。沢田さんは俺とは口をききたくなくなったのか、金子さんに言った。
「太ってるってだけで苛められたり、あんたみたいな美人でもない女が、だとか、ローカルアナなんて……って言われたりするのは、あなたとつきあってるからだよね」
「愛理は太っていないし、美人だよ。仕事だって立派なものだろ」
「そう言ってくれるのは金子さんだけ。年下の後輩にだって苛められたりバカにされたりするの。あなたとなんかつきあわなかったらよかった」
「俺とつきあっててよかった、って心から思えるようにしてやるよ」
「どうやって?」
 椅子から立ち上がった金子さんは、沢田さんの腰を両手でつかんで持ち上げた。そうして目線を同じ高さにしてキスをする。うぐぐ、ちょっと、やめ……やめて、とまでは言えずに、沢田さんは金子さんにしがみついた。
「おまえは俺のもの。俺はおまえのもの。その証のキスだよ」
「金子さんったら……」
「将一って呼べよ、愛理」
「……嫌い嫌い。嫌い。私、帰る」
「帰るんだったら俺んちに帰ろうね」
「いや。ひとりで帰るの」
「駄々をこねるんじゃないんだよ、可愛い愛理」
「いや……」
 乾さんと千鶴は女のほうの片想いというか、もしかしたら演技だったのかもしれないが、恋人同士ではなかった。男は三十五、女は十九。幼さの残る美人が年上の男に甘える図だった。
 こちらは恋人同士だが、男は三十七、女は三十六か。立派すぎるほどの大人だ。中年に近い。金子さんのほうは女に甘えられたり甘やかしたりするのが大変に似合うが、俺はやはり、三十六にもなった女が臆面もなく人前ででれでれと……と思ってしまう。
 古いんだろうか。俺はあの頑固親父に似てきているのだろうか。将来は俺も結婚して、俺の親父みたいになって、息子を勘当するのか。
 なんだって発想がそこへ行くんだよっ、と自分を嫌悪している俺の眼前で、中年目前カップルが甘いシーンを展開してくれている。美男美女であるだけに、シネマふうといおうか、シアトリカルといおうか。
 この間のカップルとこのカップルと、どっちが自然なんだろ、とも思ってしまう。俺には関係ないから、どっちだっていいんだけど。
「では、あの、俺はお先に……」
 もはや俺は目に入っていないだろうから、そっと逃げようとしていると、金子さんのクールな声が聞こえた。
「近く話しにいくよ、木村」
「……は、はい」
 来なくていいですよ、とは言えないのは、先輩後輩のけじめ? 迫力があったり威厳があったりして、俺を見下ろす先輩たちにはさからい切れないのが、木村章の弱みのひとつなのだ。金子さんが話しにきたらどうなるか。話だけですむのだろうか。


3・英彦

 中心人物がロクであるから、ユニット名は「ROKUDEARI」。最初に見たときには、これはなに語だ? だったのだが、ローマ字である。「ロクデナシ」の否定形で、俺たちはろくでなしではないのだ、であるらしい。
 二十代は男女混合グループのカズ、三十代はフォレストシンガーズのシゲ、四十代は男のヴォーカルグループのサワ、五十代は発起人でもあり、中心人物でもあるもとダーティエンジェルズのロク。
 カズとサワという男は俺は知らなかったのだが、全員が歌のグループのベースマンだ。世代もまちまちな四人の男をロクさんが呼び集めて結成したのだと、シゲからは聞いていて、シゲも俺もライヴを楽しみにしていた。
 「Bassmen・ROKUDEARI・Concert of song of lowered voice」
英語の構文としては正確ではないような気がするが、ここは日本だ。大雑把な体質もある大阪だ。少なくとも俺は気にしない。シゲの晴れ舞台を見られるのが楽しみだった。
 午前中で仕事を上がらせてもらって神戸から大阪に来た。昼メシを食っていなかったので、開演には間に合うだろうと、ライヴホール近くで早めの夕食にしようと、ファミレスに入ったのがまちがいだった。けっこう稼いでいる歌手のくせして、なんであんたがファミレスにいるんだ。
「よ、小笠原」
「……徳永さん……なぜにあなたが……」
「俺は明日から大阪でライヴなんだよ。今日はリハーサルをやってて、ロクデアリのライヴがあるって聞いて来てみたんだ。ロクさんとは俺も知り合いではあるんだよ」
「ああ、そうですか。しかし、ファミレスって……」
「ここのフライドポテトは俺の好みなんだ」
「それにしたって、こんなところにいるとファンに見つかって……」
「そんなものはいないんじゃないかな」
 歌手、徳永渉のファンは高尚なのだから、ファミレスなんかでメシを食わないと言うのか。そう言いたかったのだが、喧嘩になったらやばいのでやめておいて、誘われるままに徳永さんの前の席にすわった。
「おまえもロクデアリライヴか」
「そうです」
 当然、喫煙席である。徳永さんがファミレスを選んだのは、喫煙席もあると踏んでのことか。近頃は全席禁煙の飲食店も多いのだから、へヴィスモーカーの徳永さんには我慢できないだろう。彼はライヴでも煙草を吸っているのだろうか。
「ギターのネックに煙草を差すところを作ったりとか、くわえ煙草でギターを弾いてたりとか、昔はそんなロッカーっていたんですよ。最近はどうなのかな。煙草は嫌われるし、青少年の教育によくないって言われて規制されたりして? ロックは青少年の健全な育成にはよくねえんだよ」
 煙草は吸わない章が言っていたのだが、ならば、昔はくわえ煙草で歌う歌手もいたのか。煙草をくわえていると明瞭な発音ができないだろうが、俺はくわえ煙草で海辺で歌っている徳永さんの歌を聴いたことがある。徳永さんだからこそか、煙草が歌を損なってはいなかった。
 海辺のくわえ煙草徳永渉は、よくない記憶につながる。思い出したくはないのだが、徳永さんとだと話がはずみにくくて、思い出でもよみがえらせているしかない。彼はフライドポテトとザルそばという変な組み合わせの夕食で、俺はミックスフライ定食。ふたりともに黙りがちに食っていると、徳永さんが言った。
「酒は飲まないのか」
「ライヴを聴きにいく前ですから、酒を飲むと眠くなりますから」
「おまえにとったらビールごときは酒じゃねえんだろ」
「酒はあとにしますから、そのためにファミレスにしたんですよ」
「そっか。打ち上げに参加するのか」
「それはあまりしたくないんですけどね」
 フォレストシンガーズのみんなと再会してからは、俺は音楽業界人ともぼつぼつつきあうようになった。俺の昔の仲間たちはミュージシャンなのだから、そうならざるを得ない。そして、俺はそういった人種とのつきあいが楽しい。
 大学に入る前にはさして好きでもなかった音楽にはまったのは、合唱部に入部したからだ。合唱部に俺を勧誘したのは、目の前にいる男。あのとき、徳永渉と遭遇していなかったとしたら、俺の運命はちがっていたかもしれない。
 運命論者でもないけれど、徳永さんは俺の学生時代の記憶を呼び起こす男だから、どうしても過去を思ってしまう。
 楽しかった大学生のころだけを思い出しつつ、さらに考える。フォレストシンガーズの所属事務所であるオフィス・ヤマザキの社長とも会ったから、山崎さんに紹介してもらって芋づる式に他のミュージシャンとも知り合った。
 ロクデアリのメンバーではロクさんに紹介してもらっただけだが、挨拶にいったりすると、打ち上げに顔を出せと言われるだろう。シゲに引きずっていかれるかもしれない。そんな席では俺は場違いで、そのくせ、楽しくもあったりする。作曲の話を聞かせてよ、などと言われたりして、得々と喋るおのれを想像するといたたまれない。
 かつてもそんな話題が出て、俺はミュージシャンたちの集まる場所で作曲の話をしていた。俺はフォレストシンガーズのアルバムに曲を提供しているのだから、そんな話をしてもかまわないようなものなのだが、もうひとりの俺がどこかで見ていて、アホや、アホや、ヒデは、と嘲笑するのだ。
 これも自意識過剰なのだろうか。音楽業界に知り合いが増えるのが、嬉しいような恥ずかしいような、嫌悪感が起きるような気分になるのは、こだわりが残っているからか。
 おのれがおのれを嘲笑うのもつらいのだが、そこに徳永さんがいたりしたら? 作曲の話をしている俺を、例の皮肉な目で見ていたとしたら? 煙草をくわえてなんにも言わずにいられたりしたら、俺はぎゃっと叫んで逃げ出したくなる。
 徳永さんは俺をなんと思っているのか知らないが、ごた混ぜになった過去の記憶から続く徳永渉という存在は、俺をいたたまれない気持ちにさせるのだ。このひとの存在は俺の精神衛生にはよくない。先輩だからなおさらよくない。喧嘩も売れやしない。
「おまえの住処って神戸だったよな」
「そうですけど……」
「神戸は売れ残ってるんだ。来いよ」
 無造作に取り出してテーブルに載せたものは、徳永渉神戸公演のチケットが二枚だ。この席番号からするとかなりよい席である。残っていたなんて嘘なのではないだろうか。
「え……あの……」
「予定があるんだったら来なくてもいいんだぜ」
「はい、あの、では、代金を……」
「馬鹿野郎」
 ひとことだけ言って、徳永さんは席を立った。いつ会っても彼はニヒルだ。ニヒルがコメディにならずに決まるのは、徳永さんが身にまとう独特の香りのせいか。ルックスからしてニヒルな二枚目だからか。幸生だったら羨望の目で見上げているのだろうか。
 徳永さんが行ってしまうと、アルバイトの女の子が彼の食器を下げにくる。俺はほぼ無意識でビールを注文した。ビールでも飲まないと考えがまとまらない。
「徳永さんのライヴなんて行ったことはないよな。いつか……あれは決定的に思い出したくないあの日に、野外のジョイントライヴと、そのあとの遊びみたいな感じで聴いたのが、徳永さんの生歌……そのぐらいかな。徳永さんは俺に歌を聴いてほしいんか? そんで、感想でも聞きたいんか? 感想を述べたら、へええ、おまえの感性はそうなんだな、ってさ……うげ、いややきに、いややけど……この日はどうやったやろ」
 チケットの日付は三日後、俺が勤めるヒノデ電気店からだとホールの場所は近い。時間的にも行けなくはない。二枚……誰と行く? 新之助はロックだったら好きだが、徳永渉には関心はなさげだ。創始には大人すぎる。
 徳永渉のライヴは女性に人気があるらしいから、彼女がいれば喜んでくれるのだろうが、いない。泉水を誘うなんて、俺はそんなに厚顔ではない。とすると、蜜魅さんだったら……だけど、彼女の住まいは東京だし。
 ヒノデのおかみさんを誘う気にもならないから、オーナー夫婦にプレゼントしようか。彼らには徳永渉の歌は高尚すぎるのか。
 別に当日は予定もないし、行きたくなくはないんだけど、どうしようか。そのようなことなどを考えながら、ビールを飲んでいたらライヴの開場時刻が迫っていた。まずはロクデアリライヴを聴いて、徳永渉はあとにしよう。


 観客の年齢層が比較的高めなのは、ダーティエンジェルスファンが多いからか。フォレストシンガーズファンもいるにしても、彼らも若い女の子にきゃあきゃあ言われるグループでもない。俺は最近はフォレストシンガーズのライヴにも行き、きゃーーっ、章ーっ!! なんて声が客席から聞こえると、苦笑してしまう。
 ダーティエンジェルスのヒット曲やら、フォレストシンガーズの歌やら、カズとサワのグループの歌やらがメドレーになって、ライヴの幕開けを飾った。
「みなさま、ようこそ起こし下さいました。僕らみんな声が低いので、聞き取れなかったら言って下さいね。聞こえてますか」
 聞こえてるよー、と客席で女性が叫び、シゲはうなずき、ロクさんが言った。
「マイクを通してるんだから聞こえるだろが」
「そうでしたね。ロクさんは僕以上に声が低いけど、僕にも聞こえました」
「つまんねえ心配してないで、シゲ、メンバー紹介しろ」
「はい。では」
 フォレストシンガーズのMCのメインは幸生。漫才の相方と幸生が呼ぶ役柄は、乾さんと章が主にやっていて、ふたりは傾向のちがう相方だ。幸生と乾さんだとボケとツッコミ。幸生と章だとまっしぐらにネタが拡散。
 そんな中で本橋さんとシゲは鈍感の役柄か。素であるともいえるのだが、いずれにしてもフォレストシンガーズではシゲは脇に回っている。
 けれど、このステージでのメインMCはシゲであるらしい。シゲが全員を紹介し、ロクさんがいちいち突っ込んで、客席からは笑いの渦が起きている。シゲ、おまえ、なかなかやるんやな、伊達に長年この世界でメシを食ってへん、ってか。
「次の曲はロクデアリのオリジナルです。ロクさんが書いた「ビンゴ!!」。お聴き下さい」
 シゲがボケ、ロクさんの絶妙の突っ込みで客席を沸かせておいてから、シゲが告げて歌がはじまる。ダンスミュージックだ。シゲは苦手なダンスも巧みにこなしている。
 他の三名はあくまでも声が低く、シゲは高い声も出せる。リードヴォーカルもシゲで、客席が沸きに沸く。ベースマンのグループなんてマニアックなのではないかとの声もあって、ダーティエンジェルスのリーダーだったヤスシさんは言っていたのだそうだ。
「そんなもん売れねえよ。ライヴだって客は入らねえよ。けど、ロクがやりたいんだったらやったらいいだろ。シゲを加える? いいんじゃないのか」
 やっさんはさ、俺には関係ないし、好きにしろって態度だったよ、と俺もロクさんから聞いていた。
 だが、マニアではない俺にもライヴは楽しい。俺はシゲと友達だから楽しいのか? いや、お客さんたちはメンバーの誰かと友達だという人ばかりではないはずだが、みんなが楽しそうに笑って乗って手拍子を取っている。
「シゲさんだけは、うちではそんなに目立ちたがりじゃないほうだよね」
 幸生がそう言っていたが、いやいや、そうではなさそうだ。
 もしかしたら初のステージでの主役となったシゲは、ものすごく気持ちよさそうにしている。これが舞台に立つ人間の根性なのだろう。この分ではきっと実現するはずだ。
「各々のソロアルバムってのを出す企画があって、その後には各々のソロライヴってのも企画されてるんだよ。ソロアルバムは俺だって出したいけど、売れないだろ。シゲのアルバムが一番売れないだろ」
 うーん、そうかもな、と客観的に考えれば、俺もそう言いたくなった。
「それでも出したいよ。他のみんなは自分で歌を書くはずで、俺も一曲ぐらいは書きたい。どんなアルバムにするかは俺が決めるんだけど、ヒデ、協力してくれるだろ」
「俺にできることだったらするよ」
「頼むよ。でも、ライヴってのはさ……お客さんがまったく入ってくれなくて、俺がステージで放心状態って絵が浮かぶんだ」
 そんなことはない、と断言もしてやれなかったものだが、今だったら言ってやれそうだ。
「大丈夫だろ。満員とまではいかなくても、今夜程度はお客さんも来てくれるよ。俺だって行くし、フォレストシンガーズのみんなも、昔なじみも来てくれる。今夜のお客さんの中にも来てくれるひとがいるよ。おまえのソロもいいって、俺は改めて思ったよ。ソロライヴ、やれ、シゲ」
 フォレストシンガーズの面々は東京公演に行くつもりでいるのだろう。ステージで主役となっているシゲを見て、みんなが目を見張りそうに思える。おそらくはロクさんの策略もあって、シゲを立ててくれているのだろうが、シゲが主役になれる器だとロクさんが決めたからだ。
 四人ともに地味で、大昔にあった漫才の「うなずきトリオ」みたいだからなのかもしれないが、にしたって、中では一番シゲに華があるってことだ。シゲ、自信を持て。


 漫画家の蜜魅さんが時おりメールをくれる。徳永さんのライヴについて考えたかったので、打ち上げに誘われる前に逃亡して自宅に帰り、パソコンを起ち上げると、今夜も蜜魅さんからメールが届いていた。
「メールをありがとうございます。蜜魅さんって徳永渉のファンですか。ごぞんじかとは思いますが、彼は俺の大学の先輩で、さきほど会って神戸でのライヴチケットをもらいました。急すぎるのですが、ご都合がつきましたらいらっしゃいませんか」
 蜜魅さんからのメールは時候の挨拶のようなものだったのだが、返事がてらそのような内容で書いて送った。間もなくあった返信は、俺をちょっとばかり舞い上がらせてくれた。
「私はフォレストシンガーズのファンですけど、徳永さんのライヴって聴いたことがないんですよ。CDだったら持ってますから、素敵な歌なのは知ってます。よろしいんでしたらご一緒させて下さい」
 ぜひいらして下さい、はい、よろしく、とのメールが飛び交って、約束が整った。
 ライヴ当日の夕刻、またまた仕事を早退させてもらったので気が引けつつも、俺はホール最寄の阪急電車の駅まで蜜魅さんを迎えにいった。去年は車で恭子さんを迎えにいって、モモクリも出るライヴを見にいったのだが、今回は徒歩だ。ホールまではバスで行く。
「朝から来て神戸見物をしてました。神戸って素敵ですね」
 挨拶をして歩き出すと、蜜魅さんは言った。
「徳永さんって、フォレストシンガーズファンの間ではFSファミリーの一員みたいな? 金子さんもそうですよね」
「……知らないんですか」
「なにを知らないんですか?」
「ファンの間では知られてないんですか」
 金子さんは先輩なのだから、フォレストシンガーズファミリーの一員だと言われたら気を悪くするのではないだろうか。それでも彼は表面上は怒らないだろうが、徳永さんだと内心では逆上しそうで、それでも怒った顔はしないと思える。
 強いて名づけるならば、フォレストシンガーズも徳永渉も金子将一ファミリーの家族なのかもしれないが、FSファンの発想はFSが中心になるのだろう。
 ファンが知らないのであれば、そういうことにしておこう。徳永渉VS本橋真次郎の確執はいまだに尾を引いていて、乾さんもからまってややこしいらしいとは、俺もブログには書かずにおこう。
「なんのこと?」
「いやいや、いいんです。プライベートな問題ですから」
「ファンはプライベートを知りたいのに」
「そのうちにはね」
「……まあいいわ。今夜は神戸で泊まりますから、夕食もご一緒できます?」
「嬉しいです。女性と食事をするなんて、ヒノデ電気のおかみさん以外とはとんとないんですよ」
「ほんとかしら」
 疑われたが、本当だ。どうせだったら俺んちに泊まりません? 昔の俺ならば軽く口説けたかもしれないが、あの散らかりまくった部屋には女性は招けない。それに、蜜魅さんとはそんな仲ではない。俺は紳士のふりで蜜魅さんを徳永渉のライヴ会場にエスコートしていった。
「素敵ですねぇ。私、徳永さんのファンにもなってしまいそう」
 ライヴは静かに聴いていた蜜魅さんは、客電がともってから言った。
「セクシーだったわ。ほんと、素敵」
「徳永さんに感想を聞かれたら、そう言っておきますよ」
「徳永さんはヒデさんの先輩なんでしょ? 私は待ってますから、ご挨拶にいってらしたら?」
「いえ、蜜魅さんとの食事のほうが大切です」
「そうなの?」
 今度会ったら、徳永さんに蜜魅さんの感想を伝えよう。その女はおまえのなんだ? と聞き返されそうだが、それまでには……それまでになんとかしたい? 泉水ともユリともほとぼりは醒めて、ユリは東京に転勤していき、泉水とは友達づきあいが復活している。
 復活はしていても、以前ほど気安くはつきあえなくなったのは、ふった女とふられた男だからだろう。けれど、あれからだいぶたつのだから、新しく恋をして新しくつきあったっていいじゃないか。
 泉水は祝福してくれるだろう。フォレストシンガーズのみんなも蜜魅さんとは知り合いなのだから、よかったな、と言ってくれるだろう。それ以前に……俺は蜜魅さんに恋をしてるのか? 恋というほどでもなくても、好意は持っている。今夜会って、綺麗だな、可愛いな、とも思った。
 しかし、彼女は東京在住の漫画家。俺は神戸の電気屋。境遇に隔たりがありすぎる。プロポーズして受けてもらえるとも思えないし、受けてもらえたとしても同居できないでは結婚しても無意味だ。ならば、言わないほうがいい。
 神戸らしい料理がいいと言うので、鉄板で肉や海鮮を焼く店を探して歩きつつ、俺はそんな寂しい結論を出した。
「あら、これ」
「ん?」
「ヒデさんも知ってるんでしょ。乾さんの映画ですよ。そのポスター」
 どこかで見た顔の男優と女優が見つめ合うポスターは、映画「タブーNO.3」の宣伝のために貼られているらしい。俺もシゲからちらっとは聞いている映画の話を、蜜魅さんがしてくれる。公開前なのだから、蜜魅さんの情報は特に目新しくもなかった。
「乾さんはなんの役なのか、幸生は知ってるらしいけど、シゲは知らないって言うんですよ」
「私も知らないけど、乾さんがそうやって内緒にするってことは、よほどの大役なんでしょうかね」
「さあね」
 鉄板焼きの店は高い。なるべく安そうでうまそうな店は……と探してかなり歩いていると、蜜魅さんが再び立ち止まった。
「あ、あれ……」
 指のむこうにはポスターがある。「タブーNO.3」のポスターなのだが、写真の男がちがう。さっきのものは主演男優と女優だったはずが、これは……?
「乾さんっ!!」
 同時に声を発して、蜜魅さんと見つめ合ってしまった。
 乾さんのポスター? そんなものがあるんだから、事実、乾さんはものすごい大役を演じているのか。近寄って凝視すると、実に実に扇情的なポスターだった。
 斜め目線の乾さんの顔ははっきり見えるが、彼が抱擁している女は後姿しか見えない。この肉感的な腰や尻のラインからすると胸も大きいのであろうが、見えないのが残念な気もする。むろん、蜜魅さんがいたら、おっぱいが見たい、とは言えないのだが。
 高いヒールの靴を履いているのだから、女は小柄なほうだろう。乾さんは片手で彼女のウェストを包み、片手は尻のふくらみに添えている。女はドレスのスリットから大胆に脚を出して、乾さんの脚にからませている。
 ううう、うらやましい。この女は女優か。乾さんはこうやって女優の尻にまで触れて、脚と脚をからめて……あんたはいつから俳優になったんだ。うらやましすぎる。
 ひとりでいたら叫んでいたかもしれない。ポスターがおさまっているガラスを叩いていたかもしれない。蜜魅さんが歯止めになってくれたので、そうはせずに深呼吸して、笑ってみせた。蜜魅さんも笑って言った。
「乾さんってけっこうえっち。っていうか、こうしろって注文だったんでしょうけど、女のひとのお尻をさわってるんだ。私のブログに書いちゃおうかな」
「俺も書こうかな。やっぱそこに目が行きますよね」
「そうですよね。ちょっと待って」
 携帯電話でなにやらチェックしていた蜜魅さんは、しばしの後に言った。
「タブーNO.3のポスターは、私たちがはじめに見たあれ、ジュンとキリコのものが一般的なんだそうです」
 ジュンとキリコとは主演俳優だろう。俺も名前は知っている。大城ジュンとカリコ・キリコだ。
「ファンサイトで話題になってるので、私も情報を得たのですけど、ポスターには数種類あるんだそうです。メインはジュンとキリコ。サブっていうのか、レアっていうのか、それがどうやら乾さんのポスターのようですね。乾さんが抱いてる女の子は誰なんだろ。って書き込みがされてましたよ。私もあんなふうにされてみたーい」
「蜜魅さんが乾さんにケツを……いや、お尻をさわられたい?」
「そうじゃなくて、私じゃなくて、乾さんファンの女の子が、ああやって乾さんに抱きしめられてみたい、って言ってるんです」
 怒られたので、お、ごめんなさい、とあやまると、蜜魅さんはにこっと笑った。
「東京に帰ったらさらに調べてみます。ヒデさんはシゲさんに尋ねますか」
「あいつのメールは要領を得んかったりするんでね」
「乾さんに直接聞きます?」
「蜜魅さんが知りたいんだったら……」
「私は独自に情報収集するほうが好きだから、別にいいんですよ。ヒデさんにしか知りえないことがあったら、教えて下さいね」
「わかりました」
 ここでさらっと、俺が抱きしめるんじゃ駄目? と言えたらいいのだが、蜜魅さんと俺が結ばれるには難関がありすぎる。遊びでつきあっていい女性ではないのだから、迂闊な真似はできない。好きになったのかもしれない女性と歩いているってのに、秋風がやけに背中にしみる。
 こんなときに映画だったら、男は背中で演技するのか。乾さんもそんな演技をしていたのか。乾さんはミュージシャンのみならず、映画スターにもなるのか。乾さんにだったらお似合いだろう。俺は仲間たちのいろんな活動を楽しみにしていよう。
「俺にだって俺の人生があるさ」
 徳永さんのようにニヒルに笑って、乾さんが映画でやったのかもしれないように、背中に哀愁を漂わせようとしてみる。そんな俺の背を、秋風が撫でていった。
 

END




 
 
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~ Comment ~

NoTitle

お久しぶりです。
2週間くらい前から?ぼちぼち読ませていただきました。
なかなかコメント出来ずにすみません。

なんかみんな30代の半ばになってて、大人になってますね。

乾さんの映画の話にはめっちゃ喰い付いてしまいました(笑)
私的には、しげさんか乾さんがいいです♪

こんな素敵な男性を書き分けられるあかねさんって
やっぱりすごいなっ。また来ます。やっと7月まで追いついたって感じ。

いえ、もう、読んでいただければ。

読んでいただければとっても嬉しくて、コメントをいただいたらさらにとってもとっても嬉しいです。

美月さんはお忙しいのでしょうから、ぼちぼち、ゆっくりして下さいね。

このあたりのストーリィは乾くんの映画出演と、千鶴の想いが中心になっています。学生時代の彼らをごそんじの美月さんに、「大人になったね」と言っていただけるのも嬉しいです。

NoTitle

千鶴になりたい!と、叫びながらも、
乾くんが目の前にいると思うと鼻血が出そうです……変態ですみません。

細いのに胸が大きくて、唇がぼてっとしている人は、
男の人からモテるだろうし、
ちょっと女っぽいとこ出せば、コロっいく男は多いけど、
確かに映画で色々やっちゃってるけど、乾くんはそんな誘惑には負けない!!
と、みんなに力説したいと思いながらも、
基本、男の頭の中は木村くんや小笠原くんみたいな感じだよなぁと、
納得して読んでいました。

太めの女は嫌いか……木村くん、テレビに映る人はみんな細いけど、
平均はもっと太いのですよ。


最近の子供は正座をしないせいか、足が細くて長い子が多いですよね。
羨ましい限りです。
典型的な日本人体型の私は、最近のズボンの作りが体型に合わず困ってます。
なんていうのでしょう、こう、太ももでひっかかります(涙目

太めの足は脂肪が多い分、やわらかいから猫が喜んで寝てくれるからいいもんね!
なんて、開き直ってしまいそうです。


「私の首もとに、ぽこっとしたほくろがあるので
 ぜひちゅーちゅーしてください!!」と
猫と話せたらお願いしてしまいそうです。

ハルさんへ

いつもありがとうございます。

千鶴になりたいなんて言っていただいて、嬉しいです。
今までに千鶴を読んで下さった数少ない女性は、わりと彼女に感情移入なさったようなのですが、ハルさん、ひょっとしてMですか?

私はSです、きっぱり。
いや、きっぱり言うようなことではありませんが、乾隆也みたいな奴に説教されたら腹が立って、議論して言い負かして快感、という性質です。

ハルさんは煙草を吸う男、平気ですか?
もっとも、隆也はハルさんが煙草は嫌いだとおっしゃったら、ハルさんの前では吸いませんけどね。

最近、隆也は自分で「俺ってむっつりスケベ?」とか思ったりしています。
ヒデには「むっつり」なんてつきません、モロです。
章は好みがヒジョーにうるさいのですが、時々、好みとはちがったタイプによろめいたり、誘惑されて行っちゃったりします。
つまり、節操がないのです。

私は子どものころは時によっては正座を強いられましたねぇ、そういえば。最近は正座なんかしませんが、赤ちゃんのころにはおんぶばかりされていたらしいのもあって、O脚です。
やや背が低くてやや細いほうだと思いますが、短足です。
体重は少ないけど、いらないお肉がぷよぷよついてます。
体型の悩みってのは一生、つきまとうんでしょうね。

ごくごく小さいときに捨てられた猫がいたら、
きっとハルさんのほくろに吸いつきますよ。
あれ、気持ち悪いですけど、いいですか~(^o^)

NoTitle

大変遅くなりましたー!m(__)m以千鶴さん描かせてもらおうと思ってこちら読ませてもらいましたー!
千鶴さんかなり積極的でしたたかで…でもこういうタイプの方が女優さんに向いているんでしょうね。乾さんも千鶴さんとの関係を楽しんでる?好きってわけじゃなくて章くんの考えるような惚れるなよ的な?モテて嬉しいって感じなのかな??こういう関係はよく分かりませぬ(´ε`;)ウーン…
そして完全アウェイなシゲちゃんが(笑)なのに一緒にくっついてご飯食べにいっちゃうあたりとか(笑)シゲちゃんらしくて好きです(笑)

章くんの余計なこと口走る性格が「おいおい!それは言ったらダメでしょ!」って思わず突っ込んでしまいました(笑)それでも愛が燃え上がる沢田さんと金子さんカップルはいいですね♪私だったらブスだの好みじゃないだの言われたらその場は笑顔でやり過ごしてもショックで数日引きづりそう(^_^;)
知り合いがポスターに載ってたら私も思わず写メしてしまいそうです(笑)
しかもなんかセクシーなポーズとか!ポスターの前通る度こっちが恥ずかしてく顔が赤くなってしまいそう(笑)

あ、千鶴さんの髪型はどんな感じですか?色は白かったんでしたっけ?
前にコメントで答えてもらってたんですが、そのコメントを見失ってしまいました‥すいませんm(__)m

たおるさんへ

こーんな長いの、読んで下さってありがとうございます。
千鶴の絵……きゃああ、わくわくします。

この子は私とは性格が百八十度ちがうと申しますか、私は男に甘えるなんて絶対にしたくない、そんな自分が恥ずかしい。という性格ですので。
こんなことで恥ずかしがる自分が恥ずかしいから、恥ずかしいとは言わないと言うか。若いときから厄介な性格でした。

それだけに千鶴みたいなのは書いていて楽しくて、次第に熱が入ってきたのです。
この物語のころにはまだ、千鶴は女優としての役作りみたいな感じでこんな芝居をしているところもあったのですが、だんだん本気になったようで。
このあとしばらく、千鶴のお話が続きます。

シゲ、好きって言ってもらったよぉ。
そうですよね、私がシゲの立場だったら、帰るなと言われても帰ります。
章はほんとにね、細くて小柄な美人以外は興味ないところのある。どうしようもない奴ですから。

髪型はいつもあまり考えていないのですが、千鶴は外見的にはいかにも「女の子」ってタイプですから、可愛いセミロングですかね。
155センチくらいで、バストとヒップは豊かでむちむちで、ウェストはきゅっ、首や手足も細くて顔も小さい。色白のキュートな顔立ち。
そんなルックスです。

ものすごーく楽しみに待ってますので、じっくりゆっくり描いて下さいませね。
嬉しいなー(^o^)
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

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