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小説211(第七部スタート)(True love)

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フォレストシンガーズストーリィ211
第七部スタート


「True love」


 学校に通っていた年月よりも、メンズファッションの店で働いていた年月のほうが長くなって、気がつけば三十三歳。このごろは昔ほどはもてなくなったけれど、女の三十代は輝く季節なのだから、気にしていない。
 業種は同じだが、店は変わって三度目の転職だ。現在の私はメンズウェアショップの「Black panther」という店で働いている。店名は冴えないけれど、品揃えはいい。バイヤーのセンスがいいから、若い男の子の客が多い。今日も私は、若い男性の接客をしていた。
「ねえ、ところで、お姉さん」
 背が高くて綺麗な顔をした男の子は、買うものを決めてから私の顔をじっと見た。
「内海さんって言うんだよね。俺を知らない? 覚えてない?」
 胸につけている名札に書いてあるので、私の姓はわかるだろう。彼とは知り合いだったかと、私も見返した。
「……申し訳ございません。記憶にはないのですけど……」
「ちぇっ、がっかり」
「どこかでお会いしましたか。以前にもお買いものに来て下さいました? 私はよその店で働いていたこともありますから、そちらのほうでしょうか。でも、私は覚えては……」
 客のほうは店員を覚えていたりもする。きみは美人だから、印象に残ったよ、と言われたりもする。けれど、店員はよほどのなにかがなければ客は覚えていない。私は四軒のメンズショップを渡り歩いているのだから、接した客は何万人になるのか。そんなものを覚えていたら記憶容量キャパオーバーもはなはだしい。
 さりげなく視線をはずして彼をレジに導きつつも、思い出そうとしてみる。長身で脚の長い、服装のセンスもいい美青年だ。私よりも十歳ほど年下だろうか。こんなに綺麗な男の子とつきあったことはないけれど、見覚えがある気はする。
 思い出そうとしても思い出せなくて、彼のほうもこだわってはいないようだから、ま、いっか、だった。彼は現金で支払って、買いものの入った紙バッグをぶらさげてから出ていく。暇だったので出口までお見送りすると、彼が私の手を握った。
「ありがと。またね」
 振り向いて笑った顔が爽やかで、我知らずどきっとしてしまった。美青年は得だ。
 彼が一瞬握ってすぐに離した手の中には、紙片が押し込まれていた。昔からこの手口は何度も使われているが、あんなに若い男の子がこの私を……とは思えなくて、気持ち悪さも感じつつ手を開いた。
「俺とデートして」
 乱雑な文字がそう綴られ、近くのコーヒーショップで何時から何時まで待ってる、と書き添えてあった。あんなに若くて綺麗な子にナンパされるとは、私、まだ魅力があるんだわ。と舞い上がりそうになったものの、現実的にも考える。
 なにか売ろうとでもしてる? 風俗の勧誘? 宗教だとは思えなかったけど、その他さまざま、男が女に声をかける、デートに誘う、それに伴う下心は一種類とは決まっていない。
 それにしたって、私だって長らく販売員をやって口は鍛えられている。彼が妙な手段に訴えない限りは、口と口でだったら勝負して、勧誘や売り込みからだったら逃れられる。指定された場所もチェーン店のコーヒーショップだから、明るい店だ。
「待った?」
「ああ、内海さん。来てくれたんだ」
 早番だったので早めに仕事が終わり、コーヒーショップに行くと、彼が待っていた。彼は私のためにロイヤルミルクティを買ってくれてから、自己紹介した。
「麻田洋介っていうんだ。俳優になろうと思って養成所に通ってる。ほんとはシンガーソングライターになりたいんだけど、才能ない、見込みないって言われるんだよね。運動神経だけは図抜けてるから、そっちのほうが向くんじゃないかと思ってさ」
「浮ついた夢……いいんだけど、あなたはいくつ?」
「二十三だよ」
 すると、やはり十歳年下だ。
「私はあなたよりも年上だけど、そんなのは関係ないお誘い? 俳優の養成所で劇でもやるから見にこいとか?」
「年は関係ないし、劇なんかじゃねえよ。あんたは俺をほんとに全然覚えてないの? 見たこともないって言う?」
「どこで見たの? 俳優だったらテレビに出てた?」
「出てたけどね」
 そう言われて改めて見ると、見たことはあると思える。麻田洋介……名前には覚えはないのだが。
「数年前には俺の顔を見たことのない日本人って、いなかったはずなんだよな。でも、ま、しようがない。過去は過去だ。そんなことよりも、内海さん、名前はなんての?」
「内海志保」
「志保さんか。いい名前だね。俺とつきあってくれない?」
 若さゆえなのか、彼氏はいるの? 独身? との探りも入れずにこう来た。彼氏はいるの? と訊かれたら、いるけど、それでもいいなら、と答えただろう。けれど、訊かれなかったので微笑んで見つめた。
「志保さんの笑顔に惹かれたんだよ。その服、お似合いですよ、って褒め言葉もさ。誰にだって言うんじゃないだろ。俺はほんとにかっこいいから、脚が長くないとそのパンツは上手に着こなせないんですよ、なんて言ってくれたんだろ。俺みたいなタイプ、好きだろ」
 セールストークとして、お客さまみたいな彼氏がいたら素敵でしょうね、と言った。が、半分は本音だったかも。麻田洋介みたいなルックスの年下の恋人と一緒に歩けたら、楽しいにちがいない。洋介だって本気なはずもないのだから、こっちも遊びでだったらいいはずだ。
「つきあうってのは、寝たいって意味? 失礼だけど、お金はあるの?」
「金はあんまりないけど、あんたにたかろうって気はないよ。あんただって店員じゃん。そんなに稼いではいないだろ」
「もちろんよ」
「ホテルに行くんだったら割り勘でいい? あんたの部屋でも俺の部屋でもいいけど……」
「高くないホテルにしようか」
 率直でいい。見栄を張らないところもいい。彼が以前になにをしていて、日本中に顔を知られていたのか、知らないけれど、まさか犯罪者でもないだろう。これだけの美青年の犯罪者だったら、私の記憶にだって残っているはずだから。


 何度目かのデートの日、待ち合わせたカフェにやってきた洋介が言った。
「俺んちに来ない?」
「お金がないの?」
「金がないのもあるけど、俺、料理だってできるんだよ。前に志保さんが俺にって、サンドイッチを作ってくれたじゃん。俺もお返ししたいんだ。俺の知り合いの奥さんが料理が上手で、教えてもらったんだよ。オムライス、好き?」
「好きよ」
「俺は志保さんが好き。行こうよ」
 別に問題はないだろうから、洋介のアパートに行った。私の住まいはまがりなりにもマンションだが、彼の部屋はアパートとしか呼べない。キッチンとユニットバスがついているのが上等ってところだった。
「台所は狭いから、ふたりでなんか動けないんだよ。志保さんは待ってて。音楽でも聴いてて」
 本棚にCDが並んでいる。本来は並んでいるべき書物は少なくて、辞書と音楽や映画や演劇の専門書が数冊あるだけだったが、CDはたくさんあった。
「フォレストシンガーズ……男の子なのにFSのファン?」
 デビューしてから十年はたったはずのフォレストシンガーズの、アルバムが全部そろっているようだ。私もファーストアルバムは買ったけれど、悔しいからその後は忘れたふりをしている。ラジオなどで彼らの曲が流れてくることはあるものの、意識的にアルバムをかけるなんて、何年ぶりだろうか。
 キッチンからの物音と、いてっ、くそっ、などと言っている洋介の声を聞きながら、フォレストシンガーズのアルバムをセットした。最新版らしきアルバムの一曲目のタイトルは「True love」。男たちのハーモニーに続いて、なつかしくもあり、憎らしくもありの歌声が聴こえてきた。


「こんなにも愛していると
 こんなにもそばにいたいと
 こんなにも大切にしたいと
 こんなにも守り抜きたいと
 感じたひとはあなただけさ

 今までだって何度も何度も
 僕は恋をした
 
 だけど、過去のひとたちには言わなかったよ
 愛してる、そばにいたい、大切にしたい、守りたい
 言葉にするのはあなたにだけ

 本当だからさ、真実だからさ
 これが最初で最後の僕の真心、僕の愛」

 歌詞カードを見てみると、作詞・本橋真次郎、作曲・木村章とある。聴いていると胸が悪くなってくる。ここに本橋真次郎がいたら、胸倉をつかんで揺さぶってやりたい。歌詞カードを破り捨てたくまでなってきた。
 あなたは私にだって言ったじゃないの、真次郎!!
 愛してるよ、志保、きみのそばにいたいんだ、俺はきみを大事にして、ことあれば守ってやりたい、男ってのは女に惚れたらそう思うもんだぜ、きみの前では俺は男でいたいんだ、強くてかっこいい男だと、自分では思っていたいんだ。きみにもそう思われたいんだよ。
 男らしさにこだわって、独占欲が強くて嫉妬深くて、私のお客にまでジェラシーを燃やした。あのころの彼は売れていなかったから、私が働いていたメンズウェアショップに用もないのにやってきて、接客している私の仕事の妨害をした。
 出会いはあのころに私が勤めていた店だったから、洋介との出会いと似たようなものだ。背丈は洋介と変わらず、脚は真次郎のほうが短い。年齢は当時の真次郎のほうがすこし上。現在の彼は私よりもふたつ年上だから、三十五歳になっている。おじさんだ。
 つかの間つきあって、独占欲の強い男とはやっていられない、私を束縛しないで、売れないからって鬱憤をぶつけないでっ、と言いたいことを言って、私が彼を捨てた。彼は男らしさにこだわるわりには、女の女らしさにはさほど拘泥しなくて、気の強い女は好きだと言っていた。
 だからこそ私を好きになったのだろうけど、最初はよくても私は苛々してきて、嫌いになってしまったのだ。
 そんな彼が三年近く前に結婚したのは知っている。彼が結婚した相手も知っている。フォレストシンガーズのマネージャーである山田美江子、現本橋美江子とは、私は偶然にも会っていた。彼女が私の働いていた店に入ってきたのだ。
 彼女がフォレストシンガーズの名を口にしたからか、本橋くんと言ったからか。本橋くんは彼女の彼氏だと言ったのか、友達だと言ったのか、細かい部分は記憶にないのだが、本橋真次郎と山田美江子の結婚を知ったときには、彼女の顔や姿を思い出した。
 中肉中背の頭のよさそうな女だった。あのころの私は真次郎が好きだったから、こんな女よりも私のほうが魅力的だわ、と思ったのだったか。
 とすると、この歌は、真実の愛を捧げる女は美江子か。私が捨てた男が別の女と結婚し、彼女に愛の歌を捧げているからといって、怒るのは変なのだろうが、嘘つきっ!! と言ってやりたい。こんな気持ちになったことはない? 私にはどうだったのよ?
 あんたは独占欲のかたまりなだけじゃなくて、不実で嘘つきだよね。美江子さんにも私にも嘘を言ってる。私にだって愛してるって言ったじゃないの。他の女にだって言ったんでしょ? 過去は忘れたって? 嘘つき、嘘つき、嘘つき。
「歌詞はフィクションだよ」
 真次郎はそう言うのだろうか。私には歌を捧げてくれたことなんかないよね。捧げてくれていたとしたら、私は照れてしまって、やだ、ださい、とか言ったかもしれないけど。
「志保さーん」
 キッチンから助けを求める声が聞こえる。失敗でもしたのだろうかと思って立っていくと、洋介が哀しそうな顔をしていた。
「卵が焼けないんだよ。ふわふわオムライスっての? 半熟にしてメシにかぶせるんだろ。美江子さんだったら上手にできるのに、俺にはできないんだ。卵、ぐちゃぐちゃだよ」
 フライパンの中では焦げかけスクランブルエッグができている。美江子の名がひっかかったのだが、まずはこっちをなんとかせねばならない。
「庶民はこういうものを捨てたりはしないのよ。変形オムライス。待っててね」
 オムライスではなくスクランブルエッグ入りチャーハンになったのだが、食べられそうなものにはなった。チャーハンをふたつのお皿に盛ると、洋介が言った。
「夕メシ、これだけだ。サラダとかいるよね。買ってこようか」
「これだけでもいいじゃない。量はたくさんあるんだし、食べよう。ビールは?」
「俺、酒はあんまり……」
「そうだったね」
 食欲はいつでも人一倍だが、洋介はアルコールを好まないらしい。チャーハンと水の寂しい食卓ではあったが、味は悪くはなかった。
「おいしいよ」
「仕上げは志保さんがやってくれたからでしょ」
「オムライスを教えてくれたひとって?」
「さっき、志保さんが聴いてたアルバムの中で歌ってる男。彼の奥さんだよ」
 かすかに血の気が引いた。
「まだ思い出してもらえないみたいだけど、俺は昔はアイドルグループにいたんだ。ラヴラヴボーイズって知らない? 四、五年前には超売れっ子だったんだぜ」
「ラヴラヴボーイズ……ポン?」
「やっと思い出してくれたのか」
 四、五年前ならばアイドルに熱を上げる年でもなかったが、テレビでだったら見た。ファンだと言っている女性も周囲にはいて、コンサートに行ったとか、ドラマに出てるポンが、とかいった話も聞かされた。
 ラヴラヴボーイズはいつの間にやら解散してしまっていたのだが、私は気にもしていなかった。そして、今、一番人気だったポンが本名に戻って、私の前でチャーハンを食べている……不可思議な感覚……その上に、彼は真次郎と知り合い?
「私はファンでもなかったから、ファンだったら覚えてるんだろうね」
「覚えてねえんじゃない? たまーのたまーに、ポン? って声が街で聞こえたりはするけど、たいていはラヴラヴだって忘れてるんだよ。俺はアイドルなんかやってたくなかったから、解散したのは嬉しかったんだ。そんでね、本橋さんの弟子にしてもらったんだ」
 シンガーソングライターになりたかった洋介は、頼み込んで真次郎に弟子入りした。親分肌で面倒見のいい男だったから、この坊やの師匠とは、真次郎にはふさわしいだろうと思える。
 私は真次郎以外のフォレストシンガーズの面々は名前ぐらいしか知らないが、洋介は真次郎の仲間たちにも面倒を見てもらい、付き人のような弟子のような立場で、フォレストシンガーズと関わっていたのだと話した。
「だけど、俺って歌は下手だし、歌作りの才能もないんだよ。オーディションを受けたら、アイドルに戻る気だったらやれるって言われる。そんなのやだけど、芸能界を捨て切れなかったのかな。アクション俳優養成スクールってのがあるって教わって、そこに入って一年ほどになるんだ。近いうちにガキ向けのヒーローのオーディションがあるから、受けてみるつもりなんだよ」
「もとアイドルはそれはそれで……」
「うん。俺がポンだってことは、完全に忘れてくれたらいいんだけどね」
 この若さで彼は、意外に数奇な人生を送ってきたのであるらしい。
「今はガキ向けのショーの裏方だとか、大道具だとか、肉体労働のバイトもしてるんだよ。そういうのもアクション俳優としては役に立つんだもんな」
「だから洋介は、見た目よりもたくましいんだね」
 えへへと笑っている顔には子供っぽさもあるものの、人生の裏側も知っていて、私よりは世慣れているのかとも思えてきた。
 彼の人生はまだまだこれからだが、私の過去は? 真次郎が面倒を見ていた男の子と、真次郎の過去の恋人だった私がこんな関係になっているとは、真次郎が知ったらどうするだろう。あの一本気で頑固な古色蒼然たる思想を持つ男は、怒るのではないだろうか。
「おまえは志保に遊ばれてるんだよ。洋介、こんな女とつきあうのはやめろ」
「志保、きみには他に男がいるんだろ。若い男と遊ぶのはやめて、そいつと結婚したらいいだろ」
 そう言いそうな気がする。
 だけど、私の男はうちの店のバイヤーで、彼は結婚してるのよ。私には倫理感なんてあまりないけど、真次郎はそうと知ったら、頭を抱えるんじゃない? とうに切れた昔も昔の彼女だとしても、怒ってくれるんじゃない? 心配してくれるんじゃない?
「おまえがなにをしていようと、俺には関係ねえよ」
 彼はそうは言わない気がする。だから私が好きになったんだもの。
 過去は美化されるもの。私が切れて捨てた男なのに、いいところだっていっぱいあったから、私のために怒っている真次郎の顔が浮かんでくる。不倫も若い男との遊びもやめろ、とは言うだろうけど、そしたら俺と結婚しよう、とだけは言えないでしょ。
 言うわけないよね。言ったら私だって怒るよ。美江子さんのために怒るよ。だけど、洋介とは別れるべきかな、と考えていると、洋介がテレビをつけた。
「フォレストシンガーズはテレビにはめったに出ないんだけど、ケーブルテレビにはたまに出るんだよね。古い映画を放映したりするから、俺もケーブルテレビの契約はしてるんだ」
「フォレストシンガーズが出るの?」
「志保さん、ファンなんでしょ。見ようよ」
 ここまでの私の態度からすれば、洋介がそう思うのが自然だろう。ファンではないと言うのも変なので、ふたりしてテレビに注目した。
 オープニングはフォレストシンガーズの歌だ。あのころはテレビには出してももらえないと言っていた彼らは、今ではそこそこのスターになった。歌がとてもとても上手だったのは知っている。私も真次郎を好きだったころには、彼らのアルバムを何度も聴いた。真次郎の声が大好きだった。
 中央には真次郎が立っている。シルバーグレイのスーツにノーネクタイで、マリンブルーのポケットチーフが多めに覗いている。おそろいの衣装で、ピンクのチーフが三沢幸生、オレンジのチーフが木村章、小柄なふたりが真次郎の両脇に立っている。
 エメラルドグリーンのチーフの乾隆也、ダークヴァイオレットのチーフの本庄繁之が両端にいる。ほとんど同じ服なのに、乾隆也が一番センスよく見える。
 はじまった歌は「true love」。愛していると、そばにいたいと、大切にしたいと、守り抜きたいと、感じたひとはあなただけさ。そんなにも美江子さんを愛してるの? リードヴォーカルを取っている真次郎に、心で話しかけていた。
 結婚したいなんて一度も思ったことはないけど、彼が彼女にプロポーズするのは、ただひとりのひとだと決めたから。一生ともにいたいと誓うから。一時の気の迷いだとしても、たしかにそう思う。彼女がプロポーズするのだとしても同じだ。
 それだけはいいなと思う。捨てたのは私なのに、真次郎に私は選ばれず、美江子さんが選ばれてこんな歌を捧げてもらっていると思うと、まぶたの裏がじんと熱くなった。これは嫉妬? とうに忘れていたのに、思い出させた洋介が悪いのだ。
 歌が終わると、どこかに並んですわってトークしている映像になった。司会者は中年女性で、落ち着いた声音と物腰で問いかけた。
「true love……真実の愛ですね。詞は本橋さんがお書きになった?」
「はい。俺はがらっぱちなんですけど、詞を書くと女々しくもなくもなく……おっと、失言」
「そうですよ。リーダー、女々しいは差別用語でしょ」
 三沢が言い、乾も言った。
「近頃は政治家の答弁に致しましても、失言をしては謝罪会見となるていたらくですよね。うちもやるべきでしょうか。みんな、ほら、あやまれ」
 五人そろってぺこっと頭を下げ、司会者が言った。
「女々しいっていうのは……たしかに差別ですかしらね。雄々しい、女々しい、そうですよね」
「リーダーは雄々しいのですが、雄々しすぎて失言するんです」
 木村が言い、本庄も言った。
「雄々しすぎる男は口が……むずかしいですね。はい、僕は黙ってます」
「シゲさん、喋っていいよ」
「ほらほら、喋って」
「喋って下さいな、本庄さん」
「シゲ、女性のご要望にはお応えするのが男だぞ。喋れ」
 それからはわちゃわちゃと五人が喋り、司会者は微苦笑を浮かべてとりなしていた。彼らのトークなんてものもまともに聴くのははじめてで、これは芸能界ズレ、悪ズレというのだろうかと考えつつも、けっこう笑わせてもらった。
「真次郎って変わってないのかな」
 小さな声で呟いたつもりが、洋介には聞こえたのだろう。
「あれ? 志保さん、本橋さんを知ってるの?」
「昔、フォレストシンガーズのファンクラブの役員みたいなのをやってたから、話したことはあるのよ。大人っぽくはなったけど、変わってないよね」
「ずいぶん熱烈なファンだったんだね」
「飽きたからファンクラブはやめたけどね」
 適当に言うと、洋介は納得のそぶりでうなずいた。
 その後もフォレストシンガーズのトークと歌とで、三十分の番組が終わる。私の耳になじんだ、初期の歌もあった。美江子さんに感じた嫉妬やら、真次郎に感じた怒りやらも薄らいで、ただのファンの気持ちになってくる。時は流れたのだから。
「後片付けは……」
「美江子さんに言われたよ。料理だけしていばってるんじゃないのよ。作って食べて片付けて、それで料理をしたってことになるの、だそうだから、俺があとでやるよ。それよりも、シャワー浴びる?」
「……洋介は美江子さんが好き? 素敵なひと?」
「おっかないけど好きだよ。本橋さんや乾さんもおっかないんだけど……うん、好きかな。でもさ、美江子さんが一番好きだよ。俺は勝気な美人が好きだから、志保さんだって大好きなんだな。ねえ、シャワー浴びておいでよ」
 抱き寄せようとする腕をすり抜けて、私は立ち上がった。
「洋介、別れようか」
「どうして?」
「隠していたことがあるのよ」
「な、なに?」
「私、三十三だよ。洋介よりも十も年上だよ。彼氏だっているし……」
 年上だとは言っていたが、三十三だとまでは知らなかったらしい。彼氏がいるとも言ったのは初なので、洋介は明らかに怯んだ。
「ごめんね、楽しかったよ」
「……志保さん」
 追いかけてはこないところを見ると、洋介は愕然状態になっているのか。あんな若い男の子を捨ててショックを与えられるなんて、志保はまだ現役美人なんだよね、と思ったりする。洋介、ごめんね、とも思う。
 遊びはうたかただから楽しいのよ。本気になるなんて野暮はしない。この次は不倫の彼とどうやって別れようかな。真次郎が言ったわけでもないのに、そう言われたような錯覚を起こして、別れようと考えている自分が可笑しかった。

END
 

 


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~ Comment ~

こんにちは

今日は久しぶりにパソコンしながら・・・あっちこっち読ませていただきました。
この話、私はすっごくよかったなあ。志保さんかっこいいな・・・と思いました。
フォレストシンガーズのいろんな話が出てくるから、すごく面白いですね。
世界が深いなあとやっぱり感じました。

また読ませていただきます!

基本的には

そんなふうに言っていただくと、嬉し恥ずかし、です。
いつもありがとうございます。

私は基本的には、あっさりさっぱり潔い男や女が好きなのですね。
そのわりには恋にはしつこい男女もよく書くのですけど、志保みたいなタイプはフィクションのキャラとしては好きです。

「洋介は美江子さんが好き?」
このひとことに、彼女の万感の想いを込めたつもり。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

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