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小説200(The Chronicle)幕間1

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フォレストシンガーズストーリィ200

「The Chronicle」

幕間1(同窓生たち)


1・あざみ

どうして合唱部を選んだの? とは先輩たちによく聞かれた。あなたの好きな歌のジャンルはなに? というのも、合唱部ではよくある質問だった。
「私の好きなジャンルはファンクです。将来は歌手になりたくて、歌いたくて合唱部に入部しました。でも、私の声ってハスキーですよね。合唱部には向かないんでしょうか」
「合唱部はいわゆる合唱曲ばかりではなくて、ポピュラー系の歌も歌うのよ。あざみちゃんの声はそちらに向いてるかもしれないね」
 三年年上の苑子さんが、優しく応じてくれた。
「歌手になりたいの? じゃあ、うちのサークル出身のフォレストシンガーズは知ってるよね?」
「知ってます。もちろんです」
 男性五人のヴォーカルグループ、フォレストシンガーズは私の大学の合唱部の先輩に当たる。最年少の木村さんと三沢さんが私よりも五つ年上で、彼らが二十二歳の年にデビューした。そのころの私は高校生だった。
 小柄で可愛い三沢さんと、小柄でシャープな木村さん、中背で優しそうな本庄さん、長身で爽やかな乾さん、長身でちょっぴり怖そうでもあるけれどかっこいい本橋さん。
 デビューしたばかりのフォレストシンガーズをはじめて見たのは、音楽雑誌の新人紹介コーナーでだった。小さな写真ではあったけれど、このひとたちの声を、歌を聴きたいと思って、CDショップに行ってみた。けれども、私の家の近くの店には置いていなかった。
 今度大きな街に行ったら探しにいこう、とは思ったものの、受験生だった私は遊んでいる暇はあまりなくて、毎晩遅くまで受験勉強をしていたのだ。私の机のラジカセから、ある日、聴きたかった声が流れてきた。
「フォレストシンガーズの三沢幸生です。リスナーのみなみなさまー、聞こえてますかー。感度良好? 三沢幸生、フォレストシンガーズ、三沢幸生、フォレストシンガーズ……」
「うるせえんだよ、幸生は。ラジオを消されるぞ。失礼しました。木村章です。三沢幸生は気にしないで下さいね。木村章を覚えて下さい」
「きみもけっこう言ってるね、章くん? 後輩どもがご無礼申し上げました。本庄繁之です。よろしくお願いします」
「シゲでようやくまともなトーンになりましたね。はい、フォレストシンガーズの乾隆也です。以後、よろしくお見知りおき、お引き立てのほどを心よりお願い申し上げます」
「乾の挨拶もなんだか変ですが、リーダーの本橋真次郎です。では、五人そろって」
 フォレストシンガーズでーす、とハモる五つの声に、私は感激していた。
 高い声の三沢さんと木村さん。低い低い声の本庄さんはベースマンだろう。本橋さんの声は低くて太くて、乾さんの声は高めで優しい。ルックスに似合った声だ。
 DJを相手に明るく楽しいお喋りが続いていって、待望の歌も聴けた。「あなたがここにいるだけで」。フォレストシンガーズのデビューシングルは、本橋さんがリードヴォーカルで、五人のハーモニーがそれはそれは美しかった。
 あんなに歌が上手で、お喋りも軽妙で面白いのに、どうしてフォレストシンガーズは売れないのだろうか。私が合唱部に入部した理由のひとつには、フォレストシンガーズの出身サークルだから、というのもあったのだが、私が大学生になっても、彼らは売れていない。
 デビュー曲は話題にもなっていず、大きな街のCDショップにも置いていなかったので、取り寄せた。二曲目の「SWEET FREGRANCE」もお取り寄せで買った。三曲目はまだかなぁ、と私は楽しみにしている。
「苑子さんもフォレストシンガーズのCDは持ってます?」
「持ってるよ。あざみちゃんも持ってるんだね。素敵だよね」
「とーっても素敵です。私はCDに合わせて一緒に歌ったりもしてるんですよ」
「キーが高いでしょ?」
「私はハスキーハイトーンなんです。歌えますよ」
「歌って」
 苑子さんに言われて、フォレストシンガーズの歌のワンフレーズを歌った。セカンドシングルの「SWEET FREGRANCE」だ。 

「あなたの香りに包まれて
 あなたのぬくもりに包まれて
 眠らせて、今宵はこのままずっと…… 
 ただ、あなたを感じていられたら……」

 あたたかな笑顔で、苑子さんは言ってくれた。
「あざみちゃん、すっごく上手。あなたはきっと歌手になれるよ」
「はい、がんばります」
 私が歌手になるころには、フォレストシンガーズはスターになっているだろうか。どこかのテレビ局のスタジオで会うなんてこともあるのだろうか。どっちが先に売れるか、競争だからね、だなんて、生意気にも言ってみた。


2・雄二

 兄の伊佐雄にそそのかされた格好で、俺は大学の合唱部に入部した。俺が一年生の年の男子部キャプテンは三沢幸生さん。現フォレストシンガーズのメンバーだ。
 三つ年上の三沢さんは、キャプテンと聞くと思い浮かぶ名前で、たいへんお世話になった。四つ年上の本庄さんとはクリスマスコンサートで挨拶しただけだが、五つ年上の本橋さんと乾さんは、兄の合唱部時代の友達なのだそうだ。
 三沢さんと同い年の木村さんは、大学は一年で中退したのだそうだが、合唱部の先輩ではある。そうすると、フォレストシンガーズは俺とは関わりの深い深いグループなのだ。
 俺が大学二年生の年に、フォレストシンガーズがメジャーデビューした。その知らせを聞いて、合唱部の仲間たちと喜び合ったものだった。
「みんなは知ってるんだよね。フォレストシンガーズがデビューしたんだよ」
 話してくれたのは、当時四年生の酒巻さん。みんなはもちろん知っていて、知っていても、ばんざーい!! よかったぁっ!! と大声で叫んだ。
 その場にいたみんなとは、ファイブボーイズのメンバーたちだ。三沢さんの提案によって、仲のよかった一年生たちでユニットを組もうと話し合い、二年年上の酒巻さんにも加わってもらった。酒巻國友、岸本稔、長嶺彰浩、知念秀介、そして俺、椎名雄二。
「僕たちもお祝いしようか。食事に行こうよ」
 酒巻さんが言って、五人で大学の近くの「ペニーレイン」というカフェに行った。岸本がなんとなく複雑そうにしている理由は知らなかったのだが、俺は言った。
「酒巻さん、五人分も出すと金がなくなっちゃうでしょ。割り勘にしましょうね」
「ありがとう、雄二。でもさ、僕は年上なのに……」
「学生は金がないのが普通やねんから、気にせんといて下さい」
 長嶺も言い、知念も言った。
「フォレストシンガーズデビューのお祝いでしょ? 俺たちも金を出さないと、お祝いになりませんよ。会費制の祝賀会です」
「おー、さすが医学部。うまいこと言うな」
 岸本が言うと、長嶺が混ぜっ返した。
「医学部は関係ないけど、そしたら俺は、お経でお祝いしよか」
 年下の三人がそろって、やめやめやめーっ!! と叫んで、酒巻さんはしーっ、しーっ、大声を出したら駄目だよ、と焦っていた。
「よかったよな。乾さん、夢がかないましたよね」
 知念が呟き、酒巻さんは問い返した。
「どうして乾さん? 他の人は?」
「それはもちろん、他の人もですよ」
 医者の息子で沖縄出身の知念は、六年間は大学にいる。合唱部には籍を置いていたのかもしれないが、俺たちが四年で卒業したあとは、活動はしていなかっただろう。
 京都出身の長嶺は、東京の大学に入るときに、親と約束したのだそうだ。卒業したら京都に帰って親の跡を継いで、寺の住職になると。今どきの坊主は坊主頭にならなくてもいいと長嶺は言っていたが、黒い袈裟をまとってお経を唱え、坊さん修行をしているのだろうか。
 岸本は普通にサラリーマンになり、俺は希望職種のレコード会社に就職したものの、経理部に配属されてため息をつき、それでもまあ、仕事なのだからがんばってはいる。
 電話やメールのやりとりはしているが、深い話はしない。そのうちには同窓会をやろうな、と言い合ってはいるけれど、いつになることやら。知念が医者として独り立ちしたら、沖縄でぱーっと騒ごうか。
 卒業してから一年がたった俺たちには、それぞれの生活がある。けれど、俺たちの合唱部の先輩たちのフォレストシンガーズを気にかけている。酒巻さんはラジオ局のADになったのだから、俺以上にフォレストシンガーズを気にしている様子だ。
 知念も長嶺も岸本も、それぞれの生活の中で、なぜだか売れないフォレストシンガーズを気にしているだろう。俺たち後輩のためにも、しっかりして下さいよ、三沢さん。俺にとってはもっとも親しみ深い三沢さんに、俺は今日も語りかけるのだった。


3・育子

 大学に入学したばかりの春の日に、合唱部のパフォーマンスを見て入部を決めた私に、サークルで彼氏ができた。
 彼は私と同じ大阪出身で、実松さんという。弾という名前がかっこ悪くていやだと言い、誰にも弾とは呼ばせなかった彼は、私にだけはその呼び名を許してくれた。恋人なのだから、ふたりっきりのときにだけは弾、育子、と呼び合おうと。
 女子部の友達にはすこしは話したけれど、男子部の人たちは知らなかったのだろうか。二年年上の弾は、私が三年生になった年には卒業してしまったから、それからはデートもなかなかできなくなって、たまに会うと私は言ったものだ。
「弾はサラリーマンになったんやから、私とは結婚でけへんよね」
「そうなるんやな。育子はどうしても、農家の嫁になるんか」
「小さいころからの夢やから、なる」
「そうかぁ。ほんならしゃあないわな」
 プロポーズもしていないくせに、私と結婚したいのだろうか。サラリーマンの弾とだって、結婚しよう、と言ってくれたらしてあげるのに。でも、私はまだ学生だし、彼も新米サラリーマンなのだから早すぎる。
 私が大学を卒業して、希望の農業関係の仕事に就くころには、弾も仕事に慣れているだろう。そうなってからプロポーズしてくれたら、農家の嫁になりたい夢は捨ててもいいつもりだった。
「うひゃあ、ごめんごめん。遅くなってしもた」
 めったにデートはできなくても、さよならはしていない。弾が卒業した翌年の秋のある日、暑くもないのに汗を拭き拭き待ち合わせた店にあらわれた弾は、私に紙片を手渡した。
「なに、これ? 電報?」
「そうや。読んで」
 開いてみると、こんな文面だった。
「サクラサク、フォレストシンガーズデビュー」
 そんなん、私かて知ってるもん、とは思ったのだが、どうして電報? と弾を見返した。
「俺も嬉しいてな、卒業した合唱部の友達に電報で知らせてん。シゲにまで打ってしもて呆れられたわ」
「本庄さんにまで?」
 弾と同い年の本庄繁之さん、弾よりも一年年上の本橋真次郎さんと乾隆也さん、弾よりは一年年下の三沢幸生さん、四名まではいずれも私の合唱部の先輩でもある。もうひとりの木村章さんは知らなかったのだが、彼は一年で中退しているからであって、私の先輩ではあるのだった。
 合唱部ではフォレストシンガーズの話題はよく出る。最年少の三沢さんが卒業した今年の初秋に、彼らがメジャーデビューしたのだとは、私と同い年の酒巻くんが真っ先に聞きつけてきて発表してくれた。
「小笠原さんはいなくなっちゃったんだよね」
「うん。ヒデはおらんようになったけど、どこかでデビューを聞いてるかな。知らんねんやったら、俺が電報を送ってやりたいけど、ヒデがいったいどこにおるんかを俺が知らんねんから、送りようもないわな」
「そうだよね」
「育子、大阪弁で喋ってぇや」
「ああ、そうやった」
 本庄さんはよく小笠原さんに、土佐弁で喋るな、標準語を使え、と言っていたのだそうだが、弾は私に大阪弁を使わせたがる。私が東京弁で話すと、ええ格好すんな、と言って気を悪くする。
 私だって就職活動をしているんだから、大阪弁は控えめにしてるんよ、と心で言って、小笠原さんのことを考えた。最初はフォレストシンガーズのメンバーだった小笠原さん、土佐の鯨だなどと言われていた小笠原英彦さんは、お酒が強くて短気で、それでも優しいひとだった。
 合唱部に入ってはじめての飲み会の日、あの日は弾はいなかったのだったか。まだ意識もしていなかったので覚えていないのだが、小笠原さんはよく覚えている。
「堀内さん? 酔うたんか?」
「ちょっとだけ……ちょっとだけだから平気です」
「平気そうな顔はしてないだろ。送っていこうか」
「大丈夫です」
「酔っ払った後輩を送っていくのは、先輩の義務やきに。帰ろう。みなさん、お先に」
 すこし酔って気持ちが悪くなっていた私を居酒屋から連れ出して、ゆっくりゆっくり歩いてくれた。好きになったりはしなかったけれど、いいひとだと思った。
「へええ、育子ちゃんは大阪か。喋り方からしても、実松と同じだとは思ってたんだよ。育子ちゃんは大阪弁は使わないのか?」
「あんまりモロって……なまってますけどね」
「うん、なまってる。実松には気をつけろよ」
「なんで?」
「あいつだったら育子ちゃんと会ったら大喜びして、大阪弁の仲間ができたーっ!! だろうからさ。そのうちには弾・育子、大阪弁漫才、やってくれるか?」
「いやです」
 アパートの近くまで送ってくれた小笠原さんの言葉で、実松さんという大阪出身の先輩を意識したのかもしれない。
 その小笠原さんは、どこに行ってしまったのか。フォレストシンガーズはメジャーデビューを果たしたのに、そうとも知らずにいるのだろうか。弾がみんなに送った電報を、せめて小笠原さんにも届けてあげたかった。
「弾も歌手になりたかったんとちゃう?」
「俺はこの顔やし、なれるはずないやろ。ええねん。俺はフォレストシンガーズの、特にシゲの応援するから。育子もファンになったってな」
「うん、もちろん」
 フォレストシンガーズに乾杯、とグラスを合わせた、あのころの恋人は今は、どこでどうしているのだろうか。フォレストシンガーズはいまだ売れてはいないようだけど、私は彼らを思い出すと、小笠原さんと弾をつながって思い出す。
 私と別れたあとでも、弾は本庄さんとは親しくしているのだろうか。会わなくなってしまっていたとしても、弾も応援してるよね。私もずーっとフォレストシンガーズを応援しているよ。


4・強二

 留年キャプテン、異色の存在、と言われていた俺は、もともとは兄の影響で合唱部に入った。秋田から上京してきた三つ年上の兄の力が入学した大学に俺も入学し、合唱部にも入部したのだった。
 一年生の年には、同年の木村章とも三沢幸生とも親しくしていた。木村はロッカー志望のひねくれ気質だったので、俺が合唱部情報を話してやっても迷惑がっていたようだが、三沢は愛想のいい奴で、俺とも仲良くしていた。
 四年生になると三沢がキャプテンとなり、俺が副キャプテンになった。翌年は俺は留年してしまったので、自動的というかなんというか、でキャプテンになり、一年後輩の尾崎尚吾が副キャプテンになった。
 その昔、三浪キャプテンというのがいたのだそうで、彼に較べれば留年はたいしたことではないはずだ。浪人も留年も他にもいたのだが、俺は副キャプテン、翌年はキャプテンとなったからこそ、噂されるのであろう。
 フォレストシンガーズでは最年少の三沢と木村の同い年なのだから、俺は彼ら全員と触れ合った。本橋さんと乾さんは俺が一年生のときの三年生。目立たなかった俺は本橋さんや乾さんの記憶にはないかもしれないが、鈴木兄弟としてならぱ覚えていてくれるかもしれない。
 本庄さんと小笠原さんはひとつ年上で、実松弾さんも含めて、合唱部では名物トリオだった。木村も三沢も目立っていたのだから、彼らがプロになったのは当然だったのだろう。そんな彼らの中でもっとも印象に残っているのは、やはり三沢だ。
「鈴木、好きな子っているの?」
 女の子の話題が好きな三沢には、頻繁にそう尋ねられた。
「おまえは?」
「俺はいすぎて困るんだよ。もてすぎて困るんだよ。ひとりだけは選べないんだ」
「そうかそうか、好きに言ってろ」
「ほんとだよ。俺の話しはしてないじゃん。鈴木強二くんの好きな子は? タイプは?」
「俺は美人がいい」
「そりゃあ美人はいいけどね。美人って性格が……あれは真実かもしれない。鈴木の好きな女の子は合唱部にいるのか」
「卒業してしまったひとだったらいるよ」
 このたぐいの話題は頻繁すぎたのでいつだったかの記憶が曖昧なのだが、あれは三沢も俺も四年生だったときの、部室での会話だっただろうか。
「背の高い美人だよ」
「おまえは俺よりは高いけど、ちびじゃん。背の高い女が好きなのか?」
「三沢ほどは俺はちびじゃねえんだよ。彼女は美人だからさ、美人だったら俺よりも背が高くてもいいんだよ」
「誰?」
「卒業しちまったひとだから……」
「卒業してしまった背の高い美人か……何人かはいるね」
 三沢は腕組みをして言った。
「俺だって美人だったら、背は高くてもいいんだよ。俺が世界中の女が好きだって言ってるのは、おまえは知ってたっけ?」
「知ってるに決まってるだろ。口癖みたいに言ってるじゃないか」
「そうだった? そんなに言ってる?」
「誰にでも言ってるくせに……」
「そんなに褒めないで」
 どうしてこれが褒めているとなるのかは知らないが、三沢はでへへと笑った。
「男にだって嫌いな奴はほとんどいないけど、おまえも大好きだよ。鈴木くん」
「おまえに好かれたくないんだよ。で、なにが言いたいんだ?」
「冷たいのね。僕ちゃんは鈴木くんも好きなのにさ……いでっ、えーん、ごめんなさい」
 ごつんとやってやると、大げさに頭をさすってから言った。
「女のひとだったらほんとにほんとに、おばあちゃんでも赤ちゃんでも、美人でも美人でなくても、猫でも犬でも……はい、鈴木くん、本題に入ります」
「おまえの本題ってのは……いいから入れよ」
「鈴木くんのハートに入り込んでもいい? うっ、ごめん。えーとだね、本題ってなんだった?」
 無言で睨むと、三沢はようやく言った。
「卒業してしまった長身の美人の中に、ひとりだけ、好きではない女性がいるんだよ」
「誰?」
「俺だって彼女は、美人だなぁ、素敵だなぁ、あのひととだったら、ベッドでおつきあいしたいな、とは思ったよ。でも、本性を知ってしまったら、寝たいとも思えなくなった」
「だから、誰?」
「俺の大切なひとを苦しめた女」
「……?」
「大嫌いだーっ!! ああ、すっきりした。去年の話しなんだけどね、大嫌いだーっ!! って叫んだらすっきりしたから、今度会ったら口説こうっと」
 わけのわからない言い方をするのも、三沢の場合はありふれていたのだが、俺は悩んでいた。
「おまえもそのひとに会ったら口説く?」
「口説くって言うのか、俺が二年で彼女が四年のときに、お茶に誘ったことはあるんだ。そしたらさ……鈴木くんって秋田だったよね? 田舎の子は趣味じゃないの、それに、あんたみたいな男は私とは似合わないでしょ? 鏡を見なさいね、ってあしらわれたよ」
「そう言われても好き?」
「あれでよけいに好きになったのかも……」
「おまえってマゾなのか」
「ちがうよ」
 なんにしたって卒業してしまったんだから、彼女と会うことなんかない。でも、今でもまだ好きかな、と思っていると、三沢は言った。
「俺の言ってるひとと、おまえの言ってるひと、同じ女性かもしれないな」
「八幡さん? あ、言ってしまった。同じなのか?」
 同じだともちがうとも言わず、話をそらしてしまった三沢の顔には、なんともいえない感情があった。
 こいつは女好きでお喋りで、軽薄な男だ。キャプテンに選ばれたのは、それなりに人望もあったのかもしれないが、歌唱力が一番の要因だったのだろうと、俺は決め込んでいた。今日だって脱線しまくっていて、肝腎の本題ってのは読みにくかったのだが。
 三沢の大切なひとって誰だ? フォレストシンガーズの先輩か? 去年? 八幡早苗さんが三沢の四人の先輩のうちの誰かになにかしたのか? 俺には見当もつかなかったのだが、きっとなにかあったのだろう。三沢は美人以上に、先輩が大切なのか。そう言っていたときの三沢の顔は、まったく彼らしくもなかった。
 女の子ならば知っているのだろうかと、俺は女子部に行ってみた。片瀬ミャーコちゃんがいたので、さりげなくのつもりで尋ねた。
「八幡さんってフォレストシンガーズの誰かとつきあってた?」
「本橋さんが好きだって言ってたのは、ちらっと聞いた覚えはあるよ」
「八幡さんは本橋さんを好きだったのか?」
「はっきり言ったんじゃないけど、話の流れからするとそんな感じだったみたい。それでね、去年だったかな。八幡さんと街で会ったのね。ふたりでお茶を飲んでたときに、他のひとを使って本橋さんに仕返ししてやったんだ、みたいなことを言ってて……なんだったんだろ」
「ミャーコちゃんも知らないんだね」
「よくは知らない」
「うん、そんならいいよ」
 俺にもよくはわからなかったけれど、八幡さんは本橋さんが好きで、本橋さんにふられて、他の誰かを利用して本橋さんに仕返しした。
 乾さんや小笠原さんではないだろう。三沢でもないだろう。とすると……そのあたりの事情はあやふやながら、その誰かが本庄さんだとしたら……本庄さんだったら八幡さんに利用されそうな……失礼ではあるが、俺はそう思った。
「ミャーコちゃんは八幡さんは嫌い?」
「嫌いってほどは知らないけど、さっさと卒業してくれてよかったな、ってのはあるかも」
「そしたら嫌いなんだろ。女子部ではそう言われてるの?」
「先輩を悪くは言いたくないから言わない。鈴木くんは八幡さんが好きだったの? どうしてそんなに質問するの?」
「うん……いや……」
「その顔は、八幡さんが好きだから気になるんだ。鈴木くんのためにも、八幡さんが卒業しちゃっててよかったね」
「ミャーコちゃん、もっと詳しく知ってるんじゃないの?」
「知ってたとしても言わない」
 三沢もミャーコちゃんもあやふやな言い方しかしないけれど、俺の推理は近いところまで行っているのではないだろうか。
「私は木村章は大嫌いだけど、フォレストシンガーズが早くデビューできるといいよね」
「……どうしてここに木村章が?」
「それだって昔の話しだから言わないの」
「……うん、フォレストシンガーズが早くデビューできたらいいな、ってのには、俺も賛成」
「そうだよね」
 なおいっそう頭の中が???になったような気もした。
 あの一件はいまだ謎のベールに包まれてはいるのだが、フォレストシンガーズは俺が二度目の大学四年生の秋にメジャーデビューした。ミャーコちゃんが嫌いだと言っていた木村章が、脱退してしまった小笠原さんのかわりにフォレストシンガーズに参加したとは、ミャーコちゃんには予知能力でもあるのか。
「デビューしたんだな、おめでとう。がんばれよ」
 合唱部室に顔を見せた三沢にも、直接激励の言葉をかけた。三沢は俺の手を握って、顔を近づけてきた。
「ありがとう。鈴木くんのおかげだよ」
「俺は……うん、おまえが合唱部を潰さないようにフォローしてやったんだから、俺のおかげだよな。なあ、八幡さんは……」
「八幡さんがどうかした? つきあってるのか?」
「まさか」
「それだけはやめたほうがいいよ。言いたくないけど、やめたほうがいいからね」
「……おまえと喋ってると、俺の頭の中が……」
「んん? 頭の中に入っていって治療してあげようか」
 あいかわらず俺をケムに巻いてばかりいる奴だったが、フォレストシンガーズデビューは俺も嬉しかった。
 小笠原さんだって俺にとってはいい先輩だったのだから、脱退してしまった事情は気になる。三沢は詳しく話してくれないので、俺もしつこく尋ねたりはしなかった。それはそれとしても、内緒で言えば、プロのシンガーズに俺と同い年の合唱部の仲間がふたりもいるのはさらに嬉しい。
 まだフォレストシンガーズは売れっ子とまでは行かないようだが、三沢は大切な先輩三人と、愛する章ちゃん、なんて呼んでいた親友と五人で、毎日励んでいるのだろう。俺の応援は微力なものだろうけど、いつだって声援を送っているんだから、がんばれよ。
 合唱部代表としてのフォレストシンガーズには、俺たちが卒業したあとの後輩たちだって、注目しているはずだ。早く大物シンガーズになれよ。みんなで楽しみにしてるんだから。
 
 
5・和音

 運命的相似形だと、三沢くんは彼と私をそう評していた。
 小さくて細くてアニメ声で、たしかに彼と私は似ている。ゼミ仲間たちと大勢で海に遊びにいった日にはじめて会った三沢くんと話していて、私も実感していた。外見や声は似ているのかもしれないが、中身はずいぶんとちがっている。
 彼は会うたびに私を口説きたがり、私が断るとますます言いたがる。しつこいね、そんな奴とは絶交、と言ってやってもよかったのに、友達としての三沢くんは楽しくて面白い子だったから、絶交はしたくなかった。
「三沢くんってほんっとに歌が好きなんだね」
 会うたびに、寝ようよ、とも言うけれど、合唱部の話しもする。歌も歌ってくれる。三年生の夏にはじめて会った三沢くんは、最初は私を合唱部に勧誘した。歌には興味のない私が断ると、合唱部についてはあっさり諦めてくれたのだが、寝よう、寝よう、恋人になろう、とは言う。
 友達としての三沢くんは好きだけど、恋なんかしていないのだから、私は口説かれるたびにはねつけて、実は三沢くんも、口説きのゲームを楽しんでいるのではないか、とも思わなくもなかった。
「将来は歌手になりたいの?」
 夏休みも終わったころに、隣を歩いている三沢くんに尋ねた。
「三沢くんだったらアイドルソングみたいのを歌う、ソロシンガーかな」
「俺ってアイドルになれる?」
「小柄で可愛いんだから、アイドルっぽいのも似合いそうだよ。二十歳じゃ遅いのかな」
「アイドルにはなりたくないな。ワオンちゃんには言ってなかったよね」
 妙に真面目な顔になって、三沢くんが話してくれた。
「去年の終わりごろに、合唱部の先輩たちに誘われたんだ。本橋さんと乾さんって、俺よりは二年年上の先輩。名前くらいはワオンちゃんも知ってるんじゃない?」
 私の本名は「和音」と書いて「かずね」と読むのだが、三沢くんは勝手に「ワオン」ちゃんと呼ぶ。そんな呼び方は三沢くん以外にはしないのだが、悪くはないので呼ばせておいた。
「知らない?」
「私は歌にも音楽にも合唱部にも興味ないんだから、知らないよ」
「知らないか。本橋さんも乾さんも学校では有名だったんだけどな。でさ、その本橋さんと乾さんと、俺よりは一年年上の先輩のシゲさんとヒデさんとで、フォレストシンガーズってのを結成したんだ。ヴォーカルグループだよ。いずれは絶対にプロになるんだ」
「へええ、そうなんだ」
 プロになんか簡単になれるの? とは思ったのだが、言わずにおいた。
「俺、一番の下っ端じゃん。先輩たちに苛められてるんだ。幸生、夜食を買ってこい、って、パシリにされるし、口答えするとリーダーに殴られるし、乾さんには手ひどく叱られるし、ヒデさんには放り投げられるし、シゲさんには蹴飛ばされるし、もう、散々でね。満身創痍なんだから」
「オーバーだね」
「ちょっとだけオーバーに言ってるけど、ほんとだよ」
「でも、楽しそう」
「楽しくないんだよ。こんな僕ちゃんをベッドで慰めて」
「いや」
「なんとつれない……身体は満身創痍。ハートはぼろぼろ。ぎざぎざハートがずたずただよぉ」
「オーバーなんだから」
「俺の持ち味はオーバーなんです」
「知ってるけどね」
「知ってるでしょ? ワオンちゃんは将来はどうするの?」
 三年生の秋なのだから、就職も考えないといけない時期に来ている。私も真面目に答えた。
「一般企業に就職して、一般職のOLかな。私には別に夢はないから、それでいいんだ」
「それもいいんだけどさ、ワオンちゃんだったらアニメの声優ってのはどう?」
「歌手だって簡単にはなれないだろうけど、声優だって同じくらい簡単じゃないよ。私は楽なほうがいいの」
「そうなんだろうけど、俺は困難な道を選ぶ。なーんちゃって。おっ、ユキちゃん、かーっこいいっ!! 大統領!!」
「古っ!!」
 冗談めかしてはいたが、あのときの三沢くんは、いつになく真摯な表情をしていた。
 卒業するまでは、三沢くんとは友達でいた。口説くのを諦めない懲りない奴は、何度も何度も私に寝ようと言い、私も何度も何度も断って、きわどいやりとりをふたりともに楽しんでいた。
 そして、私は一般企業に就職し、三沢くんとも会わなくなって、その秋、フォレストシンガーズがメジャーデビューしたと聞いた。三沢くんの口からは出ていたけれど、私は実際には会ったことのないフォレストシンガーズのメンバーを、はじめて写真で見た。
「本橋さんと乾さん……けっこうかっこいいね。このひとが本庄さん、シゲさんだよね。ヒデさんって彼? 木村章? 章だったらヒデさんじゃないでしょ。たしかヒデさんは小笠原だったような……メンバーチェンジしたのか」
 雑誌の小さな写真を見ていると、私自身の境遇も考えてしまった。
 一般企業のOLにしても楽ばかりではない。新人OLにだって苦労はある。にしても、デビュー間もない新人歌手よりは気楽な身の上だろう。私には夢はないの? このままOLを続けていって、そのうちには恋をして結婚して、子供を産んで……ってのも夢といえば夢だけど、小さすぎる。
「三沢くんは私に、アニメ声優ってどう? って言ったよね。私も中学生や高校生のころには、こんな声なんだから声優もいいなぁ、って思ってたんだ。だけど、そんなのは実現しないって決め込んでた。三沢くんたちだって、フォレストシンガーズだって、プロになんかなれないんじゃないかって思ってたよ。でも、なったんだよね。私も……」
 ひとりごとを言っていると、そんな気になってきた。アニメ声優養成スクールというのがあるのだから、そこに入学して、夢を目指す手段があるのではないか。
「やってみよう。三沢くんと再会したときに、ワオンは声優になったんだよ、三沢くんが呼んだ名前を芸名にして、夢を実現させたんだよ、って言えるように、私もがんばる。三沢くんにできたんだから、私にできないはずがないよね」
 甘い夢だってかなわないと決まったものではない。三沢くんが私に勇気をくれた。一歩を踏み出す勇気を、フォレストシンガーズデビューが与えてくれた。
「よーし、ワオンもやるからね」
 その意気だよ、ワオンちゃん、がんばれ、と三沢くんが言ってくれている気がした。
「売れてるシンガーの三沢幸生と、有名な声優のワオンちゃんが会ったら、そのときには寝てくれる? スキャンダルになっちゃうくらいに、どっちも有名になろうね」
「寝ないけど、どっちも有名にはなろうね」
「やっぱ駄目?」
「駄目」
 大げさにがっかりしてみせる、三沢くんのポーズまでが目に見える気がした。


6・諒子

 長身で美人で、それでいて素朴なムードもある彼女とはじめて会ったのは、大学に入学して間もない時期の、国際文化学部の教室でだった。
「あなたって東京のひと?」
 教授の質問に答えてからすわると、そのときにはまだ名前も知らなかった彼女が話しかけてきて、私は言った。
「生まれは東京だけど、父親の転勤であちこち転校したりもして、東京に戻ってきたの。高田諒子っていうんだよ。あなたは?」
「瀬戸内泉水。三重県出身。諒子ちゃんってさすがに東京の子だね」
「どこがさすが? 教授に睨まれてる気がする。あとでゆっくり話そうよ」
「うん」
 講義が終了してから連れ立ってキャンパスに出ていって、歩きながらいっぱい話した。お互いにとって、大学でできたはじめての友達。泉水と私はほどなく仲良しになった。
「私の友達の話をしたでしょ。シゲっていって、合唱部に入ってるんだ。シゲの友達のヒデって奴とも私も親しくなって、サイクリングに行こうって誘われたの。諒子も行かない?」
「うん、行く」
 合唱部には私も興味があった。合唱部自体ではなく、男子部キャプテンの金子将一さんにだったのだろうが、そのために合唱部にも注目していたのだから、泉水の誘いは喜ばしかった。
 五月の上天気の日曜日、合唱部の一年生たちのサイクリングに参加させてもらって、私は金子さんの妹にも会った。泉水の友達である本庄繁之くんや小笠原英彦くんや、他のメンバーたちにも紹介はしてもらっていたのだが、金子リリヤさんにばかり目が行っていた。
 なんて綺麗な女の子なんだろう。リリヤさんも東京出身だそうだが、私は純粋な東京の子じゃないせいか、都会の女の子らしさはリリヤさんのほうが格段に上。美人度は較べると悲しくなりそうだ。
「リリヤさんも合唱部なんだよね。私は高田諒子っていって、合唱部には入ってないの。本庄くんや小笠原くんの友達の泉水に誘われて、サイクリングに連れてきてもらったんだ」
 自己紹介すると、リリヤは女の私でさえもくらっとしそうな笑みで応じた。
「そうなんだね。大勢いるほうが楽しいもん。来てくれてありがとう」
「いえ、そんな……で、リリヤさんって兄さんの影響で合唱部に入ったの?」
「そうでもないんだけど、兄貴にはいろんな話を聞いてたから、大学もサークルも兄貴と同じでいいかなって、なんとなくね」
「お兄さんがいるっていいな」
「諒子ちゃんは兄弟は?」
「弟がいるんだけど、弟なんて乱暴で可愛くなくて、あんなのいらないよ」
「兄貴もいらないよ。姉さんのほうがいいな。でも、弟もいらないけどね」
「でしょ? 弟よりは兄さんがいいよ」
「かもしれない」
 リリヤさんとはその程度の話をしたにすぎなかったのだが、合唱部の同い年の男女とは、多少は話した。
「高田さんって頭がよさそうだな。優等生なんだろ」
「普通です」
「こう、凛々しくてかっこいい女の子に見えるよ」
「お上手ね。美人じゃない女の子にはそう褒めるの?」
「高田さんは綺麗やきに」
「ありがとう」
 小笠原くんと話している横で、本庄くんははにかんだ笑顔で立っていた。
「シゲもなんとか言えや」
「俺は女のひととは……いえ、高田さんは……」
「ごにょごにょ言うてんと、はっきりせんかい。なあなあ、高田さん」
 割り込んできたのは、大阪弁の実松くんだった。
「シゲはもてへんから、彼女なんかでけへんて言うねんけど、泉水ちゃんっていう女友達がおるんやから、女の子の友達もいてへん俺よりはええよな」
「実松くんには女友達はいないの? 合唱部の女の子はみんな、友達なんじゃないの? 私も実松くんとは友達になれたって思っていい?」
「おー、そうか。嬉しいな。ありがとう」
「実松くんも口はうまいじゃないの」
「いやいや、俺は口下手で……」
「嘘ばっかり」
 部外者の泉水とも私とも、合唱部のみんなは親しく接してくれた。
 それからも幾度かは、合唱部の一年生たちと遊びにいった。いつしか恋心を抱くようになっていた金子将一さんにも、泉水や小笠原くんが手を貸してくれて、彼の卒業間際には花束をプレゼントできた。おでこにキスしてもらって、気絶しそうになっていた私を、泉水は呆れた顔で見ていた。
 二年生になっても三年生になっても、合唱部のメンバーたちは仲が良くて、私も時には仲間入りさせてもらった。
「泉水も恋してる? その顔って恋する女の子って感じだよ」
「恋なんかしてないよ」
「相手は本庄くんじゃないよね。誰なの?」
「シゲなんかに恋するはずはないし、ヒデにだって……」
 そんな話を泉水としたのは、三年生のときだった。
「ヒデ? 小笠原くんが好きなの?」
「恋はしてないって言ってるだろ。諒子はどうなの?」
「金子さんはとうに卒業してしまったし、彼のおでこへのキスが疼いてて、恋なんか二度とできない気分になっちゃってるの」
「目を覚ませ、諒子」
「覚めないんだもん」
 いつまでもかなわぬ恋を追いかけているつもりはなかったのだが、泉水にはそう言ってごまかしておいた。
「最近知ったんだけど、シゲもヒデも、本気でシンガーになりたいらしいんだよね」
 三年生も終わろうとしているころに、泉水が話してくれた。
「本橋さんと乾さんに誘われて、シゲとヒデはシンガーズに入ったの。フォレストシンガーズっていうんだって。ださいネーミングかな」
「覚えやすくていいんじゃない?」
「そっかもね。あとひとり、二年生の三沢くんって男の子も含めて、五人のヴォーカルグループだよ。プロになるんだってさ」
「なれるといいね」
「本当になれるといいね」
 泉水は小笠原くんを好きなんじゃないの? デートしたりもしてるんじゃないの? 突っ込んで質問したかったのだが、泉水がなんとなく暗い表情でいるようなので、できなかった。
 私は泉水から聞くばかりだったのだから、フォレストシンガーズがどんな活動をしているのかも、詳しくは知らない。なんでも、毎日毎日公園で練習して、来るデビューの日にそなえているのだそうだ。
 じきに私たちも卒業する。私は高校教師の職が決まり、泉水は文房具メーカーに決まった。そうして時は流れていき、私たちが卒業した夏に、泉水が電話で話してくれた。
「ヒデがやめちゃったんだって。シゲに聞いたんだけど、結婚するからって脱退して、消えてしまったんだそうだよ」
「……そう」
 つきあってはいなかったの? 細かい話はちっともしてくれなかったけれど、泉水と小笠原くんは恋人なのかもしれない、と私は思っていた。なのに、小笠原くんには彼女がいたのか。泉水の声は沈んでいて、他にもさまざまな感情があるのだとは察せられた。
 泉水は本庄くんとは小学校から同じの幼馴染。本庄くんは小笠原くんとは大の親友。それだけでも、泉水は本庄くんの心を思って沈んでいるのだろう。私の気持ちも沈んでしまう。泉水は受話器のむこうで泣いていたのかもしれない。
 それからまたしても時は流れ、泉水がはずんだ声で報告してくれたのは、私たちが卒業した翌年の秋だった。
「フォレストシンガーズがデビューしたんだよ。CDも出すんだって」
「おめでとう、よかったね」
「私には関係ないとも言えるんだけど、諒子も喜んでくれてたよ、って、シゲに報告しておくね」
「うん。すっごく喜んでるよ」
 その翌年の春には、泉水は転勤で大阪に行ってしまった。泉水自身が親元の近くにいたいと望んだのだから、私が寂しがるのはおかしいのに、やっぱり寂しかった。
「フォレストシンガーズって知ってる?」
 高校教師になった私には、同業者の恋人ができている。彼に尋ねると、首をかしげた。
「知らない?」
「知らない。シンガーズって歌手だよな」
「そうだよ。メンバー全員、私の知り合いなの。私とっていうか、私の親友の友達がいるヴォーカルグループ。まだ売れてないんだけど、私は大好きなんだ。あなたもCDを買ってあげてね」
「男の歌手って趣味じゃないんだけど……」
「文句を言わずに買いなさい」
「わかったよ」
 CDを買って聴いたのだそうで、彼は言った。
「俺の趣味ではないけど、歌はうまいね。売れてないってのは顔がもうひとつ……」
「顔も売れる要素のひとつではあるんだろうな。だけど、顔がよくなくても売れてる歌手っているでしょ」
「いるよ。諒子はフォレストシンガーズとなるとムキになるよね」
「泉水のためにムキになってるのよ。ねえねえ、金子将一も知らない?」
「知らないよ」
 むろんフォレストシンガーズも応援しているのだが、彼らの一年後にデビューした金子将一さんは、私にはなおさら気になる存在だった。
「金子さんって、私の恋人だったの。彼もフォレストシンガーズと同じく、私とは大学が同じで、金子さんは私よりも三つ年上なのね。泉水に合唱部に連れていってもらってる私を、金子さんが見てひとめ惚れしたんだって。口説かれちゃったのよ」
 金子さんのCDを見せると、彼は怒り声で言った。
「こいつが諒子の……」
「金子さんは顔も最高でしょ」
「う……言いたくない」
「妬いてるの?」
「当然だろ」
「嘘だよぉだ。今のは私の願望。金子さんを好きだったのは私のほうで、片想いだったんだ」
「諒子がこいつに片想いしてたってだけでも妬けるんだよ」
「もっと妬いて」
 怒った顔になって私を抱き寄せた彼の腕の中で、私は呟いた。
 合唱部ではなかった私でさえも、こんなにフォレストシンガーズを思ってる。金子さんのことも忘れられない。合唱部で関わっていた人たちは、もっともっとあなたたちを思っているはず。
 日本中にあなたたちを応援している人間がいっぱいいっぱいいるのだから、あなたたちも励んでね。金子将一とフォレストシンガーズのジョイントライヴなんてものがあったら、私は仕事も彼氏も投げ打ってでも駆けつけるから。
 あのひとたちは全員、私の同窓生。特に金子さんはね、私の片想いではあったけど、おでこにキスしてくれたんだよ、って、ひとりで満足して客席でにんまりしよう。


7・伊佐雄

 忸怩たる思いってやつは、俺にはあった。合唱部に入部したって、俺なんかは有象無象のその他大勢。なのに、本橋や乾や徳永は特別視されている。そんなに差があるのか? あるんだろうな。どこの世界だって実力がものを言うんだよな、だったのだ。
 とりわけ、俺は徳永渉に反発心を抱いていた。徳永はルックスまでがよかったから、顔立ちはそれほどでもない本橋や乾以上に、徳永に反感を抱いたのだろう。
「噂は聞いてるよ。今年の合唱部の新入生の男には、どえらい歌唱力のある奴が三人いるって。おまえじゃないんだよな」
 同じ学部の友人、小渕までがそんなことを知っている。彼は合唱部ではないのに、うちのサークルは部外にまで評判が鳴り響く。そうと知っても、有象無象の俺は嬉しくもなかった。
「俺じゃないのは当然だろ。俺だったら頭には来ないよ」
「頭に来るのか?」
「先輩たちは歌のうまい奴をひいきする。キャプテンは本橋と乾に目をかけていて、副キャプテンは徳永だ。徳永って奴は先輩におべっかを使うのもうまくて、俺たち一年生には冷笑的な態度なんだよ。本橋も乾も好きではないけど、俺は徳永が一番嫌いだ」
「嫌いな奴のいるサークルなんて、やめちゃったらいいじゃないか」
「うん、そうなんだけどな……」
「おまえは歌が上手でもないのに、どうして合唱部に入ったんだ?」
「ええと……」
 美人が多いとの噂があったからだ、とは言いたくなくて、適当な理由をつけた。
「歌が好きだからだよ。サークルって趣味だろ。趣味の合う者が集まって、楽しくやるのがサークルだろ。歌の上手下手で差別するのはまちがってるよ」
「だからさ、いやだったらやめちゃえば?」
「途中で投げ出すだなんて、根性のないことはしたくないんだよ」
「ほおお。えらい」
 馬鹿にしているような言い方ではあったが、そうだ、だから俺はやめないんだ、と小渕に言い返した。
 一年生の年には女の子を好きになったり、告白してふられたり、下手は下手なりに合唱の練習に励んだりもしていた。小渕は部外者なのだから、噂を聞いて面白半分で言っていたにすぎないのだが、男子部のメンバーたちの中には、本橋や乾を蛇蝎のごとく忌み嫌っていた先輩もいた。
「この間さ、溝部さんが……」
 言いにくそうに言い出したのは、同年の和田だった。
「おまえたちだって本橋と乾を追い出したいんだろ、って言うんだ。徳永はそう思ってる最先鋒なんだから、徳永を先頭にして、本橋と乾を排除する戦術を考えようって。椎名も乗る?」
「……徳永はわが道を行くって奴だろ。本橋や乾を意識はしてるんだろうけど、表立ってはそんなことは言わないじゃないか」
「俺もそう思うんだけど、溝部さんが……」
「仲間に入れって言われたのか?」
「俺はいやなんだけと、溝部さんって……どうしたらいい?」
 そこに溝部さんが近づいてきて言った。
「俺の噂か? 椎名も聞いたんだろ。仲間に入れよ」
「俺は別に、本橋や乾を追い出したいとは思っていません。どうしてもいやだったら俺がやめますから」
「おまえがやめる必要はないだろ」
「はい、だから、やめません」
「なんなんだよ、それは」
 おそらくは俺は、溝部さんにああ言ってしまった以上、やめるなんて絶対にいやだ、となったのだろう。夏のコンサートで聴いた本橋と乾の歌が素晴らしすぎて、俺では彼らに敵意を燃やすには役者がちがいすぎる、と思ったのもあった。
 もうひとつ、溝部さんを見ていて考えた。
 これはいわゆるひがみであろう。ひがみがすぎると人間はこうなる。嫉妬とひがみが高じてこうなった男は醜い。俺はこうはなりたくない。
 徳永は変わらず嫌いではあったが、彼は一匹狼気質だから、こっちが無視していればあっちも無視していてくれる。一度、喧嘩を売ろうとしたらはぐらかされてあしらわれたので、近寄らないのが一番だと決めた。
 合唱部にいたころには、そうやって下らないいざこざも経験したのだが、すぎてしまえば楽しい思い出になる。だから、俺と同じ大学に入った五つ年下の弟の雄二に勧めた。
「サークルにも入らずにちんたらしてたら、学生生活が有意義に送れないだろ。おまえも合唱部に入れよ」
 兄弟で合唱部に入部するケースも珍しくはなく、俺の単純な弟もそのケースの一員となった。
「クリスマスコンサートでフォレストシンガーズの歌を聴いたんだ。兄貴も知ってるよね、フォレストシンガーズって」
「本橋と乾と本庄と小笠原と三沢だっけな」
「小笠原さんは脱退したんだそうだよ。かわりに木村さんが入ったんだって」
「木村?」
「一年で中退したらしいけど、兄貴だったら知ってるんじゃないの?」
「なんとなくは覚えてるかな。声の高い背の低い奴?」
「そうだよ」
 本庄と小笠原はそれほどでもなかったのだが、木村と三沢は当時のキャプテンに目をかけられていた。合唱部には代々、キャプテンの眼力に止まって歌の才能を開花させていく人間がいるのだ。
 雄二の言っていたフォレストシンガーズは、そのころはアマチュアだったのだが、俺が大学を卒業した翌々年、メジャーデビューを果たした。雄二は二年生になっていて、我がことのように喜んでいた。
「そっかぁ。あいつらもついにな……デビューしたって売れるとも限らないだろ」
「そりゃあそうだろうけど、兄貴としては複雑気分?」
「いいや。俺も嬉しいよ」
「学生のときにはいろいろあったんじゃないの?」
「あったけど、忘れちまったよ」
 あんなのは俺の一方的な敵意で、おまえたちは俺なんかなんとも思っちゃいなかったよな、俺が過去を思い出して呟くと、雄二は言った。
「クリスマスコンサートにフォレストシンガーズがゲストで来てくれた話はしただろ。俺は挨拶に行ったんだ。本橋さんや乾さんは言ってたよ。椎名の弟か? 似てないな、ってさ」
「へええ。覚えてるんだ」
 覚えていてくれたとしても嬉しくもないけれど、忘れ去られるよりは、そんな奴、いたか? と言われるよりはいいだろう。
 俺を覚えていてくれたことに免じて、俺もおまえたちを応援してやるよ。徳永もプロになりたいと希望しているらしくて、まだその望みはかなっていないらしい。けれど、おまえもプロになれるといいな、徳永。おまえがデビューしたとしても、俺は応援はしないけどさ。


8・佐里

 奈良出身の私の両親はうちの大学の卒業生で、大学についてはさまざまに聞いていた。合唱部は有名だとも聞いていたから、最初から私は興味を持っていたのだった。
 同じ教育学部の山田美江子と友達になって、彼女とふたりでキャンパスを歩いていた春の日、あの日は各サークルが新入生勧誘活動をやっていた。私はモード系サークルに入ろうと決めていたのだが、迷っている美江子につきあって、あちこちのサークルのブースを覗いて歩いていた。
 合唱部情報を教えてあげたのも私だったのだが、それ以上に、合唱部にはかっこいい男がいる、ということで、美江子は入部を決めたのではなかったのか。私も合唱部の男子を数人見て、俄然興味が増した。
 とはいえ、私は合唱部ではなかったのだから、金子さんや皆実さんと腕をからめて、得した、と思っていたり、美江子がつきあいはじめた星さんを遠くから見て、あれか、ほんとにかっこいいな、美江子ったら、いいなぁ、と思っていただけだった。
 一年生のときには親しくしていた美江子とは、いつしか疎遠になった。子供のころにだって、友達と仲良くしなくなって離れていった経験はあるのだから、よくあることだ。
 大学を卒業した私は、小さな服飾メーカーに就職した。教師である両親は娘の私も教師にさせたくて、いやいやながら私も教育学部に入学し、にも関わらず教師にはなりたくなくて、モード関係の仕事に就きたいと望んでいたのだから、希望はかなえられたわけだ。
 そのせいで両親が怒っていたので、奈良には帰らずに東京で暮らしていた。それから一年半ほどたったころか。職場のラジオから聞き覚えのある声が流れてきた。
「はい。ついこの間デビューしました。デビュー曲は「あなたがここにいるだけで」です」
「本橋さんは話していてもいい声ですけど、歌ってもいい声ですよね。ハーモニーも最高です」
「ありがとうございます」
 本橋? 本橋って……えーと……誰だっけ? と考えていると、DJが私が卒業した大学の名前を口にした。
「ですよね。フォレストシンガーズのみなさんは、○○大学の卒業生でいらっしゃるんでしたよね」
「はい。乾と僕が同い年で、本庄が一年下、木村と三沢は二年下です。木村はいささかちがうんですが、同じ大学の同じ合唱部の出身です」
 本庄、木村、三沢の名前は知らないが、乾だったらかすかに覚えている。本橋、乾とは、美江子と仲のよかった合唱部の男の子たちだった。本橋くんの友達と私は……えーと、彼の名前は? ちょっとだけつきあっていたけれど、名前は忘れた。
 そうなんだ、彼らはフォレストシンガーズという名前でデビューしたんだ。
 仕事が終わったあとで職場のパソコンでインターネット検索をしたら、フォレストシンガーズ公式サイトがあった。その中には耳寄り情報もあった。
「木村章です。僕は一年で合唱部も大学も中退していまして、他の四人とは立場がちがうんです。そのせいでちょっとひがんでますが」
 公式サイトにはメンバー各自がコメントを寄せている。私の目が釘づけになったのは、木村章が書いているこの部分だった。
「マネージャーの山田美江子さんも同じ大学の同じ合唱部だったんですよ。ま、なにはともあれ、フォレストシンガーズをよろしくお願いします」
 そうだったんだ。美江子はマネージャーになったんだね。一年生のときの美江子は、教育学部に入ったんだから教師になろうか、私は短気だから教師なんて向かないか、と言っていたけれど、こういう道もあったんだ。
 マネージャーというものは、担当しているミュージシャンが売れたら恩恵があるのだろうか。私はそう考えてしまったのだが、美江子にとってはフォレストシンガーズは担当ミュージシャンである以上に、学生時代からの友達、仲間なのだから。
 たとえば収入アップなどにはつながらないとしても、フォレストシンガーズが売れると美江子は心の底から大喜びするだろう。美江子にとってのフォレストシンガーズは、他人であって他人ではない存在。
 美江子の気性からしても、フォレストシンガーズのためにすべての力を注いでがんばるのだろう。美江子、がんばれよ。
 ほんの短い間の友達だったけど、美江子は私の心にも残っている。あの気の強い、意地っ張り気性は好きだった。星さんに捨てられてしょぼくれていた美江子に、よけいなことを言ったのも思い出した。
「男と本気で恋をしたいなんて言ってるから、捨てられて泣かなくちゃいけなくなったりするんだよ。美江子はその気になったらもてるんだから、遊びで男とつきあったら?」
「遊びはいや」
 きっぱりと言っていた美江子は、恋はしているのだろうか。あの意地っ張り気性は、シンガーズのマネージャーとしてなおさら磨かれるだろう。
「私もフォレストシンガーズのファンになってあげるからね。美江子、お互い、恋にも仕事にもがんばろうね」
 そして、いつかまた会えるといいね。昔のようにお喋りできるといいね。
 

9・誠

 三浪のあげくに大学生になったのだから、当時の四年生の中では俺がもっとも年上だった。下級生たちと較べると、まるきりオヤジ。そう言われるのは慣れていたが、そのせいで俺が男子合唱部のキャプテンに選ばれたのだろう。
 二十四歳の大学四年生だった俺がキャプテンとなった年に、男子部にはきらめくばかりの才能の持ち主が三名も入部してきた。
 その年の副キャプテンの渡嘉敷、同じ学年の星、それから俺。三人でグループを結成して歌っていた俺たちも、俺たちより一年下の金子と皆実も、歌の才能はある。星と金子と皆実は見た目までがいい。渡嘉敷と俺は外見が地味なので数に入れないとすると、星と金子と皆実がそれまでの男子部のスター的存在だった。
 そこにあらわれた三人の一年生。徳永渉、本橋真次郎、乾隆也。外見は徳永以外はさほどでもないのだが、本橋も乾も背が高くて醜男ではない。三人ともに、磨けばきらきらと輝くスターの卵だと俺には思えた。
「俺は本橋と乾を育てたいんだ。渡嘉敷、徳永を頼むよ」
「徳永って扱いにくそうだけど、金子や皆実にも頼んで、なんとか手なづけてみるとするか。けどさ、高倉さん、特定の部員を特別扱いすると、他の奴らがひねくれるぜ」
「それもありそうだけど、俺は本橋と乾を特別扱いしたいんだよ」
「キャプテンはやりたいようにやってくれ。フォローはサブの俺の役割だもんな」
 頼りになるサブのおかげで、俺は本橋と乾に全力を上げられた。渡嘉敷の危惧は的中して、当時の二年生にやたらに本橋や乾を敵視している奴がいたのだが、俺はそいつには敢えて黙殺を貫いた。三年生の金子と皆実という、頼りになる存在もいたからこそできたのだ。
 キャプテンとしての俺は本橋と乾ばかり見ていて、不適格な人間だったのかもしれないが、強力なサブが何人もいてくれた。
 黙殺していても情報は耳に入ってくる。本橋と乾を敵視していやがらせばかりしていたのは、二年生の溝部。彼は徳永を筆頭とした男子部のその他の一年生や二年生を仲間に引き入れたがって、なにかと暗躍していたらしい。
 が、徳永は溝部の謀略には聞く耳を持とうとしなかった。中には溝部に雷同していた奴もいたのだが、半数以上は乗せられずにいてくれた。
 溝部に雷同していた奴らは、星や金子や皆実が、時には鉄拳を用いてでも退けてくれた。俺は鉄拳制裁は嫌いだが、やむを得ない場合もある。俺は暴力は嫌いだと言っていられたのも、かわりにやってくれた協力者たちのおかげだったのだ。
 一年間だけではあったが、俺は十分に本橋と乾を鍛えられたと自負している。卒業が近くなると、男子部では次期キャプテンだと目星をつけた後輩に、後の申し送りをするという伝統がある。俺は金子に言った。
「おまえだったらなんにも言わなくてもわかってるだろうけど、徳永を頼むよ。本橋と乾はもう大丈夫だ。皆実とふたりで、男子部を背負っていってくれ」
「重いでしょうね」
「重いからこそ燃えられるんだろ」
「俺のこのか細い肩が……いえ、承知しました。高倉さんの今後の人生にも、栄光と幸が降り注ぎますよう、お祈りしています」
「おまえの言い方ってのはさ……いや、ありがとう」
 この大仰さは聞いているほうが照れくさいのだが、金子は彼なりのやり方で立派に男子部を運営していってくれるだろう。
 卒業した俺は、レコードプロデューサーとしての修行の日々に突入していった。俺とてシンガーになりたいと思っていたこともあるのだが、プロデュース方面のほうにこそ発揮できる力があるのではないかと、考え直させてくれたのも本橋と乾のおかげだ。
 発揮する力はまだまったくないに等しくて、修行のみの毎日が続く。そんな中にも合唱部の噂は聞こえてきていた。
「本橋と乾が卒業間際になって、ヴォーカルグループを結成したんですよ。フォレストシンガーズって名前だそうでして、本庄と小笠原と三沢がメンバーです」
 教えてくれたのは金子だった。
「徳永も将来は歌手になる心積もりでいるようです。俺も後輩たちに負けないようにしっかりやりますよ」
「俺はまだまだ新米で、おまえたちのためにはなんにもしてやれなくて、ごめんな」
「できるものでしたら、高倉さんのお力にすがりたいんですけどね、そんな力はまだない、でしょう? 高倉さんもしっかりして下さいよ」
「うん、しっかりやるよ」
 金子とは彼の卒業後にも交流があって、たびたび情報をもたらせてくれた。
「小笠原が脱退したんだそうです。俺は事情は知りませんけど、デビューできないから見切りをつけたか。あいつも気が短いですからね」
「俺は小笠原って知らないんだけど、そっか」
「代理としては、木村って奴が入ったんだそうです。三沢と同い年ですから、俺も知らないんですけど、一年で中退はしたものの、高倉さんの後輩でもあるんですね」
 そんな話も、フォレストシンガーズデビューの話も、金子が聞かせてくれた。
「後輩たちに先を越されました。でも、俺も負けませんから。高倉さんが俺のデビューに尽力して下さるほどになったら、連絡して下さいね。お待ちしています」
「そっちは気長に待っててくれ」
 現時点では、俺は新米プロデューサーだ。これといった仕事もしていない、下積みにすぎない。
 けれど、いつかはフォレストシンガーズにも、金子将一にも徳永渉にも、俺がプロデュースしたアルバムを出させたい。そのアルバムがヒットしたら、こう言いたい。
「フォレストシンガーズのリーダーの本橋と、乾ってのは学生時代に俺が見出したんだよ。自慢してもいいだろ」
 彼女もいないのに、そう自慢したい相手は妻がいい、と思う。妻に向かって学生時代の話をして、フォレストシンガーズの話もしたい。妻は笑って聞いてくれるだろうか。そのころの俺は、大物プロデューサーになっているだろうか。
 いや、俺が大物になる日では遅すぎる。フォレストシンガーズも金子も徳永も、俺よりも早く大物シンガーになれよ。
 収穫の年であったと、俺が男子部のキャプテンだったあの年が、おまえたちの第一歩の年だったのだと、フォレストシンガーズの彼らも俺もそう思える日が来るまで、励み続けよう。金子も徳永ももちろん、みんなでそう言って笑い合える日まで。


10・アリス

「先生はフォレストシンガーズって知ってます?」
 ある日、教室で学部生の女の子が話しかけてきた。
「フォレストシンガーズ? 知らないけど」
「先生も合唱部だったんでしょ? 先生はいくつ?」
「三十になりました。三十になっても先生と呼んでいただくような者にはなってないのよ」
 学生は先生と呼んでくれるが、私は単なる文学部教授の助手だ。彼女はそんなことは気にもしていない様子で言った。
「すると、先生よりも本橋さんと乾さんは六つ年下ですね。乾さんは文学部だったって聞いたから、先生だったら知ってるのかなって思ったんだけど、知らないの?」
「フォレストシンガーズって合唱部出身のシンガーズなの? 男子部?」
「フォレストシンガーズは男性のグループですから、男子部ですよね」
「私は合唱部にいたけど、卒業してから十年近くもたってるんだし、今では合唱部とはなんの関係もなくなってるんだから、知らないよ。フォレストシンガーズがどうかしたの?」
「知らないんだったらいいんですけどね」
 つまらなそうに言って、彼女は教室から出ていってしまった。
 十年近くも前に、私は女子合唱部のキャプテンだった。大学を卒業して大学院に進み、院卒業後にも研究室に残ってはいるものの、合唱部とは縁が切れてしまっている。それでも、合唱部出身シンガーズとは気になるので、マンションに帰ってから古い名簿を繰ってみた。
 合唱部にいたころにはみんなで飲みにいったり、遊びにいったりもしたけれど、十年近くもたつと全員と連絡も取らなくなってしまっている。名簿の住所にいるのかどうかもわからないのだが、男子部ならば男子部キャプテンだろう。いなくてもいいつもりで電話をしてみた。
「はい、斎藤です」
「あれぇ、いたの? 斎藤くん、まだそのアパートに住んでるの?」
「なんだよ、てめえ。誰だ」
「ああ、ごめん。挨拶もなしで失礼しました。覚えててくれてるかな。里中アリスだよ」
「里中?」
 しばしの間が空いてから、斎藤くんは言った。
「あの里中か。忘れるわけがねえだろ。おまえが俺に電話してくるって、どうかしたのか?」
「忘れてたんじゃないの? 私も斎藤くんは忘れてたんだけど、フォレストシンガーズって男子部出身のシンガーズがいるって、学部生の女の子から聞いたんだ。斎藤くんだったら知ってる?」
「知ってるよ。俺は個人的には誰も知らないけど、話は聞いてる。気になるんだったら話してやろうか。飲みにいかないか」
「うん、いいよ」
 彼と私の住まいの中間地点あたりで落ち合って、居酒屋に入った。
「そんなには変わってないね。声も低くて渋いまんまで、老けてもいなかったから、声を聞いた途端に学生気分に戻っちゃって、挨拶もしなくてごめん」
「いいんだけどさ、顔は老けたか?」
「顔も若いよ。三十ってまだ若いんだよね」
「おまえも若くて綺麗だよ。ああ、感激だ」
「感激なの?」
「知らなかったんだよな。俺はおまえにさ……」
 卒業以来一度も会ってもいなかったのに、会った途端にあのころの男子部と女子部のキャプテンにも逆戻りしてしまう。おまえ呼ばわりされても不快でもなかった。
「おまえに、なに?」
「いいんだけどさ、高倉だったら覚えてるよな」
「私たちと同い年で、私たちが四年生のときに入部してきた、三浪のツワモノ」
「そう、その高倉が、今ではレコードプロデューサーになってるんだ。この間、街でばったり会ったときに高倉から聞いたんだ」
 斎藤くんと私の近況報告にそれながらも、フォレストシンガーズについて聞かせてもらった。
「へええ、高倉くんが見出したんだね。本橋くんと乾くん。それに、さらに年下の本庄くんと木村くんと三沢くんか。私も彼らのCDを聴いてみたいな」
「ついこの間デビューしたばかりだから、一枚しかCDは出してないんだ。おまえが聴きたがるかと思って、持ってきたよ」
「お、気が利くね」
 CDの五人の写真を見ていると、記憶にある顔がいるような気がしてきた。乾さんは文学部だったと、さきほども学生が言っていた。
「乾くんって彼? 私、彼だったら知ってるみたいな……文学部なんだよね」
「学部までは知らないけど、おまえも文学部なんだし、会ってるんじゃないのか」
「六つ年下……あっ、思い出したっ!!」
 私が院生で、文学部教授のお手伝いをしていたころに、教室で合唱部の話しをした男の子がいた。彼が乾隆也くんだったのだ。
「そうだぁ。思い出してすっきりしたわ。そうかそうか」
「ひとりですっきりすんなよ。乾となにかあったのか?」
「乾くんと話をして、そのときに乾くんに私が言ったんだよ。星くんって好みだわぁ、乾くんは星くんの後輩でしょ? 紹介してよって」
「星か」
 三浪の高倉くんと学年は同じで、年齢は三つ下の星くんは、私が四年生の年の合唱部新入生だった。斎藤くんのこの苦い顔からしても、星くんは多少問題児であったから、よく覚えているのだろう。
 背が高くて顔立ちは最高で、私の好みにぴったりこんの星くんは、かなり荒っぽくて生意気だと、男子部の先輩たちには言われていた。そのせいで斎藤くんあたりも星くんを殴りつけたりしていたが、当時の男子部では殴るの怒鳴るのは頻繁だった。
 男子部と女子部はもちろん交流があったので、私も星くんはよく覚えている。覚えている理由のひとつには、乾くんに星くんとの仲を取り持ってほしいと言ったからもある。
 あのころは一年生だった乾くんは、気が弱そうにも見えた。院生の私の頼みを四年生の星くんに言い出すとは、と弱り果てていたようで、気の毒したな、とも思ったのだが、私としても言ってみただけなのだから、駄目なら駄目でもかまわなかったのだ。
「すみません、里中さん、星さんには好きな女性がいるんだそうですよ」
 だから、乾くんがそう言ってくれたときにはむしろ驚いた。
「あ、そうなんだ。残念。だけど、ありがとうね、乾くん」
「いえ、お役に立てませんで」
 そのようないきさつを思い出して話すと、斎藤くんはため息まじりに言った。
「おまえまでが星にか。でも、ふられたんだな」
「ふられたよ」
「で、今は男はいるのか?」
「いない。斎藤くんは彼女は?」
「いないんだよな。前にはいたんだけどさ」
「私にも前にはいたよ」
「そりゃそうだろ。三十にもなって、ずーっと彼氏や彼女がいないなんて、そんなはずはないんだから。ずっといないって言われたほうが疑うよ」
 飲んだり食べたりもしながら、フォレストシンガーズの話しをした。十年近くも前に仲間だった、合唱部のメンバーたちの話しもした。
「今夜は楽しかった。CDありがとうね」
「返してくれるときにはまた会えるだろ」
 割り勘で支払って居酒屋から出ると、斎藤くんが私に身を寄せてきた。
「里中、俺さ……さっき言いかけたこと、言っていいか」
「さっきってなんだっけ」
「俺はおまえを、学生のころから好きだったんだよ。ぶっちゃけた話、ずーっとおまえを想っていたんでもないよ。彼女だっていたよ。だけど、思いがけなくも電話してきてくれて、こうして会えて、気持ちが再び燃えたってのか。おまえに彼氏がいないってのが本当だったとしたら、つきあってくれないか」
「……CDを返すときに返事するから」
「うん、待ってるよ」
「斎藤くんにも彼女はいないんだよね? 信じていいんだよね」
「嘘は言わないよ。おまえはいまだに星に、なんてのはないんだろ?」
「斎藤くんのほうを、星くんよりも先に思い出したんだよ」
「うん、信じるよ」
 思いがけなくも思いがけなく、告白されてしまった。
 またね、と言い合って駅への道を歩いていく。星くんの顔は綺麗だったとしか覚えていないけれど、斎藤くんの顔ははっきりと胸に刻まれていて、今夜、胸のうちの面影が一段強まった。星くんほどに綺麗な顔はしていないけれど、斎藤くんも背が高くて声が低くて、私の趣味には合っている。
 学生時代から斎藤くんは、星くんに負けていないほどに荒っぽかったのだが、男子部にはそんな奴が大勢いて、呆れながらも、私も実は……だったのだろうか。四年間は合唱部の友達としてつきあっていたのだから、私は彼の性格も知っている。そんなに変わっていないとも、今夜、知った。
 男子部の誰かと部室の外で取っ組み合いをしていた斎藤くんも覚えている。取っ組み合いが終わってから近寄って、ハンカチを渡して、私は尋ねた。
「喧嘩してたんでしょ。どうして?」
「喧嘩じゃねえよ。ちょっとした運動だ」
「あんたたちってまったく……信じられない」
 けれど、私はそんな男はけっこう好き。実は私も斎藤くんは……だったのかもしれない。
 学部生の女の子が話してくれて、フォレストシンガーズの話が発端になって、この次に会うときにはきっと、私は斎藤くんに言うだろう。
「うん、つきあおうよ。私も斎藤くんが好き」
 こうなるきっかけはフォレストシンガーズだったのだから、私もあなたたちのファンになる。斎藤くんの部屋か私の部屋でCDを聴いて、ムードを高めてキスするには、「あなたがここにいるだけで」はぴったりのバラードだろう。


11・草太

 昔々にならば私も、合唱部の同窓会に出席した。今夜は同窓会のゲストという形で、講演をしてほしいと頼まれたのだから、身が引き締まる。若い男女が集っている会場の壇上に上り、マイクに向かった。
「作曲家の真鍋草太です。本日はお招きにあずかりまして、まことに光栄に感じております。講演をさせていただくほどの話術は持ち合わせておりませんので、雑談になると思います。みなさんとは年代こそちがえ、同じ合唱部で歌っていた仲ですよね。我が母校の合唱部からは、シンガーになられた方がいらっしゃるでしょう。私の知っている方もいます。知っていると申しましても、ほんの些細な触れ合いだったのですが」
 三年ほど前にデビューしたフォレストシンガーズのうちの数名と、その一年後にデビューした金子将一とは、私は学校で触れ合った。合唱部の後輩たちもその名は知っているので、静かに聴いてくれていた。
「彼が大学に入学した年に、私は入学式に参列させていただいたのですよ。私が作曲した曲を式で使ってもらいまして、外に出て食事をしようとして「ペニーレイン」という店に入りました。店内は込み合っておりましたので、ひとりの男子学生さんと合席させてもらったのです。本庄繁之さん、そうですよ。フォレストシンガーズのベースヴォーカリストの本庄さんです」
 瞬間、会場がざわめいた。
「朴訥でいい青年でした。フォレストシンガーズがデビューしたと知り、私の大学の後輩だとも知り、メンバーの名前も知り、本庄さんがいらしたと知っていささか驚きましたが、さらに驚いたのは、マネージャーさんのお名前を知ったときです。彼女も私の後輩で、あなたたちから見ると先輩に当たるのですよね。彼女の名前はごぞんじですか。どなたか、発言して下さい」
 挙手している小柄な青年を促すと、彼は低い声で言った。
「山田美江子さんです」
「さようです。彼女ともね……いや、私がセクハラを……いやいや」
「え? セクハラ?」
「そうなんですよ。ひとりで喋るよりも、あなたと話すほうがやりやすいので、対談してもらえませんか。お名前は?」
「僕ですか。酒巻です」
「合唱部出身ですよね」
「はい。えーと、僕は一応、DJですので……」
「ああ、それはそれは、ますますもってやりやすい。酒巻さん、お願いしますよ」
「僕でよろしければ」
 ためらいがちに了承してくれた酒巻さんは、フォレストシンガーズとも金子さんとも山田さんとも親しいのだと話してくれた。
「あの、それで、山田さんにセクハラって?」
「こうしたんです。酒巻さん、ここに来てもらえませんか」
「あのあの、僕にセクハラするんですか」
 会場の人々は笑っている。立ち上がって寄ってきた酒巻さんの頬を、私は指でちょんとつついた。
「一年生だった山田さんが校内の案内をしてくれて、あまりに可愛くて、ついついつついてしまったんですよ。山田さんは怒って行ってしまい、私は詫びようと彼女を追っていった。部室の近くに行くと男子学生がいて、彼に叱られたんです」
「その男子学生が?」
「金子さんですよ」
「ああ、納得です」
「納得ですか」
 数年も前なので、細部は曖昧になってしまっているが、大筋はくっきりと覚えている。あのとき、私を叱った若々しい青年もプロのシンガーになった。
「先だってフォレストシンガーズのみなさんとお会いしたんですよ。私はポピュラー系の作曲家ではありませんので、そういった方面の歌手の方とはお会いする機会が少ないのですが、ラジオ局で顔を合わせました。本庄さんは私を覚えていてくれました。山田さんはいらっしゃらなかったのですが、酒巻さん、山田さんに会われましたら、よろしくお伝え下さいね」
「はい」
「そのときにフォレストシンガーズの方々から、彼らの学生時代のお話を伺いました。木村さんと三沢さんは一年生の年に、当時のキャプテン渡辺さんの抜擢により、私が作曲した歌曲の組曲の主役をつとめたと……」
「森の静寂と喧騒、ですね」
「そうです。その曲は知っていて下さってますか」
 知っている、という意味なのだろう。拍手が起きた。
 その際に私が今夜の話をすると、仕事が終われば会場に行って、フォレストシンガーズバージョンで「森の静寂と喧騒」を歌ってくれると、約束してくれた。サプライズにしようと今夜の幹事さんは言っていたので、発表はまだしてはいけない。
 酒巻さんが巧みに相手役をしてくれて、私自身の遠い遠い日の学生時代の話しなどもしていると、小鳥のさえずりが聞こえてきた。
「三沢さんの声ですよね。あ、木村さんも……」
 早朝の森の静寂を破る、小鳥たちの目覚めの声だ。澄み渡った高い声が、美しく響いていた。
 会場にいる私の後輩たちの顔も輝く。私も感動するしかない。テナーの実力者の主役がいないと歌えない「森の静寂と喧騒」は、合唱部でもめったにステージにはかからない歌だ。作曲者の私には歌えない。耳にするのもきわめて稀だった。
「ああ、涙が出ますよ」
 酒巻さんが言い、私はうなずいた。フォレストシンガーズの面々は姿を見せず、声だけが届いてくる。
 太陽が高く昇った森に、人間の男女の歌が聞こえてくる。私の書いた曲は多少のアレンジがなされていて、本橋さんが男性の歌を、三沢さんが女性の歌を歌っている。このまんまで録音してCDにしたかった。
「惜しかったな。録音機材を……」
 思わず呟いてしまったのだが、あとの祭りだろう。私も口を閉じて歌を聴いた。
 森が夕刻になると、人間の男性がセレナーデを歌う。乾さんの声が愛の歌を紡ぐ。三沢さんと木村さんは、森のねぐらに帰ってくる鳥たちの歌を歌う。本橋さんと本庄さんの声が、低くハーモニーをつけている。
 私が書いた歌であるにも関わらず、感動して涙ぐんでしまう。本庄さんの低い低い声がふくろうの歌を歌いはじめ、私は身を震わせた。
 フォレストシンガーズはまだ売れてはいない。成功したシンガーズだとは呼びがたい。ポピュラー系のシンガーが売れるためには、ありとあらゆる要素に運やツキまでが加わらないといけないのだろう。畑違いの私は彼らに手を貸してはあげられない。
 けれど、彼らにはこれだけの歌唱力や表現力があるのだ。音感、リズム感、声域、声量、声質、発音、基礎力も応用力も、シンガーとしての実力と呼べるありとあらゆるものが、彼らには備わっていると私には思える。
 あとは運やツキか。そればっかりは私には……と思うとうなだれたくなるのだが、私は私として彼らに声援を送り続けよう。彼らの歌の前では、どんな言葉も空疎だ。拍手だけでいい。素晴らしかった、それ以外は言いようがない。
 後輩たちの鳴り止まぬ拍手の中に、フォレストシンガーズが登場した。この中では唯一、彼らの先輩である私も、若者たちと同様に、手が痛くなるほどの拍手を送っていた。

未完
第四部に続く








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~ Comment ~

NoTitle

あかねさん、今日はここまで読ませて頂きました。
真鍋さん最後に出てきましたね。

それから・・・今回は金子さんや金子さんの妹、それからちょっと性格に難り?の早苗さん・・いろんな人とのいろんな絡みが少しずつ私の中でもつながってきました。
それにしても、ここまで書けるってやっぱり凄いなあ。

私のサイトは読みやすくするために、長さはある程度決めています。
あかねさんの小説はこんなに世界観があって、それぞれの人物のドラマもあって素晴らしいから・・・・この先、もっともっと大勢の人に読んでもらえるといいなあと思います☆本当に・・・です。

毎度ありがとうございます

クロニクルの幕間に登場する、フォレストシンガーズと関わりのある人々は、全員が他の短編に顔を出しますので、よろしかったらそのうちには他のものも読んでやって下さいね。

他の短編よりもクロニクルのほうがあとから書きましたので、説明不足の点もあるかもしれません。
疑問点や矛盾などありましたら、どしどしご指摘下さいませ。

ブログって読みやすいのも大切な要素ですよねぇ。
はじめたばかりのころにはちらほら読んでくれた人もいたみたいですけど、なんたってひとつひとつが長いし、飽きられてしまったのもあるのでしょう。

自分の楽しみのためにアップしていたらいいか、と開き直っていますけど、美月さんが読んで下さってご感想を下さるのは本当に嬉しいです。

もしもお時間があれば、リレー小説やりません?
リレー小説ってものも大好きなのです。

NoTitle

ありがとうございます!
私はパソコンにはちょっと疎くて・・・
リレー小説っていうのもほとんど耳にしたことがありません。
どのようにするのかまた教えてくださいね。

少し時間がかかっても大丈夫なら多分出来ると思いますv-352

リレー小説

昔、同人誌仲間とリレー小説をやっていました。みんながワープロで書いていた時代で、原稿をまとめて本にもしました。ああ、なつかしい。

パソコンで書くようになってからも、ネットの友達とリレー小説をやりました。

「茜いろの森」の「ニコっとタウン」カテゴリの中に、「リレー小説・手紙」というのがあります。もともと小説を書くひともいれば、ほとんど書いたことはないというひともいました。

私が提案して冒頭を書き、ラストも私が書いてまとめたものです。参考にはなると思いますので、読んでみて下さいね。

http://quianquian.cocolog-nifty.com/blog/

こちらにあります「カレーライス」っていう短編も、mixiの小説コミュの方、おふたりに協力してもらって書いたリレー小説です。

お時間があれば読んでみて下さいね。

美月さんと私は作風や考え方がだいぶちがうと思いますから、リレー小説を書いたら面白いだろうなぁ。
もしもやってみようと思われましたら、またゆっくり相談しましょうね。

楽しみにしています。

カレーライス

http://quianquian.cocolog-nifty.com/blog/2010/09/mixi-91c5.html

「カレーライス」はここです。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

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