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小説200(The Chronicle)第二部

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フォレストシンガーズストーリィ200

「The Chronicle」

第二部(学生時代)


1・美江子

 頬を指で触れられたくらいで怒るとは、私がよくないのだろうか。中年のおじさんなんてものは、作曲家の先生だとしてもああいったえっちなふるまいをするもので。しかし、えっちってほどでもなかったのだろうか。
「合唱部の部室は合唱部の学生が案内すべきですね。ああ、きみ、頼むよ」
 教授なのか事務的な仕事の方なのか、私にはよくはわからない年配の男性に頼まれて、私が真鍋草太先生の案内をすることになった。
 その名前は知っていたけれど、会うのはもちろんはじめての真鍋先生と連れ立って歩いていて、私は緊張していた。先生の質問に答えはしていたけれど、一年生の私では、知らないことも多すぎる。もしかして、先生は私の緊張をほぐしてくれるつもりで、頬をちょんとつついたのかもしれない。
 なのに私はむかっとして、先生をキャンパスに残して走ってきた。走り去って部室の前まで来てから、軽率なふるまいだっただろうかと反省していると、金子さんが男子部室から出てきた。
 十二月になると合唱部はあまり活動しなくなる。私は特に用事もなく女子部室にいて、他には部員がいなかったからこそ、真鍋先生の案内を頼まれた。女の子のほうが案内役にはふさわしいと思われたのかもしれないが、金子さんのほうがずっといいのに。
「美江子ちゃん、なんだか怒ってる?」
 山田さんと呼んだり美江子ちゃんと呼んだりする三年生の金子さんは、私を見つめて尋ねた。
「怒った顔をしてますか」
「してるように見えるよ」
「……怒るほどのこともなかったのかな」
「なにがあったの?」
 話すべきなのだろうか、と悩んでいると、真鍋先生がやってきた。
「作曲家の真鍋草太先生?」
 小声で金子さんが尋ね、私はうなずき、金子さんは先生に腰を折って深いお辞儀をした。
「合唱部の金子将一と申します。真鍋先生にお会いできまして光栄です」
「ああ。いや、どうも。金子くんはちょっと待っててね。山田さん、さきほどはすみませんでした」
「えーと……あの……私も……」
 どうかしたの? と訊きたげな顔をしている金子さんに、真鍋先生が言った。
「いや、からかうつもりはなかったんだけど、結果的にはいたずらめいたことをしてしまったんですよ。セクハラと言っても過言ではないのかな」
「失礼ですが、真鍋先生が彼女に、ですか」
「はい」
「なにをなさったんですか?」
「こう」
 真鍋先生は金子さんの頬をもちょんとつつき、困った顔になった金子さんは言った。
「それはいけませんね。先生は彼女とは初対面でしょう? 初対面の女性にそのような行為をなさるのは、セクハラと言われても仕方がありません」
「はい、ですから、お詫びにきました」
「金子さん……真鍋先生も……セクハラってほどでは……」
「いいえ。セクハラです」
 金子さんは言い、真鍋先生も言った。
「そうですね。あなたがあまりに可愛いから……っていうのも、セクハラ発言ですか、金子くん?」
「そうなるのかもしれませんね」
「金子さん……」
 この方に向かって、金子さんの発言も無礼すぎる、と私は思っていたのだが、困惑してふたりの顔を見比べているしかなかった。真鍋先生は言った。
「山田さんも金子くんも、先生だなんて呼ばないで下さいね。僕はきみたちの先輩ではあるが、先生ではないでしょう。教授じゃないんだから。それにしても、今どきは軽い気持ちでやったことをセクハラだと……いやいやいや、僕が悪いんです。山田さん、すみませんでした」
「私のほうこそ、すみませんでしたっ!!」
 お互いに頭を下げ合ってから、顔を上げてふたりして吹き出した。
「男子学生にだったらセクハラとは言われないだろうから、後は金子くんが案内してくれませんか」
「僕はもちろん大歓迎ですが、山田さん、いいのかな?」
「はい、よろしくお願いします」
「本当にごめんなさい、山田さん」
 そんなにお詫びを言ってもらうと、私が恐縮してしまう。いえ、そんな……と呟くしかない私を残して、真鍋さんと金子さんは立ち去った。
「はー、やっぱ私ってまだ子供なんだな」
 大学生になって彼氏もできて、ちょっとは大人になったつもりでいたけど、彼にも言われる。おまえはまだまだガキだよ、と。
 彼の言うガキとはちがった意味で、私はまだ子供だと痛感する出来事だった。でも、真鍋さんもよくないんだよね、金子さんもああ言っていたもんね。それにしても金子さんったら、あの方に向かって堂々と……やっぱり金子さんって大物だわ。
 などなどと考えながら、私も歩き出した。
 四年生の星さん、私の彼。星さんは学校には来ていないだろう。就職も決まっていて、年が明ければ研修が開始するという。勉強はできる星さんだから、単位もしっかり取っていて、講義を受ける必要もほとんどないはず。
 今年のクリスマスは星さんとはすごせないのだろうか。会いたくてたまらないけど、電話をしたら邪魔になりそうで、デートしたい、とは言い出せない。
 四月に大学生になって、五月に星さんに告白されて、十二月になって、今年はとってもとってもいろんなことがあった。ひとり暮らしにも大学生活にも合唱部にも慣れて、恋もしていて充実しているはずなのに、ひとりで歩いていると寂しい。
 もうじき卒業してしまう星さんとは、別れなくてはいけないのだろうか。そんな予感もするだけに、こんなに寂しいのだろう。
 真鍋さんは金子さんにおまかせしておけば、私なんかよりもずっと上手に案内を務めてくれるはず。私は星さんのアパートに……ふっと思いつくと、行かずにはいられなかった。幾度か連れてきてもらった星さんのアパートに、彼はいるのだろうか。
 いるのだとしても、就職先での研修の資料でも読んでいて、行くと迷惑がられるのではないだろうか。そうも思ったのだが、いなかったら帰ればいいのだし、顔を見るだけでも、と考え直して行ってみた。
「美江子です。いる?」
 アパートのドアに呼びかけると、返事があってドアが開いた。
「約束してたか?」
「してたよ。遊びにこいよって言ったじゃないの」
「そうだったかな。忘れてたよ」
 約束なんかしていないけれど、嘘を言った。約束したのかしていないのか、星さんはそれすらも覚えていない。心が離れていっている証拠なのか。
「入れよ」
「いいの?」
「約束した記憶はないんだけど、寒い中を訪ねてきてくれたんだろ。そんなおまえを追い返すような、冷たい奴だと思ってるのか。入れ」
「……うん」
 炬燵はあるが、暖房は入っていない。それでも、星さんの声のあたたかさに包まれると幸せ気分になれた。
「ごはんは食べた? なにをしてたの? 勉強?」
「うん。メシも食わずに卒論をさ……」
「そうだね。四年生は卒論も書かなくちゃいけないんだ。星さんの専門分野なんて、話してもらっても私はわからないからいいんだよ。ごはん、作ってあげようか」
「優しいんだな、美江子は。でも、メシの材料なんかなんにもないぜ」
「ふたりで買い物に行く時間はないの?」
「時間が惜しい。買い物なんかに行くくらいだったら、おまえを抱くほうがいいな」
 嬉しいのか腹立たしいのかわからなくなって、ふくれてみせると星さんがほっぺたをつつく。星さんにだったら頬をつつかれたって不快感なんてまったくないのに、これだからセクハラってやつには男性は悩まされるのかと思うと、笑えてきた。
「どうした?」
「さっきね、私のほっぺをつついた男がいたの」
「誰?」
「えっちなおじさん」
「えっちなおじさんって?」
「言ってあげない」
「言えよ。おまえに変な真似をする奴は……」
「それだけだからね。ごめんって言ってくれたから、許してあげたの」
「うん、まあ、それだけだったらいいけどさ」
 今度は私の頬を大きな手で撫でて、星さんも言った。
「ごめんな、美江子」
「……うん、帰るね」
「ごめん」
 いやだ、帰らない、一緒に買い物にいって、ごはんは私が作ってあげるから、一緒に食べよう。言ったとしたら星さんが怒って、喧嘩になったとしてもいいから言いたい。
 今夜はここにいたい。今夜だけでいいから、星さんに抱かれて眠りたい。言いたいのに言えない。星さんは私にかまっている時間も、喧嘩をする時間も惜しいのだろうから。忙しい彼氏に無理を言って駄々をこねるほどに、私は子供ではないのだから。
「じゃあね」
「また電話するよ」
 泣きたいのも我慢して、星さんのアパートから出ていった。本橋くんや乾くんと三人で遊びにいきたいな、と思ったのだが、男が相手だと八つ当たりしてしまう恐れがある。女友達にしよう。誰にしようかな、とアドレスブックを探して、喜多晴海に行き当たった。
「美江子ちゃん?」
 自宅通学の晴海に公衆電話からかけると、出てくれた。
「今夜は暇すぎるから、遊びにいこうと思ってたんだ。二時間ほど待っててくれるんだったら出ていくよ」
 彼女の自宅は八王子だから、時間がかかるのだろう。私は言った。
「二時間たっても夜にもならないよね。ショッピングでもして待ってるから、出てきて」
「いいんだけどさ、美江子はデート……じゃないから私を誘うんだよね。うん、行く」
 待ち合わせの場所と時間を決めて電話を切り、再び歩き出す。どうして晴海を選んだのかといえば、湿っぽい話はしたくなかったからだ。男の子に近い気性の晴海は、いつだってさっぱりしている。私も本橋くんには、おまえは半分男、と言われるけれど、晴海よりは湿っぽい。
 私の女友達はたいていはさっぱりしているのだが、晴海が中でも一番すかっと爽やかな性質に思えて、だからこそ、こんな気分の日は晴海がいい。
 なんだか身勝手な言い分だよね。晴海、ごめんね、なんて心で言って、彼女との待ち合わせ場所に向かった。お昼をすぎた時刻の街は、クリスマスが近くて賑やかだ。巨大なツリーが広場に立っている。
 お金はないからウィンドゥショッピングをしたり、書店で立ち読みしたりしていると、時間はすぐに経った。待ち合わせた場所に行くと、紺のコートの晴海が手を振っていた。
「私のほうが遅くなっちゃったね。晩ごはんの時間にはすこし早いけど、おなかぺこぺこ」
「私もおなかがすいたよ。早いほうが店はすいてていいんじゃない? ごはん食べよう。美江子はなにを食べたい?」
「晴海ちゃんは? お酒も飲みたいな」
「うん、飲もう」
 やっと開店したばかりの居酒屋に入って、サワーと料理を注文した。
「私はお昼を食べてなかったんだ。変なこともあったし、忘れてたよ」
「なにがあったの?」
 お昼を食べていなかったのは、星さんと一緒に食べたかったのにあてがはずれたから。そんな話はしたくないので、真鍋さんとの一件を晴海に話した。
「ほお。あの真鍋草太か。どんなおじさん?」
「わりとかっこよかったよ。あなたがあんまり可愛いから、ってほっぺたをつついたんだけど、晴海だったらそうされたら怒る?」
「美江子っておじさんにもてそうなタイプだよね。私だったら可愛くないから、つつきたくもないんじゃない?」
「おじさんにもてそう? なんで?」
「ぽっちゃりタイプの女の子は、おじさんにもてるんだよ」
「もてたくない」
「私もおじさんにはもてたくないけどね」
 晴海は太ってもいず、痩せすぎてもいない。私は少々太めだから、晴海くらいのプロポーションになりたい。晴海は可愛いというよりも美人だ。気の強そうな、ではなく、本当に気は強いのだと私は知っている。
「晴海だったら強いから、ほっぺなんかつついたら殴られそうだって、おじさんもしないかもしれないね」
「殴りはしないけど、おじさんにつつかれるなんて気持ち悪いよね。私もきっと怒るよ」
「そうだよね」
「そうそう」
 同性の意見が聞けたので安心して、そこからは合唱部の噂話しになった。
 私が自分で言ったのだから、私が星さんとつきあっているとは、合唱部のみんなが知っている。晴海だってもちろん知っていて、星さんとはどうなの? と尋ねたいのであろうとは察せられる。けれど、晴海は星さんの名前を口にしない。
 卒業間近の四年生とは、近いうちに離れ離れになって、そうなったら別れてしまうのが必然。当たり前なのかもしれないけれど、私は星さんと別れたくない。別れたくないからどうすればいいのか、そんなことは私にはわからない。
 晴海と話していても心が浮遊して、私は星さんを想っている。晴海もそうと気づいているだろうに、なんにも言わずにいてくれる。彼女も女の子だからこそ、女の子の気持ちをよく知っている。今夜は女友達とお喋りすると決めた私の選択は、正しかったはずだ。


2・真次郎

 新たな年がはじまり、大学二年になり、俺には新しい彼女ができた。俺の特技の友達の出身地あてがきっかけで、俺のほうから告白した下川乃里子だ。
 背は低めでふっくらやわらかそうな体格の乃里子は、去年の彼女だった豊島ゆかりとは、プロポーションも性格も正反対かもしれない。ゆかりは背が高くて痩せぎすで、女にしては無口だった。無口も時にはいいのだが、喧嘩になるとしんねりむっつりになってやりにくい。
 身長や体格で女を好きになるのではないのだから、背は低くても高くても、太めでも痩せぎすでもいいのだが、性格は大切だろう。よく喋る乃里子のほうが、俺には合っている気がする。
 お喋り乃里子は要求が多くて困る。一年生なだけに子供っぽくて、我が儘は言うしすぐに泣くし、俺の些細な言動に怒ってつっかかってくる。こっちは年上の余裕を持とうとしても、怒りっぽい俺もすぐに怒ってしまって、喧嘩ばかりしている。
 それでも、怒ると口数が減ったゆかりよりは、怒ってまくし立てる乃里子がいい。喧嘩をしていると可愛いと感じるゆとりはないが、仲直りすると可愛く見えるのだから、俺は乃里子に恋しているのだろう。
 ゆかりはむこうが俺を好きになってくれて、山田がお節介を焼いてカップルにしたのだ。嫌いな女とはつきあわないから、俺もゆかりを好きではあったのだが、乃里子のほうがより以上に好きだ。
「本橋さん、下川さんから伝言ですよ」
 一年生の小笠原英彦が、俺に耳打ちした。
「合唱部の用事が終わったら来て、って。いつもの場所だそうです」
「あ、ああ。ありがとう」
「彼女のいるひとはいいですね」
「おまえにはいないのか?」
「いませんよ。では、伝えましたから」
 同じ一年生なのだから、乃里子と小笠原は親しくしているのだろう。それはいいとして、小笠原には彼女はいないのか。けっこう見た目もいい奴だし、性格も悪くない男だから、可愛い子がいたら紹介してやってもいい。
 今のところは思い当たる女の子がいないので、心がけておいてやろうとは決めた。だが、人の世話を焼く前にてめえの彼女だ。
 二年生なんてものは合唱部では下っ端だが、それなりには活動が忙しい。とかく男子部はきびしいので、さぼっているとキャプテンにどやされる。今年のキャプテンは金子将一さん。副キャプテンは皆実聖司さん。
 けっこうどころではなく見た目もいい男の両首脳は、合唱部運営に燃えている。さぼりの罰ランニングなんてものを決めたのは、皆実さんであろうか。俺はランニングなんかさせられてもいっこうにへっちゃらだが、先輩に罰を与えられること自体がかっこ悪いのだから避けたい。
 罰なんぞはあってもなくても、俺だって合唱部が楽しいのだから、さぼりたくない。熱心にやりたい。本橋と乾は二年生の中心だと先輩たちも言ってくれて、俺も燃えている。そうすると、デートの時間を捻出するのにも苦労するのだ。
 夏合宿の会議に乾と俺も参加していたので、すっかり遅くなってしまった。乃里子との「いつもの場所」に行くと、乃里子が頬をふくらませて立っていた。
「ごめんな。乃里子、おまえさ、そんなにふくれると顔が二倍のでかさに見えるぜ」
「どうせ私は顔が大きいもん」
「いつもは大きい顔ではないんだけど、ふくれるからだよ」
「てめえこそ、でっかい態度だ、でっかい顔しやがって、って言われてるくせに」
「てめえって俺か? 女がてめえなんて言うなよ」
「あんたは言うじゃないのよ」
「男はいいんだ」
「勝手なんだから」
 機嫌を取るつもりが、俺はいつだってこうなってしまう。乃里子はぷんぷんした顔で先に立って歩き出した。
「俺はあやまってるんだから、そう怒るなよ」
「あやまったらなんでも解決するの?」
「しないのか」
「本橋さんが私のなにかを盗んで、ごめんなって言ったらすむの?」
「俺はおまえのなにかなんか盗まないよ」
「……盗んだくせに」
「なにを盗んだんだよ」
「知らない」
「わけのわかんねえことを言ってないで、メシにしよう。メシメシ」
「無銭飲食をしたとしても、あやまったらすむの?」
「無銭飲食なんかしねえんだから、そんな話はしても無駄だろ。おまえは言い出したらしつこいんだよ」
 他には人がいないので、肩を抱こうとしたら振り払われた。
「そしたら、本橋さんが私の下着を盗んだとしたら……」
「おまえの下着になんか興味はねえんだよ」
「そうなんだね。興味ないんだ」
「乃里子?」
 べそをかいている。なんだって女ってのはこう簡単に泣くんだろう。ほっぽって行ってしまってやろうかと思うのだが、そうは行かないだろう。
「しつこいんだよ、おまえは。泣くな」
「だって……」
「ああ、ごめんな。俺が悪かったよ。泣くなって」
「うん」
 これでようやく仲直り。
 会うたびに喧嘩をしていたようなものだったのだが、夏合宿もすむころにはキスをした。ゆかりともキスはしたが、それ以上はしなかったので、このまま進んでもいいものだろうかとためらって、その場はやめておいた。
 女の子を好きになったら、キス以上に進んでもいいのだろうか。そんな相談は乾にも兄貴たちにもできない。
 中学生のころだって、女とやっちまったよ、と言っていた奴はいた。高校のころにもいた。あれは見栄を張っていたのか。俺もキスくらいは何人かの女の子としたものの、それ以上の経験はまだない。十九にもなって女と寝た経験のない男はみっともないのか。
 兄貴たちの初体験はいつなのだろう。乾は? 他の友達は? 気にはなるが質問できない。乃里子は自分からは言い出さないのだから、俺が言わなくてはいけないのか。寝ようか、と言ったら、乃里子はなんと答えるのだろう。
 考えてばかりで行動に移せなくて、それからだって乃里子とは喧嘩ばかりしていた。喧嘩はしてもデートはして、デートをしても喧嘩をして、仲直りするとキスをした。
「本橋さんの誕生日には会えなかったから、プレゼントはしてなかったよね。はい、これ」
 二十歳になって間もない三月のある日、すこしはあたたかくなってきた公園を歩いていると、乃里子がリボンのかかった包みをくれた。
「ありがとう」
「開けてみて」
 包みの中は天空義だった。
「高かったんじゃないのか。俺はおまえには安いプレゼントしかしてなかったのに……」
「小さいから高くはないの。私としてはけっこうつらい金額だったけど……んんとね、お礼してくれる?」
「お礼か。するよ、なんだ?」
 色気もあるまなざしで俺を見上げて、乃里子は可愛いことを言った。
「……本橋さんって力持ちだよね。抱っこしてみせて」
「お姫さま抱っこってやつか」
「私は重すぎて無理?」
「できるさ。見損なうな」
 せがまれて抱き上げて、この衝動の高まるままに、今ならば言える。俺は乃里子の目を見つめた。
「俺の目を見て察してくれよ。女はそういうのに敏感だろ」
「目?」
 乃里子を地面に降ろして目を見つめ合った。
「こんなことは言ったことはないんだよ。なんて言えばいいのかわからないんだ。はじめてなんだからさ」
「嘘だ」
「嘘なんか言わないよ。いいか? いやか?」
「はじめてなんて嘘だよ。そんなはずないもん。そんなの、別に嬉しくないもん」
「俺だってな、女なんか慣れてるって言いたいんだよ。そうじゃねえんだから言えないんだよ」
「女に慣れてる男なんかもっといや」
「……どっちがいいんだよ」
「本橋さんがいいの」
 手をつないで歩いていって、ふたりっきりの部屋での俺の初体験。乃里子にとってもはじめてだったその日、俺たちは本当の意味での恋人同士になったのだろうか。
 

3・隆也

 一年生の年には本橋にはゆかりちゃん、ミエちゃんには星さん、俺には香奈と、恋人がいた。二年生の去年は、本橋には乃里子ちゃんという新しい彼女ができたのだが、ミエちゃんにも俺にも恋はなかった。
 ミエちゃんは好きなひとができたとしても俺たちには言ってくれないとも考えられるが、俺にはまったくなんにもなかった。
 三年生になって、本橋は乃里子ちゃんとつきあい続けている。ミエちゃんには本橋が紹介した彼氏ができていたのだが、早くも飽きたのか、夏の恋は蜃気楼だったのよ、などと言っていた。そして俺には、俺にも新しい彼女ができた。
 新しい恋は古い恋を忘れる特効薬だと言う。高校時代の恋も、一年生のときの恋も忘れさせてくれたのは、他校の一学年年上の純子だ。
 純子も他校の女子合唱部に入っていて、合同イベントで知り合った。やや小柄でほっそりしているところは、まゆりにも香奈にも似ている。俺の基本的な女性の好みはこのタイプなのだろう。本橋のように、体型なんて気にしない、とは断言できない。
まゆりには清純なくせして悪ぶりたがるところがあった。高校生は不良っぽさに憧れる年頃だったからなのか。香奈は頭が切れて、それゆえに素直ではないところがあった。どっちも俺は好きだったけれど、今では過去の恋だ。
 過去の恋は綺麗な部分ばかりを思い出す。俺のファーストキスはまゆり。ファーストベッドインは香奈とだった。肉欲も伴う恋にも、ほんのちょっぴりなじんできたつもりではいるけれど、女との交際は疲れる。疲れるけれど楽しい。
 他校の学生である四年生の純子とは、頻繁にはデートはできない。会える日には抱き合って、甘い言葉をかわし合っていたいのに、意地悪な純子は俺を苛めるのが趣味のひとつであるようで、焦らしたりつねったりからかったり……はー、疲れた。
 恋に疲れていてどうする。俺の恋愛人生なんてはじまったばかりに等しいのだから、恋に関しては赤子のようなものなのだから、こうやって鍛えられていって、いずれは恋の達人に……とはならないか、などと考えつつも、純子とのデートを終えて帰ってきた。
 ひとりになって公園で煙草でも吸おう。部屋で喫煙すると、純子が遊びにきたときに、いやなにおいがするー、と言われる。俺は二十歳になったのだから、外でおおっぴらに吸ってもいいのだ。そう決めて、大学の近くの公園に入っていった。
 夜の公園には今夜は人の姿はない。と思っていたのだが、女の子がいた。泣いていると見える。悲しいことがあったのか。見知らぬ女性なのだから、俺が声をかけるわけにもいかなくて、煙草はしまってそれとなく見ていた。
「どうしたの? 泣いてる?」
 そのひとに声をかけた男がいた。女性は男に返事もせずに走り出す。下川乃里子、ノリちゃんだ。男がノリちゃんを追っていく。こうなればそれとなくではいけないので、俺も走り出した。
「ノリちゃん、待って」
「……乾さん?」
 涙で濡れた顔をして、ノリちゃんが俺を見上げる。追いついてきた男が言った。
「あんたの彼女?」
「……学校の友達だよ。あんたは何者?」
「彼女じゃないんだったらいいだろ。ノリちゃんっていうのか? 俺とつきあってよ」
「いや」
 ノリちゃんは言い、俺も言った。
「彼女には恋人はいるんだけど、そうでなくても、きみとつきあう気はないってよ。断られてるんだから潔く引き下がれ」
「なんだぁ? てめえにお節介を焼かれる筋合いはねえんだよ」
「お節介は承知の上だけど、友達に変な真似をしようとしている男を見過ごしにはできないんだよ。さっさと立ち去れ」
「……いい格好してくれるじゃねえかよ」
「いい格好をして、結果的には悪い格好になるかもしれないけど、おまえが俺を殴りたいんだったら受けてもいいよ。ノリちゃん」
「……はい」
 背中で涙声を出しているノリちゃんに、言った。
「なんとかして逃げて。俺ではこの男には勝てない恐れがおおいにあるから、せめてきみは逃げて」
「だって……そんな……」
「きみが逃げてくれないと、俺がいい格好したのが無意味になっちゃうでしょ? 逃げられるよね。ノリちゃん、走れ」
「そんな……私が逃げたら乾さんが……」
「いいから逃げろ」
 男と睨み合いを続けたままで、ノリちゃんにも言っていた。ノリちゃんは逃げないと言い張り、男は言った。
「俺は別にさ……俺だって悪い格好にはなりたくないし……しかし、てめえはいい格好しすぎなんだよ。てめえの彼女じゃねえんだろ? 信じられないぜ。ま、しかし……まあ……」
 本気でノリちゃんをナンパしようとしたのでもないらしく、男は立ち去ってくれた。俺としてもほっとしていたら、本橋があらわれた。ここに本橋が出てくるということは、と思って、俺は言った。
「ノリちゃんは本橋と喧嘩したの? 本橋が怒って、そんなら勝手にしろ、とでも言って、ノリちゃんを置き去りにした?」
「私も怒って……泣いたから……」
「泣いてる彼女を置き去りにするとは、それでもおまえは、俺は男だ、っていばってられるのか。ガキみたいに、俺は男だ、男だ、って言ってるだけだったら、俺にだってできるんだよ。本橋、なんとか言えよ」
 我ながら、格好をつけた台詞だな、と思いつつも言うと、本橋がぼそりと応じた。
「乃里子、ごめん。乾、ごめんな」
「ううん。本橋さんは乃里子を置き去りにしたんじゃないんだよね。見ててくれたんだよね。乾さんが私をかばってくれたから、出てこられなくなったんでしょ? 乾さんはそんなには強くなさそうだから、もしもあいつに乾さんが殴られそうになったりしたら、出てきてくれるつもりだったんだよね。乾さん、私も悪いんだもの。本橋さんと喧嘩しないで」
「俺は強くなさそうって言うよりも、弱いよ。なのに本橋と喧嘩をするはずがないでしょ。うん、あとはふたりでごゆっくり。おやすみ、ノリちゃん」
「ありがとうございました」
「乾、ありがとう」
「俺はなんにもしてないよ」
 俺に彼女がいなかったとしたら、俺こそが泣きたくなっていたかもしれない。背後では抱き合うカップルの気配。俺はひとりで歩き出した。
 男にからまれていたのが純子だったとしたら、俺がああした行動に出たとしたら、純子はなんと言うだろう。あの男と同様に、いい格好しちゃってさ、と笑うとも考えられる。口先男だと誰しもから言われる俺は、本当にあんな男と殴り合いを余儀なくされたとしたら、腕力ででも勝てるのか。
 男同士で腕力沙汰の喧嘩をした経験はゼロではないが、俺はいつだって口を先に使って、それではどうにもならなくなったら、防御を考える。逃げ出そうと考える。
 本橋に向かっても先ほどは格好つけた台詞を言ったけれど、単純に考えれば本橋のほうが男としての資質は高級だと思えてしまう。だけど、男らしさってなんだ?
 世の中には男であって男ではない男もいるらしい。俺にしても本橋には、女みたいな奴だとよく言われるが、俺は女ではない。男だ。身体は弱々しげで細いけれど、心は男だ。女性に恋をして、恋した女性を身体を張って守り抜きたいと思う。
 恋人ではなくても、友達でもなくても、見知らぬ女性であっても、彼女が男にからまれていて困っていたら、救ってあげたいと思う。けれど、力が強くもない俺は、そうしてしゃしゃり出たとしても、殴り倒されて彼女をいっそう困った事態に陥らせるとも考えられる。
 先刻の男は喧嘩をしたかったのではないようだからよかったものの、あいつが好戦的な男だったとしたら、本橋が近くにいなかったとしたら、俺は負けていただろう。
 簡単にノックアウトされて、ノリちゃんがあの男に連れ去られていくシーンを想像してしまう。俺は地面に倒れ、ノリちゃんが泣きながら名前を呼んでくれる。乾さん、乾さん、乾さーんっ!! とノリちゃんの悲痛な声が、公園にこだまするのか。
 現代の男には、腕力ではなく口が役に立つ、とは俺の持論なのだが、青くて小ざかしい理屈を振りかざす前に、強い男になりたかった。
「この間、純子ちゃんとデートしたあとにさ」
 その次のデートで、俺は純子に言った。
「友達に聞いたんだ。そいつはすっげぇ喧嘩が強くて、デートしているときに公園で不良にからまれて、三人の男を相手に立ち回りをやって勝っちまって、彼女を守りおおせたって。純子ちゃんはそういう男が好き?」
「それってほんとの話し? 見栄じゃないの?」
「男がそんな見栄を張るってありがちだけど、きみだとそう反応するのか」
「そんなときに彼女を放って逃げる男は困るけど、なんとかしてふたりで逃げ出すのが一番だよ。喧嘩なんかしないほうがいいじゃない」
「そうできなかったとしたら?」
「警察を呼ぶの」
「呼べる状況じゃなかったとしたら?」
「なかったとしたら、なんて話しになんの意味があるの? 隆也くん、なにが言いたいの?」
「どんな話でも、きみの意見が聞きたいからだよ。ごめんね、純子ちゃんはこんな話は嫌いなんだ。出ようか」
 機嫌を損ねたような表情になった純子と、待ち合わせていたカフェから出て歩き出した。
「どこに行く?」
「今日は時間は早いから、散歩してから晩ごはんにしようよ。私は今夜は和食がいいな」
「和食だね。前にも行った「若葉」でいい? 予約しておくからちょっと待ってて」
 学校近くの公園とは別の公園に入り、公衆電話で予約の電話を入れた。「若葉」は学生でも支払える気楽な値段で、気楽な和食を食べさせてくれる。最初は純子が友達に教わったと言って俺に教えてくれて、それからはちょくちょく利用している店だ。
 電話ボックスから出てくると、純子が知らない男と話している姿が見えた。純子の大学の男だろうか。俺がふたりに近づいていくと、純子は言った。
「ごめんね、隆也くん。私、彼に誘われちゃったからそっちに行く」
「彼は?」
「うちのサークルのひとだよ」
「純子ちゃんって女声合唱サークルじゃなかった?」
「そうだけど、男の子だってサークルにいるんだよ」
 男がいたら女声合唱部ではなくなるではないか。純子の大学は女子大ではないのだから、別のサークルとしてグリークラブがあって、同じサークルと見なしてもいいのか。俺たちの合唱部も男子部と女子部に分かれているのだから、似たようなものなのか。
「細かいことはいいんだけど、きみは俺とデートの途中でしょ? 急用?」
「そうなんだ。合コン」
「合コンは急用じゃないだろ」
「女の子がひとり足りなくなったから、純子ちゃんもおいでよ、って言われたの。急用だよね、谷原くん?」
 紹介もしてくれなければ、彼も自己紹介をしようともしない。俺も自己紹介はせずに、谷原という男をちろりと見た。
 白皙の秀才タイプの青年だ。さっきからひとことも口をきかず、純子の言葉にうなずいているばかり。背丈は俺よりも低く、細面ではあるが、体格は頑丈そうに見える。こいつとだったら喧嘩をして勝てるだろうか。
 うちの大学の男子合唱部には、けっこう荒々しい男もいる。本橋を筆頭に、徳永だって喧嘩は強いと聞くし、先輩にもいる。二年生の小笠原もかなりの猛者だとの噂がある。そういう男どもの悪しき影響もあるのか、俺もつい、こいつと俺が喧嘩をしたら、と考えるようになった。
 先日のノリちゃんと本橋との一件も、その後に俺が想像していた事柄も尾を引いているのか。谷原と喧嘩をしたら負けるかな、と考えかけ、喧嘩なんかする必要はないじゃないか、と考え直して言った。
「純子ちゃんには俺がいるんだから、合コンに参加するってよくないんじゃないかな」
「いけないの? 結婚してる奴だって、合コンに出るらしいよ」
「そんなのって卑劣だな」
「隆也くんは大げさだよ。合コンは遊びであって、気に入った相手とちょっとつきあうってことはあっても、恋人になんかならないもの」
「なる場合だってあるんじゃないのかな」
「私は聞いたこともないよ。寝るくらいだったらあるんだろうけどね、谷原くん?」
「面倒くさいな。行くのか行かないのか、どっちだよ」
 はじめて口をきいた谷原の声は、低くて太くて凄みがあった。
「合コンは俺はどっちでもいいんだけど、こいつ、隆也っていうのか。純子の彼なのか。純子ってこんな男がタイプ?」
「タイプっていうんでもないんだけど、隆也くんが熱心に口説くから、ほだされちゃったのよ。どっちかっていうと隆也くんよりも谷原くんのほうがタイプかな」
「じゃあさ、ちょうどいいからふっちゃえよ。俺と寝よう」
「そうしてもいいけどね」
 やや読めてきたような気がするが、俺の読みが当たっているのかどうかはなんとも言えない。が、純子はこれを期待しているのか。
「タイプではないにしても、純子ちゃんは俺とつきあってるんだろ。その俺の眼前で、よその男とそんなやりとりをするのか」
「怒ったの? ちっちゃいんだ」
「気持ちがちっちゃいって? 小さい大きいって問題じゃないだろ。きみは俺がこういう際に怒らなかったとしたら、男らしくないって言うんだろうが」
「隆也くんが男らしくないのは知ってるよ」
「男らしいってどんなの?」
「隆也くんと反対の男」
 男らしくないと言われるのは慣れてはいるが、いささかむっとした。
「俺は男らしくないから、こうなると腹が立ってくるんだよ。純子ちゃんはどうしたいの? 谷原と行くのか。俺には帰れと言うのか」
「俺は純子と同い年だ。おまえは一年年下なんだろ」
「そうですけどね、呼び捨てには呼び捨てで対抗させてもらいますよ。あんたは俺の学校の先輩でもない。ああ、まったく下らない。俺は小さい奴ですよ」
 呼び捨てだの年上だの、下らないの一語に尽きる。こんなときには純子の手を強引に引いて、ここから連れ去るべきなのか。
「隆也くん、ほんとに怒ってきたんだね。そうなると声が低くなってセクシーなんだ。隆也くん、好きだよ」
「……そう言われるとたぶらかされそうになる、俺は哀れな純子の虜だよ」
「隆也くんって芝居っけもあるんだよね」
「純子、俺はだれてきたぞ」
 谷原が言った。
「つきあってられねえんだよ。勝手にしろ」
「なんで谷原くんまでが怒るの?」
「おまえがつきあえって言うから、おまえが好きだってな芝居をしてみたけど、俺はおまえみたいな面倒な女は好きじゃねえんだよ。隆也くん、きみも苦労するね。じゃあな」
 やはりこういう顛末か。谷原は行ってしまい、俺が純子をもちろっと睨むと、きゃはっと笑って舌を出した。
「怖い顔をしないでよ。ジョークだからさ」
「これはどういう意味?」
「気づいてるんでしょ? 谷原くんはゼミの友達。たまたま会ったから、ちょっとだけお芝居してみたの。隆也くんって怒らせると面白いんだもん」
「……面白い、ね。はい、わかりました。合コンには行かないの?」
「意地悪。嫌い」
「好きだよ、俺は、純子ちゃん……」
「隆也くんの友達の話を聞いたでしょ? 本橋さんと山田さん。谷原くんと私って彼と彼女に近い友達だよ。谷原くんは本橋さんとはちがって勉強ができるから、テストのときには教わったりもしてるの」
「本橋もあれで、理系の秀才だよ」
「そうだっけね。行こうか」
「うん、行こう」
 結局はたぶらかされてしまう。俺は純子が好きなのだから、彼女だって俺を苛めるのが趣味なのだとしても、好いていてはくれているのだろうから、結果がこうでよかった。谷原と殴り合いなんかにならなくてよかった。


4・英彦

 紹介したのはシゲにだけだが、乾さんは恵と俺が口喧嘩をしていた場面を二度、三度と目撃していたのだから、俺に彼女ができたと言ったら、恵ちゃんか? と問い返すだろう。口をすべらせないように注意しないといけない。
 恵は女子合唱部の一員だから、男子部のメンバーも彼女を知っている。察しのいい男の前では口をつぐんでいよう。
 察しのいい奴といえば、乾さんに徳永さんに三沢か。他にもいるのかもしれないが、徳永さんとは親しいわけでもないからいいとしても、乾さんと三沢は厳重注意だ。知られたくない。恵とは喧嘩ばかりしていたのに、そんな女と恋人になったのか? と言われると恥ずかしい。
 恥ずかしいのもあるけれど、俺には女なんかよりも大切なものがあるからだ。おまえよりも歌が大切だ、と言えば恵が怒るであろうから、恵の前でも口をすべらせてはいけない。
 女ってものは、恋ってものは、男にとっては避けて通れない人生の難関であるのだろう。うっとうしいのに女はほしい。恋というよりも、彼女がほしい。彼女がほしかったから恵とこうなってしまったのだが、受験勉強のほうが楽だった。乾さんが教えてくれた歌が頭に浮かぶ。

「たかが恋などと言ってくれるなよ
 僕には大問題だ
 ややこしくて
 女心にはまるでお手上げさ
 大胆不敵な天使かなわないよ」

 まったくまったくこの通り。女はややこしい。
 合唱部の同級生なのだから、恵とは入部当時から顔見知りではあった。女の子たちとだって飲み会で話したり、コンサートや学園祭の練習を合同でやったりもして、友達になった。一年生のときには、他人の言葉遣いに口出しする大阪弁実松と、土佐弁の俺と、淡路島出身の下川のノリちゃんとで、合宿で喧嘩をした。
 あのときはシゲもいたのだが、シゲは喧嘩には加わっていなかった。ノリちゃんは関西人のくせして関西弁が嫌いで、大阪弁の大好きな実松ともめていたのだ。俺も加わっていて、しまいに徳永さんに叱られた。
 喧嘩といってもあのときは他愛ない方言の話しであったのだが、二年生の夏合宿では、柳本恵と俺が大喧嘩をして雑巾のぶつけ合いとなり、乾さんに叱られた。
 一年生のころから先輩には叱られてばっかりだった俺も、三年生になったのだから、後輩を指導する立場を自覚しなければならない。そやきに、そんなんは俺には向かんちや、俺は合唱部の隅でおとなしゅうしとるから、他の三年、頼むで、と土佐弁と大阪弁まじりで考えている。
 今は四年生がいてくれるから、後輩の指導までは考えなくてもいい。それよりも恵だ。三年生になったある日、恵と帰り道で一緒になったのだ。
「溝部さんは卒業して、寂しくなったか」
「それって皮肉?」
「皮肉のつもりはないよ。おまえ、溝部さんを好きだったんだろ」
「好きだったんだけどね……小笠原くんが言った通りだったのかな。溝部さんはルックスがいいでしょ。あの外見に惑わされていただけなのかもしれない」
「おまえ、溝部さんを好きになった理由があったって言ってたんじゃないのか」
「よく覚えてるね。聞きたい?」
 聞きたくはなかったのだが、恵が話したいようだったから聞いてやった。
「一年生の夏の合宿のときだよ。夕方に女の子たちと海岸を散歩してたの。乃里子やリリヤや沙織やミコや、私と合宿で同室だった子たちとね」
「リリヤちゃんもノリちゃんも、合唱部はやめちゃったんだよな」
「私はもともと、彼女たちとはそんなに親しくはなかったの。子供っぽいんだもん」
「おまえは大人か?」
「彼女たちよりはね。それでね」
 同室ではあったものの、子供っぽいと恵には見える友人たちと散歩していてもつまらなくなったのだそうで、ひとり、別のコースをたどっていった。
 夕刻の浜辺には、むろんうちの合唱部の合宿メンバー以外の人間も歩いている。仲良しカップルもいる。恵は寄り添う恋人たちや、キスをしているらしき恋人たちに好奇心を持って、うろうろしていたのだろう。
 うろうろひとりで歩いていると、溝部さんが走ってきた。顔色が変わっているのでぎょっとして立ち止まった恵に走り寄ってきた溝部さんは、ものも言わずに恵の手を取って、再び走り出した。
「なんなんだかさっぱりわからなくて、私はついていくしかなかったんだよ。そしたらね、溝部さんはしばらく走って、私の手を離してどこかに行っちゃったの。そのうしろ姿がかっこよかったんだ」
「それで惚れた? つまらん」
「つまらんのかもしれないけど、あれってなんだったんだろ」
「俺が知るわけないがかや」
 だが、想像だったらできるので、言ってみた。
「溝部さんは覗きでもやってたんじゃないのか? 見つけられて焦って逃げたんだよ」
「どうして私を連れていくの?」
「カップルのキスシーンでも覗いてて、追いかけられていたのかもしれない。おまえと手をつないで走ってたら、そっちもカップルに見えてカモフラージュになると……」
「小笠原くんの想像もつまんないよ。でも、そうだとしたら、私が巻き込まれたらかわいそうだからって、連れていってくれたとも考えられない?」
「おまえがそう考えたいんだったら……そうかもしれんな」
 悪いほうに考えれば、カップルに追いつかれたとしたら、覗いていたのはこいつです、と恵を矢面に立たせて、自分は逃げたとも想像できる。溝部さんならやりかねない。しかし、恵はいいほうに考えたいのであろうから、言わずにおいた。
「溝部さんとはふたりで話もしたけど、そのときのことは質問しなかったの」
「溝部さんに告白されたのか?」
「されてないよ」
「されてないのか」
「溝部さんは、ほっそりした美人が好きだって。おまえなんかは背が高すぎるって……私は太ってる? 太ってないでしょ?」
「太ってはいないと思うけど……」
 細くはないが、太くもない。背はたしかに高めだが、胸も大きい。俺はそのときはじめて、恵の外見を意識した。
 リリヤはほんまにほんまに美少女やきに、だとか、ミコちゃんは巨乳だとか、ノリちゃんや沙織ちゃんも可愛いだとか、そんな目で女の子たちを見た覚えは幾度もあるが、恵は気性の激しさばかりが目について、外見には目を留めていなかったのだろう。
 たいして美人でもないし、プロポーションもどうってこともない。やや長身で中肉の、ごくごく平凡な女だ。胸はいいセン行っているが、くびれが足りない。ナイスバディにはほど遠い。だが、声はいい。あたたかみのあるアルトだ。
「溝部さんに太ってるって言われたのか?」
「俺は折れそうに細い女が好きだ、って。おまえは田舎の子だけあって、ださくって都会的じゃないから趣味じゃないって」
「そう言われた?」
「そのようなことは言ったよ」
「おまえが告白したのか? そしたらそう言われたのか?」
「忘れちゃった」
 忘れてはいないのだろうが、思い出したくないのだろうか。こうなると俺は、少々のお世辞を言ってやりたくなってきた。
「俺は土佐の田舎もんちや。おまえは土佐の子よりは都会的だろ」
「私は茨城出身なの。土佐って高知だよね。高知市?」
「うん。俺は坂本龍馬生誕の地の近くで生まれて、はりまや橋やら桂浜やらで遊んでた。四国の中では都会のほうだな」
「そしたら、私の故郷はもっと田舎だよ。うちの家は水産物会社をやってるから、魚くさいの」
「魚のにおいなんかしないぞ」
「今はしないよ。家元は離れてるんだもの」
 歩いていてすこしだけ、互いの身体の距離が近づいた。
「坂本龍馬って歴史上の人物でしょ? いつの時代の人だった?」
「知らんのか」
「知らなくはないよ。歴史上の人物だって知ってるじゃないの。失礼ね」
「坂本龍馬とは……うん、織田信長は知ってる?」
「名前は知ってる。坂本龍馬と織田信長は同じ時代のひと?」
 恵は英語が専攻だと言っていたから、歴史には疎いのだろうが、ここまで無知な奴もいるのか。面白くなってきたので、俺は無茶な嘘話しをした。
「坂本龍馬は織田信長に見出されて、信長の草履取りになったんだ。そこから出世して天下を取った。龍馬は農民の出だから上流の女が好きで、信長の妹の娘がほしくなって側室にしたりして、妻のねねってのを苦しめたんだよ」
「それだったら聞いたことはあるかな」
「あるだろ。信じてる?」
「え? 嘘なの?」
「おまえ、ほんまのほんまになんちゃあ知らんのやな。今のは豊臣秀吉を龍馬に変えたんだよ」
「……嘘つき」
「おまえがもの知らずすぎるんだろ」
「失礼な……じゃあね、これは知ってる?」
 英語でぺらぺらっとまくし立てられて、俺は降参した。
「日本語で言ってくれ」
「日本語だったら知ってるの? マザーグースの詩のひとつくらいは暗唱できる?」
「グースって鳥だろ。鳥の母ちゃんの詩か。卵が孵って生まれてくるおまえたちは、私に似て可愛い雛たち……とか?」
「馬鹿」
「アホに馬鹿と言われとうないきに」
「……西のひとは馬鹿が気に障るんだったよね」
 はじめて喧嘩をしたときに言い合ったのだったか。俺も思い出して言った。
「ごめんな」
「ううん、私もごめん」
「メシ食って帰ろうか」
「うん」
 どっちが口説いたわけでもない。好きだとも言わなかった。だのに、メシのあとで恵は言った。
「うちに寄ってお茶にしない? 面白い映画のビデオがあるんだ。一緒に見ようよ。小笠原くんって映画は好きでしょ」
「恋愛映画じゃないんだったら好きだよ」
「アクションものだよ」
「そんなら行く」
 ビデオを一緒に見ようというのは、異性を部屋に誘うときの口実としてはうってつけなのだろう。恵の部屋で映画のビデオを見ているうちに、自然に抱き合ってくちびるを重ね、キスから最後まで進んだ。
 高校時代に女の子とは経験していた俺と、はじめてでもなさそうだった恵は、寝たことがきっかけで恋人になった。
 恋とはこんなものなのか? 俺は恵といつでもふたりでいたいとも思わないし、好きではあるけれど、愛しているとも思えなくて、ただひたすらに女はややこしい。それでも、俺は恵が好きだ。こんな恋もあるのかもしれないと、はっきりとしないままに思っている。
 今はそれでもいいのかもしれない。俺の夢も曖昧な段階なのだし、恋も曖昧でもいい。進むべき道がはっきりするころには、恵との仲もはっきりするかもしれないではないか。
 
 
5・繁之

 恋愛話の花盛りの合唱部は、俺には寂しい場所になりかけている。部員たちの恋についてはすべてを知っているのではないし、実松なんかには彼女はいないと信じたいのだが、ヒデにまで恋が訪れたとは、うらやましい。
 俺だって恋はしたけれど、かなうはずもない悲しい恋だった。自分で自分に同情するしかない結末だった。
 誰かに彼女ができて浮かれている、といった部分以外は、合唱部は俺にとって楽しい世界だ。友達も大勢できた。先輩にも可愛がってもらっている。後輩にも慕ってもらっている。女はいなくても、男友達がたくさんできたのだから、合唱部に入ってよかった。
「シゲには彼女はいてないんやろうけど、女友達はいてるやないか」
 実松に言われて、ああ、そうだった、となった。
「泉水だろ。あれはまあ、女だけどさ」
「泉水ちゃんは女の子やろうが。美人やし、性格もええし、ええ子やろ」
「いい子だよ。美人だとは思えないけど、性格はいいんだろうな。男みたいな女だからこそ、俺は泉水とだったら気安くつきあえるんだよ。実松は泉水が好きなのか?」
「泉水ちゃんって気が強いやろ。ちょっと……」
「そうだな。おまえは泉水には負けるよ」
「おまえは勝てるんか」
「勝てるはずないだろうが」
「そらそうやな」
 でな、と実松は俺に顔を近づけてきた。
「おまえの好きなタイプってどんなん?」
「タイプ?」
「おまえの女の子のタイプは聞いてない気がするんやけど、言うてたか?」
「タイプっていっても……」
「史学部には?」
 学部にだって可愛いと思う女の子はいる。俺がいいなと思っても、むこうは思わないであろうし、話しくらいはしても、深くつきあうとは考えられもしない。
「バイト先は?」
 三年生になった俺が、一年生の年から働いているのは印刷会社だ。力はある俺は、荷物運びに重宝されていて、卒業するまではうちにいてくれ、と言われているので、喜んでいさせてもらっている。
 印刷会社にも若い女性はいるが、年上ばかりだし、アルバイト学生なんて彼女たちの目にも入っていないだろう。彼女たちとだって会話くらいはするものの、俺は女性とはうまく話せないので、いいようにからかわれて笑われて、彼女たちのストレス発散に役立ってはいるだろう、程度だ。
「合唱部の女の子は?」
 いなくなったリリヤさんが頭の中に浮かぶ。リリヤさんは華やかに笑っている。ばいばーい、本庄くん、と手を振っているリリヤさんは、マタニティウェアを着ていた。
 他の合唱部の女の子? 彼女たちとも話しはするが、俺はとにかく口下手で話し下手で、会話の中心にはなれない。彼らも俺と同じにもてないのだとしても、実松やヒデのように気軽に女の子と話せる性格がうらやましいのだった。
「他は?」
「うーん……」
 うーんうーん、とばかり言っていたら、実松は万歳した。
「おまえ、意外にも好みが贅沢なんやろ。おまえの顔を考えてみいや。おまえと俺は外見が似てるて言われてるわな」
「おまえのほうがちょっとだけ……性格は似てないし、おまえのほうが上だよ」
「へええ。俺のほうが上? 性格が? どういう意味で言うてんのん、シゲくん?」
「意味と言われても……」
「三重県のなまりを隠そうとするから、口がよけいに重くなるんやろ。ヒデかて土佐弁は遣えへんとか言うとるけど、けっこう出てるやないか。シゲはかたくなすぎるんや。三重弁で喋ったらもうちょっと口の回転がなめらかになるんとちがうか?」
「そうかもしれないけど……」
「おまえと喋ってると鬱々してくるわ。勝手にせえ」
 どうして気を悪くしたのかは知らないが、実松は怒り顔になって立っていってしまった。
 東京に来てから二年半もたっているのに、必死で標準語を身につけたのに、今さら方言で喋れと言われても困る。俺の故郷の言葉は実松の言葉に近いけれど、大阪弁よりもマイナーな言い回しもあるのだから、東京では使わないほうがいいはずだ。
 その点、大阪弁はお笑いのおかげで全国に浸透しているし、土佐弁や広島弁や博多弁だって、三重弁よりはメジャーであろう。どんな言葉で喋ろうと勝手だろ。俺はおまえの大阪弁にケチはつけないんだから、俺の言葉もほっといてくれ。
 目の前から消えてしまった実松に向かって、遅ればせながらも反論していると、同じ三年生の榛名沙織さんが顔を見せた。
「本庄くん、尚吾は来てない?」
「尚吾って尾崎? 今日は来てないみたいだな」
 部室には数人の男子がいるものの、今日は一年生の尾崎尚吾の顔は見ていない。榛名さんはがっかりした顔になって言った。
「本庄くんはなにか用事があるの?」
「別にないよ。今日は実松とだべってただけ」
「じゃあさ、一緒に帰ろうよ」
「俺と? いいけどね」
 実松は出ていってしまったし、他には三年生はいないので、俺に言ってくれているのだろう。女子部のメンバーとはうまく話せない俺も、同級生とならばまだしも喋れる。榛名さんと連れ立って帰れるのは嬉しい気もして、一緒に部室から出ていった。
「今年の合宿には本庄くんも来てたよね」
「行ったよ」
「あのときには本庄くんはいなかったかな」
「あのときってどのとき?」
「私がどうして尚吾を探してるのか、気がついてないの?」
「尾崎になにか用事が……」
「いいよ、もういい」
 女の子というものは、こうしてあやふやな言い方をする。俺みたいな鈍感な男は明確に言ってもらわないとわからないと、女の子は知らないのだろうか。
「おなかがすいちゃった。ごはんを食べて帰る?」
「榛名さんがそうしたいんだったら」
「本庄くんはいやなの?」
「いやじゃないけどさ、えーと……デートじゃないよね」
「馬鹿じゃないの? なんで私が本庄くんをデートに誘うのよ」
「そ、そうだよね。ごめん」
「本庄くんと話してるとこう、胸の奥がちりちりちりっと焦げてくるんだな。本庄くんって嫌いではないんだよ。友達としては好きなんだけどね」
「ありがとう」
「ああっ、もういいわっ!!」
 ちりちり胸が焦げる、嫌いではない、友達としては好き。榛名さんの言いたいことは、古代の文書以上に難解に思えた。
「本庄くんとごはんを食べたら、食べたものまで焦げそう。実松くん、ごはんを食べにいこうよ」
 帰ったのかと思っていた実松が、むこうからのそのそやってきた。
「シゲと三人で?」
「実松くんとふたりがいいの。尚吾の話し、聞いてよ」
「ええけどな。シゲは邪魔なんか?」
「だって、シゲったらシゲったら……いいの。実松くんが聞いて」
「うん。ええよ。シゲ、ほんならお先に」
 まったくさっぱり意味不明だが、榛名さんは怒っていて、実松の手を引っ張って、俺にはさよならとも言わずに行ってしまった。なんで榛名さんが怒るんだ? 俺が悪かったのか、と悩んでいると、うしろから肩を叩かれた。
「本庄さんは知らないんですか」
「三沢、立ち聞きしてたのか」
「立ち聞きするつもりはなくても、沙織さんの声は聞こえてましたよ」
「そうか。俺がなにを知らないって?」
「俺はよく知ってるもん。沙織さんが尾崎の名前を呼び捨てにするって、親しいからでしょ? 尾崎だって一年生の分際で、沙織って呼び捨てですよ。その意味は?」
 面白そうに三沢が俺を見つめる。意味、意味、何秒間か考えた。
「同じ合唱部にいるんだから、一年生の男子と三年生の女子が親しくなってるのも……親しい……親しいってのは……」
「本庄さんだったら、俺が恋してた女の子が誰なのかも知らないんでしょうね」
「恋……尾崎と榛名さんが?」
「鈍すぎ。ああっと、先輩に向かってご無礼を申し上げました。俺は知ってたんだから、鋭いってわけでもないんですけどね。だからさ、榛名さんが苛々しているふうに見えたのは、尾崎にとっては男子部の先輩である本庄さんに、尾崎についての相談をしたかったからでしょ? 本庄さんが鈍すぎるから、胸がちりちり焦げて怒り出しそうになって、本庄さんとはごはんも食べたくなくなったんですよ」
「実松のほうがましなんだよな」
「そうでしょうね。実松さんは鈍くもないもん。小笠原さんだって鈍くはないですよ。本庄さんほどの……いえいえ、これ以上は言いませんが、キャプテンだってね……本庄先輩、あなたは……ちょっとやってみていい?」
 こつんこつんと俺の頭を叩き、胸も叩いてみてから、三沢は笑った。
「堅い頭と厚い胸。男の中の男、本庄繁之」
「あのな、おまえな……」
「はいはい。僕ちゃんにだったらごはんをおごってくれます?」
「俺もなんだか鬱々してきたから、帰るよ」
「そうですか。お大事に」
 榛名さんの態度の意味はわかったのだが、尾崎と榛名さんがつきあっているとは、ほんのひとかけらも知らなかった。
「みんなは知ってるのか?」
「尾崎と沙織さんの交際? 知らないのは本庄さんだけでしょ」
「誰も俺には言ってくれなかったよ」
「言う必要もないほど、みんなが知ってるからですよ」
「そうか……」
 一年生のときからこんなことは幾度もあったけれど、慣れられない。へこみたくなる。
 どうして俺はこんなにも鈍感なのだろうか。だからこそもてないのか。三沢も口にはしないまでも、だから本庄さんには彼女ができないんですよ、という目で見ているような気がする。だからって食欲はなくならないけれど、今日はひとりで帰ってメシを食おう。
 そう決めて歩いていて、ふっと三沢の台詞を思い出した。あいつにも好きな女の子がいた? 俺はまったく知らないが、誰だろう。尋ねたら教えてくれるのか、と振り向いてみたのだが、ちょこまかと走っていく細い後姿は、かなり遠くなってしまっていた。
 あいつには彼女はいないだろう、と俺が信じていたい、実松あたりにも実はいたりして? みんなは知っていて、俺だけが知らないのだったりして? そうだとしたらよけいに、誰にも質問はしたくなかった。


6・幸生

 男の中には相当に鈍い奴がいる。子供のころから察しの悪い男は周囲に何人もいて、俺は呆れていたものだが、本庄さんは限度を超えているのではなかろうか。どのような境遇が彼の性格を作ったのだろう。生まれつきか。
 一年半ほど前に大学に入学して、合唱部に入部して、先輩たちを観察しているうちに、興味深い人たちを数人、発見した。当時の四年生には変な意味で興味深い先輩がいて、その代表は溝部副キャプテンであった。
 溝部さんは俺には女子部に行くなと言うくせに、自分は行っていて、お姉さま方に顰蹙を買っていた。嫌われているとは気づいていないのか、と思って尋ねてみたら、溝部さんは言った。
「俺ってかっこいいだろ。女ってのはかっこいい男が好きだけど、かっこいい男に話しかけられると恥ずかしがるんだよな。まあ、女なんてのは強いふりをしてみても、そんなもんなんだよ。かっこいい男の前では目元がとろんとなって、もじもじしちゃってさ、可愛いんだよな。かっこいい男にだったら、辛口批評をされても嬉しいんだよ。だから俺は言うんだ。親切で言ってやってるんだ。ダイエットしろとか、服のセンスをよくしろって言うのは、合唱部の女の子たちだからだよ。どうでもいい女には言わないもんな」
「……そっか。俺を見ると女の子がもじもじするのは、俺がかっこいいからなんだ」
「おまえの話はしてないだろ。俺だよ、俺」
「はい、溝部さんはかっこいいですよね」
 ちょびっと俺よりは落ちるけど、と声には出さずに言ってから、びゅーんと走って逃げた。溝部さんの思想は知れたので、それ以上は尋ねなくてもいいからだった。
 たしかに溝部さんは外見はいい。背が高くて顔立ちもいい。歌は俺よりはちょびっとどころではなく落ちるが、むろん言わない。歌に関していえば、本橋さんや乾さんや徳永さんや、本庄さんや小笠原さんよりも溝部さんは格段劣る。
 溝部さんは年下の本橋、乾にはゆえなきライバル心を燃やしていて、本橋さんと乾さんに差をつけられている徳永さんも、溝部さんと同じような気持ちでいると思い込んでいるようだ。そのために、溝部さんの関心はこの三人に向けられている。
 二年生の俺に見える部分は限られているが、俺は鈍くはないので、多少は理解している。そして、溝部さんは勝手に決めたライバルや仲間以外の男にはまず関心を向けない。そんな溝部さんは俺には最初から関心を持っていたようなので、俺もけっこう着目されていたのだろう。
 渡辺キャプテンが俺に目をかけていてくれたからなのか。そうなのかもしれない。そういうわけで、木村章と俺は当初から目立ってはいたのだから。
 俺が一年生の年のキャプテンも副キャプテンも卒業して代替わりして、今年は本橋さんがキャプテン、乾さんが副キャプテンだ。溝部さんは当然、卒業していなくなったのだが、彼の存在ゆえに、俺の興味が本橋さんと乾さんに強く強く向いた部分もあった。
 そういう意味でだけ、溝部さんには感謝しているが、いなくなってくれてほっとした部分もある。溝部さんにダイエットしろと言われていた女子部のお姉さま方などは、心底心底せいせいしているだろう。
 徳永さんはどう感じているのか知らないが、本橋さんや乾さんもほっとしているのだろうか。ただいまの俺の合唱部での興味ある先輩は、本橋、乾、小笠原、本庄の四名である。
 女子部は別の意味で気になるし、後輩にも気にかかる奴はいるし、他の先輩にだって無関心ではないのだが、一番仲のよかった同級生が中退してしまったせいもあって、二年生の男子とはそうは深いつきあいはしていない。
 章、今頃おまえはどこでどうしているの? 時として俺は、去年は一番の仲良しだった木村章に話しかける。
 彼がアパートを引っ越していないのだとしたら、訪ねていってもかまわないのかもしれない。一年生のころには章の部屋で、メシを食ったりギターを弾かせてもらったりもした。俺の部屋にも章が遊びにきて、お喋りしたり取っ組み合ったりした。
 眠気に弱い章はすぐに寝てしまうから、徹夜では話さなかったけれど、内緒で酒を飲んだりもした。故郷の話もした。章の弟の話も、俺の妹たちの話しもした。章は俺の妹の雅美にも会ったと言っていた。
 けれど、ロックバンドをやるからと言って、俺には相談もしないで学校をやめてしまった章は、昔の友達なんかは忘れてしまいたいのかもしれない。二度と会うこともないのかもしれない章は、俺も忘れたほうがいいのかもしれない。
 しれない、しれない、ばっかりだ。人生なんて先はどうなるかわからないんだから、しれない、しかないのかもしれない。
 今のところは俺には恋もない。本橋さんや乾さんは知っているけれど、章は知らなかったはずで、小笠原さんも知らないはずで、本庄さんも知らないに決まっているアイちゃんは、死んでしまったのだから、思い出しても悲しくなるだけだ。
 アイちゃんがこの世から消えてしまったあとで、たわむれの恋ならばした。最近もたまにはナンパして、女の子とキスしたりベッドに入ったりはするけれど、あんなものは恋ではない。恋はいずれ、きっとやってくるだろうから待とう。
 恋のない暮らしも悪くはないと思えるのは、俺には合唱部生活があるからだ。特に乾さん、彼に恋をしてはいないのは当然なのだが、俺は乾さんが好きだ。大好き。まあ、時々はむかついたり、反抗したりもするのだが、今後の人生にも欠くことのできない先輩だと、しれない、ではなく、俺には確たる予感がある。
 おのれの鈍感さが胸を噛んだのか、本庄さんは肩を落として歩いていった。鈍感さがずしんと来たのは、それほどは鈍くないとの証明なのかもしれないが、これは、しれない、程度にしか言えない。俺はひとりで小走りで歩いていって、男子部室を覗いた。乾さんはいなかったので、部室にいた先輩たちに言った。
「今日は別に活動はないんですよね。では、俺は失礼しまーす」
「おまえはなにをしにきたんだよ」
 尋ねた三年生の安斉さんに、別にぃ、じゃあねぇ、と笑顔で応じて、俺は学校からも出ていった。俺はせかせか走っていて、本庄さんはゆったり歩いていたからなのか、またもや姿を見た。声をかけようかと思っていたら、耳元で小声が聞こえた。
「どうかしたのかな、シゲは」
「……乾さん、本庄さんはなんだかへこんでるみたいですよ。なぐさめてあげるべきですか」
「シゲだって二十歳になったんだから、よけいなお世話だよ。おまえはバイトか」
「今夜はバイトは休みです。乾さんは?」
「俺も休みだ。メシ、行くか?」
「はいっ、喜んでっ!!」
 先輩がメシに誘ってくれたら、たいていおごってくれる。先輩ならば誰でもおごってくれるけれど、乾さんがいちばんいい。どうして俺はこんなに乾さんが好きなんだろ。時には口答えをするのも、好きの裏返しか。
 説教好きで他人にものごとを教えるのも好きで、口うるさいとも言える乾さんは、おふくろにも似ている。母の愛に似たきびしさと優しさを注いでくれるから、俺は乾さんを慕っているのか。一年生の終わりごろから親しくしてもらっている乾さんには、できれば一生くっついていたいから、いずれは俺の「好き」を解明できるはずだ。
「おまえの喜んでって台詞は、ほんとにほんとに嬉しそうだよ。そんな顔をされると、俺も嬉しくなっちまう。幸せな性格だよな、おまえは」
「幸せですよ、僕ちゃん。乾さん、俺、目玉焼きの乗ったハンバーグが食べたい」
「ファミレスでいいか」
「お酒もあるファミレスがいいな。隆也兄ちゃん、ごろごろごろ」
「酒か……うん、ま、ちょっとだけだったらいいよ」
「お兄ちゃんがついていてくれるんですから、ちょっとじゃなくてもいいでしょ」
「おまえは大学生にも見えないんだけどな……」
「失礼な。これでも十九歳ですよ」
「九歳にも見えるよ」
 失礼な台詞を言われていても、乾さんとお喋りできるのは嬉しい。俺には妹がふたりいて、あいつらは俺を兄とも思わずに小バカにしまくっていたが、乾さんにだったら、俺の妹たちも甘えたくなるだろう。
 二年年上の乾さんは、二十一歳。年のわりには老成していても、本物の大人ではない。けれども、俺から見るとふところが深くて大きなひとだ。俺が女だったら乾さんに恋をするのに、惜しいったらありゃしない。
 いつもいつも俺にだって優しくて、時としてびくっとしそうなきびしさも見せる乾さんは、恋人にはどんな態度なんだろ? ひたすらに優しいのかな。俺は乾さんの恋人にはなれないのだから、この次に恋をしたら、乾さんにアドバイスしてもらおう。
 ファミレスでハンバーグセットを頼む。乾さんはカキフライセットを食べている。ビールの中瓶も頼んで、コップ一杯だけ分けてもらって乾杯した。
「乾さんはもちろん、沙織さんと尾崎の仲を知ってますよね」
「知らない奴がいるのか? おまえが沙織ちゃんと尾崎がどうこうって言い出すってことは、知らないのはシゲか」
「乾さんは聡すぎますよね。シゲさんにその敏感さを分けてあげて」
「俺は聡くなんかないよ。おまえのほうが敏感だろ」
「敏感っていいこと?」
 叡智の色を表情に浮かべて、乾さんは考え込んだ。
「いいこともあれば、悪いこともあるよ。なんにだってそんな局面があるだろ」
「鈍感にも?」
「そうだな。同じかもな」
「……どんなことも、いろんな側面から見るんですね」
「それもむずかしいよな。先入観だの偏見だのを捨てるのは、口で言うのは簡単だけど、なかなかむずかしいよ。おまえと俺は似た部分があるみたいだから、話は通じてるだろ」
「乾さんと俺が似てる? きゃ、嬉しい」
「嬉しいのか?」
 似ているとしたら嬉しいけれど、どこが似ているのだろうか? 乾さんはもてるんだろうな、そこも似たいな、と考えている俺に、乾さんは言った。
「おまえは作詞や作曲はするんだろ」
「しますよ。作詞は得意です。俺、相当にいい詞を書く自信があるんだ。そのうちに見てくれます? 乾さんも作詞をするんですよね。どんな詞? 乾さんの自作の歌はどんなふうですか」
「書いてはいるんだけど、駄作だよ」
「卑下はいけませんよ。髭ははえるんだろうけど、自分に自信を持たなくちゃ。俺の書いた詞は最高、そう思っていたら、最高の詞が書けるんです」
「哲学者の台詞かよ」
「僕って哲学者?」
「書きかけてる詞はあるよ」
 手帳を見せてもらって、俺は黙り込んだ。
「どうした?」
「いえ。俺の詞は持ってないから、またね」
「うん、楽しみに待ってるよ」
 これだったら、俺の詞なんか見せられない。乾さんの詞が駄作だったとしたら、俺のはなんだろう。最悪駄作か。いや、俺の詞のノートから傑作を抜き出してきて見せよう。負けたよ、と乾さんに言わせてみたかった。
 食事をしてお喋りもしてから、ファミレスから出た。秋の風が吹いている。俺が歩いていくのに、どこへ行く? とも尋ねずについてくる乾さんが、小声で言った。
「面白きこともなき世を面白く、はい、続けてみな」
「なんですか、それ?」
「有名な人が詠んだんだよ。おまえだったらどう続ける?」
「……んんとね」
 短歌であろう。俺は言った。
「僕の毎日、面白いもん」
「それはそれでいいかもな。おまえらしいよ」
「本当はどう続くんですか」
「住みなすものは心なりけり」
「俺のほうが上手ですよ。それって誰の短歌?」
「高杉晋作。続きの部分は高杉が親しくしていた尼さんが詠んだんだそうだよ」
「尼さんってなんだかいかがわしい響き」
「そうか? 尼さんってのはだな……」
「なんとなくは尼さんってものも知ってますけど、それゆえにいかがわしいんですよ」
「うん、まあ、そうとも言えなくも……」
「言えなくもあり、言えなくもなし」
「おまえは頭の回転は速いよな」
 それっていいこと? と尋ねたら、いい面も悪い面もある、との返事がもらえそうに思える。あてもなく歩いていたつもりが、章のアパートの前に出ていた。
 灯りは消えている。章はロックバンドをやると言っていたから、今ごろは仕事をしているのだろうか。俺はロックにはそんなに興味はないけれど、いつか章が有名なロックヴォーカリストになったら会いにいこう。サインをもらおう。
「誰だ、おまえ? おまえなんか知らねえぞ」
 章はそう言いそうな気がするが、ミャーコちゃんの名前を持ち出せば、ぎくっとしてサインをしてくれるかもしれない。
 一年生の年には俺も仲良くしていたミャーコちゃんに、章は告白したのだそうだ。そのくせ、章はミャーコちゃんがライヴハウスを訪ねていったときには、他の女の子とキスしていた。ミャーコちゃんが言っていたのだから、正しいのだろう。
 悪い奴だよね、章は。でも、おまえはもてたんだもんな。ロッカーになったらいっそうもてるようになった? 二度と会えないかもしれないけど、会えたとしたら、可愛い女の子を紹介してよね。サインもしてよね。
 章の部屋に向かって話しかけている俺を一瞥して、乾さんが煙草に火をつけた。乾さんはここがなんなのかを知っているのだろうか。知っていたとしても口にしないのは、俺の気持ちを推理しているからだったのだろうか。


7・章


 四人の女の子とヴォーカルの俺がやっているロックバンド「ジギー」。アマチュアではあるが仕事もある。
 今夜はライヴハウスで仕事をして、仲間たちと飲んでいたときに知り合った女の子と、一緒に俺のアパートに帰ってきた。知り合った奴らの中には男もいたから、うちのメンバーたちも誰かをアパートに連れていったのだろうか。
「おまえ、なんて名前?」
「さっきも言ったじゃん。マリモ」
「本名はマリって言うんじゃねえの? うちのキーボードもマリだし、俺の昔の彼女にもマリコがいたぜ。マリモだなんて変わった名前にしてるけど、本名は?」
「本名はどうでもいいでしょ」
「どうでもいいよ」
 実はおまえもどうでもいいよ、と言わずにいると、マリモは俺のアパートのドアを見やった。
「なにか挟んであるよ」
「なんだ? 風俗のちらしか」
「そうなのかもね」
 見ていいよ、とも言っていないのに、マリモはドアに挟んであった紙片を広げて見た。
「面白きこともなき世を面白く、住んでいますか、章くん? なんだぁ、これ?」
「いたずらだろ。捨てろ」
「マリコちゃんのいたずら?」
「俺が言ったマリコは、北海道にいるはずだよ。俺の昔の彼女はマリコだけじゃないんだから、いーっぱいいたんだから。女のいたずらだとしても、別に実害があるわけじゃなし」
 マリモの手から紙片を取り上げて、中も見ずに破って捨てた。
「アキラの毎日は面白いよね」
「別に……」
「そうなの? 面白いからロックバンドをやってるんでしょ」
 勝手に冷蔵庫を開けて、俺の許可も得ずにビールを飲んでいる。一本しかないのにぃ、と言いたくなったのだが、このくらいはおごってやろうか。
「ビールなんか飲むとキスがビールの味になりそうだな。マリ、来いよ」
 布団を敷いて手招きすると、マリモは言った。
「あたしが好き?」
「嫌いではないよ」
「好きになっていい?」
「ジギーのヴォーカルのアキラとしてだったら、どんどん好きになって」
「木村章として好きだったらいけないの?」
「おまえは自分の本名は言わないくせに、俺の本名は知ってんのか。いいから来いよ。寝る気がないんだったら帰れ」
 飲み干したビールの缶が飛んできた。俺がキャッチして投げ返すと、マリモは片手で缶を叩き落とし、布団に乗っかった。
「あたしはジギーのファンだから、ファンサービスとして寝るの?」
「なんだっていいだろ。することは同じだよ」
「同じでもないんだけどね。男にしたら同じなのかな」
「女だってそうだろうが」
「……そうなのかな。そうなんだろうね」
 つべこべ言いたがる口をキスでふさいで黙らせて、布団に倒れ込んだ。
 仕事も楽しくなくはないし、その気になれば女はよりどりみどりなのも、楽しいといえば楽しい。俺は宿願だったロックバンドのヴォーカリストになれたのだから、いずれはきっとジギーはプロになるのだから、これで楽しくなかったら、他に楽しいことがあるはずがない。
 大学を中退して親父に勘当を申し渡され、仕送りは途絶えた。母からは手紙が届いたけれど、読まずに捨てた。もちろん返事も書かずにいたら弟から葉書が届いた。母に書かされたのであろう。小学校二年生の拙い大きな文字が躍っていた。
「にいちゃん げんき? ぼくはげんきだよ」
 「き」と「よ」が鏡文字になっていて、二年生にもなってまともに平仮名も書けないのか、と罵って、その葉書も捨てた。
 こんなアパートにいるから、母や龍がよけいな真似をするのだろう。いっそ家族は誰も知らないところに引っ越してしまえば、完全に縁が切れるのに、金がないから引っ越しもできない。金がないのが俺の一番の不満か。
 大学生になるために上京してきて、親が借りてくれたアパートだ。学生だったころにも勉強なんかしなくて、ロックスターのポスターを貼って、ロックをがんがん流しまくって、学校の友達と部屋でゲームをしたり、喋ったりしていた。
 友達って誰だったかな? 覚えてはいるけれど、思い出したくない。俺は学生だった木村章は捨てて、ジギーのアキラとして生きるのだから。
 稚内のロック少年だった章も捨てる。大学生だった章も捨てる。学生時代最後に好きになった女の子には告白したのだが、見事に無視されたようだから、ちょうどよかったのだろう。俺は学生だった章はすべて捨てる。
 そうしてきっとプロのロッカーになる。そのために励んでいる日々は面白いに決まっているではないか。
 マリモは俺の腕の中で目を硬く閉じている。好きでもなければ嫌いでもない女でも、ほっそりした肢体は俺の好みなのだから、顔も可愛いほうなのだから、それだけでいい。心なんていらない。俺だっておまえに心はやらないよ。
 恋なんかいらない。抱きたくなったときにだけ、女がいればいい。俺はそう思っているのに、おまえは俺の心がほしい? そんなふうに思うから、目を開くと切なそうなまなざしになるのか? やめろよな、そんな目は。

未完
第三部に続く
 
 


 

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~ Comment ~

今日は朝から雨。雨の日は小説日和。

おはようございます!今日はこの部分を読ませていただきました。
じっくり読むと、1時間くらいはかかりますね。
昨夜 は寝てしまったのですが・・・けっこう続きが読みたくて、私もこの世界にはまりそうです。
とにかく懐かしい。公衆電話やら・・。男女の交際やら。方言自慢みたいなこともやってたかなあ。
自分の学生時代とぴったり当てはまります。
多分あかねさんと年がそんなに離れてないからだと勝手に思う(笑)シーンを思い浮かべながら読ませていただきました。
雨やし。雨の日は小説日和じゃありませんか?私だけ?
また来ますね。私はこっちからでよかった~。読み応えがあります。

NoTitle

ほんとにほんとにありがとうございます。
たぶん私のほうが年上だと思いますけど。。。
まあ、年の話はやめておきましょうv-12

読みたいけど長ーい、って言われて、
友達もなかなか読んでくれないのですよ。
長いのが好きだと言っていただくのも嬉しいです。

フォレストシンガーズストーリィは学生時代から、現代に至る。
現代は最年長本橋くんが三十五歳でして、
それ以上は年を取らせないでおこうかな、と言いつつ、
未来の話なんかも書いてます。

彼らの職業は特殊ですけど、私がただ音楽好きというだけで、
知識がありませんのでいい加減です。

そんなんでよろしかったら、
いっぱい読んでやって下さいね。
ご感想はとっても励みになります。

NoTitle

おはようございます!昨日は何を書いてるか自分でも段々わからなくなり・・いつもそうなのですが・・・
もっと書きたいことがあったなあ・・と後で思い出してました。
あかねさんの小説は、じっくり読むと続きが気になって、すごくまた読みたくなります。
それぞれの恋愛も気になります。私は真鍋さんにほっぺを触られて思わず怒っちゃった美江子さん(名前合ってます??)が、実は彼氏がいて、結構大人のお付き合いをしていたことにも・・・
おっ、女子ってそういうとこあるよな・・・とか、すごく懐かしく、ふむふむと納得したり・・・。また章くんもすごく気になる存在ではあるのですが、当時・・・今はどうなのかわかりませんが・・・音楽(ロック)やってた人はエッチもその生活の一部で、カッコいいだろ?みたいな退廃的な感じがありましたよね。私は退廃的という言葉が大好きでした(笑)・・・長くなりましたが・・・また読ませていただきます。
また読んだら感想を書かせていただきますねi-88

ROCK MUSICIAN

私は英米ロックが好きで、ロックミュージシャンも好きで、でも、あまり知り合いにはいません。昔、ロッカーとちょっとだけ……とか、今はネット上でもとロッカーって男性とお話するとか、シンガーソングライターの女性にいろいろ教えてもらうとか、その程度です。

ですから知識はないのですけど、すでに中年になってるロッカーさんたちは、結婚しててもむふふ、だなんて、音楽関係の仕事をしている男性は言ってましたよ。
今どきの若いロッカーも近いのではないでしょうかね? どうなのでしょう。

美江子、はい、合ってます。美月さんもおっしゃっていた通り、ネーミングには楽しい苦労をしますよね。
セクハラなんてものも考えて、中途半端にこんな描写をしました。
女の子はこんなところがあるから、男性はセクハラには悩まされると、十八の小娘が考えるにはませてるかもしれませんね。

ご感想は大々歓迎ですので、どうぞ長~く書いて下さい。
楽しみに待ってます。

NoTitle

あかねさん、長いっ!!
一人一人のがおもしろいので感想書きたいのに長くなりすぎますっ!
なのでお覚悟を(笑)

美江ちゃんだったんですね、セクハラされたの(笑)
そしてこの時は星さんとまだ・・・。でももう別れの予感・・・。可哀想に!向こうから来たくせに、どういう了見だっ!と思ってしまいます(笑)

真次郎君は本当の男の子って感じでいいですね♪
考え方とかが本当に男の子っぽくて無理もしてないし、背伸びもしてない等身大といった雰囲気ですね♪
ちなみに盗んだものって!「私の心」ですか?(キャッ!)いいですねぇ。
カリオストロの城の銭形警部の最後の言葉を思い出します(知ってますか?)

隆也君、たぶらかされてますねぇ。私こういう女の子はちょっと苦手です・・・。まあ恋の駆け引きとかそういうややこしーいの、したこともしたいとも思った事がないからなんでしょうね(汗)
でも私的には隆也君は十分男らしいですけどね。ちゃんとまっすぐに持ってるものがある人間が好きなので!喧嘩が強いだけが男じゃない!自分だけ逃げるとかはダメだけど負けると分かってても立ち向かう男の何が男らしくないのかっ!すみません。ちょっと興奮しました(汗)

英彦君はまあなりゆきって感じでしょうか?でも意外でしたね、上京一日目で女が欲しい!って感じも結構強かったように思ったんですが、あの教訓がずいぶんと長い間・・・関係ありませんか?(笑)でも自然体でいられるっていうのも大事ですよね♪えーとちなみに恵ちゃんと結婚だったでしたっけ?名前までは覚えてない・・・(汗)

シゲ君笑える!!もう楽しすぎ!!そして・・・あまりに哀れです!哀れなんだけど、やっぱり笑える!!
でもたおるさんのイラストを見たから知ってます♪でも変にそういうのに鋭い男よりは鈍い男の方が絶対にいい旦那さんにはなれますよね!私も奥歯に物がはさまったような言い方とか嫌いなタイプで(笑)シゲ君気が合いそう♪

ユキちゃんは相変わらず面白い子ですね。でも、ユキちゃんから見ると隆也君ってまるで別人みたい(笑)。ただ先輩と後輩ってそんなものなのかもしれませんね。自分自身ではダメダメだと思ってても、後輩からしたら先輩はかっこいい♪みたいな。章君を想って黙るユキちゃんを見守る隆也君は確かにかっこいい!!いい男ですね!(あれ、ユキちゃんへの感想じゃなくなってる・・?)そういえばアイちゃんって・・・誰?出てきました??そしてもう亡くなってるって!ユキちゃん意外と辛い思い出を引き摺ってるんですね。全然そんな風に見えない子ですけど。。。

章君!!荒んでますね。。。最初の初々しい入学式の時の貴方はいずこに!?でもどうやったらこれでフォレストシンガーズに?みたいな感じですが・・・。とにかく、女の子に対してそんな扱いをしてはいけません!おばちゃん怒っちゃいますよ(笑)

というわけで長ったらしい感想を。。。
ごめんなさい!!!
だって本編が長いのが悪いんだいっ!(笑)
でもそれぞれの視点でお互いを見るのっておもしろいですねぇ。すごい楽しいです♪
またちょこちょこ読んでいきますね!
そしてこんな恐ろしく長い感想が来るという恐怖が・・・ふふふ(笑)
  • #1998 ぐりーんすぷらうと 
  • URL 
  • 2013.12/12 00:12 
  •  ▲EntryTop 

ぐりーんすぷらうとさんへ

>あかねさん、長いっ!!
一人一人のがおもしろいので感想書きたいのに長くなりすぎますっ!
なのでお覚悟を(笑)

ありがとうございます。
長文コメントは大好きですので、私も長~くお返事を書きますね。

>そしてこの時は星さんとまだ・・・。でももう別れの予感・・・。可哀想に!向こうから来たくせに、どういう了見だっ!と思ってしまいます(笑)

そうなのですよ。
現実でだったらもちろん、誠実で真面目な男性が好きなのですけど、自分で書く場合に限っては、かなり遊び人男性が好き傾向があります。
この星丈人って男もそのタイプでして……。
次々にそのタイプが出てきますので、ご不快になられたらごめんなさい。

実はシゲと隆也以外は、フォレストシンガーズの面々にもその傾向、アリです。
そういう男、お嫌いでしょうか。心配なんですけど。

> ちなみに盗んだものって!「私の心」ですか?(キャッ!)いいですねぇ。
カリオストロの城の銭形警部の最後の言葉を思い出します(知ってますか?)

乃理子が盗まれたものは、その通り、「私のハート」ですね。
こうして改めて書くと、なんて恥ずかしい台詞……と思いますが、シンちゃんの鈍感さを書きたかったものでして。
「カリオストロの城」は見ましたが、記憶力がザルですので細かくは覚えていません。
でも、なんかそんなことを言っていたような気はします。


>隆也君、たぶらかされてますねぇ。私こういう女の子はちょっと苦手です・・・。まあ恋の駆け引きとかそういうややこしーいの、したこともしたいとも思った事がないからなんでしょうね(汗)

たぶんこの純子は、女性には嫌われる女でしょうね。
私も彼女とは友達になりたくありません。

>でも私的には隆也君は十分男らしいですけどね。

「男らしい」というフレーズにつきましては、これはもう、お会いして話をしないと私の感覚がわかってもらえないかと思います。
ただ、私が「男らしい」と書くときには単純な褒め言葉ではないんですよね。
このことについて書いていると夜が明けますので、いつかお会いできる機会でもあれば、語り明かしたいです。

>英彦君はまあなりゆきって感じでしょうか?でも意外でしたね、上京一日目で女が欲しい!って感じも結構強かったように思ったんですが、

ヒデも相当な遊び人で、恵の前にはナンパしてちらほらと女の子と……彼はわりにルックスもいいものでして……(^^;汗っです。
結婚相手は、はい、この恵です。

>シゲ君笑える!!もう楽しすぎ!!そして・・・あまりに哀れです!哀れなんだけど、やっぱり笑える!!

笑っていただけて嬉しいです(^o^)

>でもたおるさんのイラストを見たから知ってます♪でも変にそういうのに鋭い男よりは鈍い男の方が絶対にいい旦那さんにはなれますよね!

はーい、同感です。
あんまり鋭敏な男ってのはね……つきあってて疲れますよね。

>ユキちゃんは相変わらず面白い子ですね。

ユキはこのころから、乾さん、大好き、だけど、時々腹が立つ、うざい、と考えるようになりました。
以前に読んで下さった男性が、BLの香りがする、とおっしゃったのは、ユキのこの感情かな?
ぐりーんすぷらうと さんは、BLはいかがですか?

>そういえばアイちゃんって・・・誰?出てきました??そしてもう亡くなってるって!ユキちゃん意外と辛い思い出を引き摺ってるんですね。全然そんな風に見えない子ですけど。。。

すみません。アイちゃんは本編には出てくるのですが、クロニクルでは詳しくは書いていませんね。
こんなのがありますので、よろしければ読んでやって下さいませ。

番外編84(ここにいるの?)
http://quianred.blog99.fc2.com/blog-entry-584.html

>章君!!荒んでますね。。。最初の初々しい入学式の時の貴方はいずこに!?でもどうやったらこれでフォレストシンガーズに?みたいな感じですが・・・。とにかく、女の子に対してそんな扱いをしてはいけません!おばちゃん怒っちゃいますよ(笑)

怒ってやって下さい。お願いします。
若いころは章がいちばん、ちゃらんぼらんだったかな。幸生もいい勝負かな。
それでも幸生と章の女の子とのつきあいは、種類がちがう感じなのですね。
ああ、でも、ほんと、こと女性関係に関してはいい加減な男が続出しますので、ぐりーんすぷらうと さんには嫌われないかと、とても心配です。

>またちょこちょこ読んでいきますね!
そしてこんな恐ろしく長い感想が来るという恐怖が・・・ふふふ(笑)

長い感想、大歓迎です。
こんな長いのを読んでいただいて、ご丁寧な感想文もいただいて、感謝感激です。
私も長いお返事で、失礼しました。
返事も読んでいただいて、ありがとうございました。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

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