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小説174(Tiger rag)

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フォレストシンガーズストーリィ174

「Tiger rag」

1

いつもの朝、いつもの出勤。俺はプロデビューしてから二年足らずの売れないシンガーズの一員なのだから、サラリーマンではないのだが、練習用スタジオに行くのは出勤気分だ。今日もみんなで歌の練習。
 三度のメシより歌が好き。フォレストシンガーズの全員に共通した想いではあろうが、俺は歌とメシは同じくらい好きだ。朝メシを食う時間がなくて、朝食抜きで出てきたものだから、腹が減って倒れそうになってきた。
 スタジオに向かう途中のコンビニで握り飯を三つ買い、行儀悪くも歩き食いしつつ足を速めていたのだが、公園に入っていったところで足が止まった。
「幸生……おまえが抱いてるものは?」
「これって猫じゃないよね?」
 顔をしかめている幸生の腕の中にいる動物は、一見したところは猫だ。猫大好き幸生なのは俺も知っているから、捨て猫なり迷い猫なりを見つけると保護したくなるとも知っている。幸生は昔から捨て猫を何度も何度も拾っては、お母さんに迷惑をかけていたのだそうだ。
 俺は猫よりも犬が好きだが、猫も嫌いでもない。幸生が抱いている動物をよくよく見てみたら、猫に似てはいるものの、四肢が太くて身体つきもたくましく、トラ模様の毛皮をまとっている。は? トラ柄?
「幸生、そいつ、トラの子供じゃないのか?」
「シゲさんの好きなタイガー? ジュニアタイガース」
「タイガースじゃなくて単数だろうが。タイガースは昨日は……って、タイガースは無関係だろ。トラの子供なんかをどこで拾ったんだ」
「ここ」
 公園の植え込みを指差して、幸生はトラの子であろう動物に言った。
「おまえの名前はトラッキーにしようか。ああ、女の子だね。トラッキーの彼女ってなんて名前?」
「ラッキーだけど、そんな話をしてる場合じゃないだろ。名前をつけてる場合でもないじゃないか。どうして公園にトラの子供がいるんだ」
「生後一ヶ月くらいじゃない? ママに捨てられたの? いけないママだね。ママはおまえを捨ててよその男と浮気して、別の子供を産んでそいつのほうの面倒を見るつもりでいるんだよ。かわいそうなラッキーちゃん」
「……あのさ、幸生、おまえはな」
「はい、シゲさん。トラとはいえ、奔放な女はそういうものなんだね」
「……あのな、あのさ、呑気な話をしてる場合でもないんだよ。動物園から迷い出てきたんじゃないのか。そんなだったらニュースになってるよな。警察へ連れていこうか」
「もうちょっと抱っこしていたいよ」
「おまえはトラも好きか」
「タイガースは嫌いだけど、猫科の動物はみんな好き」
 ひしとトラの子を抱きしめて、幸生は言った。
「トラの子ってお金の別名じゃなかった? 貧乏神のさかさまで、ラッキーは俺たちに金銭運をもたらせてくれる幸運の女神なんだよ。警察に連絡するにしても、スタジオに連れていってミルクでもやろうよ。トラなんて抱っこできるチャンスはないんだよ」
 いつに変わらぬノーテンキな台詞を発して、幸生は俺にラッキーを……乗せられているのだが、名前がないと不便だからラッキーでいい。そのラッキーを抱かせようとした。
「太い爪をしてるな。そんなのにひっかかれたりしたら大怪我しそうだ。俺は抱きたくないよ」
「抱くんだったら人間の美人がいいよね」
「そっちの方面に話を進めるな」
「うーむ。手袋でもはめてくれたらいいんだけど、いやがるだろうな。犬は服を着せられても我慢するみたいだけど、猫に服を着せるのは至難の技だよ。獣医さんがつけようとするエリザベスカラーだとか、治療のときの拘束衣だとか、うちの妹たちが着せようとしたお洋服だとか、なんだって拒否して暴れるんだもんね」
「そんな話はどうでもいいから、連れていくのか?」
「うん。もうしばらくでいいから、抱いていたいよ」
「……連れていくしかないな。警察だってすぐには来てくれないだろうし、ぐずぐずしてると遅刻するよ。幸生、行こう」
「シゲさん、嬉しいわ。ありがとう。だからシゲさんって……」
「いいから行こう」
 シゲさんって好き、と言われる前にと、幸生を促して歩き出した。
 スタジオに到着すると、本橋さんも乾さんも章も来ていた。おう、遅かったな、シゲが遅いとは珍しいな、と先輩たちは言い、章も言った。
「遅刻すれすれ。たるんでますよ、シゲさん。幸生、遅れた罰を……って……猫か。おまえはまた猫なんかを……スタジオへそんなものを連れてくるな」
「たまに早く来たからって、いばってるのね、章ちゃんったら。これが猫に見える?」
「朝っぱらから女声で喋るな。猫じゃなかったらなんなんだ」
「猫じゃないのか? んんん?」
 近づいてきた乾さんがトラの子に顔を近づけていった。
「ラッキーちゃんでーす。よろしくね。うわっち!! しゅわっち!!」
 素早くラッキーを遠ざけようとした幸生の行為は一足遅く、トラの子の鋭い爪が乾さんの鼻先をかすめた。
「うっ……」
 二歩、三歩とあとずさった乾さんは鼻を押さえ、本橋さんが言った。
「猫じゃなかったらチータとか? ピューマとか? カラカルか? コドコド? サーバル? サーベルタイガー?」
「おまえはなんだってそういう一般的じゃない動物の名を出すんだよ。サーベルタイガーからサーベルを外せ」
 言いつつ、鼻から手を離した乾さんに、本橋さんは言った。
「タイガー? トラか」
「トラだろうな。この模様からしても体格からしても。幸生、トラをどこかから盗んできたのか」
 乾さんの鼻から血が出ている。章がポケットから出したバンドエイドを、乾さんの傷に貼り付け、乾さんは言った。
「ああ、ありがとう、章。幸生、どうしておまえがトラを……隆也兄ちゃんはおまえを泥棒に育てた覚えはないよ。悲しいよ、兄ちゃんは」
 カラカルだのコドコドだの、この台詞だの、先輩たちも呑気だ。幸生がラッキーをどうやって保護したのかを話し、本橋さんは言った。
「トラを飼ってる家ってのもあるのかな。都会の下水道にはペットとして飼われていたワニが逃げ出してきて巨大化して、棲みついてるって都市伝説もあるだろ」
「都市伝説の話しに広げるな、本橋。トラを飼ってる家か。あるかもしれないな。幸生、おまえ、そうやってラッキーを抱いていたら、トラのママが怒って報復しにくるぞ。私の子供を奪っていったのはおまえか、とばかりに、食われるぞ。トラに食われたら本望か?」
「ひええ。乾さんったら、冗談は顔だけに……食われるなんて本望じゃありませんよ」
 先輩にそうは言えないが、まったく乾さんときたら、まったく、冗談は顔だけに……冗談みたいな顔はおまえだろ、と言われそうな気がして、俺も呑気におのれの顔を見たくなっていると、章が叫んだ。
「わっ!! ほんとにトラが来たっ!! トラの母ちゃんだっ!!」
「ええっ?! リーダーっ!! ウルトラマンに変身してっ!!」
「よーし。やってやろう。ってなぁ、馬鹿野郎。できるかっ!!」
「俺が仮面ライダーに変身しようか」
「乾さんったら、正体は仮面ライダーだったの? 変身してして」
 まったくもう、みんなそろって緊迫感なさすぎだ。ここは俺がおさめるしかなさそうなので、言ってみた。
「先輩たち、静まって下さい。後輩たちも静まれ」
 はい、シゲさん、と四人で言って、俺の顔を見つめ、乾さんが言った。
「シゲさん、打開策を発言して下さい」
「だからね……警察しかないでしょう」
「そうだろうな」
 本橋さんがうなずき、幸生は言った。
「その前に、ミルクを飲ませてやろうよ。俺が母乳を飲ませてやれたらいいんだけど、子持ちの母じゃないからおっぱいは出せないの。ごめんね、ラッキー」
「おまえは妊娠できるのか。母乳が出せるのか」
「そうだよ。章、知らなかった?」
 またしても話が冗談へと流れていっている。俺がうなだれているうちに、幸生はコンビニへと駆け出していき、ラッキーは乾さんのバッグに入れられた。バッグの中から顔だけ出して、ラッキーはきょろきょろしている。本橋さんは言った。
「章、こいつはうかうかしてると爪を出すし、牙だって出すだろ。おまえが抱いてると精神の鍛錬になっていいかもしれないぞ。抱いててやれよ」
「けっこうです。あ、あ、あああ……」
 太く鋭い爪で、ラッキーが乾さんのバッグを切り裂こうとしている。子供とはいえ、こいつは猛獣なのだ。乾さんはバッグごとラッキーを抱え上げて言った。
「裂けかけのバッグだって防御服程度にはなるだろ。俺が抱いてるよ」
 ぎゅっと乾さんに抱きしめられて、ラッキーは不満げな顔をした。そこではじめて出したラッキーの声は、猫に似ている。少々ハスキーな猫声だろう。にゃーにゃーに近い声を出し、乾さんの腕から逃げ出そうとしている様子のラッキーは、可愛いといえば可愛かった。
 コンビニからミルクを持って帰ってきた幸生を見ると、ラッキーが騒ぎはじめる。幸生はとろけそうな声と顔をしてラッキーを抱き取った。
「やっぱりおまえは俺がいいんだね。俺を母ちゃんだと思ってる? 俺は人間だし男なんだけど、母ちゃんがわりにはなれるよ。子守唄を歌ってあげようね」
 幸生に抱かれるとおとなしくなったラッキーは、うにゃうにゃと甘えているようにも見える。猫好き男にはトラの母ちゃん役もできるのか。
 眠れよい子よ~と女声で歌っている幸生に抱かれて、ラッキーは眠りかけている。本橋さんと乾さんは、どうやって警察に話そうか、などと相談していて、章はラッキーの頭を撫でようとした。途端にラッキーは目を開き、章を威嚇した。牙を剥いて唸るラッキーは、さすがにトラで、子供とはいえ迫力十分だった。
「うげ、怖っ!! 幸生、そいつをおまえの養子にしろよ」
「したいんだけどね、大きくなるんだろ。もしかしたら俺よりも体重が多くなるんだよね。そんな女の子と同居はできないの」
「こいつ、女なのか?」
「だからラッキーって名前にしたんだよ。トラッキーの彼女の名前だよ」
「トラッキーってタイガースのマスコットだよな。シゲさんが命名したのか」
「そうそう。トラったらタイガースなのに、タイガースファンのシゲさんも怖がってるの。怖くなんかないのにね。こんなに可愛いお嬢ちゃんなのにぃ」
「おまえに抱かれてると可愛く見えるけど、怖いじゃん。ねぇ、シゲさん?」
 怖くないとは言えないので、俺は曖昧にうなずき、幸生は言った。
「猫と暮らすのも俺の夢だけど、トラだったらもっといいな。虎に抱かれて眠る。虎の背中に乗って威風堂々と街を歩く。おー、かっこいい」
「獣の匂いに包まれて?」
「ああ、章、それもあるね。ちびでも獣の匂いがするもんな。無理な夢とは知りつつも、憧れるわ、僕ちゃん。このまんまで大きくならないおまえと暮らしたいよ」
 トラと暮らしたいだなんて、俺には発想外も発想外だが、幸生って奴は普通の人間とはちがった発想をする奴なのだ。先輩たちの相談はまとまったようで、乾さんが電話をかけようとしている。そのとき、スタジオのドアが開いた。
 がおーっ!! の咆哮が聞こえ、俺は咄嗟に章と幸生の前に立ちふさがった。乾さんは電話を投げ出して身構え、本橋さんは手にボールを持って振りかぶった。章はがたついているようだったが、幸生は言った。
「リーダー、ボールをトラに投げるの? そんなのってトラには効果ありませんよ」
「あ、ああ、そうか。けど、武器がねえぞ。乾、おまえは素手でトラに立ち向かうつもりか」
「殺されるよな。みんな、短いつきあいだったけど、ありがとう」
 いまだ緊迫感のない声を出して、三人が言い合っている。章は背後から俺にしがみつき、俺は言葉も出せなくなっていたのだが、幸生が歌い出した。
 
「Hold that tiger
 Hold that tiger
 Hold that tiger
 Hold that tiger
 Hold that tiger
 Hold that tiger
 Hold that tiger

 Where's that tiger?
 Where's that tiger?
 Where's that tiger?
 Where's that tiger?
 Where's that tiger?
 Where's that tiger?
 Where's that tiger?」

 たしかに目の前に巨大な大人のトラがいるってのに、本橋さんと乾さんが幸生の歌にハーモニーをつけている。俺はどうすべきかと考えていたら、スタジオに駆け込んできた人がいた。
「ああ、すみません。ここにいたんだ」
 トラには負けるだろうが、大きな男だった。男はトラの首輪についている縄を引き、俺たちに頭を下げた。
「うちのトラの子供が逃げ出しまして、探していたら公園で聞いたんですよ。猫みたいだけど猫でもなさそうな動物を抱いた人たちが、こっちのほうへ行ったって。こっちにはスタジオがあって、そこで働いてる人じゃないかと聞きまして、来てみたんです。うちのトラの子供がいるんだったら、早くこいつにも会わせてやりたいと思って、連れてきたのはいいけれど、途中で私の手を振り切って走っていってしまったんです」
「あなたが飼ってらっしゃるんですか」
 尋ねたのは乾さんで、男が応えた。
「ええ。トラを飼いたいって人もいるんで、子供のうちだけは家庭で育ててもらい、大きくなると動物園に引き取ってもらうってことをしてるんです。私はトラのブリーダーと言うのか、そんなものです。こいつは母親ですよ」
 法律違反ではないのかとも思ったが、俺は黙って聞いていた。章はへたっと崩れてしまい、本橋さんも言った。
「成獣のトラを連れて街を歩くなんて、危険でしょうに」
「こいつはおとなしいんですよ。ここまでは車に乗せてきましたから、大丈夫です。そいつを返してやってもらえますか」
「やだぁ」
 たぶん冗談だろうと思うが、幸生が子供みたいに言った。
「もうちょっとだけラッキーと遊びたいよぉ」
「幸生、馬鹿言うな」
 本橋さんに睨まれた幸生は、口をとがらせてラッキーを抱きしめた。他の人間には容易にはなつかない野性の獣、ライオンとは両雄であろう百獣の王たるトラの子が、幸生にだけは甘えた目を向けて、甘えた声を出す。幸生はラッキーの喉をくすぐりながら言った。
「この子、本名はなんて言うんですか」
「名前はありません」
「じゃあ、ラッキーでいいですよね。ママはラッキーちゃんを返してほしい? ママに捨てられたんじゃなかったんだね。よかったね。ラッキー、おうちにお帰り」
 ラッキーは母トラに近寄っていき、身体をすり寄せた。母トラが子供をなめてやり、幸生は手を出そうとして、乾さんにその手を叩き落されていた。
「いでぇ。だーって、ママもさわりたいよぉ」
「手を食われるぞ」
「だってだってぇ。トラを抱っこしたり撫でたりするなんて、二度とできないんだもん。飼い主さん、駄目?」
「やめたほうがいいですよ」
「そうですか。じゃあ、ミルクは?」
「子供のトラには母親の乳がいいんですよ」
「俺の母乳は?」
「はあ?」
 飼い主さんが首をひねり、本橋さんは幸生の頭をぼかっとやってから言った。
「こいつは気にしないで下さいね。それはそれとしても、危険でしょうが。子トラだって人間の子供を襲ったりするかもしれない。あなたはそんな仕事をしてるんだったら、責任をまっとうして下さい。子トラだってなんだって、逃がすようではそんな仕事をする資格はない」
「若いくせして居丈高なもの言いをする人だな。しかし、返す言葉はありませんよ。重々気をつけます。お騒がせしました。失礼します」
 ラッキーを抱き上げ、母トラの縄を引いて、男は出ていった。
「僕ちゃん、寂しいよぉぉ。隆也さん、なぐさめて」
 泣き真似している幸生を、乾さんが抱き寄せた。
「よしよし。ユキ、聞き分けよくできていい子だったね。いい子にできたご褒美に、キスしてあげようか」
「うん、隆也さん……え? キス? そう出るか。いえね、ユキちゃんはキスはしてもらうよりもこっちからするのがいいの。ご褒美だったらおいしいものをご馳走して」
「そうだな。トラのステーキにしようか」
「トラって肉食獣だからおいしくないよ。牛のステーキがいいな」
「豚にしておけ。ビーフステーキをおごる金はないんだよ」
「ケチね。だからさ、トラの子がいなくなると金運にも見放されるんだよ。そのかわり、可愛いにゃんこのユキちゃんがいるから、猫の子が幸運を運んできてあげる」
「ああ。にゃんこちゃん、待ってるよ」
「待っててね」
 見ていてほうぼうがかゆくなってくる芝居に、章が終止符を打ってくれた。
「腰が抜けたよ。歩けないよ」
「章ちゃん、隆也さんに抱っこしてもらう? お昼はポークステーキだよ。乾さんが全員の分を出してくれるんだって」
「いいよ。命があったお祝いだ」
 殺されるの命があったの、物騒な台詞をしゃあしゃあと言ってくれるんだから、乾さんってお方の発想も普通の人間ではない。
 しかし、あのトラが飼い主なしでスタジオに飛び込んできたのだとしたら、我々全員が絶命していたとも考えられて、改めてぞぞっとしてきた。なのに、章以外はたいしてぶるってもいなかったのだから、度胸があるというかなんというか。俺にはついていけないよ、と嘆息していたら、幸生が言った。
「シゲさん、かばってくれてありがとう。章もお礼を言わなくちゃ」
「かばってくれたのか、シゲさんが? 俺は怖くて怖くて、あの場の状況が判断できなかったよ。そうだったんだね。ありがとうございます、シゲさん」
 乾さんも言った。
「シゲと本橋がいたら、トラにだって勝つ。ってのは無理か。さ、練習しようぜ。TIGER RAGをもう一度歌おうか。あの歌はハーモニーでできてるようなものだから、ちょうどいいだろ。歌おう」
 本橋さんも言った。
「俺はちょっとだけ……いや、トラと闘うと殺されるな。でも、やってみたかったよ」
「トラと人間の死闘って、どこかで聞いたことがありますけど……なんだっけ」
 幸生が言い、乾さんが答えた。
「ローマのコロシアムかな。奴隷と猛獣が闘って、貴族が見物するんだったよ。本橋、生まれ変わったらローマの奴隷ってどうだ?」
「過去の時代には生まれ変われないだろ」
「そうなのかな。輪廻転生の法則ってどうなってるんだろ」
「そんなものに法則があるのかよ」
 言い合っている本橋さんと乾さんに、幸生が割り込んだ。
「コロシアムで殺し合い。殺しアムアム」
 毎度のシャレは黙殺して、本橋さんは言った。
「いくらおとなしいったってトラだろ。俺はあの男が怒って飛びかかってこないかと……いや、なんでもない。練習だ、練習」
「そっちの夢もあったわけだね、リーダーには。トラがあいつの加勢をしたらどうするんだ?」
「俺はなんにも言ってねえだろ。乾、おまえも口を閉じろ」
「口を閉じたら歌えませーん」
 この幸生の台詞も毎度なので無視して、練習にとりかかった。章は全員を見回して呟いた。
「あんたら、実はみんな人間じゃないんじゃない? 幸生は化け猫、乾さんは口妖怪、本橋さんは喧嘩妖怪、シゲさんは……っと……」
「俺がなんだって?」
「食欲妖怪」
 否定できないので軽く肘打ちしてやると、章は床に倒れてシャウトした。
「ぎゃーっ、俺、立ち上がれないよぉっ!! 腰が抜けたのは治ったのに、シゲさんにノックアウトされたよーっ!!」
「オーバーな。章、立て」
「立てませーんっ!!」
 そうすると、章はなんだろう? ヘヴィメタシャウト妖怪か。俺にはうまいたとえも思いつかないので黙っていたが、美江子さんがここにいたとしたら、トラにどんな態度を取ったんだろう。それも思いつかないが、乾さんだったら思いついてくれるだろうか。
 どうせ妖怪なのだったら、歌の妖怪的スターになりたい。トラの子をうっとりと眠らせる歌を歌える幸生もいるし、いつかはそうなれる、かもしれない。
 金運の女神はいなくなったけれど、歌の女神さまはいるのかな。五人で歌っていたら呼び寄せられないものだろうか。なんにもなかったみたいな顔に戻って、歌っている俺の仲間たち。章も立ち上がって歌っている。幸生はラッキーに聴かせたいと考えて歌っているのだろうか。
 むろん俺も加わってベースパートで歌う。歌いつつ考えているのは、俺の場合は昼メシだ。今日のランチはポークステーキか。またまた腹が減ってきていた。

END




 
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