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小説164(空に星があるように)

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フォレストシンガーズストーリィ164


「空に星があるように」

 

 神戸に流れてきてから三年たつのか、四年か、ヒノデ電気のオーナーに拾ってもらってからは、長期休暇は取らずに働きづめだった。休暇なんて俺には贅沢だと考えていたのだが、今回はシゲに旅行に誘われて、どうしても行きたくなった。
 実松弾、実松ひとみの夫婦、彼らの娘の実松かよ乃。本庄繁之、本庄恭子の夫婦、彼らの息子の本庄広大。昔からの友達夫婦とその子どもたちと旅行に行くのも魅力的ではあったが、正直言って、瀬戸内泉水も行くからというのがもっとも魅力的だった。
 オーナーに切り出したら、たまには休め、楽しんでこい、と言ってもらって送り出してもらって、シゲたちと仙台に行った。
 だが、恭子さんが妊娠したと聞いたシゲが慌てはじめ、つまんないのー、と言っている奥さんを半ば強引に連れて帰ってしまったのだ。実松一家は仙台に残ったのだが、泉水ちゃんが言った。
「実松くんたちは水入らずにしてあげよ。ヒデは休暇が残ってるんだったら、うちに来る?」
「大阪か。行ってもええか?」
「いいよ、おいでよ」
 今度こそ、今度こそ言おう、との想いはあった。なのにふたりきりになるのは気まずくもあって、泉水ちゃんも呼んでもいいと言うので、幸生を呼び出した。
 幸生は気軽に大阪に来てくれて、三人で泉水ちゃんの家を訪ねた。そしてそして……俺のプロポーズは見事撃沈ってやつに終わったのだった。
 予想通りというのか、がっかりというのか。しかし、泉水ちゃんに彼氏がいると言うのならば、俺の出る幕なんぞない。これからも友達でいようと、高校生みたいなことを言った泉水ちゃんの言葉をありがたく抱きしめて、夜には幸生とふたり、泉水ちゃんの住まいを辞去した。
「ヒデさんも休みが残ってるの? 俺も残ってるよ。そんなら東京に来ない? 俺とふたりっきりなんていや? 襲わないからさ」
「おまえに襲われる俺やとでも思ってんのか?」
「襲ってくれてもいいけどね」
「おまえな、長いこと独身でいると、趣味がますますおかしくなってきたのか?」
「うん、かもね。乾さんにはプロポーズされたんだけどね」
「……」
 昔から幸生は女言葉を使ってみたり、リーダー、キスしてあげようか、だのと言ってみたり、隆也さん、愛してるわっ、と迫ってみたり、実に実におかしな奴だった。おかしな奴なのはまったく変わっていないのだが、より以上におかしくなったのか。
 いくらなんでも乾さんだって、自身も独身だからといって、手近な幸生で間に合わせようと? 俺の頭までおかしくなってきそうなので、冗談だ、冗談に決まっとるきに、と自分に言い聞かせた。
「次回のライヴで発表するかもよ」
「乾さんとおまえが結婚するってか?」
「引退後になるだろうから、ずっと先の話。心配しないで。それまでには日本も同性結婚が許されるようになってるかもしれないよね。楽しみだわ、ユキちゃん」
「幸生、頼む。冗談だと言ってくれ」
「さあねぇ。乾さんは本気みたいだったよ」
 深刻そうにうなずいてみせてから、幸生はにっこりした。
「だからね、俺は隆也さんのものなんだから、ヒデさんには襲われるのも襲うのもなし。ノープロブレム」
「……おまえと話してると、頭が……頭が……」
 あまりにもあり得ない話に頭が混乱してしまって、行くとも行かないとも返事をしないでいるうちに、新大阪駅にたどりついてしまった。幸生は勝手に新幹線のチケットを買い、俺に手渡してから言った。
「割り勘にしましょうね」
「当たり前だ」
「……あのさ、ヒデさん」
「なんやねん」
「男と男が結婚するとなると、両方が花婿衣装? それとも、ユキちゃんはウェディングドレスか打ち掛けを着たほうがいいのかな」
「頼むからやめろ。想像が想像が……」
「花嫁衣裳のユキちゃんを想像すると、ほんわかした心持になるでしょ?」
「なるかっ!! 変な夢を見そう……やめろーっ」
「まあまあ、落ち着いてね、ヒデさん」
「おまえはほんまもんになったんか?」
「ほんまもんって? ほうやきに。俺はほんまもんのシンガーやきに」
「……もうええわ」
 新幹線の車内でも、幸生は下らない話と馬鹿な話しかしなかった。これでも泉水ちゃんがいるとおとなしくしていたほうだったのであるらしい。
 なのに、いつしか幸生の話術に引き込まれていく。本橋さんや乾さんやシゲや章とのラジオでのやりとり、ステージでのMCの話などを聞かされて、感心したり笑ったりしていると、新幹線が東京駅に到着した。
 幸生の住まいへ行くためにタクシーに乗ってからも、幸生の馬鹿話が延々と続く。そうしていたらふっと気がついた。
 大阪の泉水ちゃんの部屋での、あの話には幸生は一切触れない。これが幸生流の思いやりか。俺は別にこたえていない、と言える気持ちにはなれずにいたので、それからは俺も昔のヒデに戻って、幸生の馬鹿話とつきあい続けていた。


 一人前にマンション住まいになった幸生の部屋にたどりついたのは深夜に近かったので、その夜はただ寝た。夜中に変な夢を見ていたような気がするが、夢は夢にしておいてほしい。もしや、乾隆也と三沢幸生の結婚式の招待状が届いたらどうしよう?
 うぎゃっ、と叫びそうになって布団に起き上がると、幸生はすでに起きていて、キッチンから物音がしていた。
「おはよう」
「遅いのね、ヒデさんったら。おはようのキスは?」
「やめ。それはもうやめっちゅうねん」
「はーい。俺までヒデさんの影響でほんまもんになったらあかんから、やめます」
「誰の影響やて? おまえの影響やろうが。ほんまもんとはちゃうんやな?」
「ちゃうちゃう。俺だって可愛い女の子と結婚したいよ。結婚っつうか、恋がしたいよ」
「女とやな?」
「念を押さないで下さい。ふざけてるとキスするよ」
「どっちがふざけてる……なに? すなっ!!」
 テーブルに並んでいるのは、コンビニのおにぎりとインスタント味噌汁だった。
「豪華な朝食でしょ?」
「ああ、豪華すぎて涙が出るよ」
「泣かないで食べてね。そうそう、今日はライヴがあるんだ。ヒデさんも行こうよ」
「誰のライヴ?」
「誰ってこともないんだよ。何人ものシンガーやバンドが出演するんだ」
「うーん、うーん……変なライヴじゃないだろうな」
「変なライヴじゃないよ。最高のライヴ。いいから僕ちゃんにまかせなさい。彼女と行けたらもっといいんだけど、ヒデさんとでも我慢するからね」
「我慢してくれてありがとう」
 ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ、ぴいちくぱあちく、三十歳の男の声だとはとても思えない調子で、食事中にも幸生は喋り続ける。俺も対抗して喋る。幸生と会うと、俺は以前のよく喋るヒデに戻ってしまう。
 ものごころついたころからフォレストシンガーズの一員であったころまでは、俺は乾さんや幸生や実松あたりには負けるものの、かなり饒舌な奴だったのだ。
 フォレストシンガーズを脱退して結婚し、茨城で暮らしていた時分には、恵には言われた。
「ヒデって無口になったね。私とお喋りしてもつまらない?」
「いいや」
 それでも新婚時代は、甘いムードもあった。いつからだろう。恵とのやりとりが会話ではなく、喧嘩ばかりになってしまったのは。
 そうして離婚して家を出て、放浪していた時代の俺は、余分な口などほとんどきかなかった。あんたは無口だな、とも言われなくなって、誰とも仕事以外の話をしないでいた日もあるほどで、お喋りヒデって誰だ? だったりもした。
 学生時代だって、ほんの一時期、フォレストシンガーズのメンバーだったころだって、シゲには呆れられるほどに、俺は幸生とはとめどもなく喋っていた。恵とだって、昔は話していれば楽しかった。だからこそ結婚したのだ。
 燃え上がるような恋ではなかったけれど、恵を好きだった。瑞穂が生まれたときには嬉しさもあった。恵との仲があんなになったのは、俺が悪い。すべて俺が悪い。
 自ら脱退すると告げて、歌ではなく恵を選んだくせに、俺の中には未練が溜まっていた。年を追うごとに未練が積もりに積もってうずたかくなっていって、フォレストシンガーズがメジャーデビューを果たしたと知って爆発した。
 誰が悪い? 俺だろ。俺以外の誰も悪くはない。すっぱり捨てたつもりの歌を、俺の夢を、心の底から放り出せない俺が悪い。
 どうしようもなく馬鹿な男と結婚した、恵が気の毒だと今では思う。まったく音沙汰もなくなった恵は、実家で両親と暮らしているのだろうか。娘の瑞穂は小学生になっただろう。会いたいと思わなくもないが、恵が会わせてくれるはずもない。
 シゲの息子の広大やら、実松の娘のかよ乃ちゃんやらを眺めていると、瑞穂が思い出された。俺はいつだって、未練ばかりを心に宿して生きている。こんな男と結婚したら、泉水ちゃんも気の毒だよな、と思うと、苦い笑みがこぼれた。
「そろそろ行こうか、ヒデさん? シャワー浴びてきたら?」
「ああ、そうさせてもらうよ。旅行は途中で終わったんだから、着替えも持ってきてる。幸生、ライヴってどこでやるんだ?」
 長い時間俺は無言でいたはずだが、幸生はそれについてはなにも言わず、質問に答えた。
「俺たちが大学のときに合宿した浜辺での、野外ライヴ」
「野外か。暑いよな。立ちっ放しで聴くんだろ? 保つかな」
「おじいさんみたいに言ってんじゃないっての。まだまだ若いんだよ」
「ああ、そうだった。はいはい、幸生さんのおっしゃる通りに致します」
 フォレストシンガーズは仕事であの浜にも訪れたのだそうだが、俺は卒業して以来、一度も行ってもいない。シャワーを浴びて身支度をして、なつかしい土地へと、幸生が運転する車が走り出した。


 こんな場所にいると、俺は浦島太郎に近い。幸生はシンガーなのだからして、知人も大勢いるのだろう。俺の知らない音楽関係者たちと親しく話している幸生をぼーっと眺めていると、肩を叩かれたのだった。
「……よ、来てくれたのか」
「徳永さん……」
 本日のライヴの出演者のひとりだったのだから、徳永渉がここにいてもなんの問題もない。ここは野外ライヴの関係者の打ち上げの席。俺は来たくなかったのだが、幸生に誘導されて致し方なくついてきたのだ。
「お久しぶりです。えーと……」
「久しぶりったって、おまえが行方不明になってた年数からしたら、たいして久しぶりでもないじゃないか。ここは禁煙だろ。外に行こうぜ」
「俺もですか」
「つきあえよ」
「俺は徳永さんとつきあう趣味は……わわっ、そういう意味ではありませんよね」
「そういう意味? どういう意味だ?」
「意味はありません。幸生……幸生?」
「はーい。行ってらっしゃーい。あ、こんばんは、徳永さん。素敵なライヴでしたね」
 おいおいおい、俺をこのひととふたりだけにするなっ、と言う暇もなく、幸生は知り合いのところへと行ってしまった。美人シンガーだ。幸生にはこの業界に知人友人はいくらでもいるのだから、俺がほったらかされても文句は言えないのだが。
「あいつ、こういうたくらみを……」
「三沢か。あいつは三十すぎても軽いよな。ニコチンが切れてきた。小笠原、行こう」
「は、はい」
 二年ほど前に、シゲに無理やり連れていかれた形で、俺はフォレストシンガーズの残り三人とも再会した。
 スタジオでみんなと会って、そこから居酒屋に流れて、その席に金子さんや徳永さんや酒巻や実松もやってきた。あの夜の徳永さんは俺には、よ、とかなんとか言っただけで、あいかわらず愛想のない男だと思ったものだが、今夜は少々愛想がよい。
 先輩にはさからえない合唱部時代のならわしゆえか、行こうと言われれば拒否もできず、俺は徳永さんについて夜の浜辺へと出ていった。
「おまえは煙草は吸わないのか」
「煙草なんてものは灰になるだけで、浪費ですよ。俺は稼ぎが悪いんで、そんな無駄遣いはできません」
「昔から吸わなかったよな」
「吸いませんよ。煙草に使う金があったらメシを食う。シゲもそう言ってました」
 そこここに灯りはあるが、暗い浜に徳永さんの吸う煙草の火と、煙が揺れていた。
「徳永さんも独身ですよね」
「結婚は一度もしていない」
「もてすぎるからですか」
「もてねえよ。金子さんじゃあるまいし」
「金子さんは……いないひとの話はいいか。かっこええなぁ。昔よりもっともっとかっこよくなりましたね。売れてるし、服装も決まってる。どうしたらそんなにかっこよくなれるんですか」
「都会人の鼻持ちならぬ演出ってやつだな」
「……んん?」
 ニヒルに笑っている徳永さんの台詞が、昔の記憶を呼び覚ます。たこ焼きエピソードにつながる記憶だった。
「あのとき……俺は徳永さんにお詫びしたんでした?」
「どのとき?」
「忘れてくれてたらありがたいです」
 詫びたのだろうか。どうだっただろうか。おのれに都合のよくない記憶だからか、そのあたりがすぱっと抜け落ちている。
 大学に入学してそう日もたっていなかったころだ。
 実松の部屋で大阪のたこ焼きを食わせてもらっていたときに、金子さんと徳永さんも来ていた。俺は酔って徳永さんに暴言を吐いたらしい。実松の部屋で目覚めた俺にはまったく身に覚えがなかったのだが、実松も金子さんも、俺が徳永さんにとんでもないことを言ったと教えてくれた。
 なにを言ったのかも定かには覚えていない。が、暴言を吐いたのならば謝罪しなくてはならない。実松に言われて彼のアパートを飛び出し、部室で金子さんに叱られて、徳永さんを探してキャンパスを走っていた俺。
 あの記憶はそこでストップしている。若かったなぁ、ガキだったなぁ、あのころの俺はなんてなんて……幸せだったんだろう。
 徳永さんに詫びたのかどうかを思い出そうとして、たどりついたのはそこだ。恵とつきあってもいず、結婚なんてものは、ひとかどの男になってからだと漠然と決めていた。歌手になりたいとも考えてはいなかった、十八歳の俺。
 なのになのに、なりゆきから恵と寝て恋人になって、結婚までしてしまって、結果的に歌を捨てた。恵なんかと知り合わなかったらよかったのに……またそんなふうに考えている。いつまで俺は、こんなにも……
「すみませんでした」
「なにが?」
「なんやらよう覚えてないんですけど、一応、すみませんでした」
「変な奴だな」
「俺は幸生ほど変な奴ではありません」
「そうだな。三沢ほど変な奴はいないよ。いや、金子さんも乾もおまえも、三沢とは別種の変な奴かもな」
「そしたら徳永さんもでしょ?」
「言えてる」
 二本めの煙草に火をつける気配に続いて、徳永さんの歌が流れてきた。

「空に星があるように
 浜辺に砂があるように
 僕の心にたったひとつの 
 小さな夢がありました

 風が東に吹くように
 川が流れていくように
 時の流れにたったひとつの
 小さな夢は消えました」

 泉水ちゃんにプロポーズして断られた俺に、幸生は「好きさ好きさ好きさ」などという歌を歌って聞かせた。徳永さんはこれか。「空に星があるように」だ。たったひとつの夢……俺の昔のたったひとつの夢は、とうに消えた。
「夢はまだありますよ」
 歌っているのだから聞いていないかもしれないが、俺は言った。
「独立して電気屋のオーナーになりたい。金持ちになりたい。いつかは綺麗な嫁さんもほしい。子供もほしいな。一戸建ての家もほしいし、自家用車もほしい。徳永さんからしたら庶民の夢だろうけど、俺にだって夢はまだまだある。どうぞ、冷笑なさって下さい」
「……そうだな」
 聞いていたらしい。徳永さんは歌をやめて、煙草の煙ごしに俺を見た。
「くわえ煙草で歌ってるって、徳永さんらしいですね」
「おまえもおまえらしいな。夢なんてのはさ……」
「なんですか?」
「学生でもあるまいし、そんなこと、口に出せるかよ」
「学生のころにだったら、徳永さんは口に出したんですか?」
「さらに出さなかったよ」
「でしょうね。徳永さん、俺、好きな女がいましてね、ちょっと前にプロポーズしたんです。ふられましたけどね」
「ほお、それはそれは」
 さもおかしそうに笑い出す徳永さんを見ていると、むかむかっとして蹴飛ばしてやりたくなってくる。いつだったか、乾さんを殴ってやりたくなったような……本橋さんも殴ってやりたくなったような……原因は忘れたけれど、そのときの俺の心の動きは思い出した。
 若かったあのころには二度と戻れない。やり直しは決してできない。俺の夢は夜空の星のごとく、潰えて消えた。
 けれど、俺だってじいさんになってしまったのではないのだし、俺の夢を実現させてくれている友がいる。彼らは俺を、裏切り者のこの俺を、今でも仲間だと言ってくれる。フォレストシンガーズの面々と再会してからは東京にも行くようになったので、たまさか個別にも会っている。そんなときにはそれぞれに、俺に言葉をかけてくれた。
「男は船で女は港、なんて歌もあるけどさ、放浪癖はもう忘れろよ。またどこかへ行きたくなったらシゲに報告してからにしろ。シゲじゃなくても他の誰かにでもいい。俺たちはさ……うん、そうしろよ、ヒデ」
 本橋さんは言い、美江子さんも言った。
「ヒデくんをみんなが忘れたと思ってたの? 馬鹿だね。忘れられるはずないのよ。今度行方不明になったりしたら、探し出してフライパンで殴るからね」
 乾さんも言った。
「神戸に住んでるんだから、港はあるだろ? 心のよりどころって意味では、俺たちもそうなれるかな。誰かさんがいいのかな」
 章も言った。
「俺もヒデさんとルシアンヒルで会ったときのこと、忘れませんでしたよ。こうやってヒデさんに会えるようになって、フォレストシンガーズが六人になったみたいだな」
 言葉数の多すぎる幸生は、改まっては言わないのだが、心は伝わってくる。シゲはむしろ言わず、恭子さんが話してくれた。
「ラジオでもテレビでもライヴでも、シゲちゃんはいつも思ってたんだって。ヒデがどこかで見てくれてるかな、聴いてくれてるかなって。私もそう思ってた。ヒデさん、戻ってきてくれてありがとう。これからはシゲちゃんを見捨てたりしないでね」
 そう言われるたびに、俺は返事もできずに、涙が出そうになるのをごまかしていた。
 泉水ちゃんだって、俺を友達だと言ってくれた。恋なんぞなくても生きていけるが、友達はいたほうがずっといい。自分勝手に離れていって、自分勝手に戻ってきた俺を、友達だと呼んでくれる仲間、かつての、ではなく、現在の仲間たち。
 自分勝手な都合のいい想いではない。彼らも彼女たちも、俺を友達だと言ってくれている。俺には生きていくささえがある。
 フォレストシンガーズにも泉水ちゃんにも、それから徳永さんにも、夢は、希望は続いているはずだ。俺も俺のささやかな夢に向かって、明日からもやっていこう。時が流れて星が流れて夢は消えても、新たな夢が生まれるのが、人生ってやつなのだろう。

END
 
 
 


 
 
 
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