番外編

番外編4(Stand by me)

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番外編4

「Stand by me」

1

同じ三重県の片田舎から上京してきた本庄繁之、通称シゲと私は、アパートも比較的近くて、学校でもいっしょにお昼を食べたりしていた。故郷の言葉は使わないようにしよう、と言い出したのはどちらからともなくで、なまりはそのまんまに、シゲとは標準語で話していた。学食でのお昼どきに、土佐弁の男が割り込んでくるようになったのは、いつのころからかだった。
「瀬戸内泉水さん? 合唱部でシゲと知り合った、小笠原英彦です。ヒデとよきくれ」
「よきくれ?」
「ヒデ、おまえも土佐弁使うなって」
「おまえら、関西人ろうが。土佐弁は理解こたうろう」
「こたうろう?」
 「よきくれ」は、呼んでくれ、「こたうろう」は、できるだろう、だとシゲが教えてくれて、私は言った。
「厳密には私たちは関西人じゃないよ。三重県は中部地方。シゲや私の出身地は関西エリアだと私は思うけど、地理的には中部なんだから。新聞なんかでもむしろ北陸が大阪圏で、うちらは名古屋圏なんだよ。私には名古屋弁より関西弁のほうがなじみやすいけど、高知の言葉なんか知らない。全然通じないから土佐弁はやめろっての」
「そうながか。いや、今の、大阪弁に変換したら、そうなんやーって言うたんや。三重弁は俺もさっぱりだから、標準語にしましょうね。泉水ちゃん、よろしく」
「まあええけど……」
「泉水、おまえも方言が出てる」
 うるさい奴だね、シゲは、なあ、そうだよな、とヒデと言い合って、当初はうっとうしいと思わなくもなかった彼とも、ほどなく親しくなった。
「ヒデは心理学部? ガラじゃないね。シゲの史学ってのは似合ってなくもないけど」
「泉水ちゃんは国際文化学部か。かっこいいな」
「私は将来は海外に飛躍するんだよ。関西だの四国だのって小さい小さい」
「国際海外青年協力隊とか?」
「それもいいな」
 確固とした将来の展望もないくせに、現実離れした夢を語り合ったりもした。
「俺は城めぐりのフィールドワークやって、新発見したいな」
 シゲが言うと、ヒデも言った。
「城の蔵に入るのか。そういう場所に潜入できるようにならなくちゃな。俺は心理学者に……って、泉水ちゃん、きみの心理を研究していい?」
「他のひとにやれば?」
 そんなふうに言っていたシゲとヒデは、やがて合唱部に熱情を燃やすようになっていく。私は合唱部には入っていなかったので、シゲやヒデとはそうそういっしょにいるわけでもなくて、同じ学部の友達、高田諒子とよく連れ立っていた。
「本庄くんとは小学校からいっしょなんだって? そんなにちっちゃいころからだったら、親しみが深すぎて恋にはならないんだよね」
「あんなのと恋なんかするはずないよ。鈍感でぼーっとしてて、ぼけてて間抜けで、なにを言っても、はあ、そうか、ふーん、そうか、しか言わない奴なんだよ」
 実際にはそうでもないのだけど、シゲがぼけているのは事実だ。いわゆる天然ボケってやつ。
「ちょっとぼけっとしてる男の子って可愛いじゃない」
「ちょっとだったらいいけど、シゲは大ぼけぼけぼけだからね」
「大ぼけぼけぼけ……そうかもしれない。小笠原くんは? 彼はけっこうかっこいいよね」
「そうかぁ?」
 東京生まれで、商社マンの父親の転勤にともなって各地を転々とし、大学に入るために東京に戻ってきたという諒子は、歯切れのいい標準語で話す。私も彼女の言葉遣いを真似していたのだが、シゲやヒデともつきあっているせいか、女々した喋り方は苦手だった。したがって、おまえって男みたいだな、と男には言われる。
「小笠原くんはなかなか背も高いし、あかぬけてきたらかっこよくなるよ」
「シゲは一生あかぬけないね」
「ひどぉ。そんなのわかんないよ。まあね、本庄くんはそんなに背は高くないし、角ばった身体つきしてるから、ああいうタイプはかっこいいとは言いにくいかもしれない」
「その通り。シゲは一生かっこよくはならない」
「断言しちゃうの? かわいそ」
「シゲもヒデもただの友達だから、かっこよくなんかなくていいんだよ。合唱部の本橋さんと乾さんって知ってる?」
 すでに有名人なのだから、二年生の本橋さんと乾さんを、諒子も知っていた。
「私も喋ったことはないし、シゲもヒデもまだ本橋さんや乾さんとはお近づきにはなってないみたいだけど、シゲかヒデが仲良くなったら紹介してもらうんだ。ヒデに聞いた話だけど、本橋さんと乾さんと、山田さんっていう女の先輩が、とっても仲がいいらしいんだよね。本橋さんも乾さんも女の子にはもてるらしくて、山田さんはただの友達だっていうのに、女の子たちに嫉妬されてるとか聞いた」
「泉水も山田さんと似た立場?」
「立場的には似てるんだろうけど、男ふたりが大違い」
「だよね。じゃあ、泉水には彼は?」
「いないよ。諒子は?」
「好きなひとはいるんだけど、彼ってかっこよすぎるかも」
 誰、誰? と尋ねたら、その名は私も知っていた。
「合唱部の先輩ってやっぱ人気あるんだね。金子さんとは知り合いなの?」
「むこうは私を知らないんじゃないのかな。今年の夏の合唱部のコンサートを聴いてね」
 アルバイトがあって私は行けなかったコンサートの話は、シゲやヒデからはちょこっとは聞いている。男子部キャプテンの金子さんが妹のリリヤさんとデュエットで歌い、リリヤさんは緊張気味で絶好調ではなかったらしいのだが、それを補って余りある、兄の将一さんの歌は素晴らしかったと、外部の評判も聞いていた。
「参っちゃったの。恋しちゃったの。金子さんにはファンクラブがあるんだそうで、私も入れてもらおうかって思ってるの。こんなの、要するにファンだよね。片想いまでも行かない」
「金子さんだとライバルがものすっごく多そう」
「そうよねぇ、そうだよねぇ。本庄くんか小笠原くんに紹介してもらいたいだなんて、ムシがよすぎる?」
「シゲもヒデも二年生の本橋さんや乾さんにも近寄りがたいらしいんだよ。キャプテンにはもっと無理じゃない?」
 だよねぇ、ばかり言って、諒子は甘い吐息を漏らしていた。
 合唱部自体が、学校では学生たちの注目のまとになりやすい。私は中学高校と合唱部に入っていたので、最初から興味は持っていた。女子部はさほどではないという噂もあるが、男子部にはスターが大勢いて、私なんかが入っていくのもなんだし、と思っているうちに機会を逸して、私は入部しなかった。シゲがいられるんだからかまわなかったのかな、とも思うが、アルバイトも勉強も忙しくて、サークル活動に使う余力がないのも正直なところだった。
 それでも興味はあるし、シゲやヒデも話してくれるので、合唱部には詳しいつもりだった。男子部キャプテンの金子将一さんとは、学内でもスター中のスターだ。長身でとびきりの美形で、かっこいい以外の形容が思いつかない。それでいてどこか飄然として見えるのもまたかっこいい。
「なにか用?」
 目的があるようなないような、で合唱部の部室のそばに行くと、上級生らしい男が咎める目を向けて訊いた。
「合唱部のひとじゃないね。見学?」
「見学させてもらっていいんですか。一年生の瀬戸内と申します」
「女の子は女子部に行けよ。ここは男子部だ。見学だとか言って、目当ての男がいるんじゃないのか。誰?」
「そんなつもりはありません」
「あとからつきあってくれるんだったら、適当にごまかして連れて入ってやるよ。どう?」
「つきあうって?」
「飲みにいこうよ」
「私は未成年ですから」
「きみはコーラでもいいよ。俺は岡田っていうんだ。合唱部の三年だよ。見たいんだろ。男ばっかりの部室なんてむさくるしいけど、女の子には興味あるよな。入っていいよ」
 入りたい気もする。しかし、この男と飲みにはいきたくない。逡巡していると、岡田さんは窓から部室を覗いた。
「金子さん、ひとりっきりだな。なにやってるんだろ。笛? 邦楽の笛か。笛でなにを……」
「笛って吹くためにあるんでしょ。笛で他になにをするんですか」
「うるさいな。入るのか入らないのか、どっちだ」
 私の言葉のなにが彼の気を悪くさせたのか、大きな声で言って、岡田さんは私を睨みつけた。
「入らないんだったら帰れよ。どうせ見学なんて口実で、合唱部の誰かが好きだとかなんだとか……」
「そういうんじゃありません」
「どうだか」
 そんなら帰るよ、と言おうとしていたら、中からドアが開いた。
「見れば女性を相手に、岡田、そんなに険悪な声を出すものじゃないよ。彼女ともめてた?」
 笛を手にした金子さんに問われて、岡田さんは焦り声になった。
「彼女じゃありません。通りがかりの覗き女です」
「女性一般をさして「彼女」と呼ぶじゃないか。おまえの恋人って意味じゃないよ。覗き? 女性が男子部の部室を覗いて楽しい? 裸の男はいないよ」
「男の裸なんか見たくないし」
 言うと、金子さんはさも面白そうに笑った。
「でしょうね。きみは?」
「一年生の瀬戸内です。覗きなんかしてません」
「知ってます。するわけないよね。岡田」
 は、はいっ、と岡田さんはしゃちほこばった。金子さんってそんなに怖いキャプテンなんだろうか、と眺めていると、金子さんは言った。
「聞こえてたぞ。おまえのその態度は男の風上にも置けない。おまえが瀬戸内さんになにを言ってたのか、一言一句たがわずに繰り返そうか。恥じ入るのはおまえだろ」
「……えーと、あの、すみません」
「わかればいい。瀬戸内さん、ごめんね。生憎今は部室には俺以外にはいないんだよ。女子部のみなさんも帰ってしまったようだね。それでもよかったら見ていく?」
「金子さんのその笛……」
「練習中だから下手くそだけど、よろしかったら聴いていただけますか」
 おまえも来いよ、と誘われて、岡田さんもとぼとぼついてきた。部室に入ると、金子さんは笛を口に当てた。悲しくなるほどに美しいしらべが流れてくる。岡田さんまでがうっとりと聴き惚れていて、私も陶酔してしまった。短い曲を演奏してくれてから、金子さんは微笑んで言った。
「これは篠笛。邦楽のスタンダードナンバーで、「流星」という曲だよ。ほら、流れ星」
 窓の外を見たら、本当に星が流れていった。
「見学なんてこれではつまらないでしょ? 時間があれば後日、改めていらして下さい。岡田、帰っていいよ。瀬戸内さんは送っていきましょうか」
「え? え? いいです。いいんです。まだ用事もありますから」
「もう夜だよ。気をつけて」
「は、はいっ」
 私もしゃちほこばってお辞儀をして部室から出ていった。うしろからついてくる足音は岡田さんだろう。私と背丈にほとんど差のない小柄な岡田さんは、うしろでぶつぶつ言っていた。
「なんだって金子さんって、なにをやってもぴたっとさまになるんだろ」
「ですよねぇ。かっこよすぎて私には無理」
「きみが好きなのは金子さん?」
「いいえ。友達が金子さんに恋してるんですけど、私はあそこまでだとタイプじゃないってのか、彼女にもついていけそうもないってのか」
「だよな。だから金子さんって彼女がいないんじゃないのか」
「いないんですか」
「いないらしいよ。本当にいないのかどうかは謎だけど、彼女はいないって言ってる」
「嘘みたい」
 追いついてきた岡田さんと、肩を並べて歩き出した。
「さっきはごめんね」
「いえ、別に」
「金子さんにはなにを言われてもさからえない。先輩には反抗できないのがうちの部の決まりなんだけど、金子さんと皆実さんには特にだよ。皆実さんは知ってる?」
「男子部の副キャプテン。金子さんも皆実さんも、合唱部以外でも有名ですもんね。女子の上級生たちも言ってますよ。今年の男子合唱部キャプテンと副キャプテンは、歌もルックスもそろいもそろって抜群。なんであんなにかっこいいひとがふたりそろったんだろ、って噂で持ちきりです。だから私も興味はあったんです。本庄繁之って知ってます?」
 逆に質問したら、岡田さんは首をひねってから言った。
「合唱部の一年? なんとなくは知ってるけど、うちは部員が多いから」
「小笠原英彦は?」
「そいつもなんとなくは知ってるよ」
「その程度なんですね、彼らは。本庄の愛称はシゲ、小笠原はヒデといいまして、友達なんです、私。彼らからも合唱部の噂は聞いてます。金子さんに皆実さんに本橋さんに乾さんに徳永さん、合唱部のきら星」
「そうなんだろうな。俺なんかはさ……ひがみたくなるよなぁ」
 うん、そうでしょうね、と言ってはいけないだろうから口を濁していると、岡田さんは言った。
「俺なんかルックスもこれだし、歌だってたいしたことないし、まあ、俺は身の程をわきまえてるから、それはそれでいいとも思ってるんだ。いいんだよ、なぐさめてくれなくても」
「なぐさめるったって……私は岡田さんをよく知らないのに……」
「そうだよね。きみは部外者だから言ってもいいのかな。俺、困ってるんだよね。困った奴がいてさ、そいつはわりかしルックスがいいんだよ。合唱部ではルックスより歌の実力が重視される。そんなの当然なのに、そいつは自分の歌もなかなかのものだって信じ込んでて、金子さんや皆実さんにはろくろく口答えもできないからって、本橋や乾を目の仇にしてみたり、徳永を仲間に引き入れようとしてみたり、願掛けだのまじないだの呪いの丑の刻参りだのって……」
「丑の刻参り?」
「俺はそいつにいちいち相談されて、止めても聞かないんだからやりたきゃ好きにすればいいのに、俺に相談しては決意を新たにして、下らない真似ばっかりやってるんだ。友達やめたいよ」
「やめればいいんじゃありません?」
「あっさり言ってくれるんだね。友達ってそんなに簡単にやめられるか? やめられないから友達なんだろ」
 愚痴愚痴言っている岡田さんの言葉の中で、それだけはうなずけた。
「なら、友達でいればいい」
「友達でいるしかないんだな」
「私も困ったな。金子さんを好きな友達に、なんて言えばいいんだろ。金子さんはかっこよすぎるとは彼女も言ってたけど、たしかにかっこよすぎるからやめな、って? 言えない。たまたま金子さんに会って篠笛ってのを聴かせてもらったなんて言ったら、彼女にひっかかれそうだ。内緒にしておこうっと」
「金子さんのファンの女性は数え切れないほどいるんだから、よほどでなきゃあ目にも留まらないよ。きみの友達も悪い男を好きになったもんだ」
「金子さんって悪い男?」
「そういう意味の悪い男じゃなくてだね、いい男すぎて始末に悪いんだよ」
「わかんない」
「俺のほうがいいと思うよ。瀬戸内さん、飲みにいかない?」
「遠慮しておきます」
 ああ、そう、と岡田さんは首うなだれた。金子さんに誘われてるんだったら、好奇心半分でついていったかもしれない、とちらっと考えて、嘘、嘘、嘘だからね、諒子、と言いわけして、岡田さんに言った。
「今夜の話はふたりともに内緒ってことで……」
「そうしようか。あーあ、あんなに恵まれてる男もいるってのに、俺の青春は真っ暗だぁ」
「そのうちにはいいこともありますよ」
 ありがとう、と暗い暗い声で呟いてから、岡田さんはぐしゅっと鼻をすすった。

 
 年がら年中大ぼけのシゲは見慣れているのだが、今回は様子がおかしい。大学一年生の秋がすぎ、冬が来るころに、ヒデに尋ねてみた。
「シゲったらなにかあったのか? 中学生のときにも高校生のときにも、こんな感じのシゲを見た覚えがあるよ。中学生のときにはよそのクラスの女の子を好きになって、告白できるかなぁ、とかって悩んでて、手紙を書けば? って勧めたんだ。シゲは悩みに悩んだ末に、やっぱりやめとく、って言ってそれで恋はおしまいになった。高校二年になる前にも、シゲはひとり旅をしたんだって言ってて、どこに行ったのかって訊いたらむにゃむにゃとしか言わなくて、なにかあったのかって訊いてもむにゃむにゃしてたんだけど、あのときも恋をしたんじゃないかと私は思った。今のシゲもあんな感じだね。恋したの?」
「俺は知らないよ」
「知ってるんじゃないの?」
「知らない」
 やけにきっぱりと知らないとは、知っているに決まってる。けれども、男ってのはこんなときに追及すると口が堅くなる。ヒデに尋ねるのは諦めて、シゲの顔を覗き込んだ。
「シーゲ、なにかあったんだろ? 言っちゃえよ」
「なにもないよ」
「なにかあったって顔に書いてあるよ」
「書いてないだろ」
「ここに書いてある。僕には好きな女の子ができました、でも、僕には彼女に打ち明ける勇気がない、神さま、僕に勇気を授けて下さい。ね、ヒデ、書いてあるよね?」
 書いてないよっ、とシゲは顔をごしごしこすり、ヒデは言った。
「うん、これも青春やきにな」
「青春って恋なの? シゲが恋する青年になっちゃったなんて、似合わないったら似合わない。だけど、なんだったら私が彼女を連れてきてあげるよ。誰? 合唱部の女の子?」
「泉水ちゃん、やめてやれ」
「なんで?」
「そういうことでシゲをからかうな。俺もからかったけどさ……」
「ヒデもからかったの? なのに私だったら止めるの? あっそう、男同士の友情に女は口を出すなって言いたいんだね。いいよいいよ、そうなんだよね」
「そうだよ」
 開き直ったか、ヒデは私を強い目で見つめた。
「シゲの男心は女になんかわからないんだよ」
「ああ、わかんないね。男心なんかわかるはずないだろ。わかりたくもないよ」
「わかりたくないんだったら黙っちょり」
「黙ってるよっ」
 とは言ったものの、むかっ腹が立ってきたので、地面を蹴った。蹴った地面には石ころがあって、ヒデの足に命中した。ヒデは横目で私を睨み据え、シゲが言った。
「俺のことで喧嘩すんなよ。いいんだ、ヒデ。泉水もいいんだよ。とっくに終わったんだから」
 そうか、終わったのか、片想いのまんまで終わったのか。それ以上聞き出そうとするのはやめて、このシゲをこんなにしたのはどんな女の子なんだろう、と想像するにとどめておいた。
 一方、諒子の金子さんへの恋心は募るばかりであったらしい。まるで芸能人の熱烈ファンの女の子がするように、とはいえ、芸能人よりは出会う機会もある金子さんなのだから、学校にカメラを持ってきて金子さんを遠くから望遠撮影したりして、写真を胸に抱きしめてぽわーんとしていたりした。
「金子さんはもうじき卒業だよね。このまま別れてしまっていいのかしら」
「うーん、しようがなくない?」
「しようがないんだろうけど、どうにかしたいよ。一度くらいお話ししたいな。卒業式の前に金子さんに会って、お祝いのプレゼントをしたい。花束なんかいいよね」
「男って花をもらっても喜ばないんじゃないの?」
「金子さんだったら喜んでくれるよ」
「かもね、金子さんだったら……」
 嬉しくなくても嬉しいそぶりをしてくれそうに思える。私としても諒子の願いをかなえてあげたくて、大ぼけシゲではなくて、ヒデに相談した。
「ってわけでね、部外者の一年生女子だけど、金子さんに卒業祝いのブーケを贈りたいって、そんなちっちゃな望みくらい、金子さんは聞いてくれないかな」
「聞いてくれるだろ。金子さんって女の子にはすっげぇ優しいもんな」
「安請け合いしていいの? ヒデがどうにかしてくれるのか」
「そのくらいだったら安請け合いしてやるよ」
 数日後に、ヒデは言った。ばっちりOK! 諒子ちゃんを連れてこいよ、だった。
「泉水、どうしよう。足ががたがたしてるの」
「恋の告白するわけでもあるまいに、しっかりしなよ。私は隠れてるから、なんならついでに告白もしちゃえば?」
「気安く言わないでよ。できっこないよ。泉水が渡してくれない?」
「私が渡してなんになるんだよ。あんたからのプレゼントだろ。しっかりしろ」
「う、うん」
 合唱部の部室の裏手にある芝生で、私は寒くて震えそうになっていたのだが、諒子は寒さは感じていないようで、別の震えに支配されていた。諒子って純情で可愛いんだな、私もこんなだったらもてるのかもしれないな、などと考えていると、金子さんが颯爽とあらわれた。私は諒子の背中を押し、木陰に身をひそめた。
「あのあの、金子さん、ご卒業おめでとうございます」
「ありがとう。寒いね。諒子ちゃん? どうしたの? 震えてる。ここにおいで」
「あ……」
 なんとまあ、金子さんったらコートの中に諒子を包み込んでしまった。そんなに優しくしたら、諒子はますますほげほげになっちゃう。ほんと、罪な男だな、と私が眺めていると、金子さんは優しい優しい声で言った。
「花束? きみのように可憐な花だね。嬉しいよ」
「金子さんは……花束なんていっぱいもらったんでしょう?」
「花束をもらうのは、生まれてはじめてだよ。嬉しくて言葉も出てこない。お礼のキスをしていい?」
「キス?」
「駄目?」
 恥じらいに頬を染めてうつむく諒子をコートの中で軽く抱きしめて、おでこにキスをする金子将一。背筋がぞわぞわしてきそうで、それでいて映画のワンシーンのごとく決まっていた。諒子は泣き出してしまい、金子さんは顔をかたむけてなにやら囁いている。見てられないから逃げようかと思っていると、諒子のほうから身を遠ざけた。
「私、一生忘れません」
「女の子ってどうしてそうも可愛いんだろうね。俺にもいい思い出になったよ。ありがとう、諒子ちゃん。元気でね」
「……はい」
 片手を上げて歩み去っていく、愛しい男を見送る女の図。私には一生縁がなさそうだ。私もほげーっとなって金子さんの背中を見ていると、ふと振り向いた金子さんが言った。
「瀬戸内さん、きみにもありがとう。きみと小笠原のおかけだね。元気で」
「はい……えと、金子さんもお元気で」
「うん」
 まったくもう、なんたる絵になる男だ。あんな男がこの日本に存在しているということが信じ難い。金子さんは卒業後はプロのシンガーになるそうだとシゲやヒデが言っていたが、かっこよすぎて人気が出ないという可能性もあるような。
「ねえ、泉水」
 いつの間にやらそばに来ていた諒子が、私をじろじろ見た。
「金子さんとは知り合い?」
「知らないよ」
「知ってるみたいだった」
「あれはヒデに頼んだから、ヒデが話したんだよ。諒子の近くにいた私が、ヒデに頼んだ瀬戸内だって、金子さんは察したんだろうね。それで私にもありがとうって言ったの。きっとそうだよ」
「そうかな」
「そうだよ。諒子、あれでよかった?」
「一度もお話もできないよりはよかったんだろうけど、私、もう駄目。しばらくうなされそう」
「……まあね、わかるけど」
 絵になる男で、いい男すぎて悪い男で、罪な男でかっこよすぎる男で、私は金子さんなんか好きにならなくてよかった。諒子みたいになりたくない。ううん、いっぺんくらいはこんなふうになってみたいかも。ううん、こんなになるなんて恥ずかしい。相反する想いの中で、身体も心もゆらゆらしているらしき諒子を見ていた。

 
2

 歌劇の寸劇、とヒデが言ったのは、二年生の夏の合唱部合宿がはじまる前だった。夏休み直前のキャンパスで、シゲとヒデと私の三人で話していた。
「歌劇の寸劇ってなんだ?」
「文字通りだよ。男子部の全体会議で、安斉が言ったんだ。合唱部ってのは学園祭でも歌ばっかりだって、友達に言われたんだって。合唱部は歌を歌う部なんだからそれでいいだろ、って先輩たちは言ったんだけど、思いついて発言したんだよ」
 歌劇をやりませんか、とヒデが言ったら、乾さんが応じた。
「宝塚の逆で男ばっかりの歌劇か? 歌劇なんてたやすくできるものじゃないけど、コントみたいのだったら面白いかもしれない。先輩方、いかがですか」
 そんなのできるのかぁ、無理だろ、いや、一興だよ、などなどの意見が出、キャプテンの渡辺さんも言った。
「小笠原、やってみろよ。合宿で練習するといい。合唱の練習もしないといけないんだから、思い切り大変になるのを覚悟の上でだったらやってみろ。言い出しっぺの小笠原に一任しよう」
「俺が?」
「脚本も演出も配役を決めるのもきみだよ。やれるか」
「おっし、やりますよ」
 乗りかかった船だ、俺はやるぞーっ、と張り切っているヒデのかたわらで、シゲはため息をついていた。
「シゲはやらないの?」
「歌劇なんてやだよ。ヒデ、ほんとにできるのか」
「やるよ。やりたいって言ってる奴もいるし、二年生男子数名でやる。おまえはやらなくてもいいけど、協力はしろよな。二年生たちの底力を見せてやる」
 合宿は私の関知しないところで行われ、終わって帰ってきたシゲに尋ねた。
「歌劇の寸劇はどうなった?」
「ご破算になった。言い出しっぺでキャプテンに一任されたヒデが、練習してるうちに一番に音を上げて、こがなことは早やめよう、やめじゃやめじゃーっ! となったんだから」
「なんだ、だらしない」
「そう言ってやんなよ。今年の合宿は大変だったんだ」
「どう大変だった?」
「ありすぎて言えないよ。でも、おかげで本橋さんや乾さんと親しくなれたかな」
「前から親しくなりつつあったんだろ。あ、そうだ。そしたら約束を実行してよね」
「紹介するっての? そのうちにな」
 サークル活動をしていない私にも、どこの部でもなにかといざこざはあるのだと想像できる。合唱部も例外ではないようで、ヒデに言わせれば、それも青春やきにな、となるのかもしれない。そんなこんなの中でシゲやヒデが本橋さんや乾さんと親しくなったというのは、瓢箪から駒だったのか。幾度かせっついたら、ようやくシゲが本橋さんと乾さんに会わせてくれた。
 彼らを見かけたことはある。金子さんほどかっこよくはないけど、まあまあかな、と思っていた。本橋さんも乾さんもけっこう背が高い。ヒデも背は高いほうだけど、ふたりともヒデ以上に高い。乾さんはヒデと似た体格で、細身で涼しげな雰囲気。本橋さんはシゲに似た体格で、シゲよりはやや細くてシゲよりぐんと背が高い。私も背は高いほうなのだけど、男の背が高いのは私とは比べものにならないのだと改めて感じていた。
 間近で顔を見ると、本橋さんも乾さんも美形というほどではない。顔立ちはヒデがいちばんか。あいつも一見したところでは美形だとは思えないが、じっくり見ると鼻筋の通った目元の凛々しい、いい顔をしている。本橋さんは野性的な顔立ち、乾さんは爽やかな好青年、シゲがやっぱり顔もいちばん落ちる。背もいちばん低い。
 声はといえば、シゲは低くて、本橋さんはシゲよりは高めで男っぽい。乾さんは落ち着いて話していると低い声だが、歌うと相当なハイトーンだと知っている。ヒデも話し声は高くもないけれど、歌うといくらかかすれたハイトーンになる。さすが合唱部、みんないい声してる。
「はじめまして、瀬戸内泉水と申します。本橋さんや乾さんのお名前はかねがね耳にしてたんですよ。噂通りですね」
「本橋です。よろしく」
「乾です。噂ってどんな噂?」
「歌が上手でかっこよくて、合唱部の伝説のおふたり」
「伝説ってね、俺たちは現役だよ。シゲ、おまえ、泉水ちゃんになにを吹き込んでる?」
「俺はなんにも言ってませんよ、乾さん、こいつが勝手に……」
「こいつ? ほおお……」
「乾さん、ほおってなんですか」
 ヒデが言っていた。シゲは女の子を相手にすると遠慮がちになる、なんの遠慮もなく話せる相手は、泉水ちゃんだけだと。つまりは、私を女だと見ていないからだ。私もシゲは男だと思っていないのだからそれでいい。乾さんに見つめられて困惑顔のシゲを見やって、私は言った。
「私が聞いたところによりますと、今年の男子合唱部は三年生がダントツなんですってね。本橋さんと乾さんと徳永さんっていうすごいひとがいる。三人とも三年生。四年生はたいしたことなくて、二年生もろくでもない。二年生に関しては、シゲとヒデを見てたらうなずけます。合唱部って伝統的に、男子のほうが実力者ぞろいだったんでしょ? 卒業なさった金子さんもかっこよくて、女の子たちの憧れの的でしたし」
「二年生はろくでもなくないよ」
「ありがとうございます、乾さん。シゲ、よかったね」
「おまえはなにが言いたいんだ」
「本題はここからだよ。そういう伝統のある合唱部であるにも関わらず、今年の二年生は女子のほうがはるかに実力が上だって噂されてますよ。私は部外者ですけど、合唱部ってなにかと学生の口に上るんですよね。女子部二年生の轟さんとか」
「ああ、轟さんね」
 うん、まあね、と乾さんはもごもご言い、本橋さんは黙っている。轟さんの話はあまりしたくないのだろうか。なんでも、彼女は帰国子女なのだそうだ。お父さんがヨーロッパのどこかの国に仕事で赴任していて、轟さんは長年その国で暮らし、本場仕込みの歌のレッスンを積んだ。生来の才能もあったのだそうで、オペラの歌姫のごとく成長した轟さんは、今年になって家族そろって帰国した。
 彼女の境遇については又聞きなので、すべてが真実だとは限らないのかもしれないが、轟さんは我らが大学に編入してきて、合唱部に入部したのだそうだ。
「オペラの歌姫だって有名になってるんだろ。見た目も歌姫だな」
 本橋さんは噂通りの論評を口にし、私は問い返した。
「本橋さん、見た目が歌姫ってのは? ゴージャスな美女なんですか。私は会ったことがないんですよ。シゲなんかに訊いても上手に表現できないんだから、本橋さんか乾さんが教えて」
「シゲ、おまえ……泉水ちゃんには相当ぽろくそに言われるんだな」
 苦笑いの乾さんが言い、慣れてますから、とシゲは呟き、本橋さんも言った。
「泉水ちゃんはオペラの歌姫っていうとゴージャスな美女を連想するのか。他には?」
「ええと……ソプラノですか」
「轟さんは話しててもソプラノだよ。あの声量にふさわしい、俺よりも厚い胸……」
「本橋さんよりも? シゲよりも厚い胸? 女の子なんだからバストがどーんって? 乾さんも本橋さんも、なんだかおかしな顔して……ええ? 私の想像、当たってる?」
「そ、オペラの歌姫」
「まん丸椿姫」
「本橋、失礼だろ」
「おまえが言ったんだろ」
「俺は歌姫だとしか言ってない」
「あの噂は本当なんですか」
 あの噂とはなんなのか私は知らないのだが、シゲが尋ね、乾さんが答えた。
「噂、噂、噂ぱっかりだな。シゲの質問の噂ってのは、徳永?」
「そう聞きましたけど……」
「徳永は本橋や俺を敵視している。溝部さんのような無茶はしないけど、俺たちにはまともに応じてくれないんだよ。なのに聞けるか。徳永は轟さんとつきあってるのか、なんてさ」
「つきあってるんですか」
 細いシゲの目が見開かれ、本橋さんも苦笑いを浮かべた。
「だから、俺たちは知らないんだって。まさかと思うけどな」
「まさかってなんだよ。本橋、失礼な」
「うるせえな、おまえは。そんならなにか。おまえが彼女に告白されたらうなずくのか」
「……仮定の話はやめよう」
「ごまかすな」
「おまえは?」
「……俺に振るな」
 ふーむ、と私は腕組みをした。
「やっぱし男のひとは、なによりも女の見た目が重要なんだ」
「泉水ちゃん、なに? なにが言いたいの?」
「別に。乾さんもやっぱり……」
「俺がなに?」
「別に……」
「轟さんの話は話で別として、泉水ちゃんは美人だよ。プロポーションもいいよ。背は高いほうだね。すらっとしてて素敵なひとだよ」
「じゃ、私が告白したらうなずいてくれます?」
 ぎくっとしたように乾さんは身を引き、本橋さんが言った。
「泉水ちゃん、乾とは初対面だろ。ひと目惚れかよ。だからおまえって奴は……」
「おまえって俺か。俺がなにをしたって言うんだ」
「おまえはいっつもそれじゃないか」
「それってなんだよ、って訊いてるんだよ」
 え、ええ? という顔をしていたシゲが言った。
「泉水、乾さんに?」
「アホか、あんたは。たとえ話しだよ。乾さんったら、あからさまにほっとしちゃって……」
「ほっとはしてませんよ。残念だなってのか……いや、泉水ちゃん、俺には彼女はいるから……」
「いるのか。逃げ口上じゃねえだろうな」
「本橋、よけいなことを言うな。泉水ちゃんはたとえ話しだと言ってるじゃないか」
「そうですよ。私にだって……」
「いるよね、泉水ちゃんだったら彼のひとりやふたり」
「ふたりいたら困るだろ」
「本橋、おまえはうるさいって」
「おまえにうるさいと言われたくねえんだよ。どっちがうるさいんだ」
「今はおまえだ」
 思わず私はけらけら笑い出し、たとえ話しか、なんだ、人騒がせな、とシゲは呟き、そのあとは雑談になり、本橋さん、乾さんと別れてふたりで歩き出すと、私は言った。
「シゲには彼女はいないんだよね」
「いないと決めつけるのか」
「いるの?」
「いないよ」
「ほら見ろ」
「どうせもてないよ、俺は」
「うんうん、そうだろう。シゲがもてるわけないよ」
「勝手に言ってろ」
 合唱部の中では私のよく知っている男ふたりと、そうして知り合った先輩ふたりとの容貌やら声やらを比較しつつ、四人でいろんな話をした。乾さんは愛想がよくて、本橋さんはぶっきらぼうっぽいけど楽しいひとで、話術でもシゲがいちばん劣る。シゲが他の男に勝つ部分ってどこだろ。声が低いのと力持ちってところくらいじゃないの?
 泉水ちゃんはシゲにはぼろくそなんだな、と乾さんに笑われた通りの感想を抱いて、先輩たちと別れてシゲと大学に戻っていくと、先刻の会話にも出ていた男女を見つけた。合唱部の三年生男子、徳永さんと、二年生女子、轟さんだった。校内に入ると、噂の主がいた。
「ねえ、あれじゃないの?」
 まん丸歌姫って……本橋さんの形容がぴったりだ。徳永さんは本橋さんと変わらないほどの長身なのだが、歌姫轟さんは徳永さんよりも背が高くて、グラマラスを超えている。
 一年生のころから徳永さんの名前は知っていた。金子さん、皆実さんに次ぐ合唱部のスターは本橋さんと乾さんで、彼らに次ぐのが徳永さんだとは、部外にまで鳴り響いていた。とかく合唱部の噂は校内全般に広がるもので、轟さんの名前も耳にしていた。
 大学にはオーケストラもあるし、クラシック研究会もあるけれど、歌を志す者は合唱部に入るのだろう。轟さんはオペラの歌姫のごとき才能の持ち主だそうだから、歌いたいのは当然だ。それはいいとしても、大きな身体で徳永さんに詰め寄って、なにをしているのかとシゲとふたりで木陰に隠れて聞き耳を立てていたら、口説いているのだった。
「私とは家庭環境に差がありすぎるとか? そんなふうに思ってるの? 徳永さんは庶民階級よね」
「そうですよ」
「私は庶民とは呼べないかもしれないわ。父は外交官、母は明治の元勲の子孫だし……」
「そうですか」
「だからって気にしなくていいのよ。恋に身分の差なんてありゃしないんだから」
「はあ、まあね」
「もしも両親が反対したとしても、私は徳永さんとならば、親も歌も捨てたっていいつもりなの」
「ふむ」
「だからだから私と……」
 そこで徳永さんの声が低まって、なにを言ったのか聞こえなくなった。轟さんは目を見開いて立ちすくみ、徳永さんは歩み去り、ややあって轟さんも歩み去り、ふたりともの姿が見えなくなると、私はシゲに小声で言った。
「あれが轟さんだよね?」
 そりゃあ、女が男を口説いてもいけなくはないのだろうけど、徳永さんは辟易していた。轟さんは気づいてもいないのか、熱心に徳永さんを口説き続け、徳永さんはしまいに捨て台詞を残して歩み去った。轟さんは徳永さんのうしろ姿を呆然と見送り、私は思い出した。金子さんと諒子のあのシーンとはあまりにもあまりにもちがいすぎる。
 どちらもラヴシーンでもないんだろうけど、金子さんと諒子だと見ていて甘美なシーンでなくもなかった。徳永さんと轟さんだとコメディ? そこまで言ったら言いすぎかな、と考え直して、ふたりの姿が見えなくなってから、私はシゲに話しかけた。
「彼女が轟さんだよね。泣いてた?」
「そうなのかもしれない」
「……徳永さんは最後になにを言ったんだろ」
「さしずめこんなところかな」
「さしずめ?」
「あんたはルックスはともかく、歌の実力について言えば、カエルの歌より劣るんじゃねえのか」
「……なに、それ?」
「いや、さかさまだな。あんたは歌はともかく……以下省略」
「シゲ、どうかしちゃった?」
 なんだなんだ、それはなんだ。私にはまるで意味不明の台詞を口走り、シゲはなおも言った。
「彼女のあの台詞……そう出たくなるのはわからなくもないけど、うん、俺も多少は成長したかな。一年前はなーんにもわからなかったんだよ。ちっとはものごとがわかるようになってきたのかもしれない。それにしても徳永さんってきついなぁ」
「だよね。でもさ、あんたはなにを言ってんだ? シゲ、しっかりせえよ」
「おまえも方言が出てる。しっかりしてるよ」
「してないよ。変だよ」
 しばし考えていたシゲは、おまえも喋るなよ、と私に命令した。
「う、うん」
 これでシゲはシゲなりに成長してるのか? 嘘だろ、と言いたかったのだが、シゲがきわめて決然としているので気を呑まれて、私としてはうなずいておくしかなかったのだった。


 みんなで映画を見に行こうよ、と約束がまとまって、シゲもヒデもその他の友達も集合する予定だったのに、誰も来ない。私も帰ろうかと怒りそうになっていると、ヒデがあらわれた。
「シゲはバイト仲間が入院しちまって、ピンチヒッターを頼まれたから今夜は来られないんだってさ」
「諒子もお母さんが具合悪くて、今夜は行けないって言ってきたよ」
 私のところへ連絡してきた分と、ヒデのところへ連絡してきた分をつき合わせると、ほぼ全員がドタキャンだった。連絡もしてこない奴もいたのだが、いつまで待っても来そうにないので、そんなら私たちも帰ろうか、と言うと、ヒデが言った。
「ふたりきりだったらいやか」
「ヒデとふたり? いいけどね」
 リバイバル上映の古い映画だ。「スタンドバイミー」。四人の少年が夏休みに、ふとしたきっかけから冒険の旅に出る。アメリカの田舎町の線路沿いに歩いていき、キャンプを張ってはしゃいだりしみじみと語り合ったりの少年たちの、一夜の物語をふたりで見終わって、映画館の外に出た。
「腹減った」
「もう……映画を観て最初の一声がそれかよ。感想はないのか」
「面白かったよ。泉水ちゃんは?」
「いい映画だったね。ヒデなんかだったら、自らの少年時代を思い出したりしたんじゃないの?」
「俺は日本の土佐だからな、アメリカのほうがかっこいいよ。不良の兄貴たちが乗ってる車もかっこよかったな」
「歌もよかったね」
 メインテーマ曲も「Stand by me」。ジョン・レノンが歌っていたのは私も知っている。ヒデは歩きながら小声で歌った。

「When the night has com
and the land is dark
and the moon is the only light we'll see」

 ベン・E・キングだよ、もと歌は、と歌いやめたヒデが言った。
「発音もなかなかだね。訳詩は?」
「知らん」
「続きは?」
「ここまでしか知らん。泉水ちゃんは腹減らないのか。なんか食って帰ろうぜ」
「帰ろうぜ、か。東京っぽくなってきたね。いいよ。なに食べる?」
「ラーメンと餃子とチャーハン」
「泉水ちゃんはなにがいい? って訊くもんだよ」
「そっか。なにがいい?」
「今さら遅いんだよ」
 いやあ、俺はムードづくりができない男でな、とヒデががはがは笑う。あんたにムード作りなんて期待してないよっだ、と言い返して、ふたりして安い中華料理屋ののれんをくぐった。
 ふたりっきりになったのはたぶんはじめて。学校でならふたりだけで話したこともあるけど、こうして外でごはんを食べるのははじめてだ。ヒデはシゲの親友で、私もシゲにつられて友達になった。たったそれだけの仲だとしか考えていなかったけど、ヒデには恋人がいるんだろうか。そんなふうに考えるのもはじめてだった。
「シゲって恋人いるの? いないよね」
「いないだろ」
 ヒデは? と訊けない自分の心が不思議だった。ヒデも訊かないので、私はさらにシゲを話題に上せた。
「あいつは一生もてないのかな」
「もてないのかなぁ。女って見る目ないんだよ。あいつはいい奴なのに」
「いい奴だけじゃ、女にはアピールしないんだね」
「そうなんだな。別にシゲはブスでもないのに」
「男もブスって言うのか。醜男だろ。うん、シゲは不細工じゃないよね。ただ、地味なんだな。見た目はごくごく普通で、声はいいんだけど、大ぼけで察しが悪くて、マメさはあるんだかないんだかわからない。男はマメじゃないともてないんだよ」
「そうとも言うな。マメってどんなのだ?」
「女にはそれぞれに、男のこういうマメさが好き、ってのがあるんじゃないかな。マメすぎたらわずらわしい」
「むずかしいな。ところでシゲは……」
 シゲはシゲは、とシゲの話ばっかりして、シゲはきっとくしゃみを連発していただろう。数日後にシゲが、この間はごめんな、と言った。
「おまえはどうしたんだ?」
「ヒデも来なかった。誰も来なかったから帰ったよ」
「ごめん」
「いいけどね」
 どうしてだか言えなかった。ヒデも言わなかったのであるらしく、シゲは私の嘘をまったく疑ってもいない様子だった。ちくっと胸が痛んだのはなにゆえだったのか、そのころの私にはわかっていなかったけど、小笠原英彦という男を意識しはじめたのはまぎれもなくて、そんな心の動きに戸惑っていた。


隠しようもない衝撃を受けて、なのに隠すしかなくて、初に自身の想いを知った。
 あれから時々、ヒデとデートしていた。ふたりでごはんを食べたり、ふたりで映画を観たり、ぶらぶら街を歩いたり、シゲには秘密にしているのが後ろめたくもあったけれど、言えなかった。シゲはなにひとつ勘ぐってもいないのだから、ヒデとつきあってるんだよ、とは言いづらくて。
 けれど、つきあってると思ってたのは私だけだったんだと知らされた。ヒデは男友達と遊ぶのと同じ感覚で、私を女だとは想ってもいなかった。好きだと言ってくれてもいないし、軽いキスすらかわさなくても、ヒデは金子さんじゃないんだから、照れてるのかな、と微笑ましく感じていた。
「なんとなくこうなっちまったんだけどさ、彼女ができたって言っていいっていうか」
「ふーん、そう。よかったね」
 跳ね上がった心臓をなだめなだめ、私は笑ってみせた。
「合唱部の女の子?」
「そうなんだ。俺の世界は狭いから、合唱部の女の子だよ。柳本恵。大喧嘩したのが発端で、台風女なんだけどさ、なりゆきでそうなったというか……」
「寝たの?」
「ずばっと言うなよな。泉水ちゃんはそれだから男みたいだって言われるんだ」
「どうせそうだもん。私が女みたいだったら気持ち悪がるくせに」
「言えてるな」
 寝たの? と再び問いかけると、ヒデはてへへと笑った。
「寝たよ。恋人同士は寝るもんだろ」
「そうみたいね」
 ずっきんずっきん突き刺さる言葉を発して、笑っているヒデをぶん殴ってやりたかった。あんたは私の気持ちに……ううん、私自身が気づいてもいなかった私の気持ちに、あんたが気づくはずもない。私はあんたのただの友達だったんだ。ヒデはシゲにも柳本さんを紹介したと言う。三年生になっていた私は、そうしてヒデとは恋人にならないままに、自らの想いに決着をつけるしかなかった。
 それからもたまにはふたりで会った。友達づきあいは途切れずに続いているのだから、おのろけを聞かされても笑っていよう。わざときわどい質問をして、ヒデが困った顔をしても笑っていよう。そうしているうちには忘れるさ。私はヒデが好きだったんだよ、なんて、一生誰にも言うもんか。
 かたくなになっていたのかもしれない。学部の男子に、つきあってくれない? と言われたりもしたけれど、いやだよっ、のひとことではねつけた。ヒデやシゲの前では昔通りの泉水でいて、ヒデやシゲには私の気持ちを絶対に悟られないようにして、就職活動に没入していった。
「あんたらさあ、就職しないのか? 大学三年生も残り少ないんだよ。どうするつもり?」
 呑気に合唱部にうつつを抜かしてていいのか、と難詰して、ヒデからは打ち明けられた。シゲも悩み深い表情で言っていた。ずっと歌っていたいんだ、あてはなくもないんだ、歌手になりたいんだ。
 ああ、そうだったのか、と私も知った。シゲを鈍感だの大ぼけだのと罵っていたけれど、私だって鈍感だったんだ。シゲもヒデも歌手になりたくて、就職活動はしていない。ヒデはいずれ柳本さんと結婚するんだろうと言ってもいたけれど、結婚は結婚として、その前に歌手になる。
 あてとは、本橋さんと乾さんだった。彼らとの関わりが浅い私は知る由もなかったけれど、乾さんがヒデにそのようなことをほのめかしていたらしい。他力本願でいいのかよ、とも考えて私はやきもきしていたのだが、ある日、シゲとヒデが喜色満面で報告してくれた。
「フォレストシンガーズっていうんだ。本橋さんと乾さんとシゲと俺。それからもうひとり、二年生の三沢幸生。五人でヴォーカルグループを結成したんだよ。泉水ちゃん、俺の言ってたの、まちがってなかっただろ」
「俺も言ったよな。歌手になるんだよ。ヒデも俺も歌手になるんだ。こうなったら就職なんか決まってなくてよかったんだよ」
「そっかぁ。おめでとうと言うのはまだ早いね。プロになれるって決まったら死ぬほど言ってあげるよ。プロになるあてはあるの? ないの? これからだよね」
 そうだ、これからだ、がんばるぞーっ、とふたりしてガッツポーズをしていたシゲとヒデは、間もなく私からは遠い遠いところへ行ってしまうのだろうか。プロのシンガーズになって華やかな舞台に立って、私は客席にいて、あれがヒデとシゲか? 信じられない、別人みたい、と見とれてしまうのだろうか。
 無性に寂しくて、行かないでほしいと言いたかった。いつまでも学生でいたい。大ぼけのシゲと気の荒いヒデは、ずっとずっと私の友達でいてほしい。ヒデが好きだったなんてどうでもいいから、友達として好きだというだけでいいから、私の近くにいてほしい。このまんまでいたい。
 そんな望みがかなうはずもなくて、卒業して私は就職し、ヒデとシゲはフォレストシンガーズのメンバーとして走り出した。私も私の生活に忙殺されて、会う機会もなくなってしまっていたころに、シゲが電話をかけてきた。
「シゲ? 元気?」
「うん、まあな。おまえは?」
「新入社員だからね、日々、これ修行。私は事務職だから、バイトで店員とかやってたのともまるっきりちがってて、新鮮っていうかびっくりっていうか、驚きの連続、失敗の連続。配属も決まったから毎日社内を走り回ってるよ。シゲはバイトしながら歌修行だろ。お互い大変だよね。死んでない?」
「死んでないから電話してるんだろ」
「そうだね。シゲ……なんか元気なくない?」
 わかるか、とシゲは呟き、力なく続けた。
「ヒデがやめちまったんだよ」
「フォレストシンガーズを? なぜ?」
「結婚するんだって」
「柳本さんと?」
「そうなんだろうな。あいつもそんなにもてるほうでもなかったし、柳本さんしかいないだろ」
「もてるのもてないのって話じゃないだろうに。結婚するからってフォレストシンガーズをやめる必要がどこにあるんだよ」
「おまえが怒るなよ。あいつには事情もあるんだろ」
「シゲ……」
「泣いてるのか?」
「泣いてないよっ!!」
 泣きたいのはあんただろ。おまえが泣くわけないよな、って笑ってたけど、声は泣いてたよ。私なんかにはヒデの事情はわかるわけもないけど、裏切り者、最低、アホ、ボケっ、と罵詈讒謗のありったけをぶつけてやりたかった。だけど、いなくなってしまったヒデとは喧嘩もできない。
 なにか私にできることはないんだろうか……ないよなぁ、としか結論づけられなくて、シゲが電話を切ったあとも、受話器を見つめて惚けていた。
 それからも時はすぎていった。めでたくもフォレストシンガーズがメジャーデビューを果たし、シゲと乾さんに再会して、遠い日の諒子が金子さんに贈った花束の真似をして、私もかっこつけて乾さんに花束を贈った。乾さんの部屋で三人で飲み、ヒデの話題も出て、シゲも乾さんもヒデのその後を知らないと聞かされて落胆して、私はヒデとつきあってたんだよ、と酔ったはずみでぽろりと漏らした。シゲは驚いていたようだったが、あんなのはつきあっていたとは言わない。
 そしてまたしても時が流れ、私は大阪に転勤した。三重県出身の私にとっては、東京よりも親の家に近いからという理由で転勤させてもらったのだった。
 大阪でライヴをやったフォレストシンガーズに会いに行き、私の部屋に招いて六人で鍋パーティをしたり、私も遅まきながらも恋愛をした。
 彼らが歌手になると決めていると聞かされたころの想像とはいくぶん形が異なっていても、私は思っている。ヒデはいないけど、私はシゲを見るたびに思う。彼は私を見ていなくて、私のみが彼を見ている。稀に出演するテレビ、テレビよりは多く出演するラジオ、シングルCDやアルバムのジャケット、ライヴ、インターネット。その気になれば私はいつでも一方通行でシゲと会えるのだから。
「ってさ、そう思うわけ」
 大阪に出張してきた諒子と久々で会って、昔話で盛り上がったあとで、私は言った。諒子は東京で高校教師になっていて、同僚と結婚して娘もいる。二歳児の娘を夫の母親に託してきたと、昔以上に美人になった諒子は、おっとりと言っていた。
「そうだね。私もフォレストシンガーズには注目してるよ。本庄くんって昔と変わってないところもあるけど、たしかにいい男になったよね」
「金子さんは?」
「金子さんはもうもうもう、大ファン。この間、学校でそんな話をしてたのね。私はフォレストシンガーズの五人とも、金子さんとも徳永さんとも同じ大学だったのよ、って言ったら、同僚たちに羨望のまなこで見られちゃった」
「金子さんにはキスされたのよ、とは言わなかったの?」
「言いたかったけど、信じてもらえないんじゃない?」
 私のアパートに泊まった諒子と、そこからは金子さんや徳永さんやフォレストシンガーズの話題で大盛り上がりになった。金子さんも徳永さんもフォレストシンガーズよりは遅れたものの、プロシンガーになっている。私たちは合唱部ではないけれど、同窓生としては自慢の種だ。合唱部出身者にはなおさら鼻高々だろう。
「泉水、CD持ってるの?」
「フォレストシンガーズのはシングルもアルバムもそろってるよ。徳永さんのもある」
「金子さんのは?」
「ない」
「……ええ? ないの? 買ってこようかな。聴きたくってたまんなくなってきちゃった。ネットで買えるよね。買おうよ。私がお金を出すから」
「嘘だよ。あるよ。ないわけないでしょ」
「きゃあ。聴かせて」
 少女のころに戻った気分で、諒子とふたりできゃあきゃあと金子さんのCDを聴いた。
「いい声だよねぇ。金子さんって学生時代から最高に素敵だったじゃない? この若さでここまで洗練されててかっこよくて、将来はかえって衰えるのかと心配してたんだけど、ますますかっこよくなってる。歌もものすごく上手になってる。あのころから歌も最高だったけど、まだまだ進歩するんだね。私、金子さんを好きでよかった」
「諒子、精神的浮気か」
「ただのファンですわよ」
「うっとりした顔しちゃってさ、金子さんのキスの味はどうだった?」
「おでこだったから味はしなかったけど、ここんところが一年くらいぽーっと疼いてたの。あのせいで私は、学生のころは金子さんへの想いひとすじで、恋はできなかったんだわ」
「就職してほとぼりが醒めたんだ」
「醒めてないけど、現実を見られるようになったのよ。昔から金子さんはスターで、私は単なるファンだったの。今となってはそれで幸せだったんだ」
「なんで?」
 だって、と諒子は遠くを見て言った。
「もしも、もしもよ。私が金子さんの恋人になっていたとしたら、泣いて暮らさないといけなかったに決まってる。彼ってもてるんでしょ? 今もきっともてもてよ。だから結婚しないんだ。きっとそうだ。考えてたらむらむらと悔しくなってきちゃった。いっぺんぐらい抱かれておきたかった」
「抱かれてたじゃないか」
「あんなふうじゃなくてよ」
「こらこら、母がなにを言ってるか」
「いいのよ。妄想は自由だもの。今夜の私は十八歳の諒子ちゃんなんだもん。誘惑したらよかったなぁ。あのころの私って純だったから、できっこなかったのは承知で言うんだけど、空想も自由だよね。金子さん、抱いて、って迫ったら、金子さんはどうしたかしら?」
「さあね。どうとでも空想してちょうだい」
「そうねぇ」
 人妻の危険な妄想ってやつは、男から見たら色っぽいのだろうか。たった今の諒子に出会って抱いてと言われたら、金子さんはどうするだろうか。私もひとりで変な想像をしていた。
「徳永さんも独身だよね。フォレストシンガーズも独身だね。みんなもてすぎるのか。もてないヒデは早く結婚したけど、もっともてないシゲは独身、まったくもてない私も独身」
「だったら泉水、本庄さんと、どう?」
「断固お断り」
「……泉水はほんとに本庄さんを好きじゃなかったの?」
「好きだよ。ただの友達として好き。ヒデもシゲも」
「それだけ? うん、そうだね。そんな男友達がいて、私は泉水がちょっぴりうらやましい」
「シゲとはメールのやりとりくらいしてるけど、ヒデはいないんだよ」
「小笠原くん、どうしてるんだろ」
「私が知りたいよ」
 諒子との会話もヒデの現在へと流れていって、いくら言っても仕方がないのだから、CDを聴いてきゃあきゃあ騒ぐほうに気持ちを切り替えた。
「今度はフォレストシンガーズをかけようね。これはリードヴォーカルが乾さん。乾さんの声は綺麗だね。聞き分けできる? 低い声でのスキャットがシゲ、このファルセットが本橋さん、高い高いパートが章くん、甘い声でらーららーってやってるのが幸生くん。絶妙のハーモニー」
「いちいちうるさいね、泉水は、静かに聴かせてよ。聞き分けはできるんだから。本橋さんの声はちょっと金子さんと似てるよね。私はこの手の声がいちばん好き。ああん、たまんない」
「あんたもうるさいんだよ」
 いーっだ、と鼻にしわを寄せる諒子に、いーっだと言い返して少女のように笑って、笑って笑って、笑いすぎて出てきた涙をぬぐった。東京に帰っていった諒子から、翌日にメールが届いた。
「泉水、先日はありがとうございました。楽しかった。
 ねえ、泉水?
 ただのファンにだったら簡単になれるけど、ただの友達って簡単にはなれないんですよ。
 お互いにそう思ってるただの友達。
 私たちもそう? ただの友達? 泉水がそう考えていてくれたら、私は嬉しい。
 私にとっても泉水はただの友達。大切な友達。
 また会いましょうね。きっとね」
 いつかはヒデにもきっと会える。シゲにもまた会える。諒子にも会える。距離は離れていても、心はそばにいてくれる。ずっとずっと友達でいたい、なんて感傷的な感情だろうけど、信じていたい。いつかヒデが私とふたりっきりのときに歌ってくれた、「Stand by me」のフレーズが、耳元をかすめていった。

END



 
 
 
 
 
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