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小説13(ギター弾き)

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エレキ
フォレストシンガーズストーリィ・13

  「ギター弾き」

1

 十八の春に金沢から、俺は広い広い東京へと出てきた。世界でも有数の大都会は人間であふれ返っていて、俺が入学したひとつの大学とは、その一画にある小さなエリアにすぎなかった。それでも、学生総数は相当なものだ。本橋とは学部も別々だったのだから、互いに合唱部に入ろうと決めていなかったとしたら、彼とは出会わなかったかもしれない。
 あの日、合唱部の飲み会で本橋ととなり合わせにすわっていたのが、俺たちの出発点だった。ただ、歌が好きだというだけだったふたりの少年が出会い、友達になった。本橋と俺に目をかけてくれた合唱部キャプテンの存在がなかったとしたら、その後、シゲやヒデや幸生と出会わなかったとしたら、運命の歯車の噛み合わせのひとつがずれていたとしたら、俺たちは集ってはいなかったかもしれない。
 運命だったのだと俺は思う。おまえと俺は宿命のデュオなんだと本橋に言って気持ち悪がられたのだが、まちがいなくそうだった。本橋だけではなく、ミエちゃんもシゲもヒデも幸生も章も、俺にとっては運命のひとだ。
 だから俺たちはここにいる。こうしていつだって公園で歌ってる。ヒデはいなくなってしまったけれど、かわりに幸生とは仲がよかった章がやってきて、新たなるフォレストシンガーズが生まれて、そうして歌っている。気が滅入ってどうしようもない朝もあった。このまんまでいつまで……と悩んでいた昼もあった。眠れぬ夜も数えた。きっとみんながそうだった。
 けれど、そんなものは一切合財忘れて、俺たちは一から歩き出す。走り出す。幾度もコンテストで敗退してくちびるを噛み締めて、狭い世界だったからこそ自信を持っていられたのか、俺たちなんてプロになれる器ではないのか、と考えたことも、すべてを一旦消して走り出す。ようやく念願がかなったのだから、フォレストシンガーズはプロのシンガーズになれるのだから。

 
 「月影」という名のちいさな酒場でギターを弾くアルバイトをはじめたのは、一年ほど前だった。年季の入ったピアノ弾きの島岡さんと、若造のギター弾きの俺が客のリクエストに応じる。あるときふと歌ったら、乾は歌も上手なんじゃないか、とオーナーにびっくりされて、俺は歌のリクエストにも応えていた。
「乾くん、リクエストしていい?」
「どうぞ」
 常連客の尚子さんからリクエストをもらったのは、一ヶ月ほど前だった。
「なにを演奏しましょうか。歌ですか」
「両方」
「はい」
「ギター弾き」
「ってタイトルの曲ですね。えーと、それは誰の?」
「BORO」
「BOROですか……「大阪で生まれた女」だったら知ってるんですけど、すみません、その曲はちょっと……」
 知らないの? とばかりの軽侮の表情を感じた。こんな仕事をしていれば、客が俺の知らない曲をリクエストしてくる場合も間々ある。知らないからって落ち込んでもいられないのだが、尚子さんのリクエストに応じられなかったのはいささかこたえた。俺は島岡さんに「ギター弾き」を教わり、ギターの演奏も歌もこなせるように準備して、尚子さんを待った。
 が、尚子さんはなかなか店に来てくれない。今夜久し振りに会った尚子さんに、俺は告げた。デビューが決まったんです、と。
「そう」
 よかったね、とも言ってくれないのか。尚子さんはいつもひとりで店に来て、静かに酒を飲んで帰っていく。いつしか互いのプライベートな話もするようになっていたのだが、どちらかといえば俺が一方的に話しているだけだった。
「本橋真次郎、本庄繁之、三沢幸生、木村章、そして俺、乾隆也の五人がフォレストシンガーズのメンバーです。以前は別の男がいたんですけど、メンバーチェンジしたんです」
「乾くんはギターじゃなくて、歌で成功したいんだね」
「俺は歌がなによりも好きです。ギターも好きですから、今の仕事も楽しいですよ」
 あなたにも会えるし、と心でつけ加えるようになったのは、いつのころからだったのかは覚えていない。
「フォレストシンガーズねぇ」
「はい、いつかはきっと……」
「そうだね、いつかはきっと、ね」
 なんとなく気のない返事に思えるのは、いつかはきっとなんて信じていないのかと感じていた。そのいつかはきっと、の第一歩には到達したのに、あいかわらず尚子さんの返事にはつかみどころがない。
「そっかー、乾くんもプロになるんだ」
「メジャーデビューは決まりましたけど、これからですよね。そうだ、先だって尚子さんにリクエストされて、俺がお応えできなかった曲ですけど……」
「そんなのもうどうでもいい」
「……そうなんですか」
「それより、仕事がすんだらあたしんちに来ない?」
「え?」
「いや?」
「いやだなんてことは……あるわけがないんですけど、いいんでしょうか?」
「いやなら来なくてもいいけどね」
 走り書きの地図を手の中に押し込まれた。この店から徒歩でも行ける距離にあるアパートだった。ためらったけれど、遅い時刻に仕事を終えて、俺は尚子さんのアパートを訪ねた。暗いともしびの中で、尚子さんは言った。
「乾くん、あたしにつきあってほしいって言いたかった? あたしのうぬぼれ?」
「うぬぼれなんかじゃありませんよ。俺はそんな目であなたを見てましたか」
「見てたね。じゃあさ、寝ようよ」
「は?」
「なにびっくりしてんの? つきあおうってそういうことでしょ?」
「そういうことだけではない……と思うけど……」
「はっきりしない男は嫌いなんだけどね、寝るの? やめるの?」
「なんと返事をしたらいいんだか。尚子さん、俺はね……」
「きれいごとはいいの。あたしが好きなんでしょ? 寝たいんでしょ?」
「……困ったな」
「困らなくてもいいでしょ。若いくせになに言ってんの」
「あなたも若いでしょ?」
「乾くんよりは年上だよ。あっそ、年上は嫌いなんだ」
「そんなことは言ってません。では……」
 勢いに流されたみたいになって、俺は尚子さんとそういうことになった。夜が明けるまで俺の腕の中にいた尚子さんは、夜明けととともに起き出して机の引き出しを開けた。
「デビューおめでとう。これ、お祝いにあげる」
「これはあなたが描いた絵?」 
 絵を描くのは好き、雑誌のコラムのカットなんかも描いてる、それだけでは食べていけないから、アルバイトもしてる、そんな話は聞いていた。尚子さんは俺に一枚のイラストを手渡し、そして言った。
「これで気がすんだよね」
「どういう意味?」
「あたしねぇ、もう一度あんな思いをするなんていやなの。乾くんの望みはかなったんじゃないの?」
「望みって……尚子さん、俺は……」
「きれいごとはいいの。じゃあね、バイバイ」
「尚子さん……」
 帰って、と目が告げていた。俺らしくもなくなにも言えなくて、錯乱しっぱなしの気分のまま、俺は尚子さんの部屋を出た。
 もう一度あんな思いをするのはいや? どう解釈すればいい言葉なのだろうか。島岡さんだったらなにか知っているのだろうか。翌日は島岡さんがピアノを弾く夜だったので、俺は客として店を訪ねた。休憩時間に島岡さんをつかまえたものの、どう切り出せばいいのかわからないでいた。
「どうした、いつもよく喋る乾くんが、言葉に詰まってるとは珍しいな」
「尚子さんなんですけど……」
「尚子さんなぁ。あんた、あの女に惚れたんか?」
「わかりますか」
「やめとけ、あんな女」
「……理由があるんですか」
「ブラックフレームスってロックバンド、知ってるか」
 知っている。デビューしたのは一年半ぐらい前だったのだが、半年ほど前に突然大ブレイクを果たした。大ヒットを飛ばし、あれよあれよという間にスターダムへとのし上がったロックバンドだ。それと今の話になんの関係が? と問いかける前に、島岡さんは言った。
「あのバンドのギタリストのトミーってのがな、あんたの前に「月影」でギターを弾いてたんだ」
「……そうだったんですか」
「この間教えた曲、歌ってみな」
「ギター弾きですか」
 歌詞はしっかり覚えていた。

「ライヴハウスで知り合った
 若い女とギター弾き
 御堂筋の音に目覚めた……」
 
 そこらへんもだけど後半だ、と島岡さんがぼそりと言った。

「ラジオの中のフレーズが
 帰ってこないかと歌い出す
 愛してくれたあの日のままの声が
 今は誰に語る流行り歌

 売れないままのあんたのほうが
 こんなあたしには似合ってた
 振り返らずにお互いの生き方
 でも聞こえてしまう流行り歌」

 わかるだろ、御堂筋を東京のどこかの地名に変えたら……そのまんまだよ、と島岡さんが言った。
「俺はよくは知らないけど、トミーが売れちまって捨てられたのか、捨てられたってより別れたのか、尚子さんはあれからずっと荒れてるんだよ。ブラックフレームスがデビューしたぱかりのころは、それでもトミーの話しを楽しそうにしてた。いつの間にかぷっつり話もしなくなって、噂によるとなにかとな。だからさ、あんたもあんな女はやめときなって」
「……わかりました」
「乾くんもプロになるんだってな。がんばれよ」
「ありがとうございます」
「月影はやめるのか?」
「そうなると思います」
 リクエストを受けた曲を知らなくて、CDショップを探し回って買ったオリジナルの「ギター弾き」が耳元に聞こえる。声を振り絞るように歌う、身をよじるようにして歌う、かすれた男の声が、尚子さんの声とかぶさって聞こえていた。


 裏手に芝生のある、合唱部の部室、男子部と女子部に分かれてはいるものの、女子禁制だったり男子禁制だったりするわけではない。男子も女子も両方の部室を行き来して、混声合唱団を結成したりもした。恋もした。ここが俺たちの最初の第一歩だった。
 今日は大学自体が休日なので、キャンパスにもほとんど人影はない。俺は部室の裏手の芝生に腰を下ろして、昔を思い出していた。プロを目指すんだと決めて、フォレストシンガーズを結成したのは、本橋と俺が卒業する年だった。一年後輩のシゲは去年大学を卒業し、シゲと同年のヒデはその年の梅雨ごろにはいなくなってしまった。
 二年後輩に当たる章は二年生になる前に大学を中退してしまっていたのだが、幸生が大学を卒業したのは今年の春だ。俺が卒業してからだと二年半。けっこう長くプロになれなかったのに、みんなよく我慢してきたよな、我慢はこれからのほうが本格的になるのかな、などとも考えていた。そうしていると歌が口をついて出てきた。

「こわれたままの勝気な女が
 窓を閉めた街で暮らしているよ
 御堂筋のこげたマシンの音が
 今日も泣ける歌うたってる」

 歌ってるの、誰? と聞こえてきた声は章だった。あれ、乾さん? と驚いた顔を見せた。
「意外な歌、歌ってますね。それってブルースかな。乾さんの声には合わないタイプの歌に思えるけど、そうでもないんだ。こんなところに集まってなにするんですか」
「ここは俺たちの第一歩の地だからさ、感傷的かもしれないけど、決意を新たにしようってのかな。おまえにとってもここは第一歩だろ」
「そうとも言えるのかなぁ」
 歌はやめて結婚するんだ、と言って脱退してしまったヒデの代理という形で入った章だが、彼とて合唱部出身なのだ。章がいなかったらフォレストシンガーズは今の形ではいられない。
「もうなつかしかったりするんだよね」
 次にやってきたのは幸生だった。
「ここで……あそこでは……あっちでは……どうしてるのかなぁ」
「それって女の子を思い出してるんだろ?」
 章が訊き、幸生が答えた。
「女の子だけじゃないよ。女の子との想い出も多々あるけど、先輩に苛められてあの木陰でこっそり泣いたとか、先輩に殴られてこの芝生でわんわん泣いたとか、あっちでは乾さんに意地悪されて泣いてる女の子をなだめたとか」
「いつ、どこで、俺が女の子に意地悪したんだ?」
「自分に都合の悪いことはすぐ忘れるんだから」
「泣いた話ばっかりだな、幸生ってそんなに泣き虫だったっけ」
「昔はね。俺は十代のころは可愛い坊やだったんだから。章だって覚えてるだろ? そんな坊やも先輩たちに鍛えられて、泣かなくなったんだよ」
 へええ、と章が横目で幸生を見る。ふーんだ、と幸生が横を向く。俺は幸生が泣いたのを見たことがあるが、俺は女の子を苛めたことなんか一度もない。このたぐいの幸生の話には嘘が含まれているのはお約束なので、章もまったく信じていない。そうしていると本庄のシゲもあらわれた。
「乾さん、こんにちは。久し振りだなぁ、ここに来るのは」
「おっす、みんなそろってるな」
 本橋もやってきた。
「デビューが決まっての決起集会みたいなもんだろ。乾、なにか見せたいものがあるって言ってたよな」
「これだよ」
 詳しい事情は説明せずに、俺は尚子さんにもらった絵を取り出した。
「誰、これ? もしかしたら俺たち? きょえーっ、すっげえ美青年ばっかりじゃん、乾さん、誰が描いたんですか」
 どこから出してんだ、その声は、と本橋が幸生の頭を指でつつく。ここから出てんのか? と問われて、幸生は自分の喉を指さす。俺は、友達が描いてくれたんだ、と答えた。
 五人が集合している写真を、尚子さんに見せたことがある。その記憶をあてに描いたのだろう。顔立ちは美化してくれたのか、実物よりはるかに整っていて少女まんがのようだった。が、誰が誰なのかはわかる。
 先頭には背の高い青年がいる。片手を大きく上げて、行くぞっ、と叫んでいる形に口が開いている。木漏れ陽が彼の目をまぶしげに細めさせ、白いシャツが風をはらみ、淡い色のジーンズの長い脚で軽くジャンプして走り出そうとしている。おまえたちもついてこい、と本橋の声が聞こえてきそうだった。
 本橋に一歩遅れて、駆け出そうとしているのが俺だ。俺だけは面差しが俺に近いが、かなりの美青年に描かれているのは幸生が言った通りだった。チェックのシャツに黒っぽいパンツ、洋服の素材までが伝わってくる。
 そんな俺にまた一歩遅れて、幸生も走り出そうとしている。モノクロなので色までは不明だが、淡い色彩のシャツとパンツを着ている。こいつは実によく喋るんですよ、と俺が言ったのが記憶にあったのだろう。今にも賑やかに喋り出しそうな口元をしていた。
 そしてもう一歩遅れて章。Tシャツと白のパンツを身につけて、片耳にちいさなピアスが揺れている。長い髪が風に揺れている。幸生と競争するかのように走り出そうとしている。
 最後はシゲだ。章から数歩遅れて、おーい、みんな、待ってくれよぉ、と言いたそうに見える。俺が話したシゲの性格からこんな絵になったのかもしれないが、シゲは実は足は速い。シゲの手には楽譜がある。黒っぽいシャツにブラックジーンズであろうか、どたばたっという感じの走り方がシゲらしい。
「見ててちょっとばかり恥ずかしいけど、乾、友達が描いたって? 彼女だろ。正直に言え」
 俺をつつこうとする本橋の肘を押しのけると、幸生も言った。
「乾さんだけは本物とよく似てるよね。リーダーは脚が長すぎるし、リーダーも章もシゲさんも、顔が綺麗すぎるけどさ」
「おまえは?」
 章に訊かれて、幸生は澄まして答えた。
「絵の中の俺の顔には美しさが足りない」
「その顔のどこに美しさがあるんだ?」
「ここもここもここもじゃないか。章、おまえは眼が悪いんじゃないのか」
「俺も眼が悪いんだな。美しさなんか見えないぞ」
「シゲさんまでなに言ってんですか。これほどの美青年は俺以外にはどこにもいないでしょ」
「おまえほどよく喋る奴はどこにもいない、ってんならうなずけるけどな」
「リーダーまで……よく喋るひとだったらそこにもいますよ」
「ああ、たしかに」
 四人で俺の顔を注視するのを無視して、俺は絵を取り上げてまじまじと見た。
 望み、きれいごと、もう一度あんな思いをするなんていや、「ギター弾き」、聴きたくもないのに聴こえてしまう流行り歌、こわれたままの勝気な女、御堂筋ではなくあの街で、あのひとは窓を閉め、歌を聴いて泣いているのか。
「あんな思いなんか俺はさせない」
 と言えばよかったのか。再び会いにいったとしても、なにを言えばいいのだろう。あんな女はやめときな、と島岡さんは言ったけれど、この絵を描いたひとが「あんな女」であるはずはないと俺は思う。俺は若すぎるのか、甘すぎるのか。
「章くーん、章くんもここにいたんだ」
 聞き覚えがなくもない女の子の声がして、駆け寄ってくる姿が見えた。ミャーコちゃん、と幸生が呟き、章はなぜか逃げ出そうとした。
「なんで逃げるの、章?」
「離せ、幸生」
「ミャーコちゃんになにか悪いことしたな?」
「してねえよ。離せって」
「先輩たち、離したほうがいいと思います?」
「もう遅いみたいだな」
 苦笑いの本橋が言ったとき、ミャーコちゃんとやらが俺たちの近くへやってきた。
「本橋さん、乾さん、本庄さん、デビューが決まったんだそうですね。おめでとうございますっ」
 深く頭を下げる彼女に、三人で口をそろえてありがとう、と言った。その間に章が幸生の手を振りほどき、猛然とダッシュして走り出した。こら、待て、と幸生が追いかけていく。シゲはミャーコちゃんに質問した。
「章となにか?」
「ええ、まあ、とは言っても一年のときですし、私はとっくに忘れたっていうか、別に気にしてないんですけど、章くんは気にしてるんですね」
「きみは幸生や章の同級生?」
 訊いた俺に、ミャーコちゃんはうなずいた。
「言っちゃっていいのかな。章くん、大学は中退するんだけど、それでもよかったらつきあってくれない? って私に言ったんです。一年の終わりごろでした。突然だったから返事はそのうちに、ってことにして、やっぱりつきあってもいいな、って思って、章くんのバンドが出演してたライヴハウスに行ったんですよね。そしたら章くんったら、別の女の子と……」
 言っておいて笑い出した。
「そんなの三年以上も前の話ですよ。でね、今日は就職でお世話になった教授に会いにきたら、合唱部の先輩たちがいらしてるって聞いたんです。フォレストシンガーズって名前でデビューすることになった、って話は聞いてましたから、おめでとうございます、って言いたくて。章くんにだけ言いにきたんじゃないんですけど、こだわってるんだなぁ」
「悪い奴だな、あいつは」
 顔をしかめるシゲに、ミャーコちゃんはさらりと言った。
「章くん、もてたから。合唱部のひとたちとはどこかちがった雰囲気があったのは、ロックバンドやってたせいだったんですね。私もさっさと返事をすればよかったのかな。しないほうがよかったのかな」
「しないで正解だよ」
 本橋が言い、そうですよね、とミャーコちゃんは笑った。
「章くんによろしくお伝え下さい。美耶子はなんにも気にしてませんから、がんばってねって。先輩たちもがんばって下さい。応援してます」
 ありがとう、と再び声をそろえると、美耶子ちゃんはお辞儀をして歩み去っていった。
「なあ、シゲ?」
「はい」
「……な?」
「……ですねぇ」
 内緒話は章の悪口か。聞いているのは俺だけなのだから、俺に聞こえないように言っているのは俺の悪口か。本橋がシゲの耳に口を寄せ、なにやらこそこそやっているのを気にしないふりをして、俺は幸生と章が走っていった方向をすかし見た。遠く遠くに、ふたりの姿が見える。おっかけっこして走っている。
 視線を移せば、風を受けて本橋とシゲのシャツがはためいていた。ふたりの短い髪に木漏れ陽がきらめいている。尚子さんの描いてくれた絵は、俺たちが走り出す寸前の光景を捉えたものだ。ちょうどあの絵のように、これから俺たちは走り出す。俺にはあなたの悲しみを受け止めることはきっと、まだできない。島岡さんにはわかりましたと答えたけれど、わかってなんかいなかった。けれど、わからなくてはいけないのだろう。
 あなたの心のうちにあるものは、俺にはわからない。俺はあなたの祝福を胸に刻んで、ただ走っていくだけ。あなたもいつかきっと……そしてヒデ、おまえもきっと……その先は言葉にできなくて、風が想いをさらっていった。


2

 惨憺たるセンスの悪さ、とは言いすぎだろう。本橋はセンスが悪いのではない。りゅうとしたスーツを着こなせる体格を持っているのだし、二十四歳という若さに似合わぬ大人の雰囲気も持っている。苦みばしったいい男、とまでは呼べないにしても、甘さを排除した野性的な顔立ちと言えば言えるのである。つけ加えれば反面、怖そうにも見えるのだが。
 なのになんだってこう普段着にはかまわないのか。主義なのか。ここまで行くといっそすがすがしい。今日も本橋は、部屋のどこかで適当に拾ってきたような、よれっとしたダンガリーシャツにジーンズ姿だ。おまえのファッション知識にはジーンズしかないのか、だった。
「よお、乾」
「なんだよ」
 ファッションだのセンスだのと言うと、本橋は意固地になる傾向があるらしい。敢えてそこには触れず、俺は本橋を見返した。まあ、俺だって他人のセンスを云々できるほどでもないのだし。
「章となにかあったのか」
「章と?」
「章が意味ありげに言ってたもんで、気になってたんだ」
 秋が終わりを告げようとしているこの季節に、俺たちフォレストシンガーズは地方での仕事のために新幹線に乗っていた。
 現状では俺たちはまったくの無名であるから、新幹線に五人そろって乗っていても注目も浴びない。ミエちゃんも我々同様新米マネージャーであるので、ただいまは俺たちからは離れてマネージメント業を学んでいる。今回の旅にはミエちゃんではなく、ベテラン男性マネージャーの原西氏が同行してくれていた。
 全国主要都市のFM放送局に、デビューの挨拶回りをする仕事である。初日の今日は大阪だ。新幹線に乗るとなっても、本橋とシゲは日常と同じような服装でいるから、プロシンガーズが五人そろっているとは、相客にも気づかれないであろう。新幹線だからって気取る必要もねえだろ、と本橋は言いたいにちがいない。
「どの話かな」
 原西さんとシゲ、幸生と章、本橋と俺、それぞれのペアは散らばって座席を取っている。平日の夕刻の新幹線はおおむね満席で、他人の耳は気になった。
「どれだかわからないけど、おまえが心配するようなことはないよ」
「だといいけど……」
 一応は納得して、本橋は文庫本を開いた。クラシック音楽の作曲家、有名指揮者などなどに関するこぼれ話を集めた書物だ。本橋はこう見えて、クラシックにも造詣が深い。子供のころはピアニストになりたいと夢見ていた時期もあったのだそうだから、人には意外な一面があるものだなあ、と感慨を深くしてしまうのだった。
「ピアニストよりウルトラマンのほうが、おまえには似合いだよな。けど、ウルトラマンなんてものになれるわけもないんだから、ピアニストのほうがまだしも現実味はあるか」
 ピアニスト志望だった一時期以前には、本橋真次郎少年の将来の夢はウルトラマンだったらしい。よって、現在も彼の読書傾向は、クラシック及び音楽全般の著書、もしくは特撮、怪獣、ヒーローものが多いのだ。
「しかし、ピアニストは指が命なんじゃないのか。喧嘩なんかして指を痛めたら大変だろうに」
「今は声だ。喉が命だ。だから俺は煙草もやめたんだよ。おまえもちっとは考えろ」
「俺の喫煙は喉に影響するほどじゃないよ」
 大学に入って合唱部に入部して、煙草はやめたと本橋は言っていた。だったら高校時代には喫煙していたのか? と訊き返してもはかばかしい返事はない。俺は彼の高校時代以前をまったく知らないのだから、子供時代の彼もむろん知らない。東京生まれの本橋と石川生まれの俺には、大学に入る前はなんの接点もなかったのだ。
 ちらほらと思い出話には出てくるものの、本橋の子供時代は想像の域を脱しない。どんなガキだったのかな、こいつ、と俺は、本に没頭している本橋の横顔を見ながら考えていた。
 不適な面構えのやんちゃ坊主だったのか、それとも、ピアニスト志望の眉目秀麗頭脳明晰少年だったのか。前者はともかく、後者はない。眉目秀麗の面影はない。白皙の美少年でもなかっただろう。本橋が美少年だった道理はないし、色も白くはない。子供のくせして背は高く、頑健でのびのびした素直な少年といったところが順当かもしれない。
 ひるがえって自身の少年時代についても考えた。俺が煙草に手を出すきっかけとなったのは、当時の彼女だった。高校三年になる寸前のバレンタインデーに彼女からチョコレートとプレゼントをもらい、添えられていた手紙を読んだ。
「まゆりです。私のことは知ってる? クラスがちがうけど、知っててくれてると嬉しいです。
 乾くん、好きです。友達として交際してもらえませんか」
 ストレートな告白にぐっと来て、俺はまゆりに言った。
「ありがとう、まゆりちゃん。俺でよかったらつきあおうよ」
「ほんと? 嬉しい」
 長い髪をおさげにして、白いリボンで結んでいた。友達として、とはいってもキスくらいはしたけど、高校時代はずっとまゆりと交際していた。清純少女だと信じていたまゆりが、犀川のほとりをデートしていたときに、煙草を取り出したのはいささかショックだった。
「煙草なんて身体によくないよ」
「たまあにしか吸わないから平気。乾くんも吸ってみる? おばあちゃんに叱られる?」
「内緒にしておけばいいんだよ。よし、吸う」
 いたずらっ子の顔をして、俺を見つめていたまゆりを思い出す。デートでふたりきりになると、まゆりがバッグから煙草を出して、ふたりで吹かすのが習慣になってしまった。高校を卒業して、まゆりは地元の短大に進学し、俺は東京に出た。それっきり会ってもいないけど、喫煙習慣は残った。
 大学生になっても、プロのシンガーになれても、俺はたまさか煙草をくわえる。喉によくないのは承知の上だ。あれから幾度か別の恋をして、まゆりを思い出すよすがになっているのでもないけれど、初恋の味は俺の場合、いがらっぽい煙草の味なのかもしれない。
 未成年のころは少々おどおどと、成人に達してからはおおっぴらに、それでも吸いたい気分のときにしか吸わないので、常々持ち歩いているわけでもない。新幹線の座席は喫煙席ではあったが、こんなところで吸いたくはない。俺は追憶を中断して文庫本を取り出した。
 古典文学を専攻していた俺は、現代小説よりも古い小説が好きだ。これも祖母の影響なのかもしれない。祖母の書棚には古びた書物がおびただしく並んでいて、文字が読めるようになったころから、俺はその本たちをわけもわからず読んでいた。現代文学も読まなくもないけれど、今日、読みはじめたのも古典文学の一種だった。
「なに読んでるんだ?」
 他人の本に興味があるのは誰しもで、本橋が俺の手の文庫本を覗き込んだ。
「古今和歌集……作詞の参考にするのか」
「できなくもないだろうな。太古に近いはるかなる昔の日本人の心根に想いを馳せる。ロマンだよ。おまえが宇宙に想いを馳せるロマンと、根っこは同じだろ」
「万葉集をもとにした歌を作るんだったな」
「やってみるよ。だけど、売れ筋じゃないよな」
「アルバムが出せるようになったら、そんな曲を入れるのもいいかもしれないぜ」
 再び本橋は、クラシックの書物に目を落とした。新幹線が名古屋に到着し、乗客がだいぶ降りていったものだから、うしろの座席が空いて幸生がやってきた。
「章はがあがあ寝ちまってて、退屈なんですよ。乾さん、リーダー、遊んでよ」
「おまえも本でも読め」
「本なんか持ってきてないもん。グループサウンズの歌を聴いてたんだけど、飽きちゃった。乾さん、遊ぼ」
「しりとりでもしようか」
「賛成」
 そ知らぬふうで本を読み続けている本橋に、幸生が近づいた。
「リーダー、立って下さい」
「なんのために?」
「いいから」
「んん?」
 立ち上がった本橋の尻を、幸生が両手でつかんだ。
「な、なにしやがんだ、てめえはっ!!」
「だって、尻取り」
 そう出るんじゃないかと思ってた。俺が通路側じゃなくてよかった。本橋は噴火寸前の表情でいたが、新幹線の車内だと気づいて気を取り直したのだろう。声を低めて言った。
「てめえ、覚えてろ。宿についたらぎためたにしてやる」
「ぎためた? いやんいやーん、そんなにたいしたことはしてないでしょ。そんなに怒らなくていいでしょ。俺だってさわりたくなんかないけど、尻取りだって言うんだから、こうするべきかなって思ったんですよ。乾さんは期待してたんでしょ?」
「予測はしてたけど期待はしてないよ」
「そう? うわー、変な感触が手に残ったよ。手を洗ってこよっと。リーダー、いつまで怒ってるんですか? あんまり切れると血圧が上がりますよ。もしかして気持ちよかった? リーダーってそんな趣味があった? もっとしてあげようか? 次は優しく撫でてあげようか。俺はいやだけど、サービスでだったらしてあげてもいいよ」
「この痴漢」
「痴漢だなんて人聞き悪いわ。ユキちゃんになり切ってあげるから、リーダーも女の子に撫でられてるつもりで……」
「黙れ」
 言いながら、本橋は幸生の口をかなりの力で押さえつけた。が、ぎゃっ、と小声で叫んでじきに手を離し、幸生は逃げていった。俺がいぶかしんでいると、本橋は心底いやそうに言った。
「あの変態野郎……俺の手をぺろっと……」
「なめられたのか? ご愁傷さまだったね」
「うるせえ。笑うな」
 痴漢行為はされるは、文字通りなめられるは、えらい災難だ。仕事は明日なので、今夜は大阪についたら宿舎に直行して明日にそなえるとの予定だった。宿舎についたら……幸生、覚悟しておいたほうがいいぞ、と俺は、幸生が逃げていったほうに向かって呟いた。


 大阪にもいくつもあるFMラジオ局のひとつに近い土地に、今夜の宿舎があった。大阪の中心部にこんなに古い旅館がよくも残っていたものだと思える、倒壊間近にも見える建物だ。その旅館の大広間には、あらかじめ六組の夜具が延べられていた。原西さんは新大阪駅で別行動となり、夜中には帰るから、きみたちは先に寝てろ、と言い残して去っていった。
 新大阪で食事をして、近くのコンビニで酒とつまみを買い込んで宿舎に到着すると、布団が敷かれているのを確認するが早いか、本橋はものも言わずに幸生をつかまえて投げ飛ばした。
 きゃーーっ、と絹を裂くがごとき悲鳴とともに、幸生は背中から布団の上に墜落した。事情を知らないシゲと章は口をあんぐり開けている。こうするつもりで、本橋はここにつくまであの件について口にしなかったのだろう。本橋は半分は怒っていて、半分は笑ってもいるような顔で、章に命じた。
「うまい具合にあそこにあるのは、布団叩きじゃないのか。宿の従業員が置き忘れていったのか。章、持ってこい」
「なにをするんですか」
「決まってんだろ。幸生をぶっ叩いてやるんだよ」
「え? あんなので? 骨折しません?」
「骨折しないところをぶっ叩く。シゲ、幸生を押さえつけてろ」
「駄目ですよ、本橋さん」
 生真面目にシゲは応じた。
「いくらなんでもやりすぎです。幸生がなにを言ったのかしたのか知りませんけど、そこまでやってはいけません。幸生。リーダーにあやまれ」
 理由がなんなのかも訊かず、どちらが悪いのかも訊かず、シゲは断固たる態度で言った。幸生は布団の上に正座して、額を布団にくっつけた。
「たいしたことはしてないつもりだったけど、すんませーん、リーダー。ごめんなさい。ぶつんだったら手にして。手でだったらユキちゃん、我慢するからぁ」
 さわった? 幸生がリーダーを……とシゲと章が口にし、俺は大笑いしたいのをこらえて言った。
「そうなんだよ。しりとりしようか、なんて言った俺が悪かったのかもしれないけど、幸生が故意に曲解して、それで本橋のどこを取ったかはわかるよな。さわったんじゃなくてつかんだんだよ。おまけに幸生はさらにいたずらをした。そんな真似をした奴はいたずら坊主とみなして、本橋、素手でやれ」
「ユキちゃんったらかわいそう。真次郎さんにぶたれるの? あーん、怖いよぉ」
「どうせだったら……くそ、まったくおまえらは……またそうやってふたりかがりで俺をたぶらかそうと……」
「俺もさわりたくなかったんだけどね……ついつい……ごめんなさい」
 さらにいたずらってなんですか? と章が訊き、本橋は言った。
「言いたくもねえよ。横っ面の一発も張り飛ばしてやりたいところだけど、仕事にさしつかえるな」
「明日はラジオだから、顔が腫れてても平気だよな、幸生?」
 言った俺に、幸生はぶるぶるかぶりを振った。
「乾さん、リーダーがさしつかえると言ってるんだから、よけいなことは言わなくていいんですよ。リーダーにほっぺた殴り飛ばされたら、俺のこの可愛い顔が二目と見られぬ化け物面になっちゃうじゃん。本橋さん、ごめんなさいったら。ええんえんえん、ユキちゃんはいけない子だったわ。真次郎さん、許して」
「馬鹿たれ。男に戻れ」
「はーい」
 泣き真似は即座にやめて、幸生は舌を出した。本橋も本気ではなかったようで、畳にどっかりあぐらをかいた。
「幸生、いい加減にしとけよ。おまえはガキだけど、世間的には大人の年頃だろ。成人男子なんだろ。いつまでそんな真似ばかりやってるんだ。わかったのか」
「はい、重々反省しております」
「おまえは口ばっかりだからな。実がないってんだ。今度やったら……」
「二度とやりません。ごめんなさい」
 しおらしくあやまっているのも芝居なのかもしれないが、ここが幸生と章のおおいなる相違点なのである。章は意地っ張りだ。自分に非があると自覚していても、潔く詫びられない。幸生は口先だけでも簡単に詫びるので、相手が気が抜けてそれ以上怒れなくなってしまう。本橋も幸生にはいいようにかわされまくっている。
 対して章だと、本橋にしても俺にしても時たま本気で腹を立てる。シゲは温厚だし、幸生はめったに怒らない奴なので、章にもまず腹は立てない。俺もシゲや幸生を見習うべきなのだが、わかっていても、大人気ないと思っていても、口が出る。時には手も出る。俺はマジで章を殴ったことはないが、殴ってやろうかと思った覚えはある。幸生をマジで殴ったことはあるのだが、思い出したくないので胸に閉じ込めた。
 新幹線の中で本橋に問われた、章となにかあったのか? の真相はこうだった。俺は曖昧にはぐらかしておいたのだが、くっきり覚えている。数日前に章が俺の部屋に遊びにきた。章は不機嫌顔をしていて、すこし酒も入っている様子だった。
「くそくそー」
「俺のギターに八つ当たりすんなよ。こわれるだろ」
 なんでこのギターにはアンプがないんだよ、とぶつくさぼやきながら、章はギターを手にしていた。フォークギターにはアンプは不要だ。章も知っているくせに、俺のギターを見るたびに、アンプがどうこうとぼやく。
「エレキみたいにぎゅぎゅぎゅーんって音が出せないよ。こんなギター、いらない」
「こらっ!!」
 乱暴に放り出されたギターが、ベッドの脚に当たって弦が切れた。章は青ざめたものの、ふてくされて言った。
「弁償しますよ」
「弁償なんかいらないよ。弦は張り替えればすむんだ。金の問題じゃないだろ。なにを荒れてるのか知らないけど、俺の持ちものに当たるな。言いたいことがあったら言え」
「言いたくない」
「そんならなにをしに来たんだ」
「なんにも……ただふらっと……いいよ、帰るよ」
「待て」
 エレキギターではないギターに当たるということは、ロックがらみだろうか。章はロックは捨ててコーラスに生きると公言はしているのだが、ロックに未練たらたらなのは俺も知っていた。
「言えよ、話せ。俺にはなにもしてやれないかもしれないけど、話しただけでも気持ちが軽くなることもあるだろ」
「あんたに話したって意味ねえんだよ」
「そうか」
 そこから沈黙が降りた。俺の持っているCDにはロックは数少ないが、ローリングストーンズを選んでかけると、膝に顔を埋めていた章が言った。
「ストーンズかぁ。彼らもガキのころは不良少年だったんですよね。今でも不良老年か。ビートルズにしたって同じだよね。ロッカーってのはろくでもない奴らの集団なんだ。なのにさ、あいつらはてめえらが至上の音楽をやってるとふんぞり返ってやがる。昔の知り合いに会ったんです。そいつらと飲んだ。そしたら言いやがった。章は将来の保証ができたんだよな、俺たちには保証なんてなーんにもないけど、生きてる張りはあるぜ、夢をぶん投げて安定を目指すだなんて、ロッカーの風上にも置けねえよ、おまえなんかもはやロッカーじゃねえよ……だってさ」
「魂はロッカーのつもりなんだろ」
「聞いたふうな口ばかり叩くんだよな、乾さんは。あんたはどれほどの男なんだよ。そんなにえらいのかよ」
「えらくなんかないよ」
「先輩だからって俺たちより目上だと思ってるんだろ」
「目上じゃないさ」
 昔から俺にはしばしば向けた目つきをして、章は言った。
「ロッカーには先輩後輩なんてないんだよ。なくもないけど、あんたらみたいじゃない。俺にはこんなのは合わないよ」
「おまえがそうしたいんだったら、本橋を説得しろよ。俺はいいぞ、タメ口きいても」
「できない。今さらできない」
「できないんだったらつべこべ言うな。大口叩いても実行がともなわないのはおまえだろ。悔しかったらかかってこいよ」
「できない」
 思わず口調が荒くなっていた。大人気ないとはこのことであるが、そのときにはそうも考えられずに俺は言った。
「たまには殴り合いでもやってすかっとしてみるか。幸生はいないんだから俺が相手になってやるよ。本橋やシゲとだとどうしようもないだろうけど、俺はそんなに強くない。かかってこい」
「やだよ。どうせ手加減してくれるんでしょ? そんなのストレス解消にもならない。すかっともしない。幸生じゃないと相手にならない」
「そんなら……」
 うつむいてしまった章を置いて、電話で幸生を呼び出した。幸生の住まいは比較的近いので、幸生は事情を知らないままにやってきて、章の話しに耳をかたむけていた。
「おまえらしいけどさ、それっておまえがギターに当たったのがよくないんだろ? ごめんなさいしたの?」
「してないよ」
「しろ」
「だって……」
「なーにがだってだよ。おーし、そんなら俺とやろうじゃん。乾さん、やっていいですか」
「ご自由に」
 あまりにもあばれられると、部屋に支障をきたす恐れもあるのだが、幸生と章がはじめた取っ組み合いを見守っていた。章にはこうして対等に勝負できる幸生の存在が、なによりも貴重なのだろう。先輩面はしていても、俺では役立ってやれない。幸生と章はしばしどったんばったんやっていたのだが、勝負に決着はつかない。決着をつける気もないようで、多少はすっきりした顔になった章は、帰りがけに言った。
「乾さん、すみませんでした」
「ん? いいよ。けどさ、弁償します、じゃないよ。まずはすみませんだろ? 先に言え」
「わかりました」
 ふたりして連れ立って帰っていった章は、幸生にも説教されていたのだろうか。本橋の質問に対する答えは、近頃ではあれ以外にはなかったはずだ。
 過去には他にもあれこれあったけど、今さらどうでもいいではないか。章のロックへの拘泥が永遠に消えなくても、それはそれでいいではないか。ただ、章が俺たちの仲間でいてくれたらいい。章だけではなく、本橋もシゲも幸生も、いつまでもいっしょにいたい。なーんて言ったら、幸生がどう反応するか見ものではあるのだが、面倒なので言わずにおいた。
 こちらの説教は一段落した様子で、飲もうぜ、と本橋が言って、歌の練習ついでに、と言うのか、歌がついでなのか酒がついでなのか不明の一夜となった。やがて部屋に入ってきた原西さんも参加して、深窓近くまで歌って飲んでいた。
 原西さんはかつてはシンガーだった。オフィス・ヤマザキに所属するポップロックシンガーだったのだが、目の出る兆候も見えなかったので、マネージャーに転向したのだと話してくれた。渋いルックスと甘い声の持ち主の中年だ。さぞかし女にもてるだろう。そのせいでいまだ独身なのだと思える。
「おまえらは若いんだ。先は長い。しっかりやれよ。おまえたちの前途を祝して歌おうか。三沢、女の声でコーラスしてくれ」
「おー、原西さんったら話せる。なにを歌います?」
「俺の昔の歌、知ってるか」
 さすがにそれは……と口ごもっていた幸生は、ややあって言った。
「教えて下さい。一度で覚えます」
「よーし、言ったな。覚えられなかったら罰金だぞ」
「まかせといて」
 耳元で歌を教えてもらった幸生は、原西さんの歌に完璧なコーラスをつけた。ツーフレーズ目からは他の四人もスキャットで加わって、原西さんは言った。
「舌を巻くよ。おまえたちの歌は素晴らしい。売れなきゃ嘘だよ。売れなかったら社長の責任だ。そう思ってやれ。ただし、精進しろよ。努力しろよ。苦労もしろよ。俺みたいになるなよ」
 説教癖があるんだね、原西さんは、乾さんと似てるかも、と幸生が小声で言い、章も言った。酔っ払いは困ったもんだね……と言いかけて言葉を切って俺を見つめる。だけど、心がこもってるかな、とごくごく小声で言った章の言葉は、俺にも向けてくれていたのだろうか。俺の考えすぎか。原西さんひとりをさしていたのか。章の視線は俺に向いていたが、心がどこにあったのかは、俺には見えるはずもなかった。
 
 
3

「はじめまして、ブラックフレームスのトミーです」
 大阪のFM放送局のDJ、フォレストシンガーズを出演させてくれる番組のDJ、当然彼は俺を知らないだろう。俺には忘れられない名前だけれど、彼にとっての俺は、デビューの挨拶をさせてもらいに東京から来た、新米シンガーズの一員でしかない。わかってはいるけれど、打ち合わせの席ではじめて会った彼を、俺は我知らず睨みつけていたらしかった。
「乾、どうしたんだよ。なんつう目をしてたんだよ」
 あとから本橋に言われた。
「トミーさんとは初対面なんだろ。なのになんであんな目をして見てたんだ?」
「……初対面だよ。俺はどんな目をしてた?」
 こーんな目、と幸生は、俺の目つきを模倣しようとしたらしい。眉間に思い切り皺を寄せて、剣呑な表情を作ろうとこころみていたらしいのだが、横から章に言われていた。
「おまえの目には乾さんの百分の一の迫力もないよ」
「そうかぁ。五十分の一くらいはない?」
 ないないなーい、と章は言い、本橋も言った。
「おまえの目は山田にも迫力では負ける。諦めろ」
「そうですかぁ。うーむ、俺も大人の男として、ちっとは迫力のある顔つきもできるようにならないとな。こう? これだったらどう? 駄目? これは?」
「顔面神経痛か」
「章ったらひどーい。シゲさんはどう思う?」
「本橋さんの言う通りだ。おまえの顔には迫力というものはまったくない。章だったらまだしも、おまえには無理だ。諦めろ」
「諦めません、怖い顔だって訓練次第ではできるようになりますよ。なによなによ、みんなしてそんなことばっかり言っちゃってさ。チワワだの小猿だの紫の薔薇だのって……可憐なプリンセスだのハリウッドスターの微笑だの、果てはモナリザの微笑みだのって……俺ってそんなに可愛い?」
 心の中には「ブラックフレームスのトミー」の名と、その名に付随するかのように浮かぶ「尚子」という名がこびりついていた。尚子さんが愛し、尚子さんを愛し、尚子さんから離れていった男……トミー。彼の本名は知らない。尚子さんとの間にどんないきさつがあったのかも、又聞きでしか知らない。それが真実だったのか否かも、俺には知る由がない。けれど、心から追い払えずにいたふたつの名前だった。
 だから俺は、なんつう目だ、と本橋を怖気づかせそうな目をしていたのだろう。そんな目でトミーを見つめていたのだろう。なんでもない、と打ち消そうとしても打ち消せなくて、その目が固定してしまっていたのかもしれない。トミーは気づかなかったのだろうか。打ち合わせに余念がなかったから、彼には雑念の入り込む余地はなかったと考えておこう。
 本橋に向かって、俺にはおまえほどおっかない表情はできないよ、と笑ってみせたかったのに、笑いもできなかった。しかし、幸生が笑わせてくれた。知らず知らず笑っていた。
「幸生は可愛いよ。性格の可愛らしさが顔にあらわれるんだな。だからいいんだよ。おまえは迫力のある顔なんかしなくても」
「そおお、隆也さん? ユキちゃんは可愛い? 隆也さんがそう言ってくれるんだったら、ユキちゃんはこんなユキちゃんで満足しておくわ」
「ああ、ユキ、俺はそんなおまえが好きだよ」
「ユキちゃんも好きっ。ごろにゃんごろごろ」
 ああ、またはじまったか、と本橋とシゲは嘆息し、章は怒っている。けれども俺には見えた。女芝居をしている幸生の目に、俺の心を読み取ろうとしている感情が見えた。俺がなぜ敵意を込めてトミーを見つめていたのかを、探ろうとしている視線だった。俺は幸生を抱き寄せ、小声で囁いた。
「気にしなくていいんだよ。俺の勝手な思い込みだ。トミーが俺になにかしたわけではない。まったくの初対面なんだから。ただ、ちょっとだけ……いつか話せるときが来たら話すよ。おまえのおかげで俺の気持ちも落ち着いた。仕事をしような、ユキ」
「ん、だったらいいのよ。わかったわ」
 上手に話を合わせてくれて、幸生は素に戻って言った。
「いざ出陣!! 大阪のみなさまに、フォレストシンガーズの名をしっかり覚えてもらいましょう」
 こら、おまえが仕切るな、と章は言い、本橋とシゲは苦笑いしていて、俺も三人に笑いかけた。スタジオの中でトミーが手招きしている。出番だよ、入ってきて、と呼んでいる。俺たちがスタジオに入っていくと、トミーは言った。
「先ごろ、「あなたがここにいるだけで」でデビューしました、フォーゲットシンガーズです……ようこそいらっしゃいました」
 とととと、とっ、と幸生がずっこけてみせ、マイクに向かって言った。
「トミーさんったらお上手ですこと。don't forget me  私を忘れないで、ですよね。いいなぁ。改名しましょうか」
「え?」
 フォーゲット……え? あ……青くなったり赤くなったりしてから、トミーは叫んだ。
「うわっ!! まちがえたっ!!」
 なかなかにそそっかしい男であるらしい。リハーサルではきちんとフォレストシンガーズと覚えていたくせに、本番でまちがえるとは、しかもまちがえたと叫ぶとは、幸生が冗談にしてしまおうと取り繕ったのが無意味になってしまった。
「一度聞いたら二度と忘れないようにと、フォーゲットシンガーズだなんて言って下さったんでしょう? ありがとうございます、トミーさん」
 再度取り繕おうと俺も言ったのだが、トミーは真面目に否定した。
「いえ、ごめんなさい。思い切り噛んでしまいました。痛恨の言い間違いです。言い直します。フォレストシンガーズのみなさんです。改めましてようこそいらっしゃいました。では、まずは自己紹介をお願いします」
 ブラックフレームス。メジャーデビューしたのは二年前、デビューしてから一年ばかりたったころに突如として大ブレイクを果たした。大ヒットを飛ばし、あれよあれよという間にスターダムへとのし上がったロックバンドだ。トミーはブラックフレームスのギタリストである。
 軽く色を抜いた長い髪、スリムな長身で、秀麗な顔立ちをしている。そのくせ慌て者でもあるらしいのは親しみやすくていいかもしれない。彼は人気のあるロックバンドのメンバーであるからして、うちの仲間たちも全員その名を知っていた。昨夜、原西さんが話してくれたのだ。
「明日はFMなにわの午前七時からの番組だよ。番組のタイトルは「アーリーモーニングティ」という。イギリスのお茶の時間をさす英語で、早朝のティタイム、起き抜けの一杯だな。目覚めの一杯ってところだ。DJはブラックフレームスのトミー。おまえたちも知ってるだろ」
 その瞬間、俺の心臓が早鐘と化した。俺以外の四人は、知ってますよ、ほおお、そうなんだ、とうなずき合っていたが、俺はなにも言えず、章が身を乗り出した。
「大阪のFMにレギュラー番組を持ってるんですか? トミーって大阪出身?」
「そうらしいな。大阪から上京してきて、ロックバンドでは食えないからってギター弾きのアルバイトをしていたらしい。デビューしたのはなにかで認められたんだろう。俺もよくは知らないが、デビューしたからってたちまち売れたりはしない。去年だったよな、ブラックフレームスがいきなり売れたのは。おまえたちもそんなふうになれるといいな」
「そっかあ、トミーと会えるんですね。俺はなんだか複雑だけど……」
 もとロッカーの章がそう言うのは、みんなにも理解できる感情だったのだろう。俺もその場では仲間たちに合わせて、おまえだってプロのシンガーになったんだから、引け目なんか感じなくていいんだよ、と章の肩を叩いたりしていた。が、実際にトミーと会ったら平静ではいられなくなってしまったのだ。
 デビュー前には俺もギター弾きのアルバイトをしていた。「月影」という名の主に酒を出す店で、客のリクエストを募ってギターやピアノの演奏をし、俺は歌も披露していた。「月影」で俺の前にギターを弾いていたのがトミー。トミーと恋仲だった尚子さんに、そうとは知らずに俺は恋をした。
 誘われるままに彼女のアパートに行き、誘われるままに彼女を抱いた。つきあうってこういうことでしょ? と投げやりに言った尚子さんは、夜が明けると俺に一枚のイラストを手渡し、そして言った。
「これで気がすんだよね」
「どういう意味?」
「あたしねぇ、もう一度あんな思いをするなんていやなの。乾くんの望みはかなったんじゃないの?」
「望みって……尚子さん、俺は……」
「きれいごとはいいの。じゃあね、バイバイ」
「尚子さん……」
 なにがなんだかわからなくて、「月影」のピアノ弾きの島岡さんに尚子さんについて尋ねてみた。そうして教えられた。尚子さんがリクエストしてくれた「ギター弾き」。ライヴハウスで知り合った若い女とギター弾き、御堂筋の音に目覚めた……そんなフレーズではじまるブルースだった。

「ラジオの中のフレーズが
 帰ってこないかと歌い出す
 愛してくれたあの日のままの声が
 今は誰に語る流行り歌

 売れないままのあんたのほうが
 こんなあたしには似合ってた
 振り返らずにお互いの生き方
 でも聞こえてしまう流行り歌」

 御堂筋、という歌詞の出てくるその歌を、尚子さんが聴きたかったのは、トミーが歌ってくれたことがあるからだろうか。トミーが大阪出身だったからなのだろうか。歌の中の女性と尚子さんが、似た境遇にあったからだろうか。尚子さんと知り合うまでは知らなかったその歌の歌詞もメロディも、今でも俺の中に鮮やかにある。俺はトミーに敵愾心を抱いていた。売れたからって恋人を捨てていった男だと思っていた。
 有名なバンドのギタリストなのだから、トミーについて調べる気になればたやすかっただろう。しかし、調べたくはなかった。時として聞こえてくる彼らの歌にも耳をふさいでいた。なのにこうして会ってしまった。彼は尚子さんをどう思っているのだろう。ただの過去の女か。訊けはしない。
 自己紹介をする仲間たちに合わせて、俺も機械的に自己紹介をした。なんの真心もこもっていなかったと気づいたときには時すでに遅く、章とトミーが会話に花を咲かせていた。
「大阪弁ロックってのもいいでしょ? この次はそんな曲を出そうかって相談してるんですよ」
「トミーさんは大阪弁じゃありませんよね」
「あんまりモロには出さないようにしてるけど、喋れば喋れます」
「モロには出さないの?」
「僕だけですからね、大阪出身は。僕は東京に出てから、ブラックフレームスを結成したんですよ。他のメンバーは関東人だから、大阪弁で話すと漫才みたいだって言われるんです」
「言えてるかな。僕は北の人間ですから、大阪弁ってなじみがないな。大阪の街を歩いてたら、あたりを大阪弁がとびかっててぎょぎょっとして……」
 こほん、と幸生が咳払いを響かせた。
「あのですね、ただいまは我々の紹介コーナーなんじゃありません? トミーさんと章はロッカー同士で意気投合しちゃって、僕らをほったらかしなんて寂しいわん」
「あ、あっと、すみません」
 打ち合わせ通りには進行しないのが生番組なのであろうか。その後も話題がどうしてもロックに流れ、章が積極的にその話をしたがったりもして、フォレストシンガーズはそっちのけでロック談義ばかりになっていた。しばしロックの話題が続いたあとで、トミーは言った。
「うわわ、またまた失態でした。すんません。フォレストシンガーズの歌をリスナーのみなさんに聴いていただきましょう。本橋さん、曲紹介をお願いします」
「はい、「あなたがここにいるだけで」です。お聴き下さい」
 どうぞー、と他の四人も声をそろえて言い、我々のデビューシングル曲が流れはじめた。ここで我々の出番はおしまいとなる。番組は続くので、トミーに会釈してスタジオから出た。
 このあとは、大阪には他にもいくつもあるラジオ局を回る予定になっていた。仕事がすんだら宿に帰り、もう一泊して明日には神戸、明後日には京都に行く。関西ではわりあいのんびりできるけど、中国四国地方にまで足を伸ばすのだからして、関西地方での仕事がすめば強行軍になる。本日の仕事が終了すると、我々は早めに宿に戻った。
「乾、おまえ、まだやっぱりなんだか変だぞ」
 なんにも言えるはずもない。なにか言えたとしても、なにをどう言えばいいのだ。トミーと会ってしまったことは忘れようと決めていたのに、俺は上の空になっていたらしい。尚子さんのことも忘れかけていたつもりだったけれど、忘れてなんかいなかった。ずっと心にひっかかっていた。
「……ごめんな、明日からまともになるよ」
「そんならいいけどな。今夜は飲まずに寝ようか。昨夜は夜遅くなっちまって寝不足気味だろ。そのせいでおまえはおかしいのかもな」
 そうしておくのが俺の身のためかもな、と本橋にうなずきかけて、俺は昨夜と同じ部屋の襖を開けた。
「……トミーさん?」
 なぜここにトミーが? 全員で見つめると、トミーは部屋の隅にすわった姿勢で頭を下げた。
「すみません。今日は重ね重ねの失態で……俺はもうもう、穴があったら入りたい気分ですよ。穴掘ってでも入りたい。しょっぱなからお名前をまちがえて、そのあとはみなさんをほったらかしてロックの話しばっかりで……すみません。どうお詫びしたらええもんか……」
「大阪弁になってますね」
 くくっと笑って本橋が言った。
「頭を上げて下さい。そんなに詫びてもらうとこっちが恐縮ですよ」
 そうそう、と章も言った。
「俺のせいもあったんですよね。俺、いまだにロックとなると……」
「木村さんはもとロッカーなんですものね。しかし、俺はDJですよ。ゲストのみなさんを上手にまとめていかんと……なのなにのにあのていたらく。どうやってお詫びしたらいいものか……そうや!!」
 よしっ、とトミーは立ち上がった。なにをするのかと思っていたら、トミーは庭に出ていった。くるくると裸になり、トランクスひとつの姿になったトミーは、あっけに取られている我々の面前で、井戸から水を汲み上げてざばーっとかぶった。
「おい、トミーさん……」
 本橋が絶句し、幸生は叫んだ。
「なにするんですかーっ。肺炎になっちゃうよ。リーダー、止めて下さいって」
「あ、う、そうだな」
「おまえらは知らないかもしれないが、井戸水というものは……」
「なに、乾さん?」
 八つの目が俺を注視している。シゲが手を打った。
「そうそう、これは田舎育ちしか知らないな」
「だよな。大阪のど真ん中に井戸が残ってるってのは驚きだけど、うちにもあったよ。水垢離か。あれはてめえに活を入れるには最適なんだ。な、シゲ?」
「そうですね、やりますか」
「やるか」
 おい、こら、おまえらまでなにを……と本橋が焦っている。幸生は目を白黒させていたが、章も言った。
「うちの近くにも井戸はありましたよ。トミーさんにばかりやらせておけないよね。俺も悪かったんだし」
「俺もだ。章もやるか」
「やりましょうか」
「やめろよ、章。ひ弱なおまえがこんな季節につめたい水をかぶったりしたら、高熱を出して明日からの仕事ができなくなっちゃうじゃん」
 幸生はおろおろしていたが、シゲは笑い飛ばした。
「あとから風呂に入ったら平気だよ。俺もやろう」
「シゲさんは失敗もなんにもしてないでしょうに」
 止めようとする幸生に、いいからいいから、とシゲは言い、先に井戸のそばに行って裸になった。章も俺もそれに倣うと、幸生が本橋に言った。
「なんでああなるの? 俺たちは見物してるんですか」
「……やれってのか、俺にも。止めたほうが……」
「止まりませんよ、あれは。こうなりゃ自棄だ。俺もやろっと」
「こら、待て、待て、幸生」
 珍しくも本橋がもっとも焦っている。幸生もやってきて裸になり、目を閉じて水をかぶってから叫んだ。
「あれぇ?! 思ったよりあったかいじゃん!!」
「だろ? 井戸水は水道の水とちがって、寒い時期にはあったかいんだ。本橋やおまえみたいな都会人は知らないだろうし、田舎にも井戸なんてめったにないけど、けっこう気持ちいいだろ」
「ちょっとはつめたいけど、あとで風呂であったまったらいいんですよね。リーダーもやりましょう」
「そう、なのか」
 半信半疑といった顔をしていたが、本橋も服を脱いで水をかぶった。
「そうだな。意外に気持ちがいい」
 かわりばんこに井戸から水を汲んで、かわりばんこに頭から水をぶっかけて、そのうちには水遊びでもしているような雰囲気になってきた。ふと気づくと、宿の女将さんがこちらを見て呆れ顔をしていた。
「……まあまあ、なんぼ井戸水やいうたかて、なんぼお若い男の方やいうたかて、なにをしたはりますのん。やめなさい。井戸水がもったいない。ただとちがいますんやで」
 叱られてそろってうなだれてみせ、本橋が代表して言った。
「すみません。いや、得がたい経験をさせていただきました。井戸水はただじゃないのか。そりゃそうですね。こら、おまえら、お礼を言え」
 すみませんでしたーっ、ありがとうございましたーっ、とそろって言うと、女将さんは笑い出した。横目で見ると、トミーも我々にまじって声をそろえていた。
「まあまあ、しゃあないお坊ちゃんらやこと。さっさとお風呂に入らんと風邪を引きますで。なんぼ井戸水にしたって、つめたいのはつめたいでっしゃろ。はよこっちに来なはれ」
 全員トランクス一枚の姿で走っていって、女将さんの指示に従って風呂に飛び込んだ。六人の男が入ると浴槽はぎゅうぎゅう詰めになったのだが、学生時代を通り越して小学生にでも戻ったみたいだ。女将さんは俺の祖母の年頃……しゃあない坊ちゃんら、か、小学生坊主が六人そろっていたずらをして、六年も前に逝ってしまった祖母に叱られたみたいで、胸がきゅんっとなってきそうだった。


 風呂から出て、今夜は飲まずに寝ると言った前言を覆し、六人で酒を飲んだ。持ち込み禁止などと硬いことは言わない宿なので、幸生と章が近くのコンビニへと走って、酒やつまみを仕入れてきたのだ。
「けっこう突拍子もないことをやるんですね、トミーさんは」
 本橋が言い、酔うにつれて大阪弁全開になってきたトミーが応じた。
「お詫びと反省の念を込めて、のつもりやったんやけど、本橋さんらにまでさせてしまうとはね。きみらもけっこうお茶目やね」
「お茶目はユキちゃんでしょ」
「三沢くん……きみは面白いなぁ。それ、ラジオでもやってくれたらよかったのに」
 またまた女芝居をやりそうになっている幸生をトミーがそそのかし、シゲは真顔で言った。
「やめて下さい。ラジオでやらせたら番組が収拾つかなくなりますよ」
「シゲくんは三重県出身なんやて? ほんなら俺と漫才やろう」
「三重弁は大阪弁とはちがいます。大阪のひとみたいに都会的な言葉じゃありませんから」
「大阪弁が都会的? それをネタに漫才やろうや」
「いやです」
 大阪弁っつうのはなぁ、とトミーは本橋と幸生に講義している。トミーは二十八歳だそうだ。俺たちよりは年上なので、言葉遣いも気楽なものになっていた。尚子さんも俺より年上だと言っていた。正確な年齢は教えてくれなかったものの、トミーと同じくらいなのだろうか。
 忘れるには時間がかかるかもしれない。尚子さんは今でもまだ、トミーを思い出して泣いていたりするのだろうか。ノーテンキに笑っているトミーを見ていると、詰ってやりたい気分にならなくもない。
 けれど、俺は尚子さんとトミーの恋の詳細は知らないのだ。俺はただの、尚子さんに恋をしてふられた男。尚子さんの寂しさをひととき忘れさせてあげられたのなら……なんて、なにかといえばそんなふうにいい子になりたがる。だからおまえは章にも言われるんだ。
「聞いたふうな口ばかり叩くんだよな、乾さんは。あんたはどれほどの男なんだよ。そんなにえらいのかよ」
 先輩面ばっかりして、聞いたふうな口ばっかり叩いて、えらそうにしているのは事実なんだろう。えらそうにするだけだったら単なるガキ大将だ。えらそうにするんだったらするだけの、責任だの義務だのも果たさなくちゃ。わかっちゃいるけど、なかなかむずかしいんだよ。ため息をつくと、章が俺の顔を見た。
「乾さん、なにをむずかしい顔をしてるんですか」
「……なあ、章」
「はい?」
「うまく言えないんだけど……まあ、せいぜい努力するよ」
「なにを?」
「大人にならなくちゃな」
「俺がですか」
「俺もだ」
 目の中にクエスチョンマークをいくつも点滅させて、章は俺を見返した。
「ひとりごとだよ。気にすんな」
「乾さん、どうも変なんだよな。こないだの夜の……俺の態度のせいですか」
「こないだっていつ?」
「忘れてないくせに」
「忘れた。飲め」
「……飲むと寝てしまうよぉ。俺はもっとトミーさんとロックの話がしたい。大阪弁なんかどうでもいいでしょ。トミーさん、俺とロックの話をしましょう」
 ちょっと待て、今はええとこなんや、とトミーが章に言い返し、シゲも言った。
「今は関西弁についての議論を戦わせてるんだから、おまえは黙ってろ」
「……みんなで俺の邪魔をする。よーし、そんなら俺は飲もうっと」
 ぶすくれて言った章が、俺に紙コップを差し出した。
「乾、注げ」
「……いい度胸だな、章、誰に向かって命令してるんだ?」
 うっきゃーっ、と章は、幸生みたいな悲鳴を上げた。
「……いっぺん言ってみたかったんですよぉ。酒の席でしょ。怒りませんよね」
「章、乾が許しても俺が許さんぞ。こっちへ来い」
「わーん、やだっ。幸生、助けて」
「えとえと……リーダー、マジ? そんならユキちゃんからもあやまりますからっ。章ちゃんをぶたないでったらぶたないでっ。もういっぺん水浴びしてお詫びしようか、章」
「……もういい。おまえにはかなわないよ」
 面白い奴らやなぁ、特に三沢くんは……とトミーはほとほと感心したように言い、幸生は言った。
「トミーさんは俺が嫌いなんて言いません?」
「なんできみを嫌う必要がある?」
「いえね、俺ってわりと……なんだかこう……おまえみたいな軽い奴は好かん、とかってさ、男には言われたりするものでね。いいけどね。女の子には好かれるから。ね、章?」
「へーっだ。俺はおまえなんか大嫌いだよ」
「俺もおまえなんか大嫌いだよ。おまえに嫌われるのは望むところだーっ!!」
「こらこら、章、幸生、酔って取っ組み合いなんかするんじゃないぞ。章は目がとろとろじゃないか。寝ろ」
 はーい、と章は本橋に返事をしてこてんと横たわり、幸生は章を引きずって布団まで運んでいった。
「ガキは寝かせておいて、トミーさん、飲みましょう」
「ああ、そういえば乾くんとはあんまり話してないね」
「すみません、寝不足で昼間はぼけてました。水浴びして眼が覚めましたよ」
 結局尚子さんの話しは、トミーとはせずに終わった。俺も「月影」でバイトしてたんですよ、とも言わなかった。尚子さんの存在は俺のうちから、いずれは消えていくのだろう。新しい恋でもすれば……身勝手な想いだろうか。だけど、俺にはそうしか言えない。 
 ねえ、尚子さん、トミーはいい男だよね。こうして個人的に飲んで話していたら、敵愾心も薄れてしまう。あなたにとっては今でも恨めしくも恋しい男なんだろうか。会いたくて焦がれているんだろうか。トミーにとってはどうなんだろう。訊いても詮もない。聞きたくない。
 島岡さんはあなたを「あんな女」と評した。俺はトミーを「あんな男」と思い込んでいた。だけど、そうは思えなくなってくる。あなたも「あんな女」なんかじゃないよね。だから尚子さん……だからなんなのか、自身の心が明確につかめないまま、俺は紙コップを上げてトミーと乾杯した。


4

 季節はうつろう。秋から冬へと変わっていく。決して後戻りはしない。時はただ流れていくもので、過去には戻れない。過去にとらわれているのは愚だ。そうだ、乾隆也、若者は前進あるのみだ。
「そうだそうだ」
 ひとりで言ってひとりでうなずいて、俺は公園のベンチから立ち上がった。ここは本橋の住まいの近くである。本橋のアパートに寄っていこうと決めて歩き出した。
 アマチュア時代の歌の練習場所はここだった。五人のアパートは各々がそうは離れていない土地にあるのだが、本橋の部屋が公園からはいちばん近い。歩いて行き来できる距離にある。リーダーの特権かよ、などと後輩たちが陰口をきいていそうな気がして、俺は言ったものだった。
「本橋の部屋から近いからじゃないんだぜ。おまえたちや俺のアパートの近くにも公園はあるけど、ここがもっとも広いだろ。広くないと自由に声を張り上げられない。だからだよ。他意はないんだ」
「乾さんったら、そんなことはわかってますよ。なんでいいわけすんの?」
「いいわけじゃないけど……」
 言わずもがな、であったらしい。なんでいいわけすんの? も幸生の台詞だったのだが、あとから幸生はさらに言った。
「乾さんったら、あっちもこっちもとりまとめないといけなくて大変ね。ユキちゃん、乾さんのご苦労はお察ししますわ。肩でももんでさしあげましょうか」
「ああ、頼む」
「あれ? そう出るの? では、おもみ致しましょう」
「……力が入ってない。それではもんでるんじゃなくていじってるんだろ。くすぐったい」
「もうもう、乾さんってばぁ……」
 その続きはなにが言いたかったのか謎だが、幸生はしまいに俺の腋の下をくすぐって逃げていった。思い出し笑いをしながら、俺は本橋の部屋のドアをノックした。
「誰だ?」
 不機嫌ないらえとともにドアが開き、本橋の仏頂面に目をやった俺は思わず身を引いた。
「なんだよ、乾か。入れ」
「入らせていただいてよろしゅうございますか? お客さまではないのでしょうか」
「なにを薄気味の悪い声出してやがんだよ。入れ。ぐずぐずしてると蹴り上げるぞ」
「……ものすっげえ不機嫌だね」
「俺はいつでもこんなだ」
 聴衆のみなさまの前では愛想がいいし、二枚目みたいな声で話すのも堪能なくせして、裏表の激しい奴である。不機嫌の理由に思い当たるふしがあるのだが、言っていいものだろうか。
「なにしに来たんだ」
「公園で追憶に浸ってたら寒くなってきたんだよ。熱いコーヒーか熱い酒が飲みたい」
「追憶に浸って……そっか。シゲもそうだったのかな」
「シゲ?」
「シゲはいいんだけど、酒だったら外にいこう。うちには食いものがない」
「外で飲むのか」
 では、言わざるを得まい。
「女性のお客さまがいらしてたんだろ。おまえに化粧する趣味はないよな」
「……回りくどい奴だな。なんで女が来てたってわかるんだ?」
「化粧をする趣味がないのは知ってるし、気まぐれに口紅を塗ってみたってんだったら、いくらなんでももうすこし丁寧に塗るだろ。本橋、鏡を見てみろ」
「口紅?」
 うげっ、と唸ってから、本橋は洗面所にすっ飛んでいった。ドアを開けて本橋の顔を見た途端に引きそうになったのは、彼の口元に口紅がついていたからに他ならない。本橋が自ら口紅をつけるわけはないのだから、口づけの名残りなのは自明の理、すなわち、恋人が訪れていたのだろう。そうでなかったら俺はどうすればいいんだ。
 そうでなかったらって……他の理由? 恋人ではない女性とキスした? 女性だったらいいけど、退屈だったから口紅を塗ってみた? 口紅を塗る趣味のある男友達が来ていて、彼とキスした? うげぇ、想像したくない。なのに想像が妙な方向に羽ばたいて悶絶しそうになっていると、本橋が走ってきて俺を蹴飛ばした。
「なにをする、なにを」
「うるせえ、もっと早く言え」
「言わなくても気づかないかと期待したんだけど、ほっとくとそのまんまで外に出るだろ。それはまずいだろ」
「まずいに決まってんだろ。おまえはいったいなにを……わかったよ。言うよ」
 白状しろとは言っていないのだが、本橋は話しはじめた。
「俺に女ができたってのは、薄々気がついてたんだろ」
「女ができた、よくない言葉だ」
「言葉なんかなんでもいいんだ。どうせおまえは気づいてたんだよな。そうだよ、彼女ができた。できたけど……ふられたんだと思ってた。ニ、三日前に山田と、おまえが追憶に浸ってたっていう公園にいたんだ。
山田と喧嘩になっちまって、だからってほっぽって帰るわけにもいかないから、もめながらも前後して歩いてたんだよ。そしたら山田が足を止めて、木陰を指さした。そこにいたカップルの女のほうがな……」
「おまえの彼女?」
「そうだ。そんならふられたってことだろ。彼女は別の男に走ったんだろ。そんなら追いかけたってしようがねえだろ。俺は自然消滅にまかせるつもりだったよ。けど、今夜、彼女がうちに来て……」
 彼女の言によると、彼は職場の同僚だ、家まで送ってくれたんだ、だったのだそうだ。
「嘘だ。俺がいくら鈍感だって、あの雰囲気はそんなんじゃないとわかったよ。山田も言ってた。あれはどう見ても恋人同士だって。そうとわかってても、本橋さんは私を信じてくれないの? なんてさ、潤んだ瞳で見つめられたらほだされちまうだろうが。俺はまだ……まだだったんだけど……くそ、これ以上は言いたくない」
「およそはわかったよ」
「ずるずるっとな……今はずるずるだけど……近いうちには……なんだってこうなんだろうな」
 真情を吐露したとはいっても、すべてではなかっただろう。俺はまだ……まだ……? その続きがなんなのかはわからないけど、およそがわかればいいので、俺は言った。
「飲みにいこう」
「そうだな」
 ふたりして外に出ると、本橋が語調を変えて問いかけた。
「あんときのおまえの台詞は実話か」
「どれ?」
「突風が吹いて華奢な美女が吹き飛ばされて、おまえの腕の中にすっぽりと……ってやつだ」
「そんな話、したっけな」
 ほっそりした女性が道を歩いていた。夏の終わり、俺たちのメジャーデビューが本決まりになりかけていた時期だった。ふいに突風が吹いて、彼女がさしていた日傘が飛んだ。やわらかな素材のクリームイエローのワンピースを着ていた彼女は、困り果ててスカートが舞い上がりそうなのを押さえていた。俺は日傘を拾い上げて彼女に手渡した。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
 話はたったそれだけだ。恋なんかはじまりはしなかった。
「恋ってのはそうどこにでもここにでもころがってないよ。偶然と偶然が作用して、恋がはじまる場合もある。しかし、街角で出会った女の子の誰彼となく恋に落ちたりはしない。そういうもんだろ」
「答えになってない」
「俺にはなってるからいいんだ」
 過去にとらわれているのは愚だけど、本橋には現在進行形か。現在形の恋の悩みだなんてうらやましいよ。俺にはいつ、新しい恋がやってくるんだろう。気になる女の子はいるにはいるのだけど、恋へと進展するのかどうかはわからない。
 尚子さんにとらわれていた気持ちをすっぱり振り捨てて、彼女へと想いを向ければいい。そうすれば恋がはじまるかもしれない。そうしないと前進なんかできっこない。そうするべきだと考えている俺の気持ちに、本橋が冷水をぶっかけた。
「彼女、若いんだ。十八なんだよ。俺なんか女心には疎いだろ。疎いってこともよくわかってないほど疎い。そんな奴には十八の女の子は荷が重いんだよ。俺たちには仕事が第一で、デートしてる暇なんてそんなにはないじゃないか。だからって彼女をほったらかしにすると、他の男にかっさらわれる恐れもある。俺が惚れた女には、他の男も惚れるんだ」
「なるほどね」
「十八の女の子が……男にかまってもらえないっつうのか……うまく言えない。とにかくだな、俺がほったらかしにしても平気でいられるほどに、彼女は大人じゃないんだよ」
「彼女が大人だったとしても、恋人にほったらかしにされたら平気じゃないだろ」
「だよな。だから女ってのは……うう、女ってのはぁ」
 飲みにいくはずが公園に足が向いていて、俺たちは立ち話をしていた。
「苦悶の本橋くん、悩みたまえ」
「てめえ……またそうやってすかしてやがるな」
「すかしてなんかいないよ。おまえがそんなふうに言うと、俺も恋なんかできないって気分になってしまう。仕事と恋の板ばさみに耐えられるほど、俺も大人じゃない」
「俺もだよ」
 男も大人だったとしても、そんなものに耐えられるのかどうかは知らない。気になる彼女との恋へと突き進む勇気が湧かなくて、俺はためらっていた。俺がためらいを捨てたとしても、彼女もその気になるのかどうかさえ、判明してもいないのに。
彼女とはじめて会ったのは、古書店でだった。本が好きな人間にはこんな出会いはありふれているのだろうか。古書店の書棚に並んだ本に同時に手を伸ばし、同時に引っ込めて照れ笑いを浮かべ、どうぞ、と譲り合った。万葉集研究の書物だったから、彼女も古典文学に関心を持っているのだろう。どうぞどうぞ、と俺は言って、その場から離れて彼女を見ていた。
 清楚で可憐なひとだった。俺よりはすこし年下だろう。大学生かもしれない。淡いピンクのパーカーを羽織った肩はちいさくて、わりあいに小柄で、寂しげにも見える顔立ちのひと。万葉集の話の通じる相手は周囲にはいないから、彼女と話してみたいと思ったのだけど、話しかけるタイミングがつかめなかった。その次に会ったのも同じ古書店で、俺は意を決して声をかけた。
「この間の本、買われたんですよね」
「……あ、はい。この間はどうも。譲っていただいてありがとうございました」
「いいえ、どういたしまして。読まれました?」
「ええ。興味深い内容でしたよ」
 覚えてはくれていた、だけど、話の接ぎ穂が見つからない。彼女は涼やかに微笑んで会釈して出ていった。フォレストシンガーズの練習スタジオから程近い古書店には、俺はしばしば足を向けている。それからもニ、三度彼女と遭遇して、そのたびに会釈し合っていた。その話もたったのそれだけ。誘ってみたい気はあったけど、俺の心には別の女性がいて……
 別の女性といったって、行きずりのひとにすぎなかった尚子さんだ。たぶん二度と会うこともないひとだ。トミーと会って一方的に吹っ切ったつもりでいるのだから、名も知らない古書店の彼女に今度会ったら……この間の本、よろしかったら貸してもらえませんか? とでも言ってみようか。
「……乾、なに考えてんだよ」
 頭をこづかれて我に返った。
「あ、ああ……いや、なんでもない」
「なんでもないって面じゃねえよな。ぽけーっとしやがって」
「いやぁ、おまえの恋の顛末に思いを馳せてたんだよ」
「俺のことはほっとけ。なるようになるさ」
「そうだな」
 では、改めまして飲みにいきますか? と言ったら、本橋は声をひそめた。
「金、あるのか」
「ない。あれれ? リーダーがおごってくれるんじゃないのか」
「おまえにまでおごる義理はない」
 やけにきっぱりと本橋は言い、ポケットをごそごそやって有り金を探り、ため息つきつき言った。
「……あいかわらず俺たちは、名もなく貧しいよな」
「名もなく貧しく美しく。けっこうじゃないか」
「誰が美しいんだよ。おまえにも金がないんだったら、飲みにいくのは無理だ。たしかに寒いな。トレーニングやろう」
「酒より健康的でいいかもな」
 よれたシャツにジーンズにGジャン、あいもかわらずおしゃれとは無縁の服装をしている本橋は、Gジャンを脱ぎ捨てて鉄棒に飛びついた。遊具は子供用ではあるのだが、俺たちの背丈でも懸垂のできる高さの鉄棒がある。どっちがより多く懸垂できるか競争だ、と本橋は、空元気声で言った。
「懸垂やりながら歌おうか」
「……俺はおまえほど体力ないよ。それがなんの役に立つ?」
「立つかもしれないだろ。たとえば……」
 たとえば……で言葉を途切れさせたので、俺が引き取った。
「ビルの窓からおまえが墜落して、かろうじて窓枠に片手でぶら下がった状態になるんだ。ビルの中にも外にも人間がいる。彼らは、レスキュー隊員が駆けつけてくるまでがんばれっ、と応援してくれている。俺はへっちゃらだぜ、元気元気だ、ほら、歌える、ってさ、そんな格好で歌を歌うんだ。周囲の人々も自分自身をも励ますために、声を張り上げて歌う。そんなときにだったら役に立つよ」
「……おまえはよぉ……口から出まかせとはいえ、よくもまあそんな空想ができるもんだな。どうやったらそんな芸当ができるんだ? ここの差か」
 片手で頭を示し、鉄棒は片手懸垂になった本橋が問いかけ、俺も真似して片手をはずして胸を押さえた。
「ここの差だよ」
「空想ってのは頭でするもんだろ」
「頭とハートは連動してるんだ。想像力は頭にもハートにもある。脳みそだけじゃないよ」
「……空想力はどうやったら鍛えられるんだ?」
「ただひたむきに、空想空想空想あるのみ」
「くそ、わからん」
「シャレですか、リーダー?」
「幸生みたいに言うな」
 内緒だけどさ、と言いかけたら、誰に内緒にするんだ? と本橋が不思議そうな顔をした。
「誰にってわけでもないけど……ま、いいか。俺はおまえほど体力ないって言っただろ。喋ってると負ける。黙ってやろう」
「おまえに黙れとは言われたくねえぞ」
 そこからは黙って懸垂勝負をしながら、俺は考えた。内緒だけどさ……そう、俺はおまえといるのがいちばん気楽だよ。なーんにも気を使わなくていい。おまえも俺には言いたい放題言ってくれるし、俺も同様だ。女性にはなにかと気配りをしなくちゃならないし、後輩たちには別種の気遣いが必要だし、そんなんでおまえは疲れないだろ? と本橋は言うだろうけど、俺だってたまには疲れるんだよ。
 だけどほんと、誰に内緒なんだろうな。気遣いしてくれなんて頼んでないだろ、って怒りそうな章にか。乾くんの気配りってのは好きでやってるんじゃないの? と笑いそうなミエちゃんにか。
 好きでやってるんだろうな。疲れるなんて身勝手な言い草なんだろうな。おまえといると体力を使うから、それはそれで疲れるんだけど、頭を空っぽにできていい、なんて言ったら、本橋も怒りそうだ。どうせ俺は頭が空っぽだよ、ってか? おまえだって後輩たちやミエちゃんには、気を使ってるんだよな。俺は知ってるつもりだよ。
 頭を空っぽにするつもりが空っぽにはできなくて、そんなんで疲れててどうする!! と自分の頭を叩いてしまって、鉄棒から落ちた。おーし、俺の完勝、と笑っている本橋に、はいはい、例によって体力勝負は俺の完敗、と言い返し、俺は夜空を仰いだ。
「冬の星座だな。もう冬だな。じゃあさ、本橋、冬の星空をモチーフにした歌を作ろう。今度はそれで勝負だ」
「今すぐにか?」
「もちろん」
「……よし、やる」
 そろって夜空を見上げていたら、俺の心に星空が降りてきた。即興なのだからこんなもんかな、と納得して、俺は歌った。

「ほら、銀の星が見えるだろ
 あの星がこのてのひらに落ちてきて
 俺のものになる
 そんなの奇跡だよね

 ほら、かたわらにおまえがいる 
 その心が俺に寄り添って
 おまえが俺のものになる
 それもきっと奇跡だよ

 だけど、おまえの心は俺のものになり
 俺のすべてはおまえのものになった
 世界にひとつしかない奇跡

 夜空の星をつないで結んで
 世界にひとつしかないネックレスを作ろう
 おまえの首にかけてあげるから
 そっと目を閉じて」

 どう? 乾隆也作詞作曲「世界にひとつだけの……」と言ってみると、本橋は不機嫌顔になった。
「早すぎる。先にできてたんじゃないのか」
「たった今作ったんだ。疑うのか」
「……わかったよ。俺の完敗だ」
「一勝一敗のタイだな。次はなにで勝負する? 殴り合いってのはなしだぞ」
「やりたいんだけどなぁ」
 わざとらしくにやにやして、本橋が歩み寄ってくる。俺は飛びのいた。
「いやだ。やめろ」
「幸生や章にやろうって言っても無理なのはわかってるけど、シゲもおまえもそうだもんな。なんだってこうどいつもこいつも根性ないんだよ」
 言い終わらないうちに、本橋の回し蹴りが炸裂しそうになった。まったく油断も隙もない奴だ。俺は両手でその脚を押し返そうとしたのだが、本橋が踏ん張っているので押し返せない。総力で戦っていたら、ふいっと力を抜かれてはずみでひっくり返った。
「くっそーっ、卑怯者ーっ!!」
「なんとでも言え。これで俺の二勝一敗だ」
「……なんでそう負けず嫌いなのかね。ま、それがおまえだよな」
「もっとやるか?」
「もういいよ」
「そっか、そんなら歌おう。今の歌、「世界にひとつだけの」だったな。完成させて俺たちのレパートリーに入れようぜ。なかなかいい歌だ」
 しかし、と本橋は首をかしげた。
「おまえ、俺って歌詞は珍しいよな。いつもは僕、きみじゃないのか?」
「たまにはいいだろ」
「いいけどな」
 世界にひとつしかないネックレスを首にかけてあげるのは、もちろん愛するひとにだけど、あの歌詞の一部はおまえに捧げてるからだよ、俺は心の中で言った。そんなことを口に出そうものなら、気持ち悪い!! やめろ!! とばかりに投げ飛ばされるか蹴られるかする恐れがある。いつだって俺にはそんな態度のおまえが、だからこそ俺はそんなおまえの前では素の俺になれて……などという台詞も言わない。ひとことどころか百こと多い、と本橋に決めつけられる俺だけど、言わないほうがいいこともあるのだと心得ているつもりだ。
 たった一度俺が歌っただけのその歌を、本橋も正確に歌った。自然に低音と高音のパートに分かれて、しごくなめらかに、昔から何度も何度も歌ってきた歌のように。歌い終えると俺は呟いた。
「この歌をあのひとに捧げよう」
「お? いるのか」
「半々だな。そうなるかもしれないし、ならないかもしれない。なるようになるさ、だろ?」
「恋の終わりはなるようにしかならないけど、恋のはじまりはなさなくてはならないんだ」
「ほお、らしくもない台詞だな」
 おまえはどうやって彼女と? というのも口にしてはいけないのだろうか。が、本橋は進んで言った。
「おまえのあのひとってのがどういう相手かは知らないけど、惚れてるんだったら押して押して押しまくれ。俺だって最初は押したんだよ。ためらってる彼女を押して押して……なのにこうなっちまうんだから、はじまった恋がどうころぶかなんてわかるわけもない。しかし、そんなふうに考えてたんじゃなんにもはじまらないだろ。乾、押せ」
「アドバイス、感謝します。やりましょう」
「おし、その意気だ」
 いくつもいくつも恋をして、いくつもいくつも恋をなくして、そうして俺たちは大人になっていく、か? このフレーズも使えるかもな、と再び夜空を見上げると、銀の星がウインクした。恋にも歌にもがんばれよ、と星がまたたいて激励してくれている気がした。

END


 
 
 
 
 


 
 

 
 
 
 

 
 

 
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~ Comment ~

やっぱり最後は歌うのね!

『小学生坊主が六人そろっていたずらをして、六年も前に逝ってしまった祖母に叱られたみたいで、胸がきゅんっとなってきそうだった。』
何故かちょっとここで泣きそうになりました。
こういう家族の思い出話って弱いわ~(ああ、幸生くんが乗り移ってしまった…)

だけど、幸生くん、ものすごい重宝する!
fateも欲しいわ~
彼がいたら人生の幾分の一かは笑っていられる。楽しそうだ!
貴重な人材だよ~

乾くんって、しゃべるときはしゃべるけど、きっと言葉にしないことの方がずっと多くを抱いているんだろう、とずっと思っていたから、心の声をたくさん聞けて、とても満足しました。
頭が良くて、実は不器用で、正しいことに敏感な彼は、多くの苦悩を抱えて、ジレンマのようなものに焼かれて、人一倍苦しいだろうと思います。
だからこそ、真ちゃんみたいな友人が必要で、救いで、本当に二人は良いコンビだと思います。大親友ですね、生涯の。
そして、可愛い後輩と頼もしい後輩と、生意気だけどそこに在って欲しい後輩。
まぁ、大学時代の兼ね合いで後輩、と呼ぶけど、今では仲間ですからね。

良いですな、この友情!
この情熱と若さと。
fateの救いのない世界に漂ったあと、ここを訪れると生きる気力が生まれます。
出来れば、あかねさんにはこのメンバーの物語を永遠に描き続けて欲しい!
これで終わり、となったらfateが死んでしまうよ~

と、勝手なことを叫んで、今日は終わります(^^;

歌うんですね♪

fateさん

ほんとにいつもありがとうございます。

「いやーん、fateさん。
 そんなに言って下さるなんて嬉しくて、僕、感激。
 でもね、リーダーは俺の価値をわかってないんですよ。
 リーダーにも言ってやって下さいな」

と、また幸生が言ってますが、気にしないで下さいね。

フォレストシンガーズはこのあたりから徐々に大人になっていくわけで、そうなっていくとfateさんがどう評価して下さるのか、謎ですけど、著者としてもそう言っていただけると、とてもとても嬉しいです。

まだ書いてますから、そう言っていただけるのでしたら、ずーっとおつきあい下さいませませね。

第三部まではほぼ、時の経過に従って話が進んでいきますが、四部からちょっと形態が変わります。
時間的にあっちに行ったりこっちに戻ったり、過去になったり現在になったりして、ややこしいかもしれませんので、すみません。

疑問に感じられたらどしどしご指摘下さいね。

ただいまUP中の第八部の最初のほう、第四部の最初のほうなども、彼らの学生時代ストーリィです。
番外編も四部からは妄想ストーリィになりますので、よろしくお願いします。

NoTitle

こんばんは。結さんに言われて読んでたら生き方がカッコいくて、なかなか一つドラマみてるみたいで良かったです。乾が、結さんは、良いと言ってましたが、いろいろ個性ある居そうな現実感に感嘆しました。

音琴さんへ

コメントありがとうございます。
先日は音琴さんのお名前の漢字をまちがえていまして、大変失礼致しました。

かっこいいなんて言っていただけると嬉しいです。

もしもお時間がおありで、ふと気が向かれましたら、イメージイラストを描いていただけると大喜びします。
できますれば、よろしくお願いします。
いえ、もちろん、無理にとは申しませんので。

おお!久々に乾くん視点だ、と喜びました♪
章くんと並んで、乾くんのこともけっこう好きです。乾くんの“おとな”なところとか、物腰や言動がスマートなところとか、いいですね ^^

途中、トミーという名前が出てきて、栗本さんの『翼あるもの』を思い出しました(ご存知ですか?
ブラックフレームスのトミーは、かなり親近感がわくタイプですね。こうゆうタイプも好きだったりします。

乾くん、尚子さんが描いた絵を見て、『あのときああ言っていれば…』とか、『会いに行ってもなんと言えばいいんだ』とか、色々考えちゃうところは、少し意外でした。でもそんなちょっとした弱さみたいなところが垣間見えて、微笑ましかったです。

乾くんと章くんのからみのシーン、すごく面白かった♪
このシーン、好きだ~
とくに、章くんが魅力的。

本橋くん、いいですね。公園で急に懸垂はじめちゃうところが(笑
このなんともいえない“青春の息吹き”みたいなものは、あかねさんの作品の独特な味になってますです。

うーん、古書店の彼女が気になる……

西幻響子さんへ

インターネット、つなげるようになりました?
西幻さんのブログにコメントしようとしたら、近況の記事はコメント欄が閉じられていたようですので、ここで。

テンプレート、変わりましたね。
クリスマステンプレですか?

ああ、そういえば「翼あるもの」にトミーっていたような……ずいぶん前に読んだので記憶は曖昧ですが、歌手のストーリィでしたよね、たしか?

私は大阪人ですので、時々、大阪弁キャラが書きたくなります。トミーと尚子のストーリィだとか、乾くんとこの「万葉集の君」だとかの十年後くらいのストーリィもあるんですよ。
よろしかったらまた、覗いてみてやって下さいませ~。

乾くんは年齢を重ねるにつれて気障になってきている傾向があるようですが(私は気障な男は好きではないのですが、勝手にそっちに行ってしまうのです)、このころはまだ若いですよね。

章と隆也のからみって、ギターのシーンでしょうか?
このころの章はまたもっと若くて、若いというのか幼いというのか、アホというのか、そんな章は著者も愛しかったりしています。

青春の息吹……いいですね、身に余る光栄なお言葉をいただきまして、嬉しいです。
ありがとうございました。

パソコンのほうはまだネットに繋げずにいます。もうしばらくかかりそうです(T_T)

『近況報告』の記事は、内容が短かったので、コメント欄は閉じさせていただきました。コメントいただくのは申し訳ないかな~と思いまして…。

テンプレ、あまりクリスマスは意識していなかったのですが、あの天使のイラストがとても綺麗で素敵だったので、アレにしてみました♪

『翼あるもの』は、あかねさんのおっしゃる通り、歌手の物語です。グループサウンズ系のボーイズラブでした。続編もあるんですよ~(完結編はかなり壮絶な内容です ^^;

トミーと尚子さん、それから万葉集の君などのアナザーストーリー、おもしろそう。読むのが楽しみです ^^

章くんと乾くんのからみ、ギターのシーンのところです(^^)v

西幻響子さんへ

パソコンのネット、まだなんですね。
ケータイで読んでコメントも下さってるんでしょう? 私はケータイのwebは使ってませんし、メールを打つのも苦手なので、ケータイでコメントなさってるなんて尊敬してしまいます。

そうそう、そうでしたね。
たしか、ジュリーとトッポがモデルだったような。
栗本さんの小説の新作は二度と読めないのは寂しいですよね。

ケータイではご不便もあるかと思いますので、早くパソコンのネットが復活するといいですね。

NoTitle

歌うたうひとで煙草を吸う人けっこういますよね。
ギター弾きながら煙草くわえてる姿がまたカッコイイんですよねー。

あとライブハウスやお店のスタッフにいるステキな人(年齢は一回り上
「おまえたちの歌は素晴らしい。売れなきゃ嘘だよ~」のところとか、惚れちゃいます。痺れます。

ライブハウス行ってない!!行きたくなる!!

乾くん・・・・・・イイ

ハルさんへ

いつもありがとうございます。
ミュージシャンには喫煙者は多いみたいですよね。
ギターのネックに煙草をさして……って、昔は時々いましたが、今の日本では嫌われるかな?
ロッカーだったらヘルシーなんか目指さないでほしい、と勝手なことを考えている私は、煙草は嫌いではありません。

「おまえたちの歌は素晴らしい。売れなきゃ嘘だよ~」ってのは、原西さんの台詞ですよね。彼は時々ミエちゃんを怒らせますが、悪いひとではありませんので(^^

ライヴハウスには私はあまり行ったことがないんですよね。
一度、お酒を飲みながら音楽の聴けるライヴハウスで、jazzに浸りたいなぁ。

乾くんがいいと言っていただいて嬉しいです。人気投票もありますので、よろしくかったら投票してやって下さいね。

NoTitle

好きと寝たいっていうのは違うものですよね。
・・・と思うのは才条 蓮が男性だからか・・・とも思いますが。

男の美学で考えれば、好きというのは女性の尊厳に敬意を払いつつその存在を守りたいと思う感情であり。寝たいと言うのは生殖行為であり遺伝子的行為であり、本能的な行動である。そこに好きという感情が入り混じるかは関係ない。
だけど、そこに女性の寝たいというのとは意味合いが違っていて、そこで互いの寝たいという感情に齟齬が生じるときが・・・あるのが面白いなあ。。。

LandMさんへ

いつもありがとうございます。
この件に関しましては、男性と女性は別々の生き物なのかもしれませんね。

男は別に好きでもない女とでも寝て、身体のつながりだけでけっこう楽しい。
女は心のつながりを求める。
もちろん、そうではない男性も女性もいるのでしょうが。

私は「男は平気で誰とでも寝るんだから、女がそうしてどうしていけないの?」と言う女を時々書きますが、書いてる私がそういう女には共感していないのですから、嘘っぽいかもしれません。
女と平気で寝る男にも共感はしていませんが。

だから、このことばかりは一般的な男性と一般的な女性はすれちがう。でも、それがまた物語を生み出したりもするのですよね。
男だから、女だから、とひとくくりにするのは大嫌いですが、男と女には「差」ってものはたしかにあるようで、それもまたたしかに面白いと思います。

あかねさんへ!

昔では石原裕次郎さんは舞台でウイスキーを飲みながら煙草を吸っていました。NHKで認められた人はこの人一人でしょうねー。地方公演では梓みちよさんなんかはお酒を飲み過ぎて歌詞を忘れていましたねー。私はホテル勤務もあったので・・・笑)
台風の影響はありませんでしたか?
今日は台風一過と言う好天ですが風が強いですねー。
夜は13度と愈々本道らしい寒暖の差が来て油断できません。涼しさを通り越しました。!

荒野鷹虎さんへ

石原裕次郎さん、母がファンでして、私がCDを借りてきてコピーしてあげたら、母の友達が貸してと言って持っていったそうです。
おばあちゃん世代には大人気ですよね。

そうそう、「オールディズ」の映画の中で裕次郎さんの映画を上映していて、当時の若い女の子が「イカス!!」って騒いでましたっけ。
荒野さんはそういったスターを生で見られたことがあるんですか。またエピソード、聞かせて下さいな。

今回の台風は北海道にも行ったのですよね。荒野さんのお宅は大丈夫でしたか?
我が家のほうも避難勧告が出て焦りましたが、午後には解除されてほっとしました。
京都がひどいことになっているようで、嵐山の惨状を思うと心が痛みます。

ご心配、ありがとうございました。

NoTitle

乾さんがめっちゃしゃべってるー。
弾き語り、やっていたんですね。カッコ良い~
前任者がいたというのはやはり気になりますよね。
どんな風だったかとか。女の人が絡むと余計に。
後にその人とご対面なんて・・・いやいや・・・波乱ですねえ。

ユキちゃん。ぷぷぷ。しりとり~
あの怖い顔のシンちゃんをものともせず、つかむ。うける~~
乾さんをコチョコチョして、逃げる。最高です~~

やっぱり、乾さんとシンちゃんとのやり取りがたまらないですね。
あのシンちゃんをうろたえさせることのできるのは、やっぱり乾さんだけ。
いいなあ、友情^^

けいさんへ

いつもありがとうございます。
なんだかもう、このあたりは書いた本人も忘れかけているのですが、こんな古くて長いのも読んでいただいて嬉しいです。

尚子&トミーはけっこうお気に入りでして、それぞれが主役のストーリィもあります。
乾くんは感情過剰タイプで、恋愛至上主義みたいなところもありますので、けっこう長くひきずるんですよね。

ユキのしりとり。。。
このころはまだ子どもでしたから……って、三十すぎても永遠の美少年、どころか、永遠の美少女とか言ってる痛い大人になってしまいましたが、フィクションですものね。許していただけますよね? ね? (^^♪
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