novel

小説127(古い日記)

 ←お遊び篇5(Fearful lady) →小説128(僕らのmerry-go-round)
日記


フォレストシンガーズストーリィ127

「古い日記」

1

 宅配便で届いた荷物の差出人は本橋美江子。ずっしり重いのは本なのだろうか。荷物を開封すると手紙が入っていた。
「ヒデくん、また会えるようになって嬉しいよ。フォレストシンガーズの公式サイトは見てくれてる? 彼らが公式サイトにひとりずつ、時々日記を公開しているの。純粋な日記とはちがってファンの方向けに書いてるんだけど、いくらかは読んでくれたかな? 過去の分を保存してあったのをコピーして送ります。ヒデくんと会えずにいた時期の、みんなの日常を読んでね」
 公式サイトならば見たことはあるが、日記なんてあっただろうか。手紙の下は紙の束で、俺は美江子さんにありがとうと呟いて、一枚ずつ読んでいった。

×月×日

 本日より、我々が公式サイトに日記を綴ることになりました。トップは本橋真次郎です。
 こういうのって慣れていませんので、俺には荷が重い。乾、おまえが先に書け、と言ったんですが、リーダーがトップなのが当然だろと言われました。
 文章なんて苦手なんですけどね、俺がトップなのは普通なんですね。私、僕、小生、などなどの自称も日本語にはありますが、俺は普段から俺と言ってまして、ラジオなどでも地金が出てしまう荒っぽい男でありますので、俺で通すことにします。
 前置きはこのぐらいに致しまして、我らフォレストシンガーズについての紹介をさせていただきます。
 ○○大学に乾隆也と本橋真次郎が入学し、ふたりそろって合唱部に入部したのが、我々のスタートでした。一年後には本庄繁之と小笠原英彦が、二年後には三沢幸生と木村章が同じ大学の同じ合唱部の仲間となりました。
 乾と俺が四年生の終盤に、ヴォーカルグループを結成しようと決め、本庄シゲと小笠原ヒデと三沢の幸生を誘って、そこから我々は始動したのです。フォレストシンガーズとは、大学名にちなんで名づけました。
 シゲとヒデが大学を卒業した時点でも、フォレストシンガーズはプロにはなれていなかった。ヒデには事情があって脱退し、かわりに木村章が加わって、それから一年余りの後に、我々はオフィス・ヤマザキ社長に見出されてプロへの道を踏み出したのです。
 俺たちのはじまりを簡単に綴ればこんなふうです。ネットの日記ってのはあまりに長いと読んでもらえないと聞きますので、続きは乾に。続編、乞うご期待!!


×月×日

 この文章を書いていますのは夜ですので、皆様、こんばんは、乾隆也です。
 そうしてプロとなりました我々ですが、売れていないのは皆様もご存知の通りです。拙文を読んで下さっている皆様の中には、フォレストシンガーズのファンだと言って下さる方もいらっしゃるのですよね?
 ファンの方々には胸いっぱいの感謝と愛を、ファンではないけどたまたま見ているとおっしゃる方には、僕たちの歌を聴いて下さい、との言葉を捧げます。
 公式サイトの写真を見ていただければ一目瞭然ですが、僕らは誰ひとりとしてルックスには自信はありません。顔のいい男も一名いるのですが、うちのリーダーの持論を書かせていただきますと。
「歌は顔で歌うものじゃない。ルックスで勝負なんかしなーい」
 だそうでして、勝負しないのではなくてできないんだろ? と言われれば、はい、ごもっともです、としか申せませんが。
 百八十センチ足らずの身長の本橋と、彼よりもやや低い僕は長身のほうでしょうか。シゲは中背で、あとのふたりは身長について云々すると怒る。のですから、ルックス描写はやりづらいのです。写真を見て下さいね、と言っておきましょう。
 CDにも写真は載ってますよ。公式サイトのディスコグラフィを見ていただければ、我々が発売してさして売れなかったシングルとアルバムの詳細もおわかりいただけます。サイトの隅々までごらんになって下さいね。
 公式サイトからフォレストシンガーズに関心を持って下さる方が増えて、口コミでもネットからでも、ファンの方が広がっていくことを、我々一同、心より祈っております。


×月×日

 顔のいい男が一名いるって俺? そうだよぉ、ユキちゃんだよぉ、と言って下さる方はいるのでしょうか。いないかもしれませんので、自分で言います。はい、顔がいいのは僕ちゃんです。
「俺だろうが、俺だよ」
 なーんて言ってる奴もいそうですが、無視して下さいね。
 うちのお兄さんたちの日記は日記ではなくて、紹介文とお願いばっかりでしたので、僕は日記を書きます。今日はこんなことがあったんですよ。
 フォレストシンガーズは全員独身が売り。女性のみなさま、僕たちを買ってね。ついこの間まではそうだったのですが、裏切り者がひとり出ました。まあ、彼は独身でも既婚でも売れないのは同じだから、って、言ってませんよ。書いてるだけじゃん。
 真っ先にシゲさんを買って下さった恭子さん、ありがとうございました。毎度ありぃ。恭子さんはひとりしか男を買えないのが遺憾に存じますが、ひとりでも買ってくれたんだから、毎度ありぃ、ですよね。
 そのシゲさん、今日は朝から雰囲気が暗い。恭子さんと喧嘩でもしたのかな? スタジオにやってきたシゲさんが常にも増して無口になっていますので、僕ちゃんが話しかけてあげました。
「シゲさん、おはよう」
「ああ、おはよう」
「ねえねえ、これ見て、シゲさん」
「なんだよ」
 僕が見せたものを見て、シゲさんは口をあんぐり。
「なんなんだ、それは」
「結婚祝いに恭子さんにプレゼントするつもりだったんだけど、反対する奴がいたから断念したんだよ。これを等身大に引き伸ばして、おまけもつけてプレゼントしようと思ってたのにな」
「おまけって?」
「これは完成してるんだ」
 カセットをセットすると、三沢幸生の熱唱が響き渡る。本橋さんと乾さんと章も寄ってきて、章が言いました。
「こんなものを本当に作ったのか」
「作ったよ。CDにはしてないけどね」
 シゲさんが結婚する前に、僕は章に相談を持ちかけたのです。
「三沢幸生の等身大のパネルにさ、俺がソロで歌った曲だけを集めた特別製CDをつけるんだ。素晴らしいプレゼントじゃない?」
「まったく素晴らしくない。俺だったらそんなものをもらったら、即、粗大ゴミに出すよ」
「おまえだったらそうかもしれないけど、恭子さんは喜んでくれるって」
「それだと別の意味で気持ち悪がられるよ。幸生、やめろ」
 章に却下されたのですが、写真は撮りました。僕が上半身裸でボディビルダーポーズを取ってる写真を見て、シゲさんの口あんぐりになったのです。
「いらなかった?」
「いらないよ」
「恭子さんはほしがらない?」
「ほしがらないよ」
 本庄先輩にはつれなくあしらわれる。乾先輩には途中でカセットを止められて、練習だろ、って叱られる。リーダーには頭を殴られる。僕の仮ソロアルバムは、こうして陽の目を見られずに僕の手元に死蔵されているのでした。


×月×日

 幸生の馬鹿は古い話をよく覚えてますよね。俺が反対してよかったでしょ、恭子さん?
 本日の担当は、恭子さんのために幸生のプレゼントを却下した木村章です。幸生の日記ってのは他人を肴にしてるんですが、俺は自分の日記を書きますよ。
 ファンの皆様の前ではみんなで気取ってますので、皆様は俺たちの本当の姿を知らないでしょ? 暴露しちゃおうかなっと。あれ? それだと他人を肴にしてるのか。だって、俺ばっかり自分を暴露したくないんだもん。
 リーダーは幸生と僕を殴るんです。本当です。幸生とラジオでも言ってる通りに、僕らはリーダーに殴られっぱなしで、頭ぼこぼこです。
 乾さんは暴力なんかふるいませんよ。口はきびしいけど、ただの一度も軽くでも殴られたことはなーい。きっぱり否定しすぎてるのは嘘だろ? って。さあ、どうでしょうね。ファンのみなさまは乾さんを温厚で優しい男だと思ってるだろうから、幻像をこわしちゃいけないし。
 シゲさんは優しいっちゃ優しいんですけど、心には悪魔が棲んでいます。悪魔の正体は俺も知らないから、詳しくは書けません。
 幸生はファンのみなさまの目に写っている通りの、お喋り軽薄短小馬鹿です。ラジオでのあいつのふるまいを聞いてたって、それ以外の男ではないとわかるでしょ? あれが幸生の本性です。単なる馬鹿。
 で、俺は?
 木村章は言いません。乾さんが書いていた顔のいい男って誰? なんてね、幸生ではないのはまちがいないけど、そしたら誰? 知りません。
 まあね、俺は幸生とふたりして、フォレストシンガーズの最年少、末っ子、使い走りの小間使いですから、いいんだいいんだ。それでも僕は強く生きていく。虐げられても迫害されても苛められても殴られても、これが僕の生きる道。
 いやぁ、僕もこんなの書くのは苦手なんだもん。初回の我々の日記のラストを飾る、シゲさんに期待してます。あとはよろしくね。


×月×日

 インターネットに於ける日記とは、幸生や章が書いているようなものでよろしいのでしょうか。なんでもアリだとか、自由に書けばいいとか言われてはいますが、あのふたりはひどすぎるのではないかと、僕は心配でなりません。
 ラジオのトークでもひどすぎる奴らですから、ファンの皆様は楽しんで下さっているのでしょうか。このたぐいのサイトにはファンの方々の書き込みはできないようになっているのが普通だそうですが、僕としてはご感想を聞いてみたいような、聞くのが怖いような気分です。
 この日記についてのご感想などがありましたら、ラジオ番組「FSの朝までミュージック」のほうにお葉書をいただけますと……公私混同ではありませんよね。
 とにかく慣れていませんので、僕は冷や汗かきかき書いてます。
 初回は本橋、乾、三沢、木村の順に書き、シゲがラストと決まったのですが、これで最後ではありませんので、今後ともご愛読のほど、よろしくお願い申し上げます。
 ここまで書いたら、僕の書けることはなくなってしまいました。
 公私混同なのかもしれないけど、書いてもいいかな。
 俺が親友だと思っていたおまえ、おまえは俺をどう思ってる? 読んだら連絡してこいよ。待ってるぞ。
 ああ、やっぱ公私混同か。すみません。次回からはちゃんと書きます。ファンの皆様もスタッフの皆様も、今回だけは大目に見てやって下さい。本庄繁之でした。


 初回の五人の日記の中に、俺の名前が出てくる。特にシゲは……名前を書いてはいなくても、親友だと思っていたおまえ、はヒデだ。そうに決まっている。
 美江子さんにはありがとう、シゲにはごめんな、そう呟きながら、俺は日記を読み続けて徹夜してしまった。夜が明けても全部は読み終えられなくて、これからの楽しみにしようと紙の束を大切にしまい込んだ。


2

×月×日

「ひとつ ひと目で魅せられて
 ふたつ 再びよろめいて
 みっつ 見るたび恋をして
 よっつ 横須賀不埒な恋が
 いつつ いつまで続くやら」

 はーい、ユキちゃんでーす。
 このところ僕は、とある外国の人気スターと共演しています。誰って? 秘密だから言えないんですけど、読んで下さっている方は、素敵な想像をしてらっしゃいます?
「ユキちゃん、ハリウッドに進出するの? ハリウッド映画に出るの? ハリウッドの女優さんと共演? ユキちゃんが俳優の仕事をしたいって言ってたのは聞いたけど、ついに実現したのね。おめでとう」
「いやいやいや、秘密ですから」
「秘密にするということは、そうなんでしょ? ユキちゃんの望みが実現するのは私も嬉しいけど、ハリウッドスターになっちゃったりしたら、遠い遠いひとになってしまいそうだわ。寂しい、私、寂しいの」
「泣かないで。たとえば俺がグラミー賞の助演男優賞を受賞したとしても、俺は日本のファンの皆様から遠くなったりはしないよ。俺の基盤はフォレストシンガーズ。俺がなによりも愛するのはあなたたち、ファンの女性なんだから」
「あなたたち? 私ひとりをユキちゃんの愛する女にして」
「そうすると、あなた以外のファンの方が悲しむでしょ? 聞き分けてね、いい子だから」
「私はいい子なんかじゃないの。ユキちゃんを独占したいの。ユキちゃん……」
「そんな目で見つめないで。いててっ……もうっ、いいところなんだから邪魔しないでよっ」
 大切な大切な愛するファンの女性とお話ししていたのに、リーダーに耳を引っ張られたよぉ。
「ハリウッドスターがどうとかってのは、おまえの妹たちが言ってたよな。おまえの妹たちがハリウッド映画にスカウトされて女優になったら、お兄ちゃんには車を買ってあげるって言ってただろ」
「そうでしたかね。俺の妹たちの言ったことなんか忘れました」
「妹の真似ってのは兄貴としては恥ずべき台詞なんじゃないのか?」
「真似はしてません」
「おまえがハリウッド映画に出るとしたら、エキストラの日本人少年の役だな。子役だろ」
「リーダーこそ、それはうちの妹の台詞の盗用ですよ」
 ファンの方との楽しい会話が、怪獣登場で終わってしまいました。
 俺が外国の人気スターと共演するという話しは、近く真相が明らかになりますので、楽しみにしていて下さいね。
 冒頭の変な詞はなにかって? 俺がその仕事で疲れ果て、リフレッシュメントのために書いた詞です。捧げる相手はシゲさんです。フォレストシンガーズの歌にはなりませんが、シゲさんがいつか出すソロアルバムにおさめる予定かも。あくまでも、かも、ですが。
 この詞を見たシゲさんの創作意欲が刺激されて、なんと珍しくも、シゲさんったら作曲をしたんですよ。シゲさんの曲につきましては、本人に語ってもらいましょう。俺の詩とシゲさんの親友とが書かせてくれたんだそうですよ。そっちもお楽しみに。


×月×日

 幸生があんなことを書きましたので、本庄繁之本人が語らなくてはならなくなりました。
 次のアルバムにおさめる予定でありますその歌は、幸生の数え歌に刺激を受けて書いたのではありません。夢に出てきた友達が歌ってくれたのを書き取ったのです。
 夜、眠っていて見る夢は、ある種自らの創造物である、と言ってくれたのは乾さんです。ですから、僕の作曲だと考えてもいいのだそうです。
 他人の夢の話しほどつまらないものはないとも言いますが、聞いていただけますか。
 ある夜、僕は寝る前にごたごたと考えていました。そんな考えが夢にあらわれて、僕はリングの上で親友とバトルをはじめようとしていたのです。僕はバトルなんて嫌いなのですが、夢ですから。ゲームだったらバトルは好きですが、現実の暴力は大嫌いです。
 その夢は三幕ありまして、最終幕でみんなで歌っていたのです。その歌がこの歌。まだリリースはしていませんので、アルバムが発売されたら聴いて下さいね。
 宣伝してるみたいですよね。っていうか、宣伝してるのか。僕らの公式サイトなのですから、宣伝してもいいでしょう? 近いうちに発売されるフォレストシンガーズのニューアルバムを、なにとぞよろしくお願いします。
 それから、幸生はハリウッド映画になど出演しません。幸生得意のちゃらっぽこだとは、ファンのみなさまはご存知ですよね。当然じゃん、出るわけないじゃん、と言われるだろうとは思いますが、僕が書き足しておきます。幸生の嘘ですから。
 

×月×日

 こんばんは。木村章です。
 先回に幸生が書いていた変な詞は「横須賀数え歌」というのだそうです。俺も数え歌を書いてみようかな。

「ひとつ ひと夜の夢の中
 ふたつ ふたりで抱き合って
 みっつ 見果てぬ夢を見る
 よっつ 世の中無情に満ちて
 いつつ いつでも打ちひしがれて」
 
 ほら、俺のほうが幸生よりも歌詞の才能はあるじゃん? こんなのは才能と呼ばない? そうかもなぁ、なんてへこんでないで、続きを書きます。

「むっつ 無理やり口説かれて
 ななつ 涙に濡れながら
 やっつ 病のその名前
 ここのつ ここまで恋をして
 とおで とうとうフォーリンラヴ」

 ほらほらほら、幸生のは五つまでしかなかったけど、俺は十まで書けて完結。俺のほうが詞を完結させる才能はあるんですよ。
 馬鹿幸生ときたら、詞をいっぱい書き散らしては半端なまんまでうっちゃってるんだから。幸生の頭ってのは半端聖徳太子傾向がありまして、お喋りでもそうなんですよ。何人かで話しているときにも、あっちに口を突っ込む。こっちにちょっかいを出す。そうしておいて、人の話を消化しないでひとりよがりにうなずいているのです。
 そんな奴なのですから、詞もいくつも書いては完成させないんです。幸生の頭の中には書きかけの詞や駄洒落や変な四文字熟語や造語が詰まってる。
 幸生は変な奴。馬鹿で変な奴。ファンの皆様でしたら、そんなことはないよ、とは言わないでしょ? そんな変な奴のファンって方もいるんですか。やめなさいね、あいつだけは。フォレストシンガーズのファンになってくれるんだったら、木村章のファンになって下さい。
 シゲさんが書いた曲のほうはですね、これも俺をちょっとばかりひがませるんですよね。ひがみってのはさ、いっぱいあるんだけどさ、彼がね……彼がいたらなぁ、俺なんかよりも彼がいたら……ってさ、みんなはそう思ってるんじゃないかとね。
 ひがみですよ。俺はひがみっぽいんですよ。だけど俺も、彼に会いたいな。


×月×日

 乾隆也です。こんばんは。
 日記を書く心積もりでスタートしたこのコーナーは、すでにカオスと化してますね。ラジオと同じで、あいつとあいつが無茶苦茶にするのです。
 いえ、フォレストシンガーズの年長者としましては、後輩に責任転嫁してはいけません。本日こそは、日記らしい日記を書きましょう。日記ではなく作文となるやもしれませんが、そこらへんはお許しのほどを。
 今日は僕たちフォレストシンガーズは、ケーブルテレビの歌番組に出演させていただきました。まだ放映はされておりませんが、「今宵あなたに」という番組です。ケーブルテレビをごらんになれる環境の方は、ぜひ見てやって下さい。
 我々と同じ大学の合唱部出身、現在ではフォレストシンガーズよりもほんのちょっぴり売れているかとも思われる先輩の金子将一、本橋や僕と同年齢の徳永渉、その二名が共演者で、ゲストは総勢七名、男ばっかりでした。
 司会者は美しい女性でしたが、出演者は男ばっかり。男ばっかりはいやだとは申しませんが、色気も華もなーんにもない。金子さんと徳永には華はあるんですが……俺たちにも鼻だったらあるんですが。幸生の真似の漢字シャレはよしましょう。
 フォレストシンガーズの希望は、テレビではなく、ライヴメインのシンガーズになりたいというものです。しかし、テレビは手軽に我々の生の姿を見ていただける。我々はテレビ出演には慣れていないのですが、稀に出していただけると考えます。
 ファンの皆様は我々の動く姿を見て下さって、口が動いて喋っている様子も見て下さって、どう思って下さるのだろうか。
 五人いる我々の歌を、CDでのみ聴いて下さっている場合、音のみである場合、どれが誰の声だかはっきりしない、とおっしゃる方もいらっしゃるのではありませんか? 声を文章であらわすのは実に困難でして、表面だけしか表現できませんよね。
 太くて低めの本橋の声、もっとも低いベースマンのシゲ、甘く高い声の幸生、宇宙の高みまで上っていくハイトーンの章の声、男にしては濁りが少なくてクリアだと言われる乾の声。
 こう書いてみても、実際に顔と声を一致させるのは至難の技なのかもしれません。そのためには、俺たちは皆様の前に生の姿をさらすのも重要であるのかと。歌だけで勝負だなんて言っているのは、まちがっているのではないかと。
 テレビに出ることで親しみを深めていただければ、なににも勝る喜びです。そうやってもったいをつけなくても、お呼びがかかれば出ますが、なにしろ、あまり呼んでいただけないものでして、ってのが正直なところですね。
 それからね、プライベートなことも考えるのですよ。
 過去のある日に触れ合って、会えなくなってしまった幾人ものあなたたち、見てくれてますか? 俺たちはプロのシンガーズになったんだよ。俺たちとともに歩いていこうと誓い合って、消えてしまったおまえも?
 これでは日記になってませんか。リーダー、俺はどうしてもこんなことばかり書いてしまうから、あとは頼んだよ。


×月×日

 ニューアルバムは買っていただけましたか。聴いていただけましたか。シゲが作曲した曲は「The song and you are my lives」です。「横須賀数え歌」は収録していませんが、もしかして、聴いてみたいとおっしゃる方もいらっしゃるのでしょうか。
 幸生が書いておりましたように、シゲがソロアルバムを出すはこびになりましたら、歌わせます。それまでお待ち下さい。
 章のほうは「ひと夜の夢の数え歌」というタイトルにでもして、章のソロアルバムで歌わせます。いつになるやら不明ですが、我々はいつかは各自のソロアルバムも出したいと夢見ています。買って下さいますか?
 ソロアルバムには各自、数え歌を収録しましょうか。そしたら俺も……って、そんなのばかり書くと読んでいただけなくなりそうですので、自重しておきます。
 今日こそ日記らしい日記を書くぞ。
 最近デビューした我々と同じ事務所の後輩ロックバンドがいます。その名は燦劇、ビジュアル系ロックバンドです。こいつらがまあ、けたたましいのなんのって。幸生は見た目だけは普通の男ですので、幸生以上にけたたましい奴らがいるのだと、俺の認識を新たにさせてくれました。
 本名は言いたくないそうですので書きませんが、愛称はエミー、エメラルド。燦劇のギタリストです。彼が俺たちのスタジオにやってきて言いました。
「曲を書いたんだ。本橋さん、聴いてくれる?」
「新曲か。ビジュアルってのは俺にはなじみがないんで、曲の良し悪しはわからないけど、聴くだけだったら聴くよ」
 エミーはギターを抱えて、彼が作曲した曲を聴かせてくれました。
「……それってビジュアルか?」
「俺たちが演奏して歌ったら、ビジュアル系になるんだよ」
 乾は人の声を表現するのが困難だと書いていましたが、曲を表現するのも困難ですね。ロックには詳しくもない俺には、ハードな曲だとしか聞き取れませんでした。
「うちの歌はファイが詞を書いて、俺が曲を書いてるだろ。マンネリになってくるんだよね。俺の才能なんてちっぽけすぎて、作曲能力が底をつきかけてるんじゃないかと思ってしまうんだ。このごろ俺、スランプかな」
「スランプってのは大家の台詞だろ。おまえらみたいな新人が言うには十年は早いんだよ」
「本橋さんはスランプは感じないの?」
「行き詰まりは感じるよ。煮え詰まりも感じる。あいつの書いた曲があったらな、なんてことも感じる。うちはシゲ以外は作曲するし、シゲもたまにはするんだけど、乾と章と俺の曲が大半だろ。別の人間が斬新な風を吹かせてくれたらなってさ」
「あいつって? 別の人間って?」
「おまえの知らない奴だ。よし、エミー、行こう」
「どこへ?」
「スランプは運動で吹っ飛ばすんだ。ジムに行こう」
「えーっ、やだっ」
「若者は身体を動かせば、煮え詰まりも行き詰まりもスランプも解消できるんだよ。来い、行くぞ。つべこべ言ってないでついてこい」
「……帰りにおごってくれる?」
「いいよ」
 酒とメシで釣って、エミーを連れてトレーニングジムに行き、俺の煮え詰まりも解消できました。
今日はそうしてトレーニングをしてからエミーと飲んで食って帰って、この日記を書いています。さて、寝ようか。おやすみなさい。

 
 ぽつりぽつりと出てくる、明記していない名前。あいつ、おまえ、彼、別の人間、友達。そいつの名前は小笠原英彦か。俺の考えすぎか。考えすぎではないと思いたいのか思いたくないのか、読んでいると胸が苦しくなってくる。
 再会してから彼ら自身の口から聞いた言葉のひとつひとつが、日記を読んで腑に落ちた部分もある。彼らのひとりひとりが、声に出して俺に語りかけてくれているようで、読むのがつらいような、嬉しいようなおかしな気持ちになって、俺は彼らの日記に没頭していた。
 俺だけが感じるのかもしれない、俺だけが重いと受け止めてしまうのかもしれない、そんな文章がのしかかってくるようで、読むのを中断してラジオをつけた。

「あの頃は ふたり共
 なぜかしら 世間には
 すねたような 暮し方
 恋の小さなアパートで

 あの頃は ふたり共
 なぜかしら 若さなど
 ムダにして 暮らしてた
 恋のからだを 寄せ合って

 好きだったけど 愛してるとか
 決して 決して 云わないで
 都会のすみで その日ぐらしも
 それはそれで 良かったの

 あの頃は ふたり共
 他人など 信じない
 自分たち だけだった
 あとは どうでもかまわない

 あの頃は ふたり共
 先のこと 考える
 暇なんて なかったし
 愛も大事に しなかった」

 この歌も「古い日記」だ。
 若さなど無駄にして、先のことを考える暇はなくて、愛も大事にしなくて、都会の隅でその日暮らし。いくつかのフレーズは俺の「あのころ」を示しているようで、歌すらもを重く感じる。
 ラジオから聞こえる「古い日記」と、俺の目の前にある昔の仲間たちの「古い日記」。ファンを笑わせようと書いている文章までが、俺には重く読めてしまって、つらくて、なのに、続きを読みたくなる。
 再会したとはいえ、今はまだ昔通りには彼らとは会えない。昔のまんまには戻れない? 戻れなくはないと信じたいが、こんな気持ちになるのは俺の自業自得なのだから、もうすこし時間がたてば、きっと……そう思っていたかった。

END






スポンサーサイト


  • 【お遊び篇5(Fearful lady)】へ
  • 【小説128(僕らのmerry-go-round)】へ
  • Tag List 
  •  * |

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【お遊び篇5(Fearful lady)】へ
  • 【小説128(僕らのmerry-go-round)】へ