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小説95(Too young)

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タキシード

フォレストシンガーズストーリィ95

「Too young」

1

 愛には若すぎる? 愛なんてただの言葉? いや、愛に早すぎるなんてない、早いも遅いもない? ナット・キング・コールはそう歌っている。しかし、早すぎる愛はないのかもしれないが、遅すぎる愛はあると俺は思う。
 三十二歳、年齢的には遅すぎはしない。倍の年齢だとしても、愛するに遅すぎるわけではない。ただ、時期が遅すぎたのだ。
本日はオフだが、俺はオフは嫌いだ。俺には今のところ音楽以外の趣味なんかないから、オフには音楽を聴くだけ。聴くよりも歌いたいって、俺、ワーカホリックかな。暗い青春だよな。三十二にもなって青春もないもんだが、俺はまだまだ青春のつもりだ。
 休日の午後になってから起き出して音楽を聴いていると、電話が鳴った。かけてきたのは本橋真次郎の最愛のひとでもあり、FSのマネージャーでもある山田美江子だった。戸籍上の名前は本橋美江子だが、仕事の際は旧姓を名乗っている。
「乾くん、暇なんだったら夕食を食べにこない?」
「亭主のいないあなたのお宅にお邪魔しろとおっしゃる?」
「亭主はいないけど、お客さまは乾くんだけじゃないよ」
「ああ、そう」
「どしたの? 乾くん、なんか変」
 昨日の仕事の疲れがいまだ尾を引いている。青春のつもりでも、三十すぎるとなかなか疲れが取れないってわけだ。
「精神的に疲れてるんだ」
「昨日の仕事? その話も聞きたいし、お願いもあるの。聞いてくれないかな」
「なに?」
「うちの大学の女子合唱部の後輩が遊びにきてるのよ。うちのあたりって夜になるとタクシーを呼んでも来てくれないし、乾くんが車で来て彼女を送ってってくれると助かるんだけどな。あつかましい? もちろんいっぱいごちそうするよ。私、けっこう料理の腕を上げたと思うの」
 はあ、俺はアッシーっすか。けれど、ミエちゃんの手料理となると心が動く。さすがに男の弱点をよくごぞんじで。
 ただいま、新曲のキャンペーンのために本橋は韓国に赴いている。日本の歌はアジア諸国でも人気があるのだ。本来なら全員で行くべきだったのだが、このところ別個の仕事も増えているのでそうもいかず、リーダーが代表して出かけていった。亭主は留守だが、他に客がいるんならいいか。どうせ俺、アッシーだし。
「お言葉に甘えさせてもらうよ」
「甘えさせてもらうのは私のほうよ。待ってるね」
 夕方には支度して車で出かけた。ミエちゃんと、可愛い女の子が俺を迎えてくれた。
「若槻苑子です。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく。彼女は俺たちの後輩なの?」
「私たちより四つ年下だから、私たちとはいっしょにやってないね。シゲくんと幸生くんは知ってるんでしょ?」
「尊敬する先輩です。在学中から歌唱力で目立ってらっしゃいましたから」
 きちんとした言葉で喋る彼女は人がましい。とにかくよかった。
「乾くん、おいしいものを食べて疲れを癒してね。昨日はそんなに大変だったの?」
「山田先輩ったら、自慢」
「そうだねー。自分で作っといておいしいものって、そりゃない?」
「いいえ、おいしそう」
「だったらいっか」
 テーブルには和食のごちそうが並び、女の子たちの会話がはずむ。俺と同年のミエちゃんと、二十代も終わりかけている若槻さんを女の子と呼んでも……いいとしよう。昨日の俺の単独仕事を思い出しつつ食っている俺を尻目に、女の子たちは会話を続けていた。
「いつもいつもそばにいると、些細なことで喧嘩しちゃって、うちに帰ってからも険悪なままだったりすることもあるよ。でもさ、いつもいつもそばにいられるって幸せだとも思うの。シゲくんの奥さんの恭子さんなんか、コンサートツアーの期間なんかだったりしたらちっともいっしょにいられないじゃない。寂しいよね」
「そうですね。だけど、いつからそんなふうで……」
「本橋くんと結婚することになったかって?」
 うふっ、なんて笑ってる。
「約束したのよ。いつだったかな、お互い三十すぎて独身だったら、結婚しよっかって。とっくに三十すぎて、まぎれもなくふたりとも独身だったから、あの約束覚えてる? って訊いたら、本橋くん、一拍置いて言った。おう、そうだったな、結婚しよう、だってさ」
「ほんとの話ですか?」
「ほんとよ」
「実はもっと熱く甘いんじゃないんですか」
「あの本橋くんが甘いわけないでしょ」
 いやいや、十二分に甘いラヴストーリーだよ。本橋とミエちゃんは、それぞれ別のひととつきあってた時期もあった。俺も同じくだ。なぜか三人とも、どの恋も長続きしなかった。そんなころに俺はふと気づいた。俺、ミエちゃんが好きなんだよな、って。遅いんだよ、乾隆也。おまえが気づく前に本橋とミエちゃんは……結句は手遅れ。よくある話だ。
 吹っ切りつつある想いだけど、こうものろけられると耐え難い。それでもごちそうは食べなくてはならない。昨日の仕事はたいへんに気疲れしたのだが、今日もつらいのだった。黙々と食べている俺に、ミエちゃんが言った。
「乾くん、今日は静かね」
「料理がうますぎて感動で、喋ってる間も惜しい」
「そんなにおいしい? 信じちゃうよ」
 料理は事実、美味だった。まずかったら食わずに帰る。そうもいかないかも? というのがつらいところなのだが。
「おいしいですよ、先輩」
「ありがとう。デザートも作ったのよ。どんどん食べてね」
 あああ、やだねったらやだね、やだねったらやだね、箱根八里の……真次郎! 口からフレーズがこぼれ、ミエちゃんが訊き返した。
「なにか言った?」
 歌ってみせた。受けた。
「やだ、半次郎でしょ?」
「真次郎って本橋さんですよね。ちゃんと語呂が合うんだ」
「はこーねはちーりの」
「真次郎」
 ふたりも歌ってきゃははと笑う。綺麗な女性たちが目の前で笑ってるのはいい眺めだけど、俺は今夜も疲れ果てた。
「乾くんは演歌も好き?」
「嫌いじゃないよ」
 ばあちゃんっ子だった俺は、反発しながらも祖母の多大な影響を受けて育った。晩生だった中学生のころはともかく、周囲に恋愛の空気が漂ってくる高校生時代になると祖母は、前世紀の遺物的台詞を口にした。
「隆也、女の子とつきあうなんてまだまだ早いよ。よそさまのお嬢さんを傷ものにしたりしたら、取り返しがつかないんだからね。わかってる?」
「傷ものってなんだよ」
「傷ものというのはね……」
 知ってるよ、教えてくれなくていい、俺はばあちゃんの前から逃げ出したものだ。
「隆也は歌がうまいねぇ。この歌、いっしょに歌ってごらんな」
 レコードをかけて、祖母は俺に民謡や演歌を歌うように強制した。俺もそれはいやではなかったので、楽しく歌ってのどかな祖母と孫の交友を繰り広げていたのだ。
 高校三年のときに逝ってしまった祖母がその先も生きていたとしたら、隆也は演歌歌手になりなさい、わけのわからない歌をうたってるんじゃないよ、と言ったのではないかと俺は想像する。そうなるとあのあまたいる男の演歌歌手のように、やのつく職業の方々みたいな風貌の三十男になってたかも? 演歌歌手にならなくてよかった。
 東京の大学に進学し、合唱部の新歓コンパに出席した俺のとなりに、本橋がすわっていた。今でこそ役割がひとをつくるってやつで、本橋にはいくらか貫禄もついてきたけれど、あのころはひょろーっとした十八歳だった。もっとも、そこは俺も大同小異だったけれど。
 いつしか深く親しくなった本橋と、のちには本橋の妻となるなどとは、当時は想像すらしてみなかった山田美江子。
 本橋と俺がデュオを組んだり、卒業間際にヴォーカルグループを結成したり、ヒデが脱退したりして、後にプロになれた。ミエちゃんも丸ごと今の事務所に雇われて、それからも紆余曲折があったりして、今では俺たちはこうなっている。
 ミエちゃんの友達の女の子ってのも後輩だし、本橋もヒデも、その他三人の後輩たちも同じだ。俺の世界って大学時代の合唱部で自己完結してるよな、とつくづく思うのだった。


 突如としてテレビ局の廊下で、かっちゃんらしき幼い声が聞こえた。本橋が待っていろと言うから、仕事がすんでからも俺たちはミエちゃんも含めて、全員帰らずに待機していたのだ。
「駄目、そんなことしちゃいけないんだよっ」
「なんの話だよ」
「かっちゃん、こんなところで大声出すな」
 続いて聞こえてきたのはラヴラヴボーイのヨシとポンの声だ。本名も知っているが、公式にはヨシ、ポン、かっちゃんである。
「仕返しなんかしたら駄目なのっ。学校で教わっただろ。そういうの、してはいけないことなの」
「仕返しってなんだろ。なあ、ヨシ?」
「知らね。かっちゃん、あっち行こう」
「いやだ」
 さきほど、かっちゃんが本橋のところに走り寄ってきて言ったのだ。
「ポンくんとヨシくんが、仕返ししたいって……」
 すらりとした長身ではあるけれど、子ども子どもしているのはまぎれもないかっちゃんが、深刻な顔をして言い、本橋が問い返した。
「仕返し、俺たちに? なんで?」
 かっちゃんと対談をした相手だからか、聞き返したのは章だった。
「リーダー、ヨシくんになんかひどいこと言ったんでしょ」
「なんも言わないぞ」
「じゃあ、乾さん?」
「俺は慇懃無礼だったかもしれないけど、仕返しされるようなことは言ってない」
「自分ではそのつもりでも、アイドルさまの逆鱗に触れたんじゃないんですか」
 シゲが言うと、かっちゃんはきょとんとした。
「げきりんってなに?」
「たいしたことじゃないよ。詳しく話してみて」
 促すと、かっちゃんが訥々と話した。
「なんかねー、ポンくんもヨシくんも、本橋さんと乾さんと対談してむかついたんだって。そんでもってね、むかつくから仕返ししたいんだって」
 苦笑するしかなくて、俺は言った。
「むかつかれたか。むかついたのはこっちなんだけど、大人気ないことを言うのはやめといて」
「仕返しねぇ」
 苦笑いの顔を本橋と見合わせていると、幸生が言った。
「部外者と対談するのなんて慣れっこだろうに、失礼なことを言う輩もちょいちょいいるだろ」
「やからってなに?」
「……奴。章、頼む」
「なんだって俺に振る?」
「おまえはかっちゃんと対談してちっとは慣れたろ。このヴォキャブラリーのなさに、俺はついていけないよ」
「ヴォキャブラリーってのは、語彙。語彙じゃむずかしいな。言葉の種類か。美江子さん、広辞苑ありませんか?」
 無言でそばで聞いていたミエちゃんが、章の頼みに応じて広辞苑を手渡した。
「まあいいか。やさしーく喋るわけね。語彙ってのは……広辞苑の説明はさらにむずかしいぞ。それは置いておこうね。つまりさ、幸生が言いたいのは、きみらは対談なんてものは時々してるだろ? たかがアイドルグループだなんてなめられて、失礼なことを言う奴もいるだろって。わかる?」
 たかがアイドルグループとなめてかかったのは、俺たちも同じだったかもしれない。章にしては我慢強く少年と話しているのを、他の五人で聞いていた。
「うん、わかる」
「いちいち仕返しすんのか」
「ぼくはしないよ。でも、ポンくんとヨシくんが……」
「するって? 困った坊やたちだな。なにをするつもりだよ」
「知らない」
「肝心なところを教えてくれないと、俺たちにも対処のしようがないんだけどな。対処ってのは……ええい、めんどくせぇ。リーダー、続きはよろしく」
「ほっとけ」
「ほっといていいんですか」
「いいさ」
 上等じゃねえか、受けて立ってやる、とは言わない。当然であろう。いくら本橋でも、ジャリタレアイドルグループと真っ向から対決する気にはならないだろう。
「ポンだのヨシだのは、ガキってほどの年でもないじゃないか。ガキはガキだけど、分別くらいつく年頃だろ。トップアイドルのてめえたちが、妙な真似をしたらどうなっちまうか、わからないほど阿呆でもないはずだ。仕返しするったってたいしたことができるはずがない」
「闇討ちされたらどうする?」
 面白くなってきたので、俺は茶々を入れた。
「あいつらが殴りかかってきたって、一対一だったら俺だって負ける気はしないよ。しかし、五対一だったらどうする? それどころか、暴力が得意な方を雇ったりしたらどうする?」
「だから、そこまではしないと言ってるんだ」
「わかってるけどさ」
「おまえにそれがわからないはずがねえだろ。五対一だったとしても、歯ごたえありそうなのはポンかヨシくらいだな。あとの三人は本物のガキだもんな」
 結局そういうことも考えているわけだ。
「章か幸生だったら、本物のガキを含む五対一でもやばくないか?」
「乾さん、あんまりなめないで下さいよ」
「このぐらいだったら俺だって」
 抗議する章と幸生をまあまあと押しとどめて、俺は言った。
「シゲは大丈夫だよな。かっちゃん、ポンとヨシに言っておけよ。襲うつもりだったら本橋さんと本庄さんは避けたほうがいいぞって」
「俺だったら、乾さんの言うようなことがあったとしたら、警察を呼びます」
「それだよ」
 本橋は言った。
「万にひとつ、乾が言ったような暴力的な男どもが出てきやがったら、シゲの言う通り、警察に通報する。それしかないだろ」
「警察を呼べる状況とも限らないし、暴力的な女たちだったらどうすんの?」
「乾、おまえは考えすぎだ」
「失礼しました」
 それよりも、と本橋はかっちゃんに向き直った。
「俺はきみの性根が好きじゃないな」
「しょうね?」
「根性ならわかるだろ。マネージャーあたりに相談したのか」
「してないよ。先に本橋さんたちに言いにきた」
「そんなもんに加担しろとは言わないが、仲間が変なたくらみを持ってるのを、俺たちに告げ口にくるってのが気に入らない。先に止めるのが筋ってもんだ」
「えー? そんなの無理」
 章も彼としては我慢強かったが、本橋も同様だった。
「そういうことはしちゃいけない、とはわかったんだろ」
「うん」
「そんなら決死の覚悟で止めろ」
「けっしのかくご?」
「辞書を引いてみろ。そうだ、あのな、かっちゃん」
 小顔の上のちいさな頭を引き寄せて、本橋はかっちゃんに耳打ちした。耳打ちが延々続き、かっちゃんが当惑の体になった。
「そんなのできない」
「やってみろ。最終的に俺が加勢してやる。手を貸してやるって意味だ」
「うん、やってみるけどね……」
 それがこうしてこうなったのだろう。廊下からはかっちゃんの声が続いて聞こえてきた。
「なにをするつもり? ぼくにも教えてよ」
「だから、なんのことかさっぱりわかんねって言ってんだろ」
 ポンが言い、ヨシも言った。
「わけわかんねえことばっかり言ってないで、あっちに行こうって」
「いやだっ!」
 一世一代の演技か。かっちゃんは声を張り上げた。
「ポンくんとヨシくんは、仕返しするって言ってたでしょ。ぼく、それを聞いて止めなくちゃって思ったんだ。そんなことしたら、えーと……アイドル生命だっけ。そういうのがなくなっちゃうんだよ。それでもいいの?」
「誰かに入れ知恵されたのか」
 押し殺した声はヨシだ。
「おまえの台詞だとは思えねえよ」
「誰に入れ知恵されんの? かっちゃんよ、誰かに告げ口したのか?」
 案外鋭いのかもしれない。
「えーと……えーと……」
 我らがリーダーがすくっと立ち上がった。
「幸生と章は特に、口出しすんな。滅茶苦茶になりかねない。乾とシゲは臨機応変に対処しろ。なんだったら見てるだけでもいい。山田も黙ってろ」
「本橋くんったら、どうするつもりなの?」
「いいから」
 控え室から出ていく本橋のあとを追おうかどうか、迷ったらしきシゲが俺を見る。ミエちゃんは亭主のあとから出ていって、幸生と章は困惑していて、章が訊いた。
「どうするんですか、乾さん?」
「外には出るけど、とりあえず静観していよう」
 そう決めて、俺たちも廊下に出た。顔を真っ赤にして口ごもるかっちゃんを、ヨシとポンが睨みつけている。ポンは不良っぽさが売りだというだけあって、なかなか迫力があった。
「なにを内輪もめしてるんだ。仕返しと聞こえたけど、なんの話だ」
 悠然と本橋が問い、ヨシはかっちゃんの腕を取った。
「なんでもないんです。こんなところでみっともない。かっちゃん、あっち行くんだよ」
「やだって」
「なんであんたが出てくんの?」
 疑惑のまなざしはポンだった。
「本橋さーん、ポンくんとヨシくんったらね」
 かっちゃんが、本橋の腰にすがりつきかねない勢いで走り寄った。
「前にポンくんとヨシくんに失礼なことを言ったひとたちに、仕返しするって言ってるんだよ。しちゃ駄目だよね」
「そりゃぁよくない。失礼なことを言ったのって誰だ」
「知らない」
 これでそやつは本橋ではないと、そんなにうまく納得してくれるのだろうか。
「なにがなんだか俺にもわからないけど、そういう真似はやめといたほうがいい。ヨシくんはもっともっとビッグになりたいんだろ。歌もうまくなりたいんだろ。仕返しだなんてことをして、きみたちの将来に傷をつけてどうする? きみたちは不良少年じゃないだろ。今日の仕事はおしまいか」
「ええ、まあ」
「そんならちょうどいい。カラオケに行こう」
「へ?」
 アイドルグループの年長者ふたりは、間抜け面になった。
「ま、プライベートな歌の練習ってかな。いやか」
「ポン、どうする?」
「俺はやだよ」
「……えと、ぼくは行きたい、です」
「ぼくも行く」
「よし、行こう。幸生、章、ついてこい」
 ええー? 俺たちまでぇ? やだよ、ついてこないと承知しないぞ。ひで、リーダー横暴、ラヴラヴと似たようなやりとりのあと、本橋はヨシとかっちゃんと幸生と章を従え、歩き出した。俺のそばを通るときには、ウィンクを投げていきやがった。ポンは舌打ちをして走り去った。
「なんですかー、あれ?」
 呆れ果てた表情でシゲが言い、ミエちゃんも言った。
「私、盗み聞きしちゃったの。あのふたりの会話。ポンくんとヨシくんの」
「あいつら、なにを言ってたんですか」
「かっちゃんが言ってたようなことよ。ちがったのはね、ポンくんの提案」
 俺たちの番組にFSの奴らにゲストで来てもらう。歌わせる。おまえもいっしょに歌う。音痴のおまえにつられて、FSも音痴になる、だったのだそうだ。おまえとはヨシだ。
「本橋くんと幸生くんと章くんが三人そろえば、音痴に釣られたりしないっての」
「本橋さんひとりじゃやばいですか」
「どうかな」
「本橋ひとりでも釣られたりしないと思うけど、三人いたら百人力だな。ああやってヨシを懐柔する。坊やたちのリーダーを懐柔してうやむやにしちまおうって寸法かな。けど、ヨシは音痴なんだろ。本橋も酔狂だね。ほっとけと最初は言ってたくせに」
 シゲが言った。
「リーダーは面倒見がいいから」
「だからこそリーダーなんだけどな。かっちゃんにあいつらの仕返しを断念させるのは無理でも、リーダーヨシになら可能だってか。シゲ、うまく行くと思うか?」
「今のところはなんとかなるんじゃないかな」
「ミエちゃんは?」
「さあね。神のみぞ知る、じゃないの」
「俺も同感。シゲは楽観的だな」
「うまく行ってもらわないと困りますよ。事態が混乱するのは避けたい」
「そうよね」
 ボス、がんばれよ、と俺は本橋に言ってみた。
「たぶんかっちゃんが真相暴露しちまうよな。ふとした拍子に、本橋さん、ぼく、上手に本橋さんの言った通りにできたでしょ? とかなんとか言って、泡を食った幸生がかっちゃんの口を押さえて、章が必死でごまかして……そんな光景が目に浮かぶ」
「そうならないように祈りましょう」
「だな」
 う、ミエちゃんの目が怖い。彼女は俺を見上げて、恐れていた言葉を口にした。
「乾くん、このあとなにか予定ある?」
「あ、忘れてた。約束があるんだ。シゲ、ミエちゃんを送っていけ」
「了解」
「送ってなんて頼んでないでしょ」
「美江子さん、俺の奥さんの話、聞いて下さいよ」
「恭子さんがどうかしたの? もうっ、しようがないねっ」
 事情はなにひとつ知らないシゲだが、俺の目配せを察してくれた。感謝するよ、シゲ。そろそろ深夜が近い時刻なのだから、女性をひとりで帰らせるのはよくないしね。シゲとミエちゃんは連れ立って帰っていき、俺は別方向へと歩き出した。
 約束なんかなんにもないけれど、なんとなく、俺はミエちゃんとふたりきりになりたくない。なんとなく、ではなくて、理由は知っている。亭主が留守の本橋家に招かれた際のあれこれを追及されたくないのだ。
 ろくに相客と会話もせず、自身の想いに浸ってばかりだった俺を、ミエちゃんはきっと怒っているだろう。俺にだってそんなときもあるよ、と開き直れない俺だった。


 やだねったらやだね、とひとりごとを言ったら、口をついて出たのは、はこーね、はちーりーの真次郎、だった。ああ、やだやだ、から、やだねったらやだね、になり、ここへ到着するにはぴったりの歌なのだから。
「いい歌だな」
「そこにいたのか、本橋」
「それはなんだ?」
「替え歌っつうかね」
「それが替え歌かよ。しょぼい。プロのソングライターなんだから、もうすこしなんとかひねれよ」
「しょぼくて悪かったな」
 とっくにミエちゃんに聞いて知ってるくせに。とぼけている箱根八里の真次郎が、俺の顔を覗き込んだ。
「おまえ、このごろ時々変だな。どうかしたか」
「時々だったらいいだろ。おまえなんかいっつも変だ」
「俺のどこがいっつも変なんだよ」
「お節介焼きの暴力男の横暴男の、唯我独尊リーダーだろ」
「なんだとぉ。聞き捨てならねえな」
「表に出るか」
「おまえが俺と喧嘩するってのか。片腹痛いってんだよ」
「聞き捨てならないのはこっちだ。表に出ろ」
「ここでいいぜ」
 この野郎、いまだかつておまえと俺とが取っ組み合いをやったことがないのは、俺が控えめにふるまってたからだろ。今日という今日は許さない。
 あれれ? そんなに怒るほどのことだっけ? 意識の隅に冷静な乾隆也がいて、暴走しようとするもうひとりの乾隆也を止めようとしているのだが、今日はなぜか怒りの乾隆也が勝って、冷静なほうを投げ飛ばした。ウォーミングアップ終了。
「おまえなんかよぉ、ガキのころから喧嘩もしたことないんだろ。殴られたこともねえんだろ。だからそういう……」
「なんだよ。ばあちゃんっ子で悪かったな」
「ばあちゃんは関係ない」
「そう言いたいんだろうが。箱根八里の真次郎は股旅だよな。暴力は日常茶飯事だもんな。受けて立ってやるからかかってこい」
「やっていいのか」
「黙ってやられてるつもりはねえんだよ」
 他人が同じ場所にいるのはすっかり失念していたのだが、いつの間にか章と幸生が本橋の腕を両側から一本ずつ取り、俺の背後にはシゲが回っていた。俺の耳元にシゲの渋い声が響いた。
「リーダー、乾さん、やめて下さい」
「やめてやめてやめてーっ」
 他方では幸生が黄色い女声を出した。
「喧嘩はやめて。ふたりを止めて。私のために、争わないで、もうこれ以上ーーー」
 歌い出した幸生に章とシゲがハモり、気が抜けた。幸生は俺を見つめて言った。
「もっと歌いましょうか」
「いらないよ。本橋、ごめん、俺が悪かった」
「なんだ、あやまるのか」
 ほら、俺はいつもこうだから、おまえとバトルをやったことはないんだって、知っているのだろうか、本橋は。
 喧嘩になりかかったことなら幾度もあるけれど、やってはいけない、と自分で自分を諌めたのは俺だった。プラス、シゲの肉弾阻止攻撃もある。ミエちゃんのお叱りもあった。さらにプラス、気を使ってなのか、やりたいからやっているのか、まつげをパチパチさせた幸生が彼の得意技を開始した。
「あたしを取り合って喧嘩してたの? あたしは真次郎さんのものにも、隆也さんのものにもならないわっ。どちらかなんて選べない。だって……うぐ」
 うぐっとなったのは、シゲが幸生の口を押さえたからだった。俺は気を静めて言った。
「本橋がなにを言ったわけでもないのに、ついかっかと来ちまったんだよ。いい年してなにが表に出ろだよな。反省してるよ」
「なんだか鬱屈してるんだよな、おまえ」
「そうなんですか。なにかありました?」
「なんでもねえよ」
 訊いた幸生を退けた。おのれの頭の蝿はおのれで追う。
「いやな、どうも乾は変だから、ちょっと挑発してみたらどう出るかと思ってな。思いのほか熱くなったんで面白かった」
「なーんだ、リーダーもよくないんじゃん。俺はあんまり聞いてなかったんだけど、乾さんを怒らせるようなことって、なにを言ったんですか?」
 首をかしげかしげ章が言い、本橋も首をひねった。
「そうも怒るようなことは……俺はなんか言ったか、乾?」
「言ってない」
「うーん、俺としては見てみたかったんだけど、シゲさんが止めろ止めろって言うからぁ」
 止めろ止めろなんて声も、まるきり聞こえていなかった。幸生は見てみたかったと言って、シゲに睨まれていた。
「だって、前代未聞の見ものですよ。乾さんがリーダーと、だもんな」
 幸生とシゲは、本橋と俺の喧嘩寸前を見ていたことがあるのに、忘れているのかとぼけているのか。本橋が言った。
「幸生の歌でやる気をなくしたよ」
「俺らシンガーズですからね、これがベスト手段」
「ああ、おまえが女の声を出すと、喧嘩なんかやれっこなくなるよ」
「美江子さんの怒声より効果あります?」
「あるかもな」
「ラヴラヴボーイズならともかく、やめて下さいよ。先輩たちはほんとにいい年でしょ。幸生と章じゃあるまいし」
 ミュージシャンのグループは他にもいくつもあって、男の集団が大多数なのだから、争いが起こらないはずもない。よそはどうやって解決しているのだろう。本橋は幸生と章にならば、最終的にはげんこつで解決する。それがまたけっこう解決手段になるのが笑えるのだが。
 シゲは根っから争いごとが嫌いである。結局シゲに説教されて、俺は神妙にうなだれてみせた。そのあとも後輩三人は、いったいなにが原因だったんだろ、などと話し合っていたようだが、俺は知らん振りしておいた。要するに俺の、やだねったらやだね、が爆発しただけさ。

「俺がいたんじゃお嫁に行けぬ
 わかっているんだ妹よ
 いつかおまえが喜ぶような、えらい兄貴になりたくて
 奮闘努力の甲斐もなく、今日も涙の今日も涙の」

 陽が落ちーる、と歌ってみせると、シゲ、幸生、章がびっくりまなこで俺を見た。本橋も首を伸ばして、なんだなんだ、という表情をしていた。

「ついてこいとは言わぬのに、黙ってあとからついてきた
 俺が二十歳で、おまえが十九
 下げた手鍋のその中にゃ、明日のメシさえなかったな、おまえー」

 こうなりゃ自棄だ。次行こう。
「ひとり酒場で飲む酒は、流す涙の味がする……」
「渥美清に村田英雄に美空ひばり? 乾、どうかしちまったのか」
「シンちゃん、さすがによく知ってるね。章や幸生は知らないだろ」
「知ってますよ」
 乗ってきた幸生が歌い出した。

「好きでお酒を飲んじゃいないわ
 ひとり帰る道がつらい弱い私よ」

 やはり幸生は女歌か。俺は言った。
「江利チエミ」
「歌詞がうろ覚えだよ。えーと、これなら……」
 続いてムードミュージック。

「別れたひとと会った。別れた渋谷で会った
 恋人同士に戻って、グラスかたむけた」

 再び、俺は言った。
「途中が抜けてるぞ」
「お久しぶりね、あなたに会うなんて、ってのはどうですか?」
「もうやめ。おしまい」
「……乾さん、やっぱ変だ」
「帰る」
 そんな歌は聞きたくない。時ならぬ演歌大会になりそうだったのに、幸生が悪しき歌をはじめて気分を害した。無言で出ていく俺の背に、四つの疑惑の視線がつきささって痛かった。


2

 な、なにごと? 幸生とミエちゃんが俺に向ってずんずん歩いてくる。シゲが仰天の体でふたりを見つめ、俺はあとずさりしそうになった。
「乾くん」
「乾さん」
 女声と、素では少年声に近い幸生の声がハモっていた。
「乾さんに用なんですね。では俺は……っと」
「こら、シゲ、逃げるな」
「シゲくんは関係ないからね、口出ししないでね」
「はい」
 ミエちゃんに言われてそそくさと逃げていったシゲだが、近くに控えていた。
「なんのご用でしょうか」
 迫力に気圧されている俺に、ふたりはまくし立てた。幸生の声とミエちゃんの声がシンクロして、俺を攻撃している。頭がくらくらしそうなのをどうにかこらえて聞いてみると……
「それで、乾さんは苑子さんをどう思ってるんですか」
「忌憚ないところを話して」
 忌憚なんてこういう場合に使うか? とは思うが、そんなことはどうでもいい。俺は二度、三度とまばたきした。
「苑子さんって、ミエちゃんが俺を夕食に招いてくれた日に、俺が車で送っていったひとだろ。若槻さんだよな。ええ? 彼女が俺に……」
 恋? どうして? 絶句した俺をほったらかして、幸生とミエちゃんはうなずき合った。
「やっぱり幸生くんの言った通りだね」
「でしょ? 俺は乾さんは並の男より敏感だと思ってたけど、そうでもないと立証されました」
「この鈍感男」
「俺が? ミエちゃん、なにをそんなに……」
「あんたはなんで私を避けてたのよ?」
「避けてってね……いや、最初はあの日の無礼を怒ってるかと思って避けてたんだけど、そのうち気まずくなっちまったんだよ」
「それだけ? ソノちゃんは無関係?」
「誓って無関係です。知らないよ、んなこと」
 がくーっとばかりに、ミエちゃんと幸生は首を垂れた。
「じゃあ、お久しぶりね、は?」
「は? それはなおさら無関係だ。幸生、どさくさにまぎれて変なことを言い出すな」
「駄目か。ま、いいや。それは置いとくとしてですね、けど、やっぱなんかあるんだ。なるほどぼとぼとぼっとぼとっ」
 ひとり納得して、幸生はうなずいている。お久しぶりねってなに? とミエちゃんに訊かれて、いえいえ、こっちの話、としらばっくれた。
「幸生、話を複雑にすんなよ。知るわけないでしょ。俺はただ、ミエちゃんの友達っつうか、後輩の女の子のアッシーをやらされただけだと思ってたよ」
「アッシー? 古ぅ」
「古くて悪かったね。幸生くん、そんならなんていうんだよ」
 どうせ俺はばあちゃんっ子だから、最新の言い回しは知らないのだ。
「なんだっていいのっ。まったくもう、鈍感だったらありゃしない。私も乾くんはそこそこ敏感だと思ってたよ。野暮なことなんか言わなくても、察してくれると思ってた。幸生くん、私がまちがってたのね」
「そのようですね」
 ぶふっとシゲが吹き出し、いやいや、失礼、とうつむいた。
「で、真相が解明した今、どうなんですか、乾さん?」
「どうなの?」
「唐突すぎるよ。心の整理がつかない」
「なにを女の子みたいなこと言ってんのよっ」
「女の子みたいって……若槻さんが俺に恋をしてくれたのは光栄だよ。俺なんかたいしたこともない見栄えの、わりかしかっこいいとか言ってはもらえるけど、その程度の……」
「なにを卑下してんのよ。乾くんはそれなりにかっこいいよ。ルックスだってそんなに悪くない。自信を持ちなさい」
「ありがとう」
 ぷぷっ、ぷぷっ、とシゲは忍び笑いをしている。そりゃあてめえにはなんの関わりもないんだから、面白い見ものだよな。シゲ、こら、蹴飛ばしてやろうか。俺が八つ当たりの視線を向けたのに気づいたのか、シゲは焦って言った。
「わ、乾さん、すみません」
「笑うな」
「笑いませんから」
 ほらほら、乾さん、怖いでしょ? と幸生がミエちゃんに耳打ちした。
「聞こえてるよ。……ふう、八つ当たりはやめよう。ごめん、ミエちゃん、俺はそんな目で若槻さんを見られない。今も昔も未来も」
「そう」
 意外にあっけなく、ミエちゃんはうなずいた。
「そんなら仕方ない。無理強いできるもんじゃないよね」
「しかし、すると、若槻さんは俺に失恋すんのか、こんな男に……気の毒だ」
「気の毒だからってつきあわれちゃ、もっと気の毒ですよ、苑子さんが」
 幸生の台詞は正論である。
「乾さんは卑下しすぎだな。どうしてそうなんのかな。乾さんはこんな男じゃないですよ」
「こと恋愛となると、俺は不器用者のきわみになるんだよ」
「そうなんですか。ふられてばっかとか?」
「うるせえんだ。どさくさにまぎれるなと言ってるだろ、幸生。俺がふられてばかりだってのは、おまえには話さなかったか?」
「話してもらったかな? 忘れちゃったよ」
 ふられてばっかは事実だもんな、俺の傷口をほじくるな、と言いたい。が、言わずにいると、ミエちゃんがほっと息を吐いた。
「こういう結論になるんだね。寂しいな」
「ミエちゃん?」
「ううん、乾くんは悪くないよ。そしたら、もう私を避けない?」
「避けません、誓います」
「案外気が弱いったら……」
 気まずくてミエちゃんを避けていたのは、たしかに気が弱すぎる。だけど、そればっかじゃないんだよ。ミエちゃんがのろけっぱなしだったのを聞いて、俺は気分がダウンしたんだ。そんなことを言えるはずもなくて、よけいにダウンモードになった。
「高倉さんになんて言おうかな」
「幸生、なぜここに高倉さんが出てくる?」
「美江子さん、もう言ってもいいでしょ」
「そうね」
 愕然とした。幸生の話によると、若槻さんは高倉さんの義妹? 彼女が高倉夫人の実の妹なのだと聞いて、俺は気が遠くなりそうになった。ミエちゃんも知らなかったのであるらしく、若槻さんもひとことも言っていなかった。
「うわっ、高倉さんに合わせる顔がなくなっちまうじゃないか」
「それだって仕方ないじゃない。高倉さん直々にソノちゃんを紹介されたとしたら、恋愛対象と見られなくてもつきあうの?」
「……できない」
「だったら気に病まないのね」
「あなたは度胸があるね」
「この場合に限っては、乾くんになさすぎるの」
 その通りかもしれないが、大恩ある大先輩の奥方の妹だなんて。先にそれを知っていたからってどうなるものでもないが、よりいっそう気分が落ち込んでいった。
「なんだかねー、私が悪かったみたい」
「ミエちゃんは悪くないよ。親切でしてくれたんだろ。俺がひとりぼっちの哀しい男だからって」
「ほらぁ、また卑下する」
「ごめんな。悪いのはなにもかも俺だ」
「乾さん、自棄酒やりますか」
 なぐさめるつもりか、シゲが俺の肩を叩いた。
「ひとりにしてくれ」
「乾さん……」
 もうひとつ? お久しぶりね? 幸生はよけいなことを言いすぎだ。考えるのはあとにしよう。今は仕事仕事。時間になると外に出ていた本橋と章が戻ってきたが、幸生もシゲもミエちゃんもなにも言わなかった。歌っていれば人生の他の諸々は思い出さずにいられるのだが、仕事が終わると胸によみがえってくる。
 ダウンモードはしばらくアップしそうにもない。立ち直るにはなにが必要なのだろう。もっともっと、思い切り歌うしかないかな。今日は車で来ているから、個室でひとりっきりになって寅さんの歌でも歌って帰ろう。男はまったくつらいんだよね、寅さん? そのつもりで車に乗り込むと、ケータイが着メロを響かせた。電話だ。非通知設定の番号からかかってきている。
 最近しばしば無言電話がかかってくる。まさか若槻さんのはずはないが、すると菜月? あれこそ突発事だったはずなのに、思い出させるなよ。きみとはとうに縁が切れただろ。
 去年再会した菜月は、どこでどう調べたのか、俺のケータイナンバーを知って電話をかけてくるのだろう。たぶんまちがいない。菜月、おまえな、これじゃストーカーだぞ。俺は吐息をついて、声をぐっと低くとつとめつつ電話に出た。
「はい」
相手は無言だった。
「……」
「菜月か」
「わかるの?」
 案の定だった。わかるさ、この馬鹿、内心で毒づいた。
「もしもし、隆也? なんだか声がちがうね」
「俺はこんな声だ」
「隆也だよね。嬉しい」
 俺は嬉しくないんだよ、と、一度は言ってやろうか。言いたくてむずむずしてきた。
「仕事はすんだ? あたしは今夜もひとりだよ。来ない?」
「馬鹿たれ」
「なんて言ったの?」
「おまえは大馬鹿女だといったんだ」
「……隆也なの?」
「隆也だよ。俺はもはやおまえなんかなんとも思ってない。下手に出てりゃいい気になりやがって、二度と電話なんかしてくるな。わかったら返事しろ」
「そんな、隆也がそんなこと言うなんて……ひどい……」
 わっと泣き伏す気配を感じて、俺は電話を切った。心が痛まなくもないけれど、荒療治も時には有効だと信じておこう。こんなときにはシゲみたいな声だったら効果も倍増だっただろうに、俺は自分の声が今だけは恨めしい。
「隆也、男の子は女の子を泣かせちゃいけないんだよ。女の子は男の子より弱いんだからね」
「ばあちゃんは弱くないじゃないか」
「……ばあちゃんはいいの」
 脳裏に過去の景色が映し出される。俺を目の前にすわらせて説教するばあちゃん、口答えする小学生の俺。
 今どきの女の子は弱くなんかないよ。それに、時と場合によるだろ? 俺はいまだにばあちゃんに呪縛されてるのか。俺は運転中なんだよ。事故ってばあちゃんのところに行ったら激怒するに決まってるのに。
 菜月にはこう対処しても悪くはないはずだが、一方、若槻さんは? うん、なんとかしなくちゃいけない。
「俺が好きだって? 俺もきみが好きだよ。きみは美人だもんな。抱く相手としてなら楽しそうだ。遊びでならいいよ。おいで、苑子」
 言えっこないのはわかり切ってるけれど、ニヒルな男を演じてみたら、いったいどうなるだろう? 泣かれるか、殴られるか、一発殴られて、あんたなんか大嫌い!! とふられたほうがいっそすっきりするのに。
 合唱部の後輩で、ミエちゃんの友達のようなもの、しかも高倉さんの義妹、そんな女性にそんなふるまいができるわけないじゃないか。
 妄想なんかなんにもならない。乾隆也、おまえって実際馬鹿だよな。それでもいいわ、なんて言われたらどうするんだよ? 言うはずないだろ。いい加減にしろ、馬鹿野郎。自問自答は果てしなく続くのだった。 


3

腹に力を入れて、俺は自宅電話の受話器を取り上げた。コール音のあと、静かに相手が電話に出てくれた。
「こんばんは、乾です」
「あ……」
 絶句の気配がしばし続き、俺は言った。
「若槻さん? 聞こえてますか?」
「は、はい」
「……ごめんなさい」
 言い訳は無用だろう。ここでどんな言葉を用いても、彼女のためにはならないはずだ。
「わかりました。お電話いただいてありがとうございました」
「…………いや……」
 沈黙がまたしても支配し、若槻さんは言った。
「ありがとうございました」
「……さよなら」
「さようなら」
 菜月なんぞをどうあしらっても、心はさして痛まない。過去を思えばわずかに揺れるけれど、痛いほどではない。
 しかし、今回は胸が痛い。痛くてもどうしようもない。胸の痛みをうまくなだめて、俺は今日まで生きてきたのだから。もてる男みたいだな、と苦く呟いて、次なる責任を果たすことにした。どうやら幸生は高倉さんに頼みごとをされていた様子で、幸生とふたりで高倉さんの仕事場に出向いたのだ。
 ただいまの高倉さんの仕事場、女性シンガーのレコーディングスタジオ近くの喫茶店で、俺は高倉さんに頭を下げた。
「すみません」
「こちらこそ悪かった。おまえが悪いわけじゃない。三沢、おまえにも妙な頼みをして悪かったな」
「とんでもございません」
 深く頭を下げたままの俺の肩を叩いて、高倉さんは歩み去った。足音が遠ざかり、顔を上げると、幸生は高倉さんの背中にぽけっと見とれていたのだが、我に返ったように言った。
「飲みにいきましょうよ」
「そうだな」
「また断るんですか」
「うーん」
「優柔不断は駄目駄目。俺がおごるから行きましょう」
「おまえにおごられるなんてまっぴらだ。幸生、おごるの前になんて言った?」
「なんか言った、僕ちゃん?」
 この幸生の無邪気ぶりは、作為であるに決まっている。これに俺は幾度和まされてきたことか。俺も笑って言った。
「行こう」
「そうこなくちゃね」
 ちょっと待ってね、と言って、幸生は携帯電話を取り出した。
「もしもし……三沢です。お時間はありますか? よろしかったらいらしてもらえませんか? もちろんおごります。乾さんが出します。女性に支払わさせるような先輩じゃありませんから。お願いします。待ってます」
 通話完了。幸生はケータイをしまい、俺は尋ねた。
「誰にかけてたんだ」
「俺のガールフレンド。来てくれますよ」
「彼女か?」
「そこまでではない女性です」
「もてるね」
「おかげさまで」
「好きに言ってろ」
 連れていかれた先はカラオケルームである。すると、幸生がお呼びした女性とは彼女だろうか。彼女だとしたら、カラオケが発端でおかしな記事を雑誌に載せられて閉口した経験がある。
 が、幸生は懲りない奴だからなのか、やれるもんならやってみな、なのか、再チャレンジする心積もりでいるらしい。カラオケでも酒でも、ま、いいさ、と考えて、女性があらわれる前にと、俺は言った。
「電話したよ」
「……苑子さんに?」
「うん」
 そしてまた、幸生とまでも沈黙。沈黙を破ってくれたのは、俺の予想通りの女性の声だった。
「ヤッホー、ユキちゃん、乾さん、弥生ちゃん登場!! ちょこっと久しぶりやね。ユキちゃん、元気やった?」
「はいはーい、僕ちゃんはいっつもいっつも元気どすえ」
「弥生さん、こいつときたら、弥生さんをガールフレンドだって言うんですよ。後輩のご無礼の段は僕からお詫びします」
「いやーん、嬉しいわ、ユキちゃん」
「俺も俺もっ!!」
 高倉さんにも言われたと幸生が言っていたが、いくぶんかはこのふたりは似ている。幸生と抱き合っている弥生さんに、俺は言った。
「いつもいつも、幸生がご厄介をおかけしております。大変にお世話になってるんですよね」
「お世話なんかしてへんわよ。私はお酒はいけん口やねんけど、ウーロン茶で酔うからね」
「弥生さんは酒はなくても、普段からメガトンハイテンション」
「ユキちゃんには言われたくありません」
「はいっ、言いません」
 言うなと言われても、自ら言わないと言っても、口が閉じないのが幸生だ。弥生さんも楽しんで下さっているのだし、俺も幸生と騒いでいると一時的にはよくない思い出をどけておけるのだから、幸生はまったく得がたい存在なのだと思う。
 我々は五人でカラオケなんてめったにやらないが、本橋もヨシとかっちゃんを連れてカラオケに行った。弥生さんもお好きであるらしい。カラオケ好きプロシンガーはよくいるようだ。
「さあさ、歌おうよ」
 弥生さんは歌詞カードをめくりはじめた。
「ラヴラヴボーイズの歌もあるね。あの子ら、可愛いよねぇ」
 女性から見たらそうかもしれないので、俺はうなずいた。
「可愛いとしか形容のしようはないありませんね」
「可愛いやないの」
 続いて呟いた台詞は、ちょっとアホやけど……? 俺は笑いをかみ殺して言った。
「弥生さんは許容範囲が広いんですね」
「そうかしらね。可愛い男の子はええ目の保養になるよ。男性かてそうでしょ? ちょっとアホでも可愛い女の子は、見てるだけなら楽しいもんでしょ」
 そうかもしれない。
「前にひとりずつ対談したんやて? ユキちゃんはさあやちゃんとやったよね」
「はい。しかし、いいんですかね。アイドルがやんごとなきお方みたいなニックネームを名乗って」
「ええんやないの。やんごとなきお方も我々の世界のお嫁さんになりはったんやし」
「そういうもんですか」
 やんごとなきお方だなどと言ったら、かっちゃんには絶対に聞き返されるであろう。俺は言った。
「僕はポンと対談したんです。あの日は朝から機嫌がよくなかったのもあって、慇懃無礼に徹してしまいましたけど、ひょんなことからプライベートで会いましてね」
「ひょんなことって?」
「おまえに言ってない」
「乾さん、普段は僕なんて言わんのでしょ? 普段の言葉使いでええのよ。ユキちゃんはそれが普段のまんま?」
「幸生の普段ってのは、弥生さんはごぞんじですよね」
「隆也さんはユキちゃんのものよ。愛してるわ、でっしゃろ?」
 お年を召されているとはいえ、弥生さんは本物の女性なのだから、愛してるわ、だけは心地よくもない台詞ではあるが、俺は言った。
「うう、弥生さんまでが……」
「弥生ちゃんて呼んでほしいんやけど、呼びにくいやろうからええわ。で、ポンくんがどうかしたん?」
 あの日、俺はポンの浅田洋介と、プライベートではじめて会ったのだ。菜月につながる悪しき記憶。自分で言い出しておいて、俺はごまかした。
「それだけなんですけどね、対談のときとは印象がちがってたな。最初っからガキだと思ってなめてかかったのが悪かったかと反省しました」
「おふたりは三十すぎでしょ? あたしから見たらほとんどいっしょや」
「そりゃないでしょう」
 実際の年齢はいくつなのだろう。女性に年を聞くのは失礼だと言うから、俺も弥生さんの年齢は知らないのだが、俺の予想を超えているのかもしれない。幸生が質問した
「弥生さんはラヴラヴボーイズの歌を聴いたことはあるんですか?」
「あるわよ。目の前で歌ってるのも見たわ」
 アイドルグループの歌は街中で、カーラジオでも流れてくるけれど、俺は積極的に耳をかたむけたことはない。幸生も同じだろう。軽視はまちがいなくしている。
「おふたりは知らんの? この歌やったらヨシくんはラップ担当やね」
「ラップか。リズム感はあるんだ」
 俺が言うと、幸生も言った。
「そうですよね。ヨシはラップやってりゃいいんだよ」
「おまえはいっしょにカラオケやったんだったな。どうだったかは聞きたくないけど」
「聞きたくないといわれるとよけい言いたくなるぞ。音痴といっしょに歌うと、ほんっとにつられそうになるんです。よくわかりました」
「おまえでもか?」
「リーダーも困ってましたよ」
 他者につられているとハーモニーはなりたたないのだが、音痴は別か。フォレストシンガーズには当然、音痴はいない。ふむふむと聞いていた弥生さんが、マイクを手にした。
「この歌、歌ってみよか。三沢くん、ラップやって。あたしはラップはあかんの」
「わっかりました」
 歌詞カードを見た限りではアイドルの無難な路線だと思えたが、メロディは悪くない。聞けば、高名な歌謡曲の作詞家、作曲家の作品だというではないか。ラヴラヴがトップアイドルの座についているのはまぎれもないのだ。幸生のラップをバックに弥生さんが歌い終えると、俺は言った。
「なかなかいい歌ですね」
「弥生さんが歌ったからでしょ?」
「ああ、そうか」
 こんなにきみを愛しているのに、きみは僕の気持ちに気づかない、といった陳腐な内容の歌詞だったが、歌うひとが弥生さんだと別ものになったのだろう。歌詞が陳腐って、俺もあんまりひとのことは言えないかもしれないけれど、それはこの際置いといて、俺は言った。
「惚れそうですよ、弥生さん」
「どうぞ。歌やのうてあたしに惚れて」
「ご主人がいらっしゃる方には、わたくしは恋は致しません」
「主人なんかいてないよ。古夫やったらおるけど」
 以前にも弥生さんはこう言った。あのときはフルオットなんて音楽用語があるのかと誤解するところだった。弥生さんはつんっとしてみせて、話題を変えた。
「ほんなら乾くん、ユキちゃん、デュエットしよ。ユキちゃんの声も乾くんの声もええよねぇ」
 リーダーとは仕事でデュエットしたくて、幸生か俺ならカラオケってわけだ。幸生が提案した。
「元気満々になれる歌を歌いましょう」
「そうしましょ。なにがええ? J-WALK? ハウンドドッグ? ブルース・スプリングスティーンとか? いっそディープパープルは? 「ハイウェイスター」でも熱唱しよか。すかっとするよ」
「乾さん、知ってます?」
「知ってるけど、ディープパープルはデュエット向きじゃないでしょ」
「そうやね。FSの歌もええけど、時々……なんとまあ、女に媚びてるよなぁ、と思うことがあるの。女性ファンが大半やろうから、ああいう歌をうたうのは当然やろうけど、あたしらみたいな年の女からしたら、センチメンタルにすぎるところもあったりしてね。あたしはFSの歌は全部は知らんけど、やっぱり男の歌はおっちゃんが歌わなあかんな、なんてね。ごめんね」
 ちろっと舌を出した。
「J-WALKなんか目茶目茶かっこええよ。彼らもセンチメンタルな歌もうたってるんやけど、乾くん、歌ってみてくれる?」
 「雨にも風にも」かな? 俺が歌おうかと考えていると、幸生が言った。
「乾さんの声じゃ綺麗すぎますけどね」
「その傾向はいくぶんありますが、上手やから許す」
「許していただいてありがとうございます。先輩になりかわって御礼申し上げますです」
「ユキちゃんがあんなん言うてきたことについては、私もいろいろ訊きたい気もするけど、ま、若者にはなにかとありますわな。私はお役に立った?」
「たいへん立っていただきました」
「そうどすか。それはよろしおした」
 あんなんとはなんだか知らないのだが、ふたりの間の秘密なのならば詮索はしまい。こんなにも弥生さんと親しくなった幸生が、いささかうらやましくも思えた。
「それって京都弁じゃ?」
「硬いこと言いなさんな」
「俺だってね、弥生さんの先ほどのコメントに反論したいことはありますけど……」
「センチメンタルも悪くはないよ」
「かわされたか」
 じゃあ、歌いますよ、と言って、幸生が俺よりも先に歌い出した。

「こんなにおまえを好き、好き、好きなのに
 つめたくしないで、もう逃がさない
 I LOVE YOU I LOVE YOU I LOVE YOU YES I DO」

 幸生の大好きなGS。カーナビーツだ。J-WALKではなかったのだが、弥生さんもともに歌い、弥生&幸生の熱唱を数曲、満喫させていただいた。
「はああ、楽しかった。ねえ、乾くん?」
「はい」
 ユキちゃんも乾くんも飲んでちょうだい、と言われたが、酒の気分でもないのでコーラで喉を潤し、弥生さんを見つめた。
「あたしから見たら、ラヴラヴのお坊ちゃんらも、あんたはんらもたいして変わらん青二才やわ。怒る?」
「いえ、おっしゃる通りです」
「でも、青二才ってことは……」
「果てしない未来がある」
「そうしめくくりますか。若いってことは、何度でも立ち上がれるってことよ。うちらうらやましいわ。なんや口はばったいこと言うてしもた。酔うたんかしらん」
「弥生さんはウーロン茶で酔う体質なんですね」
「そうなんよ。さぁ、ユキボン、次はなに歌う?」
「きゃ、俺、ユキボン? ユキユキボンボンよきぼんぼん。だけど、弥生さん、疲れません?」
「若いもんに負けてられるかっ!」
「おーっ、かっこいいっ」
 ぱちぱちと幸生が拍手し、俺も真似して手を叩いてから言った。
「俺も歌っていいですか」
「乾くんは歌ってくれへんのかな、って思ってたんよ。歌って」
 もしや今夜も帰りに、弥生さんとのツーショットを撮られたってかまわない。いや、ツーショットだったら俺と撮って、と幸生が言うだろうか。すっかり元気になれた俺は、歌いはじめた。

「They try to tellus
we're too young
be in love
they say

that love's a wou
a word we've only heard
but can't begin
to know the meaning of」

 毎度のごとく、幸生が怒り顔で言った。
「まーた英語。乾さんったらいけず」
「「too young」やね。往年の名曲。ユキちゃんも知ってるんでしょ? 乾くん、英語もうまいね。ユキちゃんもがんばりなさいよ」
「はい、がんばります。弥生さんも発音いいですよね」
「ありがとう。ユキちゃん、好きよ」
「あーい、僕ちゃんも弥生ちゃん、大好き。いちゃつきましょ」
「こう?」
「きゃあ、気持ちいいわっ!! 弥生さんのフルオットさまぁ、見逃してねっ!!」
「あんなん、いてへんのやからほっといてええの」
「きゃははっ!! あんなんやて」
 そこからは幸生の奇態な大阪弁と、弥生さんのネイティヴ大阪弁の、不倫ごっこ芝居が繰り広げられていった。
「弥生、愛してるで。愛してまっせ」
「幸生、うちかてあんたにほの字やけど、うちのフルオットは執念深いんよ。あいつにあんたが目をつけられたら、うち、どないしよ」
「わしはこの腕にあんたを包んで、死ぬまで、いいや、死んでも離せへんのどすえー」
「どすえー、てねー、なんやのん、それは」
「愛するお姉さま、呼び捨てにしてごめんな、どすえ」
「それは大阪弁とちゃいまっせ」
 あなたとおまえのおかげで、俺は今夜は楽しくてしようがないよ。もしかしたらひとりになったら、「Too young」の歌詞の内容を思い出したり、その他諸々の想いに胸を破られそうになって痛みに耐えるのかもしれないけれど、今は楽しい。
 恋をするには早すぎるなんてことはなくても、気づくのが遅すぎたってことはある。だが、完全に吹っ切らなくてはいけないのだ。吹っ切れば新たな恋もやってくる。
 俺だって懲りない奴なのだろう。ふられるたびに思った。二度と恋はしないなんて考えない。彼女への恋心は遅すぎたにせよ、何度目かの新しい恋の相手の女性に対する恋心は、決して遅すぎはしない。
 往年の名歌手、ナット・キングコールになり切るつもりで、格好をつけて歌っていたら、幸生が口笛を吹き、それから叫んだ。
「きゃあーっ!! 隆也さーん、最高っ!!」
「ほんまほんまっ!! 隆也さん、かっこええよーっ!!」
 本物の女性と、女性芝居の巧みな男の黄色い歓声が、俺を心から微笑ませてくれた。

END


 
 



 
 
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