ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FSソングライティング物語「毒蜘蛛になりたい」

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フォレストシンガーズ

ソングライティング物語

「毒蜘蛛になりたい」

 いつからそうなったのかは知らないが、アイドル業界はどんどんどんどん、ひとつのグループの人数が増えていっている。俺がポンというニックネームで所属していたラヴラヴボーイズは五人グループで、誰が誰だかわからない、なんて言う年寄りもいたものだが、五人なんて少ないほうだ。

「バイトしてるファミレスの店長、四十すぎてて独身なんだよね」
「狙えば?」
「狙えって、あたしが? 馬鹿か、おまえは」

 三十すぎてて独身の女には、四十過ぎてて独身の男が似合うじゃないか。そういう意味で言ったら、サチコさんに蹴られそうになった。

 本職は女優、ファミレスがバイト、なのだそうだが、サチコさんが金を稼いでいるのはウェイトレスとしてだろう。俺には本職なんてなくて、今のところはイベントの大道具係も、マイナーな映画に出演するのもバイト感覚だ。だけど、洋介はいいじゃん、とサチコさんは言う。

「洋介はちょっと前までアイドルだったんでしょ?」
「三年くらい前まではね」
「ラヴラヴボーイズだよね。あたしは覚えてるよ」
「半端に覚えられてるとかえってやりにくいんだよ」
「贅沢言うんじゃねえよ。あたしみたいな完全に無名の女優の前でさ」

 おそろしくガラの悪いサチコさんは、ヴァンプ型と呼ばれるタイプの女優なのだそうだ。ヴァンプとはなんだか知らなかったのだが、ビッチと同じような意味だと乾さんが教えてくれた。
 小柄だけどグラマーで、悪女型でもある。意地の悪そうな顔をしていて荒っぽくて、そんなところが魅力的な女だ。

「バイト先には高校生の女の子もいて、その子たちが言ってたんだよ。店長、キモイって。なんでキモイのかっていえば、アイドルおたくなんだって。ほら、最近うじゃぐじゃいるじゃん? どっかの女子校の一クラスみたいな集団の女子アイドル」
「いるね」
「そういうののファンだからキモイって聞いたから、洋介の話をしてやったんだけどね、男には興味ないみたいだよ」
「そりゃそうでしょ」

 女子高生に気持ち悪がられている店長を、サチコさんはキモイとは思わないらしい。女子高校生の感覚がわからないのだそうで、洋介はわかる? と尋ねた。

「女の歌手のファンだと、その男はキモイのか? って訊いたら、ああいうアイドルのファンってか、おたくはキモイ。だけど、女の歌手でもグループでも、アイドルじゃなくてアーチストだったらキモクないって。アーチストってどんな歌手だ? たとえば……とかって教えてくれたんだけど、店長の好きな法師神宮女子中学校二年十組、ってのとどうちがうのかわかんなかったよ。最近の歌手の業界はややこしいんだね」
「そうなのかなぁ」
「あれはアイドル? アーチスト?」

 そのときちょうど、控室のテレビがついていて、男のシンガーズが歌っているのが聞こえてきた。

「あの空に浮かぶ雲のように
 真っ白な心でいたい
 きみさえいれば
 僕は他にはなにもいらない。
 きみとふたり、あの雲に乗って空に浮かぼう
 それだけで、僕はもうなにもいらない」
 
 五人グループはおさまりがいいのか、ラヴラヴだってフォレストシンガーズだって五人だ。他にも五人のグループはたくさんあって、たいていは男ばっかりのような気もする。女子のアイドルグループはもっと大人数だってのがなぜなのか、俺は知らないが。

 そんな五人グループのひとつ、玲瓏。「レイロウ」とは、珠のように透き通って美しいとか、珠が触れ合って立てる音のように透明で美しい音色とかいう意味だと、これまた乾さんに教わった。

「令郎ってのはご子息って意味だから、その意味も含ませてるみたいだな。玲瓏、珠のごとし、の歌声を持つ、良家のご子息集団だよ」

 全員が百八十センチ以上の長身……俺は百八十にはちょいと足りないが、身長では負けていない。
 そろって美青年……洋介はますます美形になったよ、とみんなが言うのだから、俺は顔でも負けてはいない。
 オーディションで選ばれたグループ……それもラヴラヴと同じだ。

 上流階級出身の帰国子女で英語は日本語と同じくらいに堪能。全員がガキのころには外国で暮らしていて、外国の大学で音楽を学んできた。知性と教養も一級品で、上品で折り目正しい。

 このあたりになってくると、俺は黙るしかない。悪いけど俺は高校中退だよ。両親は青森のモトヤンだよ。英語なんてぜーんぜん喋れないよ。外国には仕事でだったら行ったけど、ガキのころには東北地方だけで遊んでいた。東京にはじめて来たのは中学の修学旅行のときで、それまではもちろん、外国未経験だった。

「歌、うまいね。歌がうまいんだったらアーティストかな」
「歌がうまかったらアーティストになるのかな。フォレストシンガーズは、俺たちは芸術家なんかじゃない、ミュージシャンだって言ってたよ」
「そんなむずかしいこと言われても、あたしにゃわかんねえよ」

 歌の上手い奴は嫌いだ。昔から俺はそう思っていて、フォレストシンガーズのお兄さんたちにしても歌がうますぎてイヤミだと感じたものだ。
 どうして嫌いだったのかといえば、俺は歌が下手だから。

 ラヴラヴの他四人がお話にならないレベルで下手だったから、ポンはうまいとおだてられて本気にしていた。けれど、俺はなりたかったシンガーソングライターには絶対になれないほどに下手だ。そう思い知らされたから、歌手ではなく俳優になろうとしている。

 アクション俳優養成所に通ったりもしていたのだが、あるとき古いテレビドラマを見てはまってしまい、同好の士を発見した。同好の士、監督の香川さんと俳優のイッセイさん。俺も仲間入りさせてもらったので、そのドラマのリメイクに出演させてもらっている。アクションばかりではないドラマであり、サチコさんともその仕事で知り合った。

 でも、今でも歌の上手い奴って嫌いだ。フォレストシンガーズは別だけど、玲瓏みたいな奴らは嫌いだ。こういうのって偏見なのだろうとわかってはいても、玲瓏は嫌いだとインプットされてしまっていた。

 嫌いなもの見たさってのはあるのだろうか。玲瓏はア・カペラグループ集合ライヴに出演すると聞いている。フォレストシンガーズも出るので、ライヴの練習をどこでやるのかも知っている。俺には暇もいっぱいあるから、玲瓏を見るためだか、乾さんに会うだめだか、別に理由はどうでもいいけれど、彼らの練習場に行ってみた。

 そしたら千鶴に会った。

 佐田千鶴、「傷だらけの天使」リメイク版とは別の仕事で知り合った売れない女優だ。売れない女優にもいろんなのがいて、千鶴はサチコさんとは全然ちがう。サチコさんは三十すぎてるんだから、十九の千鶴とはちがってて当然か。千鶴はまだすれていなくて、一途に恋する少女って感じで、俺は彼女にぽーっと見とれたくなる。

 一途に恋してる相手ってのが乾さんなのだから、俺ではかないっこない。乾さんのほうは妹扱いしかしていない様子だが、いつもの調子で千鶴に遊びをしかけたりしたらきっとぶっ飛ばされる。それもあって、俺は千鶴には手を出せない。遠くから見とれているなんて、俺らしくなさすぎるんだけど。

「洋介、久しぶり」
「あ、おまえには会いたくねえんだよ」
「モモちゃんだって会いたくなんかないよっ。なにしに来たの?」
「見学」

 アイドルだったころには俺の天敵だった、フルーツパフェのモモちゃんにも会ってしまった。
 相手は女の子なのに、挑発されてカッとなって喧嘩を買ってしまい、モモちゃんに乱暴をして乾さんに叱りつけられたこともある。モモちゃんじゃなくてフルーツパフェのもうひとり、モモちゃんの夫であるクリちゃんと取っ組み合いをしろとそそのかされたこともあった。

 しかし、クリは喧嘩のできるような奴ではない。モモちゃんのほうが精神的にも肉体的にも強い。モモちゃんはまあ、今どきの女の子としてはありがちなタイプだが、クリほど泣き虫な男は珍しい。ラヴラヴのさあやあたりもたまには泣いていたが、クリほどではなかった。

 あっかんべーっだ、いーっだ、とガキみたいにモモちゃんと言い合っているうちに、千鶴の姿が消えてしまった。見回してみると、千鶴は早足で歩いてどこかに行こうとしているらしい。千鶴は小柄なほうなので、一緒に歩いているのかつきまとわれているのかの男は、悠々と彼女と歩幅を合わせていた。

「あいつ、誰?」
「あいつって? ああ、あいつ? 洋介、千鶴ちゃんに気があるの?」
「千鶴ちゃんじゃなくて、千鶴ちゃんと一緒にいる男だよ」
「んんとね……あのうしろ姿は、玲瓏の田中。洋介、なにするつもり?」
「なんにもしねえよ」
「顔が怒ってるよ。喧嘩しちゃ駄目だよ」

 うるせえんだよ、と言い捨てて小走りになった俺に、モモちゃんもついてくる。千鶴と田中が消えたほうに行ってみると、男の声が聞こえてきた。

「うちのメンバーたちが、きみのことを共有してるみたいな……そんな話を聞いたんだけど、嘘でしょう? 嘘だよね。嘘じゃないんだったら僕も混ぜてほしいなぁ、なんて。ねえ、嘘じゃないの? ほんと? 千鶴ちゃんってまったく売れてないんでしょ? お金には困ってるんだよね。そのために仕事としてやってるのかな? だったら僕もお客になってあげてもいいんだけどな、なんてね。ねえ、なんとか言えば?」

やっぱりあいつら、大嫌いだ。ぶん殴ってやりたい。
 あいつの肩に手をかけて振り向かせ、こっちを向いたところにパンチを一発。俺の本心をモモちゃんに見抜かれたらしく、先に彼女が田中に声をかけた。

「そういうのって下種って言うんだよね。乾さんにそんなの聞かれたらどうなるかなぁ。わー、こわっ!!」
「……モモちゃん。いや、冗談だよ。ってか、噂をたしかめてただけ。そういうのって売れない女優にはあるんじゃないかなぁ、いや、ないかな、ほんとなのかな、って好奇心もあってね……いやいや、ほんと、ジョークだから」

 言いながらあとずさりして、田中はダッシュで逃げていった。

「……あのひとたち、ああいうことばっかり言うの……でも、聞かれたくなかったな。そんな噂を立てられてるってだけで……モモちゃん、洋介さん、乾さんには言わないで」
「言わないよ」
「変な噂を立てるほうが最低なんだからね。千鶴ちゃんは悪くないんだからねっ!!」

 怒っているモモちゃんを、千鶴は涙のいっぱいにたまった目で見つめてうなずく。駄目だ。こんな目をしている千鶴を見ていると、俺とつきあって、なんて言えやしない。

「乾さんは来ないのかな。来たら素敵な歌を歌ってくれるのにね。千鶴ちゃん……」
「うん、ありがとう」
「よしよし。泣いてもいいよ」

 モモちゃんが千鶴の肩を抱いてしまったので、俺にできることはなくなった。
 歌かぁ。俺だってこれでもシンガーソングライターになりたいと夢見ていたこともあるのだから、作詞作曲をして歌える。ただ、千鶴に下手な歌など聴かせたくない。モモちゃんは遠慮ってものを知らないから、洋介、下手っ!! と笑いそうだし。

 ならば歌を書くだけにして、乾さんに歌ってもらえたらいいな。こんな千鶴に捧げる歌は……考えていたら、テレビで聴いたのと同じ、玲瓏の歌が聞こえてきた。

「あんな歌、聴きたくないよね。雲になりたいって、あんたらみたいな最低男に歌われたくないって、雲が言ってるんじゃない? あんたらなんか雲になるんじゃなくて、蜘蛛の巣にひっかかって食われちまったらいいんだ」
「モモちゃん、それ、それだよ」
「それってなに?」

 雲ではなく蜘蛛。俺の作る歌はそっちだ。チョウチョみたいにビジュアルだけは綺麗な奴らを、俺が毒蜘蛛になって食ってしまってやる。そんなホラーみたいな歌が、この俺の才能で書けるのかどうか、自信はないが、千鶴のためならやってやろうじゃん。

END








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