ショートストーリィ(FSいろは物語)

いろはの「せ」part2

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フォレストシンガーズ

いろはの「せ」

「世話好き」

 グループを解散してラヴラヴボーイズのポンから、本名の麻田洋介に戻った。
 アイドルなんかでいたくなかったから、俺は歌がうまいのだし、作曲だってできるのだからシンガーソングライターになれると信じて疑ってもいなかった。

「もとラヴラヴボーイズってのを売りにしたら、需要はあるわよ。ポンはまだ若くて綺麗なんだから、その気だったら私が売り出してあげる」
「アイドルとして?」
「アイドルって呼ぶには薹が立ってるかな。まだぎりぎり行けるだろうけどね」

 それでは意味がない。アイドルグループの一員をやめて、アイドルのソロシンガーに変わるだけじゃないか。

 その誘いは断って、フォレストシンガーズの本橋さんの押しかけ弟子になった。本橋さんは激しくいやがっていたのだが、親分気質で面倒見のいい彼は、俺のことも親身になってかまってくれた。
 親身になった大人には怒られたりもする。本橋さんにげんこつでごちっとやられるのはなんともないけど、説教されるのは大嫌いだから、喧嘩になったこともあった。

 あのころ、それでもフォレストシンガーズは今ほど売れていなかったから、本橋さんも乾さんも三沢さんも、俺にかまってくれた。
 シゲさんはもてる俺が気に入らなかったらしいけど、話はしてくれた。木村さんはロックライヴに連れていってくれた。

 けれど、フォレストシンガーズは徐々に徐々に売れていき、俺は近寄りがたくなっていった。
 昔は俺のほうが人気者だったのにな。フォレストシンガーズ? なにそれ? って言うひとも、ラヴラヴボーイズのポンは知っていたのに。

「……美江子さん、います?」
「はーい、どなた?」

 ここには何度も来たから、久しぶりでなつかしい気がする。本橋さんと結婚する前から、美江子さんも俺をかまってくれた。気が強くて怒ると怖いけど、優しいところもあるひとだ。

「麻田です」
「麻田って? ええ? 洋介くん? 本物?」
「合言葉、言おうか。あのとき、本橋さんが止めてくれなかったら、俺は美江子さんにフライパンで殴られてたんだよね」
「……いやーね、そんなことは忘れなさい」

 言いながら、美江子さんがマンションのドアロックを解除してくれた。

 学校のことで本橋さんに説教され、頭にきてぶん殴ってしまった。本橋さんは吹っ飛び、タンスに後頭部をぶつけて呻いていた。美江子さんも本橋さんの部屋にいて、仕返しだとばかりに俺を殴ろうとした。そんなことを知っているのは、フォレストシンガーズの関係者以外にはいないはずだ。

「久しぶりだね」
「ご無沙汰してます」

 会うのは何年ぶりだろう。二年くらいか。美江子さんは三十五歳。十二歳も年上なのだからおばさんではあるが、美江子さんさえよかったら寝てもいい……なんて言ったら本気で殴られそうなので、態度にも出さないようにしていた。

「どうぞ」
「上がっていいの? 本橋さんは?」
「今日は私だけが休みなんだけど、本橋くんがいなかったら洋介くんは悪さをするつもりなの?」
「するわけないじゃん」
「でしょ? だったら上がって」

 寝てもいい、なんて妄想は抱くが、行動に移したりはしない。俺は美江子さんにも、フォレストシンガーズのお兄さんたちにも嫌われたくないから。

 独身の本橋さんが暮らしていた部屋は、ええ? 嘘だろぉ!! ってほどに狭くてボロかった。美江子さんと結婚してマンションに引っ越して、俺はどっちにもよく訪ねていった。独身男の部屋は俺の部屋とたいして変わらなかったが、結婚した本橋さんのマンションは「家庭」って感じがした。

「洋介くんはアクション俳優養成所に通ってるんだったかな」
「そう。バイトもしてるよ。ヒーローショーの裏方とかね」
「ヒーローショーかぁ。フォレストシンガーズも昔、そういうのにも出て歌わせてもらったのよ」

 ウルトラマンの好きな本橋さん。古いなぁ、と俺が笑ったら、ウルトラマンは永遠なんだと言ってたっけ。ヒーローショーに出たら本橋さんは嬉しかったのだろうか。

「彼女はできた?」
「できないよ。俺はこんなフリーターみたいな暮らしをしてるんだから、彼女どころじゃないんだ」
「もてなくなったの?」
「もてないよ」

 嘘、今でも俺はもてる。彼女というほどの女はいないが、こっちから声をかければたいていの女の子は落ちる。俺は今どき珍しい肉食系だから、女の子と寝たくなったらナンパのようなことをして、ひとときだけ彼と彼女になるのだった。

 だけど、正直に言ったら怒られそうだから、彼女なんかいないと言う。信じていないような顔で笑っている美江子さんにお願いしてみた。

「卵買ってきたんだ。他になにかいるものがあったらお使いに行くから、美江子さんのあれ、食わせて。時々無性に恋しくなるんだ」
「卵ってことはオムライス?」
「当たり」
「そっかぁ。私のオムライスが恋しくて来たのね。いいよ、卵はもらっておくけど、材料はあるわ。ちょっと待っててね」

 素直に待っていると、なにやら刻んでいる音や、なにやら洗っている音、なにやら炒めている音も聞こえてきて、香ばしさが漂ってきた。

 ほんとは俺は彼女だと思っていた、年上のひとがいたんだよ。
 ちょっとだけ年上だと思っていた彼女に、俺はオムライスを作ってあげようとした。美江子さんに教わった通りに作ったつもりだったのに、悲惨なものができあがった。

 彼女が適当にごまかしてくれて、ふたりでオムライスを食べた。そのあとでテレビでフォレストシンガーズを見ていたら、彼女が急に言い出した。

「洋介、別れようか」
「どうして?」
「隠していたことがあるのよ」
「な、なに?」
「私、三十三だよ。洋介よりも十も年上だよ。彼氏だっているし……」

 びっくりしてしまった俺に、志保さんは言った。
 
「ごめんね、楽しかったよ」
「……志保さん」

 それだけでさよなら。どうしてだよ? 俺の作ったオムライスがひどかったから? 
 そんな理由のはずはないのに、オムライスのせいにして、だったら本物の美江子さんのオムライスが食べたくなって。

「お待たせ、できたよ」
「うわ、大盛り。うまそう。いっただきまーす」

 はしゃいでみせる俺を見て、美江子さんがちょいと首をかしげる。勘の鋭い美江子さんは、洋介、なんだか変だね、と思っているのかもしれない。

 気づいていても言わないのが大人なのか。俺だってあのころよりは大人になったのだから、美江子さん、うまいよ、とは言っても、お礼に抱いてあげようか? などとふざけたりはしない。バレたら本橋さんが怖いから、ではなくて、本橋さんにも美江子さんにも嫌われたくないから。

 こうしてふらっと遊びにきたら、オムライスをごちそうしてくれる世話好きのお姉さん、いつまでもそんな美江子でいてほしいから。たまにでいいから、甘えさせてほしいから。

END







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~ Comment ~

NoTitle

別れる理由は人それぞれですよね。
多分。年齢が理由になることはあり得ますよ。
33歳って私の年齢じゃん!!
・・・ってことはともかくとして。
その年齢になると手堅く身を固めたい・・・
・・・と思う。
だから、身辺整理をしようと・・・考える年齢でもあるような気がします。

LandMさんへ

いつもありがとうございます。
ほおほお、LandMさんはそういう年齢なのですね。
今どき、そのお年の独身男性はいーっぱいいますよね。

最近は特に男性の結婚願望が希薄らしくて、その気持ち、私にもわかる気がします。
昔のお父さんみたいに生きるには、いろんな意味でしんどいですものね。

手がたく身を固めたかったり、このまま気楽に生きていたかったり、複雑に揺れ動くお年頃かもしれませんね。
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