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花物語2017/11「ハマギクシスターズ」

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はまぎく
花物語2016

11月「ハマギクシスターズ」

 学名はニッポンナンテムム・ニッポニクム。「日本の花」という意味だと教えてくれたのは、濱田練子さんだった。濱田さんは学者だったりするのだろうか。

「マーガレットですか? ちょっとちがうみたいな……」
「ハマギクって言うんですよ」

 それだけでいいだろうに、学名まで教えてくれるとは。

 綺麗な花々が咲き乱れる、濱田さんの庭? 濱本さんの庭? 姉妹で暮らしているらしきふたりの姓はいずれも「ハマ」がつくからハマギクか。シャレがきいていて楽しい。

 旧姓は知るわけもないが、姉妹が結婚して濱本と濱田になった。夫は先に亡くなり、姉妹がふたりで暮らしている。ありふれた話なのかもしれない。都市部の住宅地では近所づきあいも少ないから、登子に詳しく話してくれるひとはいないが、そんなところだろうと推理していた。

 引っ越してきた小さな家にも庭がある。近隣の他の住人とは挨拶程度しかしないが、濱田練子さん、濱本発子さんとは花つながりで話をするようになった。

「登子さんは独身……ですか?」
「はい」

 深く詮索する気はないようで、そうですか、とだけ言って濱田さんは庭作業に戻った。
 七十代くらいなのだろうか。この年頃だとどちらが姉かどちらが妹だかはわからない。痩せていて背が高くて、外見は似ているから、どっちが練子さんでどっちが発子さんなのかもわかりづらかった。

 結婚しろしろとうるさかった母が先に亡くなると、父はめっきり老け込み、あとを追うようにして亡くなってしまった。登子と両親は公営団地暮らしだったので、節約していたせいか登子自身も貯金はたくさんあったし、両親も貯金で残してくれていた。

「マンションを買えば? お母さんもお父さんもあんたに世話してもらったんだし、私は遺産を分けてほしいなんて言わないから、あんたの老後に備えて家を買うといいわ」

 姉はそう言ってくれたので、終の棲家になりそうな家を探した。登子は五十歳にはなっていないのだから「終の棲家」にはまだ時間があるが、月日の経つのはあっという間だ。気長に探していて見つけたこの家がひどく気に入った。

 こじんまりとしていて、ひとり暮らしにも広すぎない。近隣の家とは密集しすぎていなくて空気が爽やかに感じられる。近所の人々の平均年齢は高いのだそうで、登子の大嫌いな子どもは近くにはいない。幼稚園、保育園、小学校、児童公園なども離れた場所にしかない。

 落ち着いた年代の人々が穏やかに暮らす、子どもの姿の少ない街。活気は乏しいのかもしれないが、五十代が近づいてきている登子にはふさわしい。

 通勤にも便利だし、近所の家々がガーデニングに力を入れているようで、四季折々の花も素晴らしいと聞いた。そんなこんなでここに決め、姉夫婦に手伝ってもらって引っ越してきた。
 隣の家にも現在は独身のはずの姉妹がいる。つかず離れずつきあえたらいいな。遠くの親戚よりも近くの他人というのだから、実の姉よりも隣の姉妹のほうが頼りになりそうに思えていた。


****** ***** *****


「やっぱり登子さんも、私たちを姉妹だと思ってるね」
「そうでしょうねぇ。そう思ってるんだったらそれでいいんじゃない?」
「いいよね」

 お母さんたちには常識ってものがないのかっ?!
 十年ほど前、練子の娘と発子の息子は青筋を立てて怒った。若いくせに、つまらない世間の常識にとらわれなくてもいいじゃないの、と練子も発子も同様に吐息をついた。

「どうしてもそうするの?」
「考えを変えるつもりがないんだったら、せめて遠くで暮らしてくれよ」
「せめてそうして。世間体が悪すぎて、近くになんかいてほしくないんだから」

 はいはい、そうしますよ、とうなずいて、発子と練子は娘や息子が暮らす町よりははるか遠くのこの土地に家を買い、一緒に暮らし始めた。

 練子の娘と発子の息子が結婚することになり、練子と発子が引き合わされてはじめて話した際に、ふたりにはさまざまな共通点があると知った。ともに夫を数年前に亡くし、気楽なひとり暮らしであること。夫が亡くなる前から仕事は持っていたので、ひとりになっても収入はあって子どもを育てるのにもさほど困らなかったこと。

 庭仕事が好きなこと。おまけに姓にも「濱」がつく。そのせいかたいそう気が合って、ふたりはじきに友達のようになった。夫と妻の母同士が仲良しで、一緒に旅行に行ったりしても、娘と息子が夫婦でいるうちはなんの支障もなったのであるが。

「そのうちには一緒に暮らしたいね」
「それ、いいね。仕事をリタイヤしたら家を買ってふたりで暮らそうか」

 相談がまとまったころに、娘と息子が言い出したのだ。離婚すると。
 大人なんだから、離婚しようがどうしようが好きにすればいい。夫婦には幸い子どももいないのだから、話し合いでなんでも決めればいい。私たちも好きにする、と発子と練子は宣言した。

「一緒に暮らす?!」
「そんなの前代未聞よ。やめてよ。みっともない」

 最初は反対していた元夫婦は、母たちの決意が固いと知って譲歩した。が、若いくせに頭の固い娘も息子もいまだ怒っていて、母たちの住まいには寄り付きもしないのだった。

「近所の人たちも、真相を知ったらびっくり仰天かしらね」
「いいんじゃない? 私たち、なにも悪いことはしてないじゃないの」
「そうよね」
「そうよそうよ」

 若いころのほうが世間のしがらみに縛られて、好きなことなどできなかったのだ。これからは自由に生きる。手始めのいっぷう変わった関係の女ふたり暮らしは、すこぶる快適である。庭には花々が咲き誇り、ふたりのハマさんを、ハマギクも祝福してくれていた。


END








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