ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FSソングライティング物語「A.K.I.R.A」

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フォレストシンガーズ

ソングライティング物語

「A.K.I.R.A」

1・繁之

 サプライズだかドッキリだかビックリだか知らないが、幸生のやることは心臓によくない。間を空けて、エー、ケー、アイ、アール、エーと発音されては、俺には瞬時には意味がわからなかったのもあり、毎度のごとく察したのは仲間内では最後だった。

 寒いところで育った男は背が伸びない……そんなことないだろ。乾さんも北陸育ちだけど背は高いじゃないか。
 ふむふむ、稚内生まれの男と横須賀生まれの女か。誰かと誰かみたいだけど、稚内生まれの章と横須賀生まれの幸生は両方が男だし。

 稚内の男に横須賀の女がだまされ、そいつの望み通りに女のほうからふってあげると歌う、幸生が書いたらしい歌詞はそうなっていた。

 悪い奴だな、元気出せよ、と俺だったら、女性のほうと親しかったらそう励ましてあげる。そんな奴とはさっさと別れたほうがいいよ。A……K……I……R……A……って、そいつの名前? あれれ?

「おまえが好きだと耳元で言った
 そんなアキラにだまされ
 渚にたたずむ」

 こっちはわかる。「そんなヒロシにだまされて」の名前だけをアキラにした替え歌だ。あの日のステージでは幸生はAKIRAの歌を先に歌い、替え歌をあとから披露して客席には最高に受けていた。アキラは仲間なのだから、こうやっておもちゃにしてもいいんだろうな。だけど、章、大丈夫か?

「あなたが好きだと耳元で言った
 そんなジュンコにだまされ
 渚にたたずむ」

 そして、アンサーソングを作ろうか、という提案がなされ、みんながわいわい相談している。俺は歌が書けないので、こんなときにはお茶くみだ。章はこのAKIRAの歌については不気味なまでに沈黙を守っていた。


2・真次郎

 余興なのだから説教する必要もない。名前を出された本人の章も気にしていないように見える。ファンの方には好評だったのだから、それでいいではないか。

 というふうに終わった幸生オンステージのあとで、俺がその気になった、「そんなヒロシにだまされて」いや、「そんなアキラにだまされて」のアンサーソング。もと歌は偉大なる大先輩のオリジナルなので、交渉は事務所サイドにまかせることにして、まずは歌を完成させなくては。

 三文字の男の名前は日本中にころがっている。タカヤ、アキラ、ユキオ、カズヤ、エイト、ワタル、タツミ、アツオ、マコト、セイジ、ゴロー、サダオ、タイガ、ユージ、etcetc。

 この歌の主人公の名前としては、ワタル……徳永渉。大学の同期で遊び人代表。タツミ……泉沢達巳、徳永と同類のギタリスト。アツオ……山崎敦夫、うちの社長。ゴロー……音羽吾郎、大学の先輩で性格の悪い男、などが似合うのだが、支障がありそうだ。やはりアキラが最適だろう。

 対する女の名前も三文字。

 ミエコ、キョーコ、イズミ、サナエ、ジュンコ、サオリ、メグミ、カズネ、ミヤコ、ミツミ、イチゴ、ツグミ。キョーコやジュンコは四文字だが語呂は合う。女名前のほうが男よりも三文字のバリエーションは豊富で、サナエにしたい誘惑に駆られたりして。

「文句つけるんだったら、おまえらのモトカノの名前を全部ここに書き出せ」
「リーダーの、先に書きましょうよ。えーっと、ユカリさんだっけ? それから?」
「……やめだ。やめやめ」

 ジュンコはいやだのキョーコはやめようだの、ミヤコは絶対反対だのとうるさいので言ってみたら、幸生にイヤミで切り返されて俺が負けた。ユカリって、幸生がなぜ知っている? いや、偶然だろう。ユカリなんてどこにでもある名前だ。

「美江子でもいいよ」
「性悪女の美江子にただまされ、ひとり酒場でグラスかたむけ……」
「それだったら演歌じゃない?」

 当の美江子は面白がっていたが、俺の妻の名が美江子だとは熱心なファンの方は知っているし、なによりも俺が歌いにくいので却下。


3・隆也

 だまされたことはないが、好きな女の子に翻弄された経験はある。なので、純子の名前を出されるとぎくっとする。ジュンコにしてもユカリにしても、女性の名前としては代表格ではないか。本橋も気にするな。とはいうものの、本橋のモトカノのゆかりさん、どうしてるかなぁ、なんて。

 こうして五人でソングライティングの話をしていると盛り上がる。中心になっているのは幸生と本橋で、このふたりの密談から具体的な案になっていったらしい。

「男の名前はアキラでいいだろ」
「いいんじゃないですか、な、章?」

 勝手にしろ、とでも言いたげに章はそっぽを向き、そうしようそうしようと本橋と幸生がうなずき合っている。俺にも異論はないし、シゲは、章さえいいんだったら、と呟く。シゲは鈍感だとの自覚は強く、本橋のように否定したりもしないが、気遣いも満点だ。俺としても章がなにを考えているのか、非常に気になるのだが。


4・幸生

 問題は女性名なのである。
 
 男女のデュエットふうの歌がフォレストシンガーズの持ち歌にはあるが、その場合、男っぽい声の本橋さんが男パート、俺がとびきりの女らしい声を出して女パートを歌う。今回はちょっと趣向を変えて、俺が男パート、章が女パートにしようと考えていた。

「おまえが好きだと耳元で言った
 そんなアキラにだまされ
 渚にたたずむ」

 このパートを章が、アキラにだまされ……と歌うのがポイントだ。

「おまえが好きだと耳元で言った
 そんなアキラのせいだって
 ぶりっ子しちゃって」

 だまされたのはどっちかな? というふうにストーリィを進めていく。女の名前はどうしようか。夜が更けてきても議論は果てしなく続いているのであった。


5・章

「おまえが好きだと耳元で言った
 そんなアキラにだまされ
 渚にたたずむ

 踊りが上手でうぶなふりをした
 そんなアキラが得意な
 エイトビートのダンス」

 うんうん、アキラは出てこないと格好がつかないけど、女の名前はなくてもよくないか? おまえ、で押し通す? それでもいいかな。だったらこんな感じ?
 自分の名前を歌われていると、俺は議論に入っていきにくい。

 ええい、もう、こうなったら好きにしてくれ。
 いいんだいいんだ、どうせアキラは悪い男さ。へっ!! あれ? でも……?
 
「泣いたりしても いいんだからね
 ディスコティックは 夜通し熱い
 男は泣いちゃいけない
 そんなことはないんだから
 だけどおまえはステキさ
 愛は消えない 横須賀に

 小粋なリードでおいらを誘った
 そんなおまえを許せる
 まだ愛してるから」
 
 とにもかくにも聴いてみて、と幸生が通しで歌う。ああ、そっか。後半は男目線なんだ。
 
「二人の仲は 永遠だもの
 ジュークボックス鳴り続けてる
 だから彼女に伝えて
 戻ってくるのを待っている
 俺の鼓動が激しい
 サイケな夏を横須賀で」

 女々しい奴……だけど、俺はおまえの気持ちがわかるよ。アキラ同士なんだもんな。

 
END








 
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