ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FSソングライティング物語「友に捧げる歌」

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フォレストシンガーズ

ソングライティング物語

「友に捧げる歌」

 アート・ガーファンクルの歌をカラオケで熱唱していたら、三沢幸生を思い出した。
 老後、晩年とは自称したくないが、春日弥生も六十歳をすぎたのだから、初老なのはまちがいない。平安時代の三十歳、昭和時代の五十歳と同じくらいの感覚だろうか。

「I bruise you
 You bruise me
 We both bruise too easily

 Too easily to let it show
 I love you and that's all I know」

 出会ったのは幸生が二十代、公称年齢不詳の弥生は今とあまり変わらないころで、あれから五年ほど経つ。若いころの友人同士のように、僕はきみを傷つけ、きみはぼくを傷つける、などということはない。幸生は弥生を母親のように見ていて遠慮があり、弥生は幸生を可愛いとしか思えないのだから、友人とはいっても若干ちがった関係ではあった。

「When the singer's gone
 Let the song go on...

 But the ending always comes at last」

 けれど、弥生は幸生が好きだ。ちょうどこの歌詞のように。

「Endings always come too fast

 They come too fast
 But they pass to slow
 I love you and that's all I know」

 年齢は三十歳くらいちがうのだから、順当にいけば弥生が先に逝く。幸生が先立つようなことは絶対にあってはならないが、弥生がこの世からおさらばする形での終わりは、そう遠い将来の話ではないはずだ。

「When the singer's gone
 Let the song go on
 It's a fine line
 between the darkness and the dawn
 They say in the darkest night,
 there's a light beyond」

 歌う者がいなくなっても、きみのための歌は続く。
「きみ」は弥生にとっては何人も何人もいる。プロのシンガーなのだから、ファンも含めて歌を捧げたい「きみ」は何人もいる。その中で特別に、幸生に捧げたかった。

「That's all I kn--ow
 That's all I kn-------ow...」

 気持ちよく歌い終えると、居眠りしていたのかもしれない夫が姿勢を正し、拍手した。

「さすがやなあ。弥生、歌、うまいなぁ」
「おおきにどすえ」
「って、当たり前のことやねんけど、近頃は歌の下手な歌手もおるやろ」
「そんなんも今さらやけど、おるよね。私もちょっと前までは、なんであんたが歌手になれるんよ、とか、日本の歌手の恥さらしやわ、とか思ってたけど、もう諦観してますわ」
「プロのあんたを諦観させるんやから、たいしたもんや」
「それってたいしたもんか?」

 楽器などなくてもコンピュータだけで、レコーディングができてしまう時代だ。弥生は時代遅れなのは自覚していた。
 夫とふたり、カラオケボックスの個室で飲んだり食べたりする。弥生は下戸で、夫にしても酒には強くないが、カラオケ好きなのは共通していた。

「弥生ちゃんは歌手やのに、仕事で歌って趣味でもカラオケ……ほんまに好きやねんなぁ」
「歌こそわが命!!」
「たいしたもんやなぁ」

 昔はそう言っていた夫も、今では驚きもしない。大阪でのライヴを終えて帰宅した弥生に、お疲れさん、カラオケ行くか? 晩ごはんもカラオケで食べよ、と誘う夫だ。そうしようそうしよう、と弥生も喜んで行きつけのカラオケボックスに向かうのであった。

「このごろ仕事してないな。とうとうクビになったか?」
「クビになったら養ってくれる?」
「年金でなんとかなりまっしゃろ。それより、歌わんとストレス溜まるやろ? 行こか」
「うん、行こ」

 夫婦漫才みたいな会話は、大阪の年輩の夫婦としては珍しくもない。今夜もこうしてカラオケにやってきて、ふたりで食事もしたためていた。

「歌う歌が弥生は本格派やわな。あんたのオリジナルも歌って」
「オリジナルが聴きたかったら、ライヴに来てよ」
「僕があんたのライヴに行ったら、弥生さんの旦那さんや!! いうて囲まれへんか?」
「大丈夫。私は仕事場では独身やから」
「ああ、そうか」

 それより、あなたも歌って、と甘い声で言うと、いややいやや、プロの前でなんかよう歌わん、と夫は謙遜してみせる。ミュージシャン志望だった夫は趣味でならば何種類かの楽器を演奏できるが、歌は上手でもない。中年になる前に音楽でプロになるのは断念してサラリーマンになり、現在は年金半分アルバイト半分の暮らしだ。

 歌手、春日弥生にはわりにマニアックな人気があるが、さほどに有名でもない。苗字がちがうのもあり、春日弥生の旦那さん? などとは誰も知らないだろう。春日弥生? 知らん、人種のほうが多数派かもしれない。

 仕事としてでも趣味としてでも歌うのも大好き。夫との平凡な日常も大好き。おかげで友人知人も広い広い範囲にいて、私の人生、ええもんやったわ。なんやかんやとあったけど、過去は忘れたしね、と弥生はひとり、微笑む。
 この夫と出会って結婚したことと、ユキちゃんと友達になれたことが、特にええことかもしれん。

 すこし年上やし、男のほうが平均寿命は短いから、死ぬのは夫のほうが先かなぁ。そのときには夫に捧げる歌も書こう。
 その前に、ユキちゃんに捧げる歌も書く。ユキちゃんが聴いたら、きゃっきゃっと喜んでくれるかな。じきに覚えてデュエットしてくれるかな。そうや、デュエットソングにしよう。

「……ソングライティングのほうに頭が行ってますな」
「うん」

 長年のつきあいなのだから、夫には弥生の頭がどこへ向いているのかわかるようだ。実際に横で微笑んでいる夫と、歌を聴かせたら笑ってくれるであろう幸生、ふたりの笑顔が並んで見えるようで、弥生の表情もほころんでいた。

END







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~ Comment ~

NoTitle

私もね。。。
最近は子どものころ聞いていた。
特に中学生・高校生の頃はまっていた曲グループを思い出すんですよね。
最近の音楽は聞いてないなあ。。。
歳をくったか。。。
(;一_一)

LandMさんへ

いつもありがとうございます。

高校生くらいまでに覚えた歌って、いくつになってもそらで歌えますよね。記憶力よかったんだなぁ。

最近の音楽といえば、ブルーノ・マーズあたりで止まってますよ。
まちがいなく歳です、私は。

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