ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FSソングライティング物語「TOKIO」

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フォレストシンガーズ

「TOKIO」

 抒情演歌の「金沢のひと」、乾隆也。
 本人談によるとしゃれたボサノバ「横須賀たそがれ」、三沢幸生。
 こうしかならないらしい「稚内ブルース」、木村章。

 これだけ出そろうのならば俺は東京だ。東京生まれの本橋真次郎が東京の歌を書こう。
 とは思うのだが。

「空を飛ぶ 街が飛ぶ
 雲を突き抜け星になる
 火を噴いて 闇を裂き
 スーパーシティが舞い上がる
 
 海に浮かんだ光の泡だとおまえは言ってたね
 見つめていると死にそうだと
 くわえ煙草で涙おとした」

 当時、当代一のコピーライターとの名も高き男が書いた詞だ。ものすごく時代をあらわしていて、眩暈がしそうな気がする。この歌はご当地ソングとは呼べないのかもしれないが、日本で一番ヒット曲に頻出する土地の名は「東京」。銀座や有楽町や西麻布や道玄坂といった地名も含めると、他の追随を許さないらしい。

「二位はどこだ?」
「大阪ですね。京都、長崎あたりが続き、神戸は意外に少なく、中部地方と四国はきわめて少ないようです」
「ご当地ソングの嚆矢ってのは?」
「柳ケ瀬ブルースです」
「柳ケ瀬って岐阜だろ。中部地方だよな」

 専門は昭和歌謡、なのだから専門家といっていい大学の後輩、大河内からレクチャーを受ける。彼は幸生がキャプテンだった年に我が母校の合唱部に入部してきたのだから、俺とは在籍がかぶっていない後輩だ。通称はダイちゃん、俺よりは五つ年下だが、老けて見えるので俺のほうが年下に……は見えないだろう。タイプこそちがえ、俺も老けて見えるタチらしい。

 ご当地ソングの話題を肴に酒を飲む。乾と幸生と章が、故郷の名前をつけた歌を書いたんだよ、とも話す。となると、俺は東京だよな。東京の歌はありすぎてやりにくいんだよな。

「横須賀はかなり多いですし、有名な曲もけっこうありますけど、金沢も意外にないんですよね。稚内というと……」
「氷雪の門って稚内が舞台だろ。章が言ってたよ」
「ああ、そうでした」

 スマホでカンニングはナシだぞ、と言いつつも飲む。
 と、俺のスマホにメール着信があった。カンニングじゃないからな、とダイちゃんに断ってメールを開くと、桜田忠弘からだ。スマホだと着メロは流行らないんだってな、寂しいな、とダイちゃんに話しかけながら文面を読んだ。

「明日、俺の地元でイベントをやるんだ。チャリティイベントだよ。
 地元といっても田舎のほうではあるけど、富山県だ。乾は隣の県の出身だからノーギャラで出演依頼をしてみたんだけど、明日は本橋以外は仕事があるんだってな。

 どう? ノーギャラで来てくれない?
 交通費もそっち持ちだけど、うまいものもあるし、明日は天気がいいみたいだから気持ちもいいと思うよ。
 来られるんだったら返事はいいから、直接頼む」

 場所と開始時間も書き添えてあった。

「桜田さんからなんですか? 桜田忠弘とメールのやりとりって、すごいですよね」
「すごい……かもな」

 デビューしてから五、六年の間と比較すれば、たしかに隔世の感はある。フォレストシンガーズはデビューしてから十一年になるのだが、俺が三十になるくらいまではほぼ無名だった。
 二十八くらいの俺、今の俺くらいの年だったはずの桜田さん。当時だったら、俺たちは遠くから桜田忠弘を見て、あんなふうになれたらな、と思っているだけだっただろう。

 現実には桜田さんは気さくに俺たちにも声をかけて、きみらはいいものを持ってるんだからきっと売れるよ、と励ましてくれたが、精神的には憧れたり羨んだりしていただけに近い。

 そんな大スターとこうして友達づきあいのようなことができる。桜田忠弘と本橋真次郎が親しくしていると、すげぇと言われる。昔だったら、俺を誰だか知っていながら、お、桜田くん、新しいマネージャー? 付き人? などとイヤミを言う輩もいた。

 しかし、本橋さん、すげぇと言われるということは、俺のほうが格下だと言われているようなものだ。桜田さんには誰も、フォレストシンガーズと知り合い? すげぇ、とは言わないだろう。ま、そうではあろうが。

「富山のイベントですか。本橋さん、行きます?」
「気分転換にもなりそうだし、誘ってもらってるんだから行こうかな」
「僕もお供していいですか」
「いいよ。富山までの飛行機のチケット、手配してくれたら俺が金は出すから」
「……ええ? 悪いなぁ。いいんですか。では……」

 まったくスマホってのは便利だ。こんな時間なのに、急なことなのに、明日は土曜日だというのに、ダイちゃんはスマホで飛行機の予約をした。イベントに参加するお客さんたちは、夜行バスで今夜から現地に向かっているひとが多いらしい。

 酒はほどほどで切り上げて、翌日早く、ダイちゃんとふたりして富山空港へ飛んだ。

「よっ、本橋くん、来てくれたんだ」
「返事はいらないとメールで言ってらしたから、直接来ました。紹介します。俺の学生時代の後輩で、音楽評論家の大河内くんです」
「はじめまして」
「評論家なんだ。専門家なんだね。じゃあ、このイベントの紹介記事を書いてよ」
「はいっ!! 喜んでっ!!」
「どっかの居酒屋の店員みたいな台詞だな」

 音楽関係者ではなくても、桜田さんにこんな頼みをされたら張り切るだろう。桜田さんの人徳なのか、居酒屋の店員みたいだとの言い方もイヤミっぽくはなかった。

 ダイちゃんは桜田さんのそばに残し、俺はイベント会場を歩き回る。五箇山近くの広々とした場所で、地元の若者たちが主催しているらしい。桜田さんは賛同者で協力者ではあるが、表立っては名前を出していない。なので、彼の名では人は呼べないのであるらしく、それほどの大盛況でもないようだ。

 グルメ、販売、音楽、パフォーマンス。俺たちが売れないころによく呼ばれた、町おこしイベントのような、学園祭のような、なつかしい雰囲気ではある。

「本橋さん、あとで歌ってほしいって、桜田さんからのご要望ですよ」
「もちろん、歌いますよって伝えてくれ」
「了解。それまでは自由にしていて下さいとのことです」

 本人ではなくダイちゃんからのメールに返信して、なおも歩き回っていると腹が減ってきた。富山県B級グルメ!! とのぼりが立っている屋台を覗いてみる。俺の舌は高級ではないのでB級のほうが口に合う。白エビバーガーってのを買ってみた。

「……あの……」
「あとでね。しっ!!」

 売り子は可愛い若い女の子で、俺が秘密めかしてしっ!! と言うと頬を染めた。会場を歩いていると、時々はこんな目で見られる。俺を知ってくれている人もいるんだと思うと、自己顕示欲も満たされた。
 そのくせ、騒がれたくはない。人間ってのは勝手なものだ。

 白エビバーガーと缶コーヒーで早めの昼飯にする。あとで白エビかき揚げどんぶりってのも食いたいな。揚げ物ばっかりだな、と苦笑いしつつ、景色のいい場所でバーガーに食いついた。うん、なかなかうまい。B級でもC級でも低級でも、うまければいいではないか。

 若いころからひとり旅が好きで、あちこちほっつき歩いた。フォレストシンガーズとしてデビューしてからは、仕事で日本各地に出向いた。近頃は日本全市踏破ツアーに挑戦中でもある。

 そんな俺は、けれど、東京っ子だ。
 自然の真っ只中にいて都会を想い、俺の故郷の歌を作るのもいい。緑に包まれた山を見てから目を閉じて、東京の夜景を思い起こしてみた。

END








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~ Comment ~

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乾さん、ユキちゃん、章くんが作ったご当地ソング聞いてみたいです(笑)
ご当地ソング、横浜が結構多い気がします。京都はあんまりないような……。
地方にきて作った東京の歌ってのも発想がよくて面白いですね♪東京の人は故郷がないみたいな話を以前聞いたことありますが、最近は東京生まれ東京育ちの人も増えてきて、必ずしも故郷=田舎って感覚が薄れてきている気がします。

富山は友達がいたので一回だけ行ったことあります!
白エビが有名なのですね…しらなかった…。

あ、やっと手が空いたので描かせてもらう約束していた子たちを描きたいと思います!
えっと誰だったかな……その子たちが出ているお話あったら教えてください!

たおるさんへ

コメントありがとうございます。

私もフォレストシンガーズの自作歌、聴いてみたいです。
たまに夢にそれらしき人が出てくるんですけど、謳ってくれたことはないですね。

三代続いてこそ江戸っ子なんて言いますけど、東京生まれの東京育ちは生粋の東京人ですよね。
私の知り合いにもいますが、関西人とは笑いのツボが違い、感覚もちょっとちがう気がします。

富山には去年の春に行きました。
金沢は隆也の出身地ですので私の中には特別感があるのですが、富山には行ったことがなかったので楽しかったです。
白エビとますの寿司、おいしかったですよ。
あと、ブラックラーメンっていうのも名物でした。

イラスト、描いていただけるのですね。
嬉しいなぁーー。

http://quianred.blog99.fc2.com/blog-entry-329.html

この「21century boy」の主人公、パールと、燦劇の仲間たちを描いていただけると嬉しいです。
パールだけでも、もちろん、他の誰かと一緒でも。
パールと乾隆也とかってのも楽しそう。

なんて、夢が膨らみます。
楽しみです。

それから、もうひとつのブログに猫の小梅の写真をアップしています。
あっという間に大きくなって、来月には避妊手術です。仔猫の季節なんてほんの三ヶ月くらいですよね。

http://quianred.blog99.fc2.com/blog-entry-329.html
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