ショートストーリィ(花物語)

花物語2017/9「アレチヌスビトハギ」

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2017花物語

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2016/11「胡蝶蘭」の続編です


9月「アレチヌスビトハギ」

 忘れたころに呼び出されて遊びにつれていってくれる母方の祖父、渡辺壮造。遊園地や外食に連れていってくれるのは嬉しかったが、海那としてはだんだん、祖父に会うのが苦痛になってきていた。

「マリちゃん、おじいちゃんからのお誘いよ」
「……いやだなぁ、行きたくないな」
「行きたくないの?」
「行きたくないよ」

 父方の祖母に言われてはじめて難色を示したのは、海那が十歳くらいのときだっただろうか。そんなこと言わずに、連れていってもらいなさいな、と祖母に諌められて、海那は渋々祖父の呼び出しに応じた。

 お母さんは事情があって海那を残して出ていったの、母がいないことについては海那はそれだけしか知らされていない。父が海那とともに自分の実家に戻ったので、海那を育ててくれたのは主に父方の祖母だ。父方の祖父にはたまさか遊んでもらう程度で、父もあまり海那とは関わろうとしなかったが、優しいおばあちゃんが好きなので、海那は特に寂しいとも感じなかった。

「ディズニーランドに行こう」
「ディズニー? うん、行く行く!!」

 自分では理由も判然としないまま、いつしか好きではなくなっていった壮造だが、ディズニーランドとなると胸が躍る。壮造は孫娘を連れて意気揚々と地下鉄に乗り、ディズニーランドって千葉県じゃなかった? と首をかしげている海那を、ビルの屋上に連れていった。

「トクトク屋スーパーマーケット、デズニーランド」

 特設会場のようなものができていて、そこにはそんな看板がかかっていた。しょぼいスペースに、微妙に本物とはちがったディズニーキャラたちがいた。

「ディズニーじゃないじゃん。デズニーって書いてあるよ」
「同じようなものだろ。ほら、マリーナ、こっちにおいで」
「やだよ。こんなだっさいのいらない」

 思春期の入口あたりに到達していた海那は、微妙に本物とはちがっているという貧相さが我慢できなくて、壮造の手を振り払った。

「おまえが行きたいと言ってたから、連れてきてやったんじゃないか」
「私は本物にだったら行きたいって言ったけど、偽物のださいデズニーになんか行きたくないのっ!!」
「変わりないだろ」
「変わるよ」
「……待ちなさい、マリーナ。こら、待て」

 引き留めようとする壮造を振り切ってエレベータに乗る。壮造も必死で追いかけてきて、エレベータの中でもビルから出てからも怒り続けていた。

「まったく生意気な。やっぱりあんな父親とじいさんばあさんに育てられたのがまちがいだったんだな。俺は反対だったんだけど、どうしてもおまえを引き取るとじいさんばあさんが言い張るんだ。まったく、おまえの親父は女房に浮気されて家出されるような甲斐性なしだし、そんな男に育てたじいさんやばあさんもろくでもない。そんな奴らに育てられたら、俺のたったひとりの孫がこうなっても無理ないんだ」

 十歳にはわかりづらい言葉であったが、いくつかのフレーズが胸につきささった。

 二度とあのおじいちゃんとは会いたくない!! と祖母に宣言したものだから、祖父母が壮造と話し合ってくれた。喧嘩のようになって、あんな躾の悪い娘とはこっちも会いたくもない!! と壮造も言ったらしい。

 それから情報収集をした。あちこちから聞こえる噂をつなぎ合わせ、壮造の台詞を思い起こし、中学生になるころには海那もおよその事情を把握した。

 壮造の娘である則子が十七歳、各子が十六歳の年に、壮造の妻であり姉妹の母である女性が亡くなった。則子は高校を中退して主婦になり、各子は同じく高校を中退して遊び人になった。家出をして何人もいた彼氏の住まいに転がり込んだり出ていったりしていた各子は、あるとき妊娠に気づく。

「あんたの子だよ、結婚しよう」
「え、えーっ?!」

 気の弱い男はさからえず、両親に各子を引き合わせた。その男が海那の父である。

「申し訳ございません。うちの息子がおたくのお嬢さんを……息子と各子さんを結婚させて下さい」
「できちまってるんだからしようがないわな」

 取り急ぎ、屋形和夫と渡辺各子は結婚し、海那が生まれた。

「海ってマリンって読むの?」
「読むよ。知らないの?」
「知らないけど……そしたら、海那ってマリンナって読むんじゃないの?」
「マリンナなんて変だから、マリーナだよ」
「マリナのほうが可愛くない?」
「駄目っ!! マリーナ!!」

 母の言い分が通り、海那と書いてマリーナと読む名前になった。

「お父さん、お母さん、各子がマリーナを置いて出ていっちゃったよ」

 父が娘を抱いて両親に泣きついたのは、海那が一歳をすぎたころらしい。父方の祖父母と母方の祖父の壮造が話し合い、海那は父とその両親に育てられると決まった。

「きゃああ、マリーナ?! やだ、おばさんになっちゃって!!」
「どなたですか?」
「忘れたの? あんたの親だよ」

 どの面下げて今さら娘に会いにこられるんだ、ではあったのだが、記憶にはまったく残っていない母が来てくれたのは嬉しくなくもない。焼肉屋でビールで乾杯してから、母は言った。

「うちの父さんとは長く会ってないんだってね」
「二十年くらい会ってないかな」
「そうみたいね。あんな生意気な娘に育ったのは、屋形のじいさんばあさんのせいだって父さんは言ってたよ。そしたら、マリーナは伯母さんにも会ってないの?」
「母さんの姉さん? 話には聞いたけど、会ったことないな」

 くっくと笑いながら、母が話した。

「姉ちゃんってのは私よりひとつ年上だから、五十一になったのね。その年で結婚したんだってよ」
「ふーん。初婚?」
「そうなの。えーっと、マリーナは何歳だっけ?」
「三十二。独身。悪かったね」
「悪いったってしようがないけど、そっか、そしたら……姉ちゃんが結婚した奴はマリーナよりも年下だよ。二十八だって」
「え? ええ? どういうこと?」
「どういうこともこういうことも、姉ちゃんは五十になって二十八の男と結婚したんだよ。すごいよね。やるよね」
「……」

 その話を聞いたときから、海那は伯母の夫に興味を持っていた。
会いたいけど、会いにいくのも変かな。なにか機会ができないだろうか、そう考え続けて数年。ようやくチャンスがめぐってきた。

 年下の伯父。義理の関係なのだから、昔だったらそういうのもよくあったのかもしれない。けれど、五十歳と二十八歳の夫婦は珍しいだろう。逆ならばまだしも、伯母とその夫は妻のほうが二十二歳も年上なのだから、週刊誌かワイドショーのネタにでもなりそうだ。

「はじめまして」
「マリーナさん。お話は聞いていたんですよ」

 こちらとしても話しだけは聞いて、マリーナは間野次郎についての妄想をふくらませていた。
 貧相な小男だとか、人外魔人みたいな巨漢だとか? ニートだとか? そういうのでもなければ、二十八が五十と結婚しないよね。

 まして、則子伯母は清掃パートをしている太目のおばさんだと言うではないか。母の話によるとぽっちゃりしていて若くは見えるらしいが、太ったおばさんが若く見えたって可愛くもなんともないとマリーナは思う。五十が若く見えたところでたかだか四十代だろうし。

 その上に則子にはあのじじいがついている。マリーナにとってはデズニーランドの想い出とつながる、最悪のじじいだ。あんなのと同居するとなれば、則子が二十八で次郎が五十でも次郎のほうから断られるのではないか。

 なのに、次郎はマリーナの妄想を裏切ってくれた。
 髪が薄いせいで老けて見えるとはいえ、清潔感もあって悪くないルックスをしている。細身で長身。アメリカ帰りのエリートサラリーマン。最近は大学で講師もしているのだそうで、収入もかなりいいらしい。

 しまったな、もうちょい早く会っていたら、私が誘惑してやったのに。マリーナは後悔していた。
 が、マリーナももう四十をすぎた。伯母や母譲りなのか太目で、独身のわりには若々しくもない。おばさん体型のせいか、次郎には言われてしまった。

「マリーナさんとうちの奥さんが一緒にいたら、姉妹に見えるでしょうね。則子さんは若いですよ」
「失礼ね」
「そうですか?」

 こういうところがもてない原因で、そんなにも年上の女としか結婚できなかったんじゃないの? マリーナは内心で言った。次郎はデリカシーがなさすぎる。

「へぇぇ、面白そう」
「面白そうだと思う?」
「うん、やってみてもいいよ。私も暇だし」

 五十をすぎて若く見えても無意味だが、世間には本当に驚異的に実年齢よりも若い女がいるものだ。マリーナの高校時代の後輩、ノアンがその代表格である。

 同じ高校とはいえ、マリーナは成績がよくはなかったので短大にしか進学できず、卒業して一般企業の一般職に就いた。ノアンは理系一流大学から大学院に進み、マリーナの勤務先の親会社である一流企業で研究職に就いている。高校時代はそう親しくしていたわけではないが、三十代になってから再開して仲良くなった。

 性格はよくないが、欠点などは霞んでしまうほど、ノアンはすべてに非の打ちどころがない。美人でプロポーションもよく、学歴も収入も最高だ。その昔、男は三高でないともてないと言われていたが、現在の女は三高だとむしろ結婚から遠ざかる傾向がある。よって、ノアンも四十をすぎて独身なのだった。

 高身長、高学歴、高収入の美女は、マリーナのお遊びに乗ってきてくれた。

「話は合うのよ」
「そうだろうね。で、何歳の設定にしたの?」
「三十四」
「十分、ノアンだったらそのくらいに見えるよ。二十九でもよくなかった?」
「だけど、間野さんってあまり若い女には興味なくない? 三十四くらいがいいんだよ」
「そうかもね。で?」
「五十って言ったほうがよかったかもね」
「そうなの?」

 つまり失敗? ノアンは苦笑して言った。

「しまいにははっきり迫ってみたんだけど、ごめんなさい、僕は妻を愛しているんです、だーって」
「……信じられない」
「でしょう? 腹が立つから別の友人をそそのかして口説かせてみたんだけど、結果は同じだったよ」
「へぇぇ……本気であのばばあを愛してるのか」
「なんだかね、私、むしろ感激しちゃったわ。そんな男もいるんだね」

 これだけの美女に恋のゲームを仕掛けられて、その気にならない男がいるのだろうか。ひょっとしたら間野次郎は……?
 いや、そんな悪しき想像をするのはよそう。男なんて……と失望するしかない人生を送ってきたマリーナの義理の伯父は、高潔でストイックないい男なのだ。そう思っておいたほうがいいではないか。

 この世にはそんな男もいるんだな、と感嘆しようとするマリーナの心の裏側に、そんな男がなんであんな伯母の夫なんだよっ、との黒い感情が忍び込んでくる。そんなことを考えるもんじゃないよ、マリーナ。あのおばさんにだっていいところもあるんだよ。と、否定しようとしても止められなかった。

END







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