ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FSソングライティング物語「MAN OF MIE」

 ←FS超ショートストーリィ・四季のうた・全員「四季の女」 →FS超ショートストーリィ・四季のうた・幸生「秋の実」
フォレストシンガーズ

ソングライティング物語

「MAN OF MIE」

 金沢、横須賀、東京、歌詞に出てくるとたいへんにかっこいい。
 稚内、高知、宇都宮、まぁ、「稚内哀歌」だとか「恋するよさこい橋」だとか「宇都宮の恋人たち」だとか、おさまりは悪くない。

 その点、三重県北牟婁郡ってのは……同郷の方々に悪いので具体的には言わないが、シゲらしい出身地だね、と言われるのもあって俺にとっては大好きな故郷だが……ま、いいか。俺には歌なんか作れないんだから。
 歌詞も作れない、曲も書けない俺だから、故郷の地名を冠してもさまにならないところの出身なのかな、と考えておくことにしよう。

「あいつ、無礼なんだよな」
「おまえにだけは言われたくないってよ、章」
「……幸生はうるせえんだよっ」

 この木村章に無礼だと言われた男、ハッピィプロジェクトの荻原。彼が乾さんに、演歌を書いてほしいと依頼にきた。乾さんの書く歌には古臭い匂いがしていい、と言ったのだそうだが、褒めてはいないよな? 章だったら激怒して追い返しそうだが、乾さんは人間ができているので依頼を受けた。

 そこからはじまった、「ふるさとの歌を作ろう」フォレストシンガーズ内キャンペーン。

「俺は「横須賀たそがれ」を書くんだ」
「幸生、それ、ぱくりだろ?」
「タイトルはぱくってもいいんだよ。ぱくりってか、リスペクトソングね。「そんなアキラにだまされて」ってのも同じだろ。章は?」
「稚内ブルース」
「本橋さんは?」
「俺は……「TOKIO」でいこうかな。いっそリスペクトソング特集にするか」
「そしたら俺も、「金沢の花嫁」なんてのも作ろうかな」

 詞も曲も作れる仲間たちは盛り上がり、俺はひとり、話の輪の外にいた。

「シゲくんは「宇都宮の夜」って歌を書いてよ」
「俺は「月の桂浜」にしようかな? 「月の法善寺横丁」ってあるだろ」
「ヒデくんも参加するんだ。わぁ、楽しみ」

 気を使ったのか、美江子さんがそう言ってくれたが、マネージャーである美江子さんの故郷は歌にしなくてもいいのだから、俺はやはり無関係みたいなものだ。

「シゲさん、元気なくないですか?」
「モモちゃん、おはよう」

 スタジオに集合した、ヒデも含めての仲間たちがソングライティングの話題で盛り上がっている。俺は参加しにくいので外に出たら、フルーツパフェのモモちゃんに会った。

「奥さんと喧嘩でもしました?」
「喧嘩はしてないし、元気なくもないよ。モモちゃんは仕事は?」
「モモちゃんはクリちゃんと喧嘩したんで、今日は休みなんですけどお兄さんたちに慰めてもらいにきました」
「そっか。だったら俺がうまいものをごちそうして慰めてあげるよ」
「わーい、やったー!!」

 栗原桃恵と栗原準、二十代はじめの夫婦デュオは、我々と同じ事務所所属の後輩だ。か弱い植物……いや、植物ってのはか弱く見えて実は強いのだから、イワシみたいと言ったほうがいいのか。イワシは「鰯」と書くのだから、クリは鰯男なのかもしれない。

 そんな夫を持つモモちゃんこそが、それほど強くは見えないが強くあろうとがんばっている、草花のようにけなげな女の子だ。俺は古いと言われようとなんだろうと、夫が妻より弱くてどうする、と歯がゆく思ってしまう。

 ファンの男にからまれているモモちゃんを助けもできずに震えていたというクリ。そばを通りかかった乾さんが助け舟を出してファンには引き取ってもらい、そのあとでクリを叱って頬を張り飛ばしたと聞いた。クリはモモちゃんに抱かれて泣いたとか……なんと情けない。

 あんな亭主がいたら喧嘩もしたくなるよな、恭子、俺はクリよりはよっぽど強い夫だよな? 横でクリがいかに情けないかを話しているモモちゃんとふたり、よく来る喫茶店に入った。

 小柄でほっそりしてはいるが、モモちゃんは高校時代はソフトボール選手だったのだそうで、野球好きの俺とは話も合う。こう見えてけっこうよく食べるモモちゃんはパンケーキセットとサラダ、俺はハンバーガーセットを注文して、早めのランチにした。

「モモちゃんも作曲、してみてるんですよ」
「クリも作曲はするんだっけ?」
「しなくはないけど、作曲してみては、木村さんみたいにかっこいい曲はできないとか、乾さんみたいな深みのある歌詞は書けないとかって落ち込んでるの。当然じゃん」
「どうして当然?」
「乾さんとは人間の深みがちがうんですから」
「……深みかぁ」

 ずきっと刺さったモモちゃんのひとことを頭を振ってはじき飛ばし、ハンバーガーに噛みついた。

「人間の深みって、その人の作品にあらわれるんじゃない? 木村さんの人間性はともかくとして、乾さんや本橋さんの大きな器は書く曲や詩に出てきてると思うの」
「深み、器ね」
「そうですよ。クリちゃんなんてガキなんだもん。深い詩や曲は書けなくて当然なんだよっだ」
「若くてもいい詞や曲を書くソングライターっているよ」
「それはもともとの人間のできがちがうんじゃない?」

 いちいちずきずきずきっ、とくることを言う子だ。

 喧嘩をしたのだからクリを罵りたいのだろう。モモちゃんはクリのことを言っているのであって、深くても浅くても詩も曲も書けない俺にあてこすっているわけではない。わかっていても俺のほうこそ落ち込みたくなった。

「モモちゃんはどんな曲、書いたの?」
「ちょっとだけね」

 口ずさんでくれたメロディは、モモちゃんの可愛い声とあいまってとても可憐で、俺にはいい曲になりそうに思えた。

「いいんじゃない?」
「全然です。どこかで聴いたようなフレーズでしょ」
「そうかなぁ」
「でもね、モモちゃんだってミュージシャンなんだから、作曲くらいできなくっちゃね。作曲もできないミュージシャンなんて、そんなの音楽やってるって名乗る資格はないのかもしれないって思うの。歌うだけだったらカラオケでもいいんだもん。作詞は日本語の読み書きができたらできるけど、曲を書くってそうはいかないでしょ。素敵な曲を書いてみたい。そうできてこそ本物のミュージシャンだよね」
「う、うん、そうだね」

 十も年下なのに、俺よりはよほどしっかりしていると思われる、モモちゃんのミュージシャン論を聞かされて、しっかり食べてスタジオに帰ると、仲間たちはまだ作詞作曲話を続けていた。

 しようがないからお茶でも淹れようかな。
 コンビニでスナック菓子、買ってきましょうか? 幸生じゃないけど、そんなシャレでも言って笑うしかない。ソングライティングの話題になると俺は入れないのが昔からだから、慣れてるけどさ。

「友がみな、我よりえらく見ゆる日よ、花を買いきて妻と親しむ」

 乾さんに教わったこんな短歌が浮かぶ。そうだ、今夜は花を買って帰ろうっと。

END








スポンサーサイト



【FS超ショートストーリィ・四季のうた・全員「四季の女」】へ  【FS超ショートストーリィ・四季のうた・幸生「秋の実」】へ
  • Tag List 
  •  * |

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【FS超ショートストーリィ・四季のうた・全員「四季の女」】へ
  • 【FS超ショートストーリィ・四季のうた・幸生「秋の実」】へ