ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FSソングライティング物語「トウキョウ・シティ・セレナーデ」

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フォレストシンガーズ

ソングライティング物語

「トウキョウ・シティ・セレナーデ」

 遠くに島影が見える。目を閉じれば、潮風と心地よい空気を感じる。隣にあのひとがいたら最高なのに。ううん、あのひとがいたのは去年のことでしょ。今年の夏はきっと別の彼女ができて、その女性と海で愛をささやいてるよ。私も早く新しい恋をしなくちゃ。

「気持ちいいね、海は」
「うん、そうね」
「どこから来たの?」
「東京」

 心の隙間にするっと入ってきた、新しい恋の予感?

「へぇぇ、東京かぁ。さすが、都会の女? 名前はなんていうの?」
「山田美江子」
「美江子ちゃん……名前はあまり東京っぽくないね」
「東京っぽい名前ってどんなの?」
「サギリとか……」
「サギリってキミのモトカノの名前?」

 初対面なのに話が弾んで、連絡先を交換した彼。本当に好きで好きでたまらなかった人に捨てられてから半年がすぎて、新しい恋がしたいと思っていた矢先だったから、私も突っ走ってしまった。

「俺は群馬県出身だけど、アパートは東京だから」
「私も出身は栃木だよ。だから名前は都会的じゃないんだよね」
「そんなのどっちでもいいけどさ」

 夏休みが終わったら東京で会おう。義実と名乗った彼と約束した。

「美江子ちゃんは大学生なんだろ。なんの勉強してるの?」
「教育学部だから、二年生になってからは教育についてのあれこれを学んでる。どっちかっていうと文系かな。義実くんの学校は?」
「……ごめん、俺、学生じゃないんだ。今日は正直に言おうと思って、美江子ちゃんの学校のことを聞いたんだよ」

 高校を卒業して就職するために東京に出てきた。しかし、仕事がつらすぎて夏にはやめた。二十歳だと言っていた義実くんは本当はまだ十八で、秋には再就職するつもりで夏場は海辺でバイトしていたのだと打ち明けた。

「シンガーソングライターになりたくて、そういう仕事を探してるんだよ。すぐには無理だろうから、ちょっとでも音楽的な仕事、美江子ちゃんには心当たりはない?」
「ライヴハウスの従業員とか、音楽スタジオで働くとか?」
「そういうの、どうやって探すの?」
「求人情報誌に載ってないかな」
「下働きみたいな仕事で、俺の音楽性を認めてもらえることはあるんだろうか」
「義実くん、歌は書けるの?」

 当然だろ、との答えだったから、当然、どんな歌? 聴かせて、とお願いした。

「Once in your life you will find her 

 Someone that turns your heart around 

And next thing you know you're closing down the town 

 Wake up and it's still with you 

 Even though you left her way across town 

 Wondering to yourself, "Hey, what've I found?"」

 あれ? この歌、知ってる。私は訝しい気持ちで義実くんを見返す。彼は得意げに言った。

「英語の歌なんかきみは知らないだろ。実は俺もよくは知らないんだよ。モトカノのサギリが作詞してくれたんだ。彼女は中学生のときから留学してて、英語で詩が書けるほどの英語力だったんだよね。俺は英語の歌なんてひとつも知らなかったから、尊敬しちゃったな。メロディも半分はサギリが教えてくれたんだ」
「そう? 義実くんもこの歌は知らなかった?」
「俺の中から半分は出てきた歌だもん。それまでは知らなかったよ。いい歌だろ」
「うん、そうだね」

 既成の歌だとも知らないで、俺が作った歌だ、半分はモトカノに協力してもらった、なんて言うのね。なんだか哀れに思えてきた。

「ミエちゃん、彼氏ができたって言ってただろ? 彼とは最近はどう?」
「海辺の恋は蜃気楼みたいなものだったのよ」
「……ああ、そっか」
「乾くん、ニューヨークシティセレナーデを歌って」
「いいよ」

 歌唱力も乾くんのほうがはるかにはるかに上。あれれ? でも、ちょっと歌詞がちがわない?

「When you get caught between the Moon and Tokyo City 

 I know it's crazy, but it's true 

 If you get caught between the Moon and Tokyo City 

 The best that you can do ...... 

 The best that you can do is fall in love」

 TOKYOバージョンです、と乾くんが言い、私は納得した。 

 夕方の海辺で出会った彼は、潮風の中で爽やかな好青年に見えた。彼のほうは私を都会の女だなんて勘違いして、日常生活に帰ってからデートをしたら、お互いがっかりして。

 そういうことにしておこう。プライベートなつきあいについては、乾くんにだって本橋くんにだって、女友達にだって詳しくは話したくない。去年のあのひとは合唱部の先輩だったから、乾くんも本橋くんも彼との触れ合いがあったけれど、義実くんは身近なひとではないのだから。

MIE/19/END









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