ショートストーリィ(しりとり小説)

175「イミテーショントーク」

 ←FSソングライティング物語「鳥の歌」 →FSソングライティング物語「トウキョウ・シティ・セレナーデ」
しりとり小説

175「イミテーショントーク」


 両親の方針で、亜湖は単身で帰国して日本の大学に入学した。日本人って真面目なんだろうな、話しは合うだろうか、と亜湖は漠然と懸念していたのだが、案ずるより産むがやすし、であって、学校で友達は大勢できた。

「シンガポールにいたの? 私のパパは外交官で、子どものころにはあっちこっちの国で暮らしたんだ。亜湖とは似てるかな? 私、真織、よろしく」
「よろしく」

 法学部の優等生。英語は当然、ドイツ語とロシア語が堪能で、スキーはプロ級の真織と亜湖ではスケールがちがっていたが、誘われてウィンタースポーツサークルに入部した。真織のほうが一年上なので先輩ではあるが、私たちの感覚は日本人じゃないんだもん、マオでいいよ、と真織が言った。ひとつくらい年上だからってへりくだる習慣はないのは亜湖も同様だったので、マオ、アコと呼び合うようになった。

 二年生ながらウィンタースポーツサークルでは中心人物で、ファンクラブまであるスターの真織。彼女の妹分だと周囲からも認められるようになると、二年生女子たちが亜湖を仲間に入れてくれるようになった。

 華やかな女の子たちの周りには、華美な仲間たちが集まる。亜湖はさほどに美人でもなかったのだが、美人集団にまぎれて悪目立ちするような冴えないルックスでもない。むしろ美人に混ざっている亜湖も美人、とみなされるようになっていった。

「マオ、その髪型よりもこれ、よくない?」
「どれどれ? それは嫌いだ。私は今のまんまでいいんだよ」
「いっぺんためしてみたらいいのに。こんな大胆な髪型、マオにしかできないよ」
「いやだね」

 いつだって話題の中心には真織がいる。ひとりの女の子が雑誌を開いて、似合うよと勧める髪型を、真織は遠慮なく拒否した。

「そうかなぁ。徳武さんだってこのヘアスタイル、いいなって言ってたのに」
「徳武の趣味に合せて髪型を変えるつもりはないから」
「そっかぁ。そんなことしなくても愛されてるんだね。マオ、うまく行ってるんだ」
「むこうはうまく行ってると思ってるんだろうけど、飽きてきたかも」
「うわぁ、あんなこと言ってるよ。マオが飽きたんだったら私がアプローチしていい?」
「いいけど、サッコは徳武のタイプじゃなさそう。太目は嫌いだってよ」
「……そ、そう……」
「ああ、めんどくせっ。亜湖、あっち行こ」

 二十歳前後の女の子は美人であっても、太目だと言われると気分が地に落ちる。知ってか知らずか真織はサッコに痛烈な毒舌を浴びせてその場から去って行った。
 それでも真織は女の子たちに嫌われない。マオは特別だとみんなが思っているようだった。

「徳武さんとは別れたの?」
「うるさいからふってやった」
「もったいなーい」
「あんたらもうるさいね。ほっとけよ。亜湖、行くよ」
 
 また別のある日、真織は女の子たちに囲まれて彼氏の話をしていた。徳武という名の四年生はアパレル会社社長令息で、ルックスも相当によい。真織が入学してきたときには徳武には彼女がいたのだそうだが、彼女をふって真織に猛アプローチをし、つきあうようになったのだとの噂があった。

 それから約一年、徳武は真織と婚約したがっているらしいのだが、それがうるさいからいやだと真織は言う。徳武とつきあいたい女の子は学内女子の半数ほどいるのではないか。その女子たちは歯ぎしりして、中には徳武にアタックした者もいたようだ。

「マオは俺と別れるって言ってるよ。もう手遅れかもしれない。だけど、マオと較べりゃ……きみなんか……これ以上はっきり言わせないでくれよ。俺は当分、マオを想って未練に浸るんだ」

 アタックした数人の女子は、同じような台詞をぶつけられて断られたらしい。

「で、マオ、新しい彼氏はできたの?」
「できたよ」

 春になって徳武は卒業していき、誰かが真織に尋ねた。

「ひとりに絞ると束縛したがったり、婚約してほしいって言われたりでめんどくさいから、ふたりとつきあうことにしたの。誰だって? 見てりゃわかるじゃん。男もうるさいけど女もうるせえな。亜湖、行こうぜ」

 実はマオと亜湖はレズ? 男子たちはそんな噂もしていたらしいが、まったくそんな事実はなかった。

 ただ、自分が中心になるのがいつでも当然だと無意識でも思っているらしき真織からすれば、正反対の性格で表に出たくはない亜湖がつきあいやすかったのだろう。友人たちが面倒になってくると、亜湖、行こうぜ、となるのが真織の常套句だった。

 亜湖が三年生のとき、真織から直接聞いた。テレビ局に就職するんだ、女子アナになるんだ、と。真織の大学は地味なほうで、マスコミ業界に就職するとしても新聞社か堅めの出版社がほとんどで、民放の女子アナは初だった。周囲の者たちは大騒ぎしていたが、当の本人は、そう? そんなに珍しい? という態度だった。

 それから一年、亜湖は教授の推薦もあって中規模の商社に就職した。教授のコネであるだけに、大学の先輩も何人もいる。自然、亜湖はその先輩たちのグループに所属した。

「亜湖ちゃんってあの瀬田真織と仲良しだったんだってね」
「ええ、親しくしてもらってました」

 ここにはいない状態でさえも、真織は女たちの話題の中心人物になる。真織と同年の先輩と、さらにもう一年上の先輩とのいるグループで飲みにいくと、酒の席でも真織の話でもちきりになっていた。

「瀬田真織は学生時代からああだったんでしょ」
「ああってのはどれ?」
「二股、三股は普通ってか?」
「ああ、もて話はよく聞いたね。私はもてて当然じゃん、って態度だったよ」
「どんな感じ?」

 好奇心満々になって、二十代の女たちが身を乗り出す。話題は真織であっても、話の主導権は真織と同い年の郁子が握っていた。

「あの男とつきあってたんだけど別れたの、って真織が言い出した途端に、別の男が言いよってくるんだって。それが全部、どこかの大会社の御曹司だったり、スポーツ選手だったり、大物俳優の息子だったりするんだな。真織ってものすごいブランド好きだよ」
「持ってるものも?」
「真織は男自慢はすごかったけど、持ち物とかは無頓着だったみたい。無頓着なふりしてただけかもしれないけどね」

 この先輩、郁子は真織のグループにはいなかった。郁子のような平凡なタイプは真織の取り巻き連中の中では浮いてしまっていただろう。それでも彼女は真織の学生時代には詳しいらしい。

「学生のころって華やかな女の子がもてるんだよね」
「それってもててるって言うのかな。結婚相手とは思われてなかったんじゃない?」
「学生だったら女のほうも遊びでもいいんだろうけど、あんまり度が過ぎるのもね」
「うんうん、派手すぎる女はいざ結婚となると、素行調査とかされて相手の親に難色を示されたり……」
「ありそうだよね」

 したり顔で、他の女たちもうなずく。亜湖は特にどこかのグループに属したいと思っているのではなく、誘われると拒否しないだけだ。そのせいで学生時代と社会人になってからでは、真逆な女たちに囲まれるようになっていた。

「いつか、ひとりの女の子が真織にしつこく、髪型を変えろって勧めてたんだ」

 その記憶は亜湖の中にもあった。

「真織はなんでもメンドクサイっていうんだけど、その女は真織のつきあってる男の名前まで出してしつこく言ってた。真織がいなくなっちゃってから、別の女に言ってたよ」

 あの髪型だけは真織には似合わないだろうと思って勧めたんだ、残念、乗ってくれなかったか。だっさくなって彼氏にふられる真織を見たかったな、と彼女が言う、数人が同意していたと郁子は笑った。

「そういう女って絶対、結婚できないよね。瀬田真織のことだよ」
「そんで、負け犬だとか自己卑下しつつ、ほんとは私のほうが勝ち組なんだよ、って陰では勝ち誇ってるの」
「結婚なんかしたくないもん、出産だってしたくないもん。パートかなんかしながら家事に子育て、なんてしんどいことはごめんだわ、ってね」
「私のほうがそんな主婦よりも高学歴で美人で、自分に投資もしてるし女磨きもしてるから、もてもてで魅力的なんだよ、ってね。主婦のみなさんお疲れさまぁ、って感じ?」
「そんな女にはなりたくないよね。私は結婚してる勝ち犬になりたいな」
「私も、私も」

 この先輩たちは親しくはなかったのだから、悪口も仕方ないのか。そのくせ、有名人の真織のことはなんでも知っている、と吹聴だけはしたがる。郁子が真織について言い散らしているのを聞いていると、亜湖の気分はどよよん、どよよんとしてきていた。

「マオはあいかわらずもててるよね」
「ほんとだね。だけど、まだ結婚しないんだ」
「するわけないじゃん」

 先輩たちが出席すると聞き、真織も来るとも聞いたので、亜湖も同窓会に出かけていった。真織は忙しいようで、遅れてやってくるという。かつての真織の取り巻き連中が話していたので、亜湖はその会話を聞いていた。

「そう? するわけないの? なんで?」
「私はマオだったらとびきり上等の男を捕まえて、すぐに結婚すると思ってたな」
「だって、マオとつきあいたがる男って遊びでしょ? 本気でつきあう男なんかいないよ。あんな尻軽」
「そこまで言う? だって、マオは言ってたよ。男とつきあうと結婚したがってうるさいから、二、三人いたほうがいいって」
「あんなの見栄だよ」

 決めつけたのは、マオ、この髪型はどう? と提案してはねつけられていた先輩だった。

「マオはもててるんじゃないの。遊び相手にちょうどいいからってだけだよ」
「そうかもしれないけどさ」
「若いうちはいいけど、だんだん年を取ってくるとね……」
「たったひとりでいいのよね。たったひとりの男に愛されて、プロポーズされて結婚するのが女の幸せだよ。古くてもいいの。マオみたいに遊ばれてるだけって不幸だもの」
「そうだよねぇ」

 ここでも女たちは、したり顔でうなずき合う。仲間ではなくなったら、親しくしていた女たちでもこうなのか。それとも以前から本音はこうだった? 男たちも言っていた。

「マオとだったらいっぺんは寝たかったな」
「寝るだけでいいのか?」
「それ以外になにがあるんだよ。寝たいだけだよ」
「俺はマオとだったら結婚したいよ」
「物好きだな。あんな……」

 公衆……とその男が言いかけたとき、マオが来たよ、と誰かが囁いた。途端に皆が駆け寄っていき、マオ、マオ、マオ、と呼びかけて歓迎の言葉を口にする。マオはいつもの面倒そうな表情で、おっす、よぉ、などと挨拶している。虚飾の宴……亜湖の脳裏にはそんな言葉が浮かんでいた。

次は「く」です。








スポンサーサイト



【FSソングライティング物語「鳥の歌」】へ  【FSソングライティング物語「トウキョウ・シティ・セレナーデ」】へ
  • Tag List 
  •  * |

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【FSソングライティング物語「鳥の歌」】へ
  • 【FSソングライティング物語「トウキョウ・シティ・セレナーデ」】へ