ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FSソングライティング物語「鳥の歌」

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フォレストシンガーズ


「鳥の歌」

 六百年も前のフランスに、ジャヌカンというシャンソンシンガーソングライターがいた。シャンソンというと我々の大学の先輩である金子将一さんの得意分野なので、彼が教えてくれたのだ。

「この歌は珠玉の擬声シャンソンだなんて言われてるんだな。俺の声だけではこれはちょっと無理かとも思う。女性ヴォーカルグループにバックコーラスをつけてもらったらどうかな、と考えていて思いついた。三沢幸生がいるじゃないか」
「俺ですか」
「そうだ、おまえだよ」
「フランス語でしょ? 英語だって中学生以下なのに、フランス語だと幼稚園以下ですよ。俺は外国語会話をしなくちゃいけないとなると無口になりますよ」
「会話じゃないんだ。おまえの担当はここだよ」
 
 と言われて見せられた詞は、日本語だったので読んでみた。

「エ・ファリラリロン エ・ファリラリロン
 フェルリ ジョリジョリ
 フェルリルリ ティティティ
 ピティ ピティ
 シュティ トゥイトゥィ
 テュディー クディテュ
 フリアン タルタルタルタル テュー
 キララ コキコキ キララ
 フィフィ ウィーウィー テオテオ
 キオ キオ キオキオ ヴェルシー
 トゥルルル オワティ
 クックー ククックー クックックー」

 なるほど、鳥だ。

「なんの鳥なんでしょうね」
「なんの鳥でもいいんだよ。彼には鳥の歌がこう聞こえていたんだ。おまえはオノマトペーが上手だろ」
「オノマ?」
「いわゆる声帯模写だよ」
「……はい、上手なはずです」
「それは本橋の声で言ったんだな」
「わかります? じゃ、今のは?」
「乾の声だな。次は木村かな」
「……お見それしました」
「俺の声だろ」

 シンガーなのだから耳がいいのは当然だろう。次々に言い当てられて悔しくなったので、金子さんの知らない人物の声帯模写もやってみた。それですらも半分は当たる。ヤマ勘だけどな、などと笑いながら、うちの親父や乾さんのお父さんのもの真似までをも当ててしまった。

「乾の親父さんとだったら、そう何度も会ったわけじゃないんだろ。おまえのその能力はたいしたもんだよ。じゃあ、頼んだ」
「えと? これを覚えて完璧に歌えるようになって、金子さんのレコーディングでバックコーラスを務めればいいんですね。えーっと、やっぱり声も使い分けないといけないんですよね」
「それぞれの鳥の声にマッチするように、何色でも使い分けてくれ」
「男の色? あれって「だんしょく」とも読むし、「なんしょく」とも読むんですよね」
「そっちじゃなくて何種類もの色だよ。解釈はおまえにまかせる」
「うへ」

 解釈はおまえにまかせる、と言われると、先輩にテストされるみたいな気分だ。大学合唱部では在籍がかぶっていない、四つ年上の大先輩には卑屈になりそうになる。そんな気持ちを励まして闘志を掻き立ててみた。

 ガキのころから歌うのと喋るのは大好きだったから、小鳥と一緒に歌ったり、小鳥とお喋りだってしていた。人間が相手だとうるさがられる場合もあるが、小鳥は俺のお喋りをいつまでだって聴いてくれて、歌声で応えてくれる。時には無視して飛んでいってしまう。綺麗な声の小鳥さんは、気まぐれに優しい女の子のようだった。

 だから俺は小鳥が好き。鳥の性別はわからないので、出会った鳥はすべて女の子だと思うことにしている。古来から人間は鳥の鳴き声を鳥の「歌」だとして、自分たちも鳥をテーマにした歌をいっぱい作ってきた。俺もものごころついたころから、そんな歌をいくつも歌ってきた。

 フォレストシンガーズの三沢幸生としてデビューしてからだって、俺の書いた詞には「小鳥さん」が出てきたりもする。失恋した哀しみを小鳥さんに聴いてもらって、小鳥さんと歌を歌う、そんな歌詞もあった。

「よし、鳥の声の勉強をしよう」

 鳥は好きだが、知識は乏しい。日本野鳥の会あたりに所属している山ガールだか森ガールだか鳥ガールだかが同行して教えてくれたらいいのだが、高確率でおじさんかおじいさんが同行してくれそうだ。そんならひとりのほうがいい。ひとりで鳥さんたちとお喋りに行こう。

 休日にハイキング支度をして深くはない森に出かけていった。我々の大学合唱部に伝わる組曲「森の静寂と喧騒」を思い出す。シンガーになってから面識のできたクラシック作曲家、真鍋草太先生の作品だ。ここにも小鳥の鳴き声がふんだんに使われていた。

 上質なテナーシンガーがいないとステージに上げられない難曲ということで、合唱部でもめったにコンサートでは歌われてこなかった。そんな曲を俺が一年生の年の男子部キャプテン、渡辺さんが一年生中心に歌わせたいと野望を抱いたのは、木村章と三沢幸生がいたからだったのだ。

 驚異のハイトーンヴォイス、ヘヴィメタシャウトが持ち味だからクラシック系には合わないかと思われがちだが、章の歌の才能は特異なものなのだろう。ロックじゃないのか、つまんねえ、とぶちぶち言うわりには、ド演歌だって「第九」だって高水準で歌いこなす。

 三沢幸生のほうは七色の声の持ち主なのだから、鳥の声だってお手のものだ。
 本橋さんと乾さんにとっては、一年生のときに高倉キャプテンと出会ったのが転機だったらしいが、俺にとっても渡辺さんとの出会いが、歌で生きていきたいと思わせた第一歩だったのかもしれない。

 シゲさんは中学生のときからの合唱部育ち。章も中学生のときからのロックキッズ。なのだから、彼らのほうが歌に傾倒した時期は早かったのだが、ああやって大学で出会った五人が、今ではこうやって歌でメシを食わせてもらっている。音楽の神が俺たちを選んだんだよね。

 なんてことも考えながら、森の中に入っていく。初夏の森は緑いろ濃く、鼻孔にも緑の匂いが流れ込んでくる。むせかえりそうな植物の匂い、見上げれば木漏れ日がきらきら。美少女の姿をした妖精があらわれそうな錯覚が起きる。

「ニンフちゃん、フェアリーちゃん、出ておいで。妖精ってのがいないんだったら猫でもいいよ……いないか……出てこないか。出てこられても困るからいいんだけどね」

 口を閉じて耳を澄ませると、小鳥の声だったら聴こえてきた。春から初夏にかけて、森で見られる鳥、インターネットで調べてきた鳥があの声で鳴いているのか。アオバト、イワツバメ、オオルリ、カイツブリ、カッコウ、キビタキ、クロツグミ、コサメビタキ、コムクドリ、アカハラ、それからそれから、なんだっけ?

 ピピピピー ピーヒョロロ
 ギュクククク キュキュー
 キューヒョヒョー ピーキョキョー
 クックルクー クゥクゥクゥ
 ピヨピヨピピー コココッコッ

 細い声や高い声、太い声も濁った声もある。金子さんが教えてくれたところによると、鳥は全種類が異なる声をしているのだそうだ。猫の鳴き声にだって個体差はあるけれど、そんなものは聞き取れない人間も多い。鳥の声は知識の乏しい俺にだって、あ、別の鳥だ。なにかの鳥となにかの鳥がデュエットしてる、喧嘩してたりするのかな? 程度にはわかる。

 初夏の森はこんなにも歌の宝庫だったんだね。鳥ばかりではなく、木々もざわめいている。小川のせせらぎも歌っている。木漏れ日がダンスしている。リスが鳴いていたりもする。こうして真剣な気分で森に身を置いてみて、真鍋先生のあの曲が実感できた。

「じゃあ、俺も歌っていい? どうやら鳥は女の子ばかりじゃないってことも実感できたから、混声大合唱だね。みんなでなにを歌う? ええ? なんだって? 一斉にさえずらないで。ひとりずつ発言して下さい。んんん……?」

 ぴいっ、くくっ、ちぃー、りりっ、なんて言ってる鳥語を判読するには修行不足だ。だったら俺が勝手に決めよう。金子さんがくれた「鳥の歌」の日本語楽譜は覚えてしまったので、歌ってみる。小鳥たちがコーラスしてくれる。俺もこの小鳥たちに遜色ないバックコーラスをつけてみせよう。金子さんに、さすが三沢幸生、参った!! と言わせてみせるんだ。

END









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~ Comment ~

NoTitle

鳥の声か。。。
確かに歌とは違った魅力がありますよね。
それが重なれば、それもまた歌。
声自体が魅力的なのが鳥ですねえ。。。

LandMさんへ

いつもありがとうございます。

樹々が生い茂っているところに入っていく楽しみは、鳥の声だったりしますよね。

私は猫の声がにゃーにゃーみゅーみゅーしているのも楽しいですが。
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