ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS食べもの物語「アップルパイ」

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フォレストシンガーズ

食べ物物語

「アップルパイ」

 無人販売所のりんごをふたつパクって歩き出す。行く手にガキがいて睨んでいたが、無視して歩いていった。

「瑠璃、ワンマンライヴ決定!!
 ○○市民ホール、来る十二月十日来場決定!!」

 でかでかと文字が躍っているポスター。瑠璃、おまえ、ドサ回りやってるんだ。こんな田舎でコンサートやって、じいさんやばあさんが聴きにくるのか? 瑠璃はロックシンガーじゃなかったっけ? 演歌歌手に転向したのか? 落ちぶれたもんだね。

 ろくろく学校にも行かないで遊び歩いていた十代のころ、瑠璃と博人は恋人同士だった。
 
「俺、歌手になりたいんだ。歌手になるためには学校なんかいらないだろ」
「ヒロだったら歌もうまいし、顔もいいからきっとなれるよね」
「フォレストシンガーズって知ってるか?」
「知ってるけど……グループだよね」
「そうだよ。その中の乾隆也って奴、俺と声が似てるんだ。瑠璃はよく知らないんだったら、いっぺんコンサートに行ってみるか」
「うん、行く行く」

 当時のフォレストシンガーズはまったく売れてはいなかったから、横浜でのライヴチケットは簡単に買えた。売れてはいないといっても、徐々に人気が出てきていたようで、ライヴが終わったあとに通用口に行ってみると、出待ちのファンがたむろしていた。

「……女ばっかだ」
「まあそうだろ」
「ヒロも待ってるの?」
「ちょっとだけ待とうよ」

 女のファンたちが群れている場所からやや離れて、瑠璃と博人もフォレストシンガーズの誰かが顔を出すのを待っていた。瑠璃は乗り気ではなかったようだが、博人につきあってくれていた。

 小一時間後、出てきたのは博人お目当ての乾隆也。彼はファンにサインをしてあげていて、博人も近づいていこうとした。邪魔な女たちをかき分けて前に進んでいたら、乾に咎められたのだ。そこの坊や、女性に荒っぽいふるまいをするんじゃないよ。

 無視して進もうとしていたら、ガードマンがあらわれて引っ張っていかれてほっぽり出された。はらはらしていたらしき瑠璃が言った。

「ヒロ、大丈夫?」
「大丈夫じゃねえよっ!! なーにが女性たちだ。女ばっかひいきしやがってよ。ブスばばあばっかじゃねえか」
「八つ当たり」
「うるせえんだ」

 あの一件のせいで瑠璃とは別れてしまった。
 別れたって女には不自由しないのだし、瑠璃には未練もなかったのだが、あるとき、博人は見てしまった。

「近々にはブレイクの予感。
 瑠璃のミニアルバムが発売されます。みなさん、買ってね」

 ん? 瑠璃? こんな名前は珍しくないよな。
 歌手になる予定が未定のままで、高校を卒業してもフリーターにしかなれずにいる博人は、金に余裕があれば音楽雑誌を買う。余裕がなくても立ち読みしたいのだが、行きつけのコンビニでは読ませてもらえない。久しぶりで買った音楽雑誌にそんな記事が掲載されていた。

 姉のパソコンを借りて検索してみたら、瑠璃の写真があらわれてきた。大人びて綺麗になっていたが、その写真はまぎれもなく瑠璃。博人に恋してむこうから告白してきて、博人だったら歌手になれる、応援してあげる、と言っていた瑠璃だった。

「おまえが歌手になったの? 歌手になりたいなんて言ってなかったじゃんよ。嘘つき」

 ずるいずるいずるい、博人の胸はその感情ばかりに支配された。
 が、ロックシンガー瑠璃はブレイクするようにもなく、テレビに出るようなこともない。歌手になるだけなったって売れなきゃ意味ないよな、とせせら笑って、博人は安心していた。

 安心してフリーターを続け、博人も二十歳を過ぎた。ひとつ年下の瑠璃ももう十九か。若くもないんだから、これから売れるってこともないだろうな。瑠璃、歌手なんかやめたら? と笑っていたのだが。

「バンドを結成されたんですってね」
「そうなんですよ。不良おじさんズです」
「defective boys……ボーイなんですよね」

 名前だけは博人も知っている、ドラマーの一柳というおじさんのインタビュー記事を、例の音楽雑誌で読んでしまった。

「ボーイのなれのはてのおじさんですからね」
「ヴォーカルは女性だとか?」
「ええ。シンガーの瑠璃ちゃんに歌ってもらいます」

 この瑠璃もあの瑠理か? 嘘だろ、と思ったのだが、あの瑠璃だった。
 ベテランスタジオミュージシャンたちが結成したお遊びバンドとはいえ、実力は申し分ない。マニアックなファンから初心者までに人気が出て、瑠璃も一躍人気者になった。

「瑠璃は俺の娘みたいなものなんだから、手を出すなよ」
「やだ、そんなこと言ったら瑠璃は嫁かず後家になっちゃうじゃん」
「瑠璃、それは差別用語だぞ」
「きゃあ、失言、ごめんなさい」

 おじさんたちとじゃれて可愛がられている瑠璃を見て、猛然と嫉妬したが、博人には瑠璃に対抗する手段の持ち合わせはなかった。

「瑠璃、ラヴラヴボーイズのポンと深夜のデート」
「瑠璃、レイラのレイとお忍び旅行」
「瑠璃、ギタリストの泉沢達巳と焼き肉デート」

 そのようなスキャンダルも頻発するようになり、恋多き美女との浮名も流すようになった瑠璃は、defective boysから離れて独り立ちしていった。

「けど、こんなところにドサ回りだろ。たいしたことないね」

 強がりだとはわかっている。歌手になりたかった博人はそのあてもなくくすぶっているのに、瑠璃はスターになってしまった。フォレストシンガーズの三沢幸生とデュエットしたシングル曲を発売するとの話を聞くと、俺はフォレストシンガーズのせいで瑠璃と別れる羽目になったんだ、との逆恨みも起きる。

「あんたはいつまでフリーターなんかやってるの?」
「夢をかなえるためだよ」
「夢ってなんの?」
「うるせえな。母ちゃんには関係ねえだろ」

 昨夜も母ともめていたら、姉が冷やかに言った。

「歌手になりたいって言ってたのはあたしは知ってるよ。だけど、そのための努力なんかしてないでしょ? 路上ライヴでもやったらいいじゃない」
「そんなのやったら、警察に引っ張られるよ」
「オーディションに応募するとか、デモテープを送るとかって手もあるんじゃないの?」
「やったって無駄だよ」

 オーディションを受けようと応募したことはあるが、書類選考で不合格になった。もしかしたらフォレストシンガーズが邪魔をしたのではないかと思ったが、証拠もないので泣き寝入りするしかなく、それっきり応募するつもりもなくなってしまった。

「だったら、言ってるだけ?」
「姉ちゃんにも関係ねえだろ」
「関係あるんだよ」
 
 目が据わって怖い顔になった姉が迫ってきた。

「あたし、会社に好きなひとがいるの。彼に告白してつきあうようにはなったんだ。一年ほどたつから結婚したいってほのめかしたら、言われたんだよ」

 弟がフリーターなんだろ。うーん、そいつがひっかかるな。そのまんまニートになられて、将来俺たちが面倒見なくちゃならなくならない? 俺はきみと結婚するのはいやじゃないけど、そんな弟がいるんじゃな、だったのだそうだ。

「あんたのせいで、あたしが結婚できないかもしれないんだよ」
「馬鹿じゃねえのか。俺のせいじゃなくて、姉ちゃんがブスであばずれだからだろ。姉ちゃんみたいな女は遊びだったらいいけど結婚したくないから、俺を口実にされてるだけだよ」

 憤怒の形相になった姉に殴られそうになり、よけたついでに姉を蹴飛ばして、母に泣かれた。姉が組み付いてきたので振り払って、昨夜のうちに家を出た。
 家出をしても行くあてもなく、有り金も乏しいので各駅停車の電車に乗って、終着駅で降りた。駅前はそこそこ賑やかだったが、すこし歩くと畑ばかりだ。こんな田舎に瑠璃が来るのか。おまえもたいしたことないね。

 資金がきわめて乏しいので、朝食はかっぱらったりんごだけ。こんなものでは足りなくて、どうしようかと思案していたら、ネットカフェを発見した。

 バイトの給料をおろしてきたのと、時々姉のパソコンを借りてネットなどをするので、データを保存してあるSDカード。それは大事に持ってきた。瑠璃に対抗する手段……たったひとつ、あるのだが。そんなことをしたらとばっちりがあるのでは? とも思う。

 ネットカフェのパソコンに、SDカードを差し込んでみる。動画があらわれてくる。瑠璃と恋人同士だったころにジョークで撮影した、ホテルの部屋でのワンシーンだ。

「ヒロ、なにやってんの? やだ、撮るなよ」
「いい記念になるだろ」
「やめてってば」

 やめてと言いながらも瑠璃も面白がっていて、煙草をふかしたり脱いだ下着をこちらに投げてきたりしてけらけら笑っている。瑠璃のヌードが一瞬写り、動画は終了した。

 これをネットで公開して拡散させるってことはできる。瑠璃は未成年なのだから、喫煙だけでも問題になるだろう。博人の姿は写り込んでいず、瑠璃、おっぱい見せて、などと言っている声だけが入っている。瑠璃は本名なので、顔と名前で見た者にはあの瑠璃だとわかるだろう。

「でもな、そこまで……」

 堕ちたくはないかな、と博人は思う。
 ひとつは食べてしまったが、もうひとつのりんごを取り出してパソコンの横に置いた。りんご、りんご、おまえは毒りんご?

 夢を見ていられて幸せだったころ、夢はかなうと信じていられたころ、この動画と同時期に、瑠璃の家に遊びにいった。両親は留守だからおいでよ、あたしが夕飯を作ってあげると瑠璃は言い、そのくせ、料理を失敗してどれも食べられるしろものではなかった。

「ひでぇ、そんなんじゃおまえと結婚できないな」
「結婚する気なんかないくせにさ……あ、そうだ。アップルパイがあるよ。これは時間がかかるから、昨夜作ったの。ヒロが来てくれたらデザートに出そうと思ってたんだ」
「デザートだけかよ」
「ごめんね」

 ぺろっと舌を出した、素直で可愛かった瑠璃の顔。俺はたしかにおまえが好きだった。
 りんごを見ていると、あのときのアップルパイの味が思い出される。パソコンの横のりんごは、博人の悪だくみを止めようとしているのか。そこまでしたらいけないよ、と言いたいのかどうか。博人にはわからなかった。

END







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~ Comment ~

NoTitle

歌手になるためには学校はいらないか。。。
ロックな考え方だと思いますけど。
勉強もしないと、真理がつかめないのも事実なんですよね。
・・・まあ。
私も今やっている仕事を真摯に勉強しているかは疑問ですが。。。

LansMさんへ

いつもありがとうございます。

芸能人に学歴は無用なんてのは、古い考え方かもしれませんね。
今どきは学歴が売りの芸人さんとかもいますし。
芸と学校の勉強は別とはいっても、浮き沈みの激しい業界ゆえに、学歴がないとツブシがきかないと言いますか。

勉強は学校以外でもできるとはいえ、それも現代日本では建前にすぎないかもしれません。

NoTitle

ご無沙汰しております(><)
最近やっと涼しくなってきましたが、体調崩したりしてませんか??
私はなんとか暑さから開放されて蘇りつつあります(笑)

読みながら「ちょっとちょっとちょっと!???Σ(゚Д゚)」ってなりましたw
最近ありますよね…なんでしたっけ…リベンジポル○?
恋人といえど裸の動画や写真撮らせるのはどうなんだろうって思ってたんですが、若い人は抵抗ないのですかね…
しかも別れた腹いせにネットにばらまく恋人もどうかと…一度拡散してしまったら消すのは無理とか…
博人さんはどうしたのだろう…
ってか博人さんの境遇が私と似てて耳が痛いですw(兄が結婚、私はまだ実家にいるお邪魔虫(-_-;)

あかねさんは最近の話題も小説にさらりと書けてしまうので尊敬です!若い人の感情がうまく掴めなくてお話にするの難しいです……
また遊びにきます!頼まれてるイラストももうちょっと待って下さい(><)

たおるさんへ

コメントありがとうございます。
ご無沙汰しっぱなしでどうもすみません。

六月の末に我が家に仔猫がやってきまして、小さいのはなにかと手もかかりますので、そっちにばかり気を取られていました。

今年の西の夏はものすごーく暑かったですよね。
九月になって涼しくなりましたが、このまま秋になるとも思えなく、また残暑復活するのでしょうか。

さてさて、リベンジなんとか、よく聞くようになってますよね。
十代の子なんかは軽い気持ちで彼氏とキスしてたり、もっとなんかしてたりする動画をアップしたりもするようで、おばさんはぎょっとしてしまいます。

ヒロは……どうしたのでしょうか。

最近の話題もさらりと……なんて言っていただけると嬉しくも恥ずかしいです。このごろあまり書いてないんですけど、秋になったら書けるといいなぁ。

イラスト、いつまでだって待ってますから、よろしくお願いします。
m(__)m

NoTitle

わ!よかった!新しい出会いがあったのですね!!
ずっとあかねさんがふさぎ込んでて心配してたんです!あぁ、良かったε-(´∀`*)ホッ 新しい猫ちゃんはどんな子ですか♪やんちゃなさかりかなwまたお話きかせて下さい(*^_^*)

NoTitle

わ!よかった!新しい猫ちゃんがきたのですね!!
ずっとあかねさんがふさぎ込んでて心配してたんです!あぁ、良かったε-(´∀`*)ホッ 新しい猫ちゃんはどんな子ですか♪やんちゃなさかりかなwまたお話きかせて下さい(*^_^*)

たおるさんへ

http://quianquian.cocolog-nifty.com/blog/

ご心配おかけしてすみません。
詳しくはこっちのブログを見て下さいね。

写真もアップできたらいいのですが、うまくスマホとつなげなくんっていまして。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

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