ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS食べもの物語「天むす」

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フォレストシンガーズ

食べ物物語

「天むす」

 エビの天ぷらを中に入れて作ったおむすびを「天むす」という。発祥は三重県だとか岐阜県だとか諸説あるが、現在では名古屋名物とされていた。

「だからって、なんで天むす……」
「テン、ムー、スーって……」
「サイアク……」

 三人で顔を見合わせてから、天を仰いで嘆いた。

 親のつけてくれた名前はもちろんあるが、子どもをターゲットにしたアイドルグループ、名古屋出身の「天むす」の三人は、愛称がテン、ムー、スー。三人ともに教育テレビの子供番組でデビューしたので、子どもたちには見覚えもあって親しみを感じたのだろう。デビューしたらじきに人気者になった。

 本名は典子、ニックネームがテンちゃんだったので、「テン」は本人にも親しみがあっていやではない。スーとムーは本名とはかけ離れた愛称だが、本人たちもなじんできたようだ。

「おはようございまーす」
「よろしくお願いしまーす」
「わー、いい匂い」

 名古屋出身なのだから、名古屋でもっとも人気があるのも当然かもしれない。このたびは天むすが、名古屋に本社のある食品メーカーの、ダイエットラーメンのCMキャラとして起用された。

「はじめまして。営業担任責任者の本庄です」

 もらった名刺には、プロジェクト担当課長、本庄希恵とある。ほんじょうきえ、とひらがなも振ってあった。
 三十代だろうか。この年の女性で課長って、かしこいんだろうな、とテンは思う。同時に、かしこいかもしれないけど脚太いし、ブスだよね、とも心で言っていた。

 小学校に入学すると、母の趣味でテンは児童劇団に入った。顔が可愛かったのもあり、学校ではかなり勉強ができたのもあって、テレビの子供向け番組に出るようになったのだ。あれから十年、高校生になったテンは勉強はほとんどしないが、頭はいいと自覚している。美人で秀才、あたしは最強。

 子ども番組出身という共通点から、大人たちの思惑に従って結成されて売り出されたグループだ。表面上は親しくしているが、典子は他のふたりなどは歯牙にもかけていない。あたしのほうが上、あたしが最強。

 ダイエットラーメンのCMに起用されたのは、ムーとスーがややぽっちゃり体型だからだろう。テンはスリムで長身だが、子どもたちはモデル体型のテンよりもぽっちゃりお姉さんのほうに親しみを覚える傾向にある。典子としては天むすなんて大人のタレントになる前の通過点にすぎないのだから、子どもに人気などなくてもよかった。事実、テンちゃんいいね、という声は大人の男性たちからあがっているらしい。

「うん、よし、私もつきあってあげよう」

 若いOLに扮したテンが、職場の給湯室でカップラーメンを作っている。テンは太目のスーとムーのためにダイエットラーメンを選び、自分もそれを食べるという設定だった。

「おいしいね、これってダイエット麺なの?」
「これだったら続きそう。これからはずっとランチはこれにしよう!!」
「いろんな味があるから、全種類買ってきたんだよ」
「テンちゃん、気が利くぅ」

 スムーズに撮影を終えると、リアルでのランチタイムになった。名古屋AK食品の製品、今回のカップラーメンや冷凍食品やインスタント食品などがテーブルに並び、天むすの三人もそれらで食事を摂ることになった。

「テンちゃんの意地悪ぶりが出てるCMだよね」
「意地悪なの、あれ?」
「ムーちゃんってば天然? 意地悪じゃん」
「テンちゃが意地悪っていうよりも、会社のひとたちが意地悪なんじゃない?」
「広告代理店が意地悪なのかな」

 意地悪、意地悪を連発しながらも、ムーとスーは食欲旺盛だ。こんな安っぽいインスタント食品で太りたくないから、テンは冷凍おにぎりだけにした。

「えーっと、お食事中すみません」

 そこに入ってきたのは、本庄希恵の部下だと名乗った若い男。田中くんと呼ばれていた青年だった。

「本庄って名前で気づきませんでした?」
「なにに?」
「えーっと、スーさん? スーって名前もフォレストシンガーズに関わりがあるらしいんですよ」
「フォレストシンガーズ?」

 それがいったいなに? フォレストシンガーズというおじさんたちのヴォーカルグループがいるのは知っているが、なんの関わりがあるのだろう? 田中は楽しそうに続けた。

「本庄希恵さんは……っと、部外者の前で社内の人間をさん付けにすると怒られるんだけど、あなたたちにだったらいいよね。うちの課長、本庄希恵さんはフォレストシンガーズの本庄繁之さんのお姉さんなんですよ」

 ふーん、以外の感想は、典子には持ちようもなかった。

「それでね、課長がこのプロジェクトの責任者になったときに、僕は提案したんです。フォレストシンガーズにCMソングを作ってもらえないかなって。イメージじゃないんじゃない? って課長は言ったから、そしたら、本庄繁之さんのソロとか……とも言ったんですよね。そしたら、本庄さんは作詞や作曲ができないって。そんな歌手もいるんですね」
「私も作詞や作曲ってできないな。したらできるのかもしれないけど、やったことないし」

 冷淡に典子が応じ、田中は言った。

「あなたたちはアイドルでしょ。アイドルだったらできなくてもいいんだよ。フォレストシンガーズってシンガーソングライター集団だって言ってるのに、ソングライト……ソングライターができない人もいるんだなって。あ、課長には内緒ね」

 三人は曖昧に微笑んでうなずいた。

「だから、フォレストシンガーズにはCMソングは作ってもらえなかったんですよ。僕としては残念なんだけど、あなたたちは可愛いからいいよね。で、もうひとつ、いや、もうふたつ、大事な情報を手に入れた。そのためにサインしてくれない? 課長をびっくりさせたいってか、喜ばせたいってか、協力してくれないかな?」
「サインが大事な情報?」
「そうなんだ、なんと、本庄繁之さんの息子が、天むすの大ファンなんだって。本庄さんはあなたたちにサインをもらいに行きたくて、行きそびれてるらしいんだよ」

 なんと、ともったいつけるようなことだろうか。本庄と言われても、フォレストシンガーズの個々人の顔は知らない。本庄希恵の弟ならば、イケメンでもないだろうとしか思えなかった。

「もうひとつは?」
「スーって、木村章さんのモトカノの名前なんだって。すごいでしょ」

 どこが? と問い返すのも馬鹿馬鹿しくて、典子は田中が差し出した色紙にサインをした。仕事がらみで知り合った誰かにサインをねだられるのは日常茶飯事だ。

「ありがとう。もう一枚、書いてもらえる? これは僕の……」

 えへへと笑って、田中は尋ねた。

「うちのインスタント食品はけっこうおいしいでしょ。あなたたちはいつだって豪華なものばっかり食べてるんだろうから、たまには粗食もいいよね。あ、そうそう、僕が言ったことは全部、課長には内緒ね。これからも天むすのCD買うからね。コンサートがあったらチケットの便宜とかは……ああ、握手してもらっていいかな」

 ひとりで喋りまくっている田中に握手してやると、今日は手を洗わないでおこっと、とベタな台詞を残して、彼はようやく出ていった。

「それがどうした」

 ぽつっと呟いたムーのひとりごとに、今回ばかりは典子も大賛成だった。

「木村章のモトカノ、スーでーす」

 CMの仕事が終わると、天むすは地元のラジオに出演した。天むすの三人と名古屋では有名な男性DJが担当する番組である。早速、DJの馬原が突っ込んだ。

「フォレストシンガーズって?」
「馬原にぃ、知らないの?」
「知ってるけど、スーちゃんってフォレストシンガーズの木村章のモトカノ? 初耳だよ」
「うん、スーも初耳だった」
「……めちゃんこ意味不明でかんわ」

 彼もまた地元出身なので、定番の名古屋弁でしめくくった。
 なんのつもりだ、この女は? 典子はスーの真意を探ろうとしていた。フォレストシンガーズの木村章のモトカノ、スーという名と偶然、天むすのスーが一致しただけだ。それがなにかいいことにでもつながるのか? ならば、フォレストシンガーズつながりで、本庄繁之の息子があたしたちの大ファンなんだって、というのは?

 内緒にしろと田中は言ったが、本庄課長に告げ口するのではないからいいだろう。本庄さんちの坊やによろしく!! と言ってみようか。
 ただし、この放送は名古屋ローカルなので、フォレストシンガーズはおそらく聴いていない。そこが問題だ。

END








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~ Comment ~

NoTitle

天むすか。。。
そういえば食べたことないですね。
あまりおにぎり自体食べないですし。
美味しいのかな?
(*´ω`)

LandMさんへ

いつもコメントありがとうございます。

おにぎりはお好きじゃないんですか?
私はごはん自体をそれほど食べないのですが、食べるとしたらおにぎりが多いです。

天むすはおいしいですよぉ。
ちょっとお高いですが、私は大好きです。

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