ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS食べもの物語「ミートピザ」

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フォレストシンガーズ

食べ物物語

「ミート・ピザ」

 住まいにも新しい暮らしにも慣れ、大学というものがすこしずつわかってきている。合唱部に入部して、学部にもサークルにも友達ができた。今日は午後からの授業が休講になったので、合唱部の友人である小笠原英彦と昼メシを食いにいこうと語らって、学校近くの店にやってきた。

「ここ、いっぺん入ってみたかったんだ」
「ペニーレイン、俺は入学式の日に入ったよ」
「そうなんか。メシも食えるんだろ」
「食えるよ。ピザとカレーを食ったんだ。どっちもうまかった」

 ビートルズの曲名を店名にしているのだから、ビートルズファンの店なのか。俺もビートルズは嫌いではないが、よくは知らない。合唱部の先輩たちにはビートルズ好きも大勢いるようで、「ペニーレイン」は時として部室での話題に上がっていた。

「ピザとカレーの両方って、豪勢だな。お父さんと一緒に来たのか」
「いや、親父は先に帰ったから、どこかの中年男性におごってもらったんだ」
「どこかの知らないおっさんに? シゲちゃん、知らんひとについていったらあかんよ、ってお母さんに言われなかったのか?」
「ついていったんじゃなくて……」

 この店で同席した男性だ。彼は俺と同郷だと言って、きみはカレーだけじゃ足りないだろ、もっと食べなさい、とも言ってくれたのだ。話の内容から彼は入学式の来賓、音楽関係者、それだけはわかったのだが、あの中年紳士が何者なのかは不明のままだった。
 
「実はシゲにいかがわしいことをしたかったとか」
「アホ」
「うん、アホじゃのぅ」

 高知県出身のヒデは標準語を身につけてかっこいい都会の男になると宣言している。土佐弁は禁止!! と自らに課していてるくせに、土佐弁どころか、合唱部仲間の大阪弁やら、学部の友達の岡山弁やらを口から出す。三重県出身の俺にしてもなまってはいるものの、ヒデのようには方言は使わなくなっていた。

「……肉のピザか。うまそうだけど高いな。ピザよりも米の飯のほうが食いごたえがあるから、カレーの大盛りにしようかな」
「俺もピラフの大盛りにしようかな」
「シゲはそれだけで足りるんか?」
「足りないかもしれないけど……」

 親の家にいれば食べ物にだけは不自由しなかった。俺が大食いなのは母はよくよく知っているから、いつだってごはんをたくさんたくさん炊いてくれた。おかずはさほどに豊かではなくても、味噌汁と魚と漬物でもあれば、ごはんを何杯でもおかわりできた。

 が、ひとり暮らしになってみると、金がない。我が家は三重県で酒屋を経営していて、三つ年上の姉は名古屋で大学に通っている。俺は東京で大学生になったのだから、親は仕送りに汲々としているはずだ。印刷屋のバイトは見つけたが、それでも生活費は潤沢ではない。

 なのだから、おかずなんて買えない。上京するときに母が持たせてくれた米がなくなりそうになっていて、これがなくなったら俺は飢えてしまう……と考えるとよけいに腹が減るのだった。

「久しぶりの贅沢だからピザもいいと思ってたけど、やっぱり米のほうがいいかな」
「米のほうが腹持ちもいいもんな」
「ヒデは食費、足りてるか?」
「俺はおまえほどには食わんから」

 周囲を見回しても、俺がいちばんの大食漢なのはまちがいない。
 本庄くん、すっごく食べるんだね、それで太らないってうらやましい、と大学の女の子やら、バイト先の女性社員には言われる。シゲ、これも食うか? と合唱部の男友達は、消しゴムを食わせようとしたりする。

 あまりによく食べるのって恥ずかしいかなぁ、とも思うのだが、腹が減っては力も出ない。おまえはよく食う、とみんなに言われるのは甘んじて受けるしかないのだった。

「この曲、なに?」
「さあ? 聴いたことはあるけど……」
「シゲは音楽好きじゃろ? 知らんのか」
「ヒデだって知らないんじゃないか」
「俺は歌うのは嫌いじゃないけど、音楽にはそれほど興味ないきに、ビートルズなんかなんちゃあよう知らん」
「ヒデ、土佐弁全開になってるぞ」

 うるさいんじゃ、シゲは、合唱部のくせに。
 合唱部はヒデもだろ、おまえだってビートルズ知らないくせに、と言い合っていると、視線を感じた。

「きみたち……」

 ○○大学の合唱部? と尋ねた男性は、俺たちよりはだいぶ年上に見えた。

「先輩なんですか」
「うん、俺も合唱部出身だよ。お節介を焼きたくなった。この曲は「ストロベリーフィールズフォーエバー」だ」
「苺の歌ですか」
「ビートルズの故郷、リバプールにある孤児院の名前だよ。「ペニーレイン」がシングルレコードで売り出されたときのカップリング曲だ。当時はB面っていったな」

 詳しい……というよりも、音楽好きならば当然の知識なのかもしれない。この男性だったら知っているか、と思って、俺は入学式の日にこの店でピザをごちそうしてくれた紳士の話をした。

「あ、俺、知ってる」

 思いがけなくもヒデが応じた。

「作曲家の真鍋草太!!」
「呼び捨てにすんなよ」
「あ、すみません」

 軽くたしなめられて首を竦めたヒデと俺に、男性は言った。

「そっか、真鍋先生がピザをおごってくれたんだ。きみたち、ピザが食いたかったんだよな。じゃあ、今日は俺がおごろう。学生は金がないのが当たり前なんだから、遠慮しなくていいよ」
「え、えと、いいんですか」
「いやだったら提案しないよ」

 背が高くて都会的なこの男も、音楽関係者だろうか。東京の音楽関係者ってかっこいいよな、と、俺は俺の知っている数少ないミュージシャンたちを思い浮かべる。合唱部の先輩にもキャプテンの金子さんをはじめとして、かっこいい男は多い。

 真鍋草太さんという音楽家は知らなかったが、クラシックの方だそうだ。ヒデは入学式のときに女の子たちが噂していたから名前を覚えたのだそうで、どんな音楽家なのかは知らなかったらしい。

「合唱部のために曲も残して下さってるんだよ」
「そうなんですか」
「真鍋先生と話せたとは、本庄くん、よかったね」
「はい」

 東京のピザはうまいけど高いから、おごってもらったときにしか食えないかな、なんてさもしいことを考えそうになって、俺も首をすくめる。阿部とだけ名乗った男性がミートピザを二枚オーダーしてくれて、単純にも嬉しくなってしまった。


SHIGE/18歳/END








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NoTitle

ピザかあ。。。懐かしいなあ。。。
いや、個人的な事情で、近くのピザ屋が潰れてしまって。。。
宅配ピザがないんですよね。
(´_ゝ`)

なので、ピザは懐かしいなあ。。。と思ってしまった。

LandMさんへ

いつもありがとうございます。

ピザ、昔はよく食べたのですが、いつから食べてないかなぁ。
たまにはちょっとだけ食べたいですが、ボリュームありすぎですものね。
イタリアンそのものをめったに食べなくなりました。

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