ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS食べもの物語「クレームアンジュ」

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フォレストシンガーズ

「クレームアンジュ」


 おしゃれな店というのだろうか。外観もお菓子のようだ。
 淡いピンクの壁、ケーキみたいにも見える看板に「Un grand reve」とピンクの生クリームみたいな文字で書いてある。「reve」の「e」の上に「^」な記号がついてるってことは、フランス語だろうか。俺は敦子に尋ねた。

「この喫茶店に入るのか?」
「喫茶店じゃないの。カフェ」
「どうちがうんだ?」
「どうって……喫茶店とカフェはちがうのよ。本橋くん、入ろう」
「うん」

 双生児である兄貴たちの空手の試合を見にいったら、同じ中学校の女の子と会った。敦子の姉さんも空手をやっているのだそうで、兄や姉が空手をやっているという似た境遇だと知って話がはずみ、それからつきあうようになったのだ。

 中学三年生、来年は受験だから、先生や親に知られたら、男女交際なんてやってる場合じゃないだろ、と言われるかもしれない。中学生の男女交際はまだ早いと言う者もいるが、早くはない。俺の友達だって敦子の友達だって、彼女や彼氏がいると知るとうらやましがる。

 受験に専心しなくてはならない時期になったら、交際を一時ストップしてもいいかな、と俺は思う。敦子とそんな相談をしたわけではないが、今はまだ必死で勉強しなくてはならないほどでもないのだから、休日にデートするくらいはいいだろう。

 俺は彼女がいることを兄貴たちにだって親にだって内緒にしているが、敦子は姉さんには喋っているらしい。そのおかげで姉さんが遊園地の入園チケットをくれたというので、ふたりで遊んできた。

 乗り物にも乗り放題のチケットだったから、金がかからずにすんでよかった。昼食のハンバーガーは俺が払い、帰りの喫茶店……ではなくてカフェか、それも俺がおごるつもりで、敦子に行きたい店を選べと言ったら、ここに連れてこられたのだった。

「可愛いね、あれ」
「あの人形? まあな」
「素敵なインテリア。あたしも大人になったらこんな店、やりたいな」
「喫茶店を経営するのか」
「カフェだってば」

 ウェイトレスがメニューを持ってくる。うわ、高っ、と叫びそうになる。俺は女の子とデートするなんてはじめてだから、こんなカフェに入るのもはじめてだ。
 男友達とだったら安くて腹がふくれるものを食える店に入る。親とだったら高そうな店にも行くが、兄貴たちとだってこんな店には入らない。兄貴たちは大食らいの大男だから、喫茶店なんてものにもめったに入らない。連れていかれるのは牛丼屋やファストフードショップばかりだ。

 この値段だったら夕飯代より高いよな。中学生なんだからあまり遅くはなれないから、夕飯じゃなくてお茶にしたけど、こんな値段ってぼったくりだろ。
 それに、このメニューの名前はなんだ? ケーキの名前か? コーヒーや紅茶のコーナーにもややこしい外国語が並んでいて、俺にはなんなのかわからない。「ティラミス」「パンナコッタ」「カヌレ」「クイニーアマン」ってなんだろ?

「あたしはクレームアンジュにしようかな」
「なんだ、それ? 安寿と厨子王?」
「……? そっちこそ、なんだ、それ? 本橋くんったら、クレームアンジュを知らないの?」
「知ってるよ。知ってる」

 軽蔑の目で言われたら、知らないとは言えなくなってしまう。俺は甘いものは嫌いだし、メニューの大半が知らない食いものなので、わかやりやすいものを選んだ。

「俺はアイスコーヒーと、チーズとハムのクレープ」
「お茶の時間なのに、甘いものは食べないの?」
「えーっと……」

 美人のウェイトレスに注目されているのもあって、甘いのは嫌いだとは言えなくなってしまった。クレープに包んであるものは惣菜ふうならば、ツナだの卵だのと見当がつくのだが、甘いほうは名前を飾り立ててあってわかりづらい。
 イヴォンヌのクレープってなんだ? ホットケーキはないのか? シュー・ア・ラ・クレームってシュークリームか? ちがうのかもしれないし、シュークリームは嫌いだし。

「えっと……クレームドカカオにしようかな」
「お客さん、未成年でしょ。クレームドカカオはお酒ですよ」
「もうっ、本橋くんったら、恥ずかしいことを言わないで」
「……ごめん」
「だったらね、クレームアンジュをふたつ。それでいいでしょ」
「うん、いいよ」

 クレームアンジュってなんなのか知らないし、第一、高いし、とも言えなくなって、それでいいよ、と呟くしかなかった。

 出てきたものはチーズとも生クリームともつかないデザートで、赤っぽいジャムのようなソースのようなものがかかっている。おしゃれ、おいしい、と敦子ははしゃいでいたが、俺にはおいしくもない。食いものっておしゃれだったらいいのか? 美味のほうが大切じゃないんだろうか。

 甘いのは嫌いってことは、俺は将来は酒飲みになるのかな。兄貴たちは高校のときから、親父と三人でビールを飲んだりしていた。二十歳をすぎた今はふたりともに酒豪だ。俺もああなるのかな。ビールだったら飲んだことはあるけど、そんなにうまいとも思わなかった。コーヒーのほうがうまいよな。

 そんなことを考えながら白い食いものをつついている俺に、敦子が楽しそうに話しかけてくる。敦子はこのクレームアンジュをたいそうおいしいと思っているようでご機嫌だった。

「あのアトラクション、怖かったけど面白かったよね。本橋くんはジェットコースターとか絶叫マシンとかも平気なんだ。そういうところは男らしいかも」
「あ、そう? そうかもな」
「そうだよ。本橋くんは男らしいって、あたしの友達も言ってる。うん、おいしい」
「うん、よかったな」

 女の子ってわがままで口うるさくて、手のかかる存在だけど、やっぱり可愛いかもな。敦子の機嫌がよければ、なぜか俺も気分がよくなってくるのだった。


真次郎14歳/ END








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