ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS食べもの物語「カツサンド」

 ←花物語2017/7「段菊」 →FS超ショートストーリィ・四季のうた・真次郎「夏の真」
フォレストシンガーズ

食べもの物語

「カツサンド」

 手をつないでもえいがか? そう訊いてから彼女がうなずいたら手を取る。それが正しい方法なのだろうか。訊くべきかとも思ったのだが、喉にからまったようになって言葉が出てこない。あのときの俺はどうしても訊けなくて、手を伸ばして彼女の指を一本、つまんだ。

「……」
「…………」

 彼女もなにも言わず、赤くなってうつむいていたっけ。

「それが初デート?」
「そうだよ。十二歳のときだったな」

 十二歳なんて純情なのが当たり前だ。変な知識だけは頭の中に詰まっていても、実践はしたことがない。男友達と下ネタで盛り上がったりはしたし、俺には妹がいるので身近に女の子の存在もあったのだが、妹は厳密には女の子ではない。後輩の三沢幸生にも妹がいるので、この感覚は共有できるようだ。

「どこに行く?」
「お母さんが、映画やとかはいかんちゅうて……暗いから……」
「そうか。ほしたら、ハイキングにしよか」
「それやったらえいがかな。うち、お弁当つくるきに」

 四国は高知県の、約十年前の十二歳だ。母親の言いつけを素直に守る女の子、女の子のいやがることはしないと決めていた男の子。

 あの男の子だった小笠原英彦は、成長して大学生になった。高校生で初体験はすませ、最近はすれてしまって、ナンパだってやる。遊びで女の子と寝たりもする。大学の合唱部で知り合い、はじめは喧嘩ばかりしていた柳本恵と、なりゆきでつきあうようになったが、これは遊びではないのか?

 大学生が真剣につきあったところで、普通は結婚までは考えない。恵を好きだからつきあってるんだろ? 恋人なんだろ? と誰かに質問されればうなずくが、情熱のようなものはなかった。

 茨城県の海辺出身の恵と、高知県出身の俺は気性が似ている。どっちも荒い。俺は優しい女の子が好きなはずだったのだが、どうしてだかこんな女につかまってしまった。好都合なのはともにひとり暮らしだから、ホテル代不要。彼女の親の目や耳を気にする必要もないってことか。

 片付いているほどでもないが、俺の部屋よりは整理整頓されている恵のマンションで、ふたりで持ちよりメシ。恵の父親は茨城で水産物会社を経営しているので、上等なスルメや干物なども出てきていた。

 初デートっていつだった? 覚えてる? と言い出したのは恵だ。

「私は高校のときかなぁ。映画を観にいったの」
「俺は中学一年のときだよ」
「ませてたんだね」
「そうかな」

 はじめてのなにか、というのは意外と覚えている。初デート、ファーストキス、初恋、初失恋、ファーストセックス、ファーストナンパ、それらは全部、土佐で高校生の間にすませて東京に出てきた。

「ファーストエッチは?」
「そういうことは訊かないのが礼儀でしょ」
「そうだな」

 ちょっとだけ知りたかったが、しつこくはしないでおこう。
 あら、ヒデとのエッチが初だよ、ととぼけるほどに厚顔無恥ではない女だとわかっただけでも収穫ではないか。

「そんな話題を出したせいで……」
「駄目だよ。食べてから」
「食うのは休憩しようよ」
「ダメダメ」

 こっちは厚顔無恥になってしまって、あの純情な少年はどこに行ったのだ? と苦笑してしまう。十年もたっていないのに、人は変わるものなのだ。

「あ、これも買ったんだった。これ、おいしいよ」
「カツサンド……ますます思い出すよ」

 抱きすくめようとする俺の腕から抜け出して、恵がサンドイッチの箱を差し出した。十二歳のときの彼女が作ってきた弁当もカツサンドだった。

「昨日、お母さんに教えてもらって私が揚げたんぞね」
「うん、上手にできてるな」
「おいしい?」
「うまーい!!」

 見上げた土佐の青空も思い出す。

「まだ初デートの話? 私とおうちデートしてるんだから、そんな大昔のことばかり想い出すなよ」

 自分から初デートの話をはじめたくせに、恵は怒っている。
 怒るってことは、恵はやっぱり俺に惚れてるんだな、とひとりでにやついてみた。

END








スポンサーサイト



【花物語2017/7「段菊」】へ  【FS超ショートストーリィ・四季のうた・真次郎「夏の真」】へ
  • Tag List 
  •  * |

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【花物語2017/7「段菊」】へ
  • 【FS超ショートストーリィ・四季のうた・真次郎「夏の真」】へ