ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS食べもの物語「ハンバーグステーキ」

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フォレストシンガーズ


「ハンバーグステーキ」

 
 学校から帰ると母は買い物にいっていた。妹たちも幸生よりも早く帰ったようで、母と一緒に出かけていた。幸生は猫のミミとピピをいっぺんに抱き寄せて話しかけた。

「昨日、母さんが言ったんだよ。明日はなにを食べたい? って。だからさ、ハンバーグって言ったんだ。しばらく作ってないからいいかもね、よし、そうしよう、って母さんが言ってた。今夜はハンバーグだぞぉ。ミミとピピも食べたい? ちょっとだけ残しておいてこっそり分けてやるよ」

 ハンバーグが食べられると思うと、口の中がハンバーグモードになる。楽しみにしていたのに、だから宿題も早くすませて、ハンバーグハンバーグやっほー!! と歌いながら二階から降りてきたのに。

「あれぇ? ハンバーグじゃないの?」
「あらっ、そういえば幸生にはそう言ったよね。忘れてたわ」
「ええっ?! そんなぁ……」

 スーパーマーケットで安売りをしていたとかで、今夜はポークステーキなのだそうだ。幸生は心底がっかりして、口をききたくなくなった。

「いっただきまーす」
「ポークステーキだったらりんごとパインも焼いて付け合わせにするといいって、雑誌に載ってたのよ。どう、おいしい、雅美、輝美、幸生?」

 おいしい!! とふたりの妹は叫び、父も、うんうん、うまいな、とにこにこしている。母も満悦の表情になって幸生を見た。

「どうしたの、幸生がごはんのときにお喋りしないなんて、熱でもあるんじゃない?」
「だって、ハンバーグ……口がハンバーグ食べたいって言ってて、お喋りできないんだよ」
「まだ言ってるの?」
「ハンバーグと豚肉なんてよく似たものじゃないか」
「そうだよ。同じお肉だもん」
「お兄ちゃんったらなにをぐだぐだ言ってんの? 男らしくないんだからぁ」

 家族総出で責められて腹が立って、幸生は言い返した。

「こんなのおいしくないよっ。母さんが豚肉食べてたら共食いみたいで、オレは食欲がなくなっちまうんだよっ!!」
「幸生っ!!」
「そんなことを言う子は食べなくていい。二階に行きなさい」

 母は般若の形相になり、父はきびしく言い放つ。こうなれば意地もあるので、幸生としてもあやまる気にもならずに箸を投げ出して二階に上がった。

 階下からは一家団欒の声が聴こえてくる。幸生はひとりぼっちで、猫たちも二階には来てくれない。起きていると泣いてしまいそうだったので、布団にもぐり込んだ。
 が、眠れない。布団の中でぼーっと目を開けていると空腹感がつのる。いつだったか、テレビドラマで見たワンシーンを思い出した。

 小学生の男の子がなにかで父親に叱られて、晩ごはんヌキの罰を言い渡される。おなかがすいたなぁ、としょんぼりしていると、母がそおっと男の子の部屋に入ってきて、お父さんには内緒よ、とおにぎりを置いていってくれるのだ。
 うちの母さんもそうしてくれるかも……と期待していたのだが、ついぞそんな気配もなかった。

「薄情もの。オレって母さんと父さんの実の子じゃないのかも。腹減ったなぁ。ハンバーグ、食べたいなぁ。口の中がまだ、ハンバーグ、ハンバーグって言ってるよ。ポークステーキだったら焼くときの匂いは似てるから、直前までだまされてたんだもんな」

 布団の中でぶちぶち呟いているうちには眠ってしまって、翌日。

「今日はパートに行くからちょっと遅くなるかもしれないの。ごはんの支度はできるように帰ってくるから、お留守番していてね」

 独身時代には銀行員で、父とは職場結婚をして退職した母は、子どもたちが小学生になってからは時たまもとの銀行にパートに行く。そんな日には幸生が妹たちの面倒を見なくてはいけない。もっとも、雅美は幸生とひとつしかちがわないので、輝美の面倒も彼女が見てくれているようなものだ。

「そうだ、よーし」

 貯金箱からとっておきの千円札を出して、幸生は放課後にスーパーマーケットに行った。
 家に帰ると玉ねぎをみじん切りにして、パン粉と合いびき肉と卵を入れて手でぐっちゃぐっちゃとかき混ぜる。大好物のハンバーグの作り方は、母が料理しているのを見て覚えてしまった。

 雅美と輝美はふたりで遊びにいっているから、邪魔される恐れもない。お兄ちゃんったらまだハンバーグって言ってる、男らしくないんだからっ!! とからかわれると怒ってしまって暴力をふるってしまうから、そうすると今夜も父に叱られるから、ひとりでいられてラッキーだった。

「あ、だけど、留守番してるときに火を使ったらいけないって言われてるんだ。ミミ、ピピ、どうしたらいいと思う?」

 いい匂いがするせいなのか、ミミとピピは幸生の足元にいる。ハンバーグのタネを混ぜることはできても、成形して焼き上げる自信がなくて、幸生はボールの中を見つめていた。

「ただいまぁ」
「……父さん、お帰りなさい。早いね」
「今日は母さんが残業だって言うから、父さんが早く帰ってきたんだよ。なにやってんだ?」
「え? えーと……」

 ボールの中でぐちゃぐちゃになっているものを見れば、父にもなにをやっているのかは一目瞭然だったのだろう。呆れたように笑って幸生の頭に手を乗せた。

「一緒に丸めて焼こうか。母さんに頼まれたわけでもないんだろ」
「オレが食べたくて……」
「おかずができてたら母さんも喜ぶかもな。着替えるから待ってろ」
「うん」

 父の足元にすり寄っていく、ミミとピピにも言ってみた。

「おまえたちもハンバーグ、食べたいだろ? オレが作ったんだからちょっとだけあげるよ」
「……馬鹿」
「え? なんで?」
「猫には玉ねぎは厳禁だぞ。知らなかったのか?」
「そうなの?」

 誰も教えてくれなかったのだから、知らないに決まっているではないか。そうなんだって、とミミとピピを見やると、猫たちは不満そうに、にっ、みゃっ、と鳴いた。
 父がエプロンを二枚持ってきて、一枚を幸生につけてくれる。玄関の戸が開いて、ただいまぁ、と妹たちの声がする。幸生は背伸びして父の耳元に素早く囁いた。

「ハンバーグは父さんが作ったんだって言っといて」
「ん? どうして?」
「男らしくないって言われるから」
「……いつまでもこだわってるからってか? ああ、わかった。そう言っておくよ」

 男の気持ちは男同士にしかわかんないんだよね。ウィンクしてくれた父にウィンクを返し、幸生は自分のためには特大ハンバーグを作るつもりで、ボールの中に手を突っ込んだ。

 
幸生10歳/END







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~ Comment ~

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ええ話しや。。。゜゜(´O`)°゜
まさに感動。
うんうん、分かる。
子どもはそうやって成長していくものなのです。
私も好物が出ないから泣いて、自分で作ってましたね。
それでいつしか母に教えられて、
自分の好物を自分で作っていくようになりました。

LandMさんへ

いつもありがとうございます。

ひと昔前の男性は、料理といえば奥さんやお母さんに「作らせる」ものだと思っていたようですが、食べたいものは自分で作るという姿勢はいいことですよね。

よくグルメエッセイを読むのですが、自分で作ることのできる人の書いたもののほうが説得力あります。
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