ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS雨の物語「大阪レイニーディ」

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フォレストシンガーズ

雨の物語

「大阪レイニーディ」

 まずいことをしてしまった、と母からのメールが届いた。まずいこととはなんだ? 父と喧嘩でもしたか? そんなこと、離れて暮らしている息子に訴えてきても困るだけだ。困るようなメールを読みたくなかったので、途中でケータイを閉じてほったらかしておいた。

 歌手になりたくて、そんなら東京に行かなくてはいけないと決意して、実松弾は東京の大学を受験した。首尾よく合格し、父と母も賛成してくれたから上京して大学生になった。合唱部に入部して熱が入っていたのもあり、金には困窮していたのもあって、大学生の間はほとんど大阪に帰りもしなかった。

 合唱部は男子部と女子部に分かれていたものの、みんな仲が良かった。同級生たちで合同ハイキングに行ったり、映画を観にいったりすると、部外の友達を連れてくる者もいた。

 男どもはもてへん奴が多いみたいやけど、その中でももてない代表、シゲには女友達がいる。
 ヒデは顔がええせいか、これでけっこうもてるみたいや。ええなぁ。
 じゃがいもみたいな顔をした俺も、もてるわけないわな。ええねん、歌手になったらもてるはずやから、それまでは男友達と遊んでいよう。

 そのつもりだったのだが、驚いたことに大学生のときに彼女ができた。ふたつ年下の育子ちゃんと一緒に大阪に行って、母に紹介したのが悪かった。

「私は結婚したんも遅かったし、なかなか子どもがでけへんで、それでも弾が生まれたんやからよかったんやけど、女の子もほしかったんよ。娘のいる友達がうらやましゅうてね。育子ちゃんを娘やと思ってええかしら」
「はい、私も嬉しいです」
「お母ちゃん、育子ちゃんに迷惑やで」
「迷惑なんかじゃないよ」

 優しい育子ちゃんはそう言ってくれ、母は完全にその気になってしまっていた。

「就職、決まったで」
「歌手になりたいて言うてたんは諦めたんやな」
「そらそうや。俺はそんなもんにはなれん。普通のサラリーマンになることにしたわ」
「そのほうがええよ。で、結婚は?」
「まだまだまだまだずーっと先や」

 電話で報告した俺に、母が結婚をせっついていた。やっと社会人になろうとしている二十二歳が、結婚なんか考えられるはずもないだろうに。
 東京で就職を決めた俺に、両親は寂しさもあっただろう。けれど、反対はせず、ただ、育子ちゃんと早く結婚しろとばかり言っていた。親父も同感であるらしかった。

「まだ結婚はせえへんの?」
「……育子ちゃんとは別れた」
「……そうやったんか。そんな気がしてたんや」

 二十五歳の夏、久しぶりで帰省した俺の前で、母がうなだれた。

「この間、育子ちゃんに電話したんやわ。そしたら元気のうて、なんかあったんかなと思っててん。別れたからか」
「そうや。もう育子ちゃんに電話したらあかんで」
「あかんの?」
「当たり前やろ。お母ちゃんは勝手に彼女を娘みたいに思ってたんかもしれんけど、婚約してたわけでもない。別れてしもたらもう他人や。モトカレの母親と仲良くしてる女の子なんて変やろうが」
「そうかなぁ。あかんの?」

 あかんの? と寂しそうに繰り返す母に、あかんあかん、絶対にあかん!! と断言しておいたのだが。

「育子って誰?」
「……え?」

 もてないことにかけてはシゲと張り合うほどだった俺だって、恋はする。大学生からの五年間ほどは育子ちゃん一筋だったのだが、別れてから好きになったひとはいた。二十六歳になって告白した、咲恵さんとようやくつきあってもらえるようになったのだが、どうしてここで育子ちゃんの名前が? 

「あの……」
「お母さんに私のメールアドレス、教えたんでしょ」
「咲恵ちゃん、教えてもええて言うたよな」
「言ったけど……うん、見たほうが早いね」

 両親は俺に彼女ができたと聞くと、結婚結婚と張り切る。だから言いたくないのだが、いないとなるとそれはそれで気をもむので、彼女ができたよ、とは報告していた。
 お話ししたいわぁ、と母にねだられて、咲恵ちゃんに打診してみた。かまわないよ、との答えだったので、母に彼女のメールアドレスを告げた。

 早速、母からメールが来て、咲恵ちゃんのほうも返事を出したらしい。二、三度メールのやりとりをした母から、昨夜、新しい着信があったのだそうだ。

「弾には彼女ができたみたい。弾よりふたつ年上やそうやけど、私とメールもしてくれるええ人やよ。
 彼女のいてないときやったら、育子ちゃんとこうやってメールしててもええと思ってたわ。
 育子ちゃんはとっても優しいから、弾さんとのことは関係なく、母と娘みたいに仲良くしましょって言うてくれるんやもんね。

 そやけど、やっぱりあかんのやろか。
 私は育子ちゃんが大好きで、弾のお嫁さんになってほしいけど、あかんのかなぁ」

 メールを読ませてもらっていると、気絶しそうになってきた。母はまだ育子ちゃんとこんなことをしていたのか。育子ちゃんも育子ちゃんだ。彼女のほうから切ってくれないから、母がいつまでも執着するのだ。

「ねぇ、育子って誰?」
「モトカノって言うたらええんかな」
「モトカノとお母さんが仲いいんだ」
「これは、おふくろが育子ちゃんに送るつもりでまちがえて……」
「そうみたいだけど、それはいいんだよ。弾のお母さんが息子のモトカノとこんなメール、そっちが気持ち悪いの」
「うん、わかるよ」

 軽蔑のまなざしで俺を見る咲恵ちゃん、その表情がすべてを物語っていた。

「マザコンはしようがないと思ってたけど、これはひどすぎるよね」
「うん、俺が悪いんやな」
「気持ち悪いって思ってしまったら駄目なの」
「別れるってこと?」

 うなずいて、咲恵ちゃんは背を向けた。
 母に責任転嫁してどうする。母とつきあってくれた育子ちゃんだって、ちっとも悪くない。俺は知らなかったとはいえ、すっぱり断ち切れなかったのが悪い。なにもかも俺が悪い。

「そうか……母ちゃんのメール、まずいことってそれやったんや。なんか……もてる男の悩みみたいやなぁ」

 大阪人らしくジョークで笑い飛ばして、雨の中に出ていく。こんな歌も歌ってみた。
 
「東京は近くの街で
 御堂筋から青山通りはたしかに続いているよ
 ああ 大阪レイニーディ
 あほらしいといつものように
 笑ってほしい」

 梅雨時だもの、大阪も雨かな。久しぶりに故郷に帰って、大阪の雨に濡れたくなってきた。

END









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